説明

スタッドの製造方法

【課題】溶接開始時における通電端子あるいはフラックスとしての役割を担うアルミニウム製球体等の軟質の良導電性材料からなる金属製塊状物が、スタッド本体の溶植側端面の中央部分にその一部を表面から突出した状態で固着されたスタッドの製造において、金属製塊状物の脱落防止を経済的に実現する。
【解決手段】スタッド本体10の溶植側端面の中央部分に凹部14が設けられ、金属製塊状物を凹部14に圧入した状態で、凹部14の開口周縁部分を適宜先端形状のパンチで押圧する。この押圧により開口周縁部分が塑性変形し、スタッド本体10には内側に膨らむ環状の膨出部14aが形成される一方、金属製塊状物は膨出部14aが形成されることに伴い塑性変形しながら膨出部14aの裏側に入り込んだ状態で凹部14内に充填されるので、衝撃等に対して脱落することがなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば建築、土木分野の鉄骨構造物に適用するスタッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築あるいは土木分野の鉄骨構造物では、耐火性や構造強度などの点から、鉄骨柱および鉄骨梁に対してコンクリートを一体化することが行われている。この場合、それら部材相互の結合性を増大することにより耐力を向上させる手段として、スタッドボルト、頭付きスタッドなどと称されるスタッド材を鉄骨表面に対して、アーク溶接により植設するのが一般的である。この種のスタッドとして、スタッド本体の溶植側端面(スタッドベース)の中央部分に、アルミニウム等の良導電性材料からなる小さな塊状物を、その一部が表面から突出するように取り付けたものが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2および特許文献3参照。)。この金属製塊状物は、溶接開始時における通電端子としての役割の他に、母材との間でアーク発生中に脱酸反応を起こすフラックスとしての役割を担うものである。
【0003】
【特許文献1】特公昭52−10648号公報(第1頁第2欄第3行−同欄第27行と第6図、および第2頁第3欄第12行−同欄第17行と第4図)
【特許文献2】実公昭57−54932号公報(第1頁第2欄第1行−同欄第21行、第3図−第6図)
【特許文献3】特公平7−55352号公報(第3頁第6欄第20行−第4頁第7欄第7行、図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来例のスタッドでは、金属製塊状物が圧入される溶植側端面の中央部分には、予めパンチ(ポンチとも称する)の打刻等により適宜深さの凹部が形成される。斯かる凹部は、特許文献1,3に示されるように一般的には軸心方向における断面形状が円形であり、その内周面は比較的滑らかな表面として形成される。これは、打刻時におけるパンチのスタッド本体への食付きを防止するため、パンチ外周面が滑らかな表面に仕上げられていることに起因する。したがって、圧入された金属製塊状物は、実質的に凹部内周面との間の摩擦のみでスタッド本体に係止されることになるから、僅かな衝撃でも脱落しやすいという問題点があった。
【0005】
また、特許文献2には、凹部を星形等の円形以外の断面形状にしたり、あるいは凹部の内周面を横縞状や螺旋状に形成することにより、壁面に多数の凹凸を形成する技術が開示されているが、それぞれ次のような問題点を有している。すなわち、前者の場合には、金属製塊状物との接触面積は上記のような円形断面のものに比べて増加するが、軸心方向には何ら段差が存在せず、上記円形断面のものと同様に摩擦のみによる係止である。このため、脱落防止の点ではそれほどの改善は望めない。後者の場合には、金属製塊状物の圧入時の塑性変形により、軸心方向に形成された多数の段差に対する掛止効果が期待できるものの、その成形加工がかなり面倒であり、製造コストの点から実用化はされていない。
【0006】
このような事情から、最近ではパンチによる打刻に代えてドリルで穴を開ける方法が広く行われている。この場合には、ドリルの刃の回転に伴う環状の切削痕が凹部の内周面に形成されることから、圧入された金属製塊状物との間で多少の掛合状態が生じ、金属製塊状物の脱落は少なくなる。しかしながら、このドリルによる凹部形成方法は、パンチの打刻に比べると作業性が悪く、しかも切削屑が多量に発生するという問題があり、本質的な解決策とはなっていないのが実情である。
【0007】
そこで、本発明者らは、このような従来技術が有する問題点について鋭意検討を重ねた結果、本発明に想到したのである。すなわち、本発明は、金属製塊状物の脱落がなく安価に製造することができるスタッドの製造方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係るスタッドの製造方法では、スタッド本体の溶植側端面に凹部を形成した後、該スタッド本体よりも軟質の金属製塊状物を一部が溶植側端面よりも突出した状態に前記凹部へ圧入し、該金属製塊状物の近くの溶植側端面を押圧することにより、前記スタッド本体の凹部の開口周縁部分の少なくとも一部を塑性変形させて内側に向けて膨らむ膨出部とし、該膨出部によって前記金属製塊状物を塑性変形させて該膨出部の裏側に入り込ませて係着することを特徴としている。
【0009】
上記構成によれば、適宜の圧造装置を用いて棒状素材からスタッド本体を形成するとともに、その溶植側端面に凹部を形成した後、適宜形状でスタッド本体よりも軟質の金属製塊状物をその一部が突出した状態に凹部へ圧入する。そして、溶植側端面の凹部近傍、すなわち金属製塊状物の近くのスタッド本体端面を押圧する。この押圧力により、凹部の開口周縁部分が塑性変形して内側に向けて膨出し、開口部分が窄まる。一方、金属製塊状物にあっては、凹部内に圧入された部分が、凹部の開口周縁部分が内側に向けて膨出する影響を受けて塑性変形し、膨出部の裏側にも回り込むので、膨出部に確実に掛止されることになる。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、スタッド本体の溶植側端面の凹部近傍を押圧する工程を付加するだけで金属製塊状物の脱落がなくなり、しかもスタッドの製造コストの低減を併せて達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係るスタッドの製造方法は、例えば多段フォーマー等の一般的に使用されている適宜の圧造装置を用いてスタッド本体を形成し、その溶植側端面に凹部を形成するまでは、実質的に従来方法と大差はない。本発明では、凹部に金属製塊状物を圧入した状態で、さらに溶植側端面の凹部近傍、すなわち金属製塊状物の近くを押圧する。この押圧操作により、凹部の開口周縁部分を塑性変形させて内側に向けて膨出する一方、この膨出部が形成される際の影響で金属製塊状物も塑性変形して膨出部の裏側に入り込み、その結果、両者が掛合状態となる点に技術的な特徴がある。本発明に適用される金属製塊状物としては、スタッド本体よりも軟質の金属である。さらに、スタッド本体および母材を構成する金属よりも融点が低く、かつ還元力の強い金属であり、例えばスタッド本体および母材の代表的な素材である鉄に対しては、アルミニウム、亜鉛等が挙げられ、対象となる金属に応じて適宜選定すればよい。その形状は、特に限定はされないが、球状、先の尖った円柱状などが好適である。なお、スタッドの種類としては、頭付きスタッドに限らず、異形鉄筋からなる耐震補強用のスタッドなど、本体の形状においても格別の限定はない。また、スタッド本体の溶植側端面における凹部内の膨出部の形成方法については、例えば円柱状あるいは環状の突起が先端面に形成された適宜のパンチで軸心方向に押圧して塑性変形を生じさせ、これにより開口周縁部分の全周を膨出させたり、十字状や一文字状の突起を有するパンチで部分的に塑性変形させて膨出部を形成してもよい。
【実施例】
【0012】
以下、本発明の実施例について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の製造方法によって得られるスタッドの一実施例を示す部分断面正面図である。図示のスタッド1は、スタッド本体10の頭部11とは反対側で、スタッドベースとなる端面12(溶植側端面)の中央に、アルミニウム製球体等の金属製塊状物13がその一部を埋没した状態で固着されたものである。図2は、図1におけるスタッド本体10の溶植側端部の拡大図であり、金属製塊状物13を保持する凹部14の形状を明示するため、金属製塊状物13の記載を省略した断面として表している。ここで、金属製塊状物13は、スタッド本体10に設けられた略半球状の凹部14の内部に一部が挿入され、凹部14の入口付近の内面、すなわち開口周縁部分の全周に渡り形成され、開口部分を狭めるように内側に向けて膨らむ膨出部14aの裏側にも回り込み、凹部14の内部をほぼ隙間なく満たしている。このように、本発明で得られるスタッド1において、金属製塊状物13は、スタッド本体10の膨出部14aに対してその裏側で掛合することにより確実に係止され、スタッド本体10から脱落することがなくなる。
【0013】
次に、図3ないし図7を参照しながら、多段フォーマーを用いた上記スタッド1の製造方法について説明する。多段フォーマーは、一般に固定台(図示せず)に取り付けられた複数のダイスと、往復移動するラム(図示せず)に取り付けられた複数のパンチとで構成される。図3において、所定長さに切断された所定外径の鉄線などの棒状素材2は、まず頭部となる所定長さ部分を残してダイス20内に挿入され、その後端側において支持ピン21で支持される。そして、この状態で先端側からパンチ22が移動し、棒状素材2の突出した端部に対してそのテーパ状内空部22aを外嵌し、パンチピン23で押圧して頭部の予備成形を行う。
【0014】
次に、図4に示すように、次工程のユニットにおいてダイス24とパンチ25とにより頭部の成形をさらに行う。ここでは、ダイス24に挿通された凹部形成ピン26に後端側を当接した状態で、パンチピン27により頭部のさらなる成形を行うとともに、棒状素材2の後端面に中間段階の凹部を形成する。なお、凹部形成ピン26における押圧部26aの形状は、先端側が幾分か偏平になった半球状であり、図5に拡大して示すように、これにより形成される中間段階の凹部2aもそれに応じた形状に形成される。
【0015】
続いて、図6に示すように、次工程のユニットにおいてダイス28とパンチ29とにより棒状素材2の頭部の最終成形を行う。
【0016】
図7は、金属製塊状物13の圧入作業の概略を示すものである。この場合、金属製塊状物13としてアルミニウム製球体が使用されている。ここで、スタッド本体10は、パンチケース33内にその頭部11側が挿入され、パンチピン34で支持されている。この状態で、打込み用ダイス35の通孔35aをスタッド本体10の凹部14に互いの軸心を合わせて宛がい、打込みピン36でアルミニウム製球体13を凹部14内に圧入する。アルミニウム製球体13は、打込み用ダイス35の先端側部分に設けられた収納部37から1個ずつ通孔35a内に供給される。この圧入操作により、アルミニウム製球体13は凹部14の内部に入る。その後、アルミニウム製球体13が圧入されたスタッド本体10は、パンチケース33の後退の後、パンチピン34で前方に押し出されるとともに、打込みピン36もバネ38により元の位置に復帰し、次の作業に備える。そして、アルミニウム製球体13が突出状態で凹部14に挿入されているスタッド本体10は、適宜の膨出部形成ピンで凹部14の入口の周囲が押圧されることにより、入口付近が塑性変形して全周に渡り内側に膨らみ、環状の膨出部14aが形成される(図2参照)。特に、本願発明に係る製造方法においては、この膨出部が形成される際の影響で金属製塊状物も塑性変形して膨出部の裏側に入り込み、その結果、両者が軸心方向において互いが凹凸関係の掛合状態が実現される。
【0017】
図8は、スタッド本体側に設けられる膨出部の形成方法の他の実施例であり、前記実施例と同様に金属製塊状物を省略した断面として示している。ここでは、スタッド本体41の凹部42に金属製塊状物(図示せず)を圧入した状態で、適宜形状の膨出部形成ピンにより、凹部42の入口近くの周囲を環状に押圧する。これにより、スタッド本体41の端面が凹んで環状溝42aが形成され、その塑性変形に伴って開口周縁部分の全周に渡って膨出部42bが生じる。この場合においても、膨出部42bが形成される際の影響で金属製塊状物も塑性変形し、結果的に膨出部の裏側に入り込み、互いが掛合状態となる。
【0018】
さらに、図9に示す膨出部の実施例では、スタッド本体61の端面に形成される4個所の凹所62aの影響でそれぞれの軸心側部分が内側に塑性変形して膨らむことに伴い、膨出部62bが形成される。この場合、前記各実施例と同様に膨出部62bが形成されることに伴って金属製塊状物(図示せず)も塑性変形し、膨出部62bの裏側に入り込み、互いが掛合状態となる。
【0019】
上記各実施例では、スタッド本体の凹部が軸心方向において横断面円形状のものについて説明したが、これを多角形状にしたり、あるいは金属製塊状物を球体以外のものにすることは可能であり、この発明の技術思想内での種々の変更実施はもちろん可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明により製造されるスタッドの一実施例を示す部分断面正面図である。
【図2】上記スタッドの要部拡大断面図である。
【図3】スタッド本体の製造工程を示す説明図である。
【図4】図3の次工程を示す説明図である。
【図5】図4の工程で形成された中間段階のスタッド本体の要部拡大断面図である。
【図6】図4の次工程を示す説明図である。
【図7】金属製塊状物の圧入作業を示す説明図である。
【図8】膨出部の他の例を示す要部拡大断面図である。
【図9】膨出部の他の例を示す要部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0021】
1…スタッド、2…棒状素材、10,41,61…スタッド本体、11…頭部、12…溶植側端面、13…金属製塊状物、14,42,62…凹部、14a,42b,62b…膨出部、20,24,28…ダイス、22,25,29…パンチ、26…凹部形成ピン、33…パンチケース、35…打込み用ダイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタッド本体の溶植側端面に凹部を形成した後、該スタッド本体よりも軟質の金属製塊状物を一部が溶植側端面よりも突出した状態に前記凹部へ圧入し、該金属製塊状物の近くの溶植側端面を押圧することにより、前記スタッド本体の凹部の開口周縁部分の少なくとも一部を塑性変形させて内側に向けて膨らむ膨出部とし、該膨出部によって前記金属製塊状物を塑性変形させて該膨出部の裏側に入り込ませて係着することを特徴とするスタッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−309525(P2007−309525A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−180449(P2007−180449)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【分割の表示】特願2002−371843(P2002−371843)の分割
【原出願日】平成14年12月24日(2002.12.24)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)