説明

スパイク及びこのスパイクを備えた野球用のスパイクシューズ

【課題】高硬度部材による高い耐摩耗性を実現しつつ、且つ、使用者固有の動きや身体的特徴の個人差に応じた形状を長く保持することにより、長寿命であり、且つ足に馴染みやすくて履き心地を良好にするスパイク及びスパイクシューズを提供すること。
【解決手段】スパイク10は、突出部12と取付座11とを有する。突出部12は、突出方向の先端に位置する先端部26と、屈曲部13から先端部26に至る胴部27とにより構成されている。胴部27は炭素工具鋼鋼材で構成されている。この胴部27の両側端部にチップ22がろう接されている。チップ22は超硬合金で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野球用のスパイクシューズの靴底に取り付けられるスパイクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、靴底に金属製の複数のスパイクが取り付けられた野球用のスパイクシューズ(以下、単に「スパイクシューズ」と称する。)が知られている。スパイクシューズは、スパイクが地面に食い込むことによって、地面に対してしっかりとグリップし、優れた防滑性を発揮する。スパイクシューズの使用時にスパイクが幾度となく地面に食い込まされると、地面の砂とスパイクとが接触することによってスパイクが摩耗する。このような摩耗に着目して考案された従来のスパイクが特許文献1及び特許文献2に開示されている。この従来のスパイクは、耐摩耗性を有する金属製チップがスパイクの突出部(爪状の部分)の先端に溶接されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公昭33−7465号公報
【特許文献2】特開平9−182606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スパイクシューズが使用されると徐々にスパイクが摩耗するが、靴底に取り付けられた複数のスパイクが均一に摩耗することはない。つまり、スパイクそれぞれの摩耗速度は異なる。これは、全てのスパイクそれぞれに対して荷重が均等に掛からないことが原因である。例えば、スパイクシューズの使用者は、ランニングをする際に、足の踵から接地し、そして足の第1指(親指)と第2指との間で地面を蹴り出すように足を動かす。そのため、主に第1指及び第2指側のスパイクと踵の外側のスパイクに荷重が掛かる。この場合、第1指及び第2指側のスパイクと踵の外側のスパイクは他の位置にあるスパイクよりも摩耗しやすい。また、内野を守備する際に使用者は前傾姿勢を保つため、主に指先側のスパイクに荷重が掛かる。この場合、指先側のスパイクは他の位置(例えば踵側)にあるスパイクよりも摩耗しやすい。また、ピッチャーは、投球時に主に軸足の先端側のスパイクに荷重を掛ける。この場合、軸足の先端側のスパイクは、他の位置にあるスパイクよりも摩耗しやすい。もちろん、スパイクに対する荷重の掛かり方は、上述した場合に限られず、ランニング時や打撃時、投球時、守備時における使用者固有の動作や癖、あるいは足における身体的特徴の個人差などの要因によっても異なる。いずれにしても、使用者が普段使用しているスパイクシューズのスパイクは、上記した使用者固有の要因に応じて不均等に摩耗している。
【0005】
ところで、真新しいスパイクシューズは、全てのスパイクが同じ高さであり、しかもまだ摩耗していないため、多くの使用者は、真新しいスパイクシューズを着用したときにスパイクに対して違和感を感じる。具体的には、まだスパイクの角が削られていないため、地面に対するスパイクの食いつきが悪く、高下駄を履いたような違和感を感じる。特に、中学校や高校等の学校の運動場や河川敷の野球場などで多用されている砂地のグランドは土質が硬いため、地面に対するスパイクの食いつきが極めて悪く、上記違和感を感じやすい。また、スパイク高さが均一なため、スパイク高さが不揃いになっている普段履き慣れたスパイクシューズと比べてスパイクシューズに足が馴染まず、違和感を感じる。このような違和感は、使用者固有の動作や身体的特徴の個人差に応じて高さが不揃いになっているスパイクに対して良い履き心地感を得ているからこそ生じる感覚である。言い換えると、多くの使用者は均一高さの新しいスパイクに対して履き心地が悪いと感じる。もちろん、しばらく履き続けることにより、各スパイクは上述した使用者固有の要因に応じて摩耗し、いずれは使用者固有の要因に応じた高さや形状になっていく。それに従い、使用者の足はスパイクシューズに馴染んできて、徐々に履き心地が良くなる。
【0006】
しかしながら、上述した従来のスパイクでは、先端に耐摩耗性金属製チップが設けられているため、使用を重ねても摩耗が進みにくい。そのため、新しいスパイクに対する上述した違和感をすぐに取り去ることができず、使用者は足に馴染まない履き心地の悪い状態でスパイクシューズを長期間着用することになる。足に馴染まないスパイクシューズを着用すると、腰や足首、足の裏に負担が掛かり、場合によっては足腰を痛めてしまうおそれがある。また、耐摩耗性の金属製チップよりも軟質なスパイク本体のほうが摩耗が速いため、摩耗が進むと耐摩耗性の金属製チップとスパイク本体との間にくびれが生じる。このくびれは、スパイクを折損させる原因であるため、好ましくない。また、くびれ部分で折損したスパイクの破片がグランドに残ると、野球の練習時に予期せぬ怪我が生じるおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、使用者固有の動きや足における身体的特徴の個人差に応じて各々のスパイクの摩耗速度が異なるという経験則に着目して、高硬度部材による高い耐摩耗性を実現しつつ、且つ、使用者固有の動きや身体的特徴の個人差に応じた形状を長く保持することにより、長寿命であり、且つ足に馴染みやすくて履き心地を良好にするスパイク及びスパイクシューズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明は、野球用のスパイクシューズの靴底に取り付けられるスパイクである。本発明のスパイクは、突出片と高硬度部材とを備える。突出片は、上記靴底の表面より突出するように上記靴底に取り付けられている。高硬度部材は、上記突出片の基端部から先端部に至る胴部に設けられている。この高硬度部材は、上記突出片よりも硬度の大きい材質で構成されている。
【0009】
本発明のスパイクは野球用のスパイクシューズに取り付けられることによって、スパイクシューズと共に使用される。スパイクシューズの靴底には複数のスパイクが装着されている。突出片は、例えば、炭素工具鋼や炭素鋼等の各種鋼材で構成されている。また、高硬度部材は、上記突出片よりも硬度の大きい超硬合金で構成されている。
【0010】
本発明のスパイクが取り付けられた真新しいスパイクシューズが繰り返し使用されると、地面との摩擦によってスパイクの突出片の角がとれる。これにより、地面に対するスパイクの食いつきが良くなり、高下駄を履いたような違和感がなくなる。更にスパイクの摩耗が進むと、突出片の先端は、使用者固有の動作や癖、あるいは足における身体的特徴の個人差などの要因に応じた形状になる。これにより、使用者の足がスパイクシューズに馴染み、履き心地が良好となる。更にスパイクの摩耗が進むと、突出片の胴部に設けられていた高硬度部材が現れてくる。これにより、高硬度部材によってスパイクの摩耗速度が低下するため、スパイクの寿命が延びる。また、スパイクを使用者固有の要因に応じた形状に長期間保持することができる。
【0011】
(2) 上記高硬度部材は、上記胴部の幅方向の両側端部それぞれに設けられていることが好ましい。
【0012】
これにより、突出片の胴部の両側端部の摩耗が抑制されるため、突出片と高硬度部材との摩耗速度の差に起因して生じるくびれがスパイクに生じなくなり、スパイクの欠損が防止される。
【0013】
(3) また、上記高硬度部材は、上記胴部の幅方向に隔てられた状態で上記胴部に設けられたものであってもよい。
【0014】
突出片の先端部の摩耗が進むと、突出片の先端側に高硬度部材が現れてくる。その後、更に先端部の摩耗が進むと、幅方向に離間した各高硬度部材によって挟まれた軟質部分が高硬度部材よりも多く摩耗する。このとき、スパイクを側面から見ると、スパイクの先端部の幅方向中央部が陥没した形状となる。言い換えると、突出片の先端部の幅方向両端部がその中央部よりも突出した形状となる。このため、地面に対するスパイクの食い込みが良好となり、グリップ力が向上する。
【0015】
(4) 上記高硬度部材は、第1部材と第2部材とを備える。第1部材は、上記胴部の幅方向の側端部に配置される。第2部材は、上記第1部材から上記胴部の内部側へ向けて突出している。
【0016】
これにより、突出片の幅方向の側端部の摩耗が第1部材によって抑制され、また、摩耗により先端側に現れた第2部材によって先端側の更なる摩耗が抑制される。その結果、スパイクの寿命が延びる。
【0017】
(5) 上記高硬度部材は、該高硬度部材及び上記胴部よりも融点が低いろう材によって上記胴部にろう接されたものである。
【0018】
これにより、高硬度部材を胴部に容易に接合させることが可能となり、工業的に量産可能となる。
【0019】
(6) また、上述したいずれかのスパイクが靴底に取り付けられた野球用のスパイクシューズとして本発明を捉えてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高硬度部材による高い耐摩耗性を実現しつつ、且つ、使用者固有の動きや足における身体的特徴の個人差などに対応した形状を長く保持することが可能である。その結果、長寿命であり、且つ使用勝手のよいスパイクを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係るスパイク10の構成を示す模式図であり、(A)には外観斜視図が示されており、(B)には切断線IB-IBの断面図が示されている。
【図2】図2は、左足用の靴底50に対するスパイク10の取付状態を示す模式図であり、(A)には靴底50の表面が示されており、(B)には切断線IIB-IIBの断面図が示されている。
【図3】図3は、チップ22をスパイク10の突出部12にろう付する工程を説明するための模式斜視図であり、(A)にはチップ22が組み付けられていない状態が示されており、(B)にはチップ22が組み付けられた状態が示されている。
【図4】図4は、指先側の内側に配置されたスパイク10A及び踵に配置されたスパイク10Bそれぞれの摩耗状態を示す模式断面図である。
【図5】図5は、本発明の実施例に係るスパイク101〜106の構成を示すを示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、適宜図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0023】
図1(A)は、本発明の実施形態に係るスパイク10の斜視図である。図2は、靴底50に対するスパイク10の取付状態を示す模式図である。スパイク10は、野球用のスパイクシューズの靴底50(図2(A)参照)に固定された状態で使用される。スパイク10の特徴とするところは、スパイク10の突出部12(本発明の突出片の一例)に高硬度の金属からなるチップ22(本発明の高硬度部材の一例)が設けられている点にある。以下、スパイク10の構成について詳細に説明する。
【0024】
図1(A)に示されるように、スパイク10は、大別すると、靴底50に埋め込まれて固定される取付座11と、靴底50の表面(図1(B)に示す架空線16)から垂直に突出する爪状の突出部12とを備えている。このスパイク10は、炭素工具鋼鋼材(JIS G4401)で構成された厚み1.5mmの鋼板材に対して打ち抜き加工及び曲げ加工を施すことによって、取付座11と突出部12とが概ね90°となるL字形状に形成される。なお、スパイク10の厚みは、突出部12の形状や地面への食い込み具合に応じて、概ね1.0mmから2.5mmの範囲で適宜のサイズを選択可能である。
【0025】
取付座11と突出部12との屈曲部13に補強リブ15が設けられている。補強リブ15は、屈曲部13の幅方向5の中央に設けられている。この補強リブ15は、屈曲部13の外側から型押しすることにより形成される。
【0026】
取付座11の中央付近には、取付座11の厚み方向に貫通する孔17が形成されている。また、屈曲部13の幅方向5の両端部それぞれには突起19が設けられている。これらの孔17及び突起19は、図2(B)に示されるように、取付座11が靴底50に埋め込まれたときに靴底50と取付座11との密着度を高めて一体化させる役割を有する。本実施形態では、靴底50は、合成樹脂材を射出成形することによって得られる。合成樹脂材としては、熱可塑性ポリウレタン(TPU)やポリカーボネート(PC)、塩化ビニル、ナイロンなどが考えられる。
【0027】
図2(A)に示されるように、本実施形態では、靴底50のつま先側に6つのスパイク10が取り付けられ、靴底50の踵側に4つのスパイク10が取り付けられている。靴底50に取付座11を埋め込む方法は、例えば、射出成形に用いられる固定側金型のキャビティの中央に取付座11が位置するようにスパイク10を固定側金型に配置させたうえで射出成形する方法や、靴底50をアウトソールとミドルソールの二層構造にして、先にミドルソールを射出成形し、その後、アウトソールに対するミドルソールの接合面に取付座11を接着などにより固定させたうえでアウトソールを射出成形する方法などが考えられる。このように取付座11が靴底50に埋め込まれることにより、孔17の内部や突起19の周囲に合成樹脂が充填される。これにより、取付座11が靴底50と一体化して強固に取り付けられるため、靴底50からのスパイク10の脱抜が防止される。
【0028】
図1に示されるように、突出部12の胴部27に二つのチップ22が設けられている。ここで、胴部27は、突出部12の先端部26を除く部分、言い換えると、突出部23の基端部である屈曲部13から先端部26に至る部分である。チップ22は、突出部12よりも硬度の大きい材質で構成されている。具体的には、チップ22は、HRA(ロックウェル硬度Aスケール)91.5の超硬合金である炭化タングステン(タングステンカーバイト)で構成されている。本実施形態では、チップ22は、胴部27の幅方向5の両側端部それぞれに設けられており、これにより、各チップ22は、胴部27において幅方向5に隔てられた状態で配置されている。
【0029】
チップ22は、ベース部23(本発明の第1部材に相当)と鉤部24(本発明の第2部材に相当)とを有している。本実施形態では、チップ22はベース部23と鉤部24とが一体に形成されている。もちろん、ベース部23と鉤部24とが別部材となっていてもよい。ベース部23は、突出部12の胴部27の幅方向5の側端部に配置されている。このベース部23は、図1(B)に示されるように、靴底50の表面(図1(B)で示される架空線16)から先端部26まで延出している。このため、ベース部23の幅方向5の外側の表面は外部に露出されており、突出部12の外面を形成している。鉤部24は、ベース部23の先端(図1の紙面上方向の端部)から胴部27の内部側へ向けて鉤状に屈曲している。
【0030】
それぞれのチップ22は、胴部27の幅方向5の両端部それぞれに固着されている。チップ22の固着方法としては、例えば、突出部12やチップ22よりも融点の低い銅ろう(本発明のろう材の一例)を用いてろう接(蝋接)する方法が好適である。具体的には、図3に示されるように、チップ22と同形状に切断された切り欠き29(図3(A)参照)にチップ22を組み付け、チップ22と突出部12との接合部にペースト状の銅ろうを塗布したうえで、スパイク10を炉内にセットし、銅ろうが溶融するまで加熱する。その後、冷却させることにより、チップ22と胴部27とが銅ろうによってろう付けされる。なお、加熱方法としては、炉内加熱に限られず、接合部に電流を流して発生するジュール熱や高周波加熱コイルの誘導加熱を利用する方法を採用してもよい。また、ろう材として鋼のろう付けに好適な銅ろうを使用したが、接合する母材に応じて適切なろう材を選択すればよい。また、ろう材はペースト状のものに限られず、板状のものや線状(針金状)のものなどを使用してもよい。
【0031】
次に、図4を参照しながら、スパイク10A及びスパイク10B(図2(A)参照)それぞれの摩耗過程について説明する。ここに、図4の(A)〜(C)はスパイク10Aの摩耗状態の経時変化を示す図であり、図4の(D)〜(F)はスパイク10Bの摩耗状態の経時変化を示す図である。なお、スパイク10Aは、図2(A)に示されるように、靴底50において指先側の内側に配置されたものであり、靴底50に取り付けられた複数のスパイク10の中で最も荷重が掛けられる箇所に配置されたものである。また、スパイク10Bは、靴底50において踵側に配置されたものであり、靴底50に取付られた複数のスパイク10の中で最も荷重が掛からない箇所に配置されたものである。図4においては、理解を容易にするために、スパイク10A及びスパイク10Bそれぞれの摩耗状態の経時変化の差が誇張して図示されている。
の取付位置に
【0032】
未摩耗状態のスパイク10A(図4(A)参照)は、スパイクシューズが使用されることによって、スパイク10Aの先端部26が徐々に摩耗する。ここで、仮に所定の期間T1が経過したときにスパイク10Aの先端部26の概ね全てが摩耗したと仮定する(図4(B)参照)。この状態から更にスパイクシューズが使用されると、スパイク10Aの先端側にチップ22の鉤部24が現れてくる。上述したように、このチップ22は超硬合金で構成されているため先端部26よりも摩耗に強い。一方、両側端部のチップ22に挟まれた中央部分は先端部26と同質であるため、チップ22よりも摩耗しやすい。そのため、更に摩耗が進むと、図4(C)に示されるように、チップ22が露出された幅方向5の両端部は摩耗が抑制されるが、中央部分はえぐられるようにしてU字状に摩耗する。
【0033】
一方、未摩耗状態のスパイク10B(図4(D)参照)も、スパイクシューズが使用されることによって、スパイク10Bの先端部26が徐々に摩耗する。しかし、スパイク10Bはスパイク10Aに比べて掛けられる荷重が小さいので、上記期間T1が経過しても、図4(E)及び(F)に示されるように、スパイク10Bの先端部26はほとんど摩耗せずに残る。
【0034】
なお、スパイク10の幅方向5の側端部は先端部26よりも掛けられる荷重が小さいことに加えて、超硬合金製のチップ22のベース部23があるため、図4(A)〜(F)に示されるように、側端部はほとんど摩耗しない。
【0035】
このようにスパイク10が構成されているため、先端部が超硬合金製の従来のスパイクに比べてスパイク10の先端部26の角が早く削られる。そのため、スパイクシューズ使用後の早い時期に地面に対するスパイク10の食いつきが良くなり、高下駄を履いたような違和感が早期に取り去られる。
【0036】
また、上述したように、スパイク10の先端部26は、各スパイク10に対する荷重の大小に応じて摩耗する。言い換えると、大きい荷重が掛かるスパイク10は先端部26の摩耗量が多く、小さい荷重しか掛からないスパイク10は先端部26の摩耗量が少ない。このため、ランニング時や打撃時、投球時、守備時における使用者固有の動作や癖、あるいは、足の形や土踏まずの形、脚の形などの身体的特徴の個人差などの要因によって接地面に対する荷重分布に差がある場合は、各スパイク10は、掛けられた荷重に応じて摩耗する。これにより、使用者の足がスパイクシューズに馴染み、履き心地が良好となる。そして、更にスパイク10の摩耗が進んで先端部にチップ22の鉤部24が露出すると、スパイク10の摩耗速度が低下するため、足に馴染むスパイク10の形状を長期間保持することができる。
【0037】
また、スパイク10の幅方向5の側端部には、超硬合金製のチップ22のベース部23があるため、側端部の摩耗が激減し、側端部の摩耗によるスパイクの欠損が防止される。
【0038】
また、チップ22は、胴部27の幅方向5に隔てられているため、摩耗が進むと図4(C)に示されるように中央部が大きく摩耗して、両端部が中央部よりも突出した状態となる。このため、摩耗が進むにつれて地面に対するスパイク10の食い込みが良好となり、地面に対するグリップ力が向上する。
【0039】
また、チップ22を胴部27に固着させる手法として、チップ22及び胴部27の双方を溶融させずに接合するろう接という手法を採用しているため、母材を溶融して接合する抵抗溶接やアーク溶接に比べて、接合部の溶融肉が少なくて済む。そのため、接合後の研磨加工などの表面処理を簡略化できる。
【0040】
上述の実施形態では、スパイク10の突出部12を炭素工具鋼鋼材で形成することとしたが、鉄と炭素の合金である一般的な炭素鋼(普通鋼とも呼ばれる。)で形成してもかまわない。また、チップ22を超硬合金で形成することとしたが、これは単なる一例であり、チップ22の材質が突出部12の材質よりも硬度の大きいものであれば、如何なる材質を用いてもよい。更にまた、スパイク10の突出部12及びチップ22の材質は鋼材に限られず、セラミックや高硬度プラスチックなど、スパイク10に適合する如何なる材質で形成してもかまわない。
【0041】
また、上述の実施形態では、チップ22と胴部27との固着方法としてろう接方法を採用したが、スポット溶接や抵抗溶接などの手法を採用してもかまわない。
【0042】
また、上述の実施形態で説明したスパイク10は、野球用のスパイクシューズの靴底50に埋め込まれることによって固定される所謂埋込式タイプのものであるが、靴底に対して取り替え可能なリテーナ式(取り替え式)タイプのスパイクにも本発明は適用可能である。
【0043】
上述した実施形態は本発明のスパイクが具体化された単なる一例である。本実施形態は、以下に説明する各実施例に示すスパイク101〜106のように、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更可能である。
【0044】
以下、図5を参照して、本発明のスパイクの他の実施例について説明する。ここに、図5は、本発明の実施例に係るスパイク101〜106の構成を示すを示す模式図である。なお、上述の実施形態と同じ構成要素については図5において同じ番号の符号を付し示すことによりその説明を省略する。
【0045】
図5(A)はスパイク101の模式断面図である。スパイク101は、U字形状のチップ221が胴部27に固着されたものである。チップ221は、胴部27の幅方向5の両端部それぞれに配置されたベース部231と、これらのベース部231を連結するブリッジ241とを有する。
【0046】
図5(B)はスパイク102の模式断面図である。スパイク102は、幅方向5に長いストレート状のチップ222が胴部27に固着されたものである。チップ222の幅方向5の両端部は胴部27の両側面に露出されている。
【0047】
図5(C)はスパイク103の模式断面図である。スパイク103は、幅方向5に長いストレート状のチップ223が胴部27に固着されたものである。チップ223の幅方向5の両端部は胴部27の両側面に露出されておらず、胴部27の内部に埋設されている。
【0048】
図5(D)はスパイク104の模式断面図である。スパイク104は、胴部27の幅方向3の両端部それぞれにチップ224が固着されたものである。チップ224は、突出部12の突出方向(図5の紙面における上下方向)に長いストレート形状である。チップ224の幅方向5の厚みは胴部27の幅に比べて十分に小さい。
【0049】
図5(E)はスパイク105の模式断面図である。スパイク105は、胴部27の幅方向5の両端部それぞれにチップ225が固着されたものである。チップ225は、突出部12の突出方向(図5の紙面における上下方向)に長いブロック状のものである。チップ224の幅方向5の厚みは胴部27の幅の半分より若干小さい。
【0050】
図5(F)はスパイク106の模式断面図である。スパイク106は、上述したスパイク10と同じように、胴部27の幅方向5の両側端部それぞれにチップ226が固着されている。チップ226は、ベース部23の先端(図5の紙面下方向の端部)に形成された鉤部246を有している。この鉤部146は、胴部27の内部側へ向けて略90度屈曲された後に、更に靴底50側へ略90度屈曲された形状となっている。チップ226がこのような形状に形成されているため、胴部27とチップ226との接触面積が大きくなる。これにより、ろう付けにより固着したときの接合力が向上する。
【0051】
10,101〜106・・・スパイク
11・・・取付座
12・・・突出部
13・・・屈曲部
15・・・補強リブ
16・・・架空線
17・・・孔
19・・・突起
22,221〜226・・・チップ
26・・・先端部
27・・・胴部
29・・・切り欠き
50・・・靴底


【特許請求の範囲】
【請求項1】
野球用のスパイクシューズの靴底に取り付けられるスパイクであって、
上記靴底の表面より突出するように上記靴底に取り付けられた爪状の突出片と、
上記突出片の基端部から先端部に至る胴部に設けられ、上記突出片よりも硬度の大きい材質で構成された高硬度部材と、を具備するスパイク。
【請求項2】
上記高硬度部材は、上記胴部の幅方向の両側端部それぞれに設けられている請求項1に記載のスパイク。
【請求項3】
上記高硬度部材は、上記胴部の幅方向に隔てられた状態で上記胴部に設けられている請求項1又は2に記載のスパイク。
【請求項4】
上記高硬度部材は、
上記胴部の幅方向の側端部に配置される第1部材と、上記第1部材から上記胴部の内部側へ向けて突出する第2部材と、を有する請求項3に記載のスパイク。
【請求項5】
上記高硬度部材は、該高硬度部材及び上記胴部よりも融点が低いろう材によって上記胴部にろう接されている請求項1から4のいずれかに記載のスパイク
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載のスパイクが靴底に取り付けられた野球用のスパイクシューズ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−34739(P2012−34739A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175277(P2010−175277)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(503221104)株式会社カジテック (2)
【Fターム(参考)】