説明

スプレッダーとそれを用いた床基材への接着剤塗布方法

【課題】床基材の裏面に部分的に接着剤を塗布することのできるスプレッダーを得る。
【解決手段】コーティングロール10とそれに対向するドクターロール20とを少なくとも備えスプレッダーAにおいて、コーティングロール10には一部に小径領域11を形成し、ドクターロール20にはコーティングロール10の前記小径領域11に入り込む大径領域21を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状の接着剤を塗布するのに用いられるスプレッダーとそれを用いた床基材への接着剤塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コーティングロールとそれに対向するドクターロールとを備え、コーティングロールとドクターロールとの対向している領域に液状の接着剤をホッパーなどから流し込み、表面に接着剤をコーティングした状態のコーティングロールを床材裏面のような被塗布物に接触させることによって、被塗布物に接着剤を塗布することが行われている(例えば特許文献1など参照)。両ロールの軸間距離を制御したり床材の送り速度を変えたりすることによって塗布量を調整することも行われている。通常、コーティングロールおよびドクターロールは、共に、全ロール長にわたって等しい直径のものが用いられ、床基材のような被塗布物の全表面に等しく接着剤が塗布される。
【0003】
合板やMDFのような木質繊維板を基材とする床材も知られている。床材を床下地に敷き詰めたフローリングでの防音性や遮音性を改善するために、不織布や合成樹脂発泡体のような基材とは異なった材料である緩衝材を床基材の裏面に貼着することも行われる。さらに、遮音性あるいは防音性を高めるために、床基材と緩衝材とを部分接着することも提案されている(特許文献2,3など参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平5−138608号公報
【特許文献2】実公平7−4266号公報
【特許文献3】特開2000−274064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
床基材と緩衝材とを全面接着でなく部分接着とすることにより、前記のように遮音性あるいは防音性の改善が期待されることに加え、全面接着の場合と比較して、両者が分離しやすくなることから、床基材とは異なった材料である緩衝材を貼着した防音床材を廃棄処理するようなときに、資源の分別回収を容易化する。
【0006】
しかし、従来のスプレッダーでは床基材の裏面に部分的に接着剤を塗布することは困難であり、接着剤を部分的に塗布する作業は通常手作業で行わざるを得ず、大きな作業負担となっている。そのために、環境保全などの観点から使用している材料毎に分別回収の容易な防音床材の普及が望まれているにもかかわらず、その普及は遅れており、施工現場で出てくる端材としての防音床材、あるいはフローリングのリフォーム時などに出てくる使用済みの防音床材などは、産業廃棄物として処分せざるを得ないのが現状である。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、例えば床基材のような被塗布物に対して接着剤を部分的に塗布することができるようにした改良されたスプレッダーを提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、そのようなスプレッダーを用いて床基材に部分的に接着剤を塗布する方法を提供することにある。
【0008】
本発明による方法によって部分的に接着剤が塗布された床基材に緩衝材を貼着して形成される防音床材であっては、必要なときに床基材から緩衝材を剥がして分離する作業をきわめて容易に行うことができるので、施工現場での資源の分別回収が容易となり、発生する産業廃棄物量を低減することができる。このことも、本発明の目的の一つである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明によるスプレッダーは、コーティングロールとそれに対向するドクターロールとを少なくとも備えるスプレッダーであって、コーティングロールには一部に1箇所または1箇所以上の小径領域が形成されており、ドクターロールにはコーティングロールの前記小径領域に入り込む大径領域が形成されていることを特徴とする。
【0010】
また、上記課題を解決するための床基材への接着剤塗布方法は、上記の構成を備えたスプレッダーに床基材を送り込み、コーティングロールの前記小径領域を除いたロール表面において接着剤を床基材に塗布することを特徴とする。
【0011】
本発明によるスプレッダーにおいても、液状の接着剤は従来のスプレッダーと同様にコーティングロールとドクターロールとの対向している領域にホッパーなどから流し込まれる。接着剤はコーティングロールとドクターロールとの軸間距離により調整された厚みでコーティングロールのロール表面にコーティングされた状態となり、コーティングロールの回転によりその接着剤は被塗布物の表面に転写塗布される。
【0012】
本発明によるコーティングロールは一部に1箇所または1箇所以上の小径領域が形成されており、その領域は被塗布物の表面に接触しないので、その部分にコーティングされている接着剤が被塗布物側に転写塗布されることはない。すなわち、被塗布物表面での接着剤の塗布領域および塗布面積は、コーティングロールに形成した前記小径領域の位置や面積に依存することとなり、小径領域の被塗布物表面に対する位置や面積比を適宜設定することにより、所望の位置に接着剤が部分塗布された被塗布物を容易に調製することができる。
【0013】
本発明によるスプレッダーにおいて、コーティングロールのロール表面と前記小径領域との直径の差は2mm〜50mm程度であることが好ましい。差が2mmより小さいと、小径領域の表面と被塗布物の表面との間が狭すぎて、小径領域の表面にコーティングしている液状接着剤が部分的に被塗布物側に転写してしまうことが起こりやすいので好ましくない。また、差が50mmを超えると、コーティングロールのロール表面と前記小径領域との接続面と、ドクターロールのロール表面と前記大径領域との接続面との接触面積が大きくなり、結果として摩擦が大きくなることから、接着剤の扱いが困難となる。
【0014】
本発明によるスプレッダーにおいて、コーティングロールのロール表面と前記小径領域との接続面とドクターロールのロール表面と前記大径領域との接続面とは、それぞれのロールの軸心線に対する垂直面ではなく傾斜面とされていることが好ましい。双方をこのような傾斜面とすることにより、2つのローラ間に生じる接触摩擦を低減することができ、接着剤の扱いが容易となる。傾斜の角度は等しくてもよいが、コーティングロール側の接続面の傾斜角度をドクターロール側の接続面の傾斜角度よりも数度程度小さな角度とすることにより、接着剤の取り扱い性を維持したままで、より摩擦を低減することができる。
【0015】
本発明によるスプレッダーにおいて、コーティングロールの材質や硬度に特に制限はなく、被塗布物の材質や接着剤の物性などに応じて適宜選択される。被塗布物が木質系材料の場合、ゴムやスポンジなどの樹脂系材料が好ましい。ロール基材である鋼材の表面にこの種材料からなる被膜を形成するようにしてもよい。
【0016】
本発明によるスプレッダーは平坦な塗布面を持つ任意の被塗布物に対して部分的に接着剤を塗布するのに有効に用いることができる。被塗布物としては、例えば、床基材、壁基材または天井基材などが挙げられる。
【0017】
本発明の床基材への接着剤塗布方法による場合、すなわち、被塗布物が床基材である場合、対象となる床基材には、従来の床材で用いられている床基材を任意に用いることができる。合板が一般的であるが、MDFなどの木質繊維板を含む加工木質材であってもよい。床基材の表面には銘木単板のような化粧が施されていてもよい。そのような床基材の裏面側に本発明による方法によって接着剤が塗布される。床基材は矩形状であってもよく、雁木状であってもよい。複数本の長尺状の単位床基材を接着剤により雁木状に一体化したものでもよい。いずれの場合も、周囲にさねが形成されていてもよい。
【0018】
本発明の方法により、床基材の裏面には接着剤が間隔をおいて複数本の線状に塗布されるが、合計の塗布面積は床基材裏面の20〜80%程度があることが好ましい。20%より少ないと施工時や製品搬送時などに貼着した緩衝材(特に限定はされないが、不織布や合成樹脂発泡体が一般的である)が不用意に剥がれる恐れがある。また、80%を超えると貼着した緩衝材の剥離が困難となり、施工現場等での分別回収が困難となり、産業廃棄物低減の目的が達成できない。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、任意の被塗布物に対して、容易に部分的に接着剤を塗布することができる。そのために、被塗布物が床基材であり、裏面に緩衝材を貼り付けて防音床材としたとき、必要なときに、貼り付けた緩衝材を容易に床基材から分離することができ、資源の分別回収がきわめて容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明を実施の形態に基づき説明する。図1は本発明によるスプレッダーを用いて被塗布物(床基材)に接着剤を塗布している状態を示す側面図であり、図2はそれを上から見て示す図である。図3はコーティングロールとそれに対向するドクターロールとを拡大して示す斜視図であり、図4はその一部をさらに拡大して示している。
【0021】
この例において、スプレッダーAは、コーティングロール10とそれに対向するドクターロール20とを備え、コーティングロール10とドクターロール20とが対向している位置の上方には接着剤用のホッパー30が位置している。コーティングロール10とドクターロール20とは互いのロール表面にごくわずかな距離を保つようにして平行に配置されており、図示しない駆動装置により矢印方向の回転が与えられる。
【0022】
ホッパー30内には液状の接着剤31が貯留され、接着剤31はコーティングロール10とドクターロール20とが対向する領域に流下する。流下した接着剤31は、2つのロールの回転につれて、コーティングロール10とドクターロール20との間の間隙に規制された厚みでロール表面にコーティングされ、ロールの回転方向に移送される。
【0023】
スプレッダーAの下方には被塗布部材である床基材Bを支持しかつ送るための送りローラ1・・が位置しており、接着剤塗布に際して、床基材Bは接着剤を塗布すべき面(裏面)をコーティングロール10側にして、送りローラ1上を矢印P方向に送られる。送りの過程で、床基材Bの裏面はコーティングロール10のロール面に接触し、コーティングロール10のロール表面にコーティングされた状態で送られてくる接着剤31が、床基材Bの裏面側に転写塗布される。なお、このスプレッダーAによる被塗布部材(床基材B)への接着剤塗布態様は、従来のスプレッダーによる場合と同様である。
【0024】
図3,図4によく示すように、本発明によるスプレッダーAにおいて、コーティングロール10とドクターロール20のロール表面の形状が、従来のスプレッダーと相違している。すなわち、コーティングロール10は、一部に、半径d1がコーティングロール10の半径D1よりも長さsだけ小さくされた小径領域11を有しており、一方、ドクターロール20は、コーティングロール10の小径領域11に対向する部分に、半径d2がドクターロール20の半径D2よりも長さsだけ大きくされた大径領域21を有している。図示の例では、コーティングロール10には前記小径領域11が4個形成されており、その間には、幅の狭いロール表面領域12が3個存在している。ドクターロール20には、4個の小径領域コーティングロール10の小径領域11に対向する部分に、前記大径領域21が4個形成されており、その間には、幅の狭いロール表面領域22が3個存在している。
【0025】
コーティングロール10とドクターロール20とを軸心線X1,X2を平行にして接近させると、小径領域11と大径領域21とは互いに入り込んだ状態となり、最も接近した位置では、その領域も含めて、ロール表面に軸心線X1,X2に平行な1つの線接触領域が形成される。軸心線X1,X2の間隔をわずかに広げると、広げた距離だけの隙間がコーティングロール10とドクターロール20との間に形成され、その隙間を通して接着剤31はロール回転方向の下流側に移動する。移動した接着剤31はコーティングロール10およびドクターロール20のロール表面にコーティングされた状態で回転方向のさらに送られる。
【0026】
上記の構成であるコーティングロール10とドクターロール20を持つ本発明によるスプレッダーAでは、被塗布物である床基材Bの裏面には、コーティングロール10の前記した小径領域11は接触しない。そのために、図2に示すように、床基材Bの裏面にはロール表面の小径領域11を除いた部分にコーティングされた接着剤31だけが転写塗布されることとなる。この例では、3個の幅の狭いロール表面領域12にコーティングされた接着剤31と、その両側のロール表面領域13にコーティングされた接着剤31の一部のみが転写塗布され、容易に接着剤31が部分塗布された床基材を得ることができる。
【0027】
図からわかるように、コーティングロール10における前記小径領域11の幅や個数、狭いロール表面領域12の幅を適宜調節することにより、床基材Bの裏面への接着剤塗布パターンや塗布面積を容易に調整することができる。それに応じてドクターロール20の形状を調整することは当然に必要となる。
【0028】
コーティングロール10のロール表面と前記小径領域11との接続面14と、ドクターロール20のロール表面と前記大径領域21との接続面24とは、ロールの軸心線X1,X2に対する垂直面であっても差し支えない。しかし、2つのロール10,20の接着剤を介しての接触領域が、全体が同じ直径のロールの場合と比較して、その領域分だけ増加し、接着剤31を送り出すときの摩擦抵抗が大きくなる。それを回避するために、図示のロール10,20では、双方の接続面14,24をロールの軸心線X1,X2に対する垂直面ではなく、傾斜面としている。このように傾斜面とすることにより、摩擦抵抗の増加を抑制することができる。
【0029】
軸心線X1,X2に対する接続面14,24の傾斜角α1、α2は等しくてもよいが、接続面14の傾斜角α1を接続面24の傾斜角α2よりもわずかに小さい角度とすることにより、より摩擦抵抗を小さくすることができ、接着剤31の取り扱いが一層容易となる。
【0030】
図示しないが、前記したように、このようにして裏面に接着剤31を部分塗布した木質系の床基材Bに不織布や合成樹脂発泡体のような異種材料である緩衝材を貼り付けて防音床材とした場合、必要なときに緩衝材を床基材Bから引き剥がす作業がきわめて容易となる。そのために、施工現場などでの資源の分別回収が容易となり、産業廃棄物量を低減することができる利点がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明によるスプレッダーを用いて被塗布物(床基材)に接着剤を塗布している状態を示す側面図。
【図2】図1の状態を上から見て示す図。
【図3】コーティングロールとそれに対向するドクターロールとを拡大して示す斜視図。
【図4】コーティングロールとドクターロールの一部をさらに拡大して示す図。
【符号の説明】
【0032】
A…スプレッダー、B…床基材、X1,X2…各ロールの軸心線、10…コーティングロール、11…小径領域、14…コーティングロールロール表面と小径領域との接続面、20…ドクターロール、21…大径領域、22…幅の狭いロール表面領域、24…ドクターロールのロール表面と大径領域との接続面、α1、α2…接続面が軸心線とのなす傾斜角、30…接着剤用のホッパー、31…接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティングロールとそれに対向するドクターロールとを少なくとも備えるスプレッダーであって、コーティングロールには一部に1箇所または1箇所以上の小径領域が形成されており、ドクターロールにはコーティングロールの前記小径領域に入り込む大径領域が形成されていることを特徴とするスプレッダー。
【請求項2】
コーティングロールのロール表面と前記小径領域との直径の差が2mm〜50mmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載のスプレッダー。
【請求項3】
コーティングロールのロール表面と前記小径領域との接続面とドクターロールのロール表面と前記大径領域との接続面は、それぞれのロールの軸心線に対する垂直面ではなく傾斜面とされていることを特徴とする請求項1または2に記載のスプレッダー。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のスプレッダーに床基材を送り込み、コーティングロールの前記小径領域を除いたロール表面において接着剤を床基材に塗布することを特徴とする床基材への接着剤塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−50335(P2007−50335A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−236804(P2005−236804)
【出願日】平成17年8月17日(2005.8.17)
【出願人】(000000413)永大産業株式会社 (243)
【Fターム(参考)】