説明

ステーブ

【課題】熱伝導性に優れることを維持しつつ耐摩耗性の悪さを改善し、安定的に抜熱量を小さく抑えて寿命延長を図る。
【解決手段】炉内側となる前面に複数の水平溝1aを形成した銅又は銅合金製のステーブ本体1の水平溝1aに金属製ブロック材2を装着したステーブである。ブロック材2は、上下面に隙間8aを有した状態となるようなステーブ本体1への装着時に、ステーブ本体1の前面と同一高さの平面になる高さであり、ステーブ本体1の水平溝1aと一致する、少なくとも前記上下面のどちらか一方を勾配とした台形の角板状である。また、鋳包みボルトでブロック材2を安定的に固定し更にブロック材2の冷却効果を高めることが出来る。
【効果】前面に金属製ブロック材を組み合わせることで、ステーブ本体の炉内充填物との接触摩耗や割れ・損傷を防止できる。加えて、ブロック材により抜熱量を適度に抑制でき、抜熱量過大による燃料比の悪化を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉の炉体を冷却する銅又は銅合金製のステーブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炉における炉体の冷却方式としてステーブ冷却方式が知られている。
しかしながら、最近の高微粉炭吹き込み操業では炉体熱負荷が増大するため、炉内の熱変動の繰り返し条件の下、従来の鋳鉄製ステーブでは冷却能の低下不足から炉内側表層が高温になって材質劣化や損耗が進行する。あるいは熱応力により反りが発生して、炉内側のプロフィールに支障をきたし、また、ステーブ自体に亀裂が発生して破損することでステーブ本体の取替頻度が多くなったり、炉命を短くするという問題があった。
【0003】
そこで、最近では熱伝導率や延性などの物性に優位な銅又は銅合金製のステーブが開発されている。銅又は銅合金製ステーブの場合、従来の鋳鉄製ステーブより低温で均一な温度分布となり、発生熱応力を抑制でき、変形量も減少するため、ステーブ本体が受けるダメージが軽減され、炉命を延ばすことが可能となる。
【0004】
しかしながら、鋳鉄製から熱伝導性に優れる銅又は銅合金製に変更すると、ステーブによる内容物への冷却効果が大きくなるので、ステーブの設置場所によっては抜熱量が過大になりすぎて炉内充填物を必要以上に冷却し、結果的に燃料比が増加するという問題が発生する場合がある。
【0005】
そこで、上記の問題を解決するものとして、例えば特許文献1で開示された立炉用ステーブがある。
【0006】
図9は特許文献1に開示されたステーブを説明する図で、(a)は背面図、(b)は(a)図におけるA−A断面図である。なお、本願明細書において、ステーブの背面とはステーブを炉体に設置したときの炉外(鉄皮)側の面をいい、前面とは炉内側の面をいう。
【0007】
図9に基づいて特許文献1で開示されたステーブの構成を説明する。
21は内部に冷却水路21aが形成された矩形板状のステーブであり、銅又は銅合金によって製作されている。22bは冷却水路21aの冷却水供給側に連結される入口配管、22aは冷却水路21aの冷却水排水側に連結される出口配管である。なお、ステーブ21の背面には、ステーブ本体を鉄皮に固定する取付けボルト(図示省略)が設けられている。
【0008】
21bはステーブ21の前面に形成された複数の水平溝であり、この複数の水平溝21bに耐火材(図示省略)が収容される。従って、ステーブ21の前面は、銅と耐火材が交互に配置された構成になっている。
【0009】
また、特許文献2では、特許文献1と同様の構成のステーブ本体の前面に設けた複数の水平溝に流し込み充填する不定形耐火物を、炭化珪素45〜80質量%、アルミナ5〜40質量%、アルミナセメント3〜15質量%を含むものとする発明が開示されている。
【0010】
この特許文献2に発明例として記載された不定形耐火物は、耐熱膨張応力性、圧縮強さ、耐食性、耐アルカリ性、熱伝導性に優れているとは言え、いずれも硬度が小さいために、早晩炉内充填物降下時の接触摩耗により不定形耐火物が損耗して、耐摩耗性が低い銅、銅合金のステーブ前面が露出してしまい、寿命延長に大きく寄与することができない。
【0011】
つまり、特許文献1、2で開示されたステーブは、耐摩耗性が低い銅、銅合金の一部が炉内側に露出し、さらには耐火材が炉内側にむき出しの状態で設置されるので、炉内充填物降下時に充填物固体粒との接触摩耗や耐火物の割れ等によってステーブ前面の耐火材が減容し、ステーブ前面の露出面積は経年増加することになって抜熱量が漸増する。
【0012】
実際の高炉内では、銅又は銅合金製のステーブの前面にアルカリやスラグ等の付着物を生成することでステーブの前面を保護しながら使用しているため、当初は抜熱量をある程度小さく抑えることができても、経年変化による耐火材の減容やアルカリやスラグ等の付着物の脱落・剥離により、抜熱量が大きくなるという問題がある。
【0013】
また、上記のような経年変化を小さく抑えるためには、ステーブの前面に設置する耐火材として、耐熱衝撃を有し、割れにくいものを選択する必要があることから、単純に熱伝導率の低いものを選択することができないのが実情である。
【0014】
このため、ステーブの冷却層(冷却水路のある層)から前面に形成された突出部までの熱通過率は、経年変化によるのみならず初期の段階においても大きくなり、前記突出部の損耗により抜熱量が過大になってしまうという問題があった。
【0015】
このようなことから、銅又は銅合金製ステーブの採用により、炉命を延ばすことができるものの、採用部位、例えば炉腹部においては、炉内充填物としてまだ固体状態の硬い焼結鉱粒との接触摩耗でステーブ本体の前面が損耗する。
【0016】
すなわち、特許文献1、2で開示された発明の場合、経年変化による使用状態の変化から、材質上耐摩耗性が低い銅又は銅合金製ステーブ本体の前面が損耗して抜熱量の増加によって燃料比が大きくなるという問題、更にステーブの冷却水路までも破損してしまうという問題を残していた。
【0017】
また、特許文献3には、図10に示すような、凹溝31aが形成された銅又は銅合金製のステーブ本体31の前面の全面に、背面にテーパ状の凸条32aを有する板状の銅又は銅合金よりも低熱伝導度の金属製ライニング材32を、前記凸条32aを前記凹溝31aに挿入して装着する発明が開示されている。
【0018】
なお、図10は特許文献3に開示されたステーブを説明する図で、(a)は側面から見た図、(b)は前面から見た図であり、図中の31bは冷却水路、33は冷却水路に連結された出入口配管を示す。
【0019】
この特許文献3に開示された発明は、複数の金属製ライニング材をステーブ本体に装着した状態では、前面は同一の平面になるように構成されており、炉内側のプロフィールを滑らかにしている。また、各ライニング材における隣り合うもの同士の接触面を傾斜面にし、隣り合うライニング材同士が互いに拘束し合って、各ライニング材の変形を抑制できるようにしている。さらに、装着後のライニング材の抜け落ちを防止するために、ストッパ等により止めるようにしている。
【0020】
またさらに、金属製ライニング材32のステーブ本体31への装着を確実にするために、図11に示すように、ライニング材32とステーブ本体31とを炉内側からボルト34で固定しても良いとしている。
【0021】
しかしながら、特許文献3で開示された発明は、複数の金属製ライニング材をステーブ本体に装着した状態では、ステーブ前面の全面を金属製ライニング材で覆うように構成されているため、以下の課題がある。
【0022】
1) ステーブ前面の全面を金属製ライニング材で覆うので、抜熱量が過大となることを緩和できる。しかしながら、炉内側の高温充填物に直接晒されるライニング材は、高熱伝導度のステーブ本体との接触面積を増加して冷却効果を高めてはいるものの、鋳物を鋳離して製作するライニング材と表面を機械加工したステーブ本体は密着した接触は不可能である。従って、ライニング材とステーブ本体間に空隙が生じる部位が存在し、間接冷却となってステーブ本体からのライニング材への冷却が不十分となる。
【0023】
また、高温下では、熱変形や熱応力による反り(変形)がライニング材に先に発生して冷却されているステーブ本体の表面から離脱し、隙間が生じて耐熱強度及び耐摩耗性も低下して早晩損耗・脱落し、ライニング材としての性能・寿命が十分に期待出来なくなる。
【0024】
2) 各ライニング材の隣り合うもの同士の接触面を傾斜面にして、隣り合うライニング材同士が互いに拘束し合って、各ライニング材の変形を抑制できると記載されているが、純銅製のステーブ本体に比べてライニング材の線膨張率は1.3倍もあり、熱膨張率の差異により問題となる現象が生じる。
【0025】
それを解決するためには、むしろライニング材側に熱膨張代(隙間)を確保して、ステーブ本体側と取り合う凹凸溝への変形拘束を緩和し、熱膨張による変形負荷を軽減するのが望ましいが、熱膨張代(隙間)を確保することでライニング材の冷却効果が益々減少する悪循環となる。
【0026】
3) ライニング材はステーブ本体とボルトによって固定するようにしても良いと記載されているが、該ボルトは熱負荷や充填物が降下する高温部炉内側に取付けられているので、該ボルトが早晩熱的に強度低下して損耗・脱落することになる。ボルトが損耗・脱落すると、ライニング材の拘束力がなくなってステーブ本体の凹凸溝による引掛りのみになるので、ライニング材は時間経過で脱落にいたる。
【0027】
また、特許文献4では、銅又は銅合金製のステーブが持つ高熱伝導性は維持しながらも、その弱点である耐摩耗性の低さを改善すべく、図12に示すように、ステーブ41の炉内面側に、ビッカース硬さが200以上で厚さが3mm以上の硬化肉盛層42を形成させる発明が開示されている。なお、図12中の43は冷却配管を示す。
【0028】
しかしながら、特許文献4に開示された発明は、硬化肉盛層の厚さを厚くできないので、早晩炉内充填物の降下時の接触摩耗により硬化肉盛層が損耗して、耐摩耗性が低いステーブ面が露出してしまい、寿命延長に大きく寄与することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】持公昭63−56283号公報
【特許文献2】特許第4116922号公報
【特許文献3】特許第3796981号公報
【特許文献4】特開2001−192715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
本発明が解決しようとする問題点は、水平溝に耐火物を充填した銅又は銅合金製ステーブは、設置部位によっては焼結鉱粒との接触摩耗でステーブの前面が損耗するという点である。また、ステーブ前面の全面を金属製ライニング材で覆う場合は、ライニング材に熱変形や熱応力による反りが発生してステーブ本体から離脱し、隙間が生じて損耗・脱落し、ライニング材としての性能・寿命が十分に期待出来なくなるという点である。また、ステーブの炉内面側に、硬化肉盛層を形成させる場合も、炉内充填物の降下時の接触摩耗により硬化肉盛層が損耗して、寿命延長に大きく寄与することができないという点である。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明は、ステーブ本体の銅又は銅合金が熱伝導性に優れることを維持しながらも、その弱点である耐摩耗性の悪さを、耐熱・耐摩耗性に優れた金属製ブロック材を組合せることで改善して、安定的に抜熱量を小さく抑えることができ、寿命延長を図ることを目的としている。
【0032】
すなわち、第1の本発明のステーブは、
炉内側となる前面に複数の水平溝を形成した銅又は銅合金製のステーブ本体の前記水平溝に金属製ブロック材を装着したステーブであって、
前記ブロック材は、上下面に隙間を有した状態となるような前記ステーブ本体への装着時に、ステーブ本体の前面と同一高さの平面になる高さで、ステーブ本体の前記水平溝と一致する、少なくとも前記上下面のどちらか一方を勾配とした台形の角板状であることを最も主要な特徴としている。
【0033】
また、第2の本発明のステーブは、
炉内側となる前面に複数の水平溝を形成した銅又は銅合金製のステーブ本体の前記水平溝に金属製ブロック材を装着したステーブであって、
前記ブロック材は、上下面に隙間を有した状態となるような前記ステーブ本体への装着時に、ステーブ本体の前面より炉内側に突出する高さで、ステーブ本体の前記水平溝と一致する、少なくとも前記上下面のどちらか一方を勾配とした台形の角板状であり、
これらブロック材間のステーブ本体の前面部に、ステーブ本体の前面部より突出したブロック材の高さ面と同一の高さまで耐火物を充填したことを最も主要な特徴としている。
【0034】
また、第3の本発明のステーブは、
炉内側となる前面に複数の水平溝を形成した銅又は銅合金製のステーブ本体の前記水平溝に金属製ブロック材を装着したステーブであって、
前記ブロック材は、上下面に隙間を有した状態となるような前記ステーブ本体への装着時に、ステーブ本体の前面より炉内側に突出して当該突出部を上方に延出させた、ステーブ本体の前記水平溝と一致する、少なくとも前記上下面のどちらか一方を勾配としたL字型の角板状であることを最も主要な特徴としている。
【0035】
上記の本発明では、ブロック材のステーブ本体への固定は、ブロック材と同材料相当の耐熱もしくは耐摩耗鋳鋼製の頭部にボルトを鋳包んだ鋳包みボルトを、ステーブ本体に設けた貫通孔に、ステーブ本体の前面側から背面側に差込み、ナットで締結することにより行うことが望ましい。
【0036】
上記構成の本発明では、ステーブ本体の前面に金属製ブロック材を組み合わせることで、ステーブ本体の炉内充填物との接触摩耗や割れ・損傷を防止できる。加えて、金属製ブロック材により抜熱量を適度に抑制することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明では、ステーブ本体の高熱伝導性を活かしつつ耐摩耗性が低い欠点を、前面に金属製ブロック材を組み合わせることで、ステーブ本体の炉内充填物との接触摩耗や割れ・損傷を防止することができる。加えて、金属製ブロック材により抜熱量を適度に抑制することができ、抜熱量過大による燃料比の悪化を防止することができる。また、金属製ブロック材は、耐火物例えば煉瓦のように外力の作用により簡単に破壊することがないので、据付時のハンドリングが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施の形態1を説明する図で、(a)は側面から見た図、(b)は前面から見た図である。
【図2】図1(b)の部分拡大図である。
【図3】図1(a)の部分拡大断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1のブロック材を固定する鋳包みボルトの取付け斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態2を説明する図で、(a)は側面から見た図、(b)は前面から見た図である。
【図6】図5(b)の部分拡大図である。
【図7】図5(a)の部分拡大断面図である。
【図8】本発明の実施の形態3を説明する側面から見た部分拡大断面図である。
【図9】特許文献1に開示されたステーブを説明する図で、(a)は背面図、(b)は(a)図におけるA−A断面図である。
【図10】特許文献3に開示されたステーブを説明する図で、(a)は側面から見た図、(b)は前面から見た図である。
【図11】特許文献3に開示されたステーブの他の形態を説明する側面から見た図である。
【図12】特許文献4に開示されたステーブを説明する側面から見た図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本発明では、熱伝導性に優れることを維持しながらも耐摩耗性の悪さを改善して、安定的に抜熱量を小さく抑えて寿命延長を図るという目的を、ステーブ本体の前面に形成した複数の水平溝に金属製ブロック材を装着することで実現した。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施するための形態例を、図1〜図8を用いて説明する。
【0041】
(実施の形態1:図1〜図4)
1は矩形板状のステーブ本体であり、銅又は銅合金(以下、「銅等」という。)によって製作されている。ステーブ本体1の前面側には、後述するブロック材2との係合部となる複数の溝1aが水平に形成されている。以下、この溝を水平溝1aという。
【0042】
前記ステーブ本体1の内部には、高炉への装着状態における上下方向に冷却水を流す複数の冷却水路1bが設けられ、この冷却水路1bの給水側には給水管4が、排水側には排水管3が連結されている。また、ステーブ本体1の背面には、ステーブ本体1を高炉の鉄皮に固定する取付けボルト(図示省略)が設けられている。
【0043】
2はステーブ本体1の前面に装着される、耐熱もしくは耐摩耗鋳鋼製のブロック材である。このブロック材2は、ステーブ本体1への装着時に、炉内側になるステーブ本体1の前面と同じ高さの平面になる高さを有している。そして、ステーブ本体1の水平溝1aへの装着時に、その上下面に隙間8aを有した状態となるように(図2、図3参照)、ステーブ本体1の水平溝1aの横断面形状と一致する、例えば下面を勾配とした台形の角板状に横断面形状が形成されている。
【0044】
上記構成のブロック材2は、前記水平溝1aにステーブ本体1の側方から挿入することによって装着する。この複数のブロック材2をステーブ本体1に水平配列に装着した状態では、ステーブの前面は同一高さの平面になっており、炉内側のプロフィールを滑らかにしている。
【0045】
ブロック材2を、ステーブ本体1の水平溝1aに側方から挿入するだけでは、装着後、前記ブロック材2間のステーブ本体1の前面が経年変化で損耗した場合にブロック材2が水平溝1aから抜け落ちるおそれがある。
【0046】
そこで、かかる場合の抜け落ちを防止するために、ブロック材2と同材料相当のもので形成した頭部5aにボルト5bを鋳包んだ鋳包みボルト5を、ステーブ本体1に設けた貫通孔1cにステーブ本体1の前面側から背面側に差込み、座金6を介してナット7で締結するものを示している。
【0047】
前記ブロック材2は、ステーブ本体1の横方向に一体のものでも良いが、本実施形態では、前記横方向に2分割のものとし、この2分割した隣り合う各ブロック材2の隣接端面を傾斜面2aとしている。そして、これら両傾斜面2a間に隙間8bを設けた状態で、各ブロック材2のほぼ中央を鋳包みボルト5で固定している。なお、傾斜面2aを使用して設ける隙間8bは、図2、図3に示すようなブロック材2の水平長手方向に限らず、厚さ方向(図1の紙面左右方向)でも良い。
【0048】
ここで、ブロック材2の熱膨張により鋳包みボルト5に過度の曲げや剪断が負荷されないように、座金6とナット7の取合面を球面座として前記負荷を軽減するようにしても良い。
【0049】
2分割した隣り合う各ブロック材2の隣接端面を傾斜面2aとし、これら両傾斜面2a間に隙間8bを設けたのは次の理由による。
【0050】
1) 炉内の高温に晒されるブロック材2の線膨張率は、冷却水路1bを通る冷却水によって冷却されているステーブ本体1の銅等の線膨張率の約1.3倍となるので、前記傾斜面2aに設けた隙間8bで熱膨張を吸収させるためである。これにより、鋳包みボルト5は拘束されることが無くなって、剪断されることがない。従って、隙間8bの寸法は、ブロック材2とステーブ本体1の熱膨張差に基づいて決定する。
【0051】
ステーブ本体1の横方向に一体のブロック材2とした場合、複数の鋳包みボルト5で固定する必要があるため、鋳包みボルト5は熱膨張によって拘束され、変形もしくは剪断する可能性がある。但し、熱膨張を吸収できるように、ステーブ本体1に設ける貫通孔1cの径をボルト5bの径よりも大きくすれば、ステーブ本体1の横方向に一体のブロック材2を適用することも可能である。
【0052】
2) 傾斜面2aを使用せずに垂直面を使用して隙間8bを設けた場合は、垂直方向の隙間8bに炉内降下物が入り込んで損耗することになるためである。
【0053】
次に、前記鋳包みボルト5の形状、及びこの鋳包みボルト5の頭部5aを嵌め込むべくブロック材2に設けた嵌入孔2bの形状を、図4の取付け状態斜視図を用いて説明する。
【0054】
前記ブロック材2を固定する鋳包みボルト5の、耐熱・耐摩耗鋳鋼製の頭部5aは、例えば直方体部5aaに角テーパ錐体部5abを連続させた形状とし、この角テーパ錐体部5abでボルト5bを鋳包んでいる。
【0055】
一方、ブロック材2に設けた嵌入孔2bは、前面側に前記直方体部5aaを嵌入する直方体孔部2baを形成して鋳包みボルト5の回り止め機能を発揮するようにしている。そして、その奥部に前記角テーパ錐体部5abを嵌入する角テーパ錐体孔部2bbを形成して鋳包みボルト5の締め込み機能を発揮するようにしている。
【0056】
本実施例の直方体部5aaと角テーパ錐体部5abを連続させた形状の頭部5aにしたものは、高炉炉頂バンカー用ライナー等をバンカーシェルに固定する場合に採用されている等、多くの場所で採用されている。
【0057】
上記構成の実施の形態1の作用を説明する。
先ず、銅等からなるステーブ本体1の水平溝1aに耐熱・耐摩耗鋳鋼製のブロック材2を交互に嵌め込み、ステーブ本体1の前面とブロック材2の前面を同一高さの平面とする。次に、ブロック材相当材料の頭部5aにボルト5bを鋳包んだ鋳包みボルト5でその上下面と、隣り合う傾斜面2a間に隙間8a,8bを有するようにして固定する。
【0058】
上記構成の場合、材質上耐摩耗性が低いステーブ本体1は、経年変化による使用状態の変化から炉内充填物降下時の接触摩耗で前面が損耗する。一方、水平溝1aに交互に嵌め込まれたブロック材2は冷却されているので、高温雰囲気での耐熱・耐摩耗鋳鋼性能の劣化が抑制される。
【0059】
従って、ライナー機能を維持してステーブ本体1の前面がむき出しになるような使用状態に比べると損耗が抑制され、炉内側からステーブ本体1側への熱通過量が小さくなって抜熱量を適度に抑制することができ、抜熱量過大による燃料比の悪化を防止することができる。
【0060】
すなわち、上記構成の場合、ブロック材2とステーブ本体1とは凹凸面で接触し、ブロック材2とステーブ本体1が1面(底面)はボルト接合による面接触により、そして、2面で熱膨張代の数mmの隙間8a,8bを介して接触しているので、ブロック材2への冷却効果が高められることになる。このため、ブロック材2は耐熱・耐摩耗性が維持でき、炉内側からの熱負荷により溶融することがなくなるのである。前記隙間8a,8bには、熱伝導性の高い例えばSiC系モルタルを充填するのが望ましい。
【0061】
また、耐熱もしくは耐摩耗性鋳鉄製のブロック材2は、従来例に示した耐火材のように早期に容積損失してしまうことがなく、長期に亘って残存することが可能となる。このため、経年変化によりステーブ本体1の前面が炉内に露出することがなくなり、抜熱量を抑制し続けることができる。 さらに、ブロック材2が金属製であり、煉瓦等のように外力の作用により簡単に破壊することがないので、据付時のハンドリングが非常に容易になる。
【0062】
(実施の形態2:図5〜図7)
なお、本発明の実施形態2を示した図5〜図7中、実施の形態1を示した図1〜図4と同一部分には同一符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0063】
本発明の実施の形態2の基本的な構成は実施の形態1と同様であるが、ブロック材2のステーブ本体1への装着時に、ブロック材2がステーブ本体1の前面より炉内側に突出するような高さを有している点のみが相違している。
【0064】
また、実施の形態2では、前記ブロック材2間におけるステーブ本体1の前面部に、ステーブ本体1の前面部より突出したブロック材2の高さ面と同一の高さまで耐火物9を充填している。但し、この実施の形態2の場合は耐火物9部が小さいので、この耐火物9の充填は必ずしも必須ではない。
【0065】
上記構成の実施の形態2では、ステーブ本体1の前面から突出させたブロック材2間のステーブ本体1の前面部に、突出したブロック材2の高さ面と同一の高さまで耐火物9を充填しているので、ステーブ本体1の前面は炉内を降下する充填物と接触することがない。
【0066】
従って、実施の形態2の場合は、銅の有する高熱伝導性は維持しながらも、その弱点である耐摩耗性の悪さをステーブ本体1の前面に突出させたブロック材2と、ブロック材2間に充填した耐火物9で改善することができる。
【0067】
ところで、ステーブ本体1の前面に突出させたブロック材2の突出長さL1(図7参照)は、当該ステーブ本体1の高炉内での高さ方向の設置位置に応じて適宜設定する。例えば、炉内充填物降下時の接触摩耗の多いことが懸念される部位では、突出長さL1を長くすることが望ましい。
【0068】
但し、突出長さL1は、炉内プロフィールの凹凸を極端に乱さないように、水平溝1aによって前面に形成された突出部1dの上下方向長さL2の1/3以上、1/2以下とするのが妥当である。突出部1dの上下方向長さL2の1/3未満の場合は、ステーブ本体1の前面の摩耗低減の効果が小さくなり、1/2より大きい場合は突起による炉内プロフィールの乱れが無視できなくなるからである。
【0069】
(実施の形態3:図8)
なお、本発明の実施の形態3を示した図8中、実施の形態1を示した図1〜図4と同一部分には同一符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0070】
本発明の実施の形態3の基本的な構成は実施の形態2と同様であるが、ブロック材2のステーブ本体1への装着時に、ステーブ本体1の前面より炉内側に突出したブロック材2の部分を上方に延出させたL字型である点のみが相違している。
【0071】
このブロック材2の炉内側に突出した部分を上方に延出させた延出部2cの長さL3(図8参照)も、当該ステーブ本体1の高炉内での設置高さ位置に応じて適宜設定する。
【0072】
これにより、
(1) ステーブ本体1の前面は炉内を降下する充填物と接触することがない。
(2) また、ブロック材2の炉内側に突出した部分を上方に延出させた延出部2cの熱伝導度が比較的低い場合は、ブロック材2からステーブ本体1への熱通過量が小さくなり、本来の目的である抜熱量を抑制するという効果がある。
【0073】
上記構成の実施の形態3では、ブロック材2とステーブ本体1との接触部に隙間8a,8bを設けることにより、ブロック材2からステーブ本体1への熱通過量を制限して、本来の目的であるステーブの抜熱量の抑制が図れる。
【0074】
すなわち、ブロック材2をステーブ本体1の水平溝1aに嵌合させると共に、ブロック材2の炉内側に突出した部分を上方に延出させたL字型とすることで、ステーブ本体1への熱通過量の制限を可能にしているのである。
【0075】
ところで、前記延出部2cの長さL3は、当該ステーブ本体1の高炉内での高さ方向の設置位置によって適宜設定するものである。
【0076】
例えば、L3の最大長さは、前面に形成された突出部1dの上下方向長さL2から熱膨張代(約10mm程度)を減じた長さであるが、この場合、特許文献3と同等になって、特許文献3が有する課題を有することになる。
【0077】
従って、ブロック材2の望ましい前記延出部2cの長さL3は、前記L2の1/3以上から2/3以下とするのが望ましい。前記長さL3が前記L2の1/3未満の場合には銅等の摩耗低減の効果が小さくなるからである。一方、前記長さL3が前記L2の2/3を超える場合は、特許文献3が有する課題と同様の課題を有することになるからである。なお、L3が最小の0の場合は、実施の形態2である図7に相当する形状である。
【0078】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0079】
例えば、上記の実施形態では、ブロック材2をステーブ本体1の横方向に2分割して各ブロック材2のほぼ中央を鋳包みボルト5で固定しているが、3分割以上として各ブロック材2のほぼ中央を鋳包みボルト5で固定しても良い。
【0080】
また、鋳包みボルト5の頭部5aの形状は、直方体部5aaと角テーパ錐体部5abを連続させた形状に限らず、円柱に円錐体を連続させた形状としてもよい。
【0081】
また、上記の実施の形態においては、耐熱もしくは耐摩耗性鋳鉄製ブロック材2を示したが、本発明はこれに限るものではなく、熱伝導度の低い金属製のものであればよく、例えば鋳鋼製、または鋳鉄製であってもよい。
【0082】
なお、ブロック材2の材質としては、例えば高炉のムーバブルアーマプレートや鉱石受け金物でも使用実績のある高Cr(18〜20)、高Ni(10〜13)系の「高温耐摩耗・耐食材」を採用することは、比較的安価で現実的な選択である。
【符号の説明】
【0083】
1 ステーブ本体
1a 水平溝
1b 冷却水路
1c 貫通孔
1d ステーブ本体突出部
2 ブロック材
2a 傾斜面
2b 嵌入孔
3 排水管
4 給水管
5 鋳包みボルト
5a 頭部
5b ボルト
6 座金
7 ナット
8a,8b 隙間
9 耐火物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内側となる前面に複数の水平溝を形成した銅又は銅合金製のステーブ本体の前記水平溝に金属製ブロック材を装着したステーブであって、
前記ブロック材は、上下面に隙間を有した状態となるような前記ステーブ本体への装着時に、ステーブ本体の前面と同一高さの平面になる高さで、ステーブ本体の前記水平溝と一致する、少なくとも前記上下面のどちらか一方を勾配とした台形の角板状であることを特徴とするステーブ。
【請求項2】
炉内側となる前面に複数の水平溝を形成した銅又は銅合金製のステーブ本体の前記水平溝に金属製ブロック材を装着したステーブであって、
前記ブロック材は、上下面に隙間を有した状態となるような前記ステーブ本体への装着時に、ステーブ本体の前面より炉内側に突出する高さで、ステーブ本体の前記水平溝と一致する、少なくとも前記上下面のどちらか一方を勾配とした台形の角板状であり、
これらブロック材間のステーブ本体の前面部に、ステーブ本体の前面部より突出したブロック材の高さ面と同一の高さまで耐火物を充填したことを特徴とするステーブ。
【請求項3】
炉内側となる前面に複数の水平溝を形成した銅又は銅合金製のステーブ本体の前記水平溝に金属製ブロック材を装着したステーブであって、
前記ブロック材は、上下面に隙間を有した状態となるような前記ステーブ本体への装着時に、ステーブ本体の前面より炉内側に突出して当該突出部を上方に延出させた、ステーブ本体の前記水平溝と一致する、少なくとも前記上下面のどちらか一方を勾配としたL字型の角板状であることを特徴とするステーブ。
【請求項4】
前記ブロック材間のステーブ本体の前面部に、ステーブ本体の前面部より突出したブロック材の高さ面と同一の高さまで耐火物を充填したことを特徴とする請求項3に記載のステーブ。
【請求項5】
前記ブロック材のステーブ本体への固定は、該ブロック材と同材料相当の耐熱もしくは耐摩耗鋳鋼製の頭部にボルトを鋳包んだ鋳包みボルトを、ステーブ本体に設けた貫通孔に、前記ステーブ本体の前面側から背面側に差込み、ナットで締結することにより行うことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のステーブ。
【請求項6】
前記ブロック材は、鋳鋼製、鋳鉄製、耐熱もしくは耐摩耗鋳鋼製の何れかであることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のステーブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−224914(P2012−224914A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93260(P2011−93260)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】