説明

スタッド、及びスパイクシューズ

【課題】本発明は、耐摩耗性及び安定性に優れたスタッドを提供することを課題とし、併せて、接地面を比較的均等に摩耗させることができるスタッドを提供する。
【解決手段】本発明のスタッドSは、接地面となる表層33と、表層33の内側に一体的に設けられた内層32と、を有し、表層33が、スタッドの少なくとも先端部S2から根元部S1にかけて設けられており、表層33が内層32よりも高硬度材料で構成されている。この内層32は、スタッドの側部側に偏って設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サッカーやラグビーなどのスパイクシューズに取り付けられるスタッド及びスパイクシューズに関し、更に詳しくは、スパイクシューズに固定的に取り付けられる非取替え式のスタッドに関する。
【背景技術】
【0002】
サッカー、ラグビー、アメリカンフットボールなどのフィールド競技等に使用されるスパイクシューズのスタッドは、第1に耐摩耗性に優れていることが求められる。
本願の発明者らは、スタッドの耐摩耗性について何度も繰り返し実験を行ったところ、硬度が高く、且つ、弾性率の低いスタッド程、耐摩耗性が優れているという知見を得た。かかる高硬度で且つ低弾性のスタッドは、高硬度性質により擦り減り難く且つ低弾性性質により衝撃を吸収するので、耐摩耗性に優れていると考えられる。
しかしながら、単一材料で、硬度が高く、且つ、弾性率の低いスタッドを実現することは困難である。
【0003】
従来、硬度が高く、且つ、弾性率の低いスタッドとして、高硬度材料と低硬度材料との2つの材料で構成されたスタッドが知られている。具体的には、接地面側突起部に高硬度で且つ耐摩耗性のある高分子材料を用い、前記接地面側突起部とベース底の間である根元部に、接地面側突起部よりも低硬度の高分子材料を用いた非取替え式の固定スタッドを挙げることができる(特許文献1の第2頁及び第2図など)。
また、接地面となる先端部材に耐摩耗性に優れたセラミック材料を用い、先端部材と靴底の間となる基部に比較的軟質な合成樹脂材料を用い、ボルトを埋設した取替え式のスパイクも知られている(特許文献2の第2頁及び第1図など)。
【0004】
上記従来のスタッドは、接地面である突起部に高硬度材料を用い、突起部とベース底との間であるスタッドの根元部に低硬度材料を用いることにより、突起部が接地した際の衝撃を根元部の低硬度材料が弾性変形し、突起部の摩耗を低減するものである。
しかしながら、上記スタッドは、突起部とベース底の間の根元部全体に低硬度材料が用いられているので、スタッドの安定性が悪く、しっかりと食い込んで地面を捉えるグリップ力が低下するという問題点がある。
具体的には、スパイクシューズの使用時、スタッドSの根元部S1に大きな応力が作用する。図12(a)は、スタッドSに垂直方向(矢印Y方向)の荷重が加わった際の変形状態を、図12(b)は、スタッドSに水平方向(矢印X方向)の荷重が加わった際の変形状態を示している。このようにスタッドSは根元部S1に大きな応力が加わる。よって、根元部が低硬度材料で構成されている従来のスタッドは、使用時、スタッドの根元部が変形し易く、スタッドの安定状態を保ち難い。
【0005】
また、スタッドは、靴底に配置される位置によって摩耗の程度に差が生じる。例えば、靴底の踵部に配置されたスタッドは、その接地面が外側に傾斜して摩耗し易く、又、靴底の爪先部に配置されたスタッドは、その接地面が爪先側に傾斜して摩耗し易い傾向にある。従って、1つのスタッドに注目した場合、局所的な摩耗を生じ得る。
一方、スタッドが配置される領域の相違によって、スタッドの摩耗の程度に差が生じる。例えば、靴底の爪先部に配置されたスタッドは、靴底の中央部に配置されたスタッドよりも摩耗し易い傾向にある。従って、シューズに配置される各スタッドを相対的に比較した場合、よく摩耗するスタッドと、そうでないスタッドが生じ得る。
【0006】
【特許文献1】特開昭62−161301号公報
【特許文献2】実公平3−52408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、耐摩耗性及び安定性に優れたスタッドを提供することを課題とし、併せて、接地面を比較的均等に摩耗させることができるスタッドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、硬度が高く且つ弾性率の低いスタッドは、耐摩耗性に優れているという上記知見に基づいて、更に実験を重ねるとともに鋭意研究を進め、本発明を完成した。
すなわち、本発明の第1の手段は、接地面となる表層と、表層の内側に一体的に設けられた内層と、を有し、表層が、スタッドの少なくとも先端部から根元部にかけて設けられており、表層が内層よりも高硬度材料で構成されていることを特徴とする。
【0009】
上記スタッドは、接地面となる表層が高硬度材料で構成されているので、地面との摩擦によって擦り減り難い。ここで、低硬度材料は、一般に高硬度材料に比して低弾性である。従って、低硬度材料の内層は、一般に低弾性であり、上記知見の通り、使用時にスタッドに加わる衝撃を吸収する。かかる減りにくい高硬度材料の表層と、その内側に設けられ且つ衝撃吸収作用のある低硬度材料の内層との相乗効果により、上記スタッドは、耐摩耗性に優れている。
更に、高硬度の表層が、スタッドの先端部から根元部にかけて設けられているので、使用時、スタッドの根元部に垂直荷重及び水平荷重が加わっても、スタッドの根元部が変形し難くなる。従って、上記スタッドは、使用時、安定性に優れている。
【0010】
本発明の好ましい態様では、表層は、JISD硬度40度〜70度の合成樹脂、内層は、JISA硬度55度〜85度の合成樹脂とすることができる。
【0011】
また、本発明者は、更に実験を重ねたところ、1つのスタッドにおいて、低硬度材料(低弾性材料)の充填量が多い部分と、少ない部分(又は実質的に低硬度材料を有しない部分を含む)とを形成すると、低硬度材料の充填量の多い部分は、少ない部分に比して耐摩耗性が高くなることを見出した。
そこで、本発明の好ましい態様では、上記内層をスタッドの側部側へ偏って設けたスタッドを提供する。
このように低硬度材料で構成される内層をスタッドの側部側に偏って設けることにより、1つのスタッドにおいて、低硬度材料の充填量が多い部分と、少ない部分とを形成することができる。
従って、かかるスタッドは、低硬度材料の充填量が多い部分が特に摩耗し難くなるから、例えば、低硬度材料の充填量が多い部分を、摩耗の激しい位置に配置することで、スタッドが局所的に摩耗することを防止できる。従って、1つのスタッドに於いて、スタッドの突出接地面を比較的均等に摩耗させることができるので、スタッドを長期間使用することができる。
本発明の好ましい態様では、上記内層の偏ったスタッドがシューズに少なくとも1個以上設けられ、スタッドの側部側(内層の偏った側)が、シューズの外側に向けて配置されている部分を有するスパイクシューズを提供する。通常、スパイクシューズのスタッド単体の突出接地面(先端部)は、内側よりも外側が摩耗しやすい傾向にある。従って、上記のようにスタッドの側部側が、シューズの外側に向けて配置されているスパイクシューズは、スタッドの突出接地面がほぼ均等に摩耗するので好ましい態様である。
【0012】
以上のようなスタッドの形状は、例えば、円錐台状、多角錐台状、底面視三日月状など適宜設定することができる。また、以上のようなスタッドがスパイクシューズ等に固定的に取り付けられる非取替え式のものとすることもできる。
【0013】
更に、本発明の第2の手段は、上記何れかのスタッドが、踏み圧の大きい領域と踏み圧の小さい領域にそれぞれ設けられており、踏み圧の大きい領域に設けられたスタッドは、踏み圧の小さい領域に設けられたスタッドよりも、表層に対する内層の占める割合が大きいスパイクシューズを提供する。
スパイクシューズにおいては、踏み圧の大きい領域と小さい領域があり、踏み圧の大きい領域は、小さい領域に比べて大荷重が掛かるため、踏み圧の大きい領域に配置されたスタッドは、摩耗が激しい。スタッドは、低硬度材料の占める割合が大きいほど、摩耗し難い。よって、本発明のスパイクシューズにおいては、低硬度材料で構成された内層の占める割合の大きいスタッドが、踏み圧の大きい領域に設けられていることで、各スタッドを比較的均等に摩耗させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のスタッドは、耐摩耗性に優れ、更に、安定性に優れている。従って、長期間使用でき、且つ、グリップ力に優れたスタッドを提供することができる。
また、本発明は、その好ましい態様により、突出接地面を比較的均等に摩耗させることができるスタッドを提供することができる。
かかるスタッドを具備するスパイクシューズは、長期間使用でき、且つ使用時に地面を十分に捉えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(実施形態1)
以下、本発明について、図面を参照しつつ具体的に説明する。
図1に於いて、1は、シューズ本体2とソール3とを備えるスパイクシューズを示す。図1及び図2に示すように、ソール3には、スタッドSが複数設けられている。
【0016】
ソール3は、図3(a)に示すように、ベース層31と、このベース層31に固定的に設けられたスタッドSと、を有する。ベース層31は、ソール3を、シューズ本体2の底部の全面に亘って取り付けるための層である。
スタッドSは、接地面となる表層33と、この表層33の内側に一体的に設けられた内層32と、を有する。この内層32は、ベース層31と表層33との間に形成され、内層32の下面側全体は、表層33で覆われている。
【0017】
スタッドSは、例えば、根元部S1側が大径で且つ先端部側に向かうに従い小径となった円錐台突起状に形成されている。尚、該スタッドSの形状は、円錐台状に限定されるものではなく、例えば、野球用のスパイクシューズ等のスタッドに採用されている多角錐台状、底面視三日月状、肉厚のある板状など適宜設計変更することができる。スタッドSが円錐台状に形成される場合、その大きさは限定されないが、一般的には、スタッドSの先端部S2の直径Sw2は、9〜15mmであり、好ましくは、11〜13mmである。一方、スタッドSの根元部S1の直径Sw1は、15〜35mmであり、好ましくは、20〜30mmである。また、スタッドSの高さShは、5〜20mmであり、好ましくは、9〜15mmである。
【0018】
表層33は、スタッドSの接地面(表面)を構成しており、スタッドSの先端部S2から根元部S1にかけて設けられている。この表層33の上面内側に、下方に窪んだ凹部が設けられ、この凹部に内層32が充填されている。表層33の凹部は、例えば、円錐台状に形成されている。従って、内層32は、円錐台突出状に形成され、この内層32の突出部分の外側を覆うように表層33が設けられている。このように内層32と表層33とが形成されることで、先端部S2から根元部S1を含むスタッドSの接地面全体が表層33で構成され、スタッドSの内側が内層32で構成されている。
内層32の充填量は、特に限定されないが、余りに少ないと内層32を設けた意義がなく、一方、余りに多いとそれに対応して表層33の占める割合が少なくなることから、内層32の占める割合はスタッドSの体積に対して5〜60%程度が好ましく、更に20〜40%程度が好ましい。
尚、上記のように、スタッドS及び内層32が円錐台状に形成される場合、内層32の突出高さ32hとスタッドSの高さSh(表層33の突出高さ)との比は、好ましくは、5:100〜70:100程度が好ましく、更に、10:100〜50:100程度がより好ましい。また、根元部S1における内層32の直径32wとスタッドSの直径Sw1(表層33の直径)の比は、好ましくは、25:100〜95:100程度が好ましく、更に、50:100〜80:100がより好ましい。
【0019】
表層33は、内層32よりも硬度の高い高硬度材料によって構成されている。
表層33は、内層32よりも高硬度であれば特に限定されないが、余りに硬度差が小さいと異種の材料によってスタッドSを構成した意義が失われるため、表層33と内層32の硬度差は、JISA硬度に換算した値で10度以上が好ましく、特に、20度以上がより好ましい。一方、その上限は、限定されないが、材料選択の観点などから、表層33と内層32の硬度差は、JISA硬度に換算した値で40度以下程度である。
具体的には、表層33の材質の硬度は、JISD硬度で40度〜70度、内層32の材質の硬度は、JISA硬度で55度〜85度が好ましい。
このように、表層33の材質をJISD硬度で、内層32の材質をJISA硬度で規定しているのは、次の通りである。
JISA硬度計で硬い物質の硬度を測定すると、硬度計は100付近の値を示す。また、JISD硬度計で柔らかい物質の硬度を測定すると、硬度計は0付近の値を示す。JISA硬度計及びJISD硬度計の何れにおいても、0付近及び100付近を示す値は、誤差が大きく、従って、JISA硬度計は、硬い物質の硬度を精度良く測定するには適さず、また、JISD硬度計は、柔らかい物質の硬度を精度良く測定するに適さないと言える。従って、一般的に、硬い物質の硬度は、JISD硬度で表され、柔らかい物質は、JISA硬度で表されている。本願では、表層33の材質は、比較的硬いため、JISD硬度で規定し、内層32の材質は、比較的柔らかいため、JISA硬度で規定している。
尚、JISA硬度及びJISD硬度は、公知の換算表に基づいて双方向に換算可能である。この換算表に基づいて、上記JISD硬度で40度〜70度の表層33をJISA硬度に換算すると、JISA硬度85度〜99度となる。また、JISA硬度で55度〜85度の内層32をJISD硬度に換算すると、JISD硬度0度〜25度となる。
但し、JISA硬度及びJISD硬度は、JIS K 7215に準じて、温度23±2℃、相対湿度50±5%の条件下で測定されたものをいう。
また、内層32は、表層33よりも低弾性材料を用いることが好ましい。具体的には、内層32は、弾性率2〜30MPaのものが好ましく、更に、弾性率5〜20MPaのものがより好ましい。一方、表層33は、弾性率15〜100MPaのものが好ましく、更に、弾性率20〜45MPaのものがより好ましい。但し、この弾性率は、JIS K 7171に準じて、温度23±2℃、相対湿度50±5%の条件下で測定されたものをいう。
尚、通常、低硬度材料は、高硬度材料よりも低弾性であるため、上記硬度差となる材料を用いることによって、表層33及び内層32の弾性率は上記の範囲に含まれる場合が大半といえる。
【0020】
表層33の材質は、内層32よりも高硬度の材料を用いることを条件として特に限定されず、従来公知の材料を用いることができる。表層33の構成材料としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アイオノマー樹脂などの硬質の合成樹脂、金属などを用いることができる。内層32の構成材料としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、アイオノマー樹脂、アミド系エラストマー、ウレタン系エラストマー、スチレン系エラストマーなどの軟質の合成樹脂、天然ゴム、合成ゴムなどのゴム(エラストマーを含む)などを用いることができる。
尚、ベース層31は、従来公知な合成樹脂、ゴム系の材料などで構成することができる。
【0021】
以上のように、スタッドSの表面に於いて、その先端部S2から根元部S1にかけて高硬度材料の表層33を設け、スタッドSの内側を表層33より低弾性材料で構成することにより、耐摩耗性の高いスタッドSを構成することができる。更に、かかるスタッドSは、スタッドSの根元部S1の表面側が高硬度材料(表層33)で構成されているので、スパイクシューズ1の使用時に、この部分に垂直及び水平方向の荷重が加わっても変形し難くなる。従って、該スパイクシューズ1のスタッドSは、安定性に優れ、グリップ力に優れている。
【0022】
以上のようなスタッドSは、射出成形により所望の形状のソール3を製造できる。
一般的には、射出成形機にて所望の樹脂を可塑化・溶融し、金型内に射出・注入することで、注入された樹脂が常温〜80℃の金型内で冷却固化して、所望の形状に成形する作業を何度か行うことで、製造できる。例えば、下記のように射出成形を行い、ソール3を一体的に製造することができる。
図3(b)に示すように、第1金型11と第2金型12の間に形成された空隙41に、射出成形機にて表層33の構成材料を可塑化・溶融し射出・注入して冷却固化させて、図3(c)に示すような表層33を成形する。次に、このように成形された表層33が第1金型11にはめ込まれたままの状態で、当該表層33の凹部42に、内層32の構成材料を可塑化・溶融し射出・注入して冷却固化させて、図3(d)に示すような、内層32と表層33との積層体を成形する。このように成形された積層体が第1金型11にはめ込まれたままの状態で、当該積層体の内層32の上面に、ベース層31の構成材料を可塑化・溶融し射出・注入して冷却固化させて、ソール3を一体的に製造する。
【0023】
尚、本発明のスタッドSは、上記例示の構造に限定されず、種々な態様に変形することができる。図4にその変形例を示すが、何れの変形例も、スタッドSの接地面に於ける先端部S2から根元部S1にかけて表層33で構成され、その内側が内層32で構成されている。
図4(a)の変形例は、ベース層31が設けられておらず、内層32の上面がソール3のベース層31を兼用している。この構成のソール3は、内層32の上面をシューズ本体2の底部に接着剤等で貼付されることによって、シューズ本体2に取り付けられる。
図4(b)の変形例は、隣合うスタッドSが、表層33のみで連結されているものである。この構成においては、表層33の内側に設けられた内層32は、隣合うスタッドS間に跨って設けられておらず、内層32の上面と部分的に露出した表層33の上面が、接着剤などを介してベース層31に取り付けられる。
図4(c)の変形例は、隣合うスタッドSが、連結されておらず、個々に独立したスタッドSが接着剤などを介してベース層31に取り付けられている。
図4(d)の変形例は、内層32がベース層31と接しておらず、内層32の周囲全体が表層3によって被包された態様である。
図4(e)の変形例は、内層32がスタッドSの先端部S2の中央部から部分的に露出しているものである。
【0024】
(実施形態2)
本実施形態のスパイクシューズ1は、実施形態1のスパイクシューズ1と同様にシューズ本体2とソール3とを備えている。更に、ソール3は、上記実施形態1と同様に、複数のスタッドSが設けられ、ベース層31と、内層32及び表層33を有するスタッドSと、から構成されている。以下、上記実施形態1と異なる部分について主として説明する。
【0025】
本実施形態に係るスタッドSは、内層32がスタッドSの側部側に偏って設けられている点で実施形態1と異なる。
ここで、側部側に偏っているとは、例えば、スタッドSが円錐台状の場合、スタッドSの重心を通り且つスタッドSの突出方向に平行な仮想線L(図5参照)を基準にして、内層32の充填量が異なっている部分を有するという意味である。
以下、図2に示すD−D断面に現れるソール3の踵部に設けられた左右2個のスタッド3を例にして、本実施形態に係るスパイクシューズ1の内層32について説明する。
図5(a)に示すように、スタッドSの内層32は、先端部側が傾斜状に形成されている。従って、内層32は、仮想線Lを基準にして、左右非対称であって、内層32の構成材料(低弾性材料)の充填量が一方側に偏って大きくなっている。
1つのスタッドSに着目した場合、内層32の充填量が多い部分と少ない部分とを比較すると、充填量が多い部分に対応したスタッドSの先端部33aは、少ない部分に対応したスタッドSの先端部33bに比して摩耗し難い。
このように、本実施形態のスタッドSは、低弾性材料の充填量が多い部分に対応したスタッドSの先端部33aが特に摩耗し難くなるから、例えば、この充填量が多い部分を、摩耗の激しい位置に合わせて(例えば、シューズの外側に向けて)配置することで、スタッドSが局所的に摩耗することを防止できる。
例えば、かかるスタッドSをスパイクシューズ1の踵部に固定する際、図5(a)に示すように、低弾性材料の充填量が多い部分をスパイクシューズ1の外側に位置するように配置することにより、2個のスタッドSの突出接地面を略均等に摩耗させることができる。
【0026】
尚、図5(b)は、本実施形態の変形例を示す。この変形例のスタッドSは、内層32が、外側から一定距離内側に上方に傾斜し、それよりも内側の部分では平坦状に形成されている。かかるスタッドSも同様に、内層32が偏って設けられている。
また、図5(c)の変形例は、仮想線Lを基準にして、一方側にのみ内層32が設けられているスタッドSを示す。かかるスタッドSも、内層32が偏って設けられており、この部分に対応したスタッドSの先端部は耐摩耗性に優れている。
【0027】
以上においては、踵部に設けられた2箇所のスタッドSを例示しているが、これに限定されず、本実施形態のスタッドSをスパイクシューズ1の摩耗し易い部分を考慮して、内層32の構成材料である低弾性材料の充填量が多くなるように設けることができる。
例えば、爪先部に設けられた1つのスタッドSa(図2参照)に着目した場合、一般に爪先側が摩耗し易い。従って、該スタッドSaは、爪先側の部分に於いて低弾性材料の充填量が多くなるように設けることにより、該1つのスタッドを略均等に摩耗させることができる。
【0028】
尚、内層32が側部側に偏って設けられた本実施形態のスタッドSは、図4に示すような変形例のスタッドSなどに適宜適用することが可能である。
【0029】
(実施形態3)
本実施形態のスパイクシューズ1は、各スタッドSが設けられる領域に応じて、内層32の占める割合が異なっている点を特徴とする。以下、上記実施形態1と異なる部分について主として説明する。
【0030】
スパイクシューズ1においては、ランニング時などの使用時において、踏み圧の大きい領域と小さい領域があり、踏み圧の大きい領域は、小さい領域に比べて大荷重が掛かるため、踏み圧の大きい領域に設けられたスタッドSは、摩耗が激しい。踏み圧の大きい領域としては、例えば、ソール3の爪先部(特に、母趾末節骨部(親指の付け根部分))があり、爪先部に設けられたスタッドSa(図2参照)は、中央部に設けられたスタッドSb(図2参照)よりも摩耗し易い傾向にある。
スタッドSの耐摩耗性は、内層32の構成材料である低弾性材料の充填量が多ければ高くなる傾向にある。従って、踏み圧の大きい領域に設けられるスタッドSとして、表層33に対する内層32の占める割合を多くすれば、スパイクシューズ3に設けられたそれぞれのスタッドSを比較的均等に摩耗させることができる。
踏み圧の大きい領域に設けられるスタッドSに於いて、その表層33に対する内層32の占める割合は、適宜設定されるものであって特に限定されないが、1つのスタッドSに於いて、内層32がスタッドSの体積に対して20〜60%程度が好ましく、更に30〜50%程度がより好ましい。他方、踏み圧の小さい領域に設けられるスタッドSについても同様に適宜設定されるものであって特に限定されないが、1つのスタッドSに於いて、内層32がスタッドSの体積に対して5〜35%程度が好ましく、更に10〜30%程度がより好ましい。
【0031】
本実施形態は、シューズ1の底部の各領域に設けられた複数のスタッドSの相互関係に於いて、踏み圧を考慮して、内層32の占める割合の異なるスタッドSを配置することを特徴としている。その他の構成、例えば、スタッドSの形状、ソール3の構成及び内層32の充填形状などは、上記第1実施形態及び第2実施形態で示した各例を適宜採用することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例により、本発明を更に詳述する。但し、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1は、図6(a)に示すような円錐台状のスタッドSを用いた。各部の寸法は、次のとおりである。スタッドSの高さShは15mm、スタッドSの根元部S1の直径S1wは、28.98mm、スタッドSの先端部S2の直径S2wは、15mm、内層32の高さ32hは、10mm、内層32の根元部S1の直径32wは、26.54mm、内層32の先端部の直径32wsは、15mmである。更に、内層32の上面に、直径32awが、12mm、高さ32ahが、5mmのボルト孔32aを形成した。
表層33は、ポリウレタン樹脂(BASF社製、商品名:エラストラン(品名 ET864))を用い、内層32は、ポリウレタン樹脂(BASF社製、商品名:エラストラン(品名 ET680))を用いた。
この表層33は、JISD硬度64(±3)度、弾性率は、34MPa、内層32は、JISA硬度80(±2)度、弾性率は、10MPaであった。尚、測定法は上記[0019]の通りである。
【0033】
(比較例1)
比較例1に用いたスタッドSの外寸(即ち、スタッドSの高さSh、根元部S1の直径S1w、先端部S2の直径S2w、ボルト孔32aの直径32aw及び高さ32ah)は、実施例1と同じである。比較例1のスタッドSは、図6(b)に示すように、実施例1の表層33と同じ材料のみを用いて形成した。
【0034】
(耐摩耗試験1)
本試験において、図7に示すような試験機50を用いた。試験機50は、スタッドSを支持するネジ径12mmのボルトが備えられた落下錘51と、落下錘51の下方に水平方向に配置されたサンドペーパ52と、サンドペーパ52が貼付されたプレート53と、台座54と、台座54に対して回動可能にプレート53を支持するバネ蝶番55とを備えている。図7に示すように、この試験機50は、バネ蝶番55の付勢力によって、プレート53が常時水平に維持されている。このプレート53の上方から落下錘51を落とすことにより、プレート53はバネ蝶番55の付勢力に抗しながら下方に傾斜し、落下錘51を元の位置に引き上げると、再び水平に戻るようになっている。
この落下錘51のボルトに上記スタッドSのボルト孔32aを螺合し、該スタッド付き落下錘51を、プレート53の上面(サンドペーパ52上)に落下させる。この落下時にプレート53がバネ蝶番55を軸として回動するため、該スタッドSの先端部のうち、バネ蝶番55側がサンドペーパ52と擦れることによって摩耗し、スタッドSの先端部分の耐摩耗性を測定することができる。
本試験では、実施例1と比較例1とのそれぞれのスタッドSを、サンドペーパ52上に200回落下させた。
尚、本試験において、落下錘51の重量は、5kgであり、スタッドSの落下開始位置は、サンドペーパ52から35mm上方とした。
【0035】
(試験結果)
耐摩耗性1の試験により、実施例1のスタッドSは、19.9mm摩耗し、比較例1のスタッドSは、41.9mm摩耗した。この結果から、内層32を有したスタッドSは、内層32を有しないスタッドSに比べて耐摩耗性に優れていることが明らかであることが明確になった。
【0036】
(実施例2)
実施例2のスタッドSは、内層32が下記のように形成されている点を除いて、実施例1と同様のものを用いた。
実施例2のスタッドSの内層32は、図8(a)に示すように、先端部側を斜めに切除された円柱状に形成した。内層32の直径32wは、15mm、最も突出高さの高い部分の高さ32h1は、10mm、最も突出高さが低い部分の高さ32h2は、5mmである。また、内層32の上面に、直径32awが、12mm、高さ32ahが、5mmのボルト孔32aを形成した。
尚、本実施例2の内層32及び表層33の材料は、実施例1と同じで、同様の方法で製造した。
【0037】
(耐摩耗試験2)
本試験は、耐摩耗性試験1と同じ試験機50を用いて、実施例2のスタッドSの内層32の充填量の多い部分と少ない部分とのそれぞれに対応するスタッドSの先端部S2の耐摩耗性試験を行った。
(試験例2−1)
図9(a)に示すように、実施例2のスタッドSを、内層32の最も突出高さが高い部分をバネ蝶番55側に向けて落下錘51に固定し、サンドペーパ52上に該スタッドSを落下させることを200回繰り返した。
(試験例2−2)
図9(b)に示すように、実施例2のスタッドSを、内層32の最も突出高さが低い部分をバネ蝶番55側に向けて落下錘51に固定し、サンドペーパ52上に該スタッドSを落下させることを200回繰り返した。
【0038】
その結果、試験2−1では、スタッドSの接地面(表層)が11.1mm摩耗し、試験2−2では、スタッドSの接地面が12.0mm摩耗した。この結果から、内層32の構成材料の充填量が多い部分は、少ない部分に比べ耐摩耗性に優れていることが分かる。
【0039】
(スタッドの安定性について)
スタッドの安定性については、コンピュータシミュレーションによって解析した。このコンピュータシミュレーションは、UGS社製FEMAPを用いてスタッドをモデル化し、構造解析用ソフトウエアであるUGS社製のNX−NASTRAN(ソフトウエア名・バージョン名等)を用いて行った。
スパイクシューズの使用時にスタッドに加わる荷重には、垂直荷重及びせん断荷重があると考えられることから、垂直荷重及びせん断荷重のそれぞれがスタッドに加わった場合についてコンピュータシミュレーションを行った。
【0040】
(コンピュータシミュレーションの実施)
垂直荷重が加わった場合のシミュレーションは、図10(a)に示すようなスタッドSをソフトに入力設定して行った。具体的には、スタッドSが、固定部材40の下面に固定された状態とし、固定部材40は、スタッドSの根元部S1が固定される高硬度材料41と、この高硬度材料41の上面に積層された低硬度材料42とに設定した。高硬度材料41は、30MPa(JISD硬度45に相当)、低硬度材料42は、10MPa(JISD硬度25度に相当)に設定した。更に、固定部材40の上面40aは、垂直方向及び水平方向に動かないように設定し、側面40bは、水平方向に動かないように設定した。
このシミュレーションでは、先端部S2から根元部S1側の方向に一定の垂直荷重がスタッドSの先端部S2に加えられたときの先端部S2のコーナー点Gの垂直方向(先端部S2から根元部S1の方向)の変位量が計算される。
一方、せん断荷重が加わった場合のシミュレーションは、図10(b)に示すように、垂直荷重が加わった場合のシミュレーションと同様に(高硬度材料41や低硬度材料42などの条件は同じ)、スタッドSが固定部材40に固定された状態を設定した。
このシミュレーションにおいても、固定部材40の上面40aは、垂直方向及び水平方向に動かないように設定し、側面40bは、水平方向に動かないように設定した。
このシミュレーションでは、スタッドSの先端部S2から根元部S1側にかけて、スタッドSの一方側から均等に一定のせん断荷重が水平方向に加えられたときの先端部S2のコーナー点Gの水平方向の変位量が計算される。
【0041】
上記の各シミュレーションは、次の3つのスタッドを設定した。
図11(a)は、1つ目のスタッドSの断面図を示す。1つ目のスタッドSは、外寸(即ち、スタッドの高さ、根元部の直径、先端部の直径)は、実施例1と同じに設定した。この1つ目のスタッドSは、根元部全体が、JISD硬度25度の材料32Aで、先端部全体が、JISD硬度45度の材料33Aに設定した。
尚、第1部分32Aの高さ32Ahは、2.1mm、第2部分33Ahの高さは、10.9mmに設定した。
2つ目のスタッドSは、ボルト孔32aが設けられていない点、及び内層32の充填形状及び内層32と表層33との硬度を除いて、実施例1と同様のものを設定した。実施例2のスタッドSの内層32は、図11(b)に示すように、高さ32hは、5.6mm、根元部S1の直径32wは、6.5mm、先端部の直径32wsは、6.2mmに設定した。また、かかる内層32の硬度は、JISD硬度25度に、表層33の硬度は、JISD硬度45度に設定した。
3つ目のスタッドSは、図11(c)に示すように、内層32の高さ32hは、3.7mm、内層32の根元部S1の直径32wは、10.7mm、内層32の先端部の直径32wsは、9.7mmに設定したこと以外は、2つ目のスタッドと同様である。
上記3つのスタッドSを、図10に示す垂直荷重及びせん断荷重を解析するものに当てはめて、それぞれシミュレーションを行った。尚、上記3つのスタッドSにおける内層の体積は、略同一であった。
【0042】
(シミュレーション結果)
垂直荷重が加わった場合のシミュレーションにおいて計算された1つ目のスタッドSのコーナー点Gの変位量を100とした場合、2つ目のスタッドSのコーナー点Gの変位量は、93.3であり、3つ目のスタッドSのコーナー点Gの変位量は、96.6であった。
また、せん断荷重が加わった場合のシミュレーションにおいて計算された1つ目のスタッドSのコーナー点Gの変位量を100とした場合、2つ目のスタッドSのコーナー点Gの変位量は、82.1であり、3つ目のスタッドSのコーナー点Gの変位量は、84.9であった。
上記のシミュレーションにより、根元部に表層が設けられたスタッドは、根元部に表層が設けられていないスタッドに比べて安定性が高いことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施形態1に係るスパイクシューズの外観図である。
【図2】実施形態1に係るスパイクシューズのソールの底面図である。
【図3】実施形態1に係るスパイクシューズのソールの踵部の図2に示すD−D断面図である。
【図4】実施形態1に係るソールの変形例を示す断面図である。
【図5】実施形態2に係るスパイクシューズのソールの踵部の図2に示すDーD断面図である。
【図6】実施例1及び比較例1のスタッドの断面図である。
【図7】実施例1及び比較例1のスタッドの耐摩耗性試験に用いる試験機及び試験方法を示した図である。
【図8】実施例2のスタッドの断面図である。
【図9】実施例2のスタッドの摩擦試験の試験方法を示した図である。
【図10】スタッドの安定性を解析するシミュレーションを説明した図である。
【図11】スタッドの安定性を解析するシミュレーションに用いられるスタッドの断面図である。
【図12】スタッドの根元部に応力が掛かることを示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1 スパイクシューズ
3 ソール
32 内層
33 表層
S スタッド
S1 根元部
S2 先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接地面となる表層と、表層の内側に一体的に設けられた内層と、を有し、表層が、スタッドの少なくとも先端部から根元部にかけて設けられており、表層が内層よりも高硬度材料で構成されていることを特徴とするスタッド。
【請求項2】
表層が、JISD硬度40度〜70度の合成樹脂、内層が、JISA硬度55度〜85度の合成樹脂である請求項1に記載のスタッド。
【請求項3】
内層が表層よりも低弾性材料で構成されている請求項1に記載のスタッド。
【請求項4】
内層がスタッドの側部側へ偏って設けられている請求項1〜3の何れかに記載のスタッド。
【請求項5】
固定的に取り付けられる非取替え式のスタッドである請求項1〜4の何れかに記載のスタッド。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載のスタッドが複数設けられているスパイクシューズ。
【請求項7】
請求項4に記載のスタッドが少なくとも1個以上設けられているスパイクシューズであって、内層が偏ったスタッドの側部側が、シューズの外側に向けて配置されている部分を有するスパイクシューズ。
【請求項8】
請求項1〜5の何れかに記載のスタッドが、踏み圧の大きい領域と踏み圧の小さい領域にそれぞれ設けられており、踏み圧の大きい領域に設けられたスタッドは、踏み圧の小さい領域に設けられたスタッドよりも、表層に対する内層の占める割合が大きいことを特徴とするスパイクシューズ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate