説明

ソレノイド及びソレノイドの製造方法

【課題】 小形ソレノイド(短ストローク)であって、吸引力(出力)を向上させ、かつソレノイドの磁気特性を向上させることにある。
【解決手段】 ヨーク部と固定鉄心部とを一体に形成すると共に、固定鉄心部の先端の吸着面を、固定鉄心部の中央位置に長手方向に沿って形成した所定幅の溝と、この溝の先端から被吸着面へ向かって左右均等角度で拡がる方向に傾斜する傾斜面とを形成した薄板を所定枚数積層固定してなる固定部材と、この固定部材の固定鉄心部と同等幅で吸着面に向かい合う端面中央に、固定鉄心の溝に見合う溝を有し、この溝中心から左右に拡がる山形形状の傾斜面を形成した薄板を所定枚数積層固定してなる可動鉄心と、固定部材の固定鉄心部の外周へ嵌合し、ヨーク部内側に配置したコイルを巻回してなるボビンとからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁弁等に用いる電磁石装置(ソレノイド)とその製造方法に関し、特に電磁鋼板製薄板を積層してなるソレノイドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から積層方式のソレノイドは種々提案されている。直流ソレノイドにおいて、ソレノイドに電圧を印加してから、プランジャが吸引されてストッパ(固定鉄心)へ衝突して落ち着くまでの現象において、コイルに電流が流れた時、鉄心内部に渦電流が生じて起磁力が打ち消されて磁束の立ち上がりが押えられ、分布が乱される等の問題がある。積層方式のソレノイドとすることで、渦電流の発生を減少させることが知られている。
【0003】
また、積層方式のソレノイドにおいて、固定鉄心とプランジャとの対向面それぞれに、両鉄心の積層面と直交する面で囲まれた相対的な凹突部を設けることにより、対向面を、空隙部を隔てて入合い状に対向させた交流ソレノイドが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】実公昭55−29204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の交流ソレノイドは、第1図において、前述したように、入り合い状に対向させた固定鉄心とプランジャとの対向面は空隙部を有している。これは、対抗面が衝突面でないことを示している。また、図示されているように、T字形状の肩の部分が鉄心へ衝突するように構成されているために、ストローク前の段階において、この肩部分にも空隙ができ、始動時の吸引特性が悪いという欠点がある。
【0005】
本発明は、斯かる従来の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、小形ソレノイド(短ストローク)であって、吸引力(出力)を向上させ、かつソレノイドの磁気特性を向上させることにある。
また、本発明の別の目的は、製造コストを引き下げることが可能な製造方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のソレノイドは、ヨーク部と固定鉄心部とを一体に形成すると共に、固定鉄心部の先端の吸着面を、固定鉄心部の中央位置に長手方向に沿って形成した所定幅の溝と、この溝の先端から被吸着面へ向かって左右均等角度で拡がる方向に傾斜する傾斜面とを形成した薄板を所定枚数積層固定してなる固定部材と、この固定部材の固定鉄心部と同等幅で吸着面に向かい合う端面中央に、固定鉄心部の溝に見合う溝を有し、この溝中心から左右に拡がる山形形状の傾斜面を形成した薄板を所定枚数積層固定してなる可動鉄心と、固定部材の固定鉄心部の外周へ嵌合し、ヨーク部内側に配置したコイルを巻回してなるボビンとからなることを特徴とする。
【0007】
また、ソレノイドの製造方法は、ヨーク部と固定鉄心部とを有し、固定鉄心部の先端の吸着面を、固定鉄心部の中央位置に長手方向に沿って形成した所定幅の溝と、この溝の先端から被吸着面へ向かって左右均等角度で拡がる方向に傾斜する傾斜面とを形成した薄板をプレス加工にて形成する固定部材薄板打ち抜き工程と、固定部材の固定鉄心部と同等幅で吸着面に向かい合う端面中央に、固定鉄心部の溝に見合う溝を有し、この溝中心から左右に拡がる山形形状の傾斜面を形成した薄板をプレス加工にて形成する可動鉄心薄板打ち抜き工程と、打ち抜き加工した固定部材打ち抜き薄板を所定枚数積層固定してなる固定部材積層固着工程と、打ち抜き加工した可動鉄心打ち抜き薄板を所定枚数積層固定してなる可動鉄心積層固着工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ヨーク部と固定鉄心部とを一体形状にし、かつ固定鉄心部の吸着部形状を一緒にプレス加工にて打ち抜き形成し積層固着することによりソレノイドを製造するようにしたので、製造コストを大幅に削減できる。
また、本発明によれば、固定鉄心部の吸着面にガイド溝を設けて、吸着面へ傾斜する傾斜面を形成し、それに対抗する可動鉄心(プランジャー)の被吸着面にも山形形状の傾斜面としたので、短ストロークでも吸着面積を大きくとれ、吸着力を高めることができる。
【0009】
さらに、本発明によれば、ヨーク部と固定鉄心部とを一体形状にしたので、磁気回路に於ける空隙(ヨークと固定鉄心部との連結部分が無くなる)が減少し、性能が向上する。また部品点数が削減できる。
さらにまた、本発明によれば、固定部材および可動鉄心を電磁鋼板で構成することで、プレス加工性が優れており、かつ磁化特性面ですぐれており、直流ソレノイドに適用できる。また材料調達が容易であり、コストダウンが可能である。また積層後の焼鈍が不要になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を図面に示す実施形態に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るソレノイド100を適用した電磁弁1を示す。
図1に示す電磁弁1は、主弁部10と、本実施形態に係るソレノイド100とで構成されている。主弁部10は、公知のものであり、特に限定するものではない。従って、ここでは、ソレノイド100について詳細に説明する。
【0011】
ソレノイド100は、固定部材110と、可動鉄心120と、ボビン130と、コイル140とを有しており、外側に位置する固定部材110の上下面はその外側に配置するカバー150によって位置決めされている。固定部材110は、ボビン130の外側に配置する概略コ字状ヨーク(継鉄)部111と、その中央部に突出する形態の固定鉄心(ステータ)部112とから形成されている。このような構成のソレノイド構造において、固定部材110と可動鉄心120については、図2に示すように、所定形状の薄板を多数枚積層し、一体に固着しており、図示していないが、一般的な金型、例えば順送り金型等の金型により製造される。
【0012】
固定部材110は、ヨーク部111と固定鉄心部112とを有し、固定鉄心部112の先端に位置する可動鉄心120の吸着面112aを、固定鉄心部112の中央位置に長手方向に沿って所定幅で形成してなる溝113と、溝113の先端から可動鉄心120の被吸着面120aに向かって左右均等角度で拡がる方向に傾斜する傾斜面114とを形成した薄板110aをプレス加工にて打ち抜き形成し、それを所定枚数(本実施形態では板厚Tの電磁鋼板をn枚)積層し、かつ固着一体化している。
【0013】
一方、可動鉄心120は、図示されたように、被吸着面120aと反対側に、主弁部10側との連結部121が一体に形成されている。図3、図4に明示されたように、可動鉄心120は、板厚Tの電磁鋼板を5枚ずつ積層してなる2組の略T字形薄板120cの間に、連結部121を一体に形成してなる6枚の薄板120bを積層することによって形成されている。固定鉄心部112側に対向する先端の被吸着面120aは、可動鉄心120の中央位置に長手方向に沿って所定幅で形成してなる溝122と、溝122の先端から両側面へ向かって左右均等角度で拡がる方向に山形形状に傾斜する傾斜面123とを形成してなる。
【0014】
ここで、固定鉄心部112に形成した溝113と可動鉄心120に形成した溝122は、同じ幅に形成されている。また、固定鉄心部112の吸着面112aと可動鉄心120の被吸着面120aとに形成した傾斜面114,123の角度は同じである。
固定部材110と可動鉄心120とは、金型により打ち抜き加工され、さらにダイ内へ抜き込まれて積層されて一体化される。例えば、図5のレイアウト図および図6の金型断面図に示すように、固定部材110と可動鉄心120を1つの金型内で製造する順送り方式の金型によって効率的に製造することができる。
【0015】
この製造方法は、図5に示すように、先ず薄板材料である電磁鋼板Wを所定間隔で送るためのパイロット孔Pの打ち抜き加工(工程1)が行われる。図6におけるP1がそのパンチを示している。続いて、固定部材形状が打ち抜かれる(工程2)。図6におけるパンチP2がパンチであり、打ち抜かれた固定部材薄板110aはダイD1内へ抜き込まれて、先に抜き込まれている薄板と積み重ねられ、外周側に設置された複数のレーザ出射ユニットL1からのレーザ光により外周側面の重ね合わせ部が溶接される。図5において、打ち抜き形状の外周に印した黒点A1が接合点である。この時、プレス機械側(ラム)の上下動、すなわち打ち抜き動作と溶接動作とを同期させることにより効率を向上できる。つまり、上型が最も下降した時(下死点)あるいは最も上昇した時(上死点)にレーザ光を出射させるように構成できる。下型のダイ周囲には同様なレーザ出射ユニットが配置されている。
【0016】
次に、可動鉄心120の外形線の一部の打ち抜き(工程3)が行われる。この工程で可動鉄心120の後端面を形成する外周線のみが前もって打ち抜かれる。
そして、次の工程にて可動鉄心形状が打ち抜かれる(工程4)。この工程においては、図3、図4に明示したように、主弁部10側への連結部121を一体形成した薄板120dと、その上下に配置した連結部を有していない薄板120cとが一体積層固着されているため、この工程4におけるパンチはT字形の本体部打ち抜き部P4aと連結部P4bとが組み合わされて構成されており、しかも連結部パンチP4bは打ち抜き位置と後退位置とに上下に移動可能にしており、PC2がその制御装置である。また、その前工程である工程3においても、パンチP3が同様に打ち抜き位置と後退位置とに上下に移動可能にしており、PC1がその制御装置である。これは可動鉄心120の連結を打ち抜かない時にパンチP3を打ち抜き位置へ前進させ、可動鉄心120の連結部121も含めて工程4で全体が打ち抜かれるときは、パンチP3が後退するように、工程4のパンチP4bの出入りと一緒に制御される。これによって図3に示すような連結部121を有する薄板120bと有さない薄板12120cとが同一金型内へ積層固着していくことができる。同様に、ダイD2の周囲には複数のレーザ出射ユニットL2が設置され、このレーザ出射ユニットL2からのレーザ光により外周側面の重ね合わせ部が溶接される。図5において、打ち抜き形状の外周に印した黒点A2が接合点である。同様に、プレスの上下動に同期作動される。この例では、先ずn1枚だけパンチP4bを後退させ、パンチP3を前進させて打ち抜き、パンチP4a形状が打ち抜かれて積層一体化される。次に、n1枚打ち抜かれると、パンチP3が後退し、かつパンチP4bが打ち抜き位置へ前進して、工程4において連結部121を含めた全体がn2枚打ち抜かれる。所定枚数が抜き終わると、再びパンチP3が打ち抜き位置へ前進、パンチP4bが後退して、本体部のみがn3枚打ち抜かれ積層される。
【0017】
所定枚数が積層一体化され、次の薄板が打ち抜かれた時、レーザ出射ユニットL2からのレーザ光を1回出射させず、ここで1個分の可動鉄心120が製品として分離される。この点は、工程2においても固定部材110が同様に製造される。
図6において、LC1、LC2はいずれもレーザ発振器を含めた制御装置である。また、Bcは製品を搬出するコンベア装置を示している。
【0018】
このように構成することで、プレス加工によりソレノイドを構成する固定部材110と可動鉄心120とを、効率的に製造することができる。
本実施形態では、積層固着方法について、固定部材(ヨーク部と固定鉄心部)110と、可動鉄心(プランジャー)120とを、所定枚数の電磁鋼板製薄板を積層し、各薄板間の固着化手段としてレーザ溶接による方法について説明したが、本発明はこれに限らず、例えば、かしめ、接着等、従来からの方法を適宜選択することができる。この場合、説明したように、金型内で積層と同時に行っても良いし、場合によっては金型外で積層固着することでも、同様に本発明技術を達成することが可能である。また、順送り金型によらず、夫々固定部材110、可動鉄心120を別個に金型にて製造することも容易に行える。
【0019】
また、本実施形態では、薄板材料として電磁鋼板Wを用いた。特に、ソレノイドのプランジャー(可動鉄心)120において、渦電流の発生を少なくするには、積層方式にして、かつ固有抵抗(電気抵抗)の高い材料を用いることが必要なことが知られている。このことを考慮して、プレス加工性から、電磁鋼板をソレノイドの構成要素であるヨーク部111、固定鉄心部112からなる固定部材110と、プランジャーである可動鉄心120として電磁鋼板を用いることを採用した。
【0020】
また、本実施形態では、所定幅の溝113と、溝113の途中から被吸着面120aに向かって左右均等角度で拡がる方向に傾斜する傾斜面114とからなる吸着面112aを固定鉄心部112の先端に形成し、それに対向する可動鉄心120の被吸着面120aにも、同様に中央部に所定幅の溝122を形成し、先端から両側面側へ広がる方向に山形形状に傾斜する傾斜面123を形成した。傾斜面114と傾斜面123の角度は、応答性、吸着力、ストローク等、実際の仕様に応じて設定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係るソレノイドを適用した電磁弁の正面断面図である。
【図2】図1のソレノイドの構成要素である固定部材と可動鉄心の斜視図である。
【図3】図1の可動鉄心の積層状態を示す斜視図である。
【図4】図1の可動鉄心の積層状態を分離した斜視図である。
【図5】図1の固定部材と可動鉄心を1つの金型で製造するプレス加工例のレイアウト図である。
【図6】図5のレイアウトに沿った金型の断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 電磁弁
10 主弁部
100 ソレノイド
110 固定部材
110a,120b,120c 薄板
111 ヨーク部
112 固定鉄心部
112a 吸着面
113,122 溝
114,123 傾斜面
120 可動鉄心
120a 被吸着面
121 連結部
130 ボビン
140 コイル
150 カバー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨーク部と固定鉄心部とを一体に形成すると共に、前記固定鉄心部の先端の吸着面を、前記固定鉄心部の中央位置に長手方向に沿って形成した所定幅の溝と、該溝の先端から被吸着面へ向かって左右均等角度で拡がる方向に傾斜する傾斜面とを形成した薄板を所定枚数積層固定してなる固定部材と、
前記固定部材の固定鉄心部と同等幅で吸着面に向かい合う端面中央に、前記固定鉄心部の溝に見合う溝と、該溝中心から左右に拡がる山形形状の傾斜面とを有する被吸着面を形成した薄板を所定枚数積層固定してなる可動鉄心と、
前記固定部材の固定鉄心部の外周へ嵌合し、前記ヨーク部の内側に配置したコイルを巻回してなるボビンとからなる
ことを特徴とするソレノイド。
【請求項2】
前記可動鉄心が概略T字形状で、後端側が前記固定部材のヨーク部内に所定空隙で収容される大きさの幅を有することを特徴とする請求項1に記載のソレノイド。
【請求項3】
前記可動鉄心は、前記薄板の一部枚数のみの後端に主弁部への連結部が一体に形成してなることを特徴とする請求項2に記載のソレノイド。
【請求項4】
前記固定部材および前記可動鉄心を、電磁鋼板による薄板で形成してなることを特徴とする請求項1に記載のソレノイド。
【請求項5】
ヨーク部と固定鉄心部とを有し、前記固定鉄心部の先端の吸着面を、前記固定鉄心部の中央位置に長手方向に沿って形成した所定幅の溝と、前記溝の先端から被吸着面へ向かって左右均等角度で拡がる方向に傾斜する傾斜面とを形成した薄板をプレス加工にて形成する固定部材薄板打ち抜き工程と、
前記固定部材の固定鉄心部と同等幅で吸着面に向かい合う端面中央に、前記固定鉄心部の溝に見合う溝を有し、該溝中心から左右に拡がる山形形状の傾斜面を形成した薄板をプレス加工にて形成する可動鉄心薄板打ち抜き工程と、
打ち抜き加工した固定部材打ち抜き薄板を所定枚数積層固定してなる固定部材積層固着工程と、
打ち抜き加工した可動鉄心打ち抜き薄板を所定枚数積層固定してなる可動鉄心積層固着工程とを有する
ことを特徴とするソレノイドの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のソレノイドの製造方法において、前記固定部材薄板打ち抜き工程、前記可動鉄心薄板打ち抜き工程、前記固定部材積層固着工程および前記可動鉄心積層固着工程とを1台の順送り金型によって行うことを特徴とするソレノイドの製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載のソレノイドの製造方法において、前記固定部材薄板打ち抜き工程および前記固定部材積層固着工程と、前記可動鉄心薄板打ち抜き工程および前記可動鉄心積層固着工程とをそれぞれ別の金型によって行うことを特徴とするソレノイドの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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