説明

スローアウェイ式切削工具

【課題】インサートの着脱が容易にできるとともに、インサートを精度よく押圧固定することができるスローアウェイ式切削工具を提供する。
【解決手段】先端の一側方に上顎3と下顎4を設けてその間でインサート保持空間を形成するとともに、上顎3の後方に続く上顎連結部6の上面に配設された当接面7を備えたホルダ2と、インサート保持空間に差し込まれて固定されるインサート20と、側面部11がホルダ2の他側方にネジ止めされることによって、上部12が当接面7を押圧してホルダ2の上顎3が押圧されて、インサート保持空間に差し込まれたインサート20を押圧固定する押さえ金具10と、を具備しているスローアウェイ式切削工具1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被削材を加工するための切刃を備えたスローアウェイ式切削工具、特に溝入れ加工や突切り加工を行うためのスローアウェイ式切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
溝入れ加工や突切り加工を行うためのスローアウェイ式切削工具において、切削インサートを拘束する方法については、ねじを用いた拘束方式が一般的に知られている。例えば、特許文献1には、切削インサート上面中央に開口したクランプ穴にねじを挿入してホルダにねじ止めする方式が記載されている。このチップを上面からホルダにねじ止めする構成では、小物加工で多用される櫛刃タイプの刃物台を有するNC旋盤に取付けて使用することが多く、操作のしにくい方向からねじを挿入する必要がある。そのため、切削インサート交換作業に時間がかかる上、作業中にねじを落としやすく、作業性が著しく悪い等の問題があった。
【0003】
これらの問題点を改善するため、特許文献2では、ホルダの下側から上側に向かってネジ止めしてネジの先端が上顎まで到達した状態で、ネジのネジ頭のテーパ面を横方向からネジ締めしたネジの先端で下方向に押して、上顎を下方向に押さえる方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、下顎をホルダに一体化させるとともに上顎を含むプレートを別体として形成し、このプレートをホルダの側面でネジ止めする方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−123603号公報
【特許文献2】特開2002−337009号公報
【特許文献3】特開2001−246506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2のように、ホルダの下側から上側に向かってネジ止めしてネジの先端が上顎まで到達した状態で、ネジのネジ頭のテーパ面を横方向からネジ止めしたネジの先端で下方向に押して、上顎を下方向に押さえる方法では、クランプ力が弱く、かつネジ頭のテーパ面が早期に消耗してしまうという不具合があった。
【0007】
また、特許文献3のように、上顎を含むプレートを別体として形成し、ホルダの横からネジ止めする方法では、上顎と下顎の位置精度が狂いやすく、上顎と下顎のチップ拘束面がずれて拘束力が低下してしまうという不具合があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のスローアウェイ式切削工具は、先端の一側方に上顎と下顎を設けてその間でインサート保持空間を設けるとともに、前記上顎の後方に続く上顎連結部の上面に配設された当接面を備えたホルダと、
前記インサート保持空間に差し込まれて固定されるインサートと、
側面部が前記ホルダの他側方にネジ止めされることによって、上部が前記当接面を押圧して前記ホルダの前記上顎が押圧されて、前記インサート保持空間に差し込まれた前記インサートを押圧固定する押さえ金具と、
を具備している。
【発明の効果】
【0009】
本発明のスローアウェイ式切削工具によれば、背面(他側方)側からねじを締め込むことにより、押さえ金具がホルダの前面(一側方)側に前進するにつれ、押さえ金具の上部の下面がホルダの当接面を押圧することによって、当接面に続く上顎を下側に押すことになるので、上顎が位置ずれすることなく下側に締まり、インサートを押圧固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の好適な実施態様におけるスローアウェイ式切削工具についての(a)平面図、(b)先端視図、(c)側面(先端の一側方:前面Aから見た)図である。
【図2】図1のスローアウェイ式切削工具のホルダに押さえ金具を取り付けた状態の概略斜視図である。
【図3】図2のホルダと押さえ金具との構成を説明するための分解斜視図である。
【図4】ホルダ上面の当接面と押さえ金具の上部の構成を説明するための模式図であり、(a)ホルダ上面の当接面が前面に向かって上方に傾斜するテーパ面である構成、(b)押さえ金具の上部の下面が前面に向かって下方に傾斜するテーパ面である構成、(c)ホルダ上面の当接面および押さえ金具の上部の下面ともに前面に向かって上方に傾斜するテーパ面である構成を説明するための図である。
【図5】押さえ金具の構成を説明するための模式図であり、(a)押さえ金具の下部の横方向の長さが押さえ金具の上部の横方向の長さより短い構成、(b)押さえ金具の下部の横方向の長さが押さえ金具の上部の横方向の長さと同じ構成、およびこれらの押さえ金具を取り外す際の構成を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1−5は本発明の好適な実施形態を示すものであり、本発明の好適な実施態様におけるスローアウェイ式切削工具についての(a)平面図、(b)先端視図、(c)側面(先端の一側方:前面Aから見た)図である図1、本発明の第一の実施形態によるスローアウェイ式切削工具のホルダに押さえ金具を取り付けた状態の概略斜視図である図2、図2のホルダと押さえ金具との構成を説明するための分解斜視図である図3、ホルダ上面の当接面と押さえ金具の上部の構成を説明するための模式図であり、(a)ホルダ上面の当接面が前面Aに向かって上方に傾斜するテーパ面である構成、(b)押さえ金具の上部の下面が前面Aに向かって下方に傾斜するテーパ面である構成、(c)ホルダ上面の当接面および押さえ金具の上部の下面ともに前面Aに向かって上方に傾斜するテーパ面である構成を説明するための図である図4、(a)押さえ金具の下部の横方向の長さが押さえ金具の上部の横方向の長さより短い構成、(b)押さえ金具の下部の横方向の長さが押さえ金具の上部の横方向の長さと同じ構成、およびこれらの押さえ金具を取り外す際の構成を説明するための図である図5に基づいて説明する。
【0012】
図1−5において、本実施形態によるスローアウェイ式切削工具(以下、工具と略す。)1は、特に溝入れ加工や突切り加工に適したものである。工具1は、先端の一側方(以下、前面Aと称す。)に上顎3と下顎4を設けてその間でインサート保持空間5を形成するとともに、上顎3の後方に続く上顎連結部6の上面に形成された当接面7を備えたホルダ2を具備する。そして、このインサート保持空間5にはインサート20が差し込まれて固定される。また、ホルダ2には押さえ金具10が組みつけられる。図1においては理解を容易にするために押さえ金具10に斜線を引いて示した。押さえ金具10は、側面部11がホルダ2の他側方(以下、背面Bと称す。)にネジ止めされることによって、上部12が当接面7を押圧することによりホルダ2の上顎3が押圧されて、インサート保持空間5に差し込まれたインサート20を押圧固定する構成となる。
【0013】
かかる構成によれば、押さえ金具10を締め付けるクランプ用ボルト13を比較的操作しやすい背面B側から操作できることから、マシンに装着した状態でインサート20の着脱が容易であり、従来の工具のように、着脱する際にねじ部材を操作しにくい上下方向から操作する必要がなく、インサート20を着脱する時にねじを落下させることがない。また、上顎3と下顎4とは一体物からなるので、上顎3と下顎4とが位置ずれして装着されることがなく、インサート20を安定して拘束できる。なお、上顎3と下顎4のインサート20と当接される表面3a、4aには、先端から後方に向かって平行に凹溝または凸部(図2では凸部)が形成されていることが、インサート20の位置ずれを抑制できるとともにインサート20の拘束力を高めることができる点で望ましい。なお、図1−3の下顎隣接部9は被削材と接触することを避ける逃がしをつけるために、下顎隣接部9のインサート20の側方に位置する領域は切り欠かれている。さらに、下顎4と下顎隣接部9の後方には下顎連結部15が形成されている。また、図1−3では、下顎4の背面B側に下顎4の強度を高めるために下顎隣接部9が形成されているが、下顎隣接部9はなくてもよく、先端側に下顎連結部15が露出していてもよい。
【0014】
ここで、ホルダ2の当接面7と押さえ金具10の上部12の下面12aとの関係は、いくつかの形態が採用可能であり、例えば、図4に示すように、(a)ホルダ上面の当接面が前面Aに向かって上方に傾斜するテーパ面である構成、(b)押さえ金具の上部の下面が前面Aに向かって下方に傾斜するテーパ面である構成、(c)ホルダ上面の当接面および押さえ金具10の上部の下面ともに前面Aに向かって上方に傾斜するテーパ面である構成が挙げられる。このいずれかの構成であれば、押さえ金具10ホルダ2にネジ止めされることによって、確実に、上部12が当接面7を押圧してホルダ2の上顎3が押圧されて、インサート保持空間5に差し込まれたインサート20を押圧固定することができる。なお、図1−3は図4(c)の構成となっているが、この構成であれば、より強固に上顎3を押圧することができる。ここで、ホルダ2の当接面7と押さえ金具10の上部12の下面12aとが面接触する構成であれば、上顎3の押圧力が高い。また、ホルダ2の当接面7が押さえ金具10の上部12の下面12aのうちの前面A側のみを線接触するように当接されて押圧する構成であってもよい。この構成であれば、押さえ金具10の上部12は前面A方向により強く押圧されるので、インサート20の横方向(幅方向)の拘束力を高めることもできて、インサート20が前面方向に飛び出すことも抑制できる。
【0015】
また、ホルダ2の上顎連結部6の上面において、当接面7よりも押さえ金具10がネジ止めされる背面B側が低く形成された非接触部8を構成している構成であることが望ましく、さらに、非接触部8の面積が当接面7の面積よりも広い構成であることがよい。これによって、押さえ金具10をネジ止めすることによって当接面7をより強く押圧できるので、ホルダ2の上顎3がより強く押圧されて、インサート20をより強固に押圧固定することができる。
【0016】
さらに、押さえ金具10は、側面部11に続いてホルダ2の下顎連結部15の下面に当接される下部14を具備して、下部14の横方向の長さが上部12の横方向の長さより短い構成であることが望ましい。この構成であれば、図5の模式図に示すように、押さえ金具10を外しやすいので押さえ金具10の脱着が容易となる。また、ホルダ2の下顎4に続く下顎連結部15の肉厚を厚くできて、切削時にびびりが発生することを抑制できる。下部14の横方向の長さは上部12の横方向の長さに対して1/4以下の長さであることが特に望ましい。なお、押さえ金具10に下部14が存在することによって、押さえ金具10をネジ止めする際に、下部14が支点、ネジ部材13が作用点となってこの原理で当接面をより強く押圧することができる。
【0017】
以上、本発明の実施形態を例示したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではな
く、発明の目的を逸脱しない限り任意のものとすることができることは云うまでもない。
【符号の説明】
【0018】
1 スローアウェイ式切削工具(工具)
2 ホルダ
3 上顎
3a 表面
4 下顎
4a 表面
5 インサート保持空間
6 上顎連結部
7 当接面
8 非接触部
9 下顎隣接部
10 押さえ金具
11 側面部
12 上部
12a 下面
13 クランプ用ボルト
14 下部
15 下顎連結部
20 インサート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端の一側方に上顎と下顎を設けてその間でインサート保持空間が設けられるとともに、前記上顎の後方に続く上顎連結部の上面に配設された当接面を備えたホルダと、
前記インサート保持空間に差し込まれて固定されるインサートと、
側面部が前記ホルダの他側方にネジ止めされることによって、上部が前記当接面を押圧して前記ホルダの前記上顎が押圧されて、前記インサート保持空間に差し込まれた前記インサートを押圧固定する押さえ金具と、
を具備しているスローアウェイ式切削工具。
【請求項2】
前記ホルダの当接面が前記一側方に向かって上方に傾斜するテーパ面であるか、または前記押さえ金具の前記上部の下面が前記一側方に向かって上方に傾斜するテーパ面である請求項1記載のスローアウェイ式切削工具。
【請求項3】
前記上顎連結部の上面の前記テーパ面よりも前記押さえ金具がネジ止めされる前記他側方側が低く形成されて非接触部を構成している構成である請求項1または2記載のスローアウェイ式切削工具。
【請求項4】
前記テーパ面の前記一側方部分のみで前記押さえ金具のテーパ面を押圧する構成である請求項1乃至3のいずれか記載のスローアウェイ式切削工具。
【請求項5】
前記押さえ金具は、前記側面部に続いて前記ホルダの下面に当接される押さえ下部を具備して、前記下部の横方向の長さが前記上部の横方向の長さより短い構成である請求項1乃至4のいずれか記載のスローアウェイ式切削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−111705(P2013−111705A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260288(P2011−260288)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】