説明

スケール生成防止剤及びスケール生成防止方法

【課題】本発明の目的は、厨房機器及び配管等の水回り設備において、水道水等の生活用水からスケールが生じるのを防止するのに有効な技術を提供することである。
【解決手段】ソルビン酸をスケール生成防止剤の有効成分として使用することによって、高い安全性をもって、厨房機器及び配管等の水回り設備において水道水等の生活用水から生じるスケールの生成を効率的に防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性と共にスケール防止成分の徐放特性を備え、厨房機器、配管等の水回り設備においてスケールを効率的に防止できる、スケール生成防止剤及びスケール生成防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水等の生活用水にはカルシウム等の硬質成分が存在しており、厨房やその配管等の水回り設備において、硬質成分の析出により形成されるスケール、特にカルシウムを主成分とするスケールの発生を避けることができない。とりわけ、スチームコンベクションオーブンや食器洗浄機等の厨房機器では、水道水を貯留又は蒸発させるタンクにおいて、水道水に起因するスケール発生が不可避的に生じることが問題となっている。機器及び配管において発生したスケールは、一旦スケールが発生すると、スケールは鍾乳石の様に成長するため、機器の誤作動、故障、配管の詰まりや雑菌の温床の原因にもなりかねない。
【0003】
そこで、従来、水回り設備のスケール発生を防止する手法が開発されている。例えば、特許文献1には、温泉水中に炭酸ガスを混入して分散・溶解させることにより、温泉水の送水管内壁等に形成されるスケールの付着を防止できることが報告されている。しかしながら、特許文献1では、温泉水を起因とするスケールの発生を防止するものであって炭酸ガスの混入が必須とされるため、炭酸ガスの供給装置が必要とされる。一方、厨房等の水回りにおいて水道水によるスケールの発生防止には簡易な手法が要求されるため、炭酸ガスの供給装置の設置は不向きであり、更に水道水は、微量の硬質成分がスケールを生成させる点で、比較的多量の硬質成分が含まれる温泉水とは異なるため、特許文献1の技術は水道水等の生活用水からのスケールの発生防止に適用できるものではない。
【0004】
また、特許文献2には、尿、又は尿と洗浄水の混合排水に対して酸性物質を添加してpHを5〜7.5に保持することにより、トイレ配水管のスケールを防止できることが報告されている。更に、特許文献3には、固体酸と、基剤及び/又は添加剤とを含む成形体が、トイレ排水管のスケールの防止に有効であることも報告されている。しかしながら、特許文献2及び3の技術では、尿の分解により生成するカルシウム系化合物や有機物の混合物が原因となる尿石の固着を防止するものであり、水道水等の生活用水に含まれる微量の硬質成分に由来するスケールの生成を防止するための技術を開示するものではない。更に、特許文献2及び3の技術では、トイレの排水管のスケールを防止することを目的としているため、人の目や口に誤って入った場合の安全性については何ら配慮されていない。また、厨房機器やその配管では、トイレの排水管のように短時間で多量の水が一度に排水されるのではなく、比較的長時間に亘って水が貯留又は排水され続けるため、スケール防止成分が徐放されることが要求されるが、特許文献2及び3には、このようにスケール防止成分を徐放するための技術的手段については一切開示されていない。そのため、特許文献2及び3では、厨房やその配管等の水回り設備で生じるスケールの防止に転用できる技術ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−39667号公報
【特許文献2】特開平10−1995号公報
【特許文献3】特開平8−206688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、厨房機器及び配管等の水回り設備において、水道水等の生活用水からスケールが生じるのを防止するのに有効な技術を提供することを目的とする。より詳細には、本発明は、安全性と共にスケール生成防止成分の徐放特性を備え、厨房機器及び配管等の水回り設備において、水道水等の生活用水から生じるスケールを効率的に防止できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、多種存在する酸性成分の中から、スケール生成防止成分として従来知られていなかったソルビン酸を選び、これをスケール生成防止剤の有効成分として使用することによって、厨房機器及び配管等の水回り設備において水道水等の生活用水から生じるスケールを効率的に防止できることを見出した。また、ソルビン酸は、水に溶けにくい物質で徐放性を備えており、これを固体成形体とすることで、水中への徐放性を飛躍的に向上させ、スケールの生成防止作用を持続的に発揮できることをも見出した。更に、ソルビン酸は、食品添加物としても使用可能な成分であり、安全性の点でも、従来のスケール生成防止剤に使用されている酸性成分に比べて優れているものである。
【0008】
本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. ソルビン酸を含有することを特徴とする、スケール生成防止剤。
項2. ソルビン酸の配合割合が40〜100重量%である、項1に記載のスケール生成防止剤。
項3. 打錠及び/又は造粒成型された成型体である、項1又は2に記載のスケール生成防止剤。
項4. 成型体1個当たりの重量が0.1〜500gである、項3に記載のスケール生成防止剤。
項5. 厨房機器又はその配管におけるスケールの生成防止に使用される、項1乃至4のいずれかに記載のスケール生成防止剤。
項6. 厨房機器がスチームコンベクションオーブン又は食器洗浄機である、項5に記載のスケール生成防止剤。
項7. 水道水から生成するスケールの生成防止に使用される、項1乃至6のいずれかに記載のスケール生成防止剤。
項8. 項1乃至7のいずれかに記載のスケール生成防止剤を充填した充填槽を備え、当該充填槽には、水を充填槽内に流入させるための流入口と、充填槽内に流入した水を水回り設備に流出するための流出口が設けられている、スケール生成防止装置。
項9. 項1乃至7のいずれかに記載のスケール生成防止剤と水を接触させることを特徴とする、水回り設備におけるスケール生成防止方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のスケール生成防止剤は、厨房機器及び配管等の水回り設備において水道水等の生活用水からスケールの生成を効率的に防止でき、機器のスケールによる誤動作や動作不良を防ぐことができる。更に、本発明のスケール生成防止剤は、スケール生成防止成分として作用するソルビン酸を徐放でき、長期間に亘って使用できるので、スケール生成防止剤の設置等の作業負担が軽減され、メンテナンスコストを低減することができる。更に、本発明のスケール生成防止剤は、食品添加剤としても使用されているソルビン酸の少量を水に溶解させて、十分に安全性を確保できる範囲で使用しているため、人体に触れたり、誤って口に入っても、大きな損傷を生じさせることなく、高い安全性をもって使用することができる。また、ソルビン酸は、防腐作用も有しているので、本発明のスケール生成防止剤は、水中に長時間滞留していても、他の有機酸のように雑菌による腐敗を招くことが無く、衛生的な状態を保持することもできる。
【0010】
また、従来、スチームコンベクションオーブンの蒸気発生タンクやその配管では、水道水が濃縮されスケールが生じ易いことが問題になっており、長年解決できていなかったが、本発明のスケール生成防止剤は、高い安全性をもって、スチームコンベクションオーブンの蒸気発生タンクやその配管におけるスケール生成を効果的に防止できるので、スチームコンベクションオーブン用のスケール生成防止剤として実用化可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1において、硬度300mg/Lの水に対して、各酸を添加し、濃縮後の析出物の生成抑制率を測定した結果を示す図である。
【図2】実施例2において、硬度150mg/Lの水に対して、各酸を添加し、濃縮後の析出物の生成抑制率を測定した結果を示す図である。
【図3】実施例4において、粉末状ソルビン酸、ソルビン酸300mg錠剤、又はソルビン酸600mg錠剤に対して、水道水を通水させて、通水後のpHを経時的に測定した結果を示す図である。
【図4】実施例5において、ソルビン酸600mg錠剤、又はソルビン酸2800mg錠剤に対して、水道水を通水させて、通水後のpHを経時的に測定した結果を示す図である。
【図5】実施例6において、ソルビン酸(色素入り)2800mg錠剤に対して、水道水を通水させて、通水後のpHを経時的に測定した結果を示す図である。
【図6】実施例7において、ソルビン酸150g成型体に対して、水道水を通水させて、通水後のpHを経時的に測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のスケール生成防止剤は、ソルビン酸を含有することを特徴とするものである。
【0013】
ソルビン酸は、一般式CH(CH=CH)COOHで示される不飽和モノカルボン酸であり、食品添加剤としても使用される公知の化合物である。ソルビン酸は、常温で固形であり、本発明のスケール生成防止剤は、固形剤として提供される。
【0014】
本発明のスケール生成防止剤において、ソルビン酸の配合割合については、該剤の配管内での使用量、使用される配管における水の流速や流量等に応じて適宜設定されるが、例えば、該剤の総重量当たり、40〜100重量%、好ましくは60〜100重量%、更に好ましくは80〜100重量%、より好ましくは90〜100重量%、特に好ましくは100重量%が例示される。
【0015】
本発明のスケール生成防止剤は、ソルビン酸100重量%からなるものであることが好適であるが、必要に応じて、他の添加剤を含有してもよい。このような添加剤としては、界面活性剤、防腐剤、殺菌剤、腐食防止剤、キレート剤、着色剤(色素)、香料、溶解速度調整剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、消臭剤、消泡剤等が挙げられる。例えば、ソルビン酸を含むスケール生成防止に着色剤を配合することで、後述する水回り設備に使用した場合、着色剤が溶出されることで、スケール生成防止剤の交換時期(スケール生成防止剤の効果が奏さなくなる時期)を視覚的に判断することができる。
【0016】
本発明のスケール生成防止剤は、固形状で提供される限り、その形状については特に制限されない。本発明のスケール生成防止剤の形状は、粉末状であってもよいが、水中へのソルビン酸の徐放特性を高めて持続的にスケール生成防止効果を奏させるために、打錠及び/又は造粒成型された成型体であることが望ましい。このような成型体の具体例としては、球状、円柱状、円盤状、立方体状、直方体状、円錐状、角錐状、塊状等が例示される。また、これらの成型体の大きさについては、スケール生成防止剤に含まれるソルビン酸の配合割合、成型体の形状等に応じて適宜設定されるが、成型体1個当たり、例えば0.1〜500gが好ましく、0.3〜300gがより好ましく、0.5〜150gが更に好ましく、0.5〜80g或いは0.5〜30gが特に好ましい。このような重さの成型体に調製することにより、一層効率的なソルビン酸の水中への徐放が可能になる。
【0017】
本発明のスケール生成防止剤は、各配合成分を混合した後に所望の形状に打錠及び/又は造粒成型する方法、並びに加圧成型等によって調製される。
【0018】
打錠成型について説明する。200〜600mg程度の錠剤(例えば、300mg錠剤及び600mg錠剤)は、ソルビン酸粉末を打錠機(例えば、菊水製作所社製のロータリー打錠機 コレクト24)で径φ10〜20mm程度(例えば、径10mm)の臼及び杵を用いて、目的とする重量の錠剤となるよう調整し、0.1〜1.5t程度(例えば、1.5t)の打錠圧にて打錠を行い、製造することができる。また、1000〜3000mg程度の錠剤(例えば、2800mg錠剤)は、ソルビン酸粉末を打錠機(例えば、菊水製作所社製のロータリー打錠機 コレクト)で径φ10〜100mm程度(例えば、径20mm)の臼及び杵を用いて、目的とする重量の錠剤となるよう調整し、厚さ3〜10mm程度(例えば、7.7mm)になるよう打錠圧を調整し打錠を行い、製造することができる。
【0019】
造粒成型について説明する。回転する回転パンに原料粉末(ソルビン酸粉末)を投入し、バインダーを加えながら粉粒体を転動させながら造粒する方法、原料粉体を液体に溶かして、更にバインダーを加えた上で噴霧し、これに熱風を送ることによって、噴霧状物を瞬時に液体を蒸発させて噴霧液の蒸発により残された粉体が球状の造粒物となる噴霧造粒方法、他に流動層造粒方法や攪拌造粒方法、ローラー式プレス機による造粒方法等各種の造粒方法により造粒成型物を得ることができる。
【0020】
加圧成型について説明する。冷間清水圧加圧や金型による加圧成型より加圧成型物を得ることができる。例えば、ソルビン酸粉末150gを清水圧加圧装置(例えば菱重工社製の冷間清水圧加圧装置MCT−100)で圧力100〜1000kg/cm程度(例えば1000kg/cm)にて加圧成型を行い、製造することができる。
【0021】
本発明のスケール生成防止剤は、厨房機器(家庭用台所用機器を含む)、浴室、トイレ、これらの配管等の水回り設備に対して、スケールが生成するのを防止する目的で使用される。中でも、厨房機器、浴室、これらの配管等の水回り設備、特に厨房の機器及びその配管は、長時間に亘って水が流れており、持続的にスケール生成防止作用を発揮することが重視されるため、本発明のスケール生成防止剤の適用対象として好適である。とりわけ、スチームコンベクションオーブンは、好適な適用対象の厨房機器であり、本発明のスケール生成防止剤によれば、スチームコンベクションオーブンの蒸気発生タンクやその配管におけるスケール生成を効率的に防止することができる。また、食器洗浄機も、好適な適用対象の厨房機器であり、本発明のスケール生成防止剤によって、食器洗浄機の洗浄槽、洗浄水の貯水タンク、及びこれらの配管において、スケールの生成を効率的に防止することができる。
【0022】
また、本発明のスケール生成防止剤の適用対象となる水、即ちスケール生成を防止させる水については、具体的には、水道水、地下水、ミネラルウォーター等の生活用水が挙げられるが、好ましくは水道水である。また、前述の水回り設備において流れる水を対象とする。
【0023】
本発明のスケール生成防止剤において、水の処理量については、水の流速、水の硬度等に応じて異なるが、通常、水道水を処理する場合であれば、本発明のスケール生成防止剤に含まれるソルビン酸1g当たり、0.5〜50L程度、好ましくは5〜40L程度、更に好ましくは10〜35L程度の水を処理することができる。
【0024】
また、本発明のスケール生成防止剤の使用量は、水との接触する時間、水の流速、該剤の形状等に応じて適宜設定されるが、該剤との接触後の水のpHを4〜7、好ましくは5〜6.8、更に好ましくは5.5〜6.5に調整できる量であればよい。つまり、対象となる水回り設備の水に、本発明のスケール生成防止剤を接触(或いは、分散又は溶解)させることで、接触後の水のpHの範囲を4〜7(好ましくは5〜6.8、更に好ましくは5.5〜6.5)に調整(或いは、保持)することである。この様に、対象となる水回り設備の水のpHを、前記範囲に調整することで、スケールの生成を防止することができる。
【0025】
本発明のスケール生成防止剤は、スケール生成の防止が望まれる水と接触するように設置して使用される限り、その使用方法については特に制限されない。例えば、本発明のスケール生成防止剤を、水道配管内、水道の蛇口と水回り設備とを結ぶ配管内、水回り設備の配管内等に設置することが望ましいが、また排水口に設置してもよい。スケールの生成を効率的に防止するためには、水道配管内、水道の蛇口と水回り設備とを結ぶ配管内、水回り設備の配管内に、本発明のスケール生成防止剤を収納した充填槽を設け、水が当該充填槽を通過して、当該充填槽内のスケール生成防止剤と水が接触できるように構成されているスケール生成防止装置を設置しておくことが望ましい。このようなスケール生成防止装置としては、スケール生成防止剤を充填した充填槽を備え、当該充填槽には、水を充填槽内に流入させるための流入口と、充填槽内に流入した水を水回り設備に流出するための流出口が設けられた構造が好適に例示される。当該スケール生成防止装置において、充填槽に設けられた流入口と流出口には、充填槽内からスケール生成防止剤が流出されないように水透過性フィルター(例えば、不織布等)が設けられていることが望ましい。また、当該スケール生成防止装置における充填槽には、使用によってスケール生成防止剤が減少又は無くなった場合に、スケール生成防止剤を再度補充できるように、設置箇所から取り外し可能、又は充填槽内にスケール生成防止剤を補充可能なように構成されていることが望ましい。
【実施例】
【0026】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0027】
実施例1:スケール生成抑制作用の評価−1
ソルビン酸、クエン酸、アクリル酸、又は硫酸水素ナトリウムを用いて、硬度300mg/Lの水(飲料水)のpHを6.5に調整した。次いで、各酸が添加されたpH6.5の水2000mLを電気コンロにて加熱し、100mLになるまで濃縮した。次いで、加熱濃縮した水中に硬度成分の析出物を、メンブランフィルターを用いてろ別した後に、乾燥して、析出物の重量を測定した。また、ブランクとして、酸を添加することなく、硬度300mg/Lの水(飲料水)2000mLを電気コンロにて加熱し、100mLになるまで濃縮して、上記と同様に析出物の重量を測定した。次いで、下記数式に従って、各酸を添加した場合の析出物の抑制率を算出した。
【0028】
【数1】

【0029】
得られた結果を図1に示す。この結果から、ソルビン酸を使用した場合においてのみ、格段顕著な析出物の生成が抑制できており、他の酸を使用した場合には、析出物の抑制率が最も高いものでも40%を下回っていた。本試験で使用した水(硬度300mg/L)は、世界各地で生活水として使用される水道水の中でも高い硬度の水道水を想定したものあり、水道水によって生じるスケール生成阻害の好適なモデル試験になっていることから、本試験の結果によって、ソルビン酸は、水道水を使用した水回り設備、特にスチームコンベクションオーブンにスケールが生成するのを防止するのに特に適していることが明らかとなった。
【0030】
実施例2:スケール生成抑制作用の評価−2
ソルビン酸、クエン酸、フマル酸、又は硫酸水素ナトリウムを用いて、硬度150mg/Lの水(飲料水)のpHを6.5に調整した。次いで、各酸が添加されたpH6.5の水2000mLを電気コンロにて加熱し、100mLになるまで濃縮した。次いで、加熱濃縮した水中に硬度成分の析出物を、メンブランフィルターを用いてろ別した後に、乾燥して、析出物の重量を測定した。また、ブランクとして、酸を添加することなく、硬度150mg/Lの水(飲料水)2000mLを電気コンロにて加熱し、100mLになるまで濃縮して、上記と同様に析出物の重量を測定した。次いで、上記実施例1と同様の数式に従い、各酸を添加した場合の析出物の抑制率を算出した。
【0031】
得られた結果を図2に示す。この結果からも、ソルビン酸を使用した場合には、格段顕著な析出物の生成が抑制できた。一方、クエン酸、フマル酸、又は硫酸水素ナトリウムを使用した場合では、析出物の抑制率は30%台に止まっていた。なお、本試験で使用した水(硬度150mg/L)についても、日本各地で生活水として使用される水道水の中でも高い硬度の水道水を想定したものであり、本試験の結果からも、ソルビン酸は、水道水を使用した水回り設備、特にスチームコンベクションオーブンにスケールが生成するのを防止するのに特に適していることを裏付けられた。
【0032】
実施例3:徐放性の評価
直径9mm、長さ52mmのカラムに、ソルビン酸、クエン酸、フマル酸、又は安息香酸の各粉末を0.1g充填し、カラムの上部から精製水を18mL/分の流速で流入させ、カラムの下部から精製水を流出させた。精製水を流し始めてから各酸が溶解し、カラム中から消失する(目視)までの時間を計測した。
【0033】
得られた結果を表1に示す。この結果から、ソルビン酸は溶解して無くなるまでの時間が、他の酸に比べて顕著に長く、ソルビン酸は徐放性に優れていることが明らかとなった。
【0034】
【表1】

【0035】
実施例4:打錠成型体の徐放性の評価−1
直径96mm、長さ195mmのカラムに、粉末状ソルビン酸740g、ソルビン酸300mg錠剤(ソルビン酸100%、錠剤径10mm、錠剤厚5mm)700g、又はソルビン酸600mg錠剤(ソルビン酸100%、錠剤径10mm、錠剤厚6.9mm)700gを充填し、カラムの上部から水道水を100L/時間の流速で流入させ、カラムの下部から水道水を流出させた。水道水を流し始めてから、流出された水道水のpHを経時的に測定した。
【0036】
得られた結果を図3及び表2に示す。この結果から、錠剤状に成型したソルビン酸では、粉末状に比べて、多量の水をpHが7よりも低い値に調整でき、スケールが生成し難い状態に維持できることが明らかとなった。
【0037】
【表2】

【0038】
実施例5:打錠成型体の徐放性の評価−2
直径96mm、長さ195mmのカラムに、ソルビン酸600mg錠剤(ソルビン酸100%、錠剤径10mm、錠剤厚6.9mm、)700g、又はソルビン酸2800mg錠剤(ソルビン酸100%、錠剤径20mm、錠剤厚7.7mm)650gを充填し、カラムの上部から水道水を300L/時間の流速で流入させ、カラムの下部から水道水を流出させた。水道水を流し始めてから、流出された水道水のpHを経時的に測定した。
【0039】
得られた結果を図4及び表3に示す。この結果から、錠剤状に成型したソルビン酸は、錠剤が大きい程、徐放性に優れ、より多くの水をスケールが生成し難い状態に維持できることが確認された。また、ソルビン酸の錠剤は、錠剤が大きいほど、通水初期の流出水の過剰な酸性化を抑制でき、より高い安全性を獲得できることも確認された。
【0040】
【表3】

【0041】
実施例6:打錠成型体の徐放性の評価−3
直径96mm、長さ195mmのカラムに、ソルビン酸(色素入り)2800mg錠剤(ソルビン酸99.95%、色素赤色102号(食品添加物)0.05%、錠剤径20mm、錠剤厚7.7mm)650gを充填し、カラムの上部から水道水を300L/時間の流速で流入させ、カラムの下部から水道水を流出させた。水道水を流し始めてから、流出された水道水のpHを経時的に測定した。
【0042】
得られた結果を図5及び表4に示す。尚、図5には、参考として前記実施例5で使用したソルビン酸2800mg錠剤の試験結果を併記している。この結果から、添加剤として色素を0.05%配合し、錠剤状に成型したソルビン酸は、添加剤を配合しないソルビン酸の錠剤と、初期pH及び処理水量が同等の結果となり、通水初期の流出水の過剰な酸性化を抑制でき、より高い安全性を獲得できることも確認された。
【0043】
【表4】

【0044】
実施例7:打錠成型体の徐放性の評価−4
直径96mm、長さ195mmのカラムに、ソルビン酸成型体(ソルビン酸100%、150g成型体)450gを充填し、カラムの上部から水道水を300L/時間の流速で流入させ、カラムの下部から水道水を流出させた。水道水を流し始めてから、流出された水道水のpHを経時的に測定した。
【0045】
得られた結果を図6及び表5に示す。この結果から、ソルビン酸を1個当たり150gの成形体は、徐放性に優れ、より多くの水をスケールが生成し難い状態に維持できることが確認された。つまり、ソルビン酸の150g成型体は、通水初期の流出水の過剰な酸性化を抑制でき、より高い安全性を獲得できることも確認された。
【0046】
【表5】

【0047】
打錠成型方法
上記実施例で使用した300mg錠剤及び600mg錠剤は、ソルビン酸粉末を菊水製作所社製のロータリー打錠機 コレクト24で径φ10mmの臼及び杵を用いて、夫々300mg及び600mgの錠剤となるよう調整し、1.5tの打錠圧にて打錠を行い、製造した。また、上記実施例で使用した2800mg錠剤は、ソルビン酸粉末を菊水製作所社製のロータリー打錠機 コレクトで径φ20mmの臼及び杵を用いて、2800mgの錠剤となるよう調整し、厚さ7.7mmとなるように打錠圧を調整し打錠を行い、製造した。打錠条件の詳細を表6に示す。尚、気孔率とは、下記数式で求めることができる。例えば、気孔率測定用錠剤を調製し、手動単発打錠機で径φ25mmの臼及び杵を用いて、ソルビン酸粉末を各条件になるよう調整し、打錠を行った。
【0048】
また、150g成型体は、三菱重工社製冷間清水圧加圧装置MCT−100で1000kg/cmにて加圧成形することで製造した。
【0049】
【表6】

【0050】
【数2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソルビン酸を含有することを特徴とする、スケール生成防止剤。
【請求項2】
ソルビン酸の配合割合が40〜100重量%である、請求項1に記載のスケール生成防止剤。
【請求項3】
打錠及び/又は造粒成型された成型体である、請求項1又は2に記載のスケール生成防止剤。
【請求項4】
成型体1個当たりの重量が0.1〜500gである、請求項3に記載のスケール生成防止剤。
【請求項5】
厨房機器又はその配管におけるスケールの生成阻害に使用される、請求項1乃至4のいずれかに記載のスケール生成防止剤。
【請求項6】
厨房機器がスチームコンベクションオーブン又は食器洗浄機である、請求項5に記載のスケール生成防止剤。
【請求項7】
水道水から生成するスケールの生成防止に使用される、請求項1乃至6のいずれかに記載のスケール生成防止剤。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載のスケール生成防止剤を充填した充填槽を備え、当該充填槽には、水を充填槽内に流入させるための流入口と、充填槽内に流入した水を水回り設備に流出するための流出口が設けられている、スケール生成防止装置。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれかに記載のスケール生成防止剤と水を接触させることを特徴とする、水回り設備におけるスケール生成防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−61461(P2012−61461A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179507(P2011−179507)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(000237972)富田製薬株式会社 (30)