説明

スリット構造

【課題】コンクリート打設時の側圧に対する強度的な信頼性を高めたスリット構造を提供する。
【解決手段】コンクリート構造物の柱12と壁14の境界部に設けるスリット構造10であって、スリット本体16を前後両側から係合支持する略コ字状断面の支持部材18と、この支持部材18を介してスリット本体16の前後に隣接配置した目地棒20とを備え、支持部材18と目地棒20とコンクリート型枠22とをボルト24と平ナットプレート36で固定し、スリット本体16の側面に溝型鋼26を上下方向に沿わせてスリット本体16を補強し、スリット本体16の側方に間隔をあけて配置するセパレータ30を補強金具32に貫通し、この補強金具32とスリット本体16とを連結ボルト34で固定するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の柱と壁の接合部などの構造体同士の境界部に設ける耐震用のスリット構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ビル等のコンクリート構造物において、柱と壁の接合部など構造体同士の境界部分に、垂直に延びる構造スリットを設けて構造的に分断し、地震の揺れによる損傷等の低減を図ることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図4は、特許文献1のスリット構造の概略の平面断面図である。図4に示すように、このスリット構造1は、スリット材本体2と、スリット材本体2を両側から係合支持する略コ字状断面の支持部材3、4と、支持部材3、4相互間に架設される補助部材5とから構成される。スリット材本体2は目地棒を兼ねた固定部材8、9を介して型枠6、7に取り付けられる。固定部材8、9を型枠6、7に固定する方法としては、釘打ちが一般に利用されている。目地棒を含むスリット全体としては、せき板同士を固定するセパレータの締め付けにより、せき板間に挟まれる形で固定される。また、補強部材5は、コンクリートが先に打設される側(例えば柱側)の反対側(例えば壁側)に架設され、打設時に作用する側圧による支持部材3、4相互間の拡がりを防止してスリット材本体2の変形や外れを回避している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−194920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来のスリット構造は、コンクリート打設時に一気にコンクリートを打設すると、耐力上の問題から目地棒やスリット材本体に曲がりが発生するおそれがあった。こうした曲がりが発生すると、コンクリート硬化後にスリット材本体が柱側に食い込んだり、スリット材本体が左右に湾曲するもととなる。この対策として、スリット構造の両側を、例えば高さ1mづつ交互にコンクリート打設する方法が知られている。しかし、施工条件が複雑となって作業の効率の低下と手順の間違いを招くおそれがあった。
【0006】
また、上記のとおり、目地棒を固定する方法としては、釘打ちが一般に利用されている。しかし、釘が真っ直ぐに打てない等の問題があり、強度的な信頼性が低い構造となるおそれもあった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、コンクリート打設時の側圧に対する強度的な信頼性と、曲げに対する防御性を高めたスリット構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係るスリット構造は、コンクリート構造物の柱と壁の境界部に設けるスリット構造であって、スリット本体を前後両側から係合支持する略コ字状断面の支持部材と、この支持部材を介してスリット本体の前後に隣接配置した目地棒とを備え、この支持部材とこの目地棒とコンクリート型枠とをボルトと平ナットプレートで固定したことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項2に係るスリット構造は、上述した請求項1において、スリット本体の側面に溝型鋼を上下方向に沿わせてスリット本体を補強するとともに、スリット本体の側方に間隔をあけて配置するセパレータを補強金具に貫通し、この補強金具とスリット本体とを連結ボルトで固定したことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項3に係るスリット構造は、上述した請求項1または2において、支持部材と目地棒とコンクリート型枠とを固定するボルトを、コンクリート打設後に取り外し可能に構成したことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項4に係るスリット構造は、上述した請求項1〜3のいずれか一つにおいて、溝型鋼をスリット本体の両側面に上下方向に沿わせ、補強金具からの連結ボルトを、スリット本体を貫通して奥側の溝型鋼に固定したことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項5に係るスリット構造は、上述した請求項1〜4のいずれか一つにおいて、連結ボルトの頭部に緩衝材を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コンクリート構造物の柱と壁の境界部に設けるスリット構造であって、スリット本体を前後両側から係合支持する略コ字状断面の支持部材と、この支持部材を介してスリット本体の前後に隣接配置した目地棒とを備え、この支持部材とこの目地棒とコンクリート型枠とをボルトと平ナットプレートで固定したので、コンクリート打設時の側圧に対する強度的な信頼性を高めることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明に係るスリット構造の実施例を示す平面断面図である。
【図2】図2は、スリット構造の部分概略斜視図である。
【図3】図3は、補強金具の部分概略斜視図である。
【図4】図4は、従来のスリット構造の一例を示す平面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係るスリット構造の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0016】
図1〜図3に示すように、本発明に係るスリット構造10は、コンクリート構造物の柱12と壁14の境界部に設けるスリット構造であって、発泡スチロールやフェノールボードからなるスリット本体16と、スリット本体16を前後両側から係合支持する略コ字状断面の支持部材18と、この支持部材18を介してスリット本体16に隣接配置した目地棒20とを備える。支持部材18と目地棒20とせき板22(コンクリート型枠)とは、ボルト24と平ナットプレート36で固定してある。このように、釘を用いずに高剛性で固定力の強いボルト24と平ナットプレート36で固定することで、目地棒20の曲がりの発生を防ぐことができる。なお、このボルト24は、コンクリート打設後に取り外し可能に構成してある。
【0017】
また、スリット本体16の左右側面には、溝型鋼26を上下方向に沿って設けてある。この溝型鋼26は、ウェブ外面がスリット本体16の側面に対向してあり、フランジ部分がリブとして作用し、コンクリート打設時の側圧に対する曲げ剛性を高めることができる。
【0018】
この溝型鋼26は、階高にもよるが、例えば、床面から立ち上げてスリット本体16の高さ1〜3m程度までの範囲に架設される。このようにすれば、スリット本体16の剛性を高めて、柱12と壁14のいずれか一方の側のみに高さ4m程度までコンクリートを一度に打設しても、打設時の側圧によってスリット本体16が左右に曲がることを防ぐことができる。
【0019】
また、この溝型鋼26は、スリット本体16の上に設置した上層のスリット本体を支持可能なように、上下層間の継ぎ目を跨いで上層に幾分被るように配置することもできる。例えば、この被りの長さを5cm程度として、上層のスリット本体の下端の強度補強も兼ねるようにしてもよい。
【0020】
また、スリット本体16の側方には、間隔をあけてナット28付きのセパレータ30が配置される。セパレータ30は、補強金具32に貫通してある。具体的には、この補強金具32は、山形鋼38とその両端に蓋をするように取り付けた端板40とからなり、セパレータ30は端板40同士を貫通している。この補強金具32の山形鋼38側部とスリット本体16とは、左右に延びる連結ボルト34で固定される。これにより、スリット本体16に加わる左右方向の圧縮力と引っ張り力に抵抗することができ、コンクリート打設時の側圧に対する強度的な信頼性を高めることができる。なお、補強金具32は、この形態に限るものではなく、山形鋼38の代わりに溝形鋼を用いた形態のものを使用しても構わない。
【0021】
また、連結ボルト34は、外周面にネジ山が切られた凸部34aと、内周面にネジ山が切られた凹部34bとからなる。凸部34aは、柱12側の溝型鋼26から入りスリット本体16を貫通して、補強金具32から延びる連結ボルト34の凹部34b内に螺合している。ここで、壁14側が地震により押された場合には、セパレータ30の動きが補強金具32を介して連結ボルト34を押す形となる。この場合、柱12側の溝型鋼26から露出した連結ボルト34の凸部34aの頭部34cが周囲のコンクリートを擦ってクラックを発生させるおそれがあることから、対策として、頭部34cにはウレタン等の緩衝材(図示なし)を吹き付けることができ、または、例えば、固形状の緩衝材を取り付けることもできる。
【0022】
なお、目地棒20を固定するボルト24の上下方向の配置間隔や、補強金具32を設けるセパレータ30の上下方向の配置間隔は、施工上問題のない適正な間隔で設定することが好ましく、例えば、強度実験等を行って最適な間隔を適宜設定することが望ましい。
【0023】
次に、本発明のスリット構造10により得られる効果について説明する。
(1)目地棒20をボルト24で固定したため、従来の釘打ちによる固定に比べて安定的な固定が可能となり、スリット構造の強度的な信頼性を高めることができる。
(2)セパレータ30による側方からの補強により、スリット構造に加わる側方荷重に効果的に対抗することができる。
(3)溝型鋼26をスリット本体16の側面に配置することにより、スリット本体16の側面を補強することができる。
(4)補強金具32は、セパレータ30が貫通した構造であることから、施工時に外れることがなく、連結ボルト34を介して、スリット本体16を側方から確実に補強することができる。
【0024】
上記(1)〜(4)の4つの効果により、施工上問題のない強度を確保することができ、施工条件の緩和を図ることができる。このため、例えば、柱側に高さ4m程度のコンクリートを一度に打設しても、側圧によるスリット本体16の曲がりを防ぐことができる。
【0025】
以上説明したように、本発明によれば、コンクリート構造物の柱と壁の境界部に設けるスリット構造であって、スリット本体を前後両側から係合支持する略コ字状断面の支持部材と、この支持部材を介してスリット本体の前後に隣接配置した目地棒とを備え、この支持部材とこの目地棒とコンクリート型枠とをボルトと平ナットプレートで固定したので、コンクリート打設時の側圧に対する強度的な信頼性を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
以上のように、本発明に係るスリット構造は、ビル等のコンクリート構造物の柱と壁の接合部などの構造体同士の境界部に設ける耐震用のスリット構造に有用であり、特に、コンクリート打設時の側圧に対する強度的な信頼性と、曲げに対する防御性を高めるのに適している。
【符号の説明】
【0027】
10 スリット構造
12 柱
14 壁
16 スリット本体
18 支持部材
20 目地棒
22 せき板(コンクリート型枠)
24 ボルト
26 溝型鋼
28 ナット
30 セパレータ
32 補強金具
34 連結ボルト
36 平ナットプレート
38 山形鋼
40 端板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の柱と壁の境界部に設けるスリット構造であって、
スリット本体を前後両側から係合支持する略コ字状断面の支持部材と、この支持部材を介してスリット本体の前後に隣接配置した目地棒とを備え、
この支持部材とこの目地棒とコンクリート型枠とをボルトと平ナットプレートで固定したことを特徴とするスリット構造。
【請求項2】
スリット本体の側面に溝型鋼を上下方向に沿わせてスリット本体を補強するとともに、スリット本体の側方に間隔をあけて配置するセパレータを補強金具に貫通し、この補強金具とスリット本体とを連結ボルトで固定したことを特徴とする請求項1に記載のスリット構造。
【請求項3】
支持部材と目地棒とコンクリート型枠とを固定するボルトを、コンクリート打設後に取り外し可能に構成したことを特徴とする請求項1または2に記載のスリット構造。
【請求項4】
溝型鋼をスリット本体の両側面に上下方向に沿わせ、補強金具からの連結ボルトを、スリット本体を貫通して奥側の溝型鋼に固定したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のスリット構造。
【請求項5】
連結ボルトの頭部に緩衝材を設けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のスリット構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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