説明

セメント組成物、コンクリート、及びそれを用いたコンクリート硬化体の製法

【課題】 材齢初期に大きな膨張量が得られ、膨張量が長期にわたり安定し、膨張による強度低下やひび割れが無く、高ケミカルプレストレスと高強度を安定的に維持することが可能となる高膨張で高強度のセメント組成物、コンクリート、及びそれを用いたコンクリート硬化体の製法を提供すること。
【解決手段】 低熱ポルトランドセメント、膨張材、骨材、及び減水剤を含有してなり、低熱ポルトランドセメントの単位量が250〜600kg/m3で、膨張材の単位量が35〜100kg/mであるセメント組成物、減水剤がポリカルボン酸系減水剤である該セメント組成物、その硬化体の膨張量が、拘束膨張試験方法で250×10−6を超える該セメント組成物、該セメント組成物と水とを混合してなるコンクリート、水が、結合材100重量部に対して、20〜80重量部である該コンクリート、並びに、該コンクリートを用いて促進養生してなるコンクリート硬化体の製造方法を構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、初期養生時に大きな膨張量が得られ、長期間安定した膨張量が得られる高膨張で高強度のセメント組成物、コンクリート、及びそれを用いたコンクリート硬化体の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、膨張材は、その使用量をコンクリート1m当たり35〜80Kgと多くしてケミカルプレストレスを導入し、ヒューム管、鋼管ライニング、矢板、及びボックスカルバート等のコンクリート二次製品製造等に利用されている。
【0003】
また、通常のコンクリート硬化体は、圧縮強度の1割程度の引張強度しかなく、ひび割れが発生しやすいものであるが、ひび割れ耐力を上げる方法として、鉄筋、鋼管、エンプラ、及び炭素繊維等を併用し、コンクリートの膨張力を鉄筋等に伝え、鉄筋等には引張力を与え、コンクリート硬化体には反力の圧縮力を付与する方法が試みられている。そして、コンクリート硬化体の拘束膨張量が250×10−6以下ではひび割れ耐力の向上が少なく、乾燥収縮により膨張量が減少することも考えられ、250×10−6を超える量の拘束膨張量をコンクリート硬化体に与えて、積極的にケミカルプレストレスを導入するものである。
【0004】
しかしながら、これらの方法では、特に低水セメント比のコンクリートでは、初期養生時に安定した大きな膨張量が得られず、膨張材の膨張が蒸気養生終了後や所定の型枠設置期間後も長期にわたり継続し、鉄筋拘束が弱い部分や、鉄筋の降伏点以上の膨張量で膨張する部分で、ひび割れや強度低下を生じるおそれがあり、高強度と高膨張の両方の性能を安定的に得るのが難しいという課題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、種々検討した結果、特定の材料を使用することによって、前記課題を解消できるという知見を得て本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明は、低熱ポルトランドセメント、膨張材、骨材、及び減水剤を含有してなり、低熱ポルトランドセメントの単位量が250〜600kg/m3で、膨張材の単位量が35〜100kg/mであるセメント組成物であり、減水剤がポリカルボン酸系減水剤である該セメント組成物であり、減水剤が、低熱ポルトランドセメントと膨張材からなる結合材100重量部に対して、固形分換算で0.01〜4重量部である該セメント組成物であり、減水剤が、結合材100重量部に対して、固形分換算で0.10〜0.46重量部である該セメント組成物であり、その硬化体の膨張量が、拘束膨張試験方法で250×10−6を超える該セメント組成物であり、該セメント組成物と水とを混合してなるコンクリートであり、水が、結合材100重量部に対して、20〜80重量部である該コンクリートであり、該コンクリートを用いて促進養生してなるコンクリート硬化体の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のコンクリート硬化体は、材齢初期に大きな膨張量が得られ、膨張量が長期にわたり安定し、膨張による強度低下やひび割れが無く、高ケミカルプレストレスと高強度を安定的に維持することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明で使用する低熱ポルトランドセメント(以下、低熱セメントという)とは、鉱物組成のビーライトをより多く含有したもので、高ビーライト系セメントともいわれており、1997年4月にJIS化されている。
低熱セメントは、最近の施工技術の進歩や大規模プロジェクトで、コンクリート構造物が大型化しセメントの水和熱による温度ひび割れの抑制や、より高い耐久性が求められ誕生した。
低熱セメントは、水和熱が低い、長期材齢での強度発現性に優れる、低熱系混合セメントに比べ中性化が少ない、並びに、低水セメント比でも良好な流動性と作業性に優れるなどの特徴を持つものである。
低熱セメントの使用量は、単位量で250〜600kg/m3である。250kg/m3未満では安定した膨張量が得られない場合があり、600kg/m3を超えると収縮量が大きくなりひび割れが発生しやすくなる場合がある。
【0010】
本発明の拘束膨張試験方法とは、JIS A 6202 コンクリート用膨張材付属書2膨張コンクリートの拘束膨張及び収縮試験方法によるものである。
【0011】
本発明で使用する膨張材としては、カルシウムサルホアルミネート系膨張材等があり、二次製品で使用されている通常タイプや、マスコン用水和熱抑制タイプと通常タイプの併用使用が可能である。
膨張材の粒度は特に限定されるものではないが、通常、ブレーン比表面積値で2,000〜4,000cm/gが好ましい。2,000cm/g未満では未反応物が長期間残存し、耐久性が低下する場合があり、4,000cm/gを超えると水和反応が早く、所定の膨張が得られない場合がある。
膨張材の使用量は、単位量で35〜100kg/mである。35kg/m未満では250×10−6以上の膨張量が得られない場合があり、100kg/mを超えると膨張量が大きすぎて強度が低下する場合がある。
【0012】
本発明で使用する骨材としては、川砂、陸砂、砕砂、及び海砂等の細骨材や、川砂利、陸砂利、砕石、及び人工軽量骨材等の粗骨材をいい、通常のコンクリートに使用できるものであれば特に限定されるものではない。
骨材の使用量は、低熱セメントと膨張材からなる結合材100重量部に対して、100〜700重量部が好ましい。100重量部未満では収縮が大きく、ひび割れが発生する場合があり、700重量部を超えると流動性が得られない場合がある。
【0013】
本発明で使用する減水剤は、コンクリートの流動性を改善したり、単位水量を低減させるために使用するもので、高耐久性、高強度発現性、及び高流動性のコンクリートを得ることも可能とするものである。
減水剤としては、高性能AE減水剤、高性能減水剤、及びAE減水剤等が使用可能である。具体的には、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物系、メラミンスルホン酸のホルマリン縮合物系、及びポリスチレンスルホン酸塩系、ヒドロキシポリアクリレート、α,β−不飽和ジカルボン酸とオレフィンの共重合体、ポリエチレングリコールモノアルケニルエーテルとマレイン酸系単量体、メタクリル酸単量体から導かれる共重合体、及びスチレン−アクリル酸エステル−マレイン酸系共重合体等のポリカルボン酸系、並びに、変性リグニンスルホン酸化合物系等が挙げられ、一部架橋反応で高分子化したものを含み、これらのうちの一種又は二種以上の使用が可能である。これらのうち、ポリカルボン酸系減水剤、特に、分子中のオキシエチレン単位が10〜60モル存在するポリカルボン酸系減水剤が、低水結合材比でのフレッシュコンクリートの作業性が良好となる、高い脱型強度が得られる、及び大きく長期間安定なケミカルプレストレスが得られるなどの面から好ましい。
減水剤の使用量は、結合材100重量部に対して、固形分換算で0.01〜4重量部が好ましく、0.05〜3重量部がより好ましく、0.10〜0.46重量部が最も好ましい。0.01重量部未満では所定の流動性が得にくく、4重量部を超えると分離や強度不足を生じる場合がある。
【0014】
本発明で使用する水量は特に限定されるものではないが、結合材100重量部に対して、20〜80重量部が好ましい。20重量部未満では膨張が著しく遅れる場合があり、80重量部を超えると長期にわたる耐久性が低下する場合がある。
【0015】
低熱セメント、膨張材、骨材、及び減水剤等の使用材料の混合方法は、均一に混合できれば特に限定されるものではなく、モルタルを練り上げてから粗骨材を投入し混合する方法、使用材料をほとんど同時に投入して混合する方法等が可能である。
【0016】
本発明では、脱型までの養生期間の短縮、材齢初期における強度の増加、あるいは、膨張促進の面から促進養生することが好ましい。
ここで、促進養生とは、蒸気養生や低熱セメントの水和熱を断熱材等で保温し、養生温度を常温以上に上げる養生方法である。
促進養生は、例えば、前置き時間1〜72時間、昇温速度20℃/H以下、最高温度40〜80℃で行うことが好ましい。
最高温度の保持時間は、低熱セメントの組成、配合、及び製造品により異なるが、通常2〜6時間である。
最高温度保持後の徐冷は、蒸気供給量や断熱材の厚さ調整等により放熱して行うことが可能であり、その速度は10℃/H以下が好ましい。
脱型は、コンクリートと室温との温度差が15℃以下であれば特に制限されるものではない。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実験例に基づいてさらに説明する。
【0018】
実験例1
セメントと膨張材の合計単位量を550kg/mとし、表1に示す量のセメントと膨張材、並びに、セメントと膨張材からなる結合材100重量部に対して、148重量部の細骨材と159重量部の粗骨材をミキサに投入し、10秒間空練りし、その後、水29重量部と表1に示す量の減水剤を、固形分換算で、減水剤Aは0.15重量部、減水剤材Bは0.58重量部投入し、90秒間練り混ぜ、コンクリートを調製した。スランプは12±2cm、空気量は2.0±0.5%、コンクリート温度は25℃であった。
調製したコンクリートを成形し、初期養生として、前置き5時間、昇温速度15℃/H、60℃で蒸気養生を行い、8時間後徐冷、材齢1日後に脱型し、20℃の水中養生を行った。そのコンクリート硬化体の膨張量と安定性を試験した。結果を表1に併記する。
【0019】
<使用材料>
セメントα:普通ポルトランドセメント、市販品
セメントβ:早強ポルトランドセメント、市販品
セメントγ:低熱セメント、市販品
膨張材 :カルシュムサルホアルミネート系膨張材、市販品
減水剤A :ポリアルキレン基と酸無水物基を有するポリカルボン酸系減水剤、市販品
減水剤B :ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物系減水剤、市販品
細骨材 :陸砂、5mm下、比重2.70
粗骨材 :砕石、Gmax20mm、比重2.60
【0020】
<測定方法>
スランプ :JIS A 1101に準じ測定
空気量 :JIS A 1128に準じて測定
膨張量 :JIS A 6202 B法に準じ測定、直後は、蒸気養生直後、2年後は蒸気養生後に水中養生を行い2年後に測定
安定性 :蒸気養生後に水中養生を行い、(2年後の膨張量)/(蒸気養生直後の膨張量)が、1.2以下を良好、2.0以上を不良とする。
【0021】
【表1】

【0022】
実験例2
セメントと膨張材の単位量を各々485kg/mと65kg/mとしたこと以外は実験例1と同様に行い、膨張量、乾燥収縮量、及び圧縮強度を測定した。結果を表2に併記する。
【0023】
<測定方法>
乾燥収縮量:膨張量と同様に測定、脱型後、20℃、60%RHで養生し、3ヶ月後の乾燥収縮量を測定
圧縮強度 :蒸気養生後、水中養生を行いJIS A 1108 に準じて2年後に測定
【0024】
【表2】

【0025】
実験例3
表3に示す配合を用いたこと以外は実験例1と同様に行い、膨張量と圧縮強度を測定した。結果を表3に併記する。
【0026】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
低熱ポルトランドセメント、膨張材、骨材、及び減水剤を含有してなり、低熱ポルトランドセメントの単位量が250〜600kg/m3で、膨張材の単位量が35〜100kg/mであるセメント組成物。
【請求項2】
減水剤がポリカルボン酸系減水剤である請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
減水剤が、低熱ポルトランドセメントと膨張材からなる結合材100重量部に対して、固形分換算で0.01〜4重量部である請求項1又は請求項2に記載のセメント組成物。
【請求項4】
減水剤が、結合材100重量部に対して、固形分換算で0.10〜0.46重量部である請求項1又は請求項2に記載のセメント組成物。
【請求項5】
その硬化体の膨張量が、拘束膨張試験方法で250×10−6を超える請求項1〜請求項4のうちのいずれか一項に記載のセメント組成物。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のうちのいずれか一項に記載のセメント組成物と、水とを混合してなるコンクリート。
【請求項7】
水が、結合材100重量部に対して、20〜80重量部である請求項6に記載のコンクリート。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載のコンクリートを用いて促進養生してなるコンクリート硬化体の製造方法。

【公開番号】特開2007−238439(P2007−238439A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124026(P2007−124026)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【分割の表示】特願平10−356227の分割
【原出願日】平成10年12月15日(1998.12.15)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】