セメントクリンカおよびセメント組成物

【課題】本発明は、より多くの廃棄物等をクリンカ原料に用いることができ、流動性に優れ、流動性の経時変化が少なく、強度発現性に優れるセメント組成物等を提供する。
【解決手段】本発明は、CSを66.5〜71質量%、CSを6〜11質量%、CAを8.5〜11質量%、および、CAFを9.0〜12.0質量%、並びに、クリンカ1kgに対しMoを30mg以下含むセメントクリンカを提供する。また、前記セメントクリンカ100質量部に対し、石膏をSO換算で1.5〜5.0質量部含むセメント組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業界等で発生する廃棄物や副産物を、原料として多く用いることができるセメントクリンカ(以下「クリンカ」という。)と、それを含むセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
以前から、セメント産業は、廃棄物等を再利用する循環型社会の構築を社会的使命として、多くの廃棄物や副産物をクリンカ原料や焼成燃料の一部に用いてきた。例えば、2010年度の該使用量は、セメント協会の統計では約2500万トンである。また、この数値を、セメント1トンの製造に使用した廃棄物等の質量(以下「使用原単位」という。)に換算すると約470kgになる。また、過去4年間の使用原単位は、2006年度で423kg、07年度で439kg、08年度で448kg、09年度で451kgと、毎年確実に増加しており、今後もこの傾向は続くと予想される。しかし、廃棄物等を大量に使用すると、廃棄物等に含まれるアルミニウム成分により、クリンカ中にCAやCAFの速硬性の鉱物が多く生成し、その分CSやCSの中長期の強度発現に寄与する鉱物が減少して、セメントの流動性や長期強度が低下するおそれがある。
【0003】
前記問題に対処するため、クリンカ原料として廃棄物等を多く用いた場合でも、混練直後の流動性に優れ、流動性の経時変化が小さいセメント組成物が提案されている。
例えば、特許文献1では、クリンカと石膏を含有し、該クリンカは鉄鋼スラグ等を原料として用い、CAとCAFの合計の間隙相量が18質量%を超え30質量%以下であり、かつ、CA量が9質量%以下であり、該石膏中の半水石膏のSO量が、クリンカと石膏との合計量に対して1.7質量%以下である高間隙相型セメント組成物が提案されている。
また、特許文献2では、CA量が9質量%以上15質量%以下であり、該石膏中の半水石膏のSO量が、CA1モル当り0.25モル以上0.7モル以下であること以外は、前記特許文献1に記載の組成物と同じである高間隙相型セメント組成物が提案されている。
【0004】
しかし、使用原単位は、前記のとおり、特許文献1、2に記載の発明の出願当時(2003年)と比べ増加しているため、さらに多くの廃棄物等をクリンカ原料に用いることができ、かつ流動性の経時変化が少ないセメント組成物が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−352515号公報
【特許文献2】特開2004−352516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、より多くの廃棄物等をクリンカ原料に用いることができ、流動性に優れ、かつ流動性の経時変化が少ないセメント組成物を提供することを目的とする。なお、原料として使用した廃棄物等のクリンカ1トン当たりの質量は、前記使用原単位と区別して、以下、原料使用原単位と記載する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者は、クリンカに含まれる微量成分が、セメントの流動性、凝結時間および圧縮強度等の物性に与える影響について種々検討した。その結果、セメント鉱物組成が早強ポルトランドセメントと同等で、モリブデン(Mo)の含有量が特定値以下であるクリンカと特定量の石膏とを含むセメント組成物は、原料使用原単位をさらに増やせること、および、原料使用原単位が増えているのに強度発現性や流動性等の物性は早強ポルトランドセメントと比べ同等以上であることを見い出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]および[2]を提供する。なお、以下、「%」は特に示さない限り「質量%」である。
[1]CSを66.5〜71%、CSを6〜11%、CAを8.5〜11%、および、CAFを9.0〜12.0%、並びに、クリンカ1kgに対しMoを30mg以下含むクリンカ。
[2]前記クリンカ100質量部に対し、石膏をSO換算で1.5〜5.0質量部含む前記[1]に記載のセメント組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明のセメント組成物は、より多くの廃棄物等をクリンカ原料に用いることができる。
また、該組成物は早強ポルトランドセメントと比べ、流動性に優れその経時変化は小さく、また凝結時間や強度発現性は同等である。したがって、本発明のセメント組成物は、早強ポルトランドセメントと同じ用途に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明のクリンカ、セメント組成物、および、これらの製造方法について詳細に説明する。
1.クリンカ
(1)セメント鉱物等の組成
本発明のクリンカは、CSを66.5〜71%、CSを6〜11%、CAを8.5〜11%、および、CAFを9.0〜12.0%、並びに、クリンカ1kgに対しMoを30mg以下含むものである。
セメント鉱物組成やMoの含有量が前記範囲にあるクリンカは、後記のように、原料使用原単位を40kg/トン程度増やすことができ、また早強ポルトランドセメントと同等の物性を示すことができる。
【0011】
本発明のクリンカのセメント鉱物組成は、好ましくは、CSが68〜70%、CSが8〜10%、CAが9〜11%およびCAFが10〜11%である。
また、本発明のクリンカ1kg当たりのMoの含有量は、好ましくは1〜20mgであり、より好ましくは2〜15mgであり、さらに好ましくは3〜10mgである。クリンカ原料として天然原料や廃棄物を用いる限り、Moはクリンカ原料中に不可避的に混入するため、Moの含有量をゼロにしようとするとコスト高になる。したがって、Moの含有量は前記範囲が好適である。
【0012】
ここで、前記CS、CS、CAおよびCAFの含有率は、下記のボーグ式(i)〜(iv)を用いて算出する。
S(%)=4.07×CaO(%)−7.60×SiO(%)−6.72×Al(%)−1.43×Fe(%)−2.85×SO(%) ・・・(i)
S(%)=2.87×SiO(%)−0.754×CS(%) ・・・(ii)
A(%)=2.65×Al(%)−1.69×Fe(%) ・・・(iii)
AF(%)=3.04×Fe(%) ・・・(iv)
(式中の化学式は、クリンカの原料中またはクリンカ中における、化学式が表す化合物の含有率を表す。)
【0013】
2.セメント組成物
該組成物は、前記クリンカ100質量部に対し、石膏をSO換算で1.5〜5.0質量部、好ましくは2.0〜4.0質量部含むものである。石膏の含有量が1.5〜5.0質量部の範囲であれば、強度発現性が高く流動性等も良好で、早強ポルトランドセメントと同等の物性を示すことができる。
ここで石膏は、特に制限されず、例えば、天然二水石膏、排煙脱硫石膏、リン酸石膏、チタン石膏、フッ酸石膏、精錬石膏、半水石膏および無水石膏等から選ばれる、少なくとも1種以上が挙げられる。また、石膏のブレーン比表面積は、2000〜5000cm/gが好ましく、3000〜4000cm/gがより好ましい。該値が2000〜5000cm/gの範囲を外れると、強度発現性が低下したり、水和熱が大きくなるおそれがある。
前記セメント組成物は、さらに高炉スラグ、フライアッシュ、石炭灰、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末等を、本発明の効果を奏する範囲内で含んでもよい。
【0014】
3.セメント組成物等の製造方法
該製造方法は、以下の(1)原料調合工程、(2)焼成工程、および、(3)仕上工程を含むものである。
(1)原料調合工程
該工程では、カルシウム原料、ケイ素原料、アルミニウム原料および鉄原料等のクリンカ原料を、前記(i)〜(iv)式のボーグ式を用いて、前記セメント鉱物等の組成の範囲になるように調合して調合原料を調製する。ここで、カルシウム原料として石灰石、生石灰および消石灰等が、ケイ素原料として珪石や粘土等が、アルミニウム原料として粘土等が、鉄原料として鉄滓や鉄ケーキ等が挙げられる。
【0015】
前記クリンカ原料は、天然原料のほか、産業廃棄物、一般廃棄物および/または建設発生土等の廃棄物をクリンカ原料の一部に用いる。
前記産業廃棄物として、例えば、石炭灰、生コンクリートスラッジ、建設汚泥、製鉄汚泥等の各種汚泥、ボーリング廃土、各種焼却灰、鋳物砂、ロックウール、高炉二次灰、建設廃材、およびコンクリート廃材等が挙げられる。
また、前記一般廃棄物として、例えば、浄水汚泥、下水汚泥、下水汚泥乾粉、都市ごみ焼却灰、貝殻、および下水汚泥焼却灰等が挙げられる。
また、前記建設発生土として、建設現場や工事現場等から発生する土壌や残土等が挙げられる。
一般に、Moは、産業廃棄物、一般廃棄物、建設発生土等の廃棄物や粘土等から持ち込まれる場合が多いため、事前に廃棄物等の中のMoの含有量を把握しておき、前記Moの含有量を超えない範囲で用いる。
なお、調合原料の粉末度を調整する必要がある場合は、ボールミル等の原料粉砕機で所定の粉末度になるまで粉砕して調整する。
【0016】
(2)焼成工程
前記調合原料をロータリーキルン等の焼成炉で焼成した後、エアー・クエンチングクーラーなどで冷却することにより、本発明のクリンカが得られる。
ここで、焼成温度は、1000〜1450℃が好ましく、1200〜1400℃がより好ましい。該温度が1000〜1450℃の範囲であれば、水硬性の高いセメント鉱物が生成する傾向がある。また、焼成時間は、30〜120分が好ましく、40〜60分がより好ましい。該時間が30分未満では焼成が十分でなく、120分を超えると生産性が低下する。
【0017】
また、クリンカ中のMoの含有量が、前記範囲を超える場合は、調合原料の焼成工程において塩化揮発法や還元焼成法を用いて、Moの含有量を前記範囲内に調整することができる。
ここで、塩化揮発法とは、調合原料中に含まれるMoを、沸点の低い塩化物の形で揮発させて除去する方法である。具体的には、該方法は、Moを含む調合原料に塩化カルシウム等の塩素源を添加して、ロータリーキルン等の焼成炉を用いて焼成し、生成したMoの塩化物を揮発させて除去するものである。
また、還元焼成法とは、調合原料中に含まれるMoを還元して、沸点の低い金属の形で揮発させて除去する方法である。具体的には、該方法は、Moを含む調合原料を還元雰囲気下で、および/または、還元剤を添加して、ロータリーキルン等の焼成炉を用いて焼成してMoを還元し、この還元したMoを揮発させて除去するものである。
【0018】
(3)仕上工程
前記クリンカに石膏を添加し、ボールミルやロッドミル等の粉砕機を用いて粉砕することによりセメント組成物が得られる。該組成物の粉末度は、強度発現性、作業性およびコストなどの観点から、ブレーン比表面積で4000〜5000cm/gが好ましく、4200〜4800cm/gがより好ましい。なお、混合方法として、前記の混合粉砕のほかに、クリンカと石膏を別々に粉砕した後に、両者を混合してもよい。
また、前記の粉砕の操作において、クリンカと石膏をそのまま粉砕してもよいが、好ましくは、粉砕効率を高めるために粉砕助剤を添加して粉砕する。該粉砕助剤として、ジエチレングリコール、トリエタノールアミンおよびトリイソプロパノールアミン等が挙げられる。これらの中でも、トリイソプロパノールアミンは、セメント組成物の強度発現性が向上するため、より好ましい。これらの粉砕助剤の添加比率は、クリンカ100質量部に対し0.01〜1質量部が好ましい。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
1.クリンカの製造
クリンカ原料として、石灰石、粘土、鉄滓、石炭灰、および、化学組成とMoの含有量がそれぞれ異なる3種類の下水汚泥を用いた。また、調合原料は、クリンカ中のMoの含有量が表1に示す値になるように、下水汚泥の混合量を調整して調合した。
また、調合原料の焼成は、小型のロータリーキルンを用い、焼成温度が1450℃で、クリンカ中のフリーライム(f−CaO)量が0.2±0.2%になるように焼成時間を調整して行った。得られたクリンカ1〜6のセメント鉱物組成等を表1に示す。
【0020】
2.セメント組成物の製造
表1に示すクリンカ1〜6の100質量部に対し、二水石膏(関東化学社製 試薬1級)をSO3換算で1.3質量部、および、半水石膏(関東化学社製 試薬1級)をSO3換算で1.3質量部添加した後、小型ミルで粉砕して、ブレーン比表面積が4500±100cm/gのセメント組成物を製造した。
【0021】
3.セメント組成物等の流動性
前記セメント組成物、および参考例として早強ポルトランドセメントを用いてモルタルを調製し、該モルタルの混練直後および混練後30分経過時のフロー値を測定して、前記セメント組成物等の流動性を求めた。具体的には、
(i)前記セメント組成物等を用いて、質量比で、細骨材/セメント(組成物)=2.0、水/セメン(組成物)=0.35、および、減水剤(固形分)/セメント(組成物)比=0.007のモルタルを、ホバートミキサーを用いて低速で2.5分間、続けて高速で3分間混練した。
(ii)前記混錬したモルタルを、前記混練後の時間においてミニスランプコーン(JIS A 1171:2000「ポリマーセメントモルタルの試験方法」に規定する鋼製スランプコーン)の中に投入し、該コーンを上方へ取り去った時のモルタルの広がり(フロー値)を測定して流動性を求めた。
なお、前記細骨材はJIS R 5201に規定する標準砂を、また、前記減水剤はポリカルボン酸系高性能AE減水剤(商品名:レオビルドSP8N、BASFポゾリス社製)を用いた。フロー値の測定結果を表1に示す。
【0022】
4.セメント組成物等の凝結と圧縮強度
前記セメント組成物等の凝結時間と圧縮強度を、JIS R 5201に準じて測定した。これらの測定結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1に示すように、本発明のクリンカおよびセメント組成物の物性について以下のことが分かる。
(1)原料使用原単位について
原料使用原単位は、クリンカ1〜4(実施例)では220〜238kg/トンであるのに対し、クリンカ5および6(比較例)では、それぞれ203kg/トンおよび193kg/トンであり、早強ポルトランドセメントクリンカでは200kg/トンである。したがって、本発明のクリンカは、比較例のクリンカや早強ポルトランドセメントクリンカと比べ、原料使用原単位を最大で45kg/トン増やすことができる。この増加分について早強ポルトランドセメントの2010年度の生産量268万トンを基礎にして換算すると、廃棄物等の年間使用量は12万トンも増えることになる。
(2)流動性について
本発明のセメント組成物の混練直後と混練後30分の流動性(フロー値)は、早強ポルトランドセメントと比べ、いずれも高く、また流動性の経時変化(混練直後と混練後30分のフロー値の差)は小さい。
(3)凝結時間および圧縮強度について
本発明のセメント組成物の始発と終結の凝結時間、および材齢7日と28日の圧縮強度は、早強ポルトランドセメントと同等である。
【0025】
よって、以上のことから、本発明のセメント組成物は、より多くの廃棄物等をクリンカ原料に用いることができ、またその物性は早強ポルトランドセメントと同等以上であるから、早強ポルトランドセメントと同じ用途に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sを66.5〜71質量%、CSを6〜11質量%、CAを8.5〜11質量%、および、CAFを9.0〜12.0質量%、並びに、クリンカ1kgに対しMoを30mg以下含むセメントクリンカ。
【請求項2】
前記セメントクリンカ100質量部に対し、石膏をSO換算で1.5〜5.0質量部含む請求項1に記載のセメント組成物。

【公開番号】特開2013−107780(P2013−107780A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251764(P2011−251764)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)