説明

ソリフェナシンまたはその塩の固形製剤用組成物

【課題】ソリフェナシンまたはその塩の固形製剤を臨床現場に提供するに当たり、経時的な分解を抑制できる安定なソリフェナシンまたはその塩の固形製剤の提供。
【解決手段】ソリフェナシンまたはその塩の結晶体を含有し、その非晶質体含有量が製品の安定性に影響を与えない範囲内であるソリフェナシンまたはその塩の固形製剤用組成物及びその製造方法であり、ソリフェナシン及び非晶質化抑制剤を含有してなる固形製剤用医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソリフェナシンまたはその塩の結晶体を含有し、その非晶質体含有量が製品の安定性に影響を与えない範囲内であるソリフェナシンまたはその塩の固形製剤用組成物及びその製造方法に関する。また、本発明はソリフェナシン又はその塩と非晶質化抑制剤を含有してなる固形製剤用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ソリフェナシンは、下記式(I)
【0003】
【化1】

【0004】
で示され、化学名を(1R,3’R)−3’−キヌクリジニル 1−フェニル−1,2,3,4−テトラヒドロ−2−イソキノリンカルボキシレートと称する。
該ソリフェナシンまたはその塩を含む一連のキヌクリジン誘導体が、ムスカリンM受容体に対する優れた選択的拮抗作用を有し、神経性頻尿、神経因性膀胱、夜尿症、不安定膀胱、膀胱痙縮や慢性膀胱炎等の泌尿器疾患や慢性閉塞性肺疾患、慢性気管支炎、喘息や鼻炎等の呼吸器疾患の予防治療剤として有用であることは報告されている(特許文献1参照)。
【0005】
該特許文献1の実施例8には、ソリフェナシン塩酸塩の製法が記載されており、アセトニトリル及びジエチルエーテルからなる混合溶媒中で結晶化された結晶が212〜214℃の融点であったこと、比旋光度([α]25が98.1(c=1.00,EtOH))を示したことが記載されている。
【0006】
しかしながら、ソリフェナシンまたはその塩の非晶質体について、或いはソリフェナシンのコハク酸塩を一般的な製剤化法で製剤化するとき、製造された製剤において主薬であるコハク酸ソリフェナシンが経時的に著しく分解することについては、特許文献1には記載は勿論のこと、示唆すらされていない。
【0007】
2003年6月に厚生労働省より発表された非特許文献1には、製剤の規格設定、つまり、安定性試験において認められる製剤中の分解生成物(不純物)に関する考え方が記されている。これによると、1日に投与される原薬の量が10mg未満の場合には製剤中の分解生成物の安全性確認が必要とされる閾値は、原薬中に含まれる分解生成物の百分率が1.0%あるいは分解生成物の1日総摂取量が50μgのいずれか低い方であり、1日に投与される原薬の量が10mg以上100mg以下の場合には製剤中の分解生成物の安全性確認が必要とされる閾値は、原薬中に含まれる分解生成物の百分率が0.5%あるいは分解生成物の1日総摂取量200μgのいずれか低い方と記されている。そのため、一般的に分解生成物の安全性確認をせずに設定することのできる分解性生物量の規格値としては、例えば薬物含量が5mgの製剤の場合は、原薬中に含まれる分解生成物の百分率が1.0%以下であり、例えば薬物含量が10mgの製剤の場合は、原薬中に含まれる分解生成物の百分率が0.5%以下である。
【0008】
現在臨床試験の結果に基づいて市販を予定しているソリフェナシン製剤は、2.5mg錠、5mg錠及び10mg錠であり、それらの製剤が非特許文献1にある安定性を具備する為には、コハク酸ソリフェナシン及びその分解物の総量に対するコハク酸ソリフェナシンの主分解物(以下、F1と略す)の量を0.5%以下に設定すべきであり,製品のロット間や試験時の誤差も含めて0.4%以下に制御する必要があると考えられた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許第801067号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】医薬審発第0624001号「新有効成分含有医薬品のうち製剤の不純物に関するガイドラインの改定について」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、コハク酸ソリフェナシンを頻尿、尿失禁の優れた治療剤として開発するに当たり、流動層造粒法により通常当該業者が行う一般的な条件で造粒し、得られた錠剤を一般的な安定性試験の1つである加速試験(40℃,75%RH(相対湿度),ボトル密栓条件)において6ヶ月に亘る安定性予備試験を行った結果、コハク酸ソリフェナシンの残存率低下が認められ、コハク酸ソリフェナシン及びその分解物の総量に対するF1の生成量が0.4%を超えた(詳しくは後述の表2参照のこと)。このような一般的な製剤化によって製薬的に十分な安定性を有する製剤を得ることは困難であることを知った。
【0012】
すなわち、頻尿・尿失禁治療剤として優れたソリフェナシンまたはその塩の固形製剤を臨床現場に提供するに当たり、40℃,75%RH,ボトル密栓条件においても、ソリフェナシン若しくはその塩並びにそれらの分解物の総量に対するF1の生成量を0.4%以下に抑制できる、経時的にも安定なソリフェナシンまたはその塩の固形製剤の開発が切望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一般的には、製剤における薬物の分解は、酸化還元反応、加水分解反応、ラセミ化、光分解、重合分解等が挙げられ、これらの反応には熱、酸素、光、水、他成分との相互作用などが関係しているといわれている。このように、安定な製剤を得るためには薬物の分解に関係する数ある原因を考慮する必要がある。このような技術水準下、本発明者らはソリフェナシン製剤の安定化につき鋭意研究した結果、予想外にも製剤の製造過程において生成した非晶質のコハク酸ソリフェナシンが、主薬経時的分解の主たる原因であることを解明した。
【0014】
また、本発明者らは、一般的な結合剤水溶液を用いて湿式造粒法により製剤を製造した場合においても、製造過程における製剤に含有する水分量を調節すること、あるいは製造後の組成物を加温及び/または加湿処理することにより非晶質体含有量を抑制しうることを知見し、ソリフェナシンの結晶体と非晶質体をあわせたもののうち非晶質体が占める割合がある一定量以下であれば、経時的な分解を抑制できる安定なソリフェナシンまたはその塩の固形製剤が創製できることを突き止めた。
【0015】
更に本発明者らは、ポリエチレングリコール(別名マクロゴール、以下、PEGと略記する場合もある)を結合剤として使用するときは、PEG自体が一般的に薬物を非晶質化させる目的で使用される物質であるにも拘わらず、製造方法によらずに、ソリフェナシンの非晶質化を抑制することによってソリフェナシンの経時的な分解を抑制しうる製剤を創製することを知見して、上記の安定化方法とは別に本発明を完成させるに至ったものである。
【0016】
すなわち、本発明は、
1.ソリフェナシンまたはその塩の結晶体を含有し、ソリフェナシンまたはその塩の非晶質体含有量が製品の安定性に影響を与えない範囲内のソリフェナシンまたはその塩の固形製剤用組成物、
2.非晶質体含有量が77%以下である前記1記載のソリフェナシンまたはその塩の固形製剤用組成物、
3.ソリフェナシン又はその塩を、溶媒を使用せずにソリフェナシンまたはその塩と賦形剤を配合して圧縮成形する工程を含むことを特徴とする前記1又は2記載の固形製剤用組成物、
4.ソリフェナシン又はその塩に溶媒を添加する工程を含み、溶媒1mLに対してソリフェナシン又はその塩の溶ける量が0.1mg未満である溶媒を用いることを特徴とする前記1又は2記載の固形製剤用組成物、
5.ソリフェナシン又はその塩に添加する溶媒が、アセトン若しくはヘキサン又はそれらの混合物からなることを特徴とする前記4記載の固形製剤用組成物、
6.ソリフェナシン又はその塩を非晶質化させる溶媒を添加させる工程を含み、溶媒1mLに対してソリフェナシン又はその塩の溶ける量が10mg以上である溶媒を用いることを特徴とする前記1又は2記載の固形製剤用組成物、
7.ソリフェナシン又はその塩を非晶質化させる溶媒が水、メタノール若しくはエタノール又はこれらの混合物からなる前記6記載の固形製剤用組成物、
8.非晶質体のソリフェナシン又はその塩の結晶化を促進処理する工程を含むことを特徴とする前記1乃至7記載の固形製剤用組成物、
9.ソリフェナシンまたはその塩の非晶質体及び結晶体をそれぞれ含有し、ソリフェナシンまたはその塩の非晶質体含有量が製品の安定性に影響を与えない範囲内であるソリフェナシンまたはその塩の混合物、
10.結晶体及び非晶質体のソリフェナシンまたはその塩と非晶質化抑制剤を含有してなる固形製剤用医薬組成物、
11.非晶質化抑制剤が酸化エチレン鎖を有する物質である前記10記載の医薬組成物、
12.酸化エチレン鎖を有する物質がポリエチレングリコールである前記11記載の医薬組成物、に関するものである。
【0017】
なお、添加剤を配合した製剤処方で錠剤化した場合、これらの添加剤に含まれる水分、加圧成型による錠剤内部の添加剤との接触度合の増加、加圧による結晶性の低下などの影響により、経時的な分解物の増加が加速される性質を有する乳癌治療薬として有用な(E)−1−[4−(2−ジメチルアミノ)エトキシ]フェニル−2−(4−イソプロピルフェニル)−1−(4−ホスホノオキシ)フェニル−1−ブテンを低水分化により安定化する技術(Chemical & Pharmaceutical Bulletin,42(12),2582(1994))、該化合物含有組成物を溶融造粒することにより安定化する技術(特開平9−110698号公報)、例えば多発性硬化症に使用されるアニリド化合物を錠剤形態で含有する固形製剤を製造すると、貯蔵中に6〜9%の主成分とは別異の化合物を生成し、主成分であるアニリド化合物を正確に投与することが困難であるが、実質的に無水の方法で製造することにより安定化する技術(特開平10−007547号公報)が知られている。
【0018】
しかしながら、これらの技術文献には、いずれも開示の化合物とは全く構造が異なり、その物理化学的性質、薬理学的性質も異なるソリフェナシン又はその塩についての記載は勿論のこと、非晶質体を含む固形製剤とするときに、経時的に分解するという課題、固形製剤に非晶質体の含有量を一定量以下にすることにより、安定化する構成については、記載はおろか示唆すらされていない。
【0019】
また、特開平5−194218号公報には、他の成分を配合した製剤処方で製剤化した場合、製造過程における練合、造粒あるいは加圧成型の際に加えられる圧力、摩擦、熱等により結晶の歪みが生じ含量低下が加速されることがある抗アンジオテンシンII作用を有する含窒素ヘテロ環アルキルフェニル誘導体を、PEGのような低融点油脂状物質を配合することにより経口用製剤を安定化する技術の開示がある。この場合の低融点物質による安定化のメカニズムは低融点油脂状物質を主薬に均一に配合させることで主薬の熱分解を抑制するものであり、主薬の結晶性への低融点物質の寄与についての記載も無く、本発明における安定化のメカニズムとは全く異なるものである。
【0020】
また、International Journal of Pharmaceutics,216(2001)43−49にはPEGと乳糖を共溶解させて晶析させた場合、析出した乳糖は結晶体の状態として存在することが報告されているが、一方、International Journal of Pharmaceutics,127(1996)261−272やInternational Journal of Pharmaceutics,262(2003)125−137にはPEGと薬物を共溶解させて晶析させた場合、薬物は非晶質の状態を示すことも報告されている。PEG等の高分子を主薬と共に共溶解させて晶析させた場合は主薬の性質によって異なるものではあるが、一般的に、非晶質化する場合が多く、難溶性薬物の可溶化等で非晶化することを目的として配合する研究がよく知られている。これらの技術文献に開示の化合物はいずれも、ソリフェナシンと化学構造が全く異なるものであり、その物理化学的性質、薬理学的性質も異なるソリフェナシン又はその塩についての記載は勿論のこと、ソリフェナシンとPEGを配合することにより結晶化されるか非晶質化されるか予想される知見は示唆されていない。さらには安定化に関しても、PEGのような高分子による結晶化を利用して主薬の経時的分解を抑制させるという構成について記載はおろか示唆すらされていない。
【0021】
以下本発明組成物につき詳述する。
本発明において使用される「ソリフェナシンの塩」とは、特許文献1に記載されたソリフェナシンの塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、炭酸、ピクリン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、グルタミン酸等の有機酸との酸付加塩や四級アンモニウム塩を挙げることができる。中でも、ソリフェナシンのコハク酸塩が、医薬品として提供する上で好ましいばかりでなく、本発明によって安定化効果を顕著に達成することができるので、特に選択される。
【0022】
本発明に用いられる「ソリフェナシンまたはその塩」は、上記特許文献1に記載された方法により、或いはそれに準じて、或いは常法によって、容易に入手可能である。本発明の固形製剤用組成物に対しての、ソリフェナシンまたはその塩の配合量は、投与単位製剤当たりの有効量を含有していれば良いが、好ましくは0.001重量%〜97重量%であり、より好ましくは0.05重量%〜50重量%であり、更に好ましくは0.05重量%〜20重量%であり、最も好ましくは0.05重量%〜10重量%である。但し、本発明の医薬組成物が顆粒剤のような粒子の場合、当該粒子状医薬組成物に対する薬物の配合量は、通常薬物の種類あるいは医薬用途(適応症)により適宜選択されるが、治療学的に有効な量あるいは予防学的に有効な量であれば特に制限されない。
【0023】
また、ソリフェナシンまたはその塩の一日投与量として好ましくは、0.01mg〜100mgであり、より好ましくは0.5mg〜50mgであり、更に好ましくは、0.5mg〜20mgであり、もっとも好ましくは0.5mg〜10mgである。
【0024】
ソリフェナシンまたはその塩の「結晶」あるいは「結晶体」とは、字義通り結晶学的に結晶構造を有するソリフェナシン又はその塩を意味する物質の意味であるが、本発明においては、ソリフェナシンの経時的分解性の極めて少ない物質を意味し、さらに製剤中に製品の安定性に影響を与えない範囲以上存在するときソリフェナシンの著しい経時的分解性を示す「非晶質体」とは異なる物質を意味する。
【0025】
一方、本発明においてソリフェナシンまたはその塩の「非晶質」あるいは「非晶質体」とは、結晶学的に非晶質の構造を有する物質の意味であるが、本発明においては、製剤中に製品の安定性に影響を与えない範囲以上存在するときソリフェナシンの著しい経時的分解性を示す物質を意味し、さらにソリフェナシンの経時的分解性の極めて少ない「結晶」あるいは「結晶体」とは異なる物質を意味する。
【0026】
また、本発明でいう「非晶質体含有量」とは、ソリフェナシンまたはその塩の非晶質体と結晶体を合わせた全体に対する非晶質体の割合を意味するものである。
本発明において「製品の安定性に影響を与えない範囲内である」とは、本発明のソリフェナシンまたはその塩が、商品の流通過程において考えられる厳しい条件下であっても製品が安定であることを意味し、具体的には、40℃,75%RH,ボトル密栓条件において6ヶ月に亘る安定性予備試験においても、ソリフェナシン若しくはその塩並びにそれらの分解物の総量に対するソリフェナシンの主分解物の生成量を0.4%以下に抑制できることをいう。
【0027】
したがって本発明によれば、製品の安定性に影響を与えない範囲内であるための、具体的な非晶質体含有量は、近赤外分光法で測定した場合であればソリフェナシンまたはその塩の非晶質体と結晶体を合わせた全体に対して77%以下であり、好ましくは73%以下であり、より好ましくは71%以下であり、もっとも好ましくは63%以下である。また、本発明のソリフェナシン及びその塩は、製造直後に非晶質体含有量が製品の安定性に影響を与えない範囲内を超えていたとしても経時的に結晶化が進み,その結果、流通過程において非晶質体含有量が製品の安定性に影響を与えない範囲内になったものも本発明の範囲に含まれる。従って、非晶質体含有量を測る時期については特に限定されないが、非晶質体含有量は商品の流通過程における安定性を保証しうるための量であることを考慮すると、好ましくは製品の流通開始時又はその後任意な時期に測定されることが好ましい。
【0028】
本発明におけるソリフェナシンまたはその塩の非晶質体含有量の評価法としては通常組成物中のソリフェナシンまたはその塩の結晶構造を識別できる方法であれば特に制限されないが、例えば粉末X線回折法、DSC測定法、固体NMR測定法、近赤外分光法等が挙げられる。特に、他の成分との混合組成物中に薬物が少量しか含まれない場合の薬物の結晶構造を測定するときには固体NMR測定法または近赤外分光法で測定するのが望ましいが、より簡便に測定できる方法としては、近赤外分光法が挙げられる。
【0029】
コハク酸ソリフェナシンの非晶質体含有量を測定する方法としては、例えば、近赤外分光法測定としてフーリエ変換近赤外分光器(Vector22/N、Bruker Optik GmbH、ドイツ)によりスペクトルを測定し(測定範囲;10000cm−1〜4000cm−1、分解能;2cm−1、スキャン回数;126回)、得られたスペクトルを2次微分し(Savitzky−Gollay convolution method)、近赤外スペクトル解析ソフトウェア(例えば、OPUS、Bruker Optik GmbH、ドイツ)を用いて解析した。錠剤のスペクトル測定前にコハク酸ソリフェナシンの結晶体と予めコハク酸ソリフェナシン水溶液をスプレードライ法により調製した非晶質体を種々の割合で混合した調製品のスペクトルを部分最小二乗法により回帰分析し検量線を作成し、錠剤から得られたスペクトルをこの検量線に内挿してコハク酸ソリフェナシンの非晶質体含有量を求めることが出来る。
【0030】
一方、コハク酸ソリフェナシンの非晶質体含有量を固体NMR法によって測定する方法としては、例えば固体核磁気共鳴装置(例えば、CMX−300、Chemagnetics社製、米国)により錠剤のスペクトルを測定し(例えば、使用プローブ;セラミックス製、7.5mmプローブ、コンタクトタイム;9msec、パルス繰り返し時間;38sec、試料回転数;5kHz)、得られたスペクトルをデータ処理(例えば、指数関数ウィンドウ、ブロードニングファクター;30Hz、台形ウィンドウ;t1=0、t2=0、t3=0.5、t4=0.6)する。また、コハク酸ソリフェナシンの結晶体と予めコハク酸ソリフェナシン水溶液をスプレードライ法により調製した非晶質体を種々の割合で混合し、乳糖を内部標準物質としてコハク酸ソリフェナシン結晶体のピーク高さ比を求めて検量線を作成しておく。錠剤から得られたスペクトルのコハク酸ソリフェナシン結晶体のピーク高さ比をこの検量線に内挿してコハク酸ソリフェナシンの結晶体含有量及び非晶質体含有量を求めることが可能である。
【0031】
本発明にいう「固形製剤用組成物」とは、非晶質体含有量が製品の安定性に影響を与えない範囲内であることによりソリフェナシンまたはその塩の経時的分解を抑制する固形製剤用医薬組成物であれば特に限定はなく、錠剤、丸剤、粉末剤、顆粒剤、カプセル剤などの経口、非経口製剤用の組成物を意味する。
【0032】
本発明にいう「ソリフェナシンまたはその塩の非晶質体及び結晶体をそれぞれ含有し、その非晶質体含有量が製品の安定性に影響を与えない範囲内であるソリフェナシンまたはその塩の混合物」とは、ソリフェナシンまたはその塩の非晶質体を必ず含有し、さらにその非晶質体含有量が製品の安定性に影響を与えない範囲内である、ソリフェナシンまたはその塩の経時的分解を抑制する非晶質体と結晶体の混合物を意味する。
【0033】
本発明固形製剤用組成物に対しての、ソリフェナシンまたはその塩の配合量は、投与単位製剤当たりの有効量を含有していれば良い。
「ソリフェナシンまたはその塩の結晶体を含有し、ソリフェナシンまたはその塩の非晶質体含有量が製品の安定性に影響を与えない範囲内であるソリフェナシン又はその塩の固形製剤用組成物」を製造する方法とは、ソリフェナシンまたはその塩が非晶質化する溶媒を用いないで製造する方法、またはソリフェナシンまたはその塩が非晶質化する溶媒に溶解し非晶質体を生成する過程において溶媒との接触を低減し、非晶質体含有量が製品の安定性に影響を与えない範囲内になる方法、または生成した非晶質体含有量が製品の安定性に影響を与えない範囲内以上含む組成物を製造中または製造後に加温及び/または加湿処理することにより非晶質含有量が製品の安定性に影響を与えない範囲内になる方法であれば装置、手段とも特に制限されない。
【0034】
ソリフェナシンまたはその塩の非晶質体含有量が製品の安定性に影響を与えない範囲内になるような製造条件下としては様々な製造条件が考えられるが具体的には、その一つとして製造条件下が、ソリフェナシン又はその塩を非晶質化させる溶媒を用いないで製造されること特徴とするものが挙げられる。ここでいう、「非晶質化させる溶媒を用いないで製造」とは、製造法上で溶媒を使用せずにソリフェナシンまたはその塩と適当な添加剤を混合後に必要により圧縮成形し錠剤を得る直接打錠法による製造方法がある。また、溶媒を添加する工程を含む場合は、溶媒1mLに対してソリフェナシン又はその塩の溶ける量が0.1mg未満であるソリフェナシンまたはその塩が非晶質化しにくい溶媒、例えばアセトン、ヘキサン又はその混合物などの溶媒を用いて湿式造粒する方法など挙げられる。
【0035】
一方、製造条件下が、ソリフェナシン又はその塩を非晶質化させる溶媒を添加する製造工程において、ソリフェナシン又はその塩が非晶質化する方法により製造する場合には、製造工程で使用される水などの溶媒の添加量や添加速度を低減し、製造が可能な製造条件で製造すること、および得られた顆粒が目的とする品質を確保できる製造条件で製造することにより、非晶質体含有量を製品の安定化に影響の与えない範囲内にすることが出来、安定なソリフェナシン又はその塩の固形製剤用組成物を製造することが可能になる。ここでいう、非晶質化させる溶媒とは、溶媒1mLに対してソリフェナシン又はその塩の溶ける量が10mg以上である溶媒をいい、例えば水、メタノール若しくはエタノール又はこれらの混合物を指し、より好ましくは水である。具体的には、固形製剤用組成物の製造において、例えば結合剤を溶解した水溶液を結合液としてソリフェナシンまたはその塩を含む粉体に噴霧する工程において、結合液噴霧中の顆粒の水分値が一定以下になるように水分調整して造粒した該造粒物を含むように製造すればよく、好ましくは、結合液噴霧中または噴霧後の顆粒の水分値が9%以下であり、より好ましくは6%以下であり、特に好ましくは、5%以下であり、最も好ましくは4%以下である。
【0036】
また、上記製造法によらず通常の湿式造粒法でソリフェナシンまたはその塩の非晶質体含有量が77%以上の組成物が製造された場合においても、該組成物を結晶化促進処理することにより、ソリフェナシンまたはその塩の非晶質体含有量が製品の安定性に影響を与えない範囲内の組成物を得ることが可能である。ここでいう、結晶化促進処理とはソリフェナシンまたはその塩の非晶質体の結晶化を促進する方法であれば特に制限は無いが、例えば加温及び/または加湿処理、マイクロ波照射処理、低周波照射処理、超音波照射処理、熱電子照射処理などが挙げられる。加温及び/または加湿処理する方法としては恒温恒湿器中で例えば25℃75%RH条件下で1週間静置後再乾燥する方法等挙げられるが、組成物を均一に加温及び/または加湿処理できる方法であれば、装置、手段とも特に制限されない。また、マイクロ波照射処理としては、例えば10MHz〜25GHzの波長のものが使用できる。また処理時間は初期の結晶化の程度および選択基剤に依存するが、上述の波長の照射を例えば10秒から60分行うことをいう。照射自体は連続で行っても断続して実施してもよい。また、これらの結晶化促進処理を行う時期については、安定なソリフェナシン又はその塩の固形製剤用組成物が得ることができる時期であれば特に制限されず、具体的には、ソリフェナシン又はその塩の造粒物製造後や固形製剤用組成物の製造後に行うことが挙げられる。
【0037】
製造方法としては例えばソリフェナシンまたはその塩と適当な添加剤を混合後に必要により圧縮成形し錠剤を得る直接打錠法、ソリフェナシンまたはその塩と適当な添加剤を混合後に結合剤液を噴霧し造粒する湿式造粒法、ソリフェナシンまたはその塩と適当な低融点物質を混合後に加温し造粒する溶融造粒法などが挙げられる。ただしソリフェナシンまたはその塩は凝集性が強く、直接打錠法では含量均一性の確保が難しく、さらに打錠時に杵への付着が見られること、また溶融造粒法においては低融点物質の溶解量の制御が難しいことから本発明における製造法としては湿式造粒法が好ましい。
【0038】
湿式造粒法の例としてはソリフェナシンまたはその塩を粉砕機で粉砕後、賦形剤や崩壊剤等の製薬学的に許容される添加剤と混合し、この混合品に結合剤溶液を造粒機中で噴霧造粒し、更に滑沢剤を混合した後に圧縮成形し錠剤を得る方法等が挙げられる。この方法では結合剤液を噴霧造粒する工程においてソリフェナシンまたはその塩の結晶品は噴霧された結合剤液に溶解しその後乾燥することにより非晶質品を生成すると考えられ、造粒における結合剤液の噴霧速度を減少させるか、結合剤液の総量を減少させるか、吸気温度を高くする等でソリフェナシンまたはその塩の結合剤液への溶解を低減させ、その結果非晶質品の生成を低減させた固形用医薬組成物を供給することが可能である。
【0039】
好ましい結合剤の噴霧速度は、製造方法または製造するスケールにより異なるが、流動層造粒法により5kgスケールにより製造するとき40〜100g/minであり、さらに好ましくは、50〜80g/minである。また、好ましい結合剤の総量は、製造方法または製造するスケールにより異なるが、流動層造粒法により5kgスケールにより製造するとき1,000〜2,500gであり、さらに好ましくは、1,500〜2,200gである。また、好ましい吸気温度は、製造方法または製造するスケールにより異なるが、流動層造粒法により5kgスケールにより製造するとき50〜80℃であり、さらに好ましくは、60〜80℃である。
【0040】
粉砕機は例えばハンマーミル、ボールミル、ジェット粉砕機、コロイドミルなどが挙げられるが、通常製薬学的に粉砕できる方法であれば、装置、手段とも特に制限されない。
粉砕に連続した各成分の混合装置としては、例えばV型混合機、リボン型混合機、コンテナミキサー、高速攪拌混合機などが挙げられるが、通常製薬学的に各成分を均一に混合できる方法であれば、装置、手段とも特に制限されない。
【0041】
造粒装置(方法)としては、例えば、高速攪拌造粒法、流動層造粒法、押し出し造粒法、転動造粒法などが挙げられるが、結合剤溶液を用いて造粒できる方法であれば、装置、手段とも特に制限されない。
【0042】
打錠装置としては、例えばロータリー打錠機、単発打錠機などが挙げられるが、通常製薬学的に圧縮成型物(好適には錠剤)が製造される方法であれば、装置、手段とも特に制限されない。
【0043】
湿式造粒法に用いる結合剤としてはヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられるが、通常製薬学的に許容される粉体結合力を持つ結合剤であれば特に制限されない。
【0044】
かかる結合剤の使用量としては、通常製薬学的に許容される造粒物が得られる量であれば特に制限されないが、通常製剤単位当たり0.5〜50重量%であり、好適には製剤単位当たり0.5〜10重量%であり、更に好適には2〜5重量%である。
【0045】
本発明の固形製剤用医薬組成物には、さらに各種医薬賦形剤が適宜使用され、製剤化される。かかる医薬賦形剤としては、製薬的に許容され、かつ薬理的に許容されるものであれば特に制限されない。例えば、結合剤、崩壊剤、酸味料、発泡剤、人工甘味料、香料、滑沢剤、着色剤、安定化剤、緩衝剤、抗酸化剤、界面活性剤などが使用される。例えば結合剤としては、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース、アラビアゴムなどが挙げられる。崩壊剤としては、例えばトウモロコシデンプン、バレイショデンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウムなどが挙げられる。酸味料としては、例えばクエン酸、酒石酸、リンゴ酸などが挙げられる。発泡剤としては、例えば重曹などが挙げられる。人工甘味料としては、例えばサッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、アスパルテーム、ステビア、ソーマチンなどが挙げられる。香料としては、例えばレモン、レモンライム、オレンジ、メントールなどが挙げられる。滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、タルク、ステアリン酸などが挙げられる。着色剤としては、例えば黄色三二酸化鉄、赤色三二酸化鉄、食用黄色4号、5号、食用赤色3号、102号、食用青色3号などが挙げられる。緩衝剤としては、クエン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、アスコルビン酸またはその塩類、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、アスパラギン酸、アラニン、アルギニンまたはその塩類、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、リン酸、ホウ酸またはその塩類などが挙げられる。抗酸化剤としては、例えばアスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピルなどが挙げられる。界面活性剤としては、例えばポリソルベート80、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられる。医薬賦形剤としては、1種または2種以上組合せて適宜適量添加することができる。
【0046】
また、「非晶質化抑制剤」とは、ソリフェナシンまたはその塩の固形製剤用組成物の調製において溶媒を使用した際にソリフェナシンまたはその塩が溶媒に溶解し乾燥等で固形化した際に非晶質が生成するのを抑制する物質のことを意味する。
【0047】
この非晶質化抑制剤としては、酸化エチレン鎖を有する物質が好ましい。ここでいう酸化エチレン鎖を有する物質は、酸化エチレン鎖を有していれば特に限定はないが、その添加によりソリフェナシンまたはその塩の非晶質化を抑制する本発明の目的を達成するものである限り、その分子量種、重合度等には特に限定はないが、分子量種では平均分子量が400〜1,000,000の範囲が好ましく、さらに、好ましくは平均分子量が2,000〜200,000の範囲である。酸化エチレン鎖を有する物質は2種類のものを混合して用いても良い。本発明において、酸化エチレン鎖をもつ物質として具体的には、PEG、ポリエチレンオキサイド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(以下、HCOと略す)、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等が挙げられるが、これらの中でも本発明においては、特にPEG、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー又はHCOが好ましく、更にPEGが好ましい。
【0048】
本発明のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーとは、酸化プロピレンと酸化エチレンの共重合物であり、その組成比により種々のものが存在するが、ソリフェナシン又はその塩の非晶質化を抑制する性質を有する組成比のものであればよい。具体的には、ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコール及びポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール(別名プルロニックF68)などが使用される。
【0049】
非晶質化抑制剤の配合量としては、好ましくは製剤全体に対し0.1〜90重量%であり、さらに好ましくは製剤全体に対し1〜60重量%である。PEGを結合剤として精製水に溶解して湿式造粒法に用いる場合は、好ましくは造粒する粉体に対し3〜20重量%であり、さらに好ましくは造粒する粉体に対し4〜10重量%である。また、非晶質化抑制剤の配合量を、結晶体及び非晶質体のソリフェナシンまたはその塩の1重量部に対して考えると、好ましくは0.001〜100,000重量%の割合であり、より好ましくは1〜1,000重量%の割合であり、さらに好ましくは10〜600重量%の割合である。
【0050】
本発明において「含有してなる」とは、主薬であるソリフェナシン又はその塩と非晶質化抑制剤が混じり合っていることを意味しており、ソリフェナシンまたはその塩の非晶質化を防止できるようにソリフェナシンまたはその塩と非晶質化抑制剤が接触し混じり合った状態で分布していることが好ましい。したがって、これら非晶質化抑制剤と主薬であるソリフェナシンまたはその塩のそれぞれが接触せずに又は混じり合わずに局部的に偏在している状態の医薬組成物(例えば、本発明の非晶質化抑制剤(PEG等)がソリフェナシン製剤のコーティング剤として使用された場合のように、非晶質化抑制剤とソリフェナシンまたはその塩が、他の添加剤等を用いた中間層において、物理的に接触しない状態等の医薬組成物)は除かれる。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本発明におけるソリフェナシンまたはその塩の固形製剤用医薬組成物について詳細に説明する。以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定解釈されるものではない。
[参考例1]
コハク酸ソリフェナシン60部を水140部に溶解してスプレードライヤー(DL−41,ヤマトサイエンス社製)で噴霧乾燥し、噴霧乾燥品を得た。
【0052】
得られたコハク酸ソリフェナシンの噴霧乾燥品の結晶性をX線回折装置(RINT1400、理学電機)で測定したところハローピークが確認され非晶質になっていることが確認された。
<結晶品と非晶質品の保存安定性>
噴霧乾燥前の結晶品と非晶質品の保存安定性結果を表1に示す。経時保存後の分解物量は高速液体クロマトグラフ法により測定し、得られた個々の分解物量のうちの最大値を示す。非晶質品は、保存開始後短期間でコハク酸ソリフェナシンの分解物が生じ、結晶品よりも保存安定性が劣っていた。従って、主薬経時的分解の主たる原因は、製剤の製造過程において生成する非晶質のコハク酸ソリフェナシンであることが推測された。
コハク酸ソリフェナシンの結晶品と非晶質品の保存安定性結果
保存条件:40℃75%RH
包装形態:ガラスバイアル
試験項目:類縁物質(個々の最大値)
【0053】
【表1】

【実施例1】
【0054】
ヒドロキシルプロピルメチルセルロース2910 204部を水1,836部にエアーモーター攪拌機(AM−GC−1,中央理科社製)を用いて攪拌溶解して結合液(濃度10.0%W/V)を調製した。つぎに、コハク酸ソリフェナシン340部と乳糖1,360部を混合し更にハンマーミル(サンプルミル AP−S、1mmスクリーン使用、ホソカワミクロン社製)で粉砕した。この混合粉砕品に乳糖2,125部及びトウモロコシデンプン1,020部を加えて流動層造粒機(WSG−5、パウレック社製)に仕込み、吸気温度65℃、流動空気量4m/min、結合液噴霧速度75g/min、噴霧空気圧1.5kg/cm、スプレー/シェーキングのサイクルを30秒/10秒で、前記結合液を噴霧することにより造粒した。結合液全量を噴霧したときの顆粒中の水分は3.9%であった。造粒後、この造粒物を吸気温度50℃で10分間乾燥し、本発明の造粒物を得た。この乾燥した造粒物1,188部にステアリン酸マグネシウム12部を添加し混合機(DC型、山之内社製)で混合した後、この混合物をロータリー打錠機(HT P−22、畑鉄工所製)を用い、7.5mmφの杵により打錠圧約700kgf/杵、錠剤重量150mgで打錠した。さらにこの錠剤800部をヒドロキシプロピルメチルセルロース84.3部、マクロゴール6000 15.8部、タルク25.3部、酸化チタン10.5部、赤色三二酸化鉄0.03部を1223部に溶解/分散させた液で通気式コーティング機(ハイコーターHCT−30、フロイント産業社製)を用いて、吸気温度60℃、パン回転数13rpm、コーティング液供給速度5g/minでコーティング成分が錠剤重量の2.7%になるまでスプレーコーティングし、本発明のフィルムコート錠を得た。
【実施例2】
【0055】
流動層造粒機での造粒条件を吸気温度65℃、流動空気量4m/min、結合液噴霧速度75g/min、噴霧空気圧0.7kg/cm、スプレー/シェーキングのサイクルを30秒/10秒で、前記結合液を噴霧することにより造粒した。結合液全量を噴霧したときの顆粒中の水分は5.5%であった。造粒後、実施例1に記載された方法により本発明のフィルムコート錠を得た。
【実施例3】
【0056】
流動層造粒機での造粒条件を吸気温度65℃、流動空気量4m/min、結合液噴霧速度95g/min、噴霧空気圧1.5kg/cm、スプレー/シェーキングのサイクルを30秒/10秒で、前記結合液を噴霧することにより造粒した。結合液全量を噴霧したときの顆粒中の水分は5.7%であった。造粒後、実施例1に記載された方法により本発明のフィルムコート錠を得た。
【実施例4】
【0057】
流動層造粒機での造粒条件を吸気温度55℃、流動空気量4m/min、結合液噴霧速度75g/min、噴霧空気圧1.5kg/cm、スプレー/シェーキングのサイクルを30秒/10秒で、前記結合液を噴霧することにより造粒した。結合液全量を噴霧したときの顆粒中の水分は8.4%であった。造粒後、実施例1に記載された方法により本発明のフィルムコート錠を得た。
[比較例1]
流動層造粒機での造粒条件を吸気温度65℃、流動空気量4m/min、結合液噴霧速度115g/min、噴霧空気圧1.5kg/cm、スプレー/シェーキングのサイクルを30秒/10秒で、前記結合液を噴霧することにより造粒した。結合液全量を噴霧したときの顆粒中の水分は10.6%であった。造粒後、実施例1に記載された方法により本発明のフィルムコート錠を得た。
[比較例2]
流動層造粒機での造粒条件を吸気温度65℃、流動空気量3m/min、結合液噴霧速度75g/min、噴霧空気圧1.5kg/cm、スプレー/シェーキングのサイクルを30秒/10秒で、前記結合液を噴霧することにより造粒した。結合液全量を噴霧したときの顆粒中の水分は10.6%であった。造粒後、実施例1に記載された方法により本発明のフィルムコート錠を得た。
[比較例3]
流動層造粒機での造粒条件を吸気温度45℃、流動空気量4m/min、結合液噴霧速度75g/min、噴霧空気圧1.5kg/cm、スプレー/シェーキングのサイクルを30秒/10秒で、前記結合液を噴霧することにより造粒した。結合液全量を噴霧したときの顆粒中の水分は10.8%であった。造粒後、実施例1に記載された方法により本発明のフィルムコート錠を得た。
<造粒時の顆粒水分と錠剤中のコハク酸ソリフェナシンの非晶質体含有量及び経時保存後の分解物量の測定>
造粒中の製造条件を変えて製造したときの結合液噴霧後の顆粒水分値、コハク酸ソリフェナシンの非晶質体含有量及び40℃75%RHボトル密栓条件下における6ヶ月間の安定性予備試験の測定結果を表2に示す。結合液噴霧後の顆粒水分は乾燥減量法(80℃、2時間)で測定した値を示し、コハク酸ソリフェナシンの非晶質体含有量は近赤外分光法により測定した値を示す。近赤外分光法測定はフーリエ変換近赤外分光器(Vector 22/N、Bruker Optik GmbH、ドイツ)によりスペクトルを測定し(測定範囲;10000cm−1〜4000cm−1、分解能;2cm−1、スキャン回数;126回)、得られたスペクトルを2次微分し(Savitzky−Gollay convolution method)、近赤外スペクトル解析ソフトウェア(OPUS、Bruker Optik GmbH、ドイツ)を用いて解析した。錠剤のスペクトル測定前にコハク酸ソリフェナシンの結晶体と予めコハク酸ソリフェナシン水溶液をスプレードライ法により調製した非晶質体を種々の割合で混合した調製品のスペクトルを部分最小二乗法により回帰分析し検量線を作成し、錠剤から得られたスペクトルをこの検量線に内挿してコハク酸ソリフェナシンの非晶質体含有量を求めた。また、40℃75%RHボトル密栓条件下における6ヶ月保存後の分解物量は、高速液体クロマトグラフ法により測定した。これにより得られた個々の分解物量のうち、主分解物(F1)生成量のコハク酸ソリフェナシン及びその分解物の総量に対する割合を示す。このF1の生成量の割合を指標として、コハク酸ソリフェナシンの安定性を調べた。
【0058】
コハク酸ソリフェナシン10mg錠の造粒時顆粒水分、錠剤中非晶質体含有量および安定性予試験結果(6ヶ月間)
【0059】
【表2】

【0060】
*1:近赤外分光法により測定。
*2:コハク酸ソリフェナシン及びその分解物の総量に対するコハク酸ソリフェナシンの主分解物の割合。
【0061】
表2に示すように、各種製造条件で製造した10mg錠は造粒中の顆粒水分が異なり、全体的に顆粒水分の値が少ないほど錠剤中の非晶質含有量は低くなっている。
一般的な製造方法である比較例1〜3では、造粒において結合液噴霧後の顆粒水分が実施例と比較すると多いため、ソリフェナシンの非晶質体含有量が90%以上と多くなり、また、コハク酸ソリフェナシン及びその分解物の総量に対する主分解物F1生成量が0.4%を超える。このことは、経時的に安定なソリフェナシンまたはその塩の固形製剤用組成物を臨床現場に提供するにあたり大きな課題があることを示している。
【0062】
一方、実施例1〜4のように顆粒水分が少なくなるように制御した場合の非晶質体含有量は77%以下であり、コハク酸ソリフェナシン及びその分解物の総量に対する主分解物F1生成量は0.4%以下であった。
【0063】
よって、ソリフェナシン又はその塩を含有する製剤において、非晶質体含有量を77%以下に制御することにより、経時的に安定なソリフェナシン製剤を提供することができる。
【実施例5】
【0064】
PEG(商品名マクロゴール6000、三洋化成製)270部を水1,080部にエアーモーター攪拌機(AM−GC−1,中央理科社製)を用いて攪拌溶解して結合液(濃度20.0%W/V)を調製した。つぎに、コハク酸ソリフェナシン90部と乳糖(商品名乳糖200M,DMV社製)360部を混合し更にハンマーミル(サンプルミル AP−S、1mmスクリーン使用、ホソカワミクロン社製)で粉砕した。この混合粉砕品に乳糖3,906部及び結晶セルロース(商品名アビセルPH102,旭化成製)を加えて流動層造粒機(WSG−5、パウレック社製)に仕込み、吸気温度70℃、結合液噴霧速度100g/min、噴霧空気圧1.5kg/cm、スプレー/シェーキングのサイクルを30秒/10秒で、前記結合液を噴霧することにより造粒した。造粒後、この造粒物を吸気温度70℃で10分間乾燥し、本発明の造粒物を得た。この乾燥した造粒物1,188部にステアリン酸マグネシウム(NOF社製)12部を添加し混合機(DC型、山之内社製)で混合した後、この混合物をロータリー打錠機(HT P−22、畑鉄工所製)を用い、5.5mmφの杵により打錠圧約500kgf/杵、錠剤重量60mgで打錠した。さらにこの錠剤900部をHPMC2910(商品名TC−5R,信越化学製)18.6部、PEG(商品名マクロゴール6000、三洋化成製)3.5部、タルク(キハラ化成製)5.6部、酸化チタン(フロイント産業製)2.3部、黄色三二酸化鉄(葵巳化成製0.05部を水270部に溶解/分散させた液で通気式コーティング機(ハイコーターHCT−30、フロイント産業社製)を用いて、吸気温度60℃、パン回転数13rpm、コーティング液供給速度5g/minでコーティング成分が錠剤重量の3.3%になるまでスプレーコーティングし、本発明のフィルムコート錠を得た。
[比較例4]
HPMC2910(商品名TC−5R,信越化学製)180部を水1,620部にエアーモーター攪拌機(AM−GC−1,中央理科社製)を用いて攪拌溶解して結合液(濃度10.0%W/V)を調製した。つぎに、コハク酸ソリフェナシン75部と乳糖300部を混合し更にハンマーミル(サンプルミル AP−S、1mmスクリーン使用、ホソカワミクロン社製)で粉砕した。この混合粉砕品に乳糖2,700部及びトウモロコシデンプン(日本食品製)900部を加えて流動層造粒機(WSG−5、パウレック社製)に仕込み、吸気温度60℃、結合液噴霧速度75g/min、噴霧空気圧1.5kg/cm、スプレー/シェーキングのサイクルを30秒/10秒で、前記結合液を噴霧することにより造粒した。造粒後、この造粒物を吸気温度60℃で10分間乾燥し、本発明の造粒物を得た。この乾燥した造粒物1,188部にステアリン酸マグネシウム(NOF製)12部を添加し混合機(DC型、山之内社製)で混合した後、この混合物をロータリー打錠機(HT P−22、畑鉄工所製)を用い、5.5mmφの杵により打錠圧約500kgf/杵、錠剤重量60mgで打錠した。さらにこの錠剤900部を実施例5に示した方法でコーティングし、本発明のフィルムコート錠を得た。
[比較例5]
トウモロコシデンプン(日本食品製)108部を水2,592部に加え,80℃まで加温しながら溶解後室温に冷却し結合液を調製した。つぎに、コハク酸ソリフェナシン90部と乳糖360部を混合し更にハンマーミル(サンプルミルAP−S、1mmスクリーン使用、ホソカワミクロン社製)で粉砕した。この混合粉砕品に乳糖3,708部及びトウモロコシデンプン1,080部を加えて流動層造粒機(WSG−5、パウレック社製)に仕込み、吸気温度70℃、結合液噴霧速度90g/min、噴霧空気圧1.5kg/cm、スプレー/シェーキングのサイクルを30秒/10秒で、前記結合液を噴霧することにより造粒した。造粒後、この造粒物を吸気温度70℃で10分間乾燥し、本発明の造粒物を得た。この乾燥した造粒物129部にステアリン酸マグネシウム13部を添加し混合機(DC型、山之内社製)で混合した後、この混合物をロータリー打錠機(HT P−22、畑鉄工所製)を用い、5.5mmφの杵により打錠圧約500kgf/杵、錠剤重量60mgで打錠した。さらにこの錠剤800部を実施例5に示した方法でコーティングし、本発明のフィルムコート錠を得た。
<ソリフェナシンの湿式造粒法で製した製剤の安定性予試験結果>
造粒に用いる結合剤を変えて製造した、コハク酸ソリフェナシンの錠剤における安定性予試験結果(25℃、60%RH条件)を表3に示す。
【0065】
HPMCを用いて製した比較例4に示される錠剤では十分な安定化が得られず、また、他の結合剤の種類を検討しても、比較例5に示すようにデンプンでは改善されなかった。一方、実施例5に示すようにPEGを使用することによって安定性は改善され、25℃、60%RH条件より過酷な温湿度条件化においてもソリフェナシン製剤の安定性を維持できることが示唆された。
コハク酸ソリフェナシン錠の安定性予試験結果
保存条件:25℃60%RH
包装形態:金属キャップ付HDPE bottle包装
試験項目:類縁物質(主分解物F1生成量)
【0066】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の技術的な特徴とするところは、ソリフェナシン又はその塩を含有する製剤において、その非晶質体が主薬経時的分解の原因であることをつきとめた点にあり、非晶質体含有量を一定量以下の製剤にすることにより安定なソリフェナシン又はその塩の固形製剤を提供することが初めて可能となった点に産業上の顕著な効果を有する。また、ソリフェナシン又はその塩を含有する製剤において、非晶質化抑制剤を含有させることにより安定な固形用医薬組成物を提供することが可能となった点に産業上の顕著な効果を有する。
【0068】
従って、本発明は頻尿・尿失禁の優れた医薬品としての開発が切望されているソリフェナシンまたはその塩の安定な固形製剤用組成物の提供を可能にする技術として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コハク酸ソリフェナシンの結晶体とコハク酸ソリフェナシンの非晶質体とを含有し、結晶体と非晶質体の合計量に対する非晶質体含有量が0%より大きく、かつ77%以下である、安定な錠剤。
【請求項2】
結晶体と非晶質体の合計量に対する非晶質体含有量が63%以下である、請求項1に記載の錠剤。
【請求項3】
コハク酸ソリフェナシンの分解が抑制された、請求項1又は請求項2に記載の錠剤。
【請求項4】
溶媒1mLに対してコハク酸ソリフェナシンの溶ける量が0.1mg未満である溶媒を用いて湿式造粒することを含む方法よって製造される、請求項1に記載の錠剤。
【請求項5】
前記溶媒がアセトン、ヘキサン又はそれらの混合物である、請求項4に記載の錠剤。
【請求項6】
溶媒1mLに対してコハク酸ソリフェナシンの溶ける量が10mg以上である溶媒を用いて湿式造粒することを含む方法よって製造される、請求項1に記載の錠剤。
【請求項7】
前記溶媒が水、メタノール、エタノール又はそれらの混合物である、請求項6に記載の錠剤。
【請求項8】
コハク酸ソリフェナシンを湿式造粒する工程、及び
該工程で生成した非晶質体のコハク酸ソリフェナシンの結晶化を促進処理する工程、を含む方法によって製造される、請求項1に記載の錠剤。
【請求項9】
非晶質体のコハク酸ソリフェナシンの結晶化を促進処理する工程が、加温及び/または加湿処理、マイクロ波照射処理、低周波照射処理、超音波照射処理、及び熱電子照射処理からなる群より選択される1種または2種以上である、請求項8に記載の錠剤。
【請求項10】
コハク酸ソリフェナシンと任意の添加物を混合すること、及び
結合剤水溶液を噴霧し、結合剤水溶液噴霧中の造粒物の水分値が9%以下になるように水分を調整して造粒すること、を含む方法よって製造される、
コハク酸ソリフェナシンの結晶体とコハク酸ソリフェナシンの非晶質体とを含有し、結晶体と非晶質体の合計量に対する非晶質体含有量が0%より大きく、かつ77%以下である、安定な錠剤。

【公開番号】特開2013−40193(P2013−40193A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−229790(P2012−229790)
【出願日】平成24年10月17日(2012.10.17)
【分割の表示】特願2006−511497(P2006−511497)の分割
【原出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】