説明

スピーカーキャビネット及びこれを用いたスピーカーシステム

【課題】 安定した固定が可能であり、見栄え良く壁面に背面を密着させて取り付けることが可能な壁面取付機構を備えるスピーカーキャビネットと、スピーカーとを備えたスピーカーシステムを提供する。
【解決手段】 本発明のスピーカーキャビネットは、壁面に背面を密着させて取り付ける壁面取付機構を備えるスピーカーキャビネットであって、壁面取付機構が、壁面に螺合して突出するネジのネジ頭部が通過する円孔と、円孔に連通してネジの軸部が通過する長孔と、円孔および長孔を含む取付面と、を有し、長孔を規定する取付面の長孔縁部が、背面との離隔距離Dをスピーカーキャビネットの底面側よりも天面側で大きくするように傾斜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカーキャビネット及びこれを用いたスピーカーシステムに関し、特に、壁面に背面を密着させて取り付ける壁面取付機構を備えるスピーカーキャビネットと、これにスピーカーをさらに備えたスピーカーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
スピーカーシステムを壁面に取り付ける場合には、ブラケット等の壁面への取付具をスピーカーキャビネットの背面等に取り付けて、スピーカーシステムを壁面に対して固定する場合がある。そのようなスピーカーシステムは、多くの場合にそのキャビネットの背面にネジが螺合するネジ孔を設け、ブラケットを連結する連結部を備えている。
【0003】
ただし、簡略化した壁面取付機構としては、壁面に取り付けるブラケットの代わりにその頭部が突出するように壁面に螺合させるネジを用い、スピーカーキャビネットの背面にネジの頭部ならびに軸部が係合する鍵穴状の孔を設けて、スピーカーシステムの背面を壁面に密着させて取り付ける場合がある。
【0004】
例えば、従来には、平面を有する部材に頭部と軸部とが露出して取り付けられたネジに物を引っかけるフック装置であって、軟質な材料で構成され、該部材の平面と該ネジの頭部の間隔より厚い板と、該板に設けられた大穴と、さらに該大穴に連続してこれと一部が重なるような位置に設けられた小穴と、少なくとも該小穴の周辺に設けられた傾斜面とを備え、該小穴と上記ネジの軸部とが嵌合されるようにしたことを特徴とするフック装置がある。(特許文献1)。
【0005】
また、従来のスピーカーボックスには、六面直方体の箱枠体の一側面を球弧面に形成してこれを後面とし、後面に取り付け用の多数の小孔を穿設し、後面に対向する前面の内部にスピーカーを取り付け、後面の2個の小孔間の距離に合わせて2本の曲げ釘を壁面に植設し、この曲げ釘を小孔の任意の2個に着脱して方向転換するようにしたものがある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭59−4673号公報 (第1〜4図)
【特許文献2】実公昭49−430号公報 (第1〜6図)
【0007】
しかしながら、ネジを用いる簡易な従来技術のスピーカーシステムの壁面取付機構では、壁面に螺合させるネジの突出する長さが適切でないと、スピーカーキャビネットの背面と、壁面との間に隙間ができて見栄えが悪く、スピーカーシステムの固定が不安定になる場合があるという問題がある。また、直方体状のスピーカーキャビネットを備えるスピーカーシステムを、縦の長さよりも横の長さが長くなる場合がある横置きの状態で壁面に取り付ける際には、取付を安定させるために2以上の複数のネジを用いることがある。ただし、複数のネジを平行に配置し、かつ、ネジのそれぞれにおいて突出する長さを調整しなければ、スピーカーキャビネットを床面に対して平行に固定できない、また、背面と壁面との間に隙間を生じないようにできない、ことで見栄えと安定性が悪くなるという問題を生じる場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解決するためになされたものであり、その目的は、安定した固定が可能であり、見栄え良く壁面に背面を密着させて取り付けることが可能な壁面取付機構を備えるスピーカーキャビネットと、スピーカーとを備えたスピーカーシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のスピーカーキャビネットは、壁面に背面を密着させて取り付ける壁面取付機構を備えるスピーカーキャビネットであって、壁面取付機構が、壁面に螺合して突出するネジのネジ頭部が通過する円孔と、円孔に連通してネジの軸部が通過する長孔と、円孔および長孔を含む取付面と、を有し、長孔を規定する取付面の長孔縁部が、背面との離隔距離Dをスピーカーキャビネットの底面側よりも天面側で大きくするように傾斜する。
【0010】
また、本発明のスピーカーキャビネットは、壁面に背面を密着させて取り付ける壁面取付機構を備えるスピーカーキャビネットであって、壁面取付機構が、壁面に螺合して突出するネジのネジ頭部が通過する円孔と、円孔に連通してネジの軸部が通過する第1長孔および第2長孔と、円孔および第1長孔および第2長孔を含む取付面と、を有し、スピーカーキャビネットの縦配置に対応する第1長孔と、横配置に対応する第2長孔と、が略直交するように設けられるとともに、第1長孔を規定する取付面の第1長孔縁部と、第2長孔を規定する取付面の第2長孔縁部と、がそれぞれ、背面との離隔距離D1ないしD2を縦配置ないし横配置におけるスピーカーキャビネットの底面側よりも天面側で大きくするように傾斜する。
【0011】
また、本発明のスピーカーキャビネットは、第1長孔縁部および第2長孔縁部が、背面との離隔距離D0を第1長孔が延びる第1方向および第2長孔が延びる第2方向の中間方向である45度方向に沿って変化するように傾斜して背面から窪んだ凹部を形成する取付面に形成されている。
【0012】
好ましくは、本発明のスピーカーキャビネットは、壁面取付機構が、背面に複数設けられて、それぞれの壁面取付機構が備える長孔のいずれかが、互いに平行になるように配置されている。
【0013】
また、本発明のスピーカーシステムは、上記のスピーカーキャビネットと、スピーカーキャビネットに取り付けられるスピーカーと、を備える。
【0014】
以下、本発明の作用について説明する。
【0015】
本発明のスピーカーキャビネットは、壁面に背面を密着させて取り付ける壁面取付機構を備える。この壁面取付機構は、壁面に螺合して突出するネジのネジ頭部が通過する円孔と、円孔に連通してネジの軸部が係合する長孔と、円孔および長孔を含む取付面と、を有している。あるいは、壁面取付機構は、壁面に螺合して突出するネジのネジ頭部が通過する円孔と、円孔に連通してネジの軸部が通過する第1長孔および第2長孔と、円孔および第1長孔および第2長孔を含む取付面と、を有している。第1長孔はスピーカーキャビネットの縦配置に対応する長孔であり、第2長孔は横配置に対応する長孔であり、これらは略直交するように設けられる。
【0016】
好ましくは、スピーカーキャビネットは、壁面取付機構が、背面に複数設けられており、スピーカーキャビネットに取り付けられるスピーカーとともに、壁面に背面を密着させて取り付けるスピーカーシステムを構成する。したがって、本発明のスピーカーシステムは、壁面に螺合させるネジが、スピーカーキャビネットの背面に設けられる取付面の円孔および長孔に入り込むように設計されるので、特別なブラケット等を必要とせず、壁面に背面を密着させて取り付けることができる。
【0017】
具体的には、本発明の壁面取付機構では、長孔を規定する取付面の長孔縁部が、背面との離隔距離Dをスピーカーキャビネットの底面側よりも天面側で大きくするように傾斜する。または、第1長孔を規定する取付面の第1長孔縁部と、第2長孔を規定する取付面の第2長孔縁部と、がそれぞれ、背面との離隔距離D1ないしD2を、縦配置ないし横配置におけるスピーカーキャビネットの底面側よりも天面側で大きくするように傾斜する。あるいは、第1長孔縁部および第2長孔縁部は、背面との離隔距離D0を第1長孔が延びる第1方向および第2長孔が延びる第2方向の中間方向である約45度方向に沿って変化するように傾斜して背面から窪んだ凹部を形成する取付面に形成されていてもよい。
【0018】
すなわち、本発明の壁面取付機構では、円孔に連通してネジの軸部が通過する長孔が、スピーカーキャビネットの底面側よりも天面側において背面との離隔距離が大きくするように傾斜しているので、壁面に突出するように螺合するネジを用いてスピーカーキャビネットの背面を壁面に密着させて取り付ける場合に、ネジの飛び出し寸法が一定の範囲内であれば、ネジ頭部および軸部が傾斜した長孔縁部のいずれかの場所に係合し、ネジの飛び出し寸法のバラツキを吸収することができる。スピーカーシステムを垂直な壁面に設置する場合には、スピーカーキャビネットには重力が働くので、ネジの頭部及び軸部は、背面と壁面との間に隙間ができないように密着した位置まで相対的に移動して、固定される。その結果、見栄えがよく、かつ、安定してスピーカーシステムを壁面に固定できる。
【0019】
壁面取付機構が、スピーカーキャビネットの背面に複数設けられている場合には、それぞれの壁面取付機構が備える長孔のいずれかが、互いに平行になるように配置されているのが好ましい。特に、直方体状のスピーカーキャビネットを備えるスピーカーシステムを、横置きの状態で壁面に取り付ける際には、取り付けを安定させるために2以上の複数のネジを用いることがあり、これらのネジを床面に対して水平にしなければ、スピーカーシステムが傾いた状態で固定されるおそれがある。ただし、本発明の壁面取付機構を備えるスピーカーシステムの場合には、2つのネジが床面に対して水平な関係になっていなくても、それぞれネジの突出する長さを調整すれば、スピーカーキャビネットを床面に対して平行に固定することができ、見栄えと安定性を良くすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の壁面取付機構を備えるスピーカーキャビネットは、安定した固定が可能であり、見栄え良く壁面に背面を密着させて取り付けることが可能なスピーカーシステムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のスピーカーシステムについて説明する図である。(実施例1)
【図2】本発明のスピーカーキャビネットの壁面取付機構について説明する図である。(実施例1)
【図3】比較例のスピーカーキャビネットの壁面取付機構について説明する図である。(比較例1)
【図4】本発明の他のスピーカーキャビネットについて説明する図である。(実施例2)
【図5】本発明の他のスピーカーキャビネットについて説明する図である。(実施例3)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施形態によるスピーカーキャビネット及びこれを用いたスピーカーシステムについて説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明の好ましい実施形態によるスピーカーシステム1について説明する図である。具体的には、図1(a)は、壁面4に取り付けられるスピーカーシステム1を正面側から見た斜視図であり、図1(b)は、スピーカーシステム1を背面側から見た斜視図である。なお、図1において、説明に不要なスピーカーシステム1の構成の一部は、省略している。
【0024】
本実施例のスピーカーシステム1は、スピーカーユニット2と、スピーカーユニット2を取り付けるキャビネット3と、から構成される。本実施例では、スピーカーユニット2は、キャビネット3の前面3fに取り付けられ、音声信号電流が供給されるとスピーカー振動板が前後方向に振動することにより音波を放射する。略直方体状のキャビネット3は、スピーカー振動板の前後空間を分離させるとともに、その内部に音響容量を規定する。例えば、樹脂で形成されるキャビネット3は、前面3fを含む前部と、背面3rを含む後部とを連結して構成される。
【0025】
また、キャビネット3は、その平面状の背面3rを垂直で平面状の壁面4に、特別なブラケット等を必要とせず、(図1では図示しない)安価なネジ5を使って取り付けることができるように、背面3rに壁面取付機構を有している。本実施例のキャビネット3の壁面取付機構は、背面3rから窪んだ凹部を形成する取付面6が、背面3rの中央よりも上部側に設けられており、直方体形状のスピーカーシステム1が縦長になる縦配置の状態で、壁面4にキャビネット3の背面3rを密着させて取り付けることができる。
【0026】
図2は、スピーカーシステム1を構成する本実施例のキャビネット3の壁面取付機構を説明する断面図である。図2(a)および図2(b)は、それぞれ壁面4に対してほぼ直角にねじ込まれるネジ5長さが異なる場合の説明図である。キャビネット3が備える壁面取付機構は、壁面4に螺合して突出するネジ5のネジ頭部5aが通過する円孔7と、円孔7に連通してネジ5の軸部5bが通過する長孔8と、円孔7および長孔8を含む取付面6と、を有している。長孔8は、縦配置の状態のスピーカーシステム1に対応して、円孔7から縦配置における上側方向に伸びるように取付面6に形成されている。そして、長孔8を規定する取付面6の長孔縁部が、背面3rとの離隔距離Dをスピーカーキャビネット1の底面側よりも天面側で大きくなるように傾斜している。
【0027】
したがって、図2(a)の場合と図2(b)との場合にそれぞれ示すように、ネジ5のネジ頭部5aが円孔7を通じてキャビネット3の内部側に入り込み、ネジ5のネジ頭部5aおよび軸部5bが、長孔8を規定する取付面6の長孔縁部のいずれかの場所に係合するので、ネジ5の飛び出し寸法のバラツキを吸収することができる。壁面取付機構では、円孔7に連通してネジ5の軸部5bが通過する長孔8が、キャビネット3の底面側よりも天面側において背面との離隔距離Dが大きくするように傾斜しているので、壁面4に突出するように螺合するネジ5を用いてキャビネット3の背面3rを壁面4に密着させて取り付ける場合に、ネジ5の飛び出し寸法が一定の範囲内であれば、ネジ頭部5aおよび軸部5bが傾斜した長孔縁部のいずれかの場所に係合し、ネジ5の飛び出し寸法のバラツキを吸収することができる。スピーカーシステム1を垂直な壁面に設置する場合には、キャビネット3には重力が働くので、ネジ5の頭部5a及び軸部5bは、背面3rと壁面4との間に隙間ができないように密着した位置まで相対的に移動して、固定される。その結果、本実施例の壁面取付機構を備えるスピーカーシステム1は、見栄えがよく、かつ、安定して壁面4に固定できる。
【0028】
図3は、キャビネット3に代えてスピーカーシステム1を構成する比較例のキャビネット30の壁面取付機構を説明する断面図である。図3(a)および図3(b)は、それぞれ壁面4に対してほぼ直角にねじ込まれるネジ5長さが異なる場合の説明図である。比較例のキャビネット30が備える壁面取付機構は、壁面4に螺合して突出するネジ5のネジ頭部5aが通過する円孔37と、円孔37に連通してネジ5の軸部5bが通過する長孔38と、を有している点で先の実施例のキャビネット3に共通する。ただし、比較例のキャビネット30では、円孔37および長孔38が背面30rに設けられており、先の実施例のような背面3rから窪んだ凹部を形成し、かつ、傾斜するように設けられる取付面を有していない。長孔38は、縦配置の状態のスピーカーシステム1に対応して、円孔37から縦配置における上側方向に伸びるように背面30rに形成されている。
【0029】
したがって、壁面4に突出するように螺合するネジ5の長さが、図3(a)の場合に示すように適切に調整されている場合には、ネジ5のネジ頭部5aが円孔37を通じてキャビネット30の内部側に入り込み、ネジ5の軸部5bが、長孔38を規定する長孔縁部の端部に係合するので、比較例のキャビネット30は、壁面4に背面30rを密着させて取り付けることができる。ただし、壁面4に突出するように螺合するネジ5の長さが、図3(b)の場合に示すように適切な状態よりも長く調整されている場合には、従来の壁面取付機構では、ネジ5の飛び出し寸法のバラツキを吸収する機能を有しないので、壁面4に取り付けられるスピーカーシステム1は、図3(b)の場合に示すように見栄えが悪くなり、かつ、不安定になる。
【0030】
なお、本実施例のキャビネット3の壁面取付機構では、円孔7および長孔8が、傾斜した厚みがほぼ一定の取付面6に鍵穴形状の貫通孔を設けることで形成されている。このように、取付面6が、背面3rとの離隔距離Dをスピーカーキャビネットの底面側よりも天面側で大きくするように傾斜するようになっている場合には、長孔8を規定する取付面の長孔縁部の厚みは、一定であればよい。本実施例の場合には、取付面6の長孔縁部と背面3rとの離隔距離Dは、背面3rと取付面6との段差と、取付面6の厚みを含む寸法である。
【0031】
一方、例えば、壁面取付機構を構成する取付面6が、キャビネット3の背面3rとほぼ平行な面として形成されていても、長孔8を規定する取付面6の長孔縁部に長孔の形状に対応したキャビネット3の内側に凸状となるようなリブを設け、その厚みが長孔8に沿って徐々に変化するようになっていても良い。つまり、取付面6の長孔縁部と背面3rとの離隔距離Dは、背面3rと取付面6との段差がほとんど無い場合であっても、取付面6の厚み、あるいは、長孔8を規定する長孔縁部に設けられるリブの高さを含む寸法であればよい。長孔8を規定する取付面6の長孔縁部が、背面3rとの離隔距離Dをスピーカーキャビネット3の底面側よりも天面側で大きくするように傾斜していれば、実施例の場合のように、ネジ頭部5aおよび軸部5bが傾斜した長孔縁部のいずれかの場所に係合し、ネジ5の飛び出し寸法のバラツキを吸収することができ、その結果、本実施例の壁面取付機構を備えるスピーカーシステム1を、見栄えがよく、かつ、安定して壁面4に固定できる。
【実施例2】
【0032】
図4は、本発明の他の好ましい実施形態によるスピーカーシステム1を構成するキャビネット13について説明する図である。具体的には、図4(a)は、キャビネット13を正面側から見た斜視図であり、図4(b)は、キャビネット13を背面側から見た斜視図である。なお、図4において、説明に不要なキャビネット13の構成の一部は、省略している。本実施例のキャビネット13は、先の実施例のキャビネット3に代えて、スピーカーシステム1を構成する。したがって、先の実施例の場合と共通する部品および部材には共通する番号を付して、説明を省略する。
【0033】
本実施例のキャビネット13は、その平面状の背面13rを垂直で平面状の壁面4に、特別なブラケット等を必要とせず、(図4では図示しない)安価なネジ5を使って取り付けることができるように、背面13rに壁面取付機構を有している。本実施例のキャビネット13の壁面取付機構では、背面13rから窪んだ凹部を形成する取付面16が、背面13rのほぼ中央に設けられており、直方体形状のスピーカーシステム1が縦長になる縦配置の状態で、あるいは、縦配置から約90度回転して横長になる横配置の状態のいずれかで、壁面4にキャビネット13の背面13rを密着させて取り付けることができる。
【0034】
キャビネット13が備える壁面取付機構は、壁面4に螺合して突出するネジ5のネジ頭部5aが通過する円孔17と、円孔17に連通してネジ5の軸部5bが通過する第1長孔18および第2長孔19と、円孔17および第1長孔18および第2長孔19を含む取付面16と、を有する。キャビネット3の縦配置に対応して図示するx軸方向に設けられる第1長孔17と、横配置に対応して図示するy軸方向に設けられる第2長孔18と、は、円孔17で略直交するように傾斜した取付面16に貫通孔として設けられている。
【0035】
また、取付面16は、第1長孔17と第2長孔18とがそれぞれ延びる方向の中間方向である図示するz軸方向に沿って、背面13rとの離隔距離D0をスピーカーキャビネット1の底面側よりも天面側で大きくなるように傾斜している。つまり、取付面16の対角線の一方にほぼ一致する45度方向に沿って、取付面16が背面13rに対して傾斜している。したがって、第1長孔18を規定する取付面16の第1長孔縁部と、第2長孔19を規定する取付面の第2長孔縁部と、がそれぞれ、背面13との離隔距離D1ないしD2を縦配置ないし横配置におけるキャビネット3の底面側よりも天面側で大きくするように傾斜する。なお、取付面16が規定する離隔距離D0、D1、および、D2は、先の実施例における離隔距離Dに対応する寸法である。
【0036】
したがって、先の実施例の場合と同様に、直方体形状のスピーカーシステム1を縦配置の状態で壁面4に取り付ける場合には、ネジ5のネジ頭部5aが円孔17を通じてキャビネット13の内部側に入り込み、ネジ5のネジ頭部5aおよび軸部5bが、縦位置に対応する第1長孔18を規定する取付面16の長孔縁部のいずれかの場所に係合するので、ネジ5の飛び出し寸法のバラツキを吸収したうえで、縦配置にしてスピーカーシステム1を固定することができる。また、直方体形状のスピーカーシステム1を横配置の状態で壁面4に取り付ける場合には、ネジ5のネジ頭部5aが円孔17を通じてキャビネット13の内部側に入り込み、ネジ5のネジ頭部5aおよび軸部5bが、横位置に対応する第2長孔19を規定する取付面16の長孔縁部のいずれかの場所に係合するので、ネジ5の飛び出し寸法のバラツキを吸収したうえで、横配置にしてスピーカーシステム1を固定することができる。
【0037】
スピーカーシステム1を垂直な壁面に設置する場合には、キャビネット13には重力が働くので、ネジ5の頭部5a及び軸部5bは、背面13rと壁面4との間に隙間ができないように密着した位置まで相対的に移動して、固定される。この壁面取付機構では、円孔17に連通してネジ5の軸部5bが通過する第1長孔18ないし第2長孔19が設けられる取付面16が、キャビネット13の縦配置または横配置のいずれの場合であっても、底面側よりも天面側において背面13rとの離隔距離D0が大きくなるように傾斜しているので、壁面4に突出するように螺合するネジ5を用いてキャビネット13の背面13rを壁面4に密着させて取り付ける場合に、ネジ5の飛び出し寸法が一定の範囲内であれば、ネジ頭部5aおよび軸部5bが傾斜した第1長孔18ないし第2長孔19の長孔縁部のいずれかの場所に係合し、ネジ5の飛び出し寸法のバラツキを吸収することができる。その結果、本実施例の壁面取付機構を備えるスピーカーシステム1は、見栄えがよく、かつ、安定して壁面4に固定できる。
【0038】
なお、本実施例のキャビネット13の壁面取付機構では、円孔7および第1長孔18の長孔縁部および第2長孔19の長孔縁部が、図示するz方向に沿って背面13rとの離隔距離D0を変化するように傾斜した厚みがほぼ一定の取付面16に鍵穴形状の貫通孔を設けることで形成されている。このように、取付面16が、背面13rとの離隔距離D0を、縦配置の場合でも横配置の場合でもキャビネット13の底面側よりも天面側で大きくするように傾斜するようになっている場合には、第1長孔18の長孔縁部および第2長孔19の長孔縁部を規定する取付面の長孔縁部の厚みは、一定であればよい。
【0039】
もちろん、第1長孔18の長孔縁部および第2長孔19の長孔縁部が、それぞれの長孔を規定する取付面16の長孔縁部に長孔の形状に対応したキャビネット13の内側に凸状となるようなリブを設け、その厚みが長孔に沿って徐々に変化するようになっていても良い。ネジ頭部5aおよび軸部5bが傾斜した長孔縁部のいずれかの場所に係合し、ネジ5の飛び出し寸法のバラツキを吸収することができ、その結果、本実施例の壁面取付機構を備えるスピーカーシステム1を、見栄えがよく、かつ、安定して壁面4に固定できる。
【実施例3】
【0040】
図5は、本発明の他の好ましい実施形態による(図示しない)スピーカーシステムを構成するキャビネット23について説明する斜視図である。なお、図5において、説明に不要なキャビネット23の構成の一部は、省略している。本実施例の略直方体状のキャビネット23は、先の実施例のキャビネット3のようにスピーカーシステムを構成する。したがって、先の実施例の場合と共通する部品および部材には共通する番号を付して、説明を省略する。
【0041】
本実施例のキャビネット23は、その平面状の背面23rを垂直で平面状の壁面4に、特別なブラケット等を必要とせず、安価な2つのネジ5を使って取り付けることができるように、背面23rに2つの壁面取付機構21および22を有している。本実施例のキャビネット23は、図5に図示するような横長の直方体形状のまま壁面4に取り付ける横配置の状態と、縦長に壁面4に取り付ける縦配置の状態と、が想定されるスピーカーシステムを構成する。
【0042】
本実施例のキャビネット23の壁面取付機構21は、先の実施例1のキャビネット3の壁面取付機構とほぼ同じ構成を有し、壁面4に螺合して突出するネジ5のネジ頭部5aが通過する円孔7と、円孔7に連通してネジ5の軸部5bが通過する長孔8と、円孔7および長孔8を含む取付面6と、を有している。また、本実施例のキャビネット23の壁面取付機構22は、先の実施例2のキャビネット13の壁面取付機構とほぼ同じ構成を有し、壁面4に螺合して突出するネジ5のネジ頭部5aが通過する円孔17と、円孔17に連通してネジ5の軸部5bが通過する第1長孔18および第2長孔19と、円孔17および第1長孔18および第2長孔19を含む取付面16と、を有する。そして、これらの2つの壁面取付機構21および22は、一方の壁面取付機構21が備える長孔8と、他方の壁面取付機構22が備える第1長孔18と、が、互いに平行になるように配置されている。
【0043】
つまり、壁面取付機構21および22は、背面23rから窪んだ凹部を形成する取付面6および16が、横配置された背面23rの左右に設けられており、直方体形状のスピーカーシステムが横長になる横配置の状態で、2つのネジ5を使って壁面4にキャビネット23の背面23rを密着させて取り付けることができる。また、一方の壁面取付機構22は、先の実施例で説明するように、第1長孔18に対して略直交するように設けられる第2長孔19を有しているので、キャビネット23を備える直方体形状のスピーカーシステムが縦長になる縦配置の状態であっても、壁面4にキャビネット23の背面23rを密着させて取り付けることができる。
【0044】
図5に示すように、壁面4にキャビネット23の背面23rを密着させて取り付ける場合には、先の実施例の場合と同様に、一方の壁面取付機構21では、ネジ5のネジ頭部5aが円孔7を通じてキャビネット23の内部側に入り込み、ネジ5のネジ頭部5aおよび軸部5bが、取付面6の長孔縁部のいずれかの場所に係合する。また、他方の壁面取付機構22では、ネジ5のネジ頭部5aが円孔17を通じてキャビネット23の内部側に入り込み、ネジ5のネジ頭部5aおよび軸部5bが、取付面16の長孔縁部のいずれかの場所に係合する。本実施例の場合には、2つのネジ5は、点線で示すように床面に対して水平にしていなくても、それぞれのネジ5の突出する長さを調整すれば、キャビネット23を床面に対して平行に固定することができ、2つのネジ5を水平にするように打ち直すことなく、見栄えと安定性を良くすることができる。
【0045】
なお、本発明の壁面取付機構を備えるスピーカーキャビネットは、上記の実施例に限られない。上記の実施例の説明では省略しているが、スピーカーキャビネットは、外部の空気と、キャビネット内部の音響容量を規定する空気と、が、壁面取付機構が有する円孔および長孔を介して連通することがないようにする隔離壁を設けるのが好ましい。
【0046】
また、壁面取付機構を備えるスピーカーキャビネットは、略直方体形状に限定されるものではなく、縦方向の配置と、横方向の配置が可能で、壁面4に密着させて取り付ける背面を有しているものであればよい。もちろん、壁面取付機構は、背面に設けられている場合に限定されず、略直方体形状である場合には、天面、底面、側面のいずれかの部分に設けられていればよい。背面、天面、底面、側面は、平面状に限らず、凹凸を有する曲面であってもよい。壁面取付機構を備えるスピーカーシステムは、見栄えがよく、かつ、安定して壁面4に固定できる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の壁面取付機構は、スピーカーシステム以外にも、フック装置を備える壁掛け時計、あるいは、他にも絵画の額等の場合にも有用である。安定した固定が可能であり、見栄え良く壁面に背面を密着させて取り付けることが可能になる。
【符号の説明】
【0048】
1 スピーカーシステム
2 スピーカーユニット
3、13、23 キャビネット
4 壁面
5 ネジ
6、16 取付面
7、17 円孔
8 長孔
18 第1長孔
19 第2長孔
21、22 壁面取付機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面に背面を密着させて取り付ける壁面取付機構を備えるスピーカーキャビネットであって、
該壁面取付機構が、該壁面に螺合して突出するネジのネジ頭部が通過する円孔と、該円孔に連通して該ネジの軸部が通過する長孔と、該円孔および該長孔を含む取付面と、を有し、
該長孔を規定する該取付面の長孔縁部が、該背面との離隔距離Dを該スピーカーキャビネットの底面側よりも天面側で大きくするように傾斜する、
スピーカーキャビネット。
【請求項2】
壁面に背面を密着させて取り付ける壁面取付機構を備えるスピーカーキャビネットであって、
該壁面取付機構が、該壁面に螺合して突出するネジのネジ頭部が通過する円孔と、該円孔に連通して該ネジの軸部が通過する第1長孔および第2長孔と、該円孔および該第1長孔および該第2長孔を含む取付面と、を有し、
該スピーカーキャビネットの縦配置に対応する該第1長孔と、横配置に対応する該第2長孔と、が略直交するように設けられるとともに、
該第1長孔を規定する該取付面の第1長孔縁部と、該第2長孔を規定する該取付面の第2長孔縁部と、がそれぞれ、該背面との離隔距離D1ないしD2を該縦配置ないし該横配置における該スピーカーキャビネットの底面側よりも天面側で大きくするように傾斜する、
スピーカーキャビネット。
【請求項3】
前記第1長孔縁部および前記第2長孔縁部が、前記背面との離隔距離D0を前記第1長孔が延びる第1方向および前記第2長孔が延びる第2方向の中間方向に沿って変化するように傾斜して該背面から窪んだ凹部を形成する前記取付面に形成されている、
請求項2に記載のスピーカーキャビネット。
【請求項4】
前記壁面取付機構が、前記背面に複数設けられて、それぞれの該壁面取付機構が備える前記長孔のいずれかが、互いに平行になるように配置されている、
請求項1から3のいずれかに記載のスピーカーキャビネット。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のスピーカーキャビネットと、該スピーカーキャビネットに取り付けられるスピーカーと、を備える、スピーカーシステム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−245711(P2010−245711A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90607(P2009−90607)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000000273)オンキヨー株式会社 (502)
【Fターム(参考)】