説明

タイヤ用滑り止め装置

【課題】 タイヤ外周面とタイヤハウス内面間の隙間が低減された乗用車にも装着出来る薄型タイプであって、圧雪路や氷盤上で所定の制動力、駆動力等を発揮すると共に、走行中にスパイクピンが脱落する虞れのない新規なタイヤ用滑り止め装置を提供する。
【解決手段】 芯材3を被覆したゴム製線材4で網目状に形成される厚さ(t1):6.5〜7.5mmのネット状本体1の網目状交差部に、超硬部2bが突出寸法(t2):1.5〜2.5mmとなるようにスパイクピン2を埋設し、合計厚みが8〜10mmの滑り止め装置とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高張力性芯材をゴムで被覆したゴム製線材により網目状に形成されたネット状本体を備え、該ネット状本体をタイヤに巻回状に装着するタイヤ用滑り止め装置に関し、詳しくは、タイヤ外周面とタイヤハウス内面間の隙間が低減された乗用車にも使用可能な薄型のタイヤ用滑り止め装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に開示されるように、高張力性芯材をゴムで被覆したゴム製線材により網目形のネット状本体を形成すると共に、該ネット状本体の網目状交差部に、帯状のスパイク金具を巻回状に固着してなるタイヤ用滑り止め装置が知られている。
【0003】
また、この種非金属製のタイヤ用滑り止め装置は、ゴム製ネット状本体と金属製スパイク金具により、圧雪路や氷盤上で所定の制動力、駆動力等を発揮すると共に、走行中においてスパイク金具の脱落などの異常が発生しないよう、詳しくは、日本自動車交通安全用品協会で定められた規格JASA432及びJASA433が規定する制動性、登坂性、耐久性などの性能基準に適合するよう作製されている。
【0004】
【特許文献1】実開昭63−21109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、デザイン性向上などの為に、タイヤ外周面とタイヤハウス内面間の隙間が低減された乗用車が開発されており、このような乗用車には、従来型の滑り止め装置の装着が困難なため、薄型の滑り止め装置の開発が要望されている。
具体的には、前述した従来型の滑り止め装置は、ネット状本体の厚さ10mm程度、スパイク金具の厚さ3mm程度、全体としての厚さ13〜16mm程度であり、タイヤ外周面とタイヤハウス内面間の隙間が大きい乗用車には問題なく装着して使用出来るが、該隙間が低減され、タイヤ内側のショルダー部分の余剰スペースが15mm程度しかない場合は装着困難であり、仮に装着できたとしても、走行中にネット状本体がタイヤハウス内面や緩衝機構部等に接触する可能性があった。
【0006】
そこで、ネット状本体やスパイク金具の厚さを薄くし、全体の厚さ寸法が10mm以下の滑り止め装置とすることも考えられるが、この場合、制動力、駆動力等が低下したり走行中にスパイク金具が脱落する虞れがあり、単に厚さを薄くするだけでは問題の解決にはならない。
【0007】
本発明はこのような従来事情に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、タイヤ外周面とタイヤハウス内面間の隙間が低減された乗用車にも装着出来る薄型タイプであって、且つ、圧雪路や氷盤上で所定の制動力、駆動力等を発揮すると共に、走行中にスパイクピンが脱落する虞れのない新規なタイヤ用滑り止め装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の目的を達成するために、本発明者等は鋭意研究を続け、高張力性芯材をゴムで被覆したゴム製線材により網目状に形成されたネット状本体の網目状交差部に、帯状スパイク金具を巻回状に固着することに代えて、前記網目状交差部にスパイクピンを埋設し、その埋設条件を以下のように規定することで前述の課題を達成し得ることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係るタイヤ用滑り止め装置は、高張力性芯材をゴムで被覆したゴム製線材により網目状に形成されるネット状本体と、該ネット状本体の網目状交差部に配設されたスパイクピンからなり、前記ネット状本体をタイヤに巻回状に装着するタイヤ用滑り止め装置であって、
前記スパイクピンがシャンクの上端に超硬部を、下端に円形のフランジ部を備えると共に、前記超硬部が前記ネット状本体の接地面から突出するよう前記網目状交差部に埋設され、且つ前記ネット状本体の厚さ寸法(t1)と、前記超硬部の前記ネット状本体からの突出寸法(t2)との合計寸法(t)が8〜10mmであることを特徴とする。
前記合計寸法(t)が10mmを超えると、タイヤ外周面とタイヤハウス内面間の隙間が低減され、タイヤ内側のショルダー部分の余剰スペースが15mm程度しかない乗用車への装着、使用が困難になるので好ましくない。また、同寸法(t)が8mm未満だと、タイヤ用滑り止め装置としての制動力、駆動力等の低減、若しくは走行中におけるスパイクピンの脱落が発生する為好ましくない。
【0010】
薄型のネット状としながら、所定の制動力、駆動力等を発揮すると共に、スパイクピンの脱落を防止するには、ネット状本体の厚さ寸法(t1)が6.5〜7.5mmであり、前記超硬部のネット状本体からの突出寸法(t2)が1.5〜2.5mmであることが好ましい。厚さ(t1)が6.5〜7.5mmの薄型のネット状本体に対し、超硬部の突出寸法(t2)が2.5mmを超えると、制動力,駆動力等は向上するが、超硬部が路面に衝突した際の衝撃が大きくネット状本体が破れてスパイクピンが脱落する虞れがあるので好ましくない。超硬部の突出寸法(t2)が1.5mm未満であると、超硬部が路面に衝突した際の衝撃が小さくスパイクピン脱落の虞れは低減するが、制動力,駆動力等も低減するので好ましくない。
より具体的には、ネット状本体の厚さ寸法(t1)=7mm、スパイクピン超硬部のネット状本体からの突出寸法(t2)=2mm、合計寸法(t)=9mmとした場合、本発明の課題に対し極めて好ましい薄型の滑り止め装置として提供することが出来る。
【0011】
スパイクピンのネット状本体からの脱落を防止する為に、スパイクピン下端のフランジ部に、その周方向に沿って等間隔毎に開口を形成し、該開口内に充填されたゴムにより、ネット状本体とスパイクピンをより強固に一体化させることが好ましい。
また、スパイクピンのネット状本体からの脱落を防止する為に、ネット状本体の網目状交差部において、スパイクピン下端のフランジ部の下方に高張力性芯材を配設し、スパイクピンの超硬部が路面に当たった際の衝撃を高張力性芯材で緩衝するよう構成することが好ましい。
【0012】
ネット状本体自体の制動力、駆動力等を向上させる為に、ゴム製線材が、幅広状のタイヤ面側部の上に幅狭状の接地面側部を備えた断面二段形状に形成され、接地面側部における路面への面圧を高めると共にその左右両縁にエッジ部を備えていることが好ましい。また、このような構成とすることで、ネット状本体におけるタイヤ面側のゴム量が増加され、スパイクピンのネット状本体からの脱落防止をより確実なものとすることが出来る。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るタイヤ用滑り止め装置は以上説明したように構成したので、厚さ10mm以下の薄型ネット状としながら、所定の制動力、駆動力等を発揮すると共に、走行中のスパイクピンの脱落を防止して、タイヤ外周面とタイヤハウス内面間の隙間が低減された乗用車にも使用可能な、新規な薄型の非金属製滑り止め装置として提供することが出来た。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態の一例を図1〜図6を参照しながら説明する。本例の滑り止め装置Aは、ネット状本体1の網目状交差部にスパイクピン2を埋設してなる。
【0015】
ネット状本体1は、高張力性芯材3をゴムで被覆したゴム製線材4により網目状の帯体として形成されると共に、その長手方向両端部にジョイント部5、5を一体に形成し、且つ左右の側縁部に係止金具6、7の引掛け部8、9を一体に形成してあり、タイヤ外周面への装着時にタイヤ裏面側(内側)になる一方の側縁部の引掛け部8には、係止金具6を介して内側締付けロープ10を固定し、且つタイヤ表面側になる他方の引掛け部9には、係止金具7を介して外側締付け環(不図示)を掛け渡すことで、タイヤ外周面に巻回状に装着し得るよう構成されている。
【0016】
ネット状本体1の網目状部分及びジョイント部5を構成するゴム製線材4は、図3、図5に示すように、タイヤ面側になる裏面部(タイヤ面側部)4aが幅広状で、接地面側になる表面部(接地面側部)4bが幅狭状となるよう、断面二段形状に形成されている。これにより、ネット状本体1の表面側(接地面側)において、圧雪路面や氷盤路面に対する面圧が高くなると共に、幅狭状の表面部4bの左右側縁にエッジ部11が形成されるので、ネット状本体1自体の制動力、駆動力等が向上する。また、ネット状本体1の裏面側(タイヤ面側)において、幅広状の裏面部4aによりゴム量が増加されるので、スパイクピン2のネット状本体1からの脱落が防止される。
【0017】
スパイクピン2は、鋼製のシャンク2aの上端部にマカロニ形状の超硬部2bをろう付けすると共に、下端部に円形のフランジ部2cを一体形成したもので、超硬部2bがネット状本体1の接地面から突出するよう網目状交差部に埋設されている。
具体的には、図4に示すように、ネット状本体1の厚さ寸法(t1)が6.5〜7.5mmであるのに対し、超硬部2bのネット状本体1からの突出寸法(t2)との合計(t)が8〜10mmとなるよう、すなわち、超硬部2bのネット状本体1からの突出寸法(t2)が1.5〜2.5mmとなるように埋設されている。
【0018】
また、スパイクピン2のフランジ部2cには、その周方向に沿って等間隔毎に複数、例えば2〜5つ程度の開口12が形成されており、各開口12内に充填された柱状のゴム13により、スパイクピン2とネット状本体1がより強固に一体化されている。
【0019】
また、フランジ部2cの下方には高張力性芯材3が複数本、例えば2本配設されており、超硬部2bが路面に当たった際の衝撃を高張力性芯材3で緩衝するようになっている。
【0020】
以上の構成になる本例の滑り止め装置Aによれば、全体の厚さ(t)が8〜10mmの薄型ネットとしながら、各網目状交差部に埋設したスパイクピン2から所定寸法突出する超硬部2bにより、所定の制動力,駆動力等を得ることが出来る。同時に、ネット状本体1の厚さ寸法(t1)と超硬部2bの突出寸法(t2)を所定の割合とすると共に、スパイクピン2下端に設けたフランジ部2cに開口12を設けてゴム製のネット状本体1と金属製のスパイクピン2とを強固に一体化させ、且つ、フランジ部2cの下方に高張力性芯材3を配して路面当接時の衝撃を緩衝するようにしたので、走行中のスパイクピン2の脱落を防止することが出来る。
【0021】
以下、より詳細な実施例を用いて行った滑り止め性能試験について説明する。
【0022】
(実施例1)
図1〜図6で説明した滑り止め装置Aにおいて、ネット状本体1として、厚さ(t1):7mm、裏面部4aの厚さ(t3):5mm、幅(d1):25mm、表面部4bの厚さ(t4):2mm、幅(d2):18mmのものを用いた。また、スパイクピン2として、フランジ部2cとシャンク2aの合計高さ(t5):4.5mm、超硬部2bの高さ(t2):2mm、フランジ部2cの直径(s1):10mm、超硬部2bの直径(s2):5mmのものを用いた。そして、前記スパイクピン2を、超硬部2bの突出寸法(t2)が2mmになるよう前記ネット状本体1の網目状交差部に埋設した、合計厚さ寸法(t)が9mmの滑り止め装置Aを作製した。
【0023】
前記滑り止め装置Aを、排気量1800ccの前輪駆動式乗用車のノーマルタイヤに装着し、日本自動車交通安全用品協会の規格JASA432、JASA433に準拠し、制動性、登坂性、耐久性、緩衝性、対空転性の性能試験を行った。制動試験におけるブレーキング時の時速は40km/時とした
【0024】
(比較例1)
特許文献1の第9図に示されるような、ネット状本体の網目状交差部に帯状のスパイク金具を巻回状に固着した、ネット状本体の厚さ10mm、スパイク金具の厚さ3mm、全体厚さ16mmの従来型の滑り止め装置を用いたこと以外は、実施例1と同条件で性能試験を行った。
【0025】
(比較例2:基準値)
排気量1800ccの前輪駆動式乗用車にスタッドレスタイヤを装着し、滑り止め装置を用いないこと以外は、実施例1、比較例1と同条件で性能試験を行った。
【0026】
前記実施例1、比較例1、2の夫々の条件で、圧雪路面と氷盤路面の夫々において制動性、登坂性、耐久性、緩衝性、対空転性の試験を複数回行い、比較例2の測定結果を圧雪路面試験:100、氷盤試験:100として数値化し、基準値とした。これに対し、比較例1では、圧雪路面試験:134.1、氷盤試験:122.0の数値が得られた。
【0027】
一方、実施例1では、圧雪路面試験:115.9の数値が得られ、比較例1には劣るものの、前記日本自動車交通安全用品協会規格の合格基準(認定基準)である基準値比105%を上回っていた。また、氷盤試験:130.1の数値が得られ、比較例1より優れると共に、前記合格基準(認定基準)である基準値比120%を上回っていた。
これにより、非金属製タイヤ滑り止め装置として好適に使用可能であることが確認できた。
【0028】
以上、本発明に係るタイヤ用滑り止め装置の実施形態の一例を図面及び実施例に基づき説明したが、本発明は図示例及び実施例に限定されるものではなく、特許請求範囲の各請求項記載の技術的思想の範疇において、種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るタイヤ用滑り止め装置の実施形態の一例を示す平面図。
【図2】図1の要部拡大図。
【図3】(イ)は図2の(X)−(X)線に沿う拡大断面図、(ロ)は図2の(Y)−(Y)線に沿う拡大断面図、(ハ)は図2の(Z)−(Z)線に沿う拡大断面図。
【図4】図3(ロ)を拡大して示す詳細図。
【図5】図4の中央縦断面図。
【図6】図1の要部を拡大して示す斜視図。
【符号の説明】
【0030】
A:滑り止め装置
1:ネット状本体
2:スパイクピン
2a:シャンク
2b:超硬部
2c:フランジ部
3:高張力性芯材
4:ゴム製線材
4a:裏面部(タイヤ面側部)
4b:表面部(接地面側部)
11:エッジ部
t1:ネット状本体の厚さ寸法
t2:超硬部のネット状本体からの突出寸法
t:t1とt2の合計寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高張力性芯材をゴムで被覆したゴム製線材により網目状に形成されるネット状本体と、該ネット状本体の網目状交差部に配設されたスパイクピンからなり、前記ネット状本体をタイヤに巻回状に装着するタイヤ用滑り止め装置であって、
前記スパイクピンがシャンクの上端に超硬部を、下端に円形のフランジ部を備えると共に、前記超硬部が前記ネット状本体の接地面から突出するよう前記網目状交差部に埋設され、且つ前記ネット状本体の厚さ寸法(t1)と、前記超硬部の前記ネット状本体からの突出寸法(t2)との合計寸法(t)が8〜10mmであることを特徴とするタイヤ用滑り止め装置。
【請求項2】
前記スパイクピン下端のフランジ部に、その周方向に沿って等間隔毎に開口が形成され、該開口内に充填されたゴムにより該スパイクピンの前記ネット状本体からの脱落が防止されることを特徴とする請求項1記載のタイヤ用滑り止め装置。
【請求項3】
前記網目状交差部において、前記スパイクピン下端のフランジ部の下方に前記高張力性芯材が配設されていることを特徴とする請求項1又は2記載のタイヤ用滑り止め装置。
【請求項4】
前記ゴム製線材が、幅広状のタイヤ面側部の上に幅狭状の接地面側部を備えた断面二段形状に形成され、接地面側部における路面への面圧を高めると共にその左右両縁にエッジ部を備えていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項記載のタイヤ用滑り止め装置。
【請求項5】
前記ネット状本体の厚さ寸法(t1)が6.5〜7.5mm、前記超硬部の前記ネット状本体からの突出寸法(t2)が1.5〜2.5mmであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項記載のタイヤ用滑り止め装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−193100(P2006−193100A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−8935(P2005−8935)
【出願日】平成17年1月17日(2005.1.17)
【出願人】(000000550)オカモト株式会社 (118)