説明

スピーカー振動板およびこれを用いたスピーカー

【課題】 分割振動が発生しにくくて平坦な周波数特性が得られる全面駆動の平面薄型のスピーカーを実現するとともに、再生能率が高くて動作不良が少なく、かつ、製造上の作業効率が良く、製造コストを安価に抑制したスピーカー振動板およびこれを用いたスピーカーを製造する。
【解決手段】 スピーカー振動板は、合成樹脂発泡体の厚みをほぼ一定にして成形する平面振動板であって、前面側に隆起する格子状凸面、および、背面側に窪む格子状凹面を形成し、背面側に複数の矩形コイルを含むボイスコイル組立体を連結する格子状連結部と、格子状連結部の内側に規定される複数の矩形振動面部と、格子状連結部の外側に規定される外周振動面部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のマグネットを含む磁気回路と、複数の矩形コイルを含むボイスコイル組立体と、このボイスコイル組立体が連結するスピーカー振動板と、を備えるスピーカー、ならびに、これを構成するスピーカー振動板に関し、特に、全面駆動の平面薄型スピーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
音声信号を音声に変換する動電型スピーカーに於いて、磁気回路を含むその全高を低く抑えるために、スピーカー振動板に平面型振動板を採用するスピーカーがある。平面型振動板は、コーン型振動板に比較してその全高が低くなるものの、分割振動せずに一体に振動するには剛性が不足しやすい。そこで、平面型振動板に固着するボビンが複数のボイスコイルを備え、複数のボイスコイルで平面型振動板を駆動することで、分割振動を抑制しようとするスピーカーがある。従来には、全高が薄い平面薄型スピーカーとして、複数のコイルを備えた平面振動板と、各コイルに対応した複数のマグネットを使用した磁気回路とを備えるスピーカーが使用されることがある。
【0003】
例えば、薄型の構造を持ち、駆動点を多くして全面駆動に近づけ、低域から高域にわたってピストン運動する駆動方式のスピーカーがある(特許文献1)。このスピーカーは、二本の平行な磁気ギャップを少なくとも一対有する複数個の磁気回路単体をそのギャップの方向を全て一方向に平行に合わせて碁盤状に配置してなる磁気回路群を有し、その磁気回路単体に各々一個の矩形のボイスコイルを挿入して平面振動板を駆動させるものである。
【0004】
また、ボイスコイルを角形とするとともに、この角形ボイスコイルを複数個、その縦および横の辺を接合して集合体とし、この集合体を平板振動板に取り付け、このボイスコイル集合体を磁気回路で駆動してなる平板型スピーカーがある(特許文献2)。特許文献2の第3図に示すように、このスピーカーでは、一対の帯状ヨークの一長辺部間にマグネットを挟んで構成した磁気回路を複数備え、この磁気回路の帯状ヨークの他方側の長辺部間に、各ボイスコイルの各一辺部を挿入するように多数個配置している。なお、特許文献2は、ボイスコイル集合体が、枠体部にコイルを巻回してボイスコイルを角形に構成されており、その後にこれらを複数個、その縦および横の辺を接合して集合体にしている、と記載している。
【0005】
ただし、特許文献2の第2図に示されている限りにおいて、従来のこのボイスコイル集合体では、それぞれのボイスコイルはボビンに相当する枠部の外側に巻回されているので、隣り合うボイスコイル同士が接合したとしても、ボイスコイル集合体を構成する隣り合うボビン同士は、外側に巻回されたボイスコイルの線径による厚みの分だけ離間してしまい、密着させることができない。ボビンの剛性が不足する場合には、ボビンが振動して分割振動する、または、隣り合うボビン同士が接触し異音を生じるという問題があり、さらにこれを解決するためには、隣り合うボビン同士を連結させる接着剤等の付加的な重量物が必要になる。その結果、スピーカー振動板の重量が重くなり、スピーカーの再生能率が低下するという問題がある。
【0006】
また、プラスチックの薄板を真空成形で形成したボビンを備え、ボビンのスリットにコイルを挿入する平面スピーカーがある(特許文献3)。これらは、コイルを磁気回路の磁気空隙という最も磁束密度の高い場所に配置するので、平面スピーカーの能率を高めることができる。特許文献3の第9図で示す実施例3には、ボビンを2つに分ける構成も開示されている。しかしながら、全高が薄い平面薄型スピーカーにおいて、複数のコイルを磁気空隙に配置するボビンを形成するにあたって、良好な音声再生のためには、ボビンを軽量で、かつ、剛性を有する構成とする必要がある。
【0007】
また、従来の合成樹脂発泡体で形成する平面状のスピーカー振動板としては、発泡プラスチック等の材料からなり周辺から中心部付近に至るまでの部分が実質的に平面をなす振動板の周辺部を固定支持することによって屈曲振動を利用して発音させる形式の平面形スピーカーにおいて、ボイスコイルを取り付ける中央部付近をその中心に近づくにしたがって傾斜角度が大きくなるようなコーン形状にし、かつこのコーン形状の部分のうちボイスコイルの近傍においては中心部に向かうにしたがって厚さが徐々に薄くなるようにしたものがある(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭57−99898号公報
【特許文献2】実開昭55−88590号公報
【特許文献3】特開昭63−299500号公報
【特許文献4】実開昭50−22680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解決するためになされたものであり、その目的は、分割振動が発生しにくくて平坦な周波数特性が得られる全面駆動の平面薄型のスピーカーを実現するとともに、再生能率が高くて動作不良が少なく、かつ、製造上の作業効率が良く、製造コストを安価に抑制したスピーカー振動板およびこれを用いたスピーカーを製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のスピーカー振動板は、合成樹脂発泡体の厚みをほぼ一定にして成形する平面振動板であって、前面側に隆起する格子状凸面、および、背面側に窪む格子状凹面を形成し、背面側に複数の矩形コイルを含むボイスコイル組立体を連結する格子状連結部と、格子状連結部の内側に規定される複数の矩形振動面部と、格子状連結部の外側に規定される外周振動面部と、を備える。
【0011】
好ましくは、本発明のスピーカー振動板は、複数の矩形振動面部が、その前面側に凸状、または、凹状の断面形状を有する。
【0012】
また、本発明のスピーカーは、上記のスピーカー振動板と、格子状連結部に連結するボイスコイル組立体と、外周振動面部に連結するエッジと、ボイスコイル組立体の矩形コイルが配置される磁気空隙を有する磁気回路と、エッジの外周端ならびに磁気回路が連結するフレームと、を備える。
【0013】
好ましくは、本発明のスピーカーは、ボイスコイル組立体が、断面形状が矩形状に形成される矩形ボビンおよび矩形ボビンに固着される矩形コイルを含む矩形ボイスコイルと、複数の矩形ボイスコイルを格子状に連結する矩形鉢巻部材と、を備え、磁気回路が、矩形平板状のプレートをそれぞれ冠した複数のマグネットと、マグネットと固着するヨークと、を備え、プレートとヨークの間に矩形の磁気空隙を形成し、矩形の磁気空隙の角部にボイスコイル組立体の矩形鉢巻部材が配置される挿通溝を有する。
【0014】
また、好ましくは、本発明のスピーカーは、ボイスコイル組立体の矩形コイルが、矩形ボビンの外壁面に固定される外巻矩形コイルである、あるいは、矩形ボビンの内壁面に固定される内巻矩形コイルである。
【0015】
また、本発明のスピーカーは、ボイスコイル組立体の格子状に連結された複数の矩形コイルのうちで、ボイスコイル組立体の端部に位置する矩形コイルの直流抵抗値が、他の矩形コイルの直流抵抗値と異なる。
【0016】
また、好ましくは、本発明のスピーカーは、ボイスコイル組立体の格子状に連結された複数の矩形コイルのうちで、ボイスコイル組立体の端部に位置する矩形コイルに対応する磁気回路の磁気空隙での磁束密度が、他の矩形コイルに対応する磁気回路の磁気空隙での磁束密度よりも、小さくされている。
【0017】
以下、本発明の作用について説明する。
【0018】
本発明のスピーカー振動板は、合成樹脂発泡体の厚みをほぼ一定にして成形する平面振動板であって、背面側に複数の矩形コイルを含むボイスコイル組立体を連結する格子状連結部を備える。また、このボイスコイル組立体を用いるスピーカーは、全面駆動の平面薄型のスピーカーであって、ボイスコイル組立体の矩形コイルが配置される磁気空隙を有する磁気回路と、ボイスコイル組立体に固着されるスピーカー振動板と、スピーカー振動板の外周端を振動可能に支持するエッジと、エッジの外周端ならびに磁気回路が連結するフレームと、を備える。したがって、ボイスコイル組立体は、スピーカー振動板の背面側のほぼ全体を覆うように取り付けられて、全面駆動を実現する。
【0019】
このスピーカー振動板は、合成樹脂発泡体の厚みをほぼ一定にして成形する平面振動板であるので、背面側にボイスコイル組立体を連結する格子状連結部を有することにより、前面側に隆起する格子状凸面、および、背面側に窪む格子状凹面を形成する。格子状連結部は、スピーカー振動板の全体の剛性を高めるリブとして作用するとともに、格子状連結部の内側には複数の矩形振動面部を、格子状連結部の外側には外周振動面部を、規定する。その結果、スピーカー振動板の放射面積としては、格子状連結部の内側に規定される複数の矩形振動面部が最も広い面積を占めるので、複数の矩形振動面部のそれぞれが、その前面側に凸状、または、凹状の断面形状を有して、十分な剛性を有しているのが好ましい。
【0020】
その結果、本発明のスピーカーでは、矩形コイルの数を従来よりも減らしたボイスコイル組立体を使用しても、剛性が向上したスピーカー振動板を全面駆動できる。なお、ボイスコイル組立体は、矩形ボビンの外壁面に固着する矩形鉢巻部材および補強矩形ボビンを用いて、複数の矩形ボイスコイルを格子状に連結するものであればよい。矩形鉢巻部材、または、補強矩形ボビンは、矩形ボビンと同一の材料を使うこともできるので、ボイスコイル組立体の製造コストを安価に抑制できる。また、ボイスコイル組立体の重量を軽減して、スピーカーの再生能率が高く、分割振動が発生しにくくて平坦な周波数特性が得られる全面駆動の平面薄型のスピーカーを実現することができる。
【0021】
なお、本発明のスピーカーでは、ボイスコイル組立体の矩形コイルが配置される磁気空隙を有する磁気回路が、矩形平板状のプレートをそれぞれ冠した複数のマグネットと、マグネットと固着するヨークと、を備え、プレートとヨークの間に矩形の磁気空隙を形成する。そして、上記のボイスコイル組立体に対応して、磁気回路のヨークが、矩形の磁気空隙の角部にボイスコイル組立体の矩形鉢巻部材が配置される挿通溝を有する。したがって、ボイスコイル組立体が磁気回路に接触することはなく、動作不良を少なくして薄型化を図ることができる。
【0022】
また、ボイスコイル組立体が備える矩形コイルは、矩形ボビンの外壁面に固定される外巻矩形コイルであっても、矩形ボビンの内壁面に固定される内巻矩形コイルであってもよい。外巻矩形コイルの場合には、矩形ボイスコイルの製造が容易になるので、ボイスコイル組立体の製造コストを安価に抑制することができる。また、内巻矩形コイルの場合には、内巻矩形コイルが固着される矩形ボビンと、矩形鉢巻部材または補強矩形ボビンと、の固着面の面積を外巻矩形コイルの場合に比べて大きくできるので、ボイスコイル組立体の強度をさらに大きくすることができる。
【0023】
また、好ましくは、ボイスコイル組立体の格子状に連結された複数の矩形コイルのうちで、ボイスコイル組立体の端部に位置する矩形コイルの直流抵抗値を、他の矩形コイルの直流抵抗値と異なりように、例えば、前者よりも後者を小さくする、あるいは、ボイスコイル組立体の端部に位置する矩形コイルに対応する磁気回路の磁気空隙での磁束密度を、他の矩形コイルに対応する磁気回路の磁気空隙での磁束密度よりも、小さくすればよい。本発明のスピーカーでは、ボイスコイル組立体の格子状に連結された複数の矩形コイルのうちで、ボイスコイル組立体の端部に位置する矩形コイルの駆動力を、他の矩形コイルの駆動力に対して約5%〜約20%程度低下させると、スピーカー振動板の端部での分割振動を発生する振動モードを抑制することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のスピーカー振動板を備えたスピーカーは、分割振動が発生しにくくて平坦な周波数特性が得られる平面薄型のスピーカーを実現することができ、また、再生能率が高くて動作不良が少なく、かつ、製造上の作業効率が良く、製造コストを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のスピーカーを説明する平面図及び断面図である。(実施例1)
【図2】本発明のスピーカーを説明する展開図である。(実施例1)
【図3】本発明のスピーカーの磁気回路を説明する展開図である。(実施例1)
【図4】本発明のボイスコイル組立体を説明する展開図である。(実施例1)
【図5】本発明のスピーカー振動板を説明する斜視図である。(実施例1)
【図6】本発明の他のボイスコイル組立体を説明する展開図である。(実施例2)
【図7】本発明のスピーカーの変位特性を説明するグラフである。(実施例1、2)
【図8】本発明の他のボイスコイル組立体を説明する展開図である。(実施例3)
【図9】本発明の他のスピーカー振動板を説明する斜視図である。(実施例4)
【図10】本発明のスピーカーの変位特性を説明するグラフである。(実施例1、5)
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施形態によるスピーカー振動板、および、これを用いたスピーカーについて説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【実施例1】
【0027】
図1および図2は、本発明の好ましい実施形態によるスピーカー1を説明する図である。具体的には、図1(a)は、スピーカー1の正面図であり、図1(b)は、A−A’断面の断面図であり、図1(c)は、B−B’断面の断面図である。また、図2は、スピーカー1の構成を説明する展開図であり、説明に不要な一部の部品を除いた斜視図である。スピーカー1は、長方形の平面振動板2と、ボイスコイル組立体10と、フレーム4と、マグネットを含む複数の磁気回路5と、を備え、全面駆動の平面薄型スピーカーを実現している。
【0028】
本実施例の平面振動板2は、外形寸法が約115mm×30mmであって、発泡PP(ポリプロピレン)を材料として厚みを1.5mmに成形した平面状のスピーカー振動板であり、その外周端部をエッジ3で振動可能に自由支持されている。断面がロール状のエッジ3の外周端部は、3つの磁気回路5を連結するフレーム4に固定される。フレーム4は、磁気回路5の背面側から覆うように形成された略凹字形の断面を有する部材であり、鉄等の磁性材料であっても、アルミ、樹脂、等の非磁性材料であっても良い。また、平面振動板2の背面側である磁気回路5の側には、ボイスコイル組立体10が連結する。ボイスコイル組立体10は、2つのダンパー9により、振動可能に自由支持されている。
【0029】
図3は、本実施例の磁気回路5を説明する展開図である。磁気回路5は、プレート6と、マグネット7と、ヨーク8と、が接着剤で固着されて構成されている。プレート6およびヨーク8は、軟鉄、パーマロイ、等の磁性材料で形成されている。プレート6は、厚みが約2mmの略直方体状の部材である。また、マグネット7は、それぞれ略直方体状の磁石であって、ネオジウム等の希土類を含む磁石材料で形成されている。また、ヨーク8は、A−A’断面が略U字状であって、略矩形平面状の底部8aおよびこの底部8aから4方向に延設される側壁部8bを備え、側壁部8b同士の間には、挿通溝8cが形成されている。
【0030】
磁気回路5は、矩形平板状のプレート6を冠したマグネット7が固着するヨーク8を備え、プレート6とヨーク8の側壁部8bとの間に矩形の磁気空隙を形成する。矩形の磁気空隙には、高い磁束密度を示す磁界が形成される。そして、磁気回路5は、後述するボイスコイル組立体10の矩形鉢巻部材14に対応して、矩形の磁気空隙の角部に、これに連通する挿通溝8cを有する。フレーム4は、矩形の磁気空隙を有する3つの磁気回路5を格子状に連結するので、それぞれの磁気回路5の矩形磁気空隙の一辺が、一直線上に配置され、また、磁気回路5の挿通溝8cも、一直線上に配置される。
【0031】
図4は、本実施例のボイスコイル組立体10を説明する展開図である。ボイスコイル組立体10は、合計3個の矩形ボイスコイル11と、これらを縦1列横3列の格子状に連結する矩形鉢巻部材14と、を備える。矩形ボイスコイル11は、厚さが約0.08mmのアルミを基材として断面形状を約20.5mm×約20.5mmの矩形状に、そして、その全高を約8.5mmに形成される矩形ボビン12と、この矩形ボビン12に固着される矩形コイル13と、を含む。本実施例の矩形コイル13は、矩形ボビン12の外側壁面の一端側に固定されるその全高が約2.9mmの外巻矩形コイルであり、これらは接着剤で連結している。したがって、それぞれの矩形ボイスコイル11では、矩形ボビン12の外壁面が、矩形コイル13が固着しない他端側から約5.1mmに渡って、外面側に露出する。
【0032】
一方、矩形鉢巻部材14は、厚さが約0.05mmのアルミを基材として、その全高を約5.0mm、その断面形状を約104.1mm×約21.4mmの矩形状に形成した部材である。矩形鉢巻部材14は、内壁面に矩形ボビン12の外壁面を接着剤で固着して矩形ボイスコイル11を連結し、ボイスコイル組立体10を構成する。すなわち、ボイスコイル組立体10では、矩形鉢巻部材14の内壁面の一部が、複数の矩形ボイスコイル11の矩形ボビン12のいずれかの外壁面に固着する。また、ボイスコイル組立体10では、矩形鉢巻部材14の内壁面が固着しない矩形ボビン12の外壁面と、矩形鉢巻部材14の内壁面の矩形ボビン12の外壁面と固着しない部分とが、隣り合う一組の矩形ボイスコイル11の間に約20.8mm×約20.8mmの矩形空間15を規定し、矩形鉢巻部材14が、矩形ボイスコイル11同士を離間して略格子状に連結している。矩形鉢巻部材14は、矩形ボビン12と同一の材料を使うこともできるので、ボイスコイル組立体10の製造コストを安価に抑制できる。
【0033】
また、ボイスコイル組立体10の矩形鉢巻部材14は、隣り合う一組の矩形ボイスコイル11の間に矩形空間15を規定するので、図2に示すように、この矩形空間15を利用して、スピーカー1の動作不良を少なくして薄型化を図ることができる。すなわち、矩形空間15を形成する矩形鉢巻部材14の一部が、磁気回路5の挿通溝8cに配置されるので、平面振動板2に連結するボイスコイル組立体10が上下に振動しても、磁気回路5に接触しにくくなる。スピーカー1は、ダンパーを備えることにより、平面振動板2およびボイスコイル組立体10を含む振動系の動作を安定させて、良好な音声再生を実現することができる。
【0034】
また、ボイスコイル組立体10の矩形空間15を利用すれば、ボイスコイル組立体10を振動可能に支持するダンパー9を設けることができる。本実施例のダンパー9は、2カ所の矩形空間15に対応した略矩形状のダンパーであって、フレーム4に固定される固定部と、ボイスコイル組立体10の矩形鉢巻部材14に連結する連結部と、固定部と連結部との間に形成される支持可動部と、を有する。ダンパー9は、綿糸、アラミド繊維糸等の織布にフェノール樹脂、メラミン樹脂等の樹脂を含浸したプリプレグを基材として、金型で加熱成型することにより製造される。ダンパー9の固定部は、矩形空間15の内側に位置する内側固定部と、矩形空間15の外側に位置する外側固定部と、を含み、ダンパー9の連結部は、ボイスコイル組立体10の全高よりもその全高が低い矩形鉢巻部材14に連結するので、磁気回路5に接触するのを回避して、スピーカー1の薄型化を図ることができる。
【0035】
図5は、本実施例の平面振動板2を説明する斜視図であり、平面振動板2の背面側を露出させた図である。平面振動板2は、厚みが約1.5mmの発泡PP(ポリプロピレン)の基材を材料として、プラグアシストを併用した真空成形法でその厚みをほぼ一定にして成形した平面状のスピーカー振動板であり、前面側に隆起する格子状凸面、および、背面側に窪む格子状凹面を形成し、背面側に複数の矩形コイルを含むボイスコイル組立体を連結する格子状連結部20と、格子状連結部20の内側に規定される5つの矩形振動面部21と、格子状連結部20の外側に規定される外周振動面部22と、を備える。
【0036】
すなわち、平面振動板2の格子状連結部20は、背面側にボイスコイル組立体10を連結する深さ約1.0mmの背面側に窪む格子状凹面を形成する溝部であって、前面側に隆起する格子状凸面を形成する。したがって、格子状連結部20は、平面振動板2の全体の剛性を高めるリブとして作用するとともに、格子状連結部20の内側には5つの矩形振動面部21を、格子状連結部20の外側には外周振動面部22を、規定する。外周振動面部22には、エッジ3の内周端側が連結する。
【0037】
また、平面振動板2のそれぞれの矩形振動面部21は、図示するように、その前面側に凸状の断面形状を有する。格子状連結部20の内側に規定されるこれらの矩形振動面部21が、平面振動板2の放射面積としては、最も広い面積を占めるので、複数の矩形振動面部のそれぞれが、前面側に凸状又は凹状の断面形状を有して十分な剛性を有しているのが好ましい。5つの矩形振動面部21のうち、両端および中央の矩形振動面部21では、その背面側の格子状連結部20にボイスコイル組立体10を構成する矩形ボビン12が固着する。一方、他の2つ矩形振動面部21では、その背面側の格子状連結部20にボイスコイル組立体10を構成する矩形鉢巻部材14が固着する。
【0038】
本実施例の3つの磁気回路5は、同一方向に着磁される磁気回路であるので、ボイスコイル組立体10では、直流抵抗r(=約2.5Ω)の3個の矩形コイル13が、それぞれに流れる音声信号電流Iが、同一回転方向になるように直列接続されている。したがって、それぞれの矩形コイル13で発生する駆動力が、図示する上方向、あるいは下方向のいずれかの同一方向に揃うので、矩形ボビン12を矩形鉢巻部材14で連結したボイスコイル組立体10は、連結する平面振動板2の全面を上下に駆動することができる。本実施例のボイスコイル組立体10では、矩形ボビン12および矩形鉢巻部材14が、軽量で、かつ、矩形状に形成した場合に十分な剛性を有するアルミ材料で形成されているので、矩形ボイスコイル11同士を密着させる構造にしなくても、平面振動板2を全面駆動するのに十分な強度を確保することができる。スピーカー1は、平面振動板2を全面駆動することで、分割振動が発生しにくくて平坦な周波数特性が得られる。
【0039】
また、本実施例のスピーカー1は、隣り合う一組の矩形ボイスコイル11の間に矩形空間15を設け、駆動力を発生する矩形コイル13の数を従来よりも減らしても、銅又はアルミを含む金属導線からなる矩形コイル13が減少する分だけ重量が軽くなるので、ボイスコイル組立体10の重量を軽減することができ、スピーカー1の再生能率を高くすることができる。さらに、本実施例のボイスコイル組立体10では、矩形鉢巻部材14が、矩形ボビン12の外壁面に固着して、平面振動板2との間に狭持されない。したがって、ボイスコイル組立体10の3つの矩形ボイスコイル11での駆動力が、矩形ボビン12から直接に平面振動板2に伝達される利点を有し、高域限界周波数が高くなり、広い再生周波数帯域を確保することができる。
【0040】
なお、ボイスコイル組立体10の矩形ボビン12、または、矩形鉢巻部材14は、アルミ以外でも、クラフト紙、スパイラル紙の紙材料、もしくは、キャプトン、シルター、ティルの樹脂材料、もしくは、チタンを含む金属材料、のいずれかの材料で形成されていればよく、同じ材料でなく異なる材料をそれぞれ用いても良い。また、平面振動板2は、他の発泡樹脂材料によるものであっても良く、例えば、PSP(ポリスチレンペーパー)の成形板であり、エッジ3も、例えば、他の布、ゴム(材料:発泡ゴム)といった材料を含むコルゲーション形状のものであってもよい。
【0041】
また、本実施例のボイスコイル組立体10が備える矩形コイル13は、矩形ボビン12の外壁面に固定される外巻矩形コイルであるが、矩形ボビン12の内壁面に固定される内巻矩形コイルであってもよい。外巻矩形コイルの場合には、矩形ボイスコイルの製造が容易になるので、ボイスコイル組立体10の製造コストを安価に抑制することができる。また、内巻矩形コイルの場合には、内巻矩形コイルが固着される矩形ボビン12と矩形鉢巻部材14との固着面の面積を外巻矩形コイル13の場合に比べて大きくできるので、ボイスコイル組立体10の強度をさらに大きくすることができる。
【0042】
また、スピーカー1の磁気回路5は、磁極性が隣同士で異なるように配置される複数のマグネットを備えるスピーカー用磁気回路である必要がないので、一度の着磁工程で着磁が可能になり、磁気空隙には高い磁束密度を有する磁界を発生させることができる。すなわち、本実施例の磁気回路5は、予め異なる方向に着磁した磁極性が異なる2種類のマグネットを用意する必要がなく、製造上の作業効率を改善できる。着磁した磁極性が異なる第1および第2のマグネットを組み立てる際に課題となる磁力の作用を、考慮する必要が無くなるメリットがある。磁気回路5の組立作業時に、着磁した小さなマグネットのみをハンドリングする必要が無くなるので、作業効率が大きく向上する。
【実施例2】
【0043】
図6は、本発明の他の好ましい実施形態によるボイスコイル組立体10aを説明する展開図である。ボイスコイル組立体10aは、先の実施例のボイスコイル組立体10に代えて、(図示しない)スピーカー1aの振動系を構成する部材であり、合計3個の矩形ボイスコイル11と、これらを縦1列横3列の格子状に連結する矩形鉢巻部材14に加えて、断面形状が矩形状に形成される補強矩形ボビン16を2つさらに備える。本実施例のスピーカー1aと、先の実施例のスピーカー1とは、ボイスコイル組立体の構成以外は共通である。したがって、先の実施例と同一部分には、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0044】
ボイスコイル組立体10aを構成する補強矩形ボビン16は、厚さが約0.08mmのアルミを基材として断面形状を約20.5mm×約20.5mmの矩形状に、そして、その全高を約5.0mmに形成されている。2つの補強矩形ボビン16は、それぞれ離隔して配置された3つの矩形ボイスコイル11の間に挟み込まれるように接着剤で連結され、その外周側を矩形鉢巻部材14で巻回される。したがって、補強矩形ボビン16の外壁面は、矩形鉢巻部材14の内壁面の一部と、格子状に隣り合う一組の矩形ボイスコイル11の矩形鉢巻部材14の内壁面が固着しない矩形ボビン12の外壁面と、に固着する。また、ボイスコイル組立体10aでは、これら2つの補強矩形ボビン16が、それぞれ矩形空間15を規定する
【0045】
すなわち、ボイスコイル組立体10aは、隣り合う一組の矩形ボイスコイル11の間に、矩形鉢巻部材14のみならず、補強矩形ボビン16からなる矩形空間15が設けられて、矩形ボイスコイル11同士が離間して略格子状に連結している。したがって、ボイスコイル組立体10aは、矩形ボイスコイル11同士を密着させる構造にしなくても、平面振動板2を全面駆動するのに十分な強度を確保することができる。また、本実施例のように、矩形鉢巻部材14および補強矩形ボビン16を、矩形ボビン12と同一の材料を使って構成すれば、ボイスコイル組立体10aの製造コストを安価に抑制できる。
【0046】
図7は、本発明のスピーカー1のボイスコイル組立体のある一点での変位特性を説明するグラフである。具体的には、ボイスコイル組立体を構成する3つの矩形ボイスコイル11のうち、両端の矩形ボイスコイル11の最も外側の一点において、ボイスコイル組立体が主に変位する上下方向に直交するA−A’方向の変位であって、ボイスコイル組立体のローリング振動の変位量を表すグラフである。スピーカー1において、平面振動板2およびボイスコイル組立体10を含む振動系の動作を安定させて良好な音声再生を実現するには、ボイスコイル組立体が磁気回路に接触しないようにするのが好ましく、ボイスコイル組立体のローリング振動の変位は、レベルが低い方がよい。
【0047】
図7では、本実施例のボイスコイル組立体10aの場合と、先の実施例のボイスコイル組立体10の場合と、比較例としての3つの矩形ボイスコイル11のみから構成される(図示しない)組100(図示しない)と、を表示している。つまり、比較例の矩形ボイスコイル11の組100は、先の実施例のボイスコイル組立体10において、矩形鉢巻部材14を備えずに3つの矩形ボイスコイル11が独立している場合である。矩形鉢巻部材14を備えない比較例は、矩形ボイスコイル11のローリング振動の変位が他の実施例よりも大きなレベルであり、40Hz付近と100Hz付近で共振して大きくなる。また、比較例の場合には、平面振動板2を全面駆動するには不十分であり、分割振動が発生しやすく、音圧周波数特性にピーク・ディップが見られる。
【0048】
一方で、先の実施例のボイスコイル組立体10の場合には、矩形鉢巻部材14を備えることで剛性が向上するので、比較例の場合よりもローリング振動が抑制される。また、本実施例のボイスコイル組立体10aの場合には、補強矩形ボビン16を備えてさらに剛性が向上するので、ローリング振動を最も抑制できる。すなわち、先の実施例のボイスコイル組立体10の場合、あるいは、本実施例のボイスコイル組立体10aの場合には、平面振動板2を全面駆動することで、分割振動が発生しにくくて平坦な音圧周波数特性が得られる。
【0049】
なお、本実施例のスピーカー1の場合には、ボイスコイル組立体10または10aが、3つの矩形ボイスコイル11の間に2つの矩形空間15が配置されている縦1列の格子状であるが、ボイスコイル組立体は、これらの1列の場合に限定されるものではなく、縦方向および横方向が2列以上であっても良い。スピーカー1は、様々な設計変更の要求に対応が可能で、磁気効率の高いそれぞれの磁気回路5を連結するフレーム4を用意することで、様々な大きさを有する平面振動板2に対応して、これを全面駆動するスピーカーを構成することができる。
【0050】
例えば、図8は、本発明の他の好ましい実施形態によるボイスコイル組立体10bの構成を説明する展開図である。ボイスコイル組立体10bは、先の実施例のボイスコイル組立体10aと同様に、補強矩形ボビン16を備えるものであるが、矩形鉢巻部材14は、合計7個の矩形ボイスコイル11と、合計8個の補強矩形ボビン16とを、縦3列横5列の格子状に連結している。矩形ボイスコイル11および補強矩形ボビン16は、相互に隣り合うように、順番に配置されている。したがって、このボイスコイル組立体10bを用いる場合には、外形寸法が約115mm×70mmの平面振動板を全面駆動するスピーカーを実現できる。
【実施例3】
【0051】
図9は、本実施例の他の平面振動板2aを説明する斜視図であり、図2(a)が正面側から見た場合であり、図2(b)が背面側から見た場合である。平面振動板2aは、先の実施例の平面振動板2と同様に、厚みが約1.5mmの発泡PP(ポリプロピレン)の基材を材料として、プラグアシストを併用した真空成形法でその厚みをほぼ一定にして成形した平面状のスピーカー振動板であり、前面側に隆起する格子状凸面、および、背面側に窪む格子状凹面を形成し、背面側に複数の矩形コイルを含むボイスコイル組立体を連結する格子状連結部20と、格子状連結部20の内側に規定される6つの矩形振動面部21と、格子状連結部20の外側に規定される外周振動面部22と、を備える。
【0052】
すなわち、平面振動板2aの格子状連結部20は、背面側にボイスコイル組立体10を連結する格子状の深さ約1.0mmの背面側に窪む格子状凹面を形成する溝部であって、前面側に隆起する格子状凸面を形成する。したがって、格子状連結部20は、平面振動板2の全体の剛性を高めるリブとして作用するとともに、格子状連結部20の内側には6つの矩形振動面部21を、格子状連結部20の外側には外周振動面部22を、規定する。外周振動面部22には、エッジ3の内周端側が連結する。
【0053】
本実施例の平面振動板2aでは、6つの矩形振動面部21は、それぞれ断面に突起を有しない平面状であっても、十分な剛性を有している。したがって、ボイスコイル組立体は、先の実施例の場合のように隣り合う一組の矩形ボイスコイル11の間に矩形空間15を設けることができる。また、格子状連結部20は、平面振動板2aの背面側に窪む格子状凹面を形成するので、ボイスコイル組立体を精度良く連結することができ、平面振動板とボイスコイル組立体との接着強度も向上する利点を有する。
【0054】
なお、平面振動板2aに連結する(図示しない)ボイスコイル組立体は、矩形コイル13を内巻矩形コイルとして矩形ボビン12の内壁面側に取り付けた矩形ボイスコイル11を構成し、6つのこの矩形ボイスコイル11同士を一列に密着させる構造にしてもよい。平面振動板2aを全面駆動する(図示しない)スピーカーは、分割振動が発生しにくくて平坦な音圧周波数特性が得られる。また、平面振動板2aは、発泡PP(ポリプロピレン)以外の合成樹脂発泡体であっても良く、プラグアシストを併用した真空成形法でその厚みをほぼ一定にして成形すれば、PSP(ポリスチレンペーパー)等の材料の基材を材料としてもよい。
【実施例4】
【0055】
次に、本実施例の(図示しない)他のボイスコイル組立体10cを備える(図示しない)スピーカー1cを説明する。本実施例のボイスコイル組立体10cは、格子状に連結された3つの矩形コイル13cが異なる以外は、先の実施例のボイスコイル組立体10とほぼ同様である。したがって、先のスピーカー1と重複するところは、説明および図示を省略する。
【0056】
本実施例のボイスコイル組立体10cでは、3つの矩形コイル13cがそれぞれ直列接続されているのは、先の実施例の場合と共通する。したがって、中央に位置する矩形コイル13c0に流れる音声信号電流Iと、相対的に両端に位置する矩形コイル13c1および13c2に流れる音声信号電流Iは、共通である。3つの矩形コイル13c0、13c1および13c2に対応する磁気回路5は、共通であってほぼ同一の磁束密度を有する矩形磁気空隙を備えるので、3つの矩形コイル13cに作用する駆動力は、それぞれの矩形コイルのコイル長にほぼ比例することになる。
【0057】
ボイスコイル組立体10cでは、その端部に位置する2つの矩形コイル13c1および13c2の直流抵抗値rc(=約2.4Ω)が、中央に位置する他の矩形コイル13c0の直流抵抗値ra(=約2.7Ω)と異なり、より小さくされている。具体的には、2つの矩形コイル13c1および13c2と、矩形コイル13c0とは、同種類同線径のコイルであって、前者のターン数(2層約29回)よりも後者のターン数が多く、直流抵抗値が異なるとともに、磁気回路での磁界中に位置するコイル導体の線長も、前者よりも後者の方が約10%長くなるようにされている。その結果、中央に位置する矩形コイル13c0に作用する駆動力を約1.0として基準化とすると、ボイスコイル組立体10cの端部に位置する2つの矩形コイル13c1および13c2に作用する駆動力は約0.9になる。
【0058】
図10は、本発明のスピーカーを構成するボイスコイル組立体のある一点での変位特性を説明するグラフである。具体的には、ボイスコイル組立体10又は10cを構成する3つの矩形ボイスコイル11のうち、両端の矩形ボイスコイル11の最も外側の一点において、ボイスコイル組立体が主に変位する上下方向の変位量を表すグラフである。図10では、先の実施例のスピーカー1を構成するボイスコイル組立体10の場合と、本実施例のスピーカー1cを構成するボイスコイル組立体10cの場合と、を表示している。なお、先の実施例のボイスコイル組立体10を含むスピーカー1については、いずれの矩形コイル13に作用する駆動力が等しい場合の比較例であって、重複する説明を省略する。
【0059】
本発明の全面駆動のスピーカーでは、先の実施例のボイスコイル組立体10の場合も、本実施例のボイスコイル組立体10cの場合も、約800〜約900Hzに変位特性のピーク・ディップを生じている。この周波数帯域では、平面振動板2に連結するボイスコイル組立体において、両端の矩形ボイスコイル11の内側の位置に節を生じる振動モードが生じ、その結果、平面振動板2の端部と、エッジ3とが大きく振動するからである。ただし、本実施例の場合の方が、変位特性のピーク・ディップのレベルを抑制できている。つまり、ボイスコイル組立体10の端部に位置する矩形コイル13c1および13c2の駆動力を、中央の矩形コイル13c0の駆動力に対して、本実施例の場合には約10%低下させると、スピーカー振動板の端部での分割振動を発生する振動モードを抑制することができる。
【0060】
したがって、本発明の全面駆動のスピーカーでは、ボイスコイル組立体10の端部に位置する矩形コイルの駆動力を、他の中央側の矩形コイル13の駆動力に対して、約5%〜約20%程度低下させると、スピーカー振動板の端部での分割振動を発生する振動モードを抑制できる。分割振動を抑制することで歪特性も改善できるので、本発明のスピーカーは、良好な音声再生が可能になる。
【0061】
もちろん、ボイスコイル組立体10で発生させる駆動力を調整するには、幾つかの方法が取り得る。例えば、複数の矩形コイルを直列接続する場合には、矩形コイル13c1および13c2の線種(又は線径、巻き回数)を調整することで、他の中央側の矩形コイルの直流抵抗値と異なるようにして、発生させる駆動力を調整してもよい。
【0062】
複数の矩形コイルは、並列接続してもよく、その場合には、ボイスコイル組立体10の端部に位置する矩形コイル13c1および13c2の直流抵抗値rcを、他の矩形コイルの直流抵抗値raよりも大きくしてもよい。それぞれの矩形コイルに流れる音声信号電流は、矩形コイルの直流抵抗値、および、インピーダンスによって異なるので、音声信号電流の大きさで駆動力の調整を図ることができる。その結果、端部に位置する矩形コイル13c1および13c2の駆動力を、他の中央側の矩形コイル13の駆動力に対して、約5%〜約20%程度低下させることができる。
【0063】
また、本実施例のように矩形コイルの直流抵抗値を変更するのではなく、ボイスコイル組立体10の端部に位置する矩形コイル13c1および13c2に対応する磁気回路5の磁気空隙での磁束密度を、中央の矩形コイル13c0に対応する磁気回路5の磁気空隙での磁束密度よりも、小さくしてもよい。具体的には、端部に位置する矩形コイル13c1および13c2に対応する磁気回路5の磁気空隙が、中央の矩形コイル13c0に対応する磁気回路5の磁気空隙よりも、その幅を大きくされていればよい。
【0064】
あるいは、本実施例のように3つの同じ磁気回路5を、グレードが異なるマグネットを使用して、中央側の磁気回路と、端部側の磁気回路とで、それらの磁気空隙での磁束密度が異なるようにしてもよい。ボイスコイル組立体10の端部に位置する矩形コイル13c1および13c2に対応する磁気回路5の磁石を、中央の矩形コイル13c0に対応する磁気回路5の磁石よりも保磁力が弱いものにすると、駆動力を約5%〜約20%程度低下させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のボイスコイル組立体およびこれを用いたスピーカーは、平面振動板を備えるスピーカーのみならず、ヘッドホンにも適用が可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 スピーカー
2 スピーカー振動板
3 エッジ
4 フレーム
5 磁気回路
6 プレート
7 マグネット
8 ヨーク
9 ダンパー
10、10a、10b、10c ボイスコイル組立体
11 矩形ボイスコイル
12 矩形ボビン
13 矩形コイル
14 矩形鉢巻部材
15 矩形空間
16 補強矩形ボビン
20 格子状連結部
21 矩形振動面部
22 外周振動面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂発泡体の厚みをほぼ一定にして成形する平面振動板であって、
前面側に隆起する格子状凸面、および、背面側に窪む格子状凹面を形成し、背面側に複数の矩形コイルを含むボイスコイル組立体を連結する格子状連結部と、
該格子状連結部の内側に規定される複数の矩形振動面部と、
該格子状連結部の外側に規定される外周振動面部と、を備える、
スピーカー振動板。
【請求項2】
前記複数の矩形振動面部が、その前面側に凸状、または、凹状の断面形状を有する、
請求項1に記載のスピーカー振動板。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスピーカー振動板と、前記格子状連結部に連結するボイスコイル組立体と、前記外周振動面部に連結するエッジと、該ボイスコイル組立体の前記矩形コイルが配置される磁気空隙を有する磁気回路と、該エッジの外周端ならびに磁気回路が連結するフレームと、を備えるスピーカー。
【請求項4】
前記ボイスコイル組立体が、断面形状が矩形状に形成される矩形ボビンおよび該矩形ボビンに固着される矩形コイルを含む矩形ボイスコイルと、複数の該矩形ボイスコイルを格子状に連結する矩形鉢巻部材と、を備え、
前記磁気回路が、矩形平板状のプレートをそれぞれ冠した複数のマグネットと、該マグネットと固着するヨークと、を備え、該プレートと該ヨークの間に矩形の該磁気空隙を形成し、該矩形の該磁気空隙の角部に該ボイスコイル組立体の該矩形鉢巻部材が配置される挿通溝を有する、
請求項3に記載のスピーカー。
【請求項5】
前記ボイスコイル組立体の前記矩形コイルが、前記矩形ボビンの外壁面に固定される外巻矩形コイルである、あるいは、前記矩形ボビンの内壁面に固定される内巻矩形コイルである、請求項3または4に記載のスピーカー。
【請求項6】
前記ボイスコイル組立体の格子状に連結された複数の前記矩形コイルのうちで、該ボイスコイル組立体の端部に位置する矩形コイルの直流抵抗値が、他の矩形コイルの直流抵抗値と異なる、
請求項3から5のいずれかに記載のスピーカー。
【請求項7】
前記ボイスコイル組立体の格子状に連結された複数の前記矩形コイルのうちで、該ボイスコイル組立体の端部に位置する矩形コイルに対応する前記磁気回路の前記磁気空隙での磁束密度が、他の矩形コイルに対応する該磁気回路の該磁気空隙での磁束密度よりも、小さくされている、
請求項3から5のいずれかに記載のスピーカー。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−199812(P2010−199812A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40680(P2009−40680)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000000273)オンキヨー株式会社 (502)
【Fターム(参考)】