説明

スピーカー振動板およびこれを用いた動電型スピーカー

【課題】 振動板の断面経路長が長い方向に強い指向特性を有する偏心コーン形振動板を備える動電型スピーカーに関し、特定の共振周波数で発生しやすいローリングを抑制でき、動作が安定して異音を発生するなどの動作不良が少なく、再生能率が高い動電型スピーカーを実現するスピーカー振動板を提供する。
【解決手段】 外形と内形とを有するコーン形の振動板本体と振動板本体の外周縁を支持するエッジとを備えるスピーカー振動板は、振動板本体が、外形中心点Oに対して偏心した内形中心点Pにより規定されるボイスコイル取付部を有する偏心コーン形振動板であり、エッジが、振動板本体の外周縁に固定される内周部とフレームに固定される外周部との間でロールを形成する支持可動部を有し、エッジの支持可動部が、外形中心点Oおよび内形中心点Pを含む断面平面Xと交叉する位置に、放射状に溝を形成するリブを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外形に対して偏心したボイスコイル取付部を有する偏心コーン形振動板を備える動電型スピーカーに関し、特に、オブリコーンと呼ばれる偏心コーン形振動板を備える場合に発生しやすいローリング現象を抑制し、ギャップ不良などの異音を生じることが少ない動電型スピーカーを実現する偏心コーン形のスピーカー振動板と、これを備える動電型スピーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
音声を再生するスピーカーでは、取り付けに要する空間を小型化することが要望されている。特に、細長形(矩形、長円形(楕円形、トラック形を含む))の動電型スピーカーは、短径方向に振動板面積が限られる、細長形のスピーカー振動板に特有な分割振動の影響が大きくて平坦な再生音圧周波数特性を得ることが難しい、磁気空隙の磁束密度が高いスピーカー用磁気回路を採用しようとすると、磁気回路の幅がスピーカー振動板よりも広くなり小型化できない、といった様々な理由から音声再生能力において不利な点がある。
【0003】
また、例えば、車両に取り付けるスピーカー、あるいは、ディスプレイ等の音響機器においては、スピーカーが放射する音波を任意の方向に強めた、偏った指向特性を有することが要望される場合がある。ディスプレイのスピーカーの場合、従来には、偏心コーン形振動板(オブリコーン形振動板)を用いて、これを解決しようとするものがある(特許文献1および特許文献2)。外形に対して偏心したボイスコイル取付部を有する偏心コーン形振動板を備える動電型スピーカーは、ボイスコイルが振動する中心軸の方向に対して指向特性の中心軸を傾斜させることができる(特許文献3)。偏心コーン形振動板は、最低共振周波数f0よりも高い周波数帯域で、コーン振動板の断面経路長が長い方向の指向特性が強まり、反対側の短い方向の指向性が弱まる特性を有している。
【0004】
偏心コーン形振動板は、比較的に平坦な周波数特性と、偏った指向特性とを実現することができる一方で、ボイスコイルの中心軸から見て非対称な形状で重量バランスも偏るので、動作不良を生じやすいという問題を有する場合があり、例えば、バランサーを設けてこれを解決しようとするものがある(特許文献4)。また、矩形平面振動板を備えてボイスコイルボビンを矩形平面振動板の一方の短辺側に中央から移動したところを節駆動するスピーカーに関しては、矩形平面振動板の外周部をボイスコイルの駆動部に近い短辺側に比してボイスコイルの駆動部に遠い短辺側が幅広い非対称なエッジ部材にてフレームに支持するように構成してなる動電型スピーカーがある(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公平7−9485号公報
【特許文献2】特開2007−288767号公報
【特許文献3】特許第3646406号公報
【特許文献4】特許第3405160号公報
【特許文献5】特開昭58−92198号公報
【0006】
偏心コーン形振動板を備える動電型スピーカーでは、コーン振動板の断面経路長が長い方向の指向特性を強め、反対側の短い方向の指向性を弱めることができる。しかしながら、偏心した駆動位置を有する振動板を備える動電型スピーカーでは、スピーカー振動系が大きく振幅する最低共振周波数f0を含む周波数帯域でスピーカー振動系の重量バランスの偏りを原因として特定の共振周波数でローリングを発生する場合に、動作が不安定になり、ボイスコイルが磁気回路の磁気空隙に接触して異音を発生するなどの動作不良を生じる場合があるという問題がある。偏心コーン形振動板およびボイスコイルを含むスピーカー振動系が、重量バランスの偏りを解消しようとするバランサーをさらに備える場合には、スピーカー振動系の重量増加を原因として、動電型スピーカーの再生能率が低下するという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解決するためになされたものであり、その目的は、振動板の断面経路長が長い方向に強い指向特性を有する偏心コーン形振動板を備える動電型スピーカーに関し、特に、特定の共振周波数で発生しやすいローリングを抑制することができ、動作が安定して異音を発生するなどの動作不良が少なく、再生能率が高い動電型スピーカーを実現するスピーカー振動板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のスピーカー振動板は、外形と内形とを有するコーン形の振動板本体と、振動板本体の外周縁を支持するエッジと、を備えるスピーカー振動板であって、振動板本体が、外形中心点Oに対して偏心した内形中心点Pにより規定されるボイスコイル取付部を有する偏心コーン形振動板であり、エッジが、振動板本体の外周縁に固定される内周部とフレームに固定される外周部との間でロールを形成する支持可動部を有し、エッジの支持可動部が、外形中心点Oおよび内形中心点Pを含む断面平面Xと交叉する位置に、放射状に溝を形成するリブを有する。
【0009】
好ましくは、本発明のスピーカー振動板は、振動板本体と、エッジとが、長径方向と短径方向とを有する細長形のスピーカー振動板であって、振動板本体の長径方向を規定する軸xが、断面平面Xに含まれるように配置され、エッジの支持可動部が、細長形のロールの角部に、さらにリブを有する。
【0010】
また、好ましくは、本発明のスピーカー振動板は、振動板本体の外形が、軸xを長径方向とするトラック形である。
【0011】
好ましくは、本発明のスピーカー振動板は、エッジの支持可動部が有する複数のリブが、軸xに対して線対称になるように配置されている。
【0012】
また、好ましくは、本発明のスピーカー振動板は、エッジの支持可動部が有する複数のリブが、外形中心点Oを中心として点対称になるように配置されている。
【0013】
また、好ましくは、本発明のスピーカー振動板は、エッジの支持可動部が有する複数のリブが、内形中心点Pから遠くに配置される第1リブ群と、内形中心点から近くに配置される第2リブ群と、を形成し、第1リブ群のリブの数が、第2リブ群のリブの数と同数である、または、少なくなるように構成されている。
【0014】
また、本発明の動電型スピーカーは、上記のスピーカー振動板と、磁気空隙を有する磁気回路と、スピーカー振動板のボイスコイル取付部に取り付けられるボビンと、ボビンに巻回されて磁気回路の磁気空隙に配置されるコイルと、を有するボイスコイルと、を備える。
【0015】
以下、本発明の作用について説明する。
【0016】
本発明のスピーカー振動板は、外形と内形とを有するコーン形の振動板本体と、振動板本体の外周縁を支持するエッジと、を備えるスピーカー振動板である。また、本発明の動電型スピーカーは、エッジを備えるこのスピーカー振動板と、磁気空隙を有する磁気回路と、スピーカー振動板のボイスコイル取付部に取り付けられるボビンと、ボビンに巻回されて磁気回路の磁気空隙に配置されるコイルと、を有するボイスコイルと、を備える。スピーカー振動板を構成する振動板本体は、外形中心点Oに対して偏心した内形中心点Pにより規定されるボイスコイル取付部を有する偏心コーン形振動板であるので、動電型スピーカーは、平坦な周波数特性と、振動板本体の断面経路長が長い方向に強い指向特性を有する。
【0017】
外形中心点Oおよび内形中心点Pを含む平面を断面平面Xとすると、偏心コーン形振動板である振動板本体は、外形中心点Oおよび内形中心点Pは断面平面X上で離隔しており、偏心コーン形振動板を前面側から見た場合の偏心の距離が大きくなればなるほど、スピーカー振動系の重量バランスの偏りが大きくなる。振動板本体は、外形および内形がともに円形のオブリコーン振動板でもよく、また、それ以外の異形の偏心コーン形振動板であってもよい。後述するように、長径方向と短径方向とを有する細長形のスピーカー振動板の場合には、振動板本体は、長径方向を規定する軸xが断面平面Xに含まれるように配置される。振動板本体は、具体的には、振動板本体の外形が軸xを長径方向とするトラック形であるのが好ましい。
【0018】
一方で、エッジは、振動板本体の外周縁に固定される内周部と、フレームに固定される外周部と、これらの間でロールを形成する支持可動部を有するロールエッジであり、振動板本体を振動可能に支持する。ただし、このエッジの支持可動部は、偏心コーン形振動板である振動板本体の外形中心点Oおよび内形中心点Pを含む断面平面Xと交叉する位置に、放射状に溝を形成するリブを有する。支持可動部のロールに形成されるリブは、放射状の溝となる凹部を、内形中心点Pから遠くの側の断面平面X上の第1位置と、内形中心点Pから近くの側の断面平面X上の第2位置とに、それぞれ形成するので、断面平面Xに沿う方向に動こうとする力に対して支持可動部のロールを補強する。その結果、最低共振周波数f0を含む周波数帯域でのローリングを抑制することができ、再生能率が低下するバランサーを備えなくても、動作が安定して異音を発生するなどの動作不良を少なくすることができる。
【0019】
支持可動部のロールに形成されるリブは、断面平面Xと交叉する第1位置および第2位置に設けられるもの以外にも、これらのリブに隣接するように配置される複数のリブをさらに含んでいても良い。例えば、エッジの支持可動部が有する複数のリブが、軸xに対して線対称になるように配置されている場合、あるいは、外形中心点Oを中心として点対称になるように配置されている場合には、軸xの方向で発生しやすいローリングの抑制効果を高めることができる。また、エッジの支持可動部が有する複数のリブが、内形中心点Pから遠くに配置される第1リブ群と、内形中心点から近くに配置される第2リブ群と、に分けられる場合には、第1リブ群のリブの数が、第2リブ群のリブの数と同数である、又は、少なくなるようにすれば、スピーカー振動系の重量バランスの偏りが大きい場合でも、ローリングの抑制効果を高めることができる。
【0020】
特に、スピーカー振動板が、長径方向と短径方向とを有する細長形のスピーカー振動板であり、振動板本体の長径方向を規定する軸xが、断面平面Xに含まれるように配置される場合には、エッジの支持可動部が、ロールの断面経路長が大きくなりやすい細長形の角部に、さらにリブを有しているのが好ましい。細長形のエッジの支持可動部の角部は、ロールの断面経路長が変化しない場合であっても応力が集中し易いので、ここにリブを設けることで補強がされる。その結果、長径方向で発生しやすいローリングを効果的に抑制し、再生音質に優れた動電型スピーカーを実現することができる。
【発明の効果】
【0021】
振動板の断面経路長が長い方向に強い指向特性を有する偏心コーン形振動板を備える動電型スピーカーに関し、特に、特定の共振周波数で発生しやすいローリングを抑制することができ、動作が安定して異音を発生するなどの動作不良が少なく、再生能率が高い動電型スピーカーを実現する偏心コーン形振動板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の好ましい実施形態による動電型スピーカー1を説明する斜視図である。(実施例1)
【図2】本発明の好ましい実施形態による動電型スピーカー1のA−A’断面図(断面平面X)である。(実施例1)
【図3】本発明の好ましい実施形態のスピーカー振動板2およびエッジ3を説明する平面図、および、長径方向のローリング変位を表すグラフである。(実施例1)
【図4】本発明の好ましい実施形態のスピーカー振動板2およびエッジ3aを説明する平面図、および、長径方向のローリング変位を表すグラフである。(実施例2)
【図5】本発明の好ましい実施形態のスピーカー振動板2およびエッジ3bを説明する平面図、および、長径方向のローリング変位を表すグラフである。(実施例3)
【図6】本発明の好ましい実施形態のスピーカー振動板2およびエッジ3cを説明する平面図、および、長径方向のローリング変位を表すグラフである。(実施例4)
【図7】比較例のスピーカー振動板2およびエッジ30を説明する平面図、および、長径方向のローリング変位を表すグラフである。(比較例1)
【図8】本発明の好ましい実施形態のスピーカー振動板25およびエッジ40を説明する平面図、および、長径方向のローリング変位を表すグラフである。(実施例5、比較例2)
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明の好ましい実施形態による動電型スピーカー1を説明する斜視図である。また、図2は、動電型スピーカー1のA−A’断面図であり、図3は、動電型スピーカー1のスピーカー振動板2およびエッジ3を説明する平面図、および、その場合の動電型スピーカー1の長径方向のローリング変位を表すグラフである。なお、後述するように、動電型スピーカー1の一部の構造や、内部構造等は、省略している。また、点O−Aを結ぶ直線(長軸x)が延びる方向が長径方向であり、また、点O−B
を結ぶ直線(短軸y)が延びる方向が短径方向である。また、動電型スピーカー1では、スピーカー振動板2が露出する図示する上方が前面側であり、磁気回路10が取り付けられている図示する下方が背面側である。
【0024】
本実施例の動電型スピーカー1は、長径方向の長さが約104.5mm、短径方向の長さが約38.0mmのトラック形のスピーカー振動板2を有する細長形の動電型スピーカーであり、細長形であっても口径が約6.5cmの円形振動板と同等の振動板面積を有するスピーカーである。スピーカー振動板2は、偏心コーン形振動板であって、エッジ3によってその外周端を支持されており、エッジ3の外周端は、フレーム6に固定されている。また、スピーカー振動板2の背面側には、ボイスコイル4が連結しており、ダンパー5により振動可能に支持されている。本実施例の場合には、丸形のボイスコイル4のボイスコイル径は、約14mmである。また、フレーム6は、トラック形のスピーカー振動板2に対応した細長形状であり、フレーム6に偏心して固定される磁気回路10は、フレーム6の短径方向の長さ以下の幅が狭い略直方体形状を有している。したがって、動電型スピーカー1は、車両のシート、あるいは、ディスプレイ等の機器が有する表示部の側面など、スピーカーを取り付ける幅が少ない機器に適するスピーカーである。
【0025】
偏心コーン形振動板であるスピーカー振動板2は、パルプ材を抄紙および切断して形成した紙コーン振動板であり、外形中心点Oを中心とするトラック形状の外周端23にスピーカー振動板2の前面側からトラック形状のエッジ3の内周部31が接着されている。また、スピーカー振動板2は、このトラック形状の外形に対して偏心した位置にある内形中心点Pを同心円の中心とする円形のボイスコイル取付部20を有する。ボイスコイル取付部20は、コーン形振動板のネック部分であって、ボイスコイル4を構成する丸形の円筒状のボビン4aが接着される。ボイスコイル4の中心軸Qは、内形中心点Pを通過する軸であり、ボイスコイル4が振動する正面方向(角度θ=0°)を規定する。したがって、偏心コーン形振動板であるスピーカー振動板2では、外形中心点Oと内形中心点Pとが、長径方向に中心軸Qに直交する平面上での距離x0(約12mm)だけ離隔している。
【0026】
また、スピーカー振動板2は、内形中心点Pから外形中心点Oに向かう方向に規定される第1振動板部21と、第1振動板部とは略反対の方向に規定される第2振動板部22と、を有する偏心コーン形振動板である。A−A’の断面図である図2に示すように、偏心コーン形振動板であるスピーカー振動板2の外形中心点Oおよび内形中心点Pを含む平面として規定される長径方向の断面平面Xは、長軸xを含む仮想的な平面である。スピーカー振動板2の第1振動板部21は、第2振動板部22よりも傾斜が緩やかな曲面であり、スピーカー振動板2の第2振動板部22は、第1振動板部21よりも狭い表面積を有している。第1振動板部21と第2振動板部22とは、短軸yの方向において滑らかに連続するように連結する。
【0027】
なお、スピーカー振動板2の内形中心点Pと外形中心点Oは、前者がコーン形状のボイスコイル取付部20の中心点であり、後者がトラック形状の外周端23の中心点であるので、仮想の断面平面X上の前後方向にずれた位置に位置している。図1の斜視図では、長軸xおよび短軸yを外形中心点Oを通過する直線として図示しているが、長軸xは、内形中心点Pおよび外形中心点Oを含む断面平面X上に位置し、ボイスコイル4が振動する方向に直交する方向の直線であれば、内形中心点Pを通過するものであっても良い。
【0028】
エッジ3は、内周部31の内形が変形したトラック形状であり、外周部32の外形が直線と円弧とからなるトラック形状であり、内周部31と外周部32との間に形成される支持可動部33がロール形状の細長形状のエッジである。エッジ3は、スピーカー振動板2の長径方向に直線状に延びるトラック形の長辺では、スピーカー振動板2を自由支持するように直線状の薄肉のロールによるフリーエッジが形成され、トラック形の短辺では、短径方向に円弧状になるフリーエッジが形成され、長辺と短辺が交わるトラック形の角部では、これらを連結するような断面経路長がその部分で大きくなる連続的なロールによるフリーエッジが形成される。エッジ3は、本実施例では、柔軟性を有する繊維の織布を基材として熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂を含浸して加熱成形するものであり、外周部32の前面側に紙材のガスケット34が接着されている。また、本実施例のエッジ3は、後述するように、その支持可動部33と断面平面Xと交叉する位置を中心にして、放射状に溝を形成する複数のリブ35および36を有する。
【0029】
ボイスコイル4は、円筒形に形成したボビン4aと、その一端側に巻回されて音声電流が供給されるコイル4bと、から形成される。ボビン4aは、その円筒外面側がスピーカー振動板2のボイスコイル取付部20に接着剤により連結される。コイル4bは、後述する磁気回路10の円形の磁気空隙13に配置される。なお、錦糸線9は、スピーカー振動板2に設けられる金属ハトメを介してコイル4bの引出線とハンダづけされて、ターミナル7に供給される音声電流をコイル4bに導通する。錦糸線9は、金属ハトメを介さずにフレーム6に固定されるターミナル7とコイル4bの引出線とを、ハンダづけして導通させてもよい。
【0030】
ダンパー5は、柔軟性を有する繊維の織布を基材としてフェノール樹脂を含浸して成形する内形が円形で外形が細長形のコルゲーションダンパーである。ダンパー5の内周端は、ボビン4aの円筒外面側と連結してスピーカー振動板2のボイスコイル取付部20を支持する。ダンパー5の外周端側は、フレーム6の固定部に固定される。なお、ダンパー5は、他の形状のコルゲーションダンパーであっても良く、また、他の材料で形成するものであってもよく、内周側リングと外周側リングを連結するアームを有し、金属または樹脂で形成する蝶ダンパーであってもよい。
【0031】
本実施例のダストキャップ8は、パルプ材を抄紙および切断して形成した略ドーム状の部材であり、ボイスコイル4のボビン4aの端部に接着剤で取り付けられる。ダストキャップ8は、円筒形の断面を有するボイスコイル4に対応する円形のダストキャップであり、磁気回路10の円形の磁気空隙13に鉄粉等の塵芥が侵入するのを防止する。なお、ダストキャップ8は、スピーカー振動板2に接着剤で固定されるものであってもよい。
【0032】
フレーム6は、スピーカー振動板2の形状に対応して細長形のバスケット状にプレス成型された鉄板フレームであり、エッジ3を固定する略矩形の固定部と、ダンパー5ならびに磁気回路10を固定する偏心した固定部と、これらの固定部を連結する連結部と、複数の連結部の間に規定される窓と、ターミナル7を取り付ける取付孔と、を備える。したがって、スピーカー振動板2、エッジ3、ボイスコイル4、ダストキャップ8、および、ダンパー5からなるスピーカー振動系は、フレーム6に対して振動可能に支持される。
【0033】
磁気回路10は、フレーム6に固定される円環形のトッププレート11と、円筒形状であってトッププレート11の中央に形成された円形孔に挿入されるセンターポールおよび平板状のアンダープレートを有するポール12と、円環状のマグネット14と、から構成される。トッププレート11およびポール12は、均等な幅を有する円形の磁気空隙13を形成する。マグネット14は、トッププレート11およびポール12のアンダープレートの間に狭持されるように接着される。本実施例のマグネット14は、フェライト系磁石であり、残留磁化および保磁力がさらに大きく、小さい体積でも保磁力の強いNd−Fe−B系の希土類磁石であってもよい。磁気回路10は、ボイスコイル4のコイル4bを平面視した場合に投影する領域の外部に磁石が配置される外磁型磁気回路であり、磁気回路10の最大幅を小さくすれば、細長形のフレーム6を前面視した場合に形成される領域内に磁気回路10が収まる。
【0034】
したがって、軽量なスピーカー振動板2を採用することを含めて、能率の高い動電型スピーカー1が実現される。ボイスコイル4のコイル4bに音声電流が供給されると、磁気空隙13に配置されたボイスコイル4には駆動力が作用し、ボイスコイル4は前後方向(図における上下方向)に振動し、連結されたスピーカー振動板2も前後方向に振動する。本実施例の動電型スピーカー1の場合には、偏心コーン形振動板であるスピーカー振動板2を備えているので、その高域限界周波数fh(=約16kHz)以下では、ボイスコイル取付部20を挟んで、断面経路長が長い第1振動板部21の方に指向特性が強まり、反対側の断面経路長が短い第2振動板部22の方向に指向性が弱まる。偏心コーン形振動板であるスピーカー振動板2の指向特性が強まる方向Rは、偏心した位置に取り付けられるボイスコイル4の中心軸Qに対して第1振動板部21の方に角度θ(約10°〜約40°)だけ傾斜した方向になる。
【0035】
また、偏心コーン形振動板であるスピーカー振動板2を備える動電型スピーカー1は、より広い面積を有する第1振動板部21の方が、相対的に狭い面積の第2振動板部22よりも重量が重くなるので、スピーカー振動系の重量バランスの偏りが、長軸x方向で生じやすい。本実施例の動電型スピーカー1では、スピーカー振動板2の第1振動板部21よりも軽量な第2振動板部22の方に金属ハトメを設けて、ここにコイル4bの引出線と錦糸線9とを引き出してきて、これらをハンダづけして導通させて、音声電流をターミナル7からコイル4bに導通させる。その結果、長軸xの方向でスピーカー振動系の重量バランスの偏りが小さくなるので、スピーカー振動板2、エッジ3、および、ボイスコイル4が大きく振幅する最低共振周波数f0を含む周波数帯域でも、長軸xの方向にも大きく振動するようなローリングが抑制される。重量バランスの偏りを解消しようとするバランサーをさらに備えるわけではないので、スピーカー振動系の重量増加が最小限に抑えられて、動電型スピーカーの再生能率を高めることができる。
【0036】
さらに、本実施例のスピーカー振動板2を振動可能に支持するエッジ3は、その支持可動部33と長軸xを含む断面平面Xと交叉する位置に、放射状に溝を形成する複数のリブ35および36を有する。具体的には、図3(a)の平面図に示すように、本実施例のリブ35は、内形中心点Pから遠くの短辺側であって、支持可動部33と長軸xとが交叉する断面平面X上の第1位置に配置されるリブ35aと、支持可動部33のロールの断面経路長が大きくなる角部に配置されるリブ35bおよび35cと、からなる。また、本実施例のリブ36は、内形中心点Pから近くの短辺側であって、支持可動部33と長軸xとが交叉する断面平面X上の第2位置に配置されるリブ36aと、支持可動部33のロールの断面経路長が大きくなる角部に配置されるリブ36bおよび36cと、からなる。
【0037】
それぞれのリブ35a〜36cは、支持可動部33の径方向の断面が半径約2.0mmの前面側凸状のロールに対して、いずれも幅が約2.0mmで深さが約1.0mmの前面側凹状の放射状溝を形成するので、エッジ3の短辺側において支持可動部33のロールを効果的に補強する。つまり、それぞれのリブ35a〜36cは、長軸xと交叉する短辺での支持可動部33のスティフネスを、リブを設けない他の部分のスティフネスに比較して小さくする。
【0038】
本実施例のエッジ3のリブ35aおよびリブ36aは、長軸xを含む断面平面X上に配置されていて、中心点Oに対して点対称の関係にある。また、リブ35bとリブ35cとは、長軸xに対してそれぞれ約40°の角度で交わる直線上に配置されていて、かつ、お互いに長軸xに対して線対称の関係になるように配置されている。リブ36bおよびリブ36cも、同様である。また、エッジ3のリブ35bおよびリブ36bは、外形中心点Oに対して点対称の関係にあり、リブ35cおよびリブ36cも、同様に外形中心点Oに対して点対称の関係にある。その結果、本実施例のエッジ3では、支持可動部33が有する複数のリブが、内形中心点Pから遠くに配置される第1リブ群35と、内形中心点から近くに配置される第2リブ群36と、に分けられ、第1リブ群35と第2リブ群36のリブの数が3つずつで同数である。
【0039】
その結果、本実施例のエッジ3を備える動電型スピーカー1は、偏心コーン形振動板であるスピーカー振動板2を備えるにも関わらず、長軸xの方向でのローリングを抑制することができる。図3(b)のグラフは、定格の入力信号4.9Vrmsの正弦波信号をボイスコイル4のコイル4bに加えた場合において、横軸に示す周波数を変化させたときに、縦軸に長軸xの方向でのローリング変位振幅の絶対値をとるようにした周波数特性である。ローリング変位振幅の測定点は、記号c1が、図2(b)の断面図で図示するスピーカー振動板2の第2振動板部22がエッジ3と連結される外周側の端点であって、記号v1が、図2(b)の断面図で図示するボイスコイル4の下側の端点であって、ともに長軸xを含む断面平面X上に規定される点である。
【0040】
例えば、磁気回路10の磁気空隙13に配置されるボイスコイル4のコイル4bは、磁気空隙13を構成するプレート11またはポール12との間隔が約0.15mm程度以上になるように設計される。したがって、これらのグラフが示すローリング変位振幅の絶対値は、定格の入力信号の場合であるので、基本的にはボイスコイル4が磁気回路10の磁気空隙13に接触して異音を発生するなどの動作不良を生じるような大きさではない。ただし、グラフの縦軸に示す長軸xの方向でのローリング変位振幅が大きくなれば、その周波数帯域では、ローリングが大きくなって動作が不安定になり、連続負荷試験などで動電型スピーカー1を長期に渡って駆動する結果、スピーカー振動系を振動可能に支持するエッジ3およびダンパー5が疲労して、ボイスコイル4が磁気回路10の磁気空隙13に接触して異音を発生するなどの動作不良を生じやすくなる。
【0041】
図3(b)のグラフに示すように、本実施例の動電型スピーカー1の長軸xに沿った長径方向のローリング変位は、最低共振周波数f0=約195Hz付近と、スピーカー振動板2の外周部分が分割振動を始める約500〜700Hz付近で他の周波数帯域に比較して大きくなるものの、その絶対値は、ボイスコイル4の下側の端点v1でも、スピーカー振動板2の外周側の端点c1でも、約0.05mm以下に抑制されている。したがって、本実施例の動電型スピーカー1の場合には、ローリングが発生しても、
【0042】
磁気空隙13に接触して異音を発生するなどの動作不良を抑制することができる。また、スピーカー振動板2の外周側の端点c1付近でのローリングを抑制することで、エッジ3のバタツキが抑制されるので、より再生音質に優れた動電型スピーカー1を実現できる。
【0043】
なお、エッジ3は、繊維の織布を基材として熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂を含浸して加熱成形するものに限定されない。エッジ3は、柔軟性を有する発泡ゴムを金型内に注入して加熱発泡して形成したものであってもよく、支持可動部33がロール形状である場合に限らず、外形中心点Oおよび内形中心点Pを含む断面平面Xと交叉する位置に放射状に溝を形成するリブを有していれば、複数のコルゲーションからなるコルゲーションエッジでも良い。
【実施例2】
【0044】
図4は、先の実施例のエッジ3に代えて動電型スピーカー1を構成する他のエッジ3aを説明する平面図、および、その場合の動電型スピーカー1の長径方向のローリング変位を表すグラフである。エッジ3aは、図4(a)に示すように、複数のリブ35および36の構成がエッジ3の場合と異なる他は、同様の材料と形状を有するエッジである。したがって、共通するところには共通する図番を付して、説明を省略する。
【0045】
つまり、本実施例のエッジ3aは、支持可動部33と長軸xを含む断面平面Xと交叉する位置にリブ35aおよびリブ36aを備え、先の実施例でのリブ35b、35c、36b、および、36cを備えないエッジである。本実施例のエッジ3aのリブ35aおよびリブ36aは、長軸xを含む断面平面X上に配置されていて、中心点Oに対して点対称の関係にある。長軸xに交叉する位置に配置されるリブ35aおよびリブ36aは、ローリングを抑制する最小の構成である。
【0046】
図4(b)のグラフに示すように、本実施例のエッジ3aを備える動電型スピーカー1の長軸xに沿った長径方向のローリング変位は、最低共振周波数f0=約195Hz付近で、ボイスコイル4の下側の端点v1において先の実施例の場合よりもローリング変位が大きくなるものの、その絶対値は約0.05mm以下に抑制されている。したがって、本実施例のエッジ3aを備える動電型スピーカー1の場合には、偏心コーン形振動板であるスピーカー振動板2を備えるにも関わらず、ローリングが発生しても、磁気空隙13に接触して異音を発生するなどの動作不良を抑制することができる。また、スピーカー振動板2の外周側の端点c1付近でのローリングを抑制することで、エッジ3aのバタツキが抑制されるので、より再生音質に優れた動電型スピーカー1を実現できる。
【実施例3】
【0047】
図5は、先の実施例のエッジ3、3aに代えて動電型スピーカー1を構成し得る他のエッジ3bを説明する平面図、および、長径方向のローリング変位を表すグラフである。エッジ3bは、図5(a)に示すように、複数のリブ35および36の構成がエッジ3の場合と異なる他は、同様の材料と形状を有するエッジである。つまり、エッジ3bは、支持可動部33が長軸xを含む断面平面Xと交叉する位置にリブ35aおよびリブ36aを備え、また、支持可動部33のロールの断面経路長が大きくなる角部に配置されるリブ36bおよび36cを備え、先の実施例でのリブ35b、および、35cを備えないエッジである。
【0048】
本実施例のエッジ3bのリブ35aおよびリブ36aは、長軸xを含む断面平面X上に配置されていて、中心点Oに対して点対称の関係にある。また、リブ36bとリブ36cとは、長軸xに対してそれぞれ40°の角度で交わる直線上に配置されていて、かつ、お互いに長軸xに対して線対称の関係になるように配置されている。本実施例のエッジ3bでは、支持可動部33が有する複数のリブが、内形中心点Pから遠くに配置されるひとつのリブ35aのみからなる第1リブ群35と、内形中心点から近くに配置される3つのリブ36a〜36cからなる第2リブ群36と、に分けられ、第1リブ群35のリブの数の方が、第2リブ群36のリブの数よりも少ない。
【0049】
図5(b)のグラフに示すように、本実施例のエッジ3bを備える動電型スピーカー1の長軸xに沿った長径方向のローリング変位は、図3(b)のグラフに示す先の実施例のエッジ3を備える場合と同様に、ボイスコイル4の下側の端点v1でも、スピーカー振動板2の外周側の端点c1でも、その絶対値は約0.05mm以下に抑制されている。したがって、本実施例のエッジ3bを備える動電型スピーカー1の場合には、偏心コーン形振動板であるスピーカー振動板2を備えるにも関わらず、ローリングが発生しても、磁気空隙13に接触して異音を発生するなどの動作不良を抑制することができる。また、スピーカー振動板2の外周側の端点c1付近でのローリングを抑制することで、エッジ3bのバタツキが抑制されるので、より再生音質に優れた動電型スピーカー1を実現できる。
【実施例4】
【0050】
図6は、先の実施例のエッジ3、3a、3bに代えて動電型スピーカー1を構成し得る他のエッジ3cを説明する平面図、および、長径方向のローリング変位を表すグラフである。エッジ3cは、図6(a)に示すように、複数のリブ35および36の構成がエッジ3の場合と異なる他は、同様の材料と形状を有するエッジである。つまり、エッジ3cは、支持可動部33が長軸xを含む断面平面Xと交叉する位置にリブ35aおよびリブ36aを備え、また、支持可動部33のロールの断面経路長が大きくなる角部に配置されるリブ35bおよび35cと、リブ36bおよび36cとを備えるエッジである。先の実施例のエッジ3の場合に比較して、リブ35b、リブ35c、リブ36bおよびリブ36cは、長軸xに対してそれぞれ60°の角度で交わる直線上に配置されている点で異なっている。
【0051】
本実施例のエッジ3cのリブ35aおよびリブ36aは、長軸xを含む断面平面X上に配置されていて、中心点Oに対して点対称の関係にある。また、リブ35bとリブ35cとは、長軸xに対してそれぞれ約60°の角度で交わる直線上に配置されていて、かつ、お互いに長軸xに対して線対称の関係になるように配置されている。リブ36bおよびリブ36cも、同様である。また、エッジ3cのリブ35bおよびリブ36bは、外形中心点Oに対して点対称の関係にあり、リブ35cおよびリブ36cも、同様に外形中心点Oに対して点対称の関係にある。その結果、本実施例のエッジ3cでは、支持可動部33が有する複数のリブが、内形中心点Pから遠くに配置される第1リブ群35と、内形中心点から近くに配置される第2リブ群36と、に分けられ、第1リブ群35と第2リブ群36のリブの数が3つずつで同数である。
【0052】
図6(b)のグラフに示すように、本実施例のエッジ3cを備える動電型スピーカー1の長軸xに沿った長径方向のローリング変位は、図3(b)のグラフに示す先の実施例のエッジ3を備える場合と比較しても分かるように、スピーカー振動板2の外周側の端点c1でのローリング変位の絶対値が約0.07mm程度に増加している。ただし、ボイスコイル4の下側の端点v1では、ローリング変位の絶対値は約0.05mm以下に抑制されている。したがって、本実施例の本実施例のエッジ3cを備える動電型スピーカー1の場合には、偏心コーン形振動板であるスピーカー振動板2を備えるにも関わらず、ローリングが発生しても、磁気空隙13に接触して異音を発生するなどの動作不良を抑制することができる。
(比較例1)
【0053】
図7は、先の実施例のエッジ3に代えて動電型スピーカー1を構成する比較例のエッジ30を説明する平面図、および、その場合の動電型スピーカー1の長径方向のローリング変位を表すグラフである。エッジ30は、図7(a)に示すように、先述の実施例のようなリブ35および36を備えないエッジである。そして、比較例のエッジ30を備える動電型スピーカー1(図示しない)は、後述するように、偏心コーン形振動板であるスピーカー振動板2を備える影響で、長軸xの方向でのローリングが大きくなる。
【0054】
図7(b)のグラフに示すように、比較例のエッジ30を備える動電型スピーカー1の長軸xに沿った長径方向のローリング変位は、最低共振周波数f0付近で、ボイスコイル4の下側の端点v1でも、スピーカー振動板2の外周側の端点c1でも、ローリング変位の絶対値が約0.07mmを超えて増加している。また、図3(b)のグラフに示す先の実施例のエッジ3を備える場合と比較しても分かるように、スピーカー振動板2の外周部分が分割振動を始める約500〜700Hz付近でも、ローリング変位の絶対値が増大する。したがって、比較例のエッジ30を備える動電型スピーカー1(図示しない)は、偏心コーン形振動板であるスピーカー振動板2を備える影響で、長軸xの方向でのローリングが大きくなり、磁気空隙13にボイスコイル4が接触して異音を発生するなどの動作不良が生じる場合がある。
【0055】
このように、本実施例のエッジ3、3a、3b、または、3cのいずれかを備える動電型スピーカー1は、比較例のエッジ30を備える場合に比較して、長径方向のローリング変位を抑制することができ、その結果、偏心コーン形振動板であるスピーカー振動板2を備えていても、再生能率が低下するバランサーを備えなくてもローリングを抑制することができ、異音を発生するなどの動作不良を抑制することができる。つまり、上記の実施例に限らず、エッジ3の支持可動部33が、偏心コーン形振動板である振動板本体2の外形中心点Oおよび内形中心点Pを含む断面平面Xと交叉する位置に、放射状に溝を形成するリブ35および36を有していれば、これらのリブが断面平面Xに沿う方向に動こうとする力に対して支持可動部33のロールを補強し、スピーカー振動系のローリングを抑制する。複数のリブの配置は上記の場合に限定されず、細長形のエッジ3の支持可動部の角部を補強する複数のリブをさらに備えるものであっても良い。
【実施例5】
【0056】
図8は、他の実施例の(図示しない)動電型スピーカー1aを構成する他のエッジ40を説明する平面図、および、その場合の動電型スピーカー1aのボイスコイルでのローリング変位を表すグラフである。動電型スピーカー1aは、外形が円形の偏心コーン形振動板であるスピーカー振動板25を備えるスピーカーである。上記の実施例と共通する部分には、共通する図番を付して、説明および図示を省略する。
【0057】
本実施例の動電型スピーカー1aは、口径が約12cmの円形のスピーカー振動板25を有するオブリコーンの動電型スピーカーである。スピーカー振動板25は、偏心コーン形振動板であって、エッジ40によってその外周端を支持されており、エッジ40の外周端は、(図示しない)フレームに固定されている。また、スピーカー振動板2の背面側には、(図示しない)ボイスコイルが連結しており、(図示しない)ダンパーにより振動可能に支持されている。また、本実施例の場合には、丸形のボイスコイルのボイスコイル径は、約20mmである。
【0058】
偏心コーン形振動板であるスピーカー振動板25は、パルプ材を抄紙および切断して形成した紙コーン振動板であり、外形中心点Oを中心とする円形の外周端28にエッジ40の内周部41が接着されている。また、スピーカー振動板25は、円形の外形に対して偏心した位置にある内形中心点Pを同心円の中心とする円形のボイスコイル取付部24を有する。ボイスコイル取付部24は、コーン形振動板のネック部分であって、ボイスコイルを構成する丸形の円筒状のボビンが接着される。偏心コーン形振動板であるスピーカー振動板2では、外形中心点Oと内形中心点Pとが、平面上での距離x0(約11mm)だけ離隔している。
【0059】
また、スピーカー振動板25は、内形中心点Pから外形中心点Oに向かう方向に規定される第1振動板部26と、第1振動板部とは略反対の方向に規定される第2振動板部27と、を有する偏心コーン形振動板である。偏心コーン形振動板であるスピーカー振動板25の外形中心点Oおよび内形中心点Pを含む平面として規定される断面平面Xは、図8に図示する外形中心点Oおよび内形中心点Pを通過する軸xを含む仮想的な平面である。スピーカー振動板25の第1振動板部26は、第2振動板部27よりも傾斜が緩やかな曲面であり、スピーカー振動板25の第2振動板部27は、第1振動板部26よりも狭い表面積を有している。
【0060】
エッジ40は、円形の内周部41と、円形の外周部42と、内周部41と外周部42との間に形成される支持可動部43の断面形状がロール形状のエッジである。このエッジ40の内周部41は、スピーカー振動板25の背面側から外周部28に接着されて連結される。エッジ40は、本実施例では、柔軟性を有する繊維の織布を基材として熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂を含浸して加熱成形するものであり、後述するように、その支持可動部43と断面平面Xと交叉する位置を中心にして、放射状に溝を形成する複数のリブ45および46を有する。本実施例のエッジ40のリブ45およびリブ46は、軸xを含む断面平面X上に配置されていて、中心点Oに対して点対称の関係にある。
【0061】
具体的には、図8(a)の平面図に示すように、本実施例のリブは、内形中心点Pから外形中心点Oを超えた遠方の位置であって、支持可動部43と軸xとが交叉する断面平面X上の第1位置に配置されるリブ45と、内形中心点Pから外形中心点Oとは反対側の位置であって、支持可動部43と軸xとが交叉する断面平面X上の第2位置に配置されるリブ36と、からなる。それぞれのリブ45および46は、支持可動部43の径方向の断面が半径約4.0mmの前面側凸状のロールに対して、いずれも幅が約4.0mmで深さが約2.0mmの前面側凹状の放射状溝を形成するので、エッジ40の軸xに沿った方向において支持可動部43のロールを効果的に補強する。つまり、それぞれのリブ5および46は、軸xと交叉する付近での支持可動部43のスティフネスを、リブを設けない他の部分のスティフネスに比較して小さくする。
【0062】
その結果、本実施例のエッジ40を備える動電型スピーカー1aは、偏心コーン形振動板であるスピーカー振動板25を備えるにも関わらず、軸xの方向でのローリングを抑制することができる。図8(b)のグラフは、定格の入力信号2.0Vrmsの正弦波信号をボイスコイルのコイルに加えた場合において、横軸に示す周波数を変化させたときに、縦軸に軸xの方向でのローリング変位振幅の絶対値をとるようにした周波数特性である。ローリング変位振幅の測定点は、先の実施例の場合と同様に、記号v1が、ボイスコイルの下側の端点であって、軸xを含む断面平面X上に規定される点である。
【0063】
図8(b)のグラフの実線に示すように、本実施例の動電型スピーカー1aの軸xに沿った方向のローリング変位は、最低共振周波数f0=約90Hz付近と、スピーカー振動板25の外周部分が分割振動を始める約400〜600Hz付近で他の周波数帯域に比較して大きくなるものの、その絶対値は、ボイスコイルの下側の端点v1で、約0.03mm以下に抑制されている。特に、最低共振周波数f0=約90Hz付近では、横揺れが非常に少なくなっている。したがって、本実施例の動電型スピーカー1aの場合には、ローリングが発生しても、磁気空隙に接触して異音を発生するなどの動作不良を抑制することができ、再生音質を向上させることができる。
(比較例2)
【0064】
また、図8(b)のグラフの破線に示すのは、先の実施例のエッジ40に代えて動電型スピーカーを構成する比較例の(図示しない)エッジ100を用いる場合に、軸xに沿った方向のローリング変位を表すグラフである。比較例のエッジ100は、先の実施例のエッジ40とほぼ同形状のロールエッジであって、先述の実施例のようなリブ45および46を備えないエッジである。そして、比較例のエッジ40を備える動電型スピーカー(図示しない)は、偏心コーン形振動板であるスピーカー振動板25を備える影響で、軸xの方向でのローリングが大きくなる。
【0065】
図8(b)のグラフの破線に示すように、比較例のエッジ100を備える動電型スピーカー1aの軸xに沿った方向のローリング変位は、最低共振周波数f0付近で、ボイスコイルの下側の端点v1において、ローリング変位の絶対値が約0.02mmを超えて増加している。したがって、比較例のエッジ100を備える動電型スピーカー1a(図示しない)は、偏心コーン形振動板であるスピーカー振動板25を備える影響で、軸xの方向でのローリングが大きくなり、磁気空隙にボイスコイルが接触して異音を発生するなどの動作不良が生じる場合がある。したがって、本実施例のエッジ40を備える動電型スピーカー1aは、比較例のエッジ100を備える場合に比較して、軸xに沿った方向のローリング変位を抑制することができ、その結果、偏心コーン形振動板であるスピーカー振動板25を備えていても、再生能率が低下するバランサーを備えなくてもローリングを抑制することができ、異音を発生するなどの動作不良を抑制することができる。
【0066】
つまり、上記の実施例に限らず、エッジ40の支持可動部43が、偏心コーン形振動板である振動板本体25の外形中心点Oおよび内形中心点Pを含む断面平面Xと交叉する位置に、放射状に溝を形成するリブ45および46を有していれば、これらのリブが断面平面Xに沿う方向に動こうとする力に対して支持可動部43のロールを補強し、スピーカー振動系のローリングを抑制する。もちろん、リブの配置は上記の場合に限定されず、リブ45および46に近接して、これらを補強する複数のリブをさらに備えるものであっても良い。また、エッジ40の内周部41は、スピーカー振動板25の背面側から外周部43に接着する場合に限られず、スピーカー振動板25の前面側から外周端28に接着してもよい。
【0067】
なお、本実施例の動電型スピーカーは、外形が上記のトラック形、あるいは、円形の偏心コーン形振動板であるスピーカー振動板に限らず、楕円形、長円形、長方形、矩形といった長径寸法と短径寸法との比が大きい細長形の動電型スピーカーであればよい。また、偏心した位置にある内形中心点Pにより規定されるボイスコイル取付部も、上記の円形に限らずにトラック形、あるいは、楕円形であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の動電型スピーカーは、車両、あるいは、ディスプレイ等の映像・音響機器に内蔵するスピーカーとしてのみならず、音声を再生するスピーカーを内蔵するキャビネットを有するゲーム機、スロットマシン等の遊戯機にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0069】
1、1a 動電型スピーカー
2、25 スピーカー振動板
20、24 ボイスコイル取付部
21、26 第1振動板部
22、27 第2振動板部
23、28 外周端
3、3a、3b、3c、30、40、100 エッジ
31、41 内周部
32、42 外周部
33、43 支持可動部
34 ガスケット
4 ボイスコイル
5 ダンパー
6 フレーム
7 ターミナル
8 ダストキャップ
9 錦糸線
10 磁気回路
11 トッププレート
12 ポール
13 磁気空隙
14 マグネット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外形と内形とを有するコーン形の振動板本体と、該振動板本体の外周縁を支持するエッジと、を備えるスピーカー振動板であって、
該振動板本体が、外形中心点Oに対して偏心した内形中心点Pにより規定されるボイスコイル取付部を有する偏心コーン形振動板であり、
該エッジが、該振動板本体の該外周縁に固定される内周部とフレームに固定される外周部との間でロールを形成する支持可動部を有し、
該エッジの該支持可動部が、該外形中心点Oおよび該内形中心点Pを含む断面平面Xと交叉する位置に、放射状に溝を形成するリブを有する、
スピーカー振動板。
【請求項2】
前記振動板本体と、前記エッジとが、長径方向と短径方向とを有する細長形のスピーカー振動板であって、
該振動板本体の該長径方向を規定する軸xが、前記断面平面Xに含まれるように配置され、
該エッジの前記支持可動部が、該細長形の角部に、さらに前記リブを有する、
請求項1に記載のスピーカー振動板。
【請求項3】
前記振動板本体の前記外形が、前記軸xを長径方向とするトラック形である、
請求項2に記載のスピーカー振動板。
【請求項4】
前記エッジの前記支持可動部が有する複数の前記リブが、前記軸xに対して線対称になるように配置されている、
請求項1から3のいずれかに記載のスピーカー振動板。
【請求項5】
前記エッジの前記支持可動部が有する複数の前記リブが、前記外形中心点Oに対して点対称になるように配置されている、
請求項1から4のいずれかに記載のスピーカー振動板。
【請求項6】
前記エッジの前記支持可動部が有する複数の前記リブが、前記内形中心点Pから遠くに配置される第1リブ群と、該内形中心点から近くに配置される第2リブ群と、を形成し、該第1リブ群の該リブの数が、該第2リブ群の該リブの数と同数である、または、少なくなるように構成されている、
請求項1から5のいずれかに記載のスピーカー振動板。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のスピーカー振動板と、磁気空隙該を有する磁気回路と、該スピーカー振動板の前記ボイスコイル取付部に取り付けられるボビンと、該ボビンに巻回されて磁気回路の磁気空隙に配置されるコイルと、を有するボイスコイルと、
を備える、動電型スピーカー。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−252034(P2010−252034A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99036(P2009−99036)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(000000273)オンキヨー株式会社 (502)
【Fターム(参考)】