説明

セメント系硬化体の色ムラ改善方法

【課題】色ムラが発生し易い蒸気養生コンクリート二次製品等のセメント系硬化体(特に高強度コンクリート製品)において、色ムラが目立ちにくい方法を提供する。
【解決手段】炭酸化蒸気養生によって、セメント系硬化体の表面に炭酸カルシウムを含む白華を発生させて、均一にぼかし、該表面の色ムラを改善する。セメント系硬化体の表面における色差の最大値は、3.0以下である。炭酸化蒸気養生の後に通常の蒸気養生を行なえば、セメント系硬化体の機械的強度を向上させ高強度化を図ることもできる。養生用設備としては、養生室1内に炭酸ガス及び水蒸気を含む高温ガスを供給するための炭酸化蒸気養生用装置6と、養生室1内に水蒸気を含む高温ガスを供給するための蒸気養生用装置3を含むものが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白華の発生を利用したセメント系硬化体の色ムラ改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント系硬化体の色ムラは、美観を損ねるため、従来から問題となっている。その原因は、セメント自体の色のバラツキ、着色材や構成材料の不均一、養生雰囲気のバラツキなど様々である。原因の一つとして白華の発生も挙げられる。
概して、セメント系硬化体の表面に、白華と呼ばれる現象が生じることがある。この現象は、セメント系硬化体の表面に、白い面状の吹出物や斑点が生じるものである。白華は、セメント系硬化体の表面に色ムラや退色として表れ、セメント系硬化体の美観を損ねる原因の一つとされている。つまり、地色に近い色として残る部分(色の濃い部分)と、白華によって白っぽくなった部分(色の薄い部分)とが色ムラとして表れ、全体として汚い印象を与えるものである。
そのため、従来より、白華を抑制するための種々の方法が、提案されている。
一例として、賦形された無機質水硬性未硬化体を蒸気養生にて硬化させて無機質水硬性硬化物を得るにあたり、未硬化体を、その意匠面とすべき面がトレーの表面に接触するように、トレー上に載置し、この状態で蒸気養生することを特徴とする無機質水硬性硬化物の製造方法が提案されている(特許文献1)。
この製造方法によれば、未硬化成形体の意匠面となるべき面とトレーの表面とを接触させているため、当該意匠面となるべき面が、白華発生原因物質である空気中の炭酸ガスに晒されず、この面については白華の発生を防止することができる。
【0003】
他の例として、セメントと補強用繊維を原料主材としたセメント系硬化体の製造方法であって、原料の水性スラリーもしくは水混練物からの成形体を加熱養生した後に、湿度80%Rh以上において、濃度5〜25%の二酸化炭素により接触処理することを特徴とするセメント系硬化体の製造方法が提案されている(特許文献2)。
この製造方法によれば、養生後に二酸化炭素による接触処理を行っているので、養生中に二酸化炭素による接触処理を行う場合に見られるアルカリ成分と二酸化炭素との反応による白華の発生等の問題を生じさせずに、人体や環境に悪影響を及ぼすおそれがある高濃度のアルカリ水の溶出を抑制することができる。
一方、セメント、ポゾラン質微粉末等を材料として用いた高強度のコンクリート製品が知られている(例えば、特許文献3参照)。しかし、高強度のコンクリート製品は、蒸気養生されること、及び、硬化・強度発現が早いなどの観点から、色ムラが発生し易い。
【特許文献1】特開平5−24953号公報
【特許文献2】特開平11−278961号公報
【特許文献3】特開2002−193655号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の従来例に見られるように、白華による美観の低下を防止するために、白華の発生自体を抑制することが、一般的に行われている。
しかし、簡便で有効な白華発生防止策は無く、構成材料や養生雰囲気等のバラツキも完全に無くすことはできないので、色ムラが発生し易い蒸気養生製品や高強度製品については、依然として色ムラの問題があった。
したがって、本発明の目的は、色ムラが発生し易い蒸気養生コンクリート二次製品等のセメント系硬化体(特に高強度コンクリート製品)において、色ムラが目立ちにくい方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記課題について鋭意検討した結果、完全には抑制し難い白華の発生を利用し、若干白っぽくはなるものの、均一かつ薄く白華を発生させれば色ムラが目立ちにくくなること、及び、そのためのセメント系硬化体の製造時の養生方法として、炭酸化蒸気養生を採用すれば良いことを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[9]を提供するものである。
[1] 炭酸化蒸気養生によって、セメント系硬化体の表面に炭酸カルシウムを含む白華を発生させて、該表面の色ムラを改善することを特徴とするセメント系硬化体の色ムラ改善方法。
[2] 炭酸化蒸気養生によって、表面の少なくとも一部を、炭酸カルシウムを含む白華層で被覆してなることを特徴とするセメント系硬化体。
[3] 上記セメント系硬化体は、上記白華層を形成させるための表面を有する、圧縮強度が100N/mm以上である部分を含む上記[2]に記載のセメント系硬化体。
[4] 上記白華層の表面における色差の最大値は、3.0以下である上記[2]又は[3]に記載のセメント系硬化体。
[5] 上記[2]〜[4]のいずれかに記載のセメント系硬化体の製造時における養生方法であって、前養生したセメント系硬化体を炭酸化蒸気養生することを特徴とするセメント系硬化体の養生方法。
[6] 上記炭酸化蒸気養生の後に、更に蒸気養生を行う上記[5]に記載のセメント系硬化体の養生方法。
[7] 上記炭酸化蒸気養生に用いる蒸気は、炭酸ガス及び水蒸気を含む100〜300℃のガスである上記[5]又は[6]に記載のセメント系硬化体の養生方法。
[8] 上記[2]〜[4]のいずれかに記載のセメント系硬化体の製造方法であって、型枠内で前養生して得られるセメント系硬化体を脱型後、養生室内に静置し、次いで、炭酸ガス及び水蒸気を含む100〜300℃のガスを該養生室内に吹き込み、上記セメント系硬化体を炭酸化蒸気養生することを特徴とするセメント系硬化体の製造方法。
[9] 上記炭酸化蒸気養生の後に、更に蒸気養生を行う上記[8]に記載のセメント系硬化体の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、表面が若干白っぽくはなるものの、セメント系硬化体の色ムラを改善することができる。また、蒸気養生を用いて製造する蒸気養生製品や高強度製品は、色ムラを抑制しつつ蒸気養生も行なえるので、一石二鳥である。また、表面に緻密な炭酸カルシウムを含む白華層が形成されるので、二次白華の抑制や表面耐久性の向上も図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のセメント系硬化体の色ムラ改善方法は、炭酸化蒸気養生によって、セメント系硬化体の表面に炭酸カルシウムを含む白華を発生させて、該表面の色ムラを改善するものである。
本発明のセメント系硬化体は、セメント組成物からなる硬化体であればよく、コンクリート、モルタル、ペーストのいずれであってもよい。また、表層がモルタルあるいはコンクリートからなり、基層がコンクリートからなる2層物なども含まれる。
セメント組成物の好ましい例として、ポゾラン質微粉末を含むものが挙げられる。ポゾラン質微粉末を含むことによって、圧縮強度、曲げ強度等の機械的強度を高めることができ、高強度化も図ることができる。また、水和物としてC−S−Hが生成し、CH(水酸化カルシウム)の生成が抑制されるので、白華の発生を抑制し易い。
ポゾラン質微粉末を含むセメント組成物としては、例えば、セメント、ポゾラン質微粉末、減水剤、水、及び、必要に応じて用いられる細骨材等を含むものが挙げられる。
セメントの種類としては、特に限定されるものではなく、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントや、高炉セメント、フライアッシュセメント等の混合セメント等を用いることができる。
ポゾラン質微粉末の例としては、シリカフューム、シリカダスト、ケイソウ土、モミガラ、フライアッシュ、スラグ、火山灰、シリカゾル、沈降シリカ等が挙げられる。
ポゾラン質微粉末の平均粒径は、強度発現性の観点から、好ましくは1.0μm以下である。なお、シリカフューム及びシリカダストは、平均粒径が1.0μm以下であり、粉砕等を行なう必要がないので、コスト的に有利である。
ポゾラン質微粉末の配合量は、組成物の流動性及び強度発現性の観点から、セメント100質量部に対して、好ましくは5〜50質量部である。
【0008】
減水剤としては、例えば、リグニン系、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、ポリカルボン酸系等の減水剤、AE減水剤、高性能減水剤又は高性能AE減水剤を使用することができる。中でも、ポリカルボン酸系の高性能減水剤及び高性能AE減水剤は、減水効果が大きいため、好ましく用いられる。
なお、減水剤は、液状と粉末状のいずれでも使用可能である。
水量は、セメント、ポゾラン質微粉末等からなる粉体の合計量100質量部に対して、好ましくは10〜30質量部である。該量が10質量部未満では、混練が困難になるとともに、組成物の流動性が低くなる。該量が30質量部を超えると、組成物の強度発現性が低下する。
【0009】
必要に応じて配合される他の材料として、細骨材、石英粉末、補強用繊維(金属繊維、有機繊維)等が挙げられる。
細骨材の例としては、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂またはこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
細骨材の最大粒径は、組成物の強度発現性の観点から、5mm以下、好ましくは3mm以下、より好ましくは2mm以下である。
細骨材の配合量は、組成物の流動性、強度発現性等の観点から、セメント等の粉体の合計量100質量部に対して、好ましくは50〜250質量部、より好ましくは80〜180質量部である。
【0010】
高強度化、高耐久性化を図る場合は、石英粉末や、その他の鉱物質粉末を混和すればよい。
石英粉末の例としては、石英や非晶質石英、オパール質やクリストバライト質のシリカ含有粉末等が挙げられる。
石英粉末の平均粒径は、組成物の流動性、強度発現性等の観点から、好ましくは3〜20μmである。
石英粉末の配合量は、組成物の流動性、強度発現性等の観点から、セメント100質量部に対して、好ましくは5〜50質量部である。
【0011】
上記種々の材料の混練方法は、特に限定されるものではなく、例えば、次の(1)〜(3)のいずれかを採用することができる。
(1)水、減水剤以外の材料を予め混合して、プレミックス材を調製し、該プレミックス材、水及び減水剤をミキサに投入し、混練する方法。
(2)水以外の材料(ただし、減水剤としては粉末状のものを使用する。)を予め混合して、プレミックス材を調製し、該プレミックス材及び水をミキサに投入し、混練する方法。
(3)各材料をそれぞれ個別にミキサに投入し、混練する方法。
混練に用いるミキサとしては、通常のコンクリートの混練に用いられる任意のタイプのミキサを用いることができ、例えば、揺動型ミキサ、パンタイプミキサ、二軸練りミキサ等が挙げられる。
【0012】
ポゾラン質微粉末を含むセメント混練物から調製されるセメント系硬化体の物性は、次のとおりである。
該セメント系硬化体の圧縮強度は、JIS A 1106−1999に準拠した測定値として、好ましくは100N/mm以上、より好ましくは120N/mm以上、特に好ましくは140N/mm以上である。
圧縮強度が前記の好ましい数値範囲内であれば、セメント系硬化体の表面に装飾等の目的で凹凸を形成させた場合であっても、該凹凸が欠けるおそれが小さいなど、高強度による利点を得ることができる。
【0013】
本発明において、炭酸化蒸気養生とは、空気中の炭酸ガス濃度を超える濃度の炭酸ガス及び水蒸気を含む雰囲気下で加熱養生することをいう。炭酸化蒸気養生の詳細については、後述の「セメント系硬化体の養生方法」の「炭酸化蒸気養生工程」で説明する。
炭酸化蒸気養生によって、セメント系硬化体の表面の少なくとも一部(炭酸ガス及び水蒸気に晒される部分)に、炭酸カルシウムを含む白華層が略均一に形成される。該一部とは、色ムラを改善したい部分全体を含む部分をいう。
形成する白華層は、もとの色が若干退色する程度の白華層であれば良い。
一般に、白華には、セメントと水との反応により生成する水酸化カルシウムが、セメント系硬化体の表面で空気中の炭酸ガスと反応して炭酸カルシウムとなることによって生じるもの(カルシウム白華)と、セメント中のナトリウム、カリウム等のアルカリ金属が、炭酸塩や硫酸塩となって結晶成長して発生するもの(アルカリ白華)とがある。このうち、アルカリ金属塩による白華は、水洗で除去することができる。一方、炭酸カルシウムによる白華(カルシウム白華)は、水洗で除去することができない。本発明では、水洗で除去することができない主としてカルシウム白華からなる層を、炭酸化蒸気養生により人為的に生じさせて、セメント系硬化体の表面の色を均一にぼかし、色ムラの改善を図るものである。
【0014】
セメント系硬化体の表面の色ムラの程度は、色差として数値化することができる。
色差とは、L色度図による値が、地点1で(L、a、b)、地点2で(L、a、b)である場合、式:(L−L+(a−a+(b−bによって算出される値の平方根の値として定義される。
本発明において、例えば、ミノルタ社製の色彩色差計CR−310で測定した場合の、セメント系硬化体の白華を生じさせる対象となる面の部分における色差の最大値は、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.5以下、特に好ましくは2.0以下である。
また、色差の最大値が前記の特定の値以下であることに加えて、色差の平均値が特定の値以下であれば、更に好ましい。
具体的には、セメント系硬化体の白華を生じさせる対象となる面の部分に対して、偏りがないように目視で6つの地点を任意に選択した場合において、これら6つの地点から選ばれる2つの地点のすべての組み合わせ(計15通り)における色差の平均値は、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.2以下、特に好ましくは0.9以下である。
【0015】
[セメント系硬化体の養生方法]
次に、本発明のセメント系硬化体の養生方法について説明する。
本発明のセメント系硬化体の養生方法は、炭酸化蒸気養生工程を含むことが必須である。
本発明の養生方法は、炭酸化蒸気養生工程の前工程として、前養生工程を含むことができる。また、本発明の養生方法は、炭酸化蒸気養生工程の後工程として、蒸気養生工程を含むことができる。
本発明の養生方法の好ましい例は、前養生工程、炭酸化蒸気養生工程、及び蒸気養生工程を含むものである。以下、これらの工程について説明する。
[前養生工程]
本工程は、型枠内の未硬化のセメント混練物の上面にシートを敷設し、常温で所定時間放置して硬化させ、セメント系硬化体を得る工程である。
本工程における養生温度は、好ましくは10〜50℃、より好ましくは15〜45℃、特に好ましくは20〜40℃である。
養生時間は、脱型可能な機械的強度をセメント混練物に付与する観点から、好ましくは10時間以上、より好ましくは15時間以上、特に好ましくは20時間以上である。
養生時間の上限は、好ましくは80時間である。養生時間が80時間を超えると、養生の作業効率が悪くなる。
なお、セメント系硬化体が即脱品(即時脱型品)である場合、前養生工程は不要である。
【0016】
[炭酸化蒸気養生工程]
本工程は、前養生工程を経たセメント系硬化体を、養生室において炭酸ガス及び水蒸気を含む雰囲気下で養生する工程である。
養生室における雰囲気中の炭酸ガスの濃度は、色ムラの改善の効果の観点から、好ましくは0.5体積%以上、より好ましくは1体積%以上である。該濃度が0.5体積%未満では、色ムラの改善を十分に達成することができないことがある。
該炭酸ガスの濃度の上限値は、特に限定されないが、炭酸ガス濃度を例えば5体積%以上に増大させても本発明の色ムラ改善の効果が向上するわけではないこと、及び、炭酸ガス濃度が高すぎると白華が発生し過ぎて逆効果となる場合があるなどの観点から、好ましくは5体積%以下である。
養生室における雰囲気中の水蒸気の量は、相対湿度の値として、好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上である。該値が70%未満では、セメント系硬化体の表面水分が不足し、色ムラを改善するのに好適な白華層を形成させることが困難なことがあり、また、強度発現性も低下する。
水蒸気の量の上限は、特に限定されないが、相対湿度の値として、好ましくは95%である。95%を超えると、セメント系硬化体の表面の水分が多過ぎて、部分的に炭酸ガスを吸収した水滴が形成され、色ムラを改善するのに好適な白華層を形成させることが困難になるなどの欠点がある。
このように、炭酸化蒸気養生において、セメント系硬化体表面の水分量は非常に重要である。乾きすぎても濡れすぎても良くない。結露等による水滴を生じることなく均一に湿っていることが好ましい。
【0017】
養生室における炭酸ガス及び水蒸気を含む雰囲気の温度は、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上である。該温度が60℃未満では、養生の作業効率が低下することがある。
炭酸ガス及び水蒸気を含むガスの養生室への供給方法は、例えば、(a)LPガスを燃焼させて、炭酸ガスを含む高温のガスを得た後、この高温のガスに水を供給し蒸発させて、炭酸ガス及び水蒸気を含むガスを得る方法、(b)炭酸ガスを収容したタンクから、炭酸ガスを得た後、この炭酸ガスを加熱して高温のガスを得て、次いで、この高温のガスに水を供給し蒸発させて、炭酸ガス及び水蒸気を含むガスを得る方法、等が挙げられる。なお、前記の(a)の方法を採用する場合、炭酸ガス及び水蒸気を含むガスに対して、更に、炭酸ガスを収容したタンクから、炭酸ガスを供給して、炭酸ガス及び水蒸気を含むガス中の炭酸ガス濃度を調整することもできる。
養生時間は、色ムラの改善効果が十分に得られるように白華層を形成させるという観点から、好ましくは2時間以上、より好ましくは3時間以上、特に好ましくは3.5時間以上である。
養生時間の上限は、特に限定されないが、後工程である養生工程を確保する観点から、好ましくは8時間、より好ましくは7時間、特に好ましくは6時間である。
なお、養生時間は、目的とする高温(例えば、80℃)に達した時点を開始時点とする時間であり、昇温時間を含まない。昇温の速度は、セメント系硬化体の機械的強度の確保の観点から、15℃/時間(hour)以下であることが好ましい。昇温時間は、通常、3〜6時間である。降温は、結露が生じ難い速度で行えばよい。
本発明では、水蒸気として過熱水蒸気(特に常圧過熱水蒸気)を用いることが好ましい。過熱水蒸気を得るには、例えば、100℃を超える温度に加熱したガスに水分を供給し蒸発させればよい。
過熱水蒸気の温度は、好ましくは100℃を超え、300℃以下、より好ましくは120〜300℃である。該温度が100℃以下では、養生の作業効率が低下する。該温度が300℃を超えると、エネルギーコストが増大し、実用的ではない。
炭酸化蒸気養生用の手段としては、例えば、天然ガス(例えば、LPガス)を直火で燃焼させて、炭酸ガスを含む排ガスを発生させるとともに、この高温の排ガスに水を供給して蒸発させ、水分と温度をコントロールして、炭酸ガス及び過熱水蒸気を含むガスを養生室に供給する設備が挙げられる。この設備を用いれば、容易に炭酸化蒸気養生を行なうことができる。
【0018】
[蒸気養生工程]
本工程は、必要に応じて、養生室において、水蒸気を含む雰囲気下でセメント系硬化体を養生する工程である。本工程を含むことによって、セメント系硬化体の機械的強度(圧縮強度等)を更に向上させることができる。
本工程は、炭酸化蒸気養生工程と異なり、通常の蒸気養生(換言すれば、炭酸ガスを発生させずに水蒸気のみを発生させて得られるガスを用いた養生)である。
水蒸気の量は、養生室内の雰囲気中の相対湿度の値として、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。該値が80%未満では、機械的強度を十分に向上させることが困難なことがある。
【0019】
養生室の雰囲気の温度は、好ましくは65℃以上、さらに好ましくは75℃以上である。該温度が65℃未満では、機械的強度を十分に向上させることが困難なことがある。熱の供給は従来の方法(例えば、熱電対等の加熱手段を用いた方法)で行えばよい。
養生時間は、機械的強度を十分に向上させる観点から、好ましくは3時間以上である。
なお、養生時間は、目的とする高温(例えば、80℃)に達した時点を開始時点とする時間であり、昇温時間を含まない。昇温の速度は、セメント系硬化体の機械的強度の確保の観点から、15℃/時間(hour)以下であることが好ましい。昇温時間は、通常、3〜6時間である。降温は、結露が生じ難い速度で行えばよい。
炭酸化蒸気養生に続いて直ちに蒸気養生を行なう場合、炭酸化蒸気養生で既に高温の状態になっているので、蒸気養生の前の昇温を必要としないことがある。
【0020】
表面の少なくとも一部を炭酸カルシウムを含む白華層で被覆し色ムラの発生を抑制した本発明のセメント系硬化体の製造方法の一例としては、型枠内で前養生して得られるセメント系硬化体を脱型後、養生室内に静置し、次いで、水蒸気及び0.5〜2.0体積%の炭酸ガスを含む100℃を超え300℃以下の温度のガスを、該養生室内に吹き込んで、セメント系硬化体を炭酸化蒸気養生し、その後、セメント系硬化体を蒸気養生して、所望の機械的強度を有するセメント系硬化体を得る方法が挙げられる。
養生室及びその関連設備としては、例えば、図1に示すものが挙げられる。図1中、養生室1内には、セメント系硬化体(図示を略す。)が載置されている。養生室1には、養生室1内の温度を管理するための熱電対2が設置されている。炭酸化蒸気養生時に、炭酸化蒸気養生用装置6で発生した炭酸ガス及び過熱水蒸気を含むガスは、供給路7内を流通し、排出口8から養生室1内に供給される。一方、炭酸化蒸気養生後の蒸気養生時に、蒸気養生用装置(ボイラー)3で発生した水蒸気は、供給路4内を流通し、排出口5から養生室1内に供給される。なお、タイマー(図示せず)によって、炭酸化蒸気養生用装置6の運転と、蒸気養生用装置(ボイラー)3の運転が、切り替わるように構成されている。また、昇温及び降温時の温度及び所要時間は、炭酸化蒸気養生用装置6、蒸気養生用装置(ボイラー)3の各装置に内蔵されたプログラミングコントローラーによって制御される。
【0021】
本発明のセメント系硬化体は、種々の製品に適用することができる。
本発明のセメント系硬化体からなる製品の一例としては、モルタルまたはコンクリートからなる表層と、コンクリートからなる基層とを含むコンクリート製品が挙げられる。表層には、例えば、装飾用の模様を形成したりあるいは排水等の機能を付与するための凹凸を形成することができる。この場合、凹凸部分の破損を防ぐために、表層の形成材料として、大きな機械的強度を発現し得るセメント組成物を用いることが望ましい。このようなセメント組成物の例としては、前述のポゾラン質微粉末を含むセメント組成物が挙げられる。
【実施例】
【0022】
[実施例1]
(1)使用材料及びセメント混練物の調製
セメント系硬化体の材料として、普通ポルトランドセメント70質量部、シリカフューム10質量部、珪石粉末20質量部(以上の材料を総称して粉体という。)、ポリプロピレン繊維3体積%(ただし、全粉体量を100体積%とする。)、水/粉体比が18質量%となる量の水、細骨材/全粉体量の質量比が1となる量の細骨材(最大粒径2mm)、高性能減水剤1質量部(固形分換算)を用いた。
これらの材料からなるセメント混練物を型枠内に投入して、長さ60cm、幅30cm、高さ4cmの未硬化体を得た。
(2)養生方法
型枠内のセメント混練物からなる未硬化体の上にシートを敷設した後、30℃で24時間、前養生を行なった。次に、炭酸化蒸気養生を80℃で4時間行なった。なお、昇温時間は4時間であった。炭酸化蒸気養生の終了後、直ちに、蒸気養生を80℃で44時間行なった。
(3)セメント系硬化体の物性
前述の測定方法によって、圧縮強度、曲げ強度、色差を測定または算出した。なお、物性を測定するための供試体としては、セメント系硬化体(長さ60cm、幅30cm、高さ4cm)を切断して得た長さ4cm、幅4cm、高さ16cmの硬化体を用いた。
その結果、圧縮強度は157N/mm、曲げ強度は25N/mm、色差の最大値(下記の表1中の地点No.2と地点No.5の組み合わせの場合)は2.6、色差の平均値(地点No.1〜No.6の全組み合わせである15通りの平均値)は1.2であった。なお、色差の算出に用いたL、a、bの各値(計6地点)を、表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
[実施例2]
(1)使用材料及びセメント混練物の調製
実施例1と同様にして、セメント混練物を調製し、型枠内に投入した。
(2)養生方法
型枠内のセメント混練物からなる未硬化体の上にシートを敷設した後、30℃で24時間、前養生を行なった。次に、炭酸化蒸気養生を80℃で48時間行なった。なお、昇温時間は4時間であった。
(3)セメント系硬化体の物性
前述の測定方法によって、圧縮強度、曲げ強度、色差を測定または算出した。その結果、圧縮強度は143N/mm、曲げ強度は23N/mm、色差の最大値(下記の表2中の地点No.2と地点No.3の組み合わせの場合)は2.0、色差の平均値(地点No.1〜No.6の全組み合わせである15通りの平均値)は0.9であった。なお、色差の算出に用いたL、a、bの各値(計6地点)を、表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
[比較例1]
(1)使用材料及びセメント混練物の調製
実施例1と同様にして、セメント混練物を調製し、型枠内に投入した。
(2)養生方法
型枠内のセメント混練物からなる未硬化体の上にシートを敷設した後、30℃で24時間、前養生を行なった。次に、蒸気養生を80℃で48時間行なった。なお、昇温時間は4時間であった。
(3)セメント系硬化体の物性
前述の測定方法によって、圧縮強度、曲げ強度、色差を測定または算出した。その結果、圧縮強度は162N/mm、曲げ強度は25N/mm、色差の最大値(下記の表1中の地点No.1と地点No.5の組み合わせの場合)は4.3、色差の平均値(地点No.1〜No.6の全組み合わせである15通りの平均値)は1.9であった。なお、色差の算出に用いたL、a、bの各値(計6地点)を、表3に示す。
【0027】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のセメント系硬化体の養生設備の一例を概念的に示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 養生室
2 熱電対
3 蒸気養生用装置
4 供給路
5 排出口
6 炭酸化蒸気養生用装置
7 供給路
8 排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸化蒸気養生によって、セメント系硬化体の表面に炭酸カルシウムを含む白華を発生させて、該表面の色ムラを改善することを特徴とするセメント系硬化体の色ムラ改善方法。
【請求項2】
炭酸化蒸気養生によって、表面の少なくとも一部を、炭酸カルシウムを含む白華層で被覆してなることを特徴とするセメント系硬化体。
【請求項3】
上記セメント系硬化体は、上記白華層を形成させるための表面を有する、圧縮強度が100N/mm以上である部分を含む請求項2に記載のセメント系硬化体。
【請求項4】
上記白華層の表面における色差の最大値は、3.0以下である請求項2又は3に記載のセメント系硬化体。
【請求項5】
上記請求項2〜4のいずれかに記載のセメント系硬化体の製造時における養生方法であって、前養生したセメント系硬化体を炭酸化蒸気養生することを特徴とするセメント系硬化体の養生方法。
【請求項6】
上記炭酸化蒸気養生の後に、更に蒸気養生を行う請求項5に記載のセメント系硬化体の養生方法。
【請求項7】
上記炭酸化蒸気養生に用いる蒸気は、炭酸ガス及び水蒸気を含む100〜300℃のガスである請求項5又は6に記載のセメント系硬化体の養生方法。
【請求項8】
請求項2〜4のいずれかに記載のセメント系硬化体の製造方法であって、型枠内で前養生して得られるセメント系硬化体を脱型後、養生室内に静置し、次いで、炭酸ガス及び水蒸気を含む100〜300℃のガスを該養生室内に吹き込み、上記セメント系硬化体を炭酸化蒸気養生することを特徴とするセメント系硬化体の製造方法。
【請求項9】
上記炭酸化蒸気養生の後に、更に蒸気養生を行う請求項8に記載のセメント系硬化体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−308363(P2008−308363A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157735(P2007−157735)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(300082335)太平洋プレコン工業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】