説明

セミドライ転造加工法及び装置

【課題】 湿式の油性・水溶性クーラントを使用しない、油性の場合のような加工物の後工程での洗浄を必要とせず、水溶性クーラントの場合のような腐敗の問題がなく、大きいクーラントタンクを必要としない平転造加工法及び加工装置を提供。
【解決手段】対抗してワーク3と噛み合う前のスプライン・歯などを転造する工具であるフオーミングラック1、2の歯みぞ8、9の一方又は双方に向けて該歯みぞ8、9とほぼ平行に配置されたミスト用ノズル10、11を設け、ミスト用ノズル10、11から微量ミストを歯みぞ8、9に向けて噴出させて、ラック歯面12、13と被加工物3の間に油膜を形成させ、かつラック1、2戻し時に加工屑70を吹き飛ばすようにした。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は小径スプライン・歯車などを加工する平転造に於けるセミドライ(微量ミスト)転造加工法とその装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の平転造加工法は、例えば図2のような湿式方式で加工していた。クーラントノズル6は被加工物の真上からクーラント7をワークである被加工物3に直接かけており、クーラント7はフオーミングラック歯12、13と被加工物3との間に浸透して油膜を形成する。従来の平転造加工法では、クーラントノズル6は、被加工物3に直接かけているゆえ、フオーミングラック(以下ラックという)1、2戻し時にはラック歯12、13にクーラント7がかりにくい。当然ラック歯面には汚泥状の加工屑(例えば図1(b)70)が残り、次の被加工物3を加工する時にラック歯12、13と被加工物3の間に針状の加工屑が入り込みラック歯12、13の食い付き歯(例えば図1(a)15)の寿命を短くしていた。
【0003】従来の平転造加工法としては、塑性加工でありクーラントは油性の使用が大部分であった。従来の湿式加工でも加工屑を除去するため、ラック戻し時にエアーブローを行う事ができるが、ラック歯面に付着したクーラントがミストとなり、作業環境を悪化させる事となった。又、湿式の油性・水溶性クーラントでは、高圧のエアーブローにしないと、加工屑を除去できないし、高圧にするとクーラントの飛散を防ぐカバーやダスト吸引装置を必要とし、コスト高となった。最近は油性クーラントに代わり、水溶性クーラントを使用する例もある。しかしながら、湿式の油性・水溶性クーラントでは、油性の場合は後工程にて加工物の洗浄が必要であり、水溶性クーラントの場合はスライドの潤滑油と混ざると変質し腐敗する問題が有り、どちらにしても地球環境に悪い影響を及ぼしていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、湿式の油性・水溶性クーラントを使用しない、油性の場合のような後工程での洗浄を必要としない、水溶性クーラントの場合のようなスライドの潤滑油と混ざると変質し腐敗する問題がなく、大きいクーラントタンクを必要としない、地球環境に優しい平転造加工法及び加工装置を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、小径スプライン・歯車などを加工する平転造加工法において、ワークと噛み合う前のフオーミングラックの歯みぞの一方又は双方に向けて該歯みぞとほぼ平行に配置された少なくとも1個のミスト用ノズルを介して該歯みぞの一方又は双方に微量ミストをかけて転造することを特徴とするセミドライ転造加工法及び加工装置を提供することによって前記課題を解決した。
【0006】
【発明の実施の形態】以下本発明の実施の形態について図1を参照して設明する。図1(a)は本発明の実施の形態のセミドライ転造加工装置の要部概略斜視図であり、(b)は図1(a)のワークと噛み合う前の左側フオーミングラック1の歯みぞ8の部分拡大図を示す。本発明のセミドライ転造加工装置は、小径スプライン・歯車等が加工されるワーク3と噛み合うフオーミングラック(以下ラックという)1、2と、対抗してワーク3と噛み合う前のラック1、2の歯みぞ8、9の双方(一方のみでもよい)に向けて該歯みぞ8、9とほぼ平行に配置されたミスト用ノズル10、11とを含む。左側ラック用ミスト用ノズル11ノズルは被加工物3より上側のワーク3と噛み合う前の歯みぞ8に向け、右側ラック用ミスト用ノズル10は被加工物より下側のワーク3と噛み合う前の歯みぞ9に向け、それぞれ手前に(それぞれ奥側でもよい)配置される。
【0007】作動において、ヘッドストックセンター5とテールストックセンター4に支えられた被加工物3は、図示しない転造盤駆動装置により、左側ラック1が下方向へ右側ラック2が上方向へ移動する事により被加工物3に転造加工により歯が刻まれてゆくが、このとき、ワーク3と噛み合う前のフオーミングラック1、2の歯みぞ8、9に、微量ミストがミスト用ノズル10、11を介してかけられて、小径スプライン・歯車等の転造が行なわれる。微量ミストは潤滑剤となりラック歯面12、13と被加工物3の間に浸透して油膜を形成する。図1の例では、微量ミストは、1ミスト用ノズル当たり 5〜10 cc /h のクーラントといった微量でよい。ラック歯みぞ8、9の歯面には、汚泥状の加工屑70(図1(b))が残り、次の被加工物3を加工する時にラック歯12、13と被加工物3の間に付着した汚泥状の加工屑70が残るが、微量ミストはエアーと微量クーラントの混合ゆえ、又歯みぞ8、9に向けかつ歯みぞ8、9とほぼ平行に配置されているので、エアー圧で汚泥状の加工屑70を、ラック1、2戻し時に吹き飛ばす事ができる。ラック歯みぞの歯面の加工屑70が無くなれば、次の被加工物を加工する時にラックと被加工物の間に加工屑70が入り込まず、被加工物とラック歯みぞの歯面間の摩擦を軽減し、ラック歯面を痛める事が無く、ラック歯12、13の食い付き歯15(図1(a))の寿命、当然ラックの寿命を延ばすものとなった。
【0008】好ましくは、図示しない給気装置を使用してミスト用ノズル10、11に加圧空気を加え、転造で発生し歯みぞの歯面に付着した加工屑70をよりよく取り去るようにした。さらにミストに使用する油種は、植物油や合成油で生物分解性が高い油種を使用すると、人間には害にはならないものとすることができる。
【0009】
【実施例】本発明の図1の装置を使用して、ワーク材質として、S45C、硬度HB240の被加工物を用意し、加工諸元として、m=1.058、 圧力角=30°、 歯数=20、歯幅=30mm とし、フオーミングラックの一歯の勾配を7μmとして、24,000個のワークの転造加工を行い、2000個毎に加工精度を測定したところ、(a) 歯形誤差のばらつき :20μm(b) 歯すじ誤差のばらつき :10μm(c) 累積ピッチ誤差 :30μmの測定値を得た。この測定値に基づく加工精度は湿式(油性・水溶性)加工と大差はなく、またラック歯の損傷(磨耗)具合も湿式(油性・水溶性)加工の場合と同等であった。
【0010】
【発明の効果】このような構成のセミドライ転造加工により、フォーミングラックの歯みぞに微量ミストをかける事により、微量ミストは潤滑剤となりラック歯面と被加工物の間に浸透して油膜を形成するとともに、次の被加工物を加工する時にラック歯と被加工物の間に付着した汚泥状の加工屑をラック戻し時に吹き飛ばす事ができ、被加工物とラック歯みぞの歯面間の摩擦を軽減し、ラック歯面を痛める事が無く、ラック歯の食い付き歯の寿命、当然ラックの寿命を延ばすものとなったので、フォーミングラックの寿命を、湿式の油性・水溶性クーラントを使用する場合と同等に保つものとなり、かつ油性の場合のような後工程での洗浄を必要とせず、水溶性クーラントの場合のようなスライドの潤滑油と混ざると変質し腐敗する問題がなく、又大きいクーラントタンクを必要としない、地球環境に優しい、平転造加工法及び加工装置を提供するものとなった。好ましくは、ミスト用ノズルに加圧空気を加え、転造で発生し歯みぞの歯面に付着する加工屑をよりよく取り去るようにしてもよい。さらにミストに使用する油種は、植物油や合成油で生物分解性が高い油種を使用すると、人間には害にはならないものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は本発明の実施の形態のセミドライ転造加工装置の要部概略斜視図であり、(b)は図1(a)のワークと噛み合う前の左側フオーミングラック1の歯みぞ8の部分拡大図を示す。
【図2】従来の湿式方式の平転造加工装置の要部概略斜視図を示す。
【符号の説明】
1、2・・フオーミングラック(ラック) 3・・ワーク
8、9・・(ワークと噛み合う前の)歯みぞ 10、11・・ミスト用ノズル
12、13・・フオーミングラックの歯 70・・加工屑

【特許請求の範囲】
【請求項1】小径スプライン・歯車などを加工する平転造加工法において、ワークと噛み合う前のフオーミングラックの歯みぞの一方又は双方に向けて該歯みぞとほぼ平行に配置された少なくとも1個のミスト用ノズルを介して該歯みぞの一方又は双方に微量ミストをかけて転造することを特徴とするセミドライ転造加工法。
【請求項2】前記ミスト用ノズルに加圧空気を加え、転造で発生し前記フオーミングラックの歯みぞの歯面に付着する加工屑をよりよく取り去るようにしたことを特徴とする請求項1記載のセミドライ転造加工法。
【請求項3】小径スプライン・歯車などを加工する平転造装置において、ワークと噛み合うフオーミングラックと、対抗してワークと噛み合う前のフオーミングラックの歯みぞの一方又は双方に向けて該歯みぞとほぼ平行に配置された少なくとも1個のミスト用ノズルと、前記ミスト用ノズルに加圧空気を送る給気装置と、を含むことを特徴とするセミドライ転造加工装置。
【請求項4】前記ミストに使用する油種は、植物油や合成油で生物分解性が高い油種を使用することを特徴とする請求項2記載のセミドライ転造加工法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2001−1098(P2001−1098A)
【公開日】平成13年1月9日(2001.1.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−174823
【出願日】平成11年6月22日(1999.6.22)
【出願人】(000005197)株式会社不二越 (625)