セシウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカおよびそれを用いたセシウムイオンコレクターおよびセシウム回収方法
【課題】放射性Csを効率よく安価に収集するCsイオンコレクターを提供する。
【解決手段】有機シリコン化合物および界面活性剤から作製した高秩序化メソポーラスシリカ(HOMS)に、目標元素であるセシウム(Cs)を選択的に吸着するDPAR等のCsイオン吸着性化合物を担持させる。Csイオン吸着性化合物を担持したHOMSをCsが溶解された溶液と接触させ、Csイオンを選択的にHOMSに担持されたCsイオン吸着性化合物に吸着させる。Csイオンを吸着したCsイオン吸着性化合物を担持したHOMSを化学的処理し、目標元素であるCsイオンをHOMSに担持されたCsイオン吸着性化合物から遊離させ、Csを回収する。Csイオンが遊離されたCsイオン吸着性化合物を担持したHOMSは、再使用できる。このCsイオン吸着性化合物を担持したHOMSはCsコレクター・濃度検出センサー・放射性セシウム除去剤としても使用できる。
【解決手段】有機シリコン化合物および界面活性剤から作製した高秩序化メソポーラスシリカ(HOMS)に、目標元素であるセシウム(Cs)を選択的に吸着するDPAR等のCsイオン吸着性化合物を担持させる。Csイオン吸着性化合物を担持したHOMSをCsが溶解された溶液と接触させ、Csイオンを選択的にHOMSに担持されたCsイオン吸着性化合物に吸着させる。Csイオンを吸着したCsイオン吸着性化合物を担持したHOMSを化学的処理し、目標元素であるCsイオンをHOMSに担持されたCsイオン吸着性化合物から遊離させ、Csを回収する。Csイオンが遊離されたCsイオン吸着性化合物を担持したHOMSは、再使用できる。このCsイオン吸着性化合物を担持したHOMSはCsコレクター・濃度検出センサー・放射性セシウム除去剤としても使用できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標元素としてセシウムイオンを選択的に吸着可能なセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持した規則的な配列を有して多孔質化されているメソポーラスシリカに関するものであり、昨今問題となっている放射性セシウム(Cs)を収集し回収できるセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを用いたセシウム(Cs)イオンコレクター、およびメソポーラスシリカに担持されたセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を用いて、セシウム(Cs)イオン溶解溶液に含まれるセシウム(Cs)イオンを効率的かつ選択的に回収する方法に関する。さらに、セシウム(Cs)イオン濃度を検出するメソポーラスシリカを用いたセシウム(Cs)イオンコレクターおよびセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
セシウム(元素記号Cs)は、柔らかく銀白色のアルカリ金属で、化学的反応性が高く、延性に富む金属であり、天然にはポルックス石(ポルサイト)やカーナル石などの鉱物中に存在する。セシウムの主要用途の一つは石油採掘工業におけるギ酸セシウムを使った掘穿泥水である。また、セシウムが光に対して高感度であることから、光電子装置に応用され、テレビ、映画、レーダーや楽器に用いられたり、発光管や発光スクリーンにも用いられたりしている。特筆すべき用途としてセシウム133はセシウム原子時計に使用され、最も高精度な時間の単位であると考えられている。セシウムの化学的生物学的用途として、硝酸セシウムはメタアクリル樹脂用触媒や、塩化セシウム等が拡散(DNA、RNA)血清を分離精製する際の密度勾配遠心法において媒体として用いられたり、水酸化セシウムはポリウレタンの原料として用いられるポリオシアルキレンポリオールの合成用触媒に使用されたりしている。セシウムの用途はまだ限定されているが、その需要は増加している。現在工業的には、塩化セシウムとカルシウムの混合物を蒸留するか、セシウムの水酸化物、炭酸塩、アルミン酸塩などからマグネシウムを還元剤にして蒸留することにより、生産されている。
【0003】
上述のように、セシウム(Cs)は有用な金属であるが、原子力発電においてウランやプルトニウムの核分裂反応から放射性同位体であるセシウム137(137Cs)やセシウム134(134Cs)などが生成される。チェルノブイリ原子力発電所事故や直近の福島原子力発電所事故では大量の放射性元素セシウム137(137Cs)等が環境中に放出された。また、通常運転中の原子炉からの環境中への漏出も問題となりつつある。原子炉等からの直接的な放射性セシウム137の他にも間接的に放射性セシウム137が生成される問題もある。たとえば、ウラン235の熱中性子核分裂において直接生成するヨウ素137(半減期24.5秒)、キセノン137(半減期3.82分)やテルル137(半減期2.5分)は、セシウム137より多く存在し半減期が短い短命核種であるが、ベータ崩壊してセシウム137となる。さらに、γ線発生器等に使用される放射性元素セシウム137が誤って環境に放出されるという事故も時々発生している。この放射性元素セシウム137(137Cs)は半減期が30.1年と長いため環境中に一度放出されると長期間生物が被ばくすることになり、放射性セシウム137が人体に及ぼす影響が懸念されている。放射性セシウム137等のセシウム化合物の多くは水溶性であり、生体内での挙動もカリウムなどに類似し、生体内に取り込まれやすい。生体内に入ると放射性セシウム137は体中に分配され、β(ベータ)線崩壊による内部被ばくを起こす。
【0004】
従って、放射性セシウム(Cs)の除去は廃棄物処理および環境改善にとって緊急の課題となっている。この元素は、原子力発電所での軽水炉の原子炉冷却材系統において見出され、使用済み核燃料においても存在する。反応炉の化学反応が注意深く制御されない場合、化学反応は急速に進行し炉内圧力が上昇し、燃料棒の腐食が起こる。燃料棒が古くなると、クラック(亀裂)やホール(孔)により燃料棒が破壊される恐れがある。亀裂が入った燃料棒は、燃料棒を囲んで冷却している水に放射性セシウム(Cs)を放出する。放射性セシウム(Cs)は冷却水と一緒にシステム中に循環し、結局反応炉から空中等の環境中へ出て行くか、あるいは液体廃棄物および固体廃棄物となる。時々、反応炉ガス捕捉システムは周囲へ放射性セシウム(Cs)を含むガスを放出することもある。このように、今回の福島原子力発電所の事故がなくても、厳重な管理下であっても既存システムだけでなく廃棄物や保管物からの放射性物質の漏洩は避けられず、かなり長い半減期を持つセシウム放射性137は、土壌や地下水にかなり頻繁に見出される放射性核種となっている。
【0005】
選択的にセシウムを除去する方法として、主として3つの技術が存在する。第1のアプローチは、クロスフローろ過による後続のセシウム除去を用いてセシウムを析出するために、テトラフェニル・ホウ酸ナトリウムを使う。第2のアプローチは、非溶離可能なイオン交換アプローチにおいてセシウムを捕集するために、非有機吸着剤、結晶性ケイ素チタン酸塩を使う。第3のアプローチは、有機抽出システム内に配備される特別にデザインされたクラウンエーテルを使う。大きなクラウンエーテルを有するセシウムイオン錯体は、水性溶媒および非水溶媒において研究され(非特許文献1)、また導電率測定法においても研究されている。(非特許文献2)また、混合溶媒システムにおける錯体形成反応は、非常に限定された程度で調査されているだけである。(非特許文献3)大きなクラウンエーテルを持つ金属イオンの相互作用に及ぼす溶媒特性およびリングサイズのクラウンの影響を研究することは私たちには興味深い。
【0006】
現在、たとえばレゾルシノール・ホルムアルデヒド(resorcinol-formaldehyde)、デュオライトCS−100(Duolite CS-100)(登録商標)、ディフォニックスCS(Diphonix-CS)(登録商標)のような有機イオン交換樹脂をセシウム(Cs)除去用に使用されている。これまで多くの研究は、放射性核種の分離用に伝統的な非有機および有機イオン交換器の使用を考えてきた。しかし、これらのイオン交換器を使用する方法は、セシウムイオンを溶離し、イオン交換器を洗浄したりイオン交換器を装填したりするために、使用される溶液から大量の2次廃棄物や廃液を産む。また使用済みのイオン交換器は廃棄物となるとともに、非有機材料は通常、廃棄前には1度しか使うことができないし、再生可能材料は使用可能寿命が短いという問題がある。(非特許文献4)またセシウムイオンを選択的に除去することが困難であるという問題もある。
【0007】
セシウム除去方法として、ベータゼオライト担持体にアルカリカチオンを付加させる方法が研究されている。たとえば、ベータゼオライトに担持された白金をセシウムカチオンと交換する方法は、n−ヘキサンの芳香族化において重要であり、ベータゼオライトに担持された白金をアルカリカチオンおよびアルカリ土類カチオンと交換したということも報告されている。(非特許文献5)しかし、このような置換方法によるセシウム除去法では工程が複雑である(長くなる)とともに、リサイクルやリユースが困難であるという問題がある。また、ゼオライトへ直接セシウムを担持する方法はセシウムを選択的に吸着することは困難である。このように、セシウムイオンを選択的に除去する方法は種々検討されてきたが、人体に影響を及ぼすレベルの微量な放射性セシウムを選択的に除去できる簡単で安価な方法はまだ見つかっていない。
【0008】
一方、色調変化や光吸収を用いた視覚的コレクター(収集剤)等の光学的方法は、目標元素を精度よく迅速に検出し、環境から除去するために重要である。視覚検出・除去アプローチは、複雑な装置や充分制御された環境を必要としない単純な技術であるが、低濃度レベルの放射性セシウムに関しては、低コストで選択性良好で迅速に検出できかつ放射性セシウムを除去できる視覚的コレクターはまだ開発されていない。
【0009】
放射性セシウムは、普通に使われる大抵の処理方法の抽出限界よりはるかに低い濃度で存在し、また放射性セシウムの人体への許容レベルは非常に低いので、セシウムをppb〜ppmレベルで精度良く検出し選択性良好で迅速に抽出する材料を発見していくことが世界的に要求されている。さらに、微量のセシウムイオン濃度の測定および抽出に関して、迅速で、費用効率が高く、使いやすく、信頼性のある技術が求められている。
【0010】
一方、メソポーラスシリカを用いた金属イオン検出方法は種々研究されている。たとえば、特許文献1および2においては、メソポーラスシリカにアミノポルフィリン、ジチゾン、ポルフィリンスルホン等の色素分子を保持して複合センサーを作り、Cdイオン、水銀イオン、Crイオンなどを色素分子に吸着させて、そのスペクトル変化を利用してイオン濃度を検出することが記載されている。しかしながら、これまでのどの先行特許文献や非特許文献においても、メソポーラスシリカに吸着させたセシウムの回収について簡便で迅速で精度の良い方法の開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−327886
【特許文献2】特開2007−327887
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】C.M. Goff, M.A.Matchette, N. Shabestary, S. Khazaeli,“Complexation of caesium and rubidium cations with crown ethers in N,N-dimethylformamide” Polyhedron 15(1996)3897−3903
【非特許文献2】M. Shamsipur, M.Saeidi, “Conductance study of binding of some Rb+ and Cs+ ions bymacrocyclicpolyethers in acetonitrile solution” J. Solution Chem. 29(2000)1187−1198
【非特許文献3】G. Rounaghi,A.I. Popov, “133Cs NMR study of Cs+ ion complexes with dibenzo-21-crown-7 and dibenzo-24-crown-8 insome mixed solvents” Polyhedron 5(1986)1329−1333
【非特許文献4】M.A.Lilga, R.J.Ortha, J.P.H. Sukamtoa, S.D. Rassata, J.D. Gendersb, R. Gopa.Separation and Purification Technology 24(2001)451-466
【非特許文献5】G.E.Sntamaaria, J.M. Bautista, H. Silva, L. Munoz, N. Batina. “Cesium concentrationeffect on Pt/Cs beta zeolite/γ-aluminacatalysts for n-heptane conversion”.Applied Catalysis A: General 231 (2002) 117−123
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記説明した様にセシウム(Cs)は種々の用途に使用されているが、放射性同位体であるセシウム137(137Cs)等の放射性セシウムは、ppb〜ppmオーダーの極微量でも人体に蓄積して放射線を出して発がん性等の病気を誘発するので、飲料水や洗浄水等の生活用水および大気中だけでなく、廃水や土壌などすべての環境から排除する必要がある。
【0014】
従って微量でも生活用水や廃水等の溶液にどの程度の濃度のセシウム(Cs)が含まれているのか知る必要がある。しかし、ppb〜ppmオーダーの極微量なセシウム(Cs)濃度を迅速に正確に測定するセシウム(Cs)コレクターまたはセシウム濃度検出センサーは少なく、あっても繰り返し使用することができないという問題がある。またセシウム(Cs)を選択的に収集し検出するコレクターまたはセンサーは殆どないため、セシウム(Cs)以外の複数の元素やイオンが含まれる溶液ではセシウム(Cs)以外の元素やイオンに影響されて精度良くセシウム(Cs)濃度だけを測定することができない。さらに、生活用水や廃水等の溶液に微量な放射性セシウムが存在した場合にその放射性セシウムを除去することが必要であるが、ppb〜ppmオーダーレベルまでセシウム(Cs)を除去する方法は殆どない。イオン交換樹脂等の場合はppb〜ppmオーダーレベルのイオンを除去できるものの、セシウム(Cs)イオンだけを特定して除去できないという問題がある。すなわちセシウム(Cs)(イオン)だけを選択的に除去するという選択性の良い物は見つかっていない。
【0015】
また、回収剤でセシウム(Cs)を除去した後、そのセシウム(Cs)を分離する手段が困難なため、回収したセシウム(Cs)を有効に活用することが難しいという問題がある。セシウム(Cs)は希少金属なこと、生産国が偏在していることなどから、セシウム(Cs)を回収して再利用することは極めて重要である。あるいは、収集したセシウムを分離できなければ、その回収剤を再使用することがむずかしいという問題もある。従って、セシウム(Cs)を回収した回収剤はそのまま廃棄するしか方法はなくこの2次廃棄物の処理方法が問題となる。また、生活用水や廃水等の溶液中のセシウム(Cs)を回収しリサイクルするためのコストが高いという問題もある。以上のように、環境中のセシウム(Cs)濃度検出や環境からのセシウム(Cs)除去、さらに有用なセシウム(Cs)を回収しリサイクルする方法等に関して、簡単でコストが低く選択性良く、かつ精度良好で回収を高速に行なうことができる方法が世界的に緊急に要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、高度に秩序化した構造を有するメソポーラスシリカにセシウム(Cs)イオンを選択的に吸着することができる化合物(以下、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物(あるいは、セシウム(Cs)(イオン)を集めるという意味(収集剤)で、セシウム(Cs)イオンコレクターまたは単にコレクター、あるいはセシウム(Cs)(イオン)を捕獲するという意味で、セシウム(Cs)イオンキャプターまたは単にキャプターともいう)を担持させて、担持されたセシウム(Cs)イオン吸着性化合物にセシウム(Cs)イオンを吸着させ、この吸着されたセシウム(Cs)を回収する効率的な方法およびそれに使用されるセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを提供する。さらに、このセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを用いてセシウム(Cs)イオン濃度検出を精度良くしかもppb〜ppmオーダーの微量な測定が可能なセシウム(Cs)イオンコレクターおよびセンサーを提供する。
【0017】
シリカ源と界面活性剤を混合した後、酸性水溶液を添加して、これを焼成すると、メソポーラスシリカ(HOM)が生成される。このメソポーラスシリカにセシウム(Cs)イオン吸着性化合物(セシウム(Cs)イオンはまだ吸着されていない)を担持する。セシウム(Cs)イオン吸着性化合物は、セシウム(Cs)イオンを選択的に吸着することができる化合物である。たとえば、キレート化合物のような錯体である。(特定の元素イオンを選択的に吸着しやすい化合物を本出願では(元素)イオン吸着性化合物と呼ぶ。ここで、元素イオン吸着性化合物が選択的に吸着可能な特定イオンを回収するという意味で、この特定元素を目標元素と称する。本発明においては、目標元素はセシウム(Cs)である。)セシウム(Cs)イオンを選択的にかつ優先的に吸着する化合物として、たとえば、2−ドデシル−4−((フェニル)ジアゼニル)レソルシノール{2-dodecyl-4-((phenyl)diazenyl)
resorcinol (DPAR)}、4−(2−ジアゼニル−1,3,4−チアジアゾル)−6−ドデシルレゾルシノール{4-(2-diazenyl-1,3,4-thiadiazole)-6-dodecylresorcinol (DTDR)}、およびピロガロールレッド{Pyrogallol red (PR)}が挙げられる。これらのセシウム(Cs)イオン吸着性化合物をメソポーラスシリカに担持する。(たとえばこれらのセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を総称してMCとして、MCを担持したメソポーラスシリカをHOM−MC、あるいはHOMS−MCと称する。)これらは単独でHOMSに担持しても良いし、複数混合してHOMSに担持しても良い。従って、DPARの場合はHOM−DPAR、DTDRの場合はHOM−DTDR、あるいはPRの場合はHOM−PRとなる。
【0018】
セシウム(Cs)を含む種々のイオン(元素イオンだけでなく、その他のカチオンやアニオンも含む)が溶解されたイオン溶解溶液に前記セシウム(Cs)(イオン)吸着性化合物を担持(または修飾)したメソポーラスシリカを接触させ、メソポーラスシリカに担持したセシウム(Cs)イオン吸着性化合物に目標元素イオンであるセシウム(Cs)イオン(Cs+等)を吸着させる。このとき、イオン溶解溶液のpH値、溶液濃度や溶液温度等の環境要因を調節すれば、効率的に目標元素イオンを吸着させることができる。(セシウム(Cs)イオンを吸着したHOM−MCをHOM−MC−Csと記す。)たとえば、前述のHOM−DPARの場合は、pH値を1.5〜2.5、好適には2.0またはpH値を9.0〜10.0、好適には9.5に調整したセシウム(Cs)イオンを含むイオン溶解溶液に接触させることにより、HOM−DPARは目標元素イオンであるセシウム(Cs)イオンを優先的にかつ選択的にかつ迅速に吸着する。(セシウム(Cs)を吸着したHOM−DPARをHOM−DPAR−Csと記す。)
【0019】
次に、セシウム(Cs)イオンが吸着されたセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカをセシウム(Cs)イオンが遊離可能な溶液(セシウム(Cs)イオン遊離溶液)に接触させて、吸着されたセシウム(Cs)イオンをセシウム(Cs)イオン遊離溶液に溶解させる。この溶液をろ過して固形物と液体に分離する。分離された液体はセシウム(Cs)イオンだけを溶解しているので、目標元素であるセシウム(Cs)の回収が可能となる。溶液の濃度、pH、反応温度等をコントロールすることで、セシウム(Cs)の回収効率を上げることができる。また、分離された固形物は、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカであり、メソポーラスシリカに担持されたセシウム(Cs)イオン吸着性化合物はセシウム(Cs)を吸着していない。すなわち、固形物はセシウム(Cs)イオン吸着性化合物(セシウム(Cs)イオンを吸着していない)を担持したメソポーラスシリカ(HOM−MC)に戻る。
【0020】
しかも本体(セシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカ)は変化していないので、再度目標元素イオンであるセシウム(Cs)イオンの吸着材(あるいはコレクター(収集剤)、あるいは抽出剤とも称する)として利用できる。たとえば、HOM−MC−Csを酸性溶液やアルカリ溶液などに浸漬することにより、セシウム(Cs)を溶離してHOM−MCとすることができる。セシウム(Cs)を分離されたHOM−MCは再びセシウム(Cs)イオン吸着材(コレクター、あるいはキャプター)として利用できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明において、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物が広い表面積や高秩序化した構造を持つメソポーラスシリカの表面およびポア(細孔)内壁に担持(修飾)されているので、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物の反応基にセシウム(Cs)イオンが容易にしかも速く吸着する。従って、吸着の応答速度が速いだけでなく、メソポーラスシリカに担持されたセシウム(Cs)イオン吸着性化合物へのセシウム(Cs)イオン吸着効率が、単独のセシウム(Cs)イオン吸着性化合物へのセシウム(Cs)イオン吸着効率よりも非常に大きくなるとともに、セシウム(Cs)(イオン)吸着量も多くなる。
【0022】
また、セシウム(Cs)(イオン)吸着性化合物に吸着されたセシウム(Cs)イオンも整然と配列し密に吸着されているので、吸着したセシウム(Cs)イオンを容易に速く遊離(あるいは分離、あるいは溶離)することができる。従ってセシウム(Cs)イオンの遊離効率も非常に大きい。また、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物はセシウム(Cs)イオン溶解溶液のpH値等の条件を調整することによりセシウム(Cs)イオンを選択的に多量にしかも迅速に吸着することができる。従って、セシウム(Cs)(イオン)だけを効率良く回収できる。またppb〜ppmオーダーの微量なセシウム(Cs)イオンも吸着除去することができるので、生活用水や廃水等の溶液や土壌その他のイオン溶解液に含まれるセシウム(Cs)イオンの濃度を極めて微量なレベルまで低減できる。近年問題となっている環境中の微量な放射性セシウム(Cs)も効率良く迅速に除去できるので、本発明のHOM−MCは人体の健康維持および環境の浄化に有用な材料である。
【0023】
さらに、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持しているメソポーラスシリカはその骨格が強固であり、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物の担持やセシウム(Cs)イオンの吸着によってもメソポーラスシリカの骨格には変化が殆どない。吸着したセシウム(Cs)イオンもほぼ完全に遊離できるので、もとの状態(セシウム(Cs)イオンを吸着していないセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカ)に戻るので、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを繰り返し使用することができる。すなわち、何回もリサイクルまたはリユースすることができる。
【0024】
従って、トータル(全体)のセシウム(Cs)の収集・回収費用を小さくすることができる。また、本発明のセシウム(Cs)イオンが吸着されたセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカは、比色法または紫外可視分光法(UV−VIS−NIR spectroscopy)を用いてppb〜ppmオーダーの非常に低濃度のセシウム(Cs)イオン濃度も検出することができるので、セシウム(Cs)イオンコレクターおよび濃度センサーとしても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明のセシウム(Cs)回収システムを示す図である。
【図2】図2は、HOMシリカ・モノリスの合成方法を示す図である。
【図3】図3は、レセプターDPARの合成方法を示す図である。
【図4】図4は、レセプターDTDRの合成方法を示す図である。
【図5】図5は、レセプターPRの構造式を示す図である。
【図6】図6は、レセプターDPARを担持したHOM−DPARの製造方法を示す図である。
【図7】図7は、セシウム吸着性化合物としてDPARを用いたときのHOM−DPARによるセシウム(Cs)抽出フローを示す図である。
【図8】図8は、セシウム吸着性化合物としてDPARを用いたときのHOM−DPARによるセシウム(Cs)抽出フローを示す図である。
【図9】図9は、pH2.0においてセシウムイオンを吸着した固形物HOM−DPAR−Csの紫外線可視分光法の吸収スペクトルおよび比色分析を示す図である。
【図10】図10は、pH9.5においてセシウムイオンを吸着した固形物HOM−DPAR−Csの紫外線可視分光法の吸収スペクトルおよび比色分析を示す図である。
【図11】図11は、pH2において競合イオンの存在下におけるセシウムイオンを吸着したHOM−DPAR−Csの吸収スペクトルおよび比色分析結果を示す図である。
【図12】図12は、pH9.5において競合イオン(NaCl等)の存在下におけるセシウムイオンを吸着したHOM−DPAR−Csの紫外線可視分光法による吸収スペクトルおよび比色分析結果を示す図である。
【図13】図13は、大容量のセシウムイオン溶解溶液からのセシウムイオンを抽出したろ過後の固形材料HOM−DPAR−Csの紫外線可視分光法による吸収スペクトルおよび比色分析結果を示す図である。
【図14】図14は、セシウムイオンを抽出した固形材料HOM−DTDR−Csの紫外線可視分光法による吸収スペクトルおよび比色分析結果を示す図である。
【図15】図15は、セシウムイオンを抽出した固形材料HOM−PR−Csの紫外線可視分光法による吸収スペクトルおよび比色分析結果を示す図である。
【図16】図16は、セシウムイオンの溶離前後の固形材料HOM−DPARの紫外線可視分光法による吸収スペクトルを示す図である。
【図17】図17は、セシウムイオンの溶離前後の固形材料HOM−DPARの色調変化を示す図である。
【図18】図18は、ICP−MS分析よるセシウムイオンCs(I)の濃度を示す表である。
【図19】図19は、本発明のHOM−DPARのセシウム回収の適用範囲を示す表である。
【図20】図20は、本発明のセシウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを用いてセシウム(Cs)イオン溶解溶液からセシウムを回収するシステムを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、高い選択性と光学的検出機能を有する種々のキレート等の化合物を用いたセシウム(Cs)イオン検出技術およびセシウム(Cs)回収技術を提供するものである。この技術の特徴は異種原子から構成されるメソポーラス材料の原子レベルで配列したナノサイズの表面状態を利用していることである。本発明は、各種の活性イオン(カチオンやアニオン)や界面活性剤等を含む廃棄物や生活用水や環境からセシウム(Cs)を抽出する方法として非常に優れている。特に近年問題となっている放射性セシウムを環境等から排除するための方法として極めて優れている。
【0027】
メソポーラスシリカのナノレベルで配列した内表面は、pHなどの環境条件を制御して固着・解離状態を可変することによってセシウム(Cs)イオンコレクターおよびセンサーを作る。隣接原子と電子軌道構造の異なる表面原子とキレート等の化合物との結合によって、セシウム(Cs)イオンを確実に吸着できる。さらに、メゾポーラス材の内壁表面のナノレベルの高秩序化配列は電荷移動を増大させるので、ppbレベルの非常に微量のセシウム(Cs)吸着でも肉眼で観察可能な光学的変化が速やかに(高速の応答が)起こる。
【0028】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明のセシウム(Cs)回収システムを示す図である。まず、第1段階で高度に秩序化したメソポーラスシリカ(HOMシリカ(HOMS):High Ordered Mesoporous Silica、通常、HOMと言った場合、シリカ(Silica)は含まないが、本明細書等においてはHOMと記載した場合も、特に明記しない限りシリカ(Silica)も含むものとする。)を合成する。ここで、メソポーラスシリカとは、多孔質シリカの1種であり、メソポア領域と呼ばれる、2nmから50nmの領域の大きさのほぼ均一で規則的な直径の細孔(メソ孔)を有し、細孔の作るネットワークの様式(空間対称性)や製造方法等によって、様々な特性を有することが知られている多孔質物質群である。しかし、本特許出願においては、メソ孔よりも小さなマイクロ孔(2nm以下の細孔)やメソ孔よりも大きなマクロ孔(50nm以上の細孔)を有するポーラスシリカもメソポーラスシリカと呼ぶ。
【0029】
本発明に用いられるHOMの形態は、薄膜状形態やモノリス形態を含む。モノリス形態とは、通常薄膜以外の各種の形態、たとえば微粒子、粒子、ブロック状のもの等の形態を言う。高度に秩序化したとは、立方晶や六方晶系メソポーラス構造が3次元的に表面や内壁表面に規則正しく配列した状態を言い、たとえば立方晶Ia3d、Pm3n、Fm3mや六方晶P6m構造を言う。これらの構造が広範囲に存在すると、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物を大量に担持することができ、全体のセシウム(Cs)イオン吸着量を大きくすることができる。また、HOMのBET比表面積は大きいほど良いが、通常400m2/g以上であり、好適には500m2/g以上である。
【0030】
HOMシリカは種々の方法により合成できる。たとえば、界面活性剤を鋳型としたゾルゲル法においては、水溶液中に臨界ミセル濃度以上の濃度で界面活性剤を溶解させると、界面活性剤の種類に応じて一定の大きさと構造をもつミセル粒子が形成される。しばらく静置するとミセル粒子が充填構造をとり、コロイド結晶となる。ここで溶液中にシリカ源となる有機シリコン化合物などを加え、微量の酸あるいは塩基を触媒として加えると、コロイド粒子の隙間でゾルゲル反応が進行しシリカゲル骨格が形成される。最後に高温で焼成すると、鋳型とした界面活性剤が分解・除去されて純粋な高度に秩序化したメソポーラスシリカ(HOMシリカ)が得られる。また、たとえば、好適には、有機シリコン化合物と界面活性剤を混合してリオトロピック型液晶相を形成し、さらに、酸水溶液を加えることによって、短時間に有機シリコン化合物の加水分解反応を起こし、メソポーラスシリカと界面活性剤の複合生成物を得た後、界面活性剤を除去して、HOMシリカを得る方法が利用される。
【0031】
有機シリコン化合物として、たとえば、テトラメチルオルトケイ酸{C4H12O4Si、TMOS(テトラメトキシシラン)とも言う}やテトラエチルオルトケイ酸{C8H20O4Si、TEOS(テトラエトキシシラン)とも言う}などのシリコンアルコキシドを用いる。(生成物から加熱や真空引き等でエタノールよりメタノールを除去する方が容易であるから、生産性はTEOSよりTMOSの方が好適である。)尚、HOMの形成には、有機シリコン化合物の他に無機シリコン化合物を用いることもできる。たとえば、カネマイト(NaHSi2O5・3H2O)、ジ珪酸ナトリウム結晶(Na2Si2O5)、マカタイト(NaHSi4O9・5H2O)、アイラアイト(NaHSi8O17・XH2O)、マガディアイト(Na2HSi14O29・XH2O)、ケニヤアイト(Na2HSi20O41・XH2O)、水ガラス(珪酸ソーダ)、ガラス、無定形珪酸ナトリウムを用いることもできる。これらは、2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
また、テンプレート(鋳型)となる界面活性剤も、種々のものを使用できる。たとえば、カチオン性やアニオン性や両性や非イオン性の界面活性剤を使用できる。鋳型となる陽イオン性界面活性剤としては、たとえば、第1級アミン塩、第2級アミン塩、第3級アミン塩、第4級アンモニウム塩が挙げられる。また、鋳型となる陰イオン性界面活性剤としては、たとえば、カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩などが挙げられ、セッケン、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、硫酸化油、硫酸化脂肪酸エステル、硫酸化オレフィン、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩および高級アルコールリン酸エステル塩が挙げられる。
【0033】
鋳型となる両性界面活性剤としては、たとえば、ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインが挙げられる。鋳型となる非イオン界面活性剤としては、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン2級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレンラノリン酸誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのエーテル型のものや、ポリオキシエチレンアルキルアミンなどの含窒素型が挙げられる。これらは、2種以上混合して用いても良い。
【0034】
界面活性剤の種類を変更することによりHOMの構造(細孔の大きさや形、結晶構造など)を制御することができるので、結晶構造の秩序性が高くBET比表面積が大きい細孔密度の大きなHOMを形成できる界面活性剤が好適である。たとえば、ポリオキシエチレン(10)セチルエーテル(Brij56:C16H33(OCH2CH2)10OH、C16EO10)、トリブロック共重合体界面活性剤(たとえば、pluronic(登録商標)P123:EO20PO70EO20、Pluronic(登録商標)F108:EO141PO44O141)を用いることができる。Brij56:TMOS=0.5の重量比の混合により、立方晶構造Pm3nが得られ、P123:TMOS=0.7〜0.8の重量比の混合により、立方晶構造Ia3dが得られ、F108:TMOS=0.7の重量比の混合により、立方晶構造Im3mケージ状シリカ構造が得られる。
【0035】
図2は、HOM(立方晶Im3m)シリカ・モノリスの合成方法を示す図である。HOMシリカ・モノリスはコポリマー界面活性剤F108(EO141PO44EO141)を用いて瞬間直接鋳型法を採用することにより合成された。通常、立方晶Im3m (HOM)ケージ状メソ細孔を持つメソポーラスシリカモノリスは、F108/テトラメチルオルトケイ酸{Tetramethylorthosilicate(TMOS)}混合相にドデカンをドデカン:F108:TMOS=1:2.8:4の比率で付加することによって形成されたマイクロエマルジョン相を使って作製された。このHOMSは白い粉末状の固体である。
【0036】
次に、第2段階で、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物をHOMに担持させる。この段階では、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物にはセシウム(Cs)イオンは(他のイオンも)吸着されていない。(セシウムイオン{Cs(I)}を吸着していないことを示す用語として「セシウムイオン吸着性化合物」と称する。本発明に用いられるセシウムイオン吸着性化合物として、イオン錯体、無機化合物や有機化合物がある。セルロース、タンパク質などのセシウム(Cs)イオン吸着性化合物も含まれる。金属錯体として、無機および有機の金属錯体や金属カルボニル化合物、金属クラスターや有機金属化合物が挙げられる。また、キレート化合物も含まれる。基本的には、セシウム(Cs)(イオン)を吸着できる化合物であって、HOMに担持でき、化学処理により、目標元素であるセシウム(Cs)以外のイオンを遊離でき、その後に他の化学処理により目標元素であるセシウム(Cs)を遊離できる化合物である。セシウム(Cs)イオン吸着性化合物は、化学的にはたとえばOH基を介してHOMシリカに強固に結合している。
【0037】
セシウム(Cs)イオン吸着性化合物は、回収しようとする目標元素イオンであるセシウム(Cs)イオンを選択的にしかも多量に吸着する化合物が望ましい。たとえば、セシウム(Cs)イオンに対して選択的に結合するキレート化合物やその他の化合物が挙げられる。セシウム(Cs)を含む各種のイオン(カチオンやアニオン)や界面活性剤などが溶解したセシウム(Cs)イオン溶解溶液のpH値や温度や濃度などを調整すれば、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物に目標(金属)元素であるセシウム(Cs)(イオン)を選択的にしかも優先的に多量に吸着できる。また、キレート化合物等の化合物は、非常に微量の(たとえば、ppb〜ppmオーダーの)セシウム(Cs)を選択的に吸着することができるので、セシウム(Cs)イオン溶解溶液中に含まれるセシウム(Cs)イオンの量が少なくても、効率的に選択的にセシウム(Cs)イオンを吸着する。
【0038】
たとえば、我々は、2−ドデシル−4−((フェニル)ジアゼニル)レソルシノール{2-dodecyl-4-((phenyl)diazenyl)
resorcinol (DPAR)}(以下レセプターDPARまたはキャプターDPARとも称する)の化合物がセシウム(Cs)イオンを選択的に優先的に吸着することを見出した。(レセプター(receptor)とは本来「受容体」という生物学的用語であるが、本出願では特定元素(セシウム(Cs))イオンを吸着する(セシウム(Cs))イオン吸着性化合物という意味でレセプターという用語を用いることもある。)
【0039】
このレセプターDPARは、溶液を特定のpH値に調節したセシウム(Cs)イオンを含有した溶液(セシウム(Cs)イオン溶解溶液)にレセプターDPARを担持したHOMシリカを浸漬すると、レセプターDPARは他のpH値の溶液における場合よりも大量にしかも選択的にセシウム(Cs)イオンを吸着する。セシウム(Cs)イオンの吸着量が増していくとレセプターDPARを担持したHOMシリカの色が変色し、薄い茶色(吸着していないHOM−DPAR)から濃い茶色(セシウム(Cs)イオン濃度5ppm)へと変化していく。色調と吸着されたセシウム(Cs)イオン濃度とは相関関係にあるので、色調からセシウム(Cs)イオン濃度を知ることができる。すなわち比色分析が可能である。特にppb〜ppmレベルの微量なセシウム(Cs)でも吸着でき、その結果色調変化が生じるので正確な濃度を検出できる。選択的にという意味は、セシウム(Cs)イオンおよびその他の種々のイオン(カチオンやアニオン)や界面活性剤等を含む溶液にこれらのレセプターDPARを担持したHOMシリカ(HOM−DPAR)を浸漬すると、セシウム(Cs)イオンだけを吸着し、他の種々のイオンは殆ど吸着しないということを意味している。すなわち、レセプターDPARを担持したHOMシリカ(HOM−DPAR)は、セシウム(Cs)イオン吸着の選択性が優れている。
【0040】
また、セシウム(Cs)イオン吸着後の光吸収スペクトルからもセシウム(Cs)イオン濃度を測定できる。すなわち、レセプターDPARを担持したHOMシリカはセシウム(Cs)イオン濃度検出センサーでもある。このレセプターDPARを担持したメソポーラスシリカ(HOM−DPAR)は、セシウム(Cs)イオンを吸着すると紫外可視分光法において375nm近傍または510nm近傍の波長を持つ可視光において、セシウム(Cs)吸着に基づく吸収ピークを示し、この波長域帯の吸収率とセシウム(Cs)イオン濃度とは相関関係があるので、キャリブレーションカーブを事前に作っておくことにより、セシウム(Cs)イオンを吸着したHOM−DPARの紫外可視分光法における当該波長の吸収率データから、このHOMS−DPAR−Csのセシウム(Cs)イオン濃度を知ることができる。しかもこのHOMS−DPAR−Csは溶液中のセシウム(Cs)イオンを選択的に吸着するとともに、他の含有イオンはほとんど吸着しないので、非常に感度の良いセシウム(Cs)イオンコレクターおよび濃度センサーとなる。特にppb〜ppmレベルの微量なセシウム(Cs)でも吸着でき、その結果スペクトル変化が生じるので正確な濃度を検出できる。
【0041】
他のセシウム(Cs)イオン吸着性化合物の例として、4−(2−ジアゼニル−1,3,4−チアジアゾル)−6−ドデシルレソルシノール{4-(2-diazenyl-1,3,4-thiadiazole)-6-dodecylresorcinol (DTDR)}およびピロガロル・レッド{Pyrogallol red (PR)}があり、他のセシウム(Cs)イオン吸着性化合物も随時発見されるであろう。これらのセシウム(Cs)イオン吸着性化合物のうちの1つまたは2つ以上の化合物をHOMSに担持して、所望の特性を有するHOMS−レセプターを作製することができる。これらの化合物はセシウム(Cs)(イオン)をその環状分子構造内および/または環状分子間の間に取り込んで、セシウム(Cs)(イオン)を吸着(収集)する。従って、これらのセシウム(Cs)イオン吸着性化合物はキレート錯体であると言える。これらのセシウム(Cs)イオン吸着性化合物は、他の陰イオンや陽イオン(アルカリ金属、アルカリ土類族金属等の金属イオンを含む)も殆ど吸着しないので、極めて選択性が高い化合物である。セシウム(Cs)(イオン)はこれらの化合物と共有接合して吸着(結合)されていると考えられる。
【0042】
このようなセシウム(Cs)イオン吸着性化合物をHOMに担持(修飾)させる方法(複合化法とも呼ぶ)として種々の方法が挙げられる。たとえば、HOMに保持されるべきセシウム(Cs)イオン吸着性化合物が中性である場合には、試薬含浸法(REACTIVE & FUNCTIONAL POLYMERS,49,189(2001)など)が用いられ、陰イオン性である場合には、陽イオン交換法が用いられ、陽イオン性である場合には陰イオン交換法が用いられる。これらの複合化法は、特別の条件や操作ではなく、既知の一般的な技術分野に属するものである。したがって、これらの一般的な技術分野の詳細については、当該固体吸着分野に関する総説、文献などを参照することができる。
【0043】
たとえば、メソポーラスシリカを陽イオン性有機試薬(たとえば、陽イオン性シリル化剤)を用いて表面処理し、そのメソポーラスシリカに陽イオン性官能基を付与し、次いで、この陽イオン性メソポーラスシリカと陰イオン性セシウム(Cs)イオン吸着性化合物の水溶液やアルコール溶液とを接触させ、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物をメソポーラスシリカ内に吸着させる方法、メソポーラスシリカとセシウム(Cs)イオン吸着性化合物の有機溶媒溶液とを接触させ、有機溶媒だけをろ過あるいは蒸留などにより取り除くことで、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物をメソポーラスシリカ内に物理的に吸着させて担持する方法、メソポーラスシリカをチオール基を持つシリル化剤を用いて表面処理し、次いで、生成する表面のチオール基を酸化処理することで、そのメソポーラスシリカに陰イオン性官能基を付与し、この陰イオン性メソポーラスシリカと陽イオン性金属吸着性化合物の水溶液とを接触させ、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物をメソポーラスシリカ内に吸着させる方法、あらかじめセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を細孔内および表面に充填した後に、これを陽イオン性有機試薬の有機溶媒溶液で処理して、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物を細孔内および表面に固定する方法、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物と陽イオン性有機試薬をあらかじめ混合し、得られた試薬複合体の有機溶媒溶液と該シリカとを接触させ、有機溶媒だけをろ過あるいは蒸留などにより取り除くことで、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物を該シリカ内に担持する方法が使用される。
【0044】
たとえば、レセプターDTDRをHOMに担持させるには、レセプターDTDRをエタノールに溶解し、この溶液とHOMSを接触させて、HOMSへレセプターDTDRを含浸させる。このようにしてレセプターDTDRを高密度に整然と担持したHOMシリカ(HOMS−DTDR)が完成する。尚アルコールや水分等の液分を蒸発(加熱や真空引き等)させてさらに乾燥することによりレセプターDTDRを担持したHOMシリカを高純度の固体状態(粉末)で効率良く作製できる。また、結晶構造の秩序性が高くBET比表面積が大きいポーラス(細孔)密度の大きなHOMシリカほど、多くのレセプターが規則的にHOMシリカの表面および細孔内壁に担持される。たとえば、好適には、立方晶構造Im3m、Pm3n、Fm3m、Ia3d、六方晶構造P6mなどの構造が広範囲に形成されたHOMシリカにレセプターDTDR等のセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を吸着させる。
【0045】
セシウム(Cs)イオン吸着性化合物単独でも当然選択的に目標元素であるセシウム(Cs)イオンを吸着できるが、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物は凝集等するため、セシウム(Cs)イオン吸着が可能な官能基を有効に利用することができない。すなわち、凝集された(たとえば、粒子状の)セシウム(Cs)イオン吸着性化合物物質の表面に存在する官能基に目標元素であるセシウム(Cs)イオンが吸着しても、拡散または浸透によりセシウム(Cs)イオン吸着性化合物内部のセシウム(Cs)イオン濃度は距離(の2乗)に対して指数関数的に減少するから、その粒子状物質の内部にあるセシウム(Cs)イオン吸着性化合物の官能基全部にセシウム(Cs)イオンが吸着することは困難である。また、仮にその粒子状物質の内部にあるセシウム(Cs)イオン吸着性化合物の官能基にセシウム(Cs)イオンが吸着したとしても、その吸着したセシウム(Cs)イオンを取り出す(遊離するまたは逆抽出する)ことが難しいという問題がある。かなりの時間をかければ粒子状物質の内部にセシウム(Cs)イオンを拡散させ、さらに取り出すことも可能であるが、長時間をかけてセシウム(Cs)イオンを粒子状物質の内部を移動させることは生産性が悪く工業的には利用できない。
【0046】
これに対して、メソポーラスシリカは、細孔表面積が非常に大きく高度に秩序化した配向構造を持つので、メソポーラスシリカの表面および細孔内壁にセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したものは、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物が整然と配列して結合しているので、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物のセシウム(Cs)イオン吸着率が非常に高くなる。すなわち、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物の1分子ずつがセシウム(Cs)イオン吸着に利用できる。セシウム(Cs)イオン溶解溶液や遊離(逆抽出)溶液は、メソポーラスシリカの表面や細孔へ容易に速やかに侵入していくので、HOMSに担持されたセシウム(Cs)イオン吸着性化合物(の反応基)と容易に、しかも速やかに接触する。このことは、HOMSに担持されたセシウム(Cs)イオン吸着性化合物がセシウム(Cs)イオン溶解溶液と接触するとセシウム(Cs)イオンを速やかに吸着するということを意味する。また、吸着されたセシウム(Cs)イオンを遊離するときも遊離溶液と接触すれば吸着されたセシウム(Cs)イオンが速やかに遊離されるということも意味するので、セシウム(Cs)イオンの吸着(収集)および遊離(分離)が非常に効率的に速く進行し、その結果として生産性が飛躍的に向上する。
【0047】
たとえば、キレート樹脂単独の場合には、キレート樹脂の表面において、表面原子がすべて有効にキレート(官能基)を持った状態にはならず、原子的には離散的にキレートの反応端がある状態となっている。キレート樹脂単独でセシウム(Cs)イオンを吸着する時も、キレート樹脂のどの部分につくか制御できない。また、セシウム(Cs)イオン溶解溶液と接触した部分のキレート官能基にはセシウム(Cs)イオンが吸着(抽出とも言う)されると予想されるが、セシウム(Cs)イオン溶解溶液が浸透しにくいキレート樹脂内部ではセシウム(Cs)イオンは殆ど吸着されないと考えられる。すなわち、セシウム(Cs)イオン吸着効率が非常に悪い。さらにキレート樹脂に吸着したセシウム(Cs)イオンを遊離するとき(逆抽出とも言う)も、キレート樹脂内部に吸着したセシウム(Cs)イオンを取り出すことも困難となる。
【0048】
このキレート樹脂を繰り返し利用するときも、キレート樹脂中の残存物等の影響により、セシウム(Cs)イオンの抽出・逆抽出の効率がどんどん悪くなり、繰り返し使用でキレート樹脂の性能が大幅に劣化してしまう。これに対して、キレート樹脂をHOMに担持したものは、HOMの大きな比表面積と整列した原子配列を使って、キレート官能基をHOMの表面上に広範囲に形成することができる。言い換えれば、HOMではキレートの反応端はほぼ同一の性状になる。しかも、従来のキレート樹脂単独では実現できないほどに、HOM表面および細孔内壁に多量にキレートの反応端を有する。そのキレート官能基がセシウム(Cs)イオンもしくはセシウム(Cs)イオンを含む錯体イオンを選択的に捕獲するので、セシウム(Cs)イオンの吸着効率が非常に高くなる。また、その捕獲されたセシウム(Cs)イオンもしくはセシウム(Cs)イオンを含む錯体イオンを逆抽出で取り出すことも容易に可能となる。さらに、キレート樹脂単独で使用した場合には樹脂そのものの物理的および/または化学的強度が不十分であるため、キレート樹脂の繰り返し使用による劣化が大きいが、キレート樹脂をHOMに担持したものは、その骨格たるHOMの物理的および/または化学的強度が十分であるため、繰り返し使用による劣化が小さく、繰り返して使用すること、すなわち何回でもリユースすることができる。
【0049】
第3段階では、セシウム(Cs)イオンを含む各種のイオン(カチオンやアニオン)や界面活性剤等が溶解した水溶液(これをセシウム(Cs)イオン溶解溶液という)を準備する。このセシウム(Cs)イオン溶解溶液は、たとえば放射性セシウム(Cs)を含む原子力施設の冷却液や廃液は排液、あるいは原子力施設等から飛散した放射性セシウム(Cs)が生活用水や生活排水に溶解した溶液である。このような溶液には、セシウム(Cs)の外に各種の金属イオン等のカチオンや種々のアニオンや界面活性剤等様々なイオンが溶け込んでいる。もし、この溶液に固形分が含まれていれば、事前に取り除くことが望ましい。何故なら、この溶液に浸漬するHOM−MCプローブは固体なので、これと固形分が混合してしまうからである。
【0050】
従って、この溶液から固形分を除いた溶液がセシウム(Cs)イオン溶解溶液である。セシウム(Cs)イオン溶解溶液中にセシウム(Cs)イオン吸着性化合物(これをMCとする)を高密度に担持したHOM(以下、HOM−MCとも言う)を浸漬等してセシウム(Cs)イオン溶解溶液とHOM−MCと接触させる。この接触により、HOM−MCにセシウム(Cs)イオンが吸着される。(これをHOM−MC−Cs−M(Cs:目標元素であるセシウム(Cs)(Cs)、M:セシウム(Cs)以外の吸着されたイオンとする。)セシウム(Cs)イオン吸着性化合物は、一定の条件(pH値、温度、濃度等)下で目標元素であるセシウム(Cs)イオンを選択的にかつ優先的に吸着するので、その条件下のセシウム(Cs)イオン溶解溶液中にセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を浸漬すれば、目標元素であるセシウム(Cs)だけを吸着したHOM(すなわち、HOM−MC−Cs)を得ることができる。
【0051】
たとえば、セシウム(Cs)イオンを最も良く吸着するpH値に調整されたセシウム(Cs)イオン溶解溶液にHOM−MCを接触(浸漬を含む)させ、HOM-MCにセシウム(Cs)イオンを選択的に大量に吸着することができる。しかし、条件などの多少の変動によりわずかの他のイオンMが吸着される可能性もあるので、セシウム(Cs)イオン溶解溶液中の目標元素であるセシウム(Cs)以外のイオンをあらかじめ少なくしておくことにより、セシウム(Cs)以外のイオンMの吸着量が非常に少ないHOM−MC−Cs−Mが得られる。たとえば、セシウム(Cs)イオン溶解溶液中のpH調整や化学処理等を行いセシウム(Cs)イオン以外のイオンを析出沈殿させ除去しておくなどの方法がある。あるいは、セシウム(Cs)イオンは少なくとも吸着しない化合物(これも適当なHOM−MCを作製すれば良い。)を用いてセシウム(Cs)イオン以外のイオンを析出沈殿させ除去しておくという方法もある。
【0052】
上述のレセプターDPARの場合、たとえば、セシウム(Cs)イオン溶解溶液をpH=1.5〜2.5、好適にはpH=2.0、またはpH=9.0〜10.0、好適にはpH=9.5、に調節することにより、セシウム(Cs)イオンをHOM−MC{HOM−DPAR}に効率的に吸着させることができる。また、上述のレセプターDTDRの場合、セシウム(Cs)イオン溶解溶液をpH=1.5〜2.5、好適にはpH=2.0に調節することにより、セシウム(Cs)イオンをHOM−MC(HOM−DTDR)に効率的に吸着させることができる。また、上述のレセプターPRの場合、セシウム(Cs)イオン溶解溶液を9.0〜10.0、好適にはpH=9.5、に調節することにより、セシウム(Cs)イオンをHOM−MC(HOM−PR)に効率的に吸着させることができる。尚、エタノールや水分等の液分を蒸発(加熱や真空引き等)させてさらに乾燥することによりセシウム(Cs)イオンを吸着したHOMシリカを高純度の固体状態(粉末)で効率良く収集できる。
【0053】
第4段階では、目標元素であるセシウム(Cs)イオンを含むイオンを吸着したHOM−MC−Cs−Mを、目標元素であるセシウム(Cs)イオン以外のイオンを遊離できる溶液中に浸漬して、目標元素であるセシウム(Cs)イオン以外のイオンを除去してほぼ目標元素であるセシウム(Cs)だけを吸着したHOM−MC−Csとする。或いは、pH値や温度や溶液濃度などの条件調整により目標元素であるセシウム(Cs)以外のイオンを除去してHOM−MC−Csにできる場合もある。尚、目標元素であるセシウム(Cs)以外のイオンの吸着が非常に少ない場合(このときは、最初からHOM−MC−Csである)や、目標元素であるセシウム(Cs)だけを遊離できる方法があれば、第4段階は省略することもできる。たとえば、上述したレセプターDPARを担持したHOM−DPARまたはレセプターDTDRを担持したHOM−DTDRまたはレセプターPRを担持したHOM−PRの場合には、Mを殆ど吸着しないので、すなわち、HOM−DPAR、DTDR、PR−Csの状態になっているので、第4段階は省略することが可能となる。
【0054】
第5段階では、ほぼ目標元素であるセシウム(Cs)だけを吸着したHOM−MC−Csを、目標元素であるセシウム(Cs)を溶解可能な溶液に浸漬して、目標元素であるセシウム(Cs)イオンを溶解する。(溶離処理と呼ぶ)或いは、pH値や温度や溶液濃度などの条件調整により目標元素であるセシウム(Cs)イオンだけを遊離できる場合もある。或いは、目標元素であるセシウム(Cs)イオンだけを遊離できる溶液に浸漬することにより、目標元素であるセシウム(Cs)イオンを溶解できる。このような場合には、必ずしも目標元素であるセシウム(Cs)イオンだけを吸着したHOM−MC−Csにする必要がない。この溶解液から目標元素であるセシウム(Cs)イオンが遊離されたHOM−MCは固形物であるから、ろ過して取り除く。固形物として取り除かれたHOM−MCは再度使用可能である。
【0055】
また、溶離処理によりセシウム(Cs)を溶解した溶離液から種々の方法(たとえば、溶融塩電解法や蒸留法)により、目標元素であるセシウム(Cs)を分離すると目標元素であるセシウム(Cs)を回収できる。すなわち、セシウム(Cs)が溶け込んだ環境水から目標元素であるセシウム(Cs)を回収できた。この結果、固形物HOM−MCはろ過して再利用でき、第3段階において再び使用できる。尚、HOM−MCに目標(金属)元素であるセシウム(Cs)を吸着してHOM−MC−Csにすることを目標元素であるセシウム(Cs)の抽出と考えた場合に、この工程はHOM−MC−CsからCsを遊離してHOM−MCにするので逆抽出(工程)と言うこともできる。
【0056】
以上述べた第1段階〜第5段階の工程を経ることにより、原子力施設等からの廃液や生活用水や環境水から得られた目標元素である放射性セシウム(Cs)を含むセシウム(Cs)を溶解したセシウム(Cs)イオン溶解溶液から、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持した高度に秩序化したHOMシリカ(HOMS)を用いて、目標元素であるセシウム(Cs)を回収することができる。
【実施例1】
【0057】
<HOM(立方晶Ia3d)シリカ・モノリスの合成>
図2は、HOM(立方晶Im3m)シリカ・モノリスの合成方法を示す図である。HOMシリカ・モノリスはコポリマー界面活性剤F108(EO141PO44EO141)を用いて瞬間直接鋳型法を採用することにより合成された。立方晶Im3m (HOM)ケージ状メソ細孔を持つメソポーラスシリカモノリスは、F108/オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)混合相にドデカンをドデカン:F108:TMOS=1:2.8:4の比率で付加することによって形成されたマイクロエマルジョン相を使って作製された。
【0058】
すなわち、丸形フラスコ容器中に8.0gのテトラメチルオルトケイ酸(TMOS)および5.6gの界面活性剤F108を入れ、その中に2.0gのドデカンを加え、界面活性剤を完全に溶解させるために、フラスコ容器は約60℃の温水中で保持された。この均質混合溶液にロータリーエバポレーター中で、pH1.3の酸性水溶液(H2O-HCl)4gを添加し蒸発させると、TMOSの発熱加水分解および濃縮が急速に起こる。
【0059】
この発熱加水分解/濃縮反応はロータリーエバポレーターで排気中も継続するので、液体材料の粘性が増大し、生成した有色のゲル状物質が反応容器中に形成される。ロータリーエバポレーターで10分排気後に半透明のガラス状モノリスが収集され、オーブン中において40℃で1日乾燥された。その後、この固形材料を450℃で8時間焼成することにより界面活性剤および水分が取り除かれ、白い粉末状のHOM(立方晶Im3m)シリカ・モノリスが作製された。
【0060】
このHOMシリカ・モノリスは、窒素吸着/脱着等温線測定結果により、細孔サイズが7nmと非常に小さく、細孔体積が0.7cm3/gであり、BET比表面積が700m2/gと非常に大きい。また、X線回折パターンおよび電子顕微鏡解析により、HOMシリカ・モノリスは約15.7nmの格子定数を有する秩序化した立方晶構造(Im3m)を有することが分かった。このように上述の方法で作製したHOMシリカは、細孔サイズが非常に小さく比表面積が非常に大きな高度に秩序化したメソポーラスシリカである。
【実施例2】
【0061】
<放射性セシウム(Cs)の回収に使用されるレセプター(1)>
<2−ドデシル−4−((フェニル)ジアゼニル)レゾルシノール{2-dodecyl-4-((phenyl)diazenyl)
resorcinol (DPAR)}の生成>
図3は、レセプターDPARの生成に関する合成方法を示す図である。約0.05モルのアニリンを40mlのHCl溶液に溶解する。この溶液を0℃に冷却し、水に溶かした3.5gのNaNO2をこの溶液にゆっくりと添加した。反応の進行は、ヨウ化デンプン紙により制御された。最終的に、このジアゾニウム塩溶液は、4NのHCl溶液60mlに3.4gの6-ドデシルレゾルシノール(6-dodecylresorcinol)を溶解し充分に冷却した溶液に、ゆっくりと注がれた。この結果得られた溶液を0℃で30分冷却し、その後で、180mlの水に60gの酢酸ナトリウムを溶解した水溶液を加えた。このカップリング反応は0℃で2時間かけて行なわれ、生成した析出物は水洗された。この析出物がDPARである。
【実施例3】
【0062】
<放射性セシウム(Cs)の回収に使用されるレセプター(2)>
<4−(2−ジアゼニル−1,3,4−チアジアゾル)−6−ドデシルレゾルシノール{4-(2-diazenyl-1,3,4-thiadiazole)-6-
dodecylresorcinol (DTDR)}の生成>
図4は、レセプターDTDRの生成に関する合成方法を示す図である。約0.05モルの2−アミノ−1,3,4−チアジアゾル(2-amino-1,3,4-thiadiazol)を40mlのHClに溶解し、この溶液を0℃に冷却し、水に溶かした3.5gのNaNO2をゆっくりと添加した。この反応の進行は、ヨードデンプン紙によってコントロールされた。最終的にジアゾニウム塩の溶液は、60mlの4NのHClに溶けた6−ドデシルレゾルシノール(6-dodecylresorcinol)3.4gの充分に冷却された溶液にゆっくりと注がれた。この結果生じた溶液はその後0℃で30分間冷却され、180mlの水に溶かされた60gの酢酸ナトリウム溶液が添加された。このカップリング反応は2時間の間に0℃で行なわれた。析出物が生成し、この析出物は水洗された。この析出物がDTDRである。このDTDRはセシウム(Cs)を選択的に吸着することができるセシウム(Cs)イオン吸着性化合物である。セシウム(Cs)はDTDRの環状分子構造の中に取り込まれる。すなわち、DTDRはセシウム(Cs)を優先的に吸着するキレート錯体である。また、セシウム(Cs)を分離(遊離)すれば元のDTDRに戻る。このようにセシウム(Cs)とDTDRの吸着遊離反応は可逆的である。従って、レセプターDTDRは放射性セシウム(Cs)の回収に使用できる。
【実施例4】
【0063】
<放射性セシウム(Cs)の回収に使用されるレセプター(3)>
<ピロガロールレッド{Pyrogallol red (PR)}>
レセプター・ピロガロールレッド{Pyrogallol red (PR)}の構造式を図5に示す。このレセプターPRは工業的に製造されており容易に入手可能で、本発明においても市販のものを用いた。
【実施例5】
【0064】
<HOM−プローブ材料の合成(1)>
<HOM−DPARの作製および特性>
HOM−センサー材料すなわち、HOMにレセプターDPAR、DTDRおよびPRを担持し、HOM−DPAR、DTDR、PRを作製する方法はほとんど同じであるので、HOM−DPARを合成する方法について以下に示す。図6は、レセプターDPARを担持したHOM−DPARの製造方法を示す図である。丸形フラスコに入ったエタノール液中に50mgの2-ドデシル-4-((フェニル)ジアゼニル)レゾルシノール(DPAR)を入れ、実施例2で生成したHOM−Cage(Cage状HOMS)を1g添加した。丸形フラスコ中のエタノールは、フラスコをロータリーエバポレーターへ連結し、45〜50℃でゆっくりと真空引きして取り除かれた。フラスコ中の粘性液体は、2時間以内に有色のゲル状材料(固体生成物)へ変化した。この材料を65〜70℃で5時間乾燥した後温水洗浄し、再度65〜70℃で乾燥した。乾燥した塊状粉末をすりつぶして細かい粉末状にして、この粉末状材料(HOM−DPAR)は種々の実験条件においてセシウムイオン{Cs(I)}抽出に使用された。
【0065】
HOM-DPARの特性(BET比表面積、細孔体積、細孔サイズ)はこの材料の窒素(N2)吸着・脱着等温線から求めることができる。HOM-DPARのBET比表面積は約347.01m2g−1、細孔体積は約0.41 cm3g−1、細孔サイズは5.4nmである。これらの結果から、HOM-DPARは、BET比表面積が大きく、細孔サイズも小さく、HOM−DPARは良好な吸着サイトを持つことが分かる。従って、セシウムイオンの吸着サイトは非常に多いことが分かる。
【実施例6】
【0066】
<HOM−プローブ材料の合成(2)>
<HOM−DTDRの作製および特性>
0.030gのDTDRを丸形フラスコのエタノール中に溶解して、HOM(Cage状)を1.0g添加した。溶液中のエタノールは、ロータリーエバポレーターに連結されて45℃でゆっくりと真空引きされて取り除かれた。この後、この材料は、洗浄され、65−70℃で5時間乾燥された。この材料は、すり潰されて粉末状になり、色々な実験条件でセシウムの除去に使用された。この材料がセシウムイオン吸着性化合物であるDTDRを担持したHOM-DTDRである。
【0067】
HOM-DTDRの特性(BET比表面積、細孔体積、細孔サイズ)はこの材料の窒素(N2)吸着・脱着等温線から求めることができる。HOM-DTDRのBET比表面積は約422.26m2g−1、細孔体積は約0.48cm3g−1、細孔サイズは4.63nmである。これらの結果から、HOM-DTDRは、BET比表面積が大きく、細孔サイズも小さく、HOM−DTDRは良好な吸着サイトを持つことが分かる。従って、セシウムイオンの吸着サイトは非常に多いことが分かる。
【0068】
このようにして、高度に秩序化したHOMシリカキャリアの表面および細孔内面にDTDRを担持させてHOM−DTDRコレクターを作製する。このHOM−DTDRコレクターをセシウム(Cs)イオン溶解溶液に接触(浸漬)させてセシウム(Cs)イオンをHOM−DTDRコレクターに吸着させて、HOM−DTDR−Csを得る。すなわち、セシウムイオン(Cs+)は、HOM−DTDRコレクター上のDTDRの環状分子構造内に取り込まれる。このHOM−DTDR−Csを適当な溶離溶液に接触(浸漬)させてセシウム(Cs)を分離(遊離)させる。この結果、HOM−DTDR−Csは元のHOM−DTDRに戻り、再びセシウム(Cs)を収集するためのHOM−DTDRコレクターとして使用することができる。
【実施例7】
【0069】
<HOM−キャプター(DPAR)を用いたセシウムイオンCs(I)の抽出>
図7および図8は、セシウム吸着性化合物{キャプター(Captor)}としてDPARを用いたときのHOM−DPARによるセシウム(Cs)抽出フローを示す図である。図7は、HOMにDPARを担持してHOM−DPARを生成する手順も示している。pH調整した溶液4mlにセシウム溶液を相当量添加し、種々の濃度(0.5ppm〜5ppm)にし、さらに必要量の水を加えて20ml溶液にした。これらの水溶液に、実施例5において作製した固体状のHOM−DPAR20mgを添加して、45−50℃で12時間攪拌した後ろ過した。ろ過後の固体材料は、紫外線可視分光法(UV-VIS-NIR Spectroscopy)によって調査され、吸収スペクトルを取った。また、ろ過後の固体材料について比色分析を行なった。
【0070】
また、HOM−DPARを添加する前の溶液およびろ過液のセシウムイオン濃度をICP-OES(ICP発光分光分析)によって測定した。HOM−DPARを添加する前の溶液に含まれていたセシウムイオンは、ろ過液には殆ど含まれていないことが確認された。すなわち、溶液中のセシウムイオンは殆どHOM−DPARに吸着されたことが分かる。セシウム溶液は200mlの水に塩化セシウムCsCl2を50.67mg溶解させて作製した。これから適量のセシウム溶液を取って溶液中のセシウム濃度を調整した。たとえば、5ppmのCs(I)は、セシウムイオン{Cs(I)}の200ppm貯蔵液ビンから500μlを添加することによって作製された。また、種々のpH溶液を使用して実験した。たとえば、pH2の調整溶液に関しては、1L(1000mL)H2Oに塩化カリウム14.91gを溶解し、塩酸(HCl)を使ってpH2に調整した。pH9.5に関しては、1L(1000mL)H2Oに0.2MのN−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸{N-cyclohexyl-3-aminopropanesulfonic
acid (CAPS)}を添加し、NaOHを使ってpH9.5に調整した。
【実施例8】
【0071】
<HOM−DPAR−Csにおける紫外線可視分光分析および比色分析>
図9は、pH2において種々のセシウム濃度を有する水溶液中にHOM−DPARを浸漬しろ過した後に得られた、セシウムイオンを吸着した固形物HOM−DPAR−Csの紫外線可視分光法の吸収スペクトル(紫外線可視分光分析)および比色分析を示す図である。HOM−DPARはセシウムを吸着してHOM−DPAR−Csになると、吸収スペクトルが変化して波長域(250nm−700nm)(実際の測定装置における測定波長は250nm−900nm)において吸収度(吸光度)が小さくなる傾向にあることが分かる。特に波長が375nm近傍において、HOM−DPARの吸収バンドの強度変化(ピーク値)が存在することが分かる。この強度変化はセシウムを吸着したことに基づくと考えられる。また、HOM−DPARはセシウムを吸着してHOM−DPAR−Csになると、色調が変化することも分かる。すなわち、HOM−DPAR(Csを吸着していない)は薄い茶色を示すが、セシウムを吸着したHOM−DPAR−Csは茶色が濃くなる。特にセシウム濃度が増加するにつれて濃くなる傾向にある。(比色分析(固形物の色調)の結果は、セシウム濃度が左から0、5ppm、2.5ppm、1.5ppm、0.5ppm、5ppmCs+5ppmIonsである。)これらの結果から、セシウムを吸着したHOM−DPAR−Csの紫外線可視分光法の吸収スペクトルを調べれば、セシウム(Cs)を吸着したかどうかが分かり、さらに吸着したセシウム(Cs)の濃度も知ることができる。また、セシウムを吸着したHOM−DPAR−Csの比色分析を行なって固形物の色調を調べれば、セシウム(Cs)を吸着したかどうかが分かり、さらに吸着したセシウム(Cs)の濃度も知ることができる。
【0072】
図10は、pH9.5において種々のセシウム濃度を有する水溶液中にHOM−DPARを浸漬しろ過した後に得られた、セシウムを吸着した固形物HOM−DPAR−Csの紫外線可視分光法の吸収スペクトルおよび比色分析を示す図である。HOM−DPARはセシウムを吸着してHOM−DPAR−Csになると、吸収スペクトルが変化して波長域(250nm−700nm)(実際の測定装置における測定波長は250nm−900nm)において吸収度(吸光度)が小さくなる傾向にあることが分かる。特に波長が510nm近傍において、HOM−DPARの吸収バンドの強度変化(ピーク値)が存在することが分かる。この強度変化はセシウムを吸着したことに基づくと考えられる。また、HOM−DPARはセシウムを吸着してHOM−DPAR−Csになると、色調が変化することも分かる。すなわち、HOM−DPAR(Csを吸着していない)は薄い茶色を示すが、セシウムを吸着したHOM−DPAR−Csはピンク色を帯びてくる。特にセシウム濃度が増加するにつれて濃くなる傾向にある。(比色分析(固形物の色調)の結果は、セシウム濃度が左から0、2ppm、5ppm、2.5ppm、1.5ppm、0.5ppm、5ppmCs+5ppmIonsである。)これらの結果から、セシウムイオンを吸着したHOM−DPAR−Csの紫外線可視分光法の吸収スペクトルを調べれば、セシウム(Cs)を吸着したかどうかが分かり、さらに吸着したセシウム(Cs)の濃度も知ることができる。また、セシウムを吸着したHOM−DPAR−Csの比色分析を行なって固形物の色調を調べれば、セシウム(Cs)を吸着したかどうかが分かり、さらに吸着したセシウム(Cs)の濃度も知ることができる。
(尚、図9おとび図10における「5ppmCs+5ppmIons」とは、5ppmのセシウム(Cs)および、5ppmのNaCl、LiCl、KI、MaCl2、およびCaCl2を含む溶液を意味する。)
【実施例9】
【0073】
<かく乱イオンの存在におけるHOM−DPARのセシウムイオンの除去(pH2溶液)>
pH2の溶液を4ml取って、50mlのビーカーへ注入し、5ppmのCs1+(200ppm貯蔵液ビンから500μl)を加えて、この溶液に(NaCl、LiCl、KI、MgCl2、およびCaCl2)の各イオンから5ppm(各溶液の200ppm貯蔵液ビンから200μl)を添加した後、脱イオン水を使って溶液を20mlにして、セシウムイオン以外にアルカリ金属イオンおよびアルカリ土類イオンを含む複数イオンの溶液を作製する。この複数イオン溶液にHOM−DPAR20mgを添加し、50−60℃で12時間攪拌した後、ろ過する。ICP−MS分析(ICP質量分析)の結果から、ろ過液はセシウムイオンCs(I)を含まず、ろ過液においてセシウムイオン以外の元素イオンが検出された。また、ろ過後の固形物は紫外線可視分光法(UV-VIS-NIR Spectroscopy)によって調査され、吸収スペクトルを取った。また、ろ過後の固体材料について比色分析を行なった。
【0074】
図11は、pH2の溶液にHOM−DPARキャプターを使って、競合イオン(NaCl等)の存在下におけるセシウムイオン{Cs(II)}を吸着したHOM−DPAR−Csの吸収スペクトルおよび比色分析結果を示す。吸収スペクトルの結果から分かるように、セシウムイオンが含まれていると、含まれていない場合に比べて吸収率(吸光度)が小さくなる。また、セシウムイオン以外のイオンが含まれていても、曲線形状に大きな違いはなく、競合イオンがあっても余り影響されていないことが分かる。さらに、セシウムイオン吸着に関与する375nmの波長における吸収ピークがどちらにも現れている。比色分析の結果からも同様の傾向があることが分かる。すなわち、セシウムイオンを吸着していないHOM−DPARは薄い茶色の色調であるが、セシウムイオン単独の場合も複数イオンが存在する場合もHOM−DPAR−Csの色調は茶色が濃くなっている。
【実施例10】
【0075】
<かく乱イオンの存在におけるHOM−DPARのセシウムイオンの除去(pH9.5溶液)>
pH9.5の溶液を4ml取って、50mlのビーカーへ注入し、0.1Mのドデシル硫酸ナトリウム{sodium
dodecyl sulfate(SDS)}2mlを添加する。さらに、5ppmのCs1+(200ppm貯蔵液ビンから500μl)を加えて、この溶液に(NaCl、LiCl、KI、MgCl2、およびCaCl2)の各イオンから5ppm(各溶液の200ppm貯蔵液ビンから200μl)を添加した後、脱イオン水を使って溶液を20mlにして、セシウムイオン以外にアルカリ金属イオンおよびアルカリ土類イオンを含む複数イオンの溶液を作製する。この複数イオン溶液にHOM−DPAR20mgを添加し、50−60℃で12時間攪拌した後、ろ過する。ICP−MS分析(ICP質量分析)の結果から、ろ過液はセシウムCs(I)を含まず、ろ過液においてセシウムイオン以外の元素イオンが検出された。また、ろ過後の固形物は紫外線可視分光法(UV-VIS-NIR Spectroscopy)によって調査され、吸収スペクトルを取った。また、ろ過後の固体材料について比色分析を行なった。
【0076】
図12は、pH9.5の溶液にHOM−DPARキャプターを使って、競合イオン(NaCl等)の存在下におけるセシウムイオン{Cs(II)}を吸着したHOM−DPAR−Csの紫外線可視分光法による吸収スペクトルおよび比色分析結果を示す。吸収スペクトルの結果から分かるように、セシウムイオンが含まれていると、含まれていない場合に比べて吸収率(吸光度)が小さくなる。また、セシウムイオン以外のイオンが含まれていても、曲線形状に大きな違いはなく、競合イオンがあっても余り影響されていないことが分かる。さらに、セシウムイオン吸着に関与する510nmの波長における吸収ピークがどちらにも現れている。比色分析の結果からも同様の傾向があることが分かる。図11と比較すると、吸収スペクトルおよび比色分析結果から(特に比色分析結果において、複数イオンとセシウム単独イオンの色調の変化がpH2の溶液の方が小さいことから)pH2におけるセシウムCsの選択性はpH9.5より良いということが分かる。
【実施例11】
【0077】
<大容量のセシウムイオン溶解溶液におけるHOM−DPARによるセシウムイオン抽出>
上記の実施例ではセシウムイオン溶解溶液は少量(20ml)であったが、実際の処理現場で適用する場合はかなり大量の処理水を用いることになる。そこで大量のセシウムイオン溶解溶液に本発明のセシウム吸着材料であるHOM−DPARを用いたときのセシウム吸着について調査した。まず、pH2の調整溶液160mlを取って1000mlビーカーへ注入した後、5ppmのセシウムイオンCs(I)(セシウムイオンCs(I)の200ppm貯蔵液ビンから20ml)を添加した後、必要量の脱イオン水を加えてセシウムイオン溶解溶液を800ml溶液に調整した。その後、HOM−DPARキャプター500mgをこのセシウムイオン溶解溶液に添加し、50−60℃で24時間攪拌した後ろ過した。
【0078】
図13は、大容量のセシウムイオン溶解溶液からのセシウムイオンを抽出したろ過後の固形材料HOM−DPAR−Csの紫外線可視分光法による吸収スペクトルおよび比色分析結果を示す図である。図13から分かるように、セシウムイオンを吸着したHOM−DPAR−Csの吸光度はセシウムイオンを吸着する前のHOM−DPARの吸光度よりかなり小さくなっていて、大量のセシウムイオンを吸着したことが分かる。また、固形材料の色調もセシウムイオンの吸着前後で変化していて、大量のセシウムイオンを吸着したことが分かる。さらに、IPC−MS(IPC質量分析)の測定から、ろ過液にはセシウムイオンCs(I)は殆ど含まれていなかった。このことから、HOM−DPARを用いて大容量のセシウムイオン溶解溶液からも小容量の場合と同様にHOM−DPARはセシウムイオンを大量に吸着でき、しかも殆ど完全にセシウムイオンを除去できることが分かった。すなわち、実用的に問題ないレベルであることを確認した。このように、HOMプローブ(HOM−DPAR)は、セシウム(Cs)イオンの優れたコレクターおよび濃度検出センサーである。
【実施例12】
【0079】
<大容量のセシウムイオン溶解溶液におけるHOM−DTDRによるセシウムイオン抽出>
大量のセシウムイオン溶解溶液に本発明のセシウム吸着材料であるHOM−DTDRを用いたときのセシウム吸着について調査した。pH2の調整溶液160mlを取って1000mlビーカーへ注入した後、5ppmのセシウムCs(I)(セシウムイオンCs(I)の200ppm貯蔵液ビンから20ml)を添加した後、必要量の脱イオン水を加えてセシウムイオン溶解溶液を800ml溶液に調整した。その後、HOM−DTDRキャプター500mgをこのセシウムイオン溶解溶液に添加し、50−60℃で24時間攪拌した後ろ過した。
【0080】
図14は、大容量のセシウムイオン溶解溶液からのセシウムイオンを抽出したろ過後の固形材料HOM−DTDR−Csの紫外線可視分光法による吸収スペクトルおよび比色分析結果を示す図である。図14から分かるように、セシウムイオンを吸着したHOM−DTDR−Csの吸光度はセシウムイオンを吸着する前のHOM−DTDRの吸光度よりかなり小さくなっていて、大量のセシウムイオンを吸着したことが分かる。また、固形材料の色調もセシウムイオンの吸着前後で変化し(黄色から黄褐色へ変化し)、大量のセシウムイオンを吸着したことが分かる。さらに、IPC−MSの測定から、ろ過液にはセシウムイオンCs(I)は殆ど含まれていなかった。このことから、HOM−DTDRを用いて大容量のセシウムイオン溶解溶液からも小容量の場合と同様にHOM−DTDRはセシウムイオンを大量に吸着でき、しかも殆ど完全にセシウムイオンを除去できることが分かった。すなわち、実用的に問題ないレベルであることを確認した。このように、HOMプローブ(HOM−DTDR)は、セシウム(Cs)イオンの優れたコレクターおよび濃度検出センサーである。
【実施例13】
【0081】
<大容量のセシウムイオン溶解溶液におけるHOM−PRによるセシウムイオン抽出>
大量のセシウムイオン溶解溶液に本発明のセシウム吸着材料であるHOM−PRを用いたときのセシウム吸着について調査した。pH9.5の調整溶液160mlを取って1000mlビーカーへ注入した後、0.1Mのドデシル硫酸ナトリウム{sodium
dodecyl sulfate(SDS)}を40mlを添加する。次に、5ppmのセシウムCs(I)(セシウムイオンCs(I)の200ppm貯蔵液ビンから20ml)を添加した後、必要量の脱イオン水を加えてセシウムイオン溶解溶液を800ml溶液に調整した。その後、HOM−PRキャプター400mgをこのセシウムイオン溶解溶液に添加し、50−60℃で24時間攪拌した後ろ過した。
【0082】
図15は、大容量のセシウムイオン溶解溶液からのセシウムイオンを抽出したろ過後の固形材料HOM−PR−Csの紫外線可視分光法による吸収スペクトルおよび比色分析結果を示す図である。図15から分かるように、セシウムイオンを吸着したHOM−PR−Csの吸光度はセシウムイオンを吸着する前のHOM−PRの吸光度よりかなり小さくなっていて、大量のセシウムイオンを吸着したことが分かる。また、固形材料の色調もセシウムイオンの吸着前後で変化し(極薄の紫色から薄い紫色へ変化し)、大量のセシウムイオンを吸着したことが分かる。さらに、IPC−MSの測定から、ろ過液にはセシウムイオンCs(I)は殆ど含まれていなかった。このことから、HOM−PRを用いて大容量のセシウムイオン溶解溶液からも小容量の場合と同様にHOM−PRはセシウムイオンを大量に吸着でき、しかも殆ど完全にセシウムイオンを除去できることが分かった。すなわち、実用的に問題ないレベルであることを確認した。このように、HOMプローブ(HOM−PR)は、セシウム(Cs)イオンの優れたコレクターおよび濃度検出センサーである。
【実施例14】
【0083】
<セシウムの回収>
セシウム溶解溶液(pH9.5)からセシウムイオンCs(I)をHOM−DPARに吸着後(実施例7、8、セシウム吸着濃度5ppm)、セシウムイオンCs(I)を吸着した固体材料(HOM−DPAR―Cs)20mgは、50mlビーカーにおいて0.01MのHNO3の溶離溶液20ml(20mlの脱イオン水へ濃硝酸HNO3(60−61%)を20μl溶解して0.01MのHNO3を作る)に添加され、5分間攪拌する。この後この溶液をろ過した。
【0084】
図16は、セシウムイオンCs(I)を遊離(または分離または溶離とも言う)前後の固形材料HOM−DPAR紫外線可視分光法による吸収スペクトルを示す。また、図17は、図16に示す比色分析結果の拡大図、すなわちセシウムCs(I)を遊離(または分離または溶離とも言う)前後の固形材料HOM−DPARの色調変化を示す。図16(a)はセシウムイオン吸着後の固形材料HOM−DPAR−Csの色調でピンク色を帯びている。図16(b)はセシウムイオン遊離後の固形材料の色調で薄い茶色であり、セシウムイオン吸着前の固形材料HOM−DPARの色調に近くなっている。このように、0.01MのHNO3の溶離溶液処理により、HOM−DPAR−CsはセシウムイオンCs(I)を遊離しHOM−DPARに戻ったと考えられる。図16の紫外線可視分光法による吸収スペクトルは、溶離処理によって余り変化がない結果(溶離前のHOM−DPAR−Csの場合における吸光度は、遊離後の吸光度とほぼ同程度)となっているが、サンプルの量やサンプル処理にさらなる工夫が必要である。実際にはセシウムイオンを吸着する前のHOM−DPARの吸収スペクトル曲線に近づくと考えられる。また、図16から分かるように、HOM−DPARキャプターは細孔表面に大量のDPARリガンド化合物を保持していて、HOM−DPARキャプターをリサイクル/リユースできる。また、ろ過液のICP−MS分析(ICP質量分析)より、HOM−DPAR−Csの90%以上が回収されたことを確認した。条件を最適化することにより、さらに除去効率を高めることができ、回収率を100%に近づけることが可能である。溶離溶液も非常に濃度の薄い0.01MのHNO3でを充分に除去可能なので、回収コストも小さい。
【実施例15】
【0085】
<HOM−DPARによるセシウムイオンの吸着によるICP−MS分析>
pH2の調整溶液160mlを取って1000mlビーカーへ注入した後、4.5ppmのセシウムイオンCs(I)(セシウムイオンCs(I)の200ppm貯蔵液ビンから18ml)を添加した後、必要量の脱イオン水を加えてセシウムイオン溶解溶液を800ml溶液に調整した。その後、HOM−DPARキャプター500mgをこのセシウムイオン溶解溶液に添加し、50−60℃で24時間攪拌した後ろ過した。ろ過液はICP−MS分析(ICP質量分析)を行ないセシウムイオン濃度の測定を行なった。
【0086】
また、pH9.5の調整溶液160mlを取って1000mlビーカーへ注入した後、0.1Mのドデシル硫酸塩(SDS)40mlを添加する。次に4.5ppmのセシウムイオンCs(I)(セシウムイオンCs(I)の200ppm貯蔵液ビンから18ml)を添加した後、必要量の脱イオン水を加えてセシウムイオン溶解溶液を800ml溶液に調整した。その後、HOM−DPARキャプター500mgをこのセシウムイオン溶解溶液に添加し、50−60℃で24時間攪拌した後ろ過した。ろ過液はICP−MS分析(ICP質量分析)を行ないセシウムイオン濃度の測定を行なった
【0087】
図18は、ICP−MS分析(ICP質量分析)によるセシウムイオンCs(I)濃度を示す。HOM−DPARを添加する前のセシウムイオン濃度は4.5ppmであった(狙い通り)が、HOM−DPARを添加後のろ過液中のセシウムイオン濃度は、pH2の場合が0.1ppmで、pH9.5の場合が検出限界以下(<0.1ppm)であった。これらの結果から、HOM−DPARはほぼ100%のセシウムイオンを吸着できることが確かめられた。従って本発明のHOM−DPARは非常に優れたセシウム吸着剤である。またセシウム以外のアルカリイオンやアルカリ土類金属イオンなどのセシウムに近似した(イオン価や化学・物理的性質が類似)イオンは殆ど吸着しないので、選択性にも優れている。また、他のセシウムイオン吸着性化合物を担持したHOM−DTDRやHOM−PRについてもHOM−DPARと同様の結果を得ているので、HOM−DTDRおよびHOM−PRも非常に優れたセシウム吸着剤であり、かつ選択性にも優れた吸着剤である。
【0088】
図19は、上記の実施例から得られた本発明のHOM−DPARのセシウム回収の適用範囲、すなわちセシウムイオン{Cs(I)}の効率性および抽出パラメーターを示した表である。HOM−DPARコレクターをセシウム(Cs)イオン溶解溶液に浸漬したときのHOM−DPARコレクターがセシウム(Cs)イオンを吸着する抽出時間(ほぼ完全に(97%以上の)セシウムイオンを吸着するまでの時間)は12時間、視覚的に検知できる検出限界は0.5ppmである。セシウム(Cs)1gを吸着するHOM−DPARコレクターの必要量は10gである。またセシウム(Cs)を吸着したHOM−DPARコレクターは、溶離溶液としてHNO3を用いることにより、元のHOM−DPARコレクターに戻る。0.01MのHNO3でも溶離することができる。しかも、HOM−DPARコレクターはHOMS骨格の安定な構造を有しており繰り返し使用できるので、少ない材料で多くのセシウム(Cs)を回収することができる。
【0089】
図20は、本発明のセシウム(Cs)イオン吸着性化合物であるDPARまたはDTDRまたはPRを担持したメソポーラスシリカ(HOMS)を用いて放射性セシウム(Cs)等を含むセシウム(Cs)イオン溶解溶液からセシウム(Cs)を回収するシステムを示した図である。この図は、これまでに述べた本発明をまとめた図である。1段階でメソポーラスシリカ(HOMS)を作製し、第2段階でセシウム(Cs)イオン吸着性化合物であるDPARまたはDTDRまたはPRをHOMSへ担持させ、HOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターを作製する。次に第3段階でセシウム(Cs)(このセシウム(Cs)には当然放射性セシウム(Cs)も含む)やその他のイオンを含むセシウム(Cs)(イオン)溶解溶液にHOMS−DPARまたはHOMS−DTDRまたはHOMS−PRを浸漬(接触)し、抽出すべき(あるいは収集すべき)目標(金属)元素であるセシウム(Cs)をHOMS−DPARまたはHOMS−DTDRまたはHOMS−PRに吸着(抽出、収集)し、HOMS−DPAR−CsまたはHOMS−DTDR−CsまたはHOMS−PR−Csを作る。次の第4段階(図1では第5段階)では、このHOMS−DPAR−CsまたはHOMS−DTDR−CsまたはHOMS−PR−Csを酸性溶液またはアルカリ溶液などのセシウム(Cs)溶離溶液に浸漬等して目標元素であるセシウム(Cs)を分離する。(HOMS−DPAR、HOMS−DTDRおよびHOMS−PRは多種のイオン(カチオンやアニオン)が溶解していても選択的にCsイオンだけを吸着するので図1における第4段階を省略できる。)この一連の操作によってセシウム(Cs)が回収または収集された。HOMS−DPARまたはHOMS−DTDRまたはHOMS−PRは第3段階で再び使用することができ、HOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターをリユースして何回でも使用できる。
【0090】
比色法の観点から言えば、第3段階でセシウム(Cs)イオン溶解溶液において、HOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターの色調が変化する。この色調の変化はセシウム(Cs)イオン溶解溶液のセシウム(Cs)イオン濃度により異なる。あるいはHOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターの色調は、これらに吸着されたセシウム(Cs)イオン濃度により異なる。HOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターへのセシウム(Cs)イオン吸着スピードは速やかに行なわれるので、色調変化が終了した段階でろ過等によりHOMS−DPARコレクター(HOMS−DPAR−Csとなる)またはHOMS−DTDRコレクター(HOMS−DTDR−Csとなる)またはHOMS−PRコレクター(HOMS−PR−Csとなる)を分離する。これはセシウム(Cs)イオン溶解溶液中のセシウム(Cs)イオンがHOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターに収集されたということを示す。
【0091】
これらのHOMS−DPAR−CsまたはHOMS−DTDR−CsまたはHOMS−PR−Csを、これらの材料からセシウム(Cs)を分離できる溶離(遊離、分離)溶液と接触させると、HOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターの色調が再び変化し、元の色調に戻る。すなわち、セシウム(Cs)を吸着していないHOMS−DPARまたはHOMS−DTDRまたはHOMS−PRに戻った。HOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターは、セシウム(Cs)イオンの抽出の選択性が極めて高く、多数のイオンが含まれていてもその効果に対して影響は殆どなく固形物の色調変化にも殆ど影響を与えない。従って、HOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターは、溶液中のセシウム(Cs)をすべて収集でき、ほぼ完全にセシウム(Cs)を除去できるので、完全なセシウム(Cs)収集剤または完全なセシウム(Cs)除去剤と言える。このようにして、比色法を用いて、セシウム(Cs)イオンの回収のために何度もHOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターを使うことができる。
【0092】
上述したように、比色法による色調の変化を用いてHOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターがどの程度の量のセシウム(Cs)イオンを吸着したか知ることができる。また、セシウム(Cs)イオン溶解溶液にHOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターを浸漬してHOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターの変色程度を見て終点すれば一定濃度以上のセシウム(Cs)イオンを吸着しているので、HOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターのセシウム(Cs)イオンを含む水溶液への浸漬をやめて、水溶液からHOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターを取り出す。この結果、次段階でHOMS−DPAR−CsまたはHOMS−DTDR−CsまたはHOMS−PR−Csからセシウム(Cs)イオンの溶離を行なうことができる。HOMS−DPAR−CsまたはHOMS−DTDR−CsまたはHOMS−PR−Csはセシウム(Cs)イオン溶離溶液に入れるとセシウム(Cs)を溶離して変色して、セシウム(Cs)イオンを吸着していない元のHOMS−DPARまたはHOMS−DTDRまたはHOMS−PRへ戻る。
【0093】
セシウム(Cs)イオンが完全に除去されたことは、ICP−OESまたはICP−MS測定からも確認することができる。このように比色法を用いてセシウム(Cs)イオンの吸着の量を判定でき、終点検知も可能となる。HOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターはセシウム(Cs)イオンの抽出/分離に対して可逆的であり、繰り返し使用することができる。このように色調だけでセシウム(Cs)イオンの吸着量を把握し、あるいはセシウム(Cs)イオンを吸着していないと把握できるので、セシウム(Cs)イオンの迅速な検出だけでなく、迅速な回収を行なうことができる。この結果生産性を大幅に向上させることもできる。以上のように、HOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクター等は、色調の変化(比色法)を活用してセシウム(Cs)の抽出(収集)を行なうことができるので、視覚コレクターと呼ぶこともできる。また、この色調変化(比色法)や前記の分光法を自動化して、自動回収システムを構築して連続処理することもできる。
【0094】
HOMS−DPARまたはHOMS−DTDR、またはHOMS−PR、あるいは他のセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したHOMSは選択性が非常に優れているため、セシウム(Cs)イオン以外の金属がセシウム(Cs)イオン溶解液に含まれていても、あるいはアニオンイオンや界面活性剤などがセシウム(Cs)イオン溶解溶液に含まれていても、すなわち、これらの競合イオンが存在しても、非常に選択性が良く、セシウム(Cs)イオンだけを抽出あるいは収集する。セシウム(Cs)イオンの量がppb〜ppmレベルの微量でもあるいはもっと多量に含まれていても、また他の金属イオンやアニオンや界面活性剤の含有量が微量あるいはもっと多量に含まれていても、本発明のHOMS−DPARまたはHOMS−DTDRまたはHOMS−PRコレクター等はセシウム(Cs)イオンだけを選択的に抽出あるいは収集することができる。
【0095】
本発明の特徴の一つは、メソポーラス材料の内壁を任意の複合酸化物で構成させることにより、異種の原子が整列した状態を作り上げ、そこに適切なキレートまたは化合物を固着させることを通じてセンシングやコレクティングを行うことである。本発明の技術を用いて作製したHOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクター等のセシウム(Cs)イオンコレクターは、放射性セシウム(Cs)等を含む廃(排)液や生活用(廃、排)水等からセシウム(Cs)を吸着すると視覚的に変化することからセシウム(Cs)の回収を容易に行なうことができる。しかもHOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクター等は種々のイオンの中でもセシウム(Cs)イオンに対して高選択性を有し、光学的応答機能を備えている。本発明のHOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクター等は、特に人体(生体)に危険な放射性セシウム(Cs)の抽出・除去・収集・回収および検出に極めて有用である。
【0096】
上述したように、本発明は、有機シリコン化合物および界面活性剤から作製した高秩序化メソポーラスシリカに目標元素であるセシウム(Cs)イオンを選択的に吸着するキレート化合物のようなセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持させ、そのセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを目標元素であるセシウム(Cs)イオンが溶解された溶液と接触させ、目標元素であるセシウム(Cs)イオンを選択的にメソポーラスシリカに担持されたセシウム(Cs)イオン吸着性化合物に吸着させる。その後で、目標元素であるセシウム(Cs)イオンを吸着したセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを化学的処理し、目標元素であるセシウム(Cs)イオンをメソポーラスシリカに担持されたセシウム(Cs)イオン吸着性化合物から遊離させ、目標元素であるセシウム(Cs)を回収する。目標元素であるセシウム(Cs)イオンが遊離されたセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカは、再使用できる。また、このセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカはセシウム(Cs)(イオン)コレクターおよび濃度検出センサーとして使用することもできる。さらに、生活用水や廃液等に(有害な放射性)セシウム(Cs)が溶け込んでいるかどうかを検査することができるし、その濃度がppb〜ppmオーダーという微量な濃度でも検出することができる。さらに生活用水や廃液等に溶け込んだ(放射性)セシウム(Cs)を吸着して非常に微量な濃度まで(放射性)セシウム(Cs)濃度を低減することができる。放射能レベルから言えば許容限度以下に低減できる。従って(放射性)セシウム(Cs)除去フィルターとしても使用することができる。たとえば、飲料水に放射性セシウムが含まれている可能性があるときには、本発明のセシウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを用いたフィルターを飲料水の蛇口に取り付ければ、放射性セシウムがこのフィルターに吸着されて、許容限界以下の濃度まで低減された飲料水を得ることができる。このフィルターもセシウムイオンを溶離する溶離液で処理すれば、リサイクル/リユースすることができる。
【0097】
尚、明細書のある部分に記載し説明した内容を記載しなかった他の部分においても矛盾なく適用できることに関しては、当該他の部分に当該内容を適用できることも言うまでもない。また、上記実施形態や実施例は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施でき、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことも言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、セシウム(Cs)コレクターおよびセンサーに関する産業分野、種々のカチオンやアニオンや界面活性剤等を含む物質や材料から放射性セシウム(Cs)を含むセシウム(Cs)を除去する産業分野、および放射性セシウム(Cs)を含むセシウム(Cs)を回収する産業分野において利用することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標元素としてセシウムイオンを選択的に吸着可能なセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持した規則的な配列を有して多孔質化されているメソポーラスシリカに関するものであり、昨今問題となっている放射性セシウム(Cs)を収集し回収できるセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを用いたセシウム(Cs)イオンコレクター、およびメソポーラスシリカに担持されたセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を用いて、セシウム(Cs)イオン溶解溶液に含まれるセシウム(Cs)イオンを効率的かつ選択的に回収する方法に関する。さらに、セシウム(Cs)イオン濃度を検出するメソポーラスシリカを用いたセシウム(Cs)イオンコレクターおよびセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
セシウム(元素記号Cs)は、柔らかく銀白色のアルカリ金属で、化学的反応性が高く、延性に富む金属であり、天然にはポルックス石(ポルサイト)やカーナル石などの鉱物中に存在する。セシウムの主要用途の一つは石油採掘工業におけるギ酸セシウムを使った掘穿泥水である。また、セシウムが光に対して高感度であることから、光電子装置に応用され、テレビ、映画、レーダーや楽器に用いられたり、発光管や発光スクリーンにも用いられたりしている。特筆すべき用途としてセシウム133はセシウム原子時計に使用され、最も高精度な時間の単位であると考えられている。セシウムの化学的生物学的用途として、硝酸セシウムはメタアクリル樹脂用触媒や、塩化セシウム等が拡散(DNA、RNA)血清を分離精製する際の密度勾配遠心法において媒体として用いられたり、水酸化セシウムはポリウレタンの原料として用いられるポリオシアルキレンポリオールの合成用触媒に使用されたりしている。セシウムの用途はまだ限定されているが、その需要は増加している。現在工業的には、塩化セシウムとカルシウムの混合物を蒸留するか、セシウムの水酸化物、炭酸塩、アルミン酸塩などからマグネシウムを還元剤にして蒸留することにより、生産されている。
【0003】
上述のように、セシウム(Cs)は有用な金属であるが、原子力発電においてウランやプルトニウムの核分裂反応から放射性同位体であるセシウム137(137Cs)やセシウム134(134Cs)などが生成される。チェルノブイリ原子力発電所事故や直近の福島原子力発電所事故では大量の放射性元素セシウム137(137Cs)等が環境中に放出された。また、通常運転中の原子炉からの環境中への漏出も問題となりつつある。原子炉等からの直接的な放射性セシウム137の他にも間接的に放射性セシウム137が生成される問題もある。たとえば、ウラン235の熱中性子核分裂において直接生成するヨウ素137(半減期24.5秒)、キセノン137(半減期3.82分)やテルル137(半減期2.5分)は、セシウム137より多く存在し半減期が短い短命核種であるが、ベータ崩壊してセシウム137となる。さらに、γ線発生器等に使用される放射性元素セシウム137が誤って環境に放出されるという事故も時々発生している。この放射性元素セシウム137(137Cs)は半減期が30.1年と長いため環境中に一度放出されると長期間生物が被ばくすることになり、放射性セシウム137が人体に及ぼす影響が懸念されている。放射性セシウム137等のセシウム化合物の多くは水溶性であり、生体内での挙動もカリウムなどに類似し、生体内に取り込まれやすい。生体内に入ると放射性セシウム137は体中に分配され、β(ベータ)線崩壊による内部被ばくを起こす。
【0004】
従って、放射性セシウム(Cs)の除去は廃棄物処理および環境改善にとって緊急の課題となっている。この元素は、原子力発電所での軽水炉の原子炉冷却材系統において見出され、使用済み核燃料においても存在する。反応炉の化学反応が注意深く制御されない場合、化学反応は急速に進行し炉内圧力が上昇し、燃料棒の腐食が起こる。燃料棒が古くなると、クラック(亀裂)やホール(孔)により燃料棒が破壊される恐れがある。亀裂が入った燃料棒は、燃料棒を囲んで冷却している水に放射性セシウム(Cs)を放出する。放射性セシウム(Cs)は冷却水と一緒にシステム中に循環し、結局反応炉から空中等の環境中へ出て行くか、あるいは液体廃棄物および固体廃棄物となる。時々、反応炉ガス捕捉システムは周囲へ放射性セシウム(Cs)を含むガスを放出することもある。このように、今回の福島原子力発電所の事故がなくても、厳重な管理下であっても既存システムだけでなく廃棄物や保管物からの放射性物質の漏洩は避けられず、かなり長い半減期を持つセシウム放射性137は、土壌や地下水にかなり頻繁に見出される放射性核種となっている。
【0005】
選択的にセシウムを除去する方法として、主として3つの技術が存在する。第1のアプローチは、クロスフローろ過による後続のセシウム除去を用いてセシウムを析出するために、テトラフェニル・ホウ酸ナトリウムを使う。第2のアプローチは、非溶離可能なイオン交換アプローチにおいてセシウムを捕集するために、非有機吸着剤、結晶性ケイ素チタン酸塩を使う。第3のアプローチは、有機抽出システム内に配備される特別にデザインされたクラウンエーテルを使う。大きなクラウンエーテルを有するセシウムイオン錯体は、水性溶媒および非水溶媒において研究され(非特許文献1)、また導電率測定法においても研究されている。(非特許文献2)また、混合溶媒システムにおける錯体形成反応は、非常に限定された程度で調査されているだけである。(非特許文献3)大きなクラウンエーテルを持つ金属イオンの相互作用に及ぼす溶媒特性およびリングサイズのクラウンの影響を研究することは私たちには興味深い。
【0006】
現在、たとえばレゾルシノール・ホルムアルデヒド(resorcinol-formaldehyde)、デュオライトCS−100(Duolite CS-100)(登録商標)、ディフォニックスCS(Diphonix-CS)(登録商標)のような有機イオン交換樹脂をセシウム(Cs)除去用に使用されている。これまで多くの研究は、放射性核種の分離用に伝統的な非有機および有機イオン交換器の使用を考えてきた。しかし、これらのイオン交換器を使用する方法は、セシウムイオンを溶離し、イオン交換器を洗浄したりイオン交換器を装填したりするために、使用される溶液から大量の2次廃棄物や廃液を産む。また使用済みのイオン交換器は廃棄物となるとともに、非有機材料は通常、廃棄前には1度しか使うことができないし、再生可能材料は使用可能寿命が短いという問題がある。(非特許文献4)またセシウムイオンを選択的に除去することが困難であるという問題もある。
【0007】
セシウム除去方法として、ベータゼオライト担持体にアルカリカチオンを付加させる方法が研究されている。たとえば、ベータゼオライトに担持された白金をセシウムカチオンと交換する方法は、n−ヘキサンの芳香族化において重要であり、ベータゼオライトに担持された白金をアルカリカチオンおよびアルカリ土類カチオンと交換したということも報告されている。(非特許文献5)しかし、このような置換方法によるセシウム除去法では工程が複雑である(長くなる)とともに、リサイクルやリユースが困難であるという問題がある。また、ゼオライトへ直接セシウムを担持する方法はセシウムを選択的に吸着することは困難である。このように、セシウムイオンを選択的に除去する方法は種々検討されてきたが、人体に影響を及ぼすレベルの微量な放射性セシウムを選択的に除去できる簡単で安価な方法はまだ見つかっていない。
【0008】
一方、色調変化や光吸収を用いた視覚的コレクター(収集剤)等の光学的方法は、目標元素を精度よく迅速に検出し、環境から除去するために重要である。視覚検出・除去アプローチは、複雑な装置や充分制御された環境を必要としない単純な技術であるが、低濃度レベルの放射性セシウムに関しては、低コストで選択性良好で迅速に検出できかつ放射性セシウムを除去できる視覚的コレクターはまだ開発されていない。
【0009】
放射性セシウムは、普通に使われる大抵の処理方法の抽出限界よりはるかに低い濃度で存在し、また放射性セシウムの人体への許容レベルは非常に低いので、セシウムをppb〜ppmレベルで精度良く検出し選択性良好で迅速に抽出する材料を発見していくことが世界的に要求されている。さらに、微量のセシウムイオン濃度の測定および抽出に関して、迅速で、費用効率が高く、使いやすく、信頼性のある技術が求められている。
【0010】
一方、メソポーラスシリカを用いた金属イオン検出方法は種々研究されている。たとえば、特許文献1および2においては、メソポーラスシリカにアミノポルフィリン、ジチゾン、ポルフィリンスルホン等の色素分子を保持して複合センサーを作り、Cdイオン、水銀イオン、Crイオンなどを色素分子に吸着させて、そのスペクトル変化を利用してイオン濃度を検出することが記載されている。しかしながら、これまでのどの先行特許文献や非特許文献においても、メソポーラスシリカに吸着させたセシウムの回収について簡便で迅速で精度の良い方法の開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−327886
【特許文献2】特開2007−327887
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】C.M. Goff, M.A.Matchette, N. Shabestary, S. Khazaeli,“Complexation of caesium and rubidium cations with crown ethers in N,N-dimethylformamide” Polyhedron 15(1996)3897−3903
【非特許文献2】M. Shamsipur, M.Saeidi, “Conductance study of binding of some Rb+ and Cs+ ions bymacrocyclicpolyethers in acetonitrile solution” J. Solution Chem. 29(2000)1187−1198
【非特許文献3】G. Rounaghi,A.I. Popov, “133Cs NMR study of Cs+ ion complexes with dibenzo-21-crown-7 and dibenzo-24-crown-8 insome mixed solvents” Polyhedron 5(1986)1329−1333
【非特許文献4】M.A.Lilga, R.J.Ortha, J.P.H. Sukamtoa, S.D. Rassata, J.D. Gendersb, R. Gopa.Separation and Purification Technology 24(2001)451-466
【非特許文献5】G.E.Sntamaaria, J.M. Bautista, H. Silva, L. Munoz, N. Batina. “Cesium concentrationeffect on Pt/Cs beta zeolite/γ-aluminacatalysts for n-heptane conversion”.Applied Catalysis A: General 231 (2002) 117−123
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記説明した様にセシウム(Cs)は種々の用途に使用されているが、放射性同位体であるセシウム137(137Cs)等の放射性セシウムは、ppb〜ppmオーダーの極微量でも人体に蓄積して放射線を出して発がん性等の病気を誘発するので、飲料水や洗浄水等の生活用水および大気中だけでなく、廃水や土壌などすべての環境から排除する必要がある。
【0014】
従って微量でも生活用水や廃水等の溶液にどの程度の濃度のセシウム(Cs)が含まれているのか知る必要がある。しかし、ppb〜ppmオーダーの極微量なセシウム(Cs)濃度を迅速に正確に測定するセシウム(Cs)コレクターまたはセシウム濃度検出センサーは少なく、あっても繰り返し使用することができないという問題がある。またセシウム(Cs)を選択的に収集し検出するコレクターまたはセンサーは殆どないため、セシウム(Cs)以外の複数の元素やイオンが含まれる溶液ではセシウム(Cs)以外の元素やイオンに影響されて精度良くセシウム(Cs)濃度だけを測定することができない。さらに、生活用水や廃水等の溶液に微量な放射性セシウムが存在した場合にその放射性セシウムを除去することが必要であるが、ppb〜ppmオーダーレベルまでセシウム(Cs)を除去する方法は殆どない。イオン交換樹脂等の場合はppb〜ppmオーダーレベルのイオンを除去できるものの、セシウム(Cs)イオンだけを特定して除去できないという問題がある。すなわちセシウム(Cs)(イオン)だけを選択的に除去するという選択性の良い物は見つかっていない。
【0015】
また、回収剤でセシウム(Cs)を除去した後、そのセシウム(Cs)を分離する手段が困難なため、回収したセシウム(Cs)を有効に活用することが難しいという問題がある。セシウム(Cs)は希少金属なこと、生産国が偏在していることなどから、セシウム(Cs)を回収して再利用することは極めて重要である。あるいは、収集したセシウムを分離できなければ、その回収剤を再使用することがむずかしいという問題もある。従って、セシウム(Cs)を回収した回収剤はそのまま廃棄するしか方法はなくこの2次廃棄物の処理方法が問題となる。また、生活用水や廃水等の溶液中のセシウム(Cs)を回収しリサイクルするためのコストが高いという問題もある。以上のように、環境中のセシウム(Cs)濃度検出や環境からのセシウム(Cs)除去、さらに有用なセシウム(Cs)を回収しリサイクルする方法等に関して、簡単でコストが低く選択性良く、かつ精度良好で回収を高速に行なうことができる方法が世界的に緊急に要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、高度に秩序化した構造を有するメソポーラスシリカにセシウム(Cs)イオンを選択的に吸着することができる化合物(以下、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物(あるいは、セシウム(Cs)(イオン)を集めるという意味(収集剤)で、セシウム(Cs)イオンコレクターまたは単にコレクター、あるいはセシウム(Cs)(イオン)を捕獲するという意味で、セシウム(Cs)イオンキャプターまたは単にキャプターともいう)を担持させて、担持されたセシウム(Cs)イオン吸着性化合物にセシウム(Cs)イオンを吸着させ、この吸着されたセシウム(Cs)を回収する効率的な方法およびそれに使用されるセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを提供する。さらに、このセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを用いてセシウム(Cs)イオン濃度検出を精度良くしかもppb〜ppmオーダーの微量な測定が可能なセシウム(Cs)イオンコレクターおよびセンサーを提供する。
【0017】
シリカ源と界面活性剤を混合した後、酸性水溶液を添加して、これを焼成すると、メソポーラスシリカ(HOM)が生成される。このメソポーラスシリカにセシウム(Cs)イオン吸着性化合物(セシウム(Cs)イオンはまだ吸着されていない)を担持する。セシウム(Cs)イオン吸着性化合物は、セシウム(Cs)イオンを選択的に吸着することができる化合物である。たとえば、キレート化合物のような錯体である。(特定の元素イオンを選択的に吸着しやすい化合物を本出願では(元素)イオン吸着性化合物と呼ぶ。ここで、元素イオン吸着性化合物が選択的に吸着可能な特定イオンを回収するという意味で、この特定元素を目標元素と称する。本発明においては、目標元素はセシウム(Cs)である。)セシウム(Cs)イオンを選択的にかつ優先的に吸着する化合物として、たとえば、2−ドデシル−4−((フェニル)ジアゼニル)レソルシノール{2-dodecyl-4-((phenyl)diazenyl)
resorcinol (DPAR)}、4−(2−ジアゼニル−1,3,4−チアジアゾル)−6−ドデシルレゾルシノール{4-(2-diazenyl-1,3,4-thiadiazole)-6-dodecylresorcinol (DTDR)}、およびピロガロールレッド{Pyrogallol red (PR)}が挙げられる。これらのセシウム(Cs)イオン吸着性化合物をメソポーラスシリカに担持する。(たとえばこれらのセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を総称してMCとして、MCを担持したメソポーラスシリカをHOM−MC、あるいはHOMS−MCと称する。)これらは単独でHOMSに担持しても良いし、複数混合してHOMSに担持しても良い。従って、DPARの場合はHOM−DPAR、DTDRの場合はHOM−DTDR、あるいはPRの場合はHOM−PRとなる。
【0018】
セシウム(Cs)を含む種々のイオン(元素イオンだけでなく、その他のカチオンやアニオンも含む)が溶解されたイオン溶解溶液に前記セシウム(Cs)(イオン)吸着性化合物を担持(または修飾)したメソポーラスシリカを接触させ、メソポーラスシリカに担持したセシウム(Cs)イオン吸着性化合物に目標元素イオンであるセシウム(Cs)イオン(Cs+等)を吸着させる。このとき、イオン溶解溶液のpH値、溶液濃度や溶液温度等の環境要因を調節すれば、効率的に目標元素イオンを吸着させることができる。(セシウム(Cs)イオンを吸着したHOM−MCをHOM−MC−Csと記す。)たとえば、前述のHOM−DPARの場合は、pH値を1.5〜2.5、好適には2.0またはpH値を9.0〜10.0、好適には9.5に調整したセシウム(Cs)イオンを含むイオン溶解溶液に接触させることにより、HOM−DPARは目標元素イオンであるセシウム(Cs)イオンを優先的にかつ選択的にかつ迅速に吸着する。(セシウム(Cs)を吸着したHOM−DPARをHOM−DPAR−Csと記す。)
【0019】
次に、セシウム(Cs)イオンが吸着されたセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカをセシウム(Cs)イオンが遊離可能な溶液(セシウム(Cs)イオン遊離溶液)に接触させて、吸着されたセシウム(Cs)イオンをセシウム(Cs)イオン遊離溶液に溶解させる。この溶液をろ過して固形物と液体に分離する。分離された液体はセシウム(Cs)イオンだけを溶解しているので、目標元素であるセシウム(Cs)の回収が可能となる。溶液の濃度、pH、反応温度等をコントロールすることで、セシウム(Cs)の回収効率を上げることができる。また、分離された固形物は、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカであり、メソポーラスシリカに担持されたセシウム(Cs)イオン吸着性化合物はセシウム(Cs)を吸着していない。すなわち、固形物はセシウム(Cs)イオン吸着性化合物(セシウム(Cs)イオンを吸着していない)を担持したメソポーラスシリカ(HOM−MC)に戻る。
【0020】
しかも本体(セシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカ)は変化していないので、再度目標元素イオンであるセシウム(Cs)イオンの吸着材(あるいはコレクター(収集剤)、あるいは抽出剤とも称する)として利用できる。たとえば、HOM−MC−Csを酸性溶液やアルカリ溶液などに浸漬することにより、セシウム(Cs)を溶離してHOM−MCとすることができる。セシウム(Cs)を分離されたHOM−MCは再びセシウム(Cs)イオン吸着材(コレクター、あるいはキャプター)として利用できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明において、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物が広い表面積や高秩序化した構造を持つメソポーラスシリカの表面およびポア(細孔)内壁に担持(修飾)されているので、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物の反応基にセシウム(Cs)イオンが容易にしかも速く吸着する。従って、吸着の応答速度が速いだけでなく、メソポーラスシリカに担持されたセシウム(Cs)イオン吸着性化合物へのセシウム(Cs)イオン吸着効率が、単独のセシウム(Cs)イオン吸着性化合物へのセシウム(Cs)イオン吸着効率よりも非常に大きくなるとともに、セシウム(Cs)(イオン)吸着量も多くなる。
【0022】
また、セシウム(Cs)(イオン)吸着性化合物に吸着されたセシウム(Cs)イオンも整然と配列し密に吸着されているので、吸着したセシウム(Cs)イオンを容易に速く遊離(あるいは分離、あるいは溶離)することができる。従ってセシウム(Cs)イオンの遊離効率も非常に大きい。また、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物はセシウム(Cs)イオン溶解溶液のpH値等の条件を調整することによりセシウム(Cs)イオンを選択的に多量にしかも迅速に吸着することができる。従って、セシウム(Cs)(イオン)だけを効率良く回収できる。またppb〜ppmオーダーの微量なセシウム(Cs)イオンも吸着除去することができるので、生活用水や廃水等の溶液や土壌その他のイオン溶解液に含まれるセシウム(Cs)イオンの濃度を極めて微量なレベルまで低減できる。近年問題となっている環境中の微量な放射性セシウム(Cs)も効率良く迅速に除去できるので、本発明のHOM−MCは人体の健康維持および環境の浄化に有用な材料である。
【0023】
さらに、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持しているメソポーラスシリカはその骨格が強固であり、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物の担持やセシウム(Cs)イオンの吸着によってもメソポーラスシリカの骨格には変化が殆どない。吸着したセシウム(Cs)イオンもほぼ完全に遊離できるので、もとの状態(セシウム(Cs)イオンを吸着していないセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカ)に戻るので、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを繰り返し使用することができる。すなわち、何回もリサイクルまたはリユースすることができる。
【0024】
従って、トータル(全体)のセシウム(Cs)の収集・回収費用を小さくすることができる。また、本発明のセシウム(Cs)イオンが吸着されたセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカは、比色法または紫外可視分光法(UV−VIS−NIR spectroscopy)を用いてppb〜ppmオーダーの非常に低濃度のセシウム(Cs)イオン濃度も検出することができるので、セシウム(Cs)イオンコレクターおよび濃度センサーとしても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明のセシウム(Cs)回収システムを示す図である。
【図2】図2は、HOMシリカ・モノリスの合成方法を示す図である。
【図3】図3は、レセプターDPARの合成方法を示す図である。
【図4】図4は、レセプターDTDRの合成方法を示す図である。
【図5】図5は、レセプターPRの構造式を示す図である。
【図6】図6は、レセプターDPARを担持したHOM−DPARの製造方法を示す図である。
【図7】図7は、セシウム吸着性化合物としてDPARを用いたときのHOM−DPARによるセシウム(Cs)抽出フローを示す図である。
【図8】図8は、セシウム吸着性化合物としてDPARを用いたときのHOM−DPARによるセシウム(Cs)抽出フローを示す図である。
【図9】図9は、pH2.0においてセシウムイオンを吸着した固形物HOM−DPAR−Csの紫外線可視分光法の吸収スペクトルおよび比色分析を示す図である。
【図10】図10は、pH9.5においてセシウムイオンを吸着した固形物HOM−DPAR−Csの紫外線可視分光法の吸収スペクトルおよび比色分析を示す図である。
【図11】図11は、pH2において競合イオンの存在下におけるセシウムイオンを吸着したHOM−DPAR−Csの吸収スペクトルおよび比色分析結果を示す図である。
【図12】図12は、pH9.5において競合イオン(NaCl等)の存在下におけるセシウムイオンを吸着したHOM−DPAR−Csの紫外線可視分光法による吸収スペクトルおよび比色分析結果を示す図である。
【図13】図13は、大容量のセシウムイオン溶解溶液からのセシウムイオンを抽出したろ過後の固形材料HOM−DPAR−Csの紫外線可視分光法による吸収スペクトルおよび比色分析結果を示す図である。
【図14】図14は、セシウムイオンを抽出した固形材料HOM−DTDR−Csの紫外線可視分光法による吸収スペクトルおよび比色分析結果を示す図である。
【図15】図15は、セシウムイオンを抽出した固形材料HOM−PR−Csの紫外線可視分光法による吸収スペクトルおよび比色分析結果を示す図である。
【図16】図16は、セシウムイオンの溶離前後の固形材料HOM−DPARの紫外線可視分光法による吸収スペクトルを示す図である。
【図17】図17は、セシウムイオンの溶離前後の固形材料HOM−DPARの色調変化を示す図である。
【図18】図18は、ICP−MS分析よるセシウムイオンCs(I)の濃度を示す表である。
【図19】図19は、本発明のHOM−DPARのセシウム回収の適用範囲を示す表である。
【図20】図20は、本発明のセシウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを用いてセシウム(Cs)イオン溶解溶液からセシウムを回収するシステムを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、高い選択性と光学的検出機能を有する種々のキレート等の化合物を用いたセシウム(Cs)イオン検出技術およびセシウム(Cs)回収技術を提供するものである。この技術の特徴は異種原子から構成されるメソポーラス材料の原子レベルで配列したナノサイズの表面状態を利用していることである。本発明は、各種の活性イオン(カチオンやアニオン)や界面活性剤等を含む廃棄物や生活用水や環境からセシウム(Cs)を抽出する方法として非常に優れている。特に近年問題となっている放射性セシウムを環境等から排除するための方法として極めて優れている。
【0027】
メソポーラスシリカのナノレベルで配列した内表面は、pHなどの環境条件を制御して固着・解離状態を可変することによってセシウム(Cs)イオンコレクターおよびセンサーを作る。隣接原子と電子軌道構造の異なる表面原子とキレート等の化合物との結合によって、セシウム(Cs)イオンを確実に吸着できる。さらに、メゾポーラス材の内壁表面のナノレベルの高秩序化配列は電荷移動を増大させるので、ppbレベルの非常に微量のセシウム(Cs)吸着でも肉眼で観察可能な光学的変化が速やかに(高速の応答が)起こる。
【0028】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明のセシウム(Cs)回収システムを示す図である。まず、第1段階で高度に秩序化したメソポーラスシリカ(HOMシリカ(HOMS):High Ordered Mesoporous Silica、通常、HOMと言った場合、シリカ(Silica)は含まないが、本明細書等においてはHOMと記載した場合も、特に明記しない限りシリカ(Silica)も含むものとする。)を合成する。ここで、メソポーラスシリカとは、多孔質シリカの1種であり、メソポア領域と呼ばれる、2nmから50nmの領域の大きさのほぼ均一で規則的な直径の細孔(メソ孔)を有し、細孔の作るネットワークの様式(空間対称性)や製造方法等によって、様々な特性を有することが知られている多孔質物質群である。しかし、本特許出願においては、メソ孔よりも小さなマイクロ孔(2nm以下の細孔)やメソ孔よりも大きなマクロ孔(50nm以上の細孔)を有するポーラスシリカもメソポーラスシリカと呼ぶ。
【0029】
本発明に用いられるHOMの形態は、薄膜状形態やモノリス形態を含む。モノリス形態とは、通常薄膜以外の各種の形態、たとえば微粒子、粒子、ブロック状のもの等の形態を言う。高度に秩序化したとは、立方晶や六方晶系メソポーラス構造が3次元的に表面や内壁表面に規則正しく配列した状態を言い、たとえば立方晶Ia3d、Pm3n、Fm3mや六方晶P6m構造を言う。これらの構造が広範囲に存在すると、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物を大量に担持することができ、全体のセシウム(Cs)イオン吸着量を大きくすることができる。また、HOMのBET比表面積は大きいほど良いが、通常400m2/g以上であり、好適には500m2/g以上である。
【0030】
HOMシリカは種々の方法により合成できる。たとえば、界面活性剤を鋳型としたゾルゲル法においては、水溶液中に臨界ミセル濃度以上の濃度で界面活性剤を溶解させると、界面活性剤の種類に応じて一定の大きさと構造をもつミセル粒子が形成される。しばらく静置するとミセル粒子が充填構造をとり、コロイド結晶となる。ここで溶液中にシリカ源となる有機シリコン化合物などを加え、微量の酸あるいは塩基を触媒として加えると、コロイド粒子の隙間でゾルゲル反応が進行しシリカゲル骨格が形成される。最後に高温で焼成すると、鋳型とした界面活性剤が分解・除去されて純粋な高度に秩序化したメソポーラスシリカ(HOMシリカ)が得られる。また、たとえば、好適には、有機シリコン化合物と界面活性剤を混合してリオトロピック型液晶相を形成し、さらに、酸水溶液を加えることによって、短時間に有機シリコン化合物の加水分解反応を起こし、メソポーラスシリカと界面活性剤の複合生成物を得た後、界面活性剤を除去して、HOMシリカを得る方法が利用される。
【0031】
有機シリコン化合物として、たとえば、テトラメチルオルトケイ酸{C4H12O4Si、TMOS(テトラメトキシシラン)とも言う}やテトラエチルオルトケイ酸{C8H20O4Si、TEOS(テトラエトキシシラン)とも言う}などのシリコンアルコキシドを用いる。(生成物から加熱や真空引き等でエタノールよりメタノールを除去する方が容易であるから、生産性はTEOSよりTMOSの方が好適である。)尚、HOMの形成には、有機シリコン化合物の他に無機シリコン化合物を用いることもできる。たとえば、カネマイト(NaHSi2O5・3H2O)、ジ珪酸ナトリウム結晶(Na2Si2O5)、マカタイト(NaHSi4O9・5H2O)、アイラアイト(NaHSi8O17・XH2O)、マガディアイト(Na2HSi14O29・XH2O)、ケニヤアイト(Na2HSi20O41・XH2O)、水ガラス(珪酸ソーダ)、ガラス、無定形珪酸ナトリウムを用いることもできる。これらは、2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
また、テンプレート(鋳型)となる界面活性剤も、種々のものを使用できる。たとえば、カチオン性やアニオン性や両性や非イオン性の界面活性剤を使用できる。鋳型となる陽イオン性界面活性剤としては、たとえば、第1級アミン塩、第2級アミン塩、第3級アミン塩、第4級アンモニウム塩が挙げられる。また、鋳型となる陰イオン性界面活性剤としては、たとえば、カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩などが挙げられ、セッケン、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、硫酸化油、硫酸化脂肪酸エステル、硫酸化オレフィン、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩および高級アルコールリン酸エステル塩が挙げられる。
【0033】
鋳型となる両性界面活性剤としては、たとえば、ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインが挙げられる。鋳型となる非イオン界面活性剤としては、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン2級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレンラノリン酸誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのエーテル型のものや、ポリオキシエチレンアルキルアミンなどの含窒素型が挙げられる。これらは、2種以上混合して用いても良い。
【0034】
界面活性剤の種類を変更することによりHOMの構造(細孔の大きさや形、結晶構造など)を制御することができるので、結晶構造の秩序性が高くBET比表面積が大きい細孔密度の大きなHOMを形成できる界面活性剤が好適である。たとえば、ポリオキシエチレン(10)セチルエーテル(Brij56:C16H33(OCH2CH2)10OH、C16EO10)、トリブロック共重合体界面活性剤(たとえば、pluronic(登録商標)P123:EO20PO70EO20、Pluronic(登録商標)F108:EO141PO44O141)を用いることができる。Brij56:TMOS=0.5の重量比の混合により、立方晶構造Pm3nが得られ、P123:TMOS=0.7〜0.8の重量比の混合により、立方晶構造Ia3dが得られ、F108:TMOS=0.7の重量比の混合により、立方晶構造Im3mケージ状シリカ構造が得られる。
【0035】
図2は、HOM(立方晶Im3m)シリカ・モノリスの合成方法を示す図である。HOMシリカ・モノリスはコポリマー界面活性剤F108(EO141PO44EO141)を用いて瞬間直接鋳型法を採用することにより合成された。通常、立方晶Im3m (HOM)ケージ状メソ細孔を持つメソポーラスシリカモノリスは、F108/テトラメチルオルトケイ酸{Tetramethylorthosilicate(TMOS)}混合相にドデカンをドデカン:F108:TMOS=1:2.8:4の比率で付加することによって形成されたマイクロエマルジョン相を使って作製された。このHOMSは白い粉末状の固体である。
【0036】
次に、第2段階で、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物をHOMに担持させる。この段階では、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物にはセシウム(Cs)イオンは(他のイオンも)吸着されていない。(セシウムイオン{Cs(I)}を吸着していないことを示す用語として「セシウムイオン吸着性化合物」と称する。本発明に用いられるセシウムイオン吸着性化合物として、イオン錯体、無機化合物や有機化合物がある。セルロース、タンパク質などのセシウム(Cs)イオン吸着性化合物も含まれる。金属錯体として、無機および有機の金属錯体や金属カルボニル化合物、金属クラスターや有機金属化合物が挙げられる。また、キレート化合物も含まれる。基本的には、セシウム(Cs)(イオン)を吸着できる化合物であって、HOMに担持でき、化学処理により、目標元素であるセシウム(Cs)以外のイオンを遊離でき、その後に他の化学処理により目標元素であるセシウム(Cs)を遊離できる化合物である。セシウム(Cs)イオン吸着性化合物は、化学的にはたとえばOH基を介してHOMシリカに強固に結合している。
【0037】
セシウム(Cs)イオン吸着性化合物は、回収しようとする目標元素イオンであるセシウム(Cs)イオンを選択的にしかも多量に吸着する化合物が望ましい。たとえば、セシウム(Cs)イオンに対して選択的に結合するキレート化合物やその他の化合物が挙げられる。セシウム(Cs)を含む各種のイオン(カチオンやアニオン)や界面活性剤などが溶解したセシウム(Cs)イオン溶解溶液のpH値や温度や濃度などを調整すれば、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物に目標(金属)元素であるセシウム(Cs)(イオン)を選択的にしかも優先的に多量に吸着できる。また、キレート化合物等の化合物は、非常に微量の(たとえば、ppb〜ppmオーダーの)セシウム(Cs)を選択的に吸着することができるので、セシウム(Cs)イオン溶解溶液中に含まれるセシウム(Cs)イオンの量が少なくても、効率的に選択的にセシウム(Cs)イオンを吸着する。
【0038】
たとえば、我々は、2−ドデシル−4−((フェニル)ジアゼニル)レソルシノール{2-dodecyl-4-((phenyl)diazenyl)
resorcinol (DPAR)}(以下レセプターDPARまたはキャプターDPARとも称する)の化合物がセシウム(Cs)イオンを選択的に優先的に吸着することを見出した。(レセプター(receptor)とは本来「受容体」という生物学的用語であるが、本出願では特定元素(セシウム(Cs))イオンを吸着する(セシウム(Cs))イオン吸着性化合物という意味でレセプターという用語を用いることもある。)
【0039】
このレセプターDPARは、溶液を特定のpH値に調節したセシウム(Cs)イオンを含有した溶液(セシウム(Cs)イオン溶解溶液)にレセプターDPARを担持したHOMシリカを浸漬すると、レセプターDPARは他のpH値の溶液における場合よりも大量にしかも選択的にセシウム(Cs)イオンを吸着する。セシウム(Cs)イオンの吸着量が増していくとレセプターDPARを担持したHOMシリカの色が変色し、薄い茶色(吸着していないHOM−DPAR)から濃い茶色(セシウム(Cs)イオン濃度5ppm)へと変化していく。色調と吸着されたセシウム(Cs)イオン濃度とは相関関係にあるので、色調からセシウム(Cs)イオン濃度を知ることができる。すなわち比色分析が可能である。特にppb〜ppmレベルの微量なセシウム(Cs)でも吸着でき、その結果色調変化が生じるので正確な濃度を検出できる。選択的にという意味は、セシウム(Cs)イオンおよびその他の種々のイオン(カチオンやアニオン)や界面活性剤等を含む溶液にこれらのレセプターDPARを担持したHOMシリカ(HOM−DPAR)を浸漬すると、セシウム(Cs)イオンだけを吸着し、他の種々のイオンは殆ど吸着しないということを意味している。すなわち、レセプターDPARを担持したHOMシリカ(HOM−DPAR)は、セシウム(Cs)イオン吸着の選択性が優れている。
【0040】
また、セシウム(Cs)イオン吸着後の光吸収スペクトルからもセシウム(Cs)イオン濃度を測定できる。すなわち、レセプターDPARを担持したHOMシリカはセシウム(Cs)イオン濃度検出センサーでもある。このレセプターDPARを担持したメソポーラスシリカ(HOM−DPAR)は、セシウム(Cs)イオンを吸着すると紫外可視分光法において375nm近傍または510nm近傍の波長を持つ可視光において、セシウム(Cs)吸着に基づく吸収ピークを示し、この波長域帯の吸収率とセシウム(Cs)イオン濃度とは相関関係があるので、キャリブレーションカーブを事前に作っておくことにより、セシウム(Cs)イオンを吸着したHOM−DPARの紫外可視分光法における当該波長の吸収率データから、このHOMS−DPAR−Csのセシウム(Cs)イオン濃度を知ることができる。しかもこのHOMS−DPAR−Csは溶液中のセシウム(Cs)イオンを選択的に吸着するとともに、他の含有イオンはほとんど吸着しないので、非常に感度の良いセシウム(Cs)イオンコレクターおよび濃度センサーとなる。特にppb〜ppmレベルの微量なセシウム(Cs)でも吸着でき、その結果スペクトル変化が生じるので正確な濃度を検出できる。
【0041】
他のセシウム(Cs)イオン吸着性化合物の例として、4−(2−ジアゼニル−1,3,4−チアジアゾル)−6−ドデシルレソルシノール{4-(2-diazenyl-1,3,4-thiadiazole)-6-dodecylresorcinol (DTDR)}およびピロガロル・レッド{Pyrogallol red (PR)}があり、他のセシウム(Cs)イオン吸着性化合物も随時発見されるであろう。これらのセシウム(Cs)イオン吸着性化合物のうちの1つまたは2つ以上の化合物をHOMSに担持して、所望の特性を有するHOMS−レセプターを作製することができる。これらの化合物はセシウム(Cs)(イオン)をその環状分子構造内および/または環状分子間の間に取り込んで、セシウム(Cs)(イオン)を吸着(収集)する。従って、これらのセシウム(Cs)イオン吸着性化合物はキレート錯体であると言える。これらのセシウム(Cs)イオン吸着性化合物は、他の陰イオンや陽イオン(アルカリ金属、アルカリ土類族金属等の金属イオンを含む)も殆ど吸着しないので、極めて選択性が高い化合物である。セシウム(Cs)(イオン)はこれらの化合物と共有接合して吸着(結合)されていると考えられる。
【0042】
このようなセシウム(Cs)イオン吸着性化合物をHOMに担持(修飾)させる方法(複合化法とも呼ぶ)として種々の方法が挙げられる。たとえば、HOMに保持されるべきセシウム(Cs)イオン吸着性化合物が中性である場合には、試薬含浸法(REACTIVE & FUNCTIONAL POLYMERS,49,189(2001)など)が用いられ、陰イオン性である場合には、陽イオン交換法が用いられ、陽イオン性である場合には陰イオン交換法が用いられる。これらの複合化法は、特別の条件や操作ではなく、既知の一般的な技術分野に属するものである。したがって、これらの一般的な技術分野の詳細については、当該固体吸着分野に関する総説、文献などを参照することができる。
【0043】
たとえば、メソポーラスシリカを陽イオン性有機試薬(たとえば、陽イオン性シリル化剤)を用いて表面処理し、そのメソポーラスシリカに陽イオン性官能基を付与し、次いで、この陽イオン性メソポーラスシリカと陰イオン性セシウム(Cs)イオン吸着性化合物の水溶液やアルコール溶液とを接触させ、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物をメソポーラスシリカ内に吸着させる方法、メソポーラスシリカとセシウム(Cs)イオン吸着性化合物の有機溶媒溶液とを接触させ、有機溶媒だけをろ過あるいは蒸留などにより取り除くことで、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物をメソポーラスシリカ内に物理的に吸着させて担持する方法、メソポーラスシリカをチオール基を持つシリル化剤を用いて表面処理し、次いで、生成する表面のチオール基を酸化処理することで、そのメソポーラスシリカに陰イオン性官能基を付与し、この陰イオン性メソポーラスシリカと陽イオン性金属吸着性化合物の水溶液とを接触させ、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物をメソポーラスシリカ内に吸着させる方法、あらかじめセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を細孔内および表面に充填した後に、これを陽イオン性有機試薬の有機溶媒溶液で処理して、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物を細孔内および表面に固定する方法、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物と陽イオン性有機試薬をあらかじめ混合し、得られた試薬複合体の有機溶媒溶液と該シリカとを接触させ、有機溶媒だけをろ過あるいは蒸留などにより取り除くことで、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物を該シリカ内に担持する方法が使用される。
【0044】
たとえば、レセプターDTDRをHOMに担持させるには、レセプターDTDRをエタノールに溶解し、この溶液とHOMSを接触させて、HOMSへレセプターDTDRを含浸させる。このようにしてレセプターDTDRを高密度に整然と担持したHOMシリカ(HOMS−DTDR)が完成する。尚アルコールや水分等の液分を蒸発(加熱や真空引き等)させてさらに乾燥することによりレセプターDTDRを担持したHOMシリカを高純度の固体状態(粉末)で効率良く作製できる。また、結晶構造の秩序性が高くBET比表面積が大きいポーラス(細孔)密度の大きなHOMシリカほど、多くのレセプターが規則的にHOMシリカの表面および細孔内壁に担持される。たとえば、好適には、立方晶構造Im3m、Pm3n、Fm3m、Ia3d、六方晶構造P6mなどの構造が広範囲に形成されたHOMシリカにレセプターDTDR等のセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を吸着させる。
【0045】
セシウム(Cs)イオン吸着性化合物単独でも当然選択的に目標元素であるセシウム(Cs)イオンを吸着できるが、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物は凝集等するため、セシウム(Cs)イオン吸着が可能な官能基を有効に利用することができない。すなわち、凝集された(たとえば、粒子状の)セシウム(Cs)イオン吸着性化合物物質の表面に存在する官能基に目標元素であるセシウム(Cs)イオンが吸着しても、拡散または浸透によりセシウム(Cs)イオン吸着性化合物内部のセシウム(Cs)イオン濃度は距離(の2乗)に対して指数関数的に減少するから、その粒子状物質の内部にあるセシウム(Cs)イオン吸着性化合物の官能基全部にセシウム(Cs)イオンが吸着することは困難である。また、仮にその粒子状物質の内部にあるセシウム(Cs)イオン吸着性化合物の官能基にセシウム(Cs)イオンが吸着したとしても、その吸着したセシウム(Cs)イオンを取り出す(遊離するまたは逆抽出する)ことが難しいという問題がある。かなりの時間をかければ粒子状物質の内部にセシウム(Cs)イオンを拡散させ、さらに取り出すことも可能であるが、長時間をかけてセシウム(Cs)イオンを粒子状物質の内部を移動させることは生産性が悪く工業的には利用できない。
【0046】
これに対して、メソポーラスシリカは、細孔表面積が非常に大きく高度に秩序化した配向構造を持つので、メソポーラスシリカの表面および細孔内壁にセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したものは、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物が整然と配列して結合しているので、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物のセシウム(Cs)イオン吸着率が非常に高くなる。すなわち、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物の1分子ずつがセシウム(Cs)イオン吸着に利用できる。セシウム(Cs)イオン溶解溶液や遊離(逆抽出)溶液は、メソポーラスシリカの表面や細孔へ容易に速やかに侵入していくので、HOMSに担持されたセシウム(Cs)イオン吸着性化合物(の反応基)と容易に、しかも速やかに接触する。このことは、HOMSに担持されたセシウム(Cs)イオン吸着性化合物がセシウム(Cs)イオン溶解溶液と接触するとセシウム(Cs)イオンを速やかに吸着するということを意味する。また、吸着されたセシウム(Cs)イオンを遊離するときも遊離溶液と接触すれば吸着されたセシウム(Cs)イオンが速やかに遊離されるということも意味するので、セシウム(Cs)イオンの吸着(収集)および遊離(分離)が非常に効率的に速く進行し、その結果として生産性が飛躍的に向上する。
【0047】
たとえば、キレート樹脂単独の場合には、キレート樹脂の表面において、表面原子がすべて有効にキレート(官能基)を持った状態にはならず、原子的には離散的にキレートの反応端がある状態となっている。キレート樹脂単独でセシウム(Cs)イオンを吸着する時も、キレート樹脂のどの部分につくか制御できない。また、セシウム(Cs)イオン溶解溶液と接触した部分のキレート官能基にはセシウム(Cs)イオンが吸着(抽出とも言う)されると予想されるが、セシウム(Cs)イオン溶解溶液が浸透しにくいキレート樹脂内部ではセシウム(Cs)イオンは殆ど吸着されないと考えられる。すなわち、セシウム(Cs)イオン吸着効率が非常に悪い。さらにキレート樹脂に吸着したセシウム(Cs)イオンを遊離するとき(逆抽出とも言う)も、キレート樹脂内部に吸着したセシウム(Cs)イオンを取り出すことも困難となる。
【0048】
このキレート樹脂を繰り返し利用するときも、キレート樹脂中の残存物等の影響により、セシウム(Cs)イオンの抽出・逆抽出の効率がどんどん悪くなり、繰り返し使用でキレート樹脂の性能が大幅に劣化してしまう。これに対して、キレート樹脂をHOMに担持したものは、HOMの大きな比表面積と整列した原子配列を使って、キレート官能基をHOMの表面上に広範囲に形成することができる。言い換えれば、HOMではキレートの反応端はほぼ同一の性状になる。しかも、従来のキレート樹脂単独では実現できないほどに、HOM表面および細孔内壁に多量にキレートの反応端を有する。そのキレート官能基がセシウム(Cs)イオンもしくはセシウム(Cs)イオンを含む錯体イオンを選択的に捕獲するので、セシウム(Cs)イオンの吸着効率が非常に高くなる。また、その捕獲されたセシウム(Cs)イオンもしくはセシウム(Cs)イオンを含む錯体イオンを逆抽出で取り出すことも容易に可能となる。さらに、キレート樹脂単独で使用した場合には樹脂そのものの物理的および/または化学的強度が不十分であるため、キレート樹脂の繰り返し使用による劣化が大きいが、キレート樹脂をHOMに担持したものは、その骨格たるHOMの物理的および/または化学的強度が十分であるため、繰り返し使用による劣化が小さく、繰り返して使用すること、すなわち何回でもリユースすることができる。
【0049】
第3段階では、セシウム(Cs)イオンを含む各種のイオン(カチオンやアニオン)や界面活性剤等が溶解した水溶液(これをセシウム(Cs)イオン溶解溶液という)を準備する。このセシウム(Cs)イオン溶解溶液は、たとえば放射性セシウム(Cs)を含む原子力施設の冷却液や廃液は排液、あるいは原子力施設等から飛散した放射性セシウム(Cs)が生活用水や生活排水に溶解した溶液である。このような溶液には、セシウム(Cs)の外に各種の金属イオン等のカチオンや種々のアニオンや界面活性剤等様々なイオンが溶け込んでいる。もし、この溶液に固形分が含まれていれば、事前に取り除くことが望ましい。何故なら、この溶液に浸漬するHOM−MCプローブは固体なので、これと固形分が混合してしまうからである。
【0050】
従って、この溶液から固形分を除いた溶液がセシウム(Cs)イオン溶解溶液である。セシウム(Cs)イオン溶解溶液中にセシウム(Cs)イオン吸着性化合物(これをMCとする)を高密度に担持したHOM(以下、HOM−MCとも言う)を浸漬等してセシウム(Cs)イオン溶解溶液とHOM−MCと接触させる。この接触により、HOM−MCにセシウム(Cs)イオンが吸着される。(これをHOM−MC−Cs−M(Cs:目標元素であるセシウム(Cs)(Cs)、M:セシウム(Cs)以外の吸着されたイオンとする。)セシウム(Cs)イオン吸着性化合物は、一定の条件(pH値、温度、濃度等)下で目標元素であるセシウム(Cs)イオンを選択的にかつ優先的に吸着するので、その条件下のセシウム(Cs)イオン溶解溶液中にセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を浸漬すれば、目標元素であるセシウム(Cs)だけを吸着したHOM(すなわち、HOM−MC−Cs)を得ることができる。
【0051】
たとえば、セシウム(Cs)イオンを最も良く吸着するpH値に調整されたセシウム(Cs)イオン溶解溶液にHOM−MCを接触(浸漬を含む)させ、HOM-MCにセシウム(Cs)イオンを選択的に大量に吸着することができる。しかし、条件などの多少の変動によりわずかの他のイオンMが吸着される可能性もあるので、セシウム(Cs)イオン溶解溶液中の目標元素であるセシウム(Cs)以外のイオンをあらかじめ少なくしておくことにより、セシウム(Cs)以外のイオンMの吸着量が非常に少ないHOM−MC−Cs−Mが得られる。たとえば、セシウム(Cs)イオン溶解溶液中のpH調整や化学処理等を行いセシウム(Cs)イオン以外のイオンを析出沈殿させ除去しておくなどの方法がある。あるいは、セシウム(Cs)イオンは少なくとも吸着しない化合物(これも適当なHOM−MCを作製すれば良い。)を用いてセシウム(Cs)イオン以外のイオンを析出沈殿させ除去しておくという方法もある。
【0052】
上述のレセプターDPARの場合、たとえば、セシウム(Cs)イオン溶解溶液をpH=1.5〜2.5、好適にはpH=2.0、またはpH=9.0〜10.0、好適にはpH=9.5、に調節することにより、セシウム(Cs)イオンをHOM−MC{HOM−DPAR}に効率的に吸着させることができる。また、上述のレセプターDTDRの場合、セシウム(Cs)イオン溶解溶液をpH=1.5〜2.5、好適にはpH=2.0に調節することにより、セシウム(Cs)イオンをHOM−MC(HOM−DTDR)に効率的に吸着させることができる。また、上述のレセプターPRの場合、セシウム(Cs)イオン溶解溶液を9.0〜10.0、好適にはpH=9.5、に調節することにより、セシウム(Cs)イオンをHOM−MC(HOM−PR)に効率的に吸着させることができる。尚、エタノールや水分等の液分を蒸発(加熱や真空引き等)させてさらに乾燥することによりセシウム(Cs)イオンを吸着したHOMシリカを高純度の固体状態(粉末)で効率良く収集できる。
【0053】
第4段階では、目標元素であるセシウム(Cs)イオンを含むイオンを吸着したHOM−MC−Cs−Mを、目標元素であるセシウム(Cs)イオン以外のイオンを遊離できる溶液中に浸漬して、目標元素であるセシウム(Cs)イオン以外のイオンを除去してほぼ目標元素であるセシウム(Cs)だけを吸着したHOM−MC−Csとする。或いは、pH値や温度や溶液濃度などの条件調整により目標元素であるセシウム(Cs)以外のイオンを除去してHOM−MC−Csにできる場合もある。尚、目標元素であるセシウム(Cs)以外のイオンの吸着が非常に少ない場合(このときは、最初からHOM−MC−Csである)や、目標元素であるセシウム(Cs)だけを遊離できる方法があれば、第4段階は省略することもできる。たとえば、上述したレセプターDPARを担持したHOM−DPARまたはレセプターDTDRを担持したHOM−DTDRまたはレセプターPRを担持したHOM−PRの場合には、Mを殆ど吸着しないので、すなわち、HOM−DPAR、DTDR、PR−Csの状態になっているので、第4段階は省略することが可能となる。
【0054】
第5段階では、ほぼ目標元素であるセシウム(Cs)だけを吸着したHOM−MC−Csを、目標元素であるセシウム(Cs)を溶解可能な溶液に浸漬して、目標元素であるセシウム(Cs)イオンを溶解する。(溶離処理と呼ぶ)或いは、pH値や温度や溶液濃度などの条件調整により目標元素であるセシウム(Cs)イオンだけを遊離できる場合もある。或いは、目標元素であるセシウム(Cs)イオンだけを遊離できる溶液に浸漬することにより、目標元素であるセシウム(Cs)イオンを溶解できる。このような場合には、必ずしも目標元素であるセシウム(Cs)イオンだけを吸着したHOM−MC−Csにする必要がない。この溶解液から目標元素であるセシウム(Cs)イオンが遊離されたHOM−MCは固形物であるから、ろ過して取り除く。固形物として取り除かれたHOM−MCは再度使用可能である。
【0055】
また、溶離処理によりセシウム(Cs)を溶解した溶離液から種々の方法(たとえば、溶融塩電解法や蒸留法)により、目標元素であるセシウム(Cs)を分離すると目標元素であるセシウム(Cs)を回収できる。すなわち、セシウム(Cs)が溶け込んだ環境水から目標元素であるセシウム(Cs)を回収できた。この結果、固形物HOM−MCはろ過して再利用でき、第3段階において再び使用できる。尚、HOM−MCに目標(金属)元素であるセシウム(Cs)を吸着してHOM−MC−Csにすることを目標元素であるセシウム(Cs)の抽出と考えた場合に、この工程はHOM−MC−CsからCsを遊離してHOM−MCにするので逆抽出(工程)と言うこともできる。
【0056】
以上述べた第1段階〜第5段階の工程を経ることにより、原子力施設等からの廃液や生活用水や環境水から得られた目標元素である放射性セシウム(Cs)を含むセシウム(Cs)を溶解したセシウム(Cs)イオン溶解溶液から、セシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持した高度に秩序化したHOMシリカ(HOMS)を用いて、目標元素であるセシウム(Cs)を回収することができる。
【実施例1】
【0057】
<HOM(立方晶Ia3d)シリカ・モノリスの合成>
図2は、HOM(立方晶Im3m)シリカ・モノリスの合成方法を示す図である。HOMシリカ・モノリスはコポリマー界面活性剤F108(EO141PO44EO141)を用いて瞬間直接鋳型法を採用することにより合成された。立方晶Im3m (HOM)ケージ状メソ細孔を持つメソポーラスシリカモノリスは、F108/オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)混合相にドデカンをドデカン:F108:TMOS=1:2.8:4の比率で付加することによって形成されたマイクロエマルジョン相を使って作製された。
【0058】
すなわち、丸形フラスコ容器中に8.0gのテトラメチルオルトケイ酸(TMOS)および5.6gの界面活性剤F108を入れ、その中に2.0gのドデカンを加え、界面活性剤を完全に溶解させるために、フラスコ容器は約60℃の温水中で保持された。この均質混合溶液にロータリーエバポレーター中で、pH1.3の酸性水溶液(H2O-HCl)4gを添加し蒸発させると、TMOSの発熱加水分解および濃縮が急速に起こる。
【0059】
この発熱加水分解/濃縮反応はロータリーエバポレーターで排気中も継続するので、液体材料の粘性が増大し、生成した有色のゲル状物質が反応容器中に形成される。ロータリーエバポレーターで10分排気後に半透明のガラス状モノリスが収集され、オーブン中において40℃で1日乾燥された。その後、この固形材料を450℃で8時間焼成することにより界面活性剤および水分が取り除かれ、白い粉末状のHOM(立方晶Im3m)シリカ・モノリスが作製された。
【0060】
このHOMシリカ・モノリスは、窒素吸着/脱着等温線測定結果により、細孔サイズが7nmと非常に小さく、細孔体積が0.7cm3/gであり、BET比表面積が700m2/gと非常に大きい。また、X線回折パターンおよび電子顕微鏡解析により、HOMシリカ・モノリスは約15.7nmの格子定数を有する秩序化した立方晶構造(Im3m)を有することが分かった。このように上述の方法で作製したHOMシリカは、細孔サイズが非常に小さく比表面積が非常に大きな高度に秩序化したメソポーラスシリカである。
【実施例2】
【0061】
<放射性セシウム(Cs)の回収に使用されるレセプター(1)>
<2−ドデシル−4−((フェニル)ジアゼニル)レゾルシノール{2-dodecyl-4-((phenyl)diazenyl)
resorcinol (DPAR)}の生成>
図3は、レセプターDPARの生成に関する合成方法を示す図である。約0.05モルのアニリンを40mlのHCl溶液に溶解する。この溶液を0℃に冷却し、水に溶かした3.5gのNaNO2をこの溶液にゆっくりと添加した。反応の進行は、ヨウ化デンプン紙により制御された。最終的に、このジアゾニウム塩溶液は、4NのHCl溶液60mlに3.4gの6-ドデシルレゾルシノール(6-dodecylresorcinol)を溶解し充分に冷却した溶液に、ゆっくりと注がれた。この結果得られた溶液を0℃で30分冷却し、その後で、180mlの水に60gの酢酸ナトリウムを溶解した水溶液を加えた。このカップリング反応は0℃で2時間かけて行なわれ、生成した析出物は水洗された。この析出物がDPARである。
【実施例3】
【0062】
<放射性セシウム(Cs)の回収に使用されるレセプター(2)>
<4−(2−ジアゼニル−1,3,4−チアジアゾル)−6−ドデシルレゾルシノール{4-(2-diazenyl-1,3,4-thiadiazole)-6-
dodecylresorcinol (DTDR)}の生成>
図4は、レセプターDTDRの生成に関する合成方法を示す図である。約0.05モルの2−アミノ−1,3,4−チアジアゾル(2-amino-1,3,4-thiadiazol)を40mlのHClに溶解し、この溶液を0℃に冷却し、水に溶かした3.5gのNaNO2をゆっくりと添加した。この反応の進行は、ヨードデンプン紙によってコントロールされた。最終的にジアゾニウム塩の溶液は、60mlの4NのHClに溶けた6−ドデシルレゾルシノール(6-dodecylresorcinol)3.4gの充分に冷却された溶液にゆっくりと注がれた。この結果生じた溶液はその後0℃で30分間冷却され、180mlの水に溶かされた60gの酢酸ナトリウム溶液が添加された。このカップリング反応は2時間の間に0℃で行なわれた。析出物が生成し、この析出物は水洗された。この析出物がDTDRである。このDTDRはセシウム(Cs)を選択的に吸着することができるセシウム(Cs)イオン吸着性化合物である。セシウム(Cs)はDTDRの環状分子構造の中に取り込まれる。すなわち、DTDRはセシウム(Cs)を優先的に吸着するキレート錯体である。また、セシウム(Cs)を分離(遊離)すれば元のDTDRに戻る。このようにセシウム(Cs)とDTDRの吸着遊離反応は可逆的である。従って、レセプターDTDRは放射性セシウム(Cs)の回収に使用できる。
【実施例4】
【0063】
<放射性セシウム(Cs)の回収に使用されるレセプター(3)>
<ピロガロールレッド{Pyrogallol red (PR)}>
レセプター・ピロガロールレッド{Pyrogallol red (PR)}の構造式を図5に示す。このレセプターPRは工業的に製造されており容易に入手可能で、本発明においても市販のものを用いた。
【実施例5】
【0064】
<HOM−プローブ材料の合成(1)>
<HOM−DPARの作製および特性>
HOM−センサー材料すなわち、HOMにレセプターDPAR、DTDRおよびPRを担持し、HOM−DPAR、DTDR、PRを作製する方法はほとんど同じであるので、HOM−DPARを合成する方法について以下に示す。図6は、レセプターDPARを担持したHOM−DPARの製造方法を示す図である。丸形フラスコに入ったエタノール液中に50mgの2-ドデシル-4-((フェニル)ジアゼニル)レゾルシノール(DPAR)を入れ、実施例2で生成したHOM−Cage(Cage状HOMS)を1g添加した。丸形フラスコ中のエタノールは、フラスコをロータリーエバポレーターへ連結し、45〜50℃でゆっくりと真空引きして取り除かれた。フラスコ中の粘性液体は、2時間以内に有色のゲル状材料(固体生成物)へ変化した。この材料を65〜70℃で5時間乾燥した後温水洗浄し、再度65〜70℃で乾燥した。乾燥した塊状粉末をすりつぶして細かい粉末状にして、この粉末状材料(HOM−DPAR)は種々の実験条件においてセシウムイオン{Cs(I)}抽出に使用された。
【0065】
HOM-DPARの特性(BET比表面積、細孔体積、細孔サイズ)はこの材料の窒素(N2)吸着・脱着等温線から求めることができる。HOM-DPARのBET比表面積は約347.01m2g−1、細孔体積は約0.41 cm3g−1、細孔サイズは5.4nmである。これらの結果から、HOM-DPARは、BET比表面積が大きく、細孔サイズも小さく、HOM−DPARは良好な吸着サイトを持つことが分かる。従って、セシウムイオンの吸着サイトは非常に多いことが分かる。
【実施例6】
【0066】
<HOM−プローブ材料の合成(2)>
<HOM−DTDRの作製および特性>
0.030gのDTDRを丸形フラスコのエタノール中に溶解して、HOM(Cage状)を1.0g添加した。溶液中のエタノールは、ロータリーエバポレーターに連結されて45℃でゆっくりと真空引きされて取り除かれた。この後、この材料は、洗浄され、65−70℃で5時間乾燥された。この材料は、すり潰されて粉末状になり、色々な実験条件でセシウムの除去に使用された。この材料がセシウムイオン吸着性化合物であるDTDRを担持したHOM-DTDRである。
【0067】
HOM-DTDRの特性(BET比表面積、細孔体積、細孔サイズ)はこの材料の窒素(N2)吸着・脱着等温線から求めることができる。HOM-DTDRのBET比表面積は約422.26m2g−1、細孔体積は約0.48cm3g−1、細孔サイズは4.63nmである。これらの結果から、HOM-DTDRは、BET比表面積が大きく、細孔サイズも小さく、HOM−DTDRは良好な吸着サイトを持つことが分かる。従って、セシウムイオンの吸着サイトは非常に多いことが分かる。
【0068】
このようにして、高度に秩序化したHOMシリカキャリアの表面および細孔内面にDTDRを担持させてHOM−DTDRコレクターを作製する。このHOM−DTDRコレクターをセシウム(Cs)イオン溶解溶液に接触(浸漬)させてセシウム(Cs)イオンをHOM−DTDRコレクターに吸着させて、HOM−DTDR−Csを得る。すなわち、セシウムイオン(Cs+)は、HOM−DTDRコレクター上のDTDRの環状分子構造内に取り込まれる。このHOM−DTDR−Csを適当な溶離溶液に接触(浸漬)させてセシウム(Cs)を分離(遊離)させる。この結果、HOM−DTDR−Csは元のHOM−DTDRに戻り、再びセシウム(Cs)を収集するためのHOM−DTDRコレクターとして使用することができる。
【実施例7】
【0069】
<HOM−キャプター(DPAR)を用いたセシウムイオンCs(I)の抽出>
図7および図8は、セシウム吸着性化合物{キャプター(Captor)}としてDPARを用いたときのHOM−DPARによるセシウム(Cs)抽出フローを示す図である。図7は、HOMにDPARを担持してHOM−DPARを生成する手順も示している。pH調整した溶液4mlにセシウム溶液を相当量添加し、種々の濃度(0.5ppm〜5ppm)にし、さらに必要量の水を加えて20ml溶液にした。これらの水溶液に、実施例5において作製した固体状のHOM−DPAR20mgを添加して、45−50℃で12時間攪拌した後ろ過した。ろ過後の固体材料は、紫外線可視分光法(UV-VIS-NIR Spectroscopy)によって調査され、吸収スペクトルを取った。また、ろ過後の固体材料について比色分析を行なった。
【0070】
また、HOM−DPARを添加する前の溶液およびろ過液のセシウムイオン濃度をICP-OES(ICP発光分光分析)によって測定した。HOM−DPARを添加する前の溶液に含まれていたセシウムイオンは、ろ過液には殆ど含まれていないことが確認された。すなわち、溶液中のセシウムイオンは殆どHOM−DPARに吸着されたことが分かる。セシウム溶液は200mlの水に塩化セシウムCsCl2を50.67mg溶解させて作製した。これから適量のセシウム溶液を取って溶液中のセシウム濃度を調整した。たとえば、5ppmのCs(I)は、セシウムイオン{Cs(I)}の200ppm貯蔵液ビンから500μlを添加することによって作製された。また、種々のpH溶液を使用して実験した。たとえば、pH2の調整溶液に関しては、1L(1000mL)H2Oに塩化カリウム14.91gを溶解し、塩酸(HCl)を使ってpH2に調整した。pH9.5に関しては、1L(1000mL)H2Oに0.2MのN−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸{N-cyclohexyl-3-aminopropanesulfonic
acid (CAPS)}を添加し、NaOHを使ってpH9.5に調整した。
【実施例8】
【0071】
<HOM−DPAR−Csにおける紫外線可視分光分析および比色分析>
図9は、pH2において種々のセシウム濃度を有する水溶液中にHOM−DPARを浸漬しろ過した後に得られた、セシウムイオンを吸着した固形物HOM−DPAR−Csの紫外線可視分光法の吸収スペクトル(紫外線可視分光分析)および比色分析を示す図である。HOM−DPARはセシウムを吸着してHOM−DPAR−Csになると、吸収スペクトルが変化して波長域(250nm−700nm)(実際の測定装置における測定波長は250nm−900nm)において吸収度(吸光度)が小さくなる傾向にあることが分かる。特に波長が375nm近傍において、HOM−DPARの吸収バンドの強度変化(ピーク値)が存在することが分かる。この強度変化はセシウムを吸着したことに基づくと考えられる。また、HOM−DPARはセシウムを吸着してHOM−DPAR−Csになると、色調が変化することも分かる。すなわち、HOM−DPAR(Csを吸着していない)は薄い茶色を示すが、セシウムを吸着したHOM−DPAR−Csは茶色が濃くなる。特にセシウム濃度が増加するにつれて濃くなる傾向にある。(比色分析(固形物の色調)の結果は、セシウム濃度が左から0、5ppm、2.5ppm、1.5ppm、0.5ppm、5ppmCs+5ppmIonsである。)これらの結果から、セシウムを吸着したHOM−DPAR−Csの紫外線可視分光法の吸収スペクトルを調べれば、セシウム(Cs)を吸着したかどうかが分かり、さらに吸着したセシウム(Cs)の濃度も知ることができる。また、セシウムを吸着したHOM−DPAR−Csの比色分析を行なって固形物の色調を調べれば、セシウム(Cs)を吸着したかどうかが分かり、さらに吸着したセシウム(Cs)の濃度も知ることができる。
【0072】
図10は、pH9.5において種々のセシウム濃度を有する水溶液中にHOM−DPARを浸漬しろ過した後に得られた、セシウムを吸着した固形物HOM−DPAR−Csの紫外線可視分光法の吸収スペクトルおよび比色分析を示す図である。HOM−DPARはセシウムを吸着してHOM−DPAR−Csになると、吸収スペクトルが変化して波長域(250nm−700nm)(実際の測定装置における測定波長は250nm−900nm)において吸収度(吸光度)が小さくなる傾向にあることが分かる。特に波長が510nm近傍において、HOM−DPARの吸収バンドの強度変化(ピーク値)が存在することが分かる。この強度変化はセシウムを吸着したことに基づくと考えられる。また、HOM−DPARはセシウムを吸着してHOM−DPAR−Csになると、色調が変化することも分かる。すなわち、HOM−DPAR(Csを吸着していない)は薄い茶色を示すが、セシウムを吸着したHOM−DPAR−Csはピンク色を帯びてくる。特にセシウム濃度が増加するにつれて濃くなる傾向にある。(比色分析(固形物の色調)の結果は、セシウム濃度が左から0、2ppm、5ppm、2.5ppm、1.5ppm、0.5ppm、5ppmCs+5ppmIonsである。)これらの結果から、セシウムイオンを吸着したHOM−DPAR−Csの紫外線可視分光法の吸収スペクトルを調べれば、セシウム(Cs)を吸着したかどうかが分かり、さらに吸着したセシウム(Cs)の濃度も知ることができる。また、セシウムを吸着したHOM−DPAR−Csの比色分析を行なって固形物の色調を調べれば、セシウム(Cs)を吸着したかどうかが分かり、さらに吸着したセシウム(Cs)の濃度も知ることができる。
(尚、図9おとび図10における「5ppmCs+5ppmIons」とは、5ppmのセシウム(Cs)および、5ppmのNaCl、LiCl、KI、MaCl2、およびCaCl2を含む溶液を意味する。)
【実施例9】
【0073】
<かく乱イオンの存在におけるHOM−DPARのセシウムイオンの除去(pH2溶液)>
pH2の溶液を4ml取って、50mlのビーカーへ注入し、5ppmのCs1+(200ppm貯蔵液ビンから500μl)を加えて、この溶液に(NaCl、LiCl、KI、MgCl2、およびCaCl2)の各イオンから5ppm(各溶液の200ppm貯蔵液ビンから200μl)を添加した後、脱イオン水を使って溶液を20mlにして、セシウムイオン以外にアルカリ金属イオンおよびアルカリ土類イオンを含む複数イオンの溶液を作製する。この複数イオン溶液にHOM−DPAR20mgを添加し、50−60℃で12時間攪拌した後、ろ過する。ICP−MS分析(ICP質量分析)の結果から、ろ過液はセシウムイオンCs(I)を含まず、ろ過液においてセシウムイオン以外の元素イオンが検出された。また、ろ過後の固形物は紫外線可視分光法(UV-VIS-NIR Spectroscopy)によって調査され、吸収スペクトルを取った。また、ろ過後の固体材料について比色分析を行なった。
【0074】
図11は、pH2の溶液にHOM−DPARキャプターを使って、競合イオン(NaCl等)の存在下におけるセシウムイオン{Cs(II)}を吸着したHOM−DPAR−Csの吸収スペクトルおよび比色分析結果を示す。吸収スペクトルの結果から分かるように、セシウムイオンが含まれていると、含まれていない場合に比べて吸収率(吸光度)が小さくなる。また、セシウムイオン以外のイオンが含まれていても、曲線形状に大きな違いはなく、競合イオンがあっても余り影響されていないことが分かる。さらに、セシウムイオン吸着に関与する375nmの波長における吸収ピークがどちらにも現れている。比色分析の結果からも同様の傾向があることが分かる。すなわち、セシウムイオンを吸着していないHOM−DPARは薄い茶色の色調であるが、セシウムイオン単独の場合も複数イオンが存在する場合もHOM−DPAR−Csの色調は茶色が濃くなっている。
【実施例10】
【0075】
<かく乱イオンの存在におけるHOM−DPARのセシウムイオンの除去(pH9.5溶液)>
pH9.5の溶液を4ml取って、50mlのビーカーへ注入し、0.1Mのドデシル硫酸ナトリウム{sodium
dodecyl sulfate(SDS)}2mlを添加する。さらに、5ppmのCs1+(200ppm貯蔵液ビンから500μl)を加えて、この溶液に(NaCl、LiCl、KI、MgCl2、およびCaCl2)の各イオンから5ppm(各溶液の200ppm貯蔵液ビンから200μl)を添加した後、脱イオン水を使って溶液を20mlにして、セシウムイオン以外にアルカリ金属イオンおよびアルカリ土類イオンを含む複数イオンの溶液を作製する。この複数イオン溶液にHOM−DPAR20mgを添加し、50−60℃で12時間攪拌した後、ろ過する。ICP−MS分析(ICP質量分析)の結果から、ろ過液はセシウムCs(I)を含まず、ろ過液においてセシウムイオン以外の元素イオンが検出された。また、ろ過後の固形物は紫外線可視分光法(UV-VIS-NIR Spectroscopy)によって調査され、吸収スペクトルを取った。また、ろ過後の固体材料について比色分析を行なった。
【0076】
図12は、pH9.5の溶液にHOM−DPARキャプターを使って、競合イオン(NaCl等)の存在下におけるセシウムイオン{Cs(II)}を吸着したHOM−DPAR−Csの紫外線可視分光法による吸収スペクトルおよび比色分析結果を示す。吸収スペクトルの結果から分かるように、セシウムイオンが含まれていると、含まれていない場合に比べて吸収率(吸光度)が小さくなる。また、セシウムイオン以外のイオンが含まれていても、曲線形状に大きな違いはなく、競合イオンがあっても余り影響されていないことが分かる。さらに、セシウムイオン吸着に関与する510nmの波長における吸収ピークがどちらにも現れている。比色分析の結果からも同様の傾向があることが分かる。図11と比較すると、吸収スペクトルおよび比色分析結果から(特に比色分析結果において、複数イオンとセシウム単独イオンの色調の変化がpH2の溶液の方が小さいことから)pH2におけるセシウムCsの選択性はpH9.5より良いということが分かる。
【実施例11】
【0077】
<大容量のセシウムイオン溶解溶液におけるHOM−DPARによるセシウムイオン抽出>
上記の実施例ではセシウムイオン溶解溶液は少量(20ml)であったが、実際の処理現場で適用する場合はかなり大量の処理水を用いることになる。そこで大量のセシウムイオン溶解溶液に本発明のセシウム吸着材料であるHOM−DPARを用いたときのセシウム吸着について調査した。まず、pH2の調整溶液160mlを取って1000mlビーカーへ注入した後、5ppmのセシウムイオンCs(I)(セシウムイオンCs(I)の200ppm貯蔵液ビンから20ml)を添加した後、必要量の脱イオン水を加えてセシウムイオン溶解溶液を800ml溶液に調整した。その後、HOM−DPARキャプター500mgをこのセシウムイオン溶解溶液に添加し、50−60℃で24時間攪拌した後ろ過した。
【0078】
図13は、大容量のセシウムイオン溶解溶液からのセシウムイオンを抽出したろ過後の固形材料HOM−DPAR−Csの紫外線可視分光法による吸収スペクトルおよび比色分析結果を示す図である。図13から分かるように、セシウムイオンを吸着したHOM−DPAR−Csの吸光度はセシウムイオンを吸着する前のHOM−DPARの吸光度よりかなり小さくなっていて、大量のセシウムイオンを吸着したことが分かる。また、固形材料の色調もセシウムイオンの吸着前後で変化していて、大量のセシウムイオンを吸着したことが分かる。さらに、IPC−MS(IPC質量分析)の測定から、ろ過液にはセシウムイオンCs(I)は殆ど含まれていなかった。このことから、HOM−DPARを用いて大容量のセシウムイオン溶解溶液からも小容量の場合と同様にHOM−DPARはセシウムイオンを大量に吸着でき、しかも殆ど完全にセシウムイオンを除去できることが分かった。すなわち、実用的に問題ないレベルであることを確認した。このように、HOMプローブ(HOM−DPAR)は、セシウム(Cs)イオンの優れたコレクターおよび濃度検出センサーである。
【実施例12】
【0079】
<大容量のセシウムイオン溶解溶液におけるHOM−DTDRによるセシウムイオン抽出>
大量のセシウムイオン溶解溶液に本発明のセシウム吸着材料であるHOM−DTDRを用いたときのセシウム吸着について調査した。pH2の調整溶液160mlを取って1000mlビーカーへ注入した後、5ppmのセシウムCs(I)(セシウムイオンCs(I)の200ppm貯蔵液ビンから20ml)を添加した後、必要量の脱イオン水を加えてセシウムイオン溶解溶液を800ml溶液に調整した。その後、HOM−DTDRキャプター500mgをこのセシウムイオン溶解溶液に添加し、50−60℃で24時間攪拌した後ろ過した。
【0080】
図14は、大容量のセシウムイオン溶解溶液からのセシウムイオンを抽出したろ過後の固形材料HOM−DTDR−Csの紫外線可視分光法による吸収スペクトルおよび比色分析結果を示す図である。図14から分かるように、セシウムイオンを吸着したHOM−DTDR−Csの吸光度はセシウムイオンを吸着する前のHOM−DTDRの吸光度よりかなり小さくなっていて、大量のセシウムイオンを吸着したことが分かる。また、固形材料の色調もセシウムイオンの吸着前後で変化し(黄色から黄褐色へ変化し)、大量のセシウムイオンを吸着したことが分かる。さらに、IPC−MSの測定から、ろ過液にはセシウムイオンCs(I)は殆ど含まれていなかった。このことから、HOM−DTDRを用いて大容量のセシウムイオン溶解溶液からも小容量の場合と同様にHOM−DTDRはセシウムイオンを大量に吸着でき、しかも殆ど完全にセシウムイオンを除去できることが分かった。すなわち、実用的に問題ないレベルであることを確認した。このように、HOMプローブ(HOM−DTDR)は、セシウム(Cs)イオンの優れたコレクターおよび濃度検出センサーである。
【実施例13】
【0081】
<大容量のセシウムイオン溶解溶液におけるHOM−PRによるセシウムイオン抽出>
大量のセシウムイオン溶解溶液に本発明のセシウム吸着材料であるHOM−PRを用いたときのセシウム吸着について調査した。pH9.5の調整溶液160mlを取って1000mlビーカーへ注入した後、0.1Mのドデシル硫酸ナトリウム{sodium
dodecyl sulfate(SDS)}を40mlを添加する。次に、5ppmのセシウムCs(I)(セシウムイオンCs(I)の200ppm貯蔵液ビンから20ml)を添加した後、必要量の脱イオン水を加えてセシウムイオン溶解溶液を800ml溶液に調整した。その後、HOM−PRキャプター400mgをこのセシウムイオン溶解溶液に添加し、50−60℃で24時間攪拌した後ろ過した。
【0082】
図15は、大容量のセシウムイオン溶解溶液からのセシウムイオンを抽出したろ過後の固形材料HOM−PR−Csの紫外線可視分光法による吸収スペクトルおよび比色分析結果を示す図である。図15から分かるように、セシウムイオンを吸着したHOM−PR−Csの吸光度はセシウムイオンを吸着する前のHOM−PRの吸光度よりかなり小さくなっていて、大量のセシウムイオンを吸着したことが分かる。また、固形材料の色調もセシウムイオンの吸着前後で変化し(極薄の紫色から薄い紫色へ変化し)、大量のセシウムイオンを吸着したことが分かる。さらに、IPC−MSの測定から、ろ過液にはセシウムイオンCs(I)は殆ど含まれていなかった。このことから、HOM−PRを用いて大容量のセシウムイオン溶解溶液からも小容量の場合と同様にHOM−PRはセシウムイオンを大量に吸着でき、しかも殆ど完全にセシウムイオンを除去できることが分かった。すなわち、実用的に問題ないレベルであることを確認した。このように、HOMプローブ(HOM−PR)は、セシウム(Cs)イオンの優れたコレクターおよび濃度検出センサーである。
【実施例14】
【0083】
<セシウムの回収>
セシウム溶解溶液(pH9.5)からセシウムイオンCs(I)をHOM−DPARに吸着後(実施例7、8、セシウム吸着濃度5ppm)、セシウムイオンCs(I)を吸着した固体材料(HOM−DPAR―Cs)20mgは、50mlビーカーにおいて0.01MのHNO3の溶離溶液20ml(20mlの脱イオン水へ濃硝酸HNO3(60−61%)を20μl溶解して0.01MのHNO3を作る)に添加され、5分間攪拌する。この後この溶液をろ過した。
【0084】
図16は、セシウムイオンCs(I)を遊離(または分離または溶離とも言う)前後の固形材料HOM−DPAR紫外線可視分光法による吸収スペクトルを示す。また、図17は、図16に示す比色分析結果の拡大図、すなわちセシウムCs(I)を遊離(または分離または溶離とも言う)前後の固形材料HOM−DPARの色調変化を示す。図16(a)はセシウムイオン吸着後の固形材料HOM−DPAR−Csの色調でピンク色を帯びている。図16(b)はセシウムイオン遊離後の固形材料の色調で薄い茶色であり、セシウムイオン吸着前の固形材料HOM−DPARの色調に近くなっている。このように、0.01MのHNO3の溶離溶液処理により、HOM−DPAR−CsはセシウムイオンCs(I)を遊離しHOM−DPARに戻ったと考えられる。図16の紫外線可視分光法による吸収スペクトルは、溶離処理によって余り変化がない結果(溶離前のHOM−DPAR−Csの場合における吸光度は、遊離後の吸光度とほぼ同程度)となっているが、サンプルの量やサンプル処理にさらなる工夫が必要である。実際にはセシウムイオンを吸着する前のHOM−DPARの吸収スペクトル曲線に近づくと考えられる。また、図16から分かるように、HOM−DPARキャプターは細孔表面に大量のDPARリガンド化合物を保持していて、HOM−DPARキャプターをリサイクル/リユースできる。また、ろ過液のICP−MS分析(ICP質量分析)より、HOM−DPAR−Csの90%以上が回収されたことを確認した。条件を最適化することにより、さらに除去効率を高めることができ、回収率を100%に近づけることが可能である。溶離溶液も非常に濃度の薄い0.01MのHNO3でを充分に除去可能なので、回収コストも小さい。
【実施例15】
【0085】
<HOM−DPARによるセシウムイオンの吸着によるICP−MS分析>
pH2の調整溶液160mlを取って1000mlビーカーへ注入した後、4.5ppmのセシウムイオンCs(I)(セシウムイオンCs(I)の200ppm貯蔵液ビンから18ml)を添加した後、必要量の脱イオン水を加えてセシウムイオン溶解溶液を800ml溶液に調整した。その後、HOM−DPARキャプター500mgをこのセシウムイオン溶解溶液に添加し、50−60℃で24時間攪拌した後ろ過した。ろ過液はICP−MS分析(ICP質量分析)を行ないセシウムイオン濃度の測定を行なった。
【0086】
また、pH9.5の調整溶液160mlを取って1000mlビーカーへ注入した後、0.1Mのドデシル硫酸塩(SDS)40mlを添加する。次に4.5ppmのセシウムイオンCs(I)(セシウムイオンCs(I)の200ppm貯蔵液ビンから18ml)を添加した後、必要量の脱イオン水を加えてセシウムイオン溶解溶液を800ml溶液に調整した。その後、HOM−DPARキャプター500mgをこのセシウムイオン溶解溶液に添加し、50−60℃で24時間攪拌した後ろ過した。ろ過液はICP−MS分析(ICP質量分析)を行ないセシウムイオン濃度の測定を行なった
【0087】
図18は、ICP−MS分析(ICP質量分析)によるセシウムイオンCs(I)濃度を示す。HOM−DPARを添加する前のセシウムイオン濃度は4.5ppmであった(狙い通り)が、HOM−DPARを添加後のろ過液中のセシウムイオン濃度は、pH2の場合が0.1ppmで、pH9.5の場合が検出限界以下(<0.1ppm)であった。これらの結果から、HOM−DPARはほぼ100%のセシウムイオンを吸着できることが確かめられた。従って本発明のHOM−DPARは非常に優れたセシウム吸着剤である。またセシウム以外のアルカリイオンやアルカリ土類金属イオンなどのセシウムに近似した(イオン価や化学・物理的性質が類似)イオンは殆ど吸着しないので、選択性にも優れている。また、他のセシウムイオン吸着性化合物を担持したHOM−DTDRやHOM−PRについてもHOM−DPARと同様の結果を得ているので、HOM−DTDRおよびHOM−PRも非常に優れたセシウム吸着剤であり、かつ選択性にも優れた吸着剤である。
【0088】
図19は、上記の実施例から得られた本発明のHOM−DPARのセシウム回収の適用範囲、すなわちセシウムイオン{Cs(I)}の効率性および抽出パラメーターを示した表である。HOM−DPARコレクターをセシウム(Cs)イオン溶解溶液に浸漬したときのHOM−DPARコレクターがセシウム(Cs)イオンを吸着する抽出時間(ほぼ完全に(97%以上の)セシウムイオンを吸着するまでの時間)は12時間、視覚的に検知できる検出限界は0.5ppmである。セシウム(Cs)1gを吸着するHOM−DPARコレクターの必要量は10gである。またセシウム(Cs)を吸着したHOM−DPARコレクターは、溶離溶液としてHNO3を用いることにより、元のHOM−DPARコレクターに戻る。0.01MのHNO3でも溶離することができる。しかも、HOM−DPARコレクターはHOMS骨格の安定な構造を有しており繰り返し使用できるので、少ない材料で多くのセシウム(Cs)を回収することができる。
【0089】
図20は、本発明のセシウム(Cs)イオン吸着性化合物であるDPARまたはDTDRまたはPRを担持したメソポーラスシリカ(HOMS)を用いて放射性セシウム(Cs)等を含むセシウム(Cs)イオン溶解溶液からセシウム(Cs)を回収するシステムを示した図である。この図は、これまでに述べた本発明をまとめた図である。1段階でメソポーラスシリカ(HOMS)を作製し、第2段階でセシウム(Cs)イオン吸着性化合物であるDPARまたはDTDRまたはPRをHOMSへ担持させ、HOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターを作製する。次に第3段階でセシウム(Cs)(このセシウム(Cs)には当然放射性セシウム(Cs)も含む)やその他のイオンを含むセシウム(Cs)(イオン)溶解溶液にHOMS−DPARまたはHOMS−DTDRまたはHOMS−PRを浸漬(接触)し、抽出すべき(あるいは収集すべき)目標(金属)元素であるセシウム(Cs)をHOMS−DPARまたはHOMS−DTDRまたはHOMS−PRに吸着(抽出、収集)し、HOMS−DPAR−CsまたはHOMS−DTDR−CsまたはHOMS−PR−Csを作る。次の第4段階(図1では第5段階)では、このHOMS−DPAR−CsまたはHOMS−DTDR−CsまたはHOMS−PR−Csを酸性溶液またはアルカリ溶液などのセシウム(Cs)溶離溶液に浸漬等して目標元素であるセシウム(Cs)を分離する。(HOMS−DPAR、HOMS−DTDRおよびHOMS−PRは多種のイオン(カチオンやアニオン)が溶解していても選択的にCsイオンだけを吸着するので図1における第4段階を省略できる。)この一連の操作によってセシウム(Cs)が回収または収集された。HOMS−DPARまたはHOMS−DTDRまたはHOMS−PRは第3段階で再び使用することができ、HOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターをリユースして何回でも使用できる。
【0090】
比色法の観点から言えば、第3段階でセシウム(Cs)イオン溶解溶液において、HOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターの色調が変化する。この色調の変化はセシウム(Cs)イオン溶解溶液のセシウム(Cs)イオン濃度により異なる。あるいはHOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターの色調は、これらに吸着されたセシウム(Cs)イオン濃度により異なる。HOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターへのセシウム(Cs)イオン吸着スピードは速やかに行なわれるので、色調変化が終了した段階でろ過等によりHOMS−DPARコレクター(HOMS−DPAR−Csとなる)またはHOMS−DTDRコレクター(HOMS−DTDR−Csとなる)またはHOMS−PRコレクター(HOMS−PR−Csとなる)を分離する。これはセシウム(Cs)イオン溶解溶液中のセシウム(Cs)イオンがHOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターに収集されたということを示す。
【0091】
これらのHOMS−DPAR−CsまたはHOMS−DTDR−CsまたはHOMS−PR−Csを、これらの材料からセシウム(Cs)を分離できる溶離(遊離、分離)溶液と接触させると、HOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターの色調が再び変化し、元の色調に戻る。すなわち、セシウム(Cs)を吸着していないHOMS−DPARまたはHOMS−DTDRまたはHOMS−PRに戻った。HOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターは、セシウム(Cs)イオンの抽出の選択性が極めて高く、多数のイオンが含まれていてもその効果に対して影響は殆どなく固形物の色調変化にも殆ど影響を与えない。従って、HOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターは、溶液中のセシウム(Cs)をすべて収集でき、ほぼ完全にセシウム(Cs)を除去できるので、完全なセシウム(Cs)収集剤または完全なセシウム(Cs)除去剤と言える。このようにして、比色法を用いて、セシウム(Cs)イオンの回収のために何度もHOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターを使うことができる。
【0092】
上述したように、比色法による色調の変化を用いてHOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターがどの程度の量のセシウム(Cs)イオンを吸着したか知ることができる。また、セシウム(Cs)イオン溶解溶液にHOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターを浸漬してHOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターの変色程度を見て終点すれば一定濃度以上のセシウム(Cs)イオンを吸着しているので、HOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターのセシウム(Cs)イオンを含む水溶液への浸漬をやめて、水溶液からHOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターを取り出す。この結果、次段階でHOMS−DPAR−CsまたはHOMS−DTDR−CsまたはHOMS−PR−Csからセシウム(Cs)イオンの溶離を行なうことができる。HOMS−DPAR−CsまたはHOMS−DTDR−CsまたはHOMS−PR−Csはセシウム(Cs)イオン溶離溶液に入れるとセシウム(Cs)を溶離して変色して、セシウム(Cs)イオンを吸着していない元のHOMS−DPARまたはHOMS−DTDRまたはHOMS−PRへ戻る。
【0093】
セシウム(Cs)イオンが完全に除去されたことは、ICP−OESまたはICP−MS測定からも確認することができる。このように比色法を用いてセシウム(Cs)イオンの吸着の量を判定でき、終点検知も可能となる。HOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクターはセシウム(Cs)イオンの抽出/分離に対して可逆的であり、繰り返し使用することができる。このように色調だけでセシウム(Cs)イオンの吸着量を把握し、あるいはセシウム(Cs)イオンを吸着していないと把握できるので、セシウム(Cs)イオンの迅速な検出だけでなく、迅速な回収を行なうことができる。この結果生産性を大幅に向上させることもできる。以上のように、HOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクター等は、色調の変化(比色法)を活用してセシウム(Cs)の抽出(収集)を行なうことができるので、視覚コレクターと呼ぶこともできる。また、この色調変化(比色法)や前記の分光法を自動化して、自動回収システムを構築して連続処理することもできる。
【0094】
HOMS−DPARまたはHOMS−DTDR、またはHOMS−PR、あるいは他のセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したHOMSは選択性が非常に優れているため、セシウム(Cs)イオン以外の金属がセシウム(Cs)イオン溶解液に含まれていても、あるいはアニオンイオンや界面活性剤などがセシウム(Cs)イオン溶解溶液に含まれていても、すなわち、これらの競合イオンが存在しても、非常に選択性が良く、セシウム(Cs)イオンだけを抽出あるいは収集する。セシウム(Cs)イオンの量がppb〜ppmレベルの微量でもあるいはもっと多量に含まれていても、また他の金属イオンやアニオンや界面活性剤の含有量が微量あるいはもっと多量に含まれていても、本発明のHOMS−DPARまたはHOMS−DTDRまたはHOMS−PRコレクター等はセシウム(Cs)イオンだけを選択的に抽出あるいは収集することができる。
【0095】
本発明の特徴の一つは、メソポーラス材料の内壁を任意の複合酸化物で構成させることにより、異種の原子が整列した状態を作り上げ、そこに適切なキレートまたは化合物を固着させることを通じてセンシングやコレクティングを行うことである。本発明の技術を用いて作製したHOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクター等のセシウム(Cs)イオンコレクターは、放射性セシウム(Cs)等を含む廃(排)液や生活用(廃、排)水等からセシウム(Cs)を吸着すると視覚的に変化することからセシウム(Cs)の回収を容易に行なうことができる。しかもHOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクター等は種々のイオンの中でもセシウム(Cs)イオンに対して高選択性を有し、光学的応答機能を備えている。本発明のHOMS−DPARコレクターまたはHOMS−DTDRコレクターまたはHOMS−PRコレクター等は、特に人体(生体)に危険な放射性セシウム(Cs)の抽出・除去・収集・回収および検出に極めて有用である。
【0096】
上述したように、本発明は、有機シリコン化合物および界面活性剤から作製した高秩序化メソポーラスシリカに目標元素であるセシウム(Cs)イオンを選択的に吸着するキレート化合物のようなセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持させ、そのセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを目標元素であるセシウム(Cs)イオンが溶解された溶液と接触させ、目標元素であるセシウム(Cs)イオンを選択的にメソポーラスシリカに担持されたセシウム(Cs)イオン吸着性化合物に吸着させる。その後で、目標元素であるセシウム(Cs)イオンを吸着したセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを化学的処理し、目標元素であるセシウム(Cs)イオンをメソポーラスシリカに担持されたセシウム(Cs)イオン吸着性化合物から遊離させ、目標元素であるセシウム(Cs)を回収する。目標元素であるセシウム(Cs)イオンが遊離されたセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカは、再使用できる。また、このセシウム(Cs)イオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカはセシウム(Cs)(イオン)コレクターおよび濃度検出センサーとして使用することもできる。さらに、生活用水や廃液等に(有害な放射性)セシウム(Cs)が溶け込んでいるかどうかを検査することができるし、その濃度がppb〜ppmオーダーという微量な濃度でも検出することができる。さらに生活用水や廃液等に溶け込んだ(放射性)セシウム(Cs)を吸着して非常に微量な濃度まで(放射性)セシウム(Cs)濃度を低減することができる。放射能レベルから言えば許容限度以下に低減できる。従って(放射性)セシウム(Cs)除去フィルターとしても使用することができる。たとえば、飲料水に放射性セシウムが含まれている可能性があるときには、本発明のセシウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを用いたフィルターを飲料水の蛇口に取り付ければ、放射性セシウムがこのフィルターに吸着されて、許容限界以下の濃度まで低減された飲料水を得ることができる。このフィルターもセシウムイオンを溶離する溶離液で処理すれば、リサイクル/リユースすることができる。
【0097】
尚、明細書のある部分に記載し説明した内容を記載しなかった他の部分においても矛盾なく適用できることに関しては、当該他の部分に当該内容を適用できることも言うまでもない。また、上記実施形態や実施例は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施でき、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことも言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、セシウム(Cs)コレクターおよびセンサーに関する産業分野、種々のカチオンやアニオンや界面活性剤等を含む物質や材料から放射性セシウム(Cs)を含むセシウム(Cs)を除去する産業分野、および放射性セシウム(Cs)を含むセシウム(Cs)を回収する産業分野において利用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標元素であるセシウム(Cs)を含む各種イオンが溶解された溶液(セシウムイオン溶解溶液)からセシウムイオンを吸着するとともに吸着されたセシウムイオンを遊離することが可能な、セシウムイオンを吸着するセシウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカ。
【請求項2】
セシウムイオン吸着性化合物は目標元素であるセシウムイオンを選択的に吸着可能な化合物であることを特徴とする、特許請求の範囲第1項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項3】
セシウムイオン吸着性化合物はキレート化合物であることを特徴とする、特許請求の範囲第1項または第2項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項4】
セシウムイオン吸着性化合物は、2−ドデシル−4−((フェニル)ジアゼニル)レソルシノール{2-dodecyl-4-((phenyl)diazenyl)
resorcinol (DPAR)}、4−(2−ジアゼニル−1,3,4−チアジアゾル)−6−ドデシルレゾルシノール{4-(2-diazenyl-1,3,4-thiadiazole)-6-
dodecylresorcinol (DTDR)}またはピロガロル・レッド{Pyrogallol red (PR)}から選択された少なくとも1つであることを特徴とする、特許請求の範囲第3項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項5】
セシウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを、目標元素であるセシウムが良く吸着されるpH値に調整されたセシウムイオン溶解溶液と接触させ、メソポーラスシリカに吸着したセシウムイオン吸着性化合物に目標元素であるセシウムイオンを吸着させることを特徴とする、特許請求の範囲第1項〜第4項のいずれかの項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項6】
前記DPARの場合には前記pH値は1.5〜2.5、好適には2.0、または9.0〜10.0、好適には9.5であり、前記DTDRの場合にはpH値は1.5〜2.5、好適には2.0であり、前記PRの場合にはpH値は9.0〜10.0、好適には9.5であることを特徴とする、特許請求の範囲第5項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項7】
セシウムを吸着する前のセシウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカの色調はセシウムを吸着することにより変色し、さらにセシウムを分離すると色調が変化することを特徴とする、特許請求の範囲第1項〜第6項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項8】
特許請求の範囲第1項〜第7項に記載のメソポーラスシリカを用いてセシウムイオン溶解溶液からセシウム(Cs)を収集することを特徴とするセシウムコレクター。
【請求項9】
セシウムイオン溶解溶液は放射性セシウムを含むことを特徴とする、特許請求の範囲第8項に記載のセシウムコレクター。
【請求項10】
目標元素であるセシウムイオンを良く吸着するpH値に調整された、目標元素であるセシウムイオンを含むセシウムイオン溶解溶液に、セシウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを接触させ、前記セシウムイオン吸着性化合物に目標元素であるセシウムイオンを選択的に吸着する工程、
目標元素であるセシウムイオンを吸着した前記セシウムイオン吸着性化合物から目標元素であるセシウムイオンを遊離する工程
を含むことを特徴とするメソポーラスシリカを用いたセシウム回収方法。
【請求項11】
セシウムイオン吸着性化合物をメソポーラスシリカに担持する工程をさらに含むことを特徴とする、特許請求の範囲第10項に記載のセシウム回収方法。
【請求項12】
比色法を用いてセシウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカに吸着されたセシウムイオンの濃度を判定する工程をさらに含むことを特徴とする、特許請求の範囲第10項または第11項に記載のセシウム回収方法。
【請求項13】
セシウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカはリユースすることを特徴とする、特許請求の範囲第10項〜第12項のいずれかの項に記載のセシウム回収方法。
【請求項14】
セシウムイオン吸着性化合物はキレート化合物であることを特徴とする、特許請求の範囲第10項〜第13項のいずれかの項に記載のセシウム回収方法。
【請求項15】
セシウムイオン吸着性化合物は、2−ドデシル−4−((フェニル)ジアゼニル)レソルシノール{2-dodecyl-4-((phenyl)diazenyl)
resorcinol (DPAR)}、4−(2−ジアゼニル−1,3,4−チアジアゾル)−6−ドデシルレゾルシノール{4-(2-diazenyl-1,3,4-thiadiazole)-6-
dodecylresorcinol (DTDR)}またはピロガロル・レッド{Pyrogallol red (PR)}から選択された少なくとも1つであることを特徴とする、特許請求の範囲第14項に記載のセシウム回収方法。
【請求項16】
前記DPARの場合には前記pH値は1.5〜2.5、好適には2.0、または9.0〜10.0、好適には9.5であり、前記DTDRの場合にはpH値は1.5〜2.5、好適には2.0であり、前記PRの場合にはpH値は9.0〜10.0、好適には9.5であることを特徴とする、特許請求の範囲第15項に記載のセシウム回収方法。
【請求項17】
前記セシウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカがセシウムイオンを吸着すると変色することを用いてセシウムイオンを抽出すること、および/またはセシウムイオンを吸着した前記メソポーラスシリカがセシウムイオンを溶離すると変色し前記セシウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカに戻ることを用いてセシウムイオンを分離することを特徴とする、特許請求の範囲第10項〜第16項のいずれかの項に記載のセシウム回収方法。
【請求項18】
高濃度の競合イオンの存在下でも低濃度のセシウムイオンを収集し検出することができる、セシウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカをベースとした視覚コレクター。
【請求項19】
比色法または紫外可視分光分析(UV-VIS-NIR
spectroscopy)を用いてセシウムイオン濃度を決定するために使用することが可能な特許請求の範囲第18項に記載の視覚コレクター。
【請求項20】
250nm〜900nmの波長を変えながらUV−VIS−NIR分光分析を適用することによってセシウムイオンの濃度を決定するために、視覚的にまたは定性的に使用することが可能な特許請求の範囲第19項に記載の視覚コレクター。
【請求項21】
請求項1〜7のいずれかの項に記載のメソポーラスシリカを用いたセシウム除去フィルター。
【請求項1】
目標元素であるセシウム(Cs)を含む各種イオンが溶解された溶液(セシウムイオン溶解溶液)からセシウムイオンを吸着するとともに吸着されたセシウムイオンを遊離することが可能な、セシウムイオンを吸着するセシウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカ。
【請求項2】
セシウムイオン吸着性化合物は目標元素であるセシウムイオンを選択的に吸着可能な化合物であることを特徴とする、特許請求の範囲第1項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項3】
セシウムイオン吸着性化合物はキレート化合物であることを特徴とする、特許請求の範囲第1項または第2項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項4】
セシウムイオン吸着性化合物は、2−ドデシル−4−((フェニル)ジアゼニル)レソルシノール{2-dodecyl-4-((phenyl)diazenyl)
resorcinol (DPAR)}、4−(2−ジアゼニル−1,3,4−チアジアゾル)−6−ドデシルレゾルシノール{4-(2-diazenyl-1,3,4-thiadiazole)-6-
dodecylresorcinol (DTDR)}またはピロガロル・レッド{Pyrogallol red (PR)}から選択された少なくとも1つであることを特徴とする、特許請求の範囲第3項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項5】
セシウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを、目標元素であるセシウムが良く吸着されるpH値に調整されたセシウムイオン溶解溶液と接触させ、メソポーラスシリカに吸着したセシウムイオン吸着性化合物に目標元素であるセシウムイオンを吸着させることを特徴とする、特許請求の範囲第1項〜第4項のいずれかの項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項6】
前記DPARの場合には前記pH値は1.5〜2.5、好適には2.0、または9.0〜10.0、好適には9.5であり、前記DTDRの場合にはpH値は1.5〜2.5、好適には2.0であり、前記PRの場合にはpH値は9.0〜10.0、好適には9.5であることを特徴とする、特許請求の範囲第5項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項7】
セシウムを吸着する前のセシウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカの色調はセシウムを吸着することにより変色し、さらにセシウムを分離すると色調が変化することを特徴とする、特許請求の範囲第1項〜第6項に記載のメソポーラスシリカ。
【請求項8】
特許請求の範囲第1項〜第7項に記載のメソポーラスシリカを用いてセシウムイオン溶解溶液からセシウム(Cs)を収集することを特徴とするセシウムコレクター。
【請求項9】
セシウムイオン溶解溶液は放射性セシウムを含むことを特徴とする、特許請求の範囲第8項に記載のセシウムコレクター。
【請求項10】
目標元素であるセシウムイオンを良く吸着するpH値に調整された、目標元素であるセシウムイオンを含むセシウムイオン溶解溶液に、セシウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカを接触させ、前記セシウムイオン吸着性化合物に目標元素であるセシウムイオンを選択的に吸着する工程、
目標元素であるセシウムイオンを吸着した前記セシウムイオン吸着性化合物から目標元素であるセシウムイオンを遊離する工程
を含むことを特徴とするメソポーラスシリカを用いたセシウム回収方法。
【請求項11】
セシウムイオン吸着性化合物をメソポーラスシリカに担持する工程をさらに含むことを特徴とする、特許請求の範囲第10項に記載のセシウム回収方法。
【請求項12】
比色法を用いてセシウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカに吸着されたセシウムイオンの濃度を判定する工程をさらに含むことを特徴とする、特許請求の範囲第10項または第11項に記載のセシウム回収方法。
【請求項13】
セシウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカはリユースすることを特徴とする、特許請求の範囲第10項〜第12項のいずれかの項に記載のセシウム回収方法。
【請求項14】
セシウムイオン吸着性化合物はキレート化合物であることを特徴とする、特許請求の範囲第10項〜第13項のいずれかの項に記載のセシウム回収方法。
【請求項15】
セシウムイオン吸着性化合物は、2−ドデシル−4−((フェニル)ジアゼニル)レソルシノール{2-dodecyl-4-((phenyl)diazenyl)
resorcinol (DPAR)}、4−(2−ジアゼニル−1,3,4−チアジアゾル)−6−ドデシルレゾルシノール{4-(2-diazenyl-1,3,4-thiadiazole)-6-
dodecylresorcinol (DTDR)}またはピロガロル・レッド{Pyrogallol red (PR)}から選択された少なくとも1つであることを特徴とする、特許請求の範囲第14項に記載のセシウム回収方法。
【請求項16】
前記DPARの場合には前記pH値は1.5〜2.5、好適には2.0、または9.0〜10.0、好適には9.5であり、前記DTDRの場合にはpH値は1.5〜2.5、好適には2.0であり、前記PRの場合にはpH値は9.0〜10.0、好適には9.5であることを特徴とする、特許請求の範囲第15項に記載のセシウム回収方法。
【請求項17】
前記セシウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカがセシウムイオンを吸着すると変色することを用いてセシウムイオンを抽出すること、および/またはセシウムイオンを吸着した前記メソポーラスシリカがセシウムイオンを溶離すると変色し前記セシウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカに戻ることを用いてセシウムイオンを分離することを特徴とする、特許請求の範囲第10項〜第16項のいずれかの項に記載のセシウム回収方法。
【請求項18】
高濃度の競合イオンの存在下でも低濃度のセシウムイオンを収集し検出することができる、セシウムイオン吸着性化合物を担持したメソポーラスシリカをベースとした視覚コレクター。
【請求項19】
比色法または紫外可視分光分析(UV-VIS-NIR
spectroscopy)を用いてセシウムイオン濃度を決定するために使用することが可能な特許請求の範囲第18項に記載の視覚コレクター。
【請求項20】
250nm〜900nmの波長を変えながらUV−VIS−NIR分光分析を適用することによってセシウムイオンの濃度を決定するために、視覚的にまたは定性的に使用することが可能な特許請求の範囲第19項に記載の視覚コレクター。
【請求項21】
請求項1〜7のいずれかの項に記載のメソポーラスシリカを用いたセシウム除去フィルター。
【図3】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2013−40852(P2013−40852A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177800(P2011−177800)
【出願日】平成23年8月16日(2011.8.16)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月16日(2011.8.16)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
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