説明

ダイカストマシンのスプレ装置

【目的】 金型表面にスプレ剤を噴霧塗布するスプレ作業中に、噴霧ミストの飛散を防止して作業環境を汚染させることなく清浄に保持することのできるスプレカバーを備えたものである。
【構成】 金型開閉方向に伸縮自在に形成され一端が金型の外周側面に外嵌固結され、他端が互いに着脱自在に接合され、かつ、接合部上部中央にスプレノズル20aを有するスプレヘッド20を挿通させる開口33を有する一対のスプレカバー30、30を備えるとともに、スプレヘッド20挿通時に開口33を密閉する蓋板42をスプレヘッド20に配設して気密領域を形成したものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、アルミ合金またはマグネシウム合金を金型に鋳造するダイカストマシンのスプレ装置に係り、特にスプレ剤の飛散を防止して作業環境を良好に保持するダイカストマシンのスプレ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、ダイカストマシンの金型表面へ離型剤や保温剤などのスプレ剤を噴霧塗布するスプレ装置は、例えば、図6に示すように、タンク1の上方からコンプレッサ2によって供給される加圧用空気を吹込んでスプレ剤Lをフィルタ3より加圧圧送するとともに、電磁弁4および流量調整弁5を経由してスプレ装置10へ送り、コンプレッサ6から供給される噴霧用エアを電磁弁7および配管8を経由してスプレ装置へ送ってスプレ剤Lを噴霧したうえスプレノズル10aより左右一対のプラテン11(固定プラテン11A、可動プラテン11B)に取り付けた金型12(固定金型12A、可動金型12B)の表面に噴霧していた。スプレ装置10は油圧シリンダ9などのアクチュエータで開状態にある両金型12A、12Bの中央上下方向に上下往復動できるよう構成され、スプレ装置10のスプレヘッド10Aの側面に取り付けた複数個のスプレノズル10aにより、金型12の被スプレ面の全面に均等に隈なく塗布されるように配慮されていた。また、金型12へ噴霧塗布するスプレ剤Lの供給量の調整は、スプレ剤Lのタンク1とスプレ装置10との間に設けられた流量調整弁5の開度調整でコントロールしていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】このようなスプレ噴霧を行うスプレ装置においては、スプレノズルから噴霧されるミスト状の飛抹が金型表面ばかりでなく、周辺の作業場に拡散し作業環境を著しく汚染するとともに、人体にも悪影響を与えていた。この対策として、従来、機械装置に飛散防止カバーや保護カバーを取り付けたり、金型近傍に吸引装置を設けるなどの工夫がなされていたが、これらの飛散防止カバーや保護カバーはいずれも固定設備であり、可動する金型およびその周辺部品との干渉を避けるために必要な隙間を設けているため気密が悪く、ミスト状に飛散するスプレ剤を完全に確実に捕捉することはできず、不完全なものであるという欠点が有った。
【0004】
【課題を解決するための手段】以上の課題を解決するために、本発明のスプレ装置においては、第1の発明では、ダイカストマシンの金型表面にスプレ剤を噴霧するスプレ装置において、金型開閉方向に伸縮自在に形成され一端が金型の外周側面に外嵌されるとともに他端が互いに着脱自在に接合され、かつ、スプレノズルを有するスプレヘッドを挿通させる開口を有する一対のスプレカバーを備えるとともに、該スプレヘッド挿通時に該開口部を密閉する蓋板を該スプレヘッドに配設して気密領域を形成した。また、第2の発明では、スプレカバーの伸縮部分を蛇腹形状を有する可撓性材質で形成するか、または口径の異なる複数個のスライド筒を重畳して進退動させる構成としたものである。
【0005】
【作用】本発明のダイカストマシンのスプレ装置は、型開した一対の金型の各々に伸縮自在なスプレカバーをそれぞれ取り付けたうえ、この両者の中央寄りの縁端を簡易接合し、スプレ時には接合部の開口よりスプレノズルを取り付けたスプレヘッドを内部に挿通し、開口を蓋板で密閉して内部に気密領域を形成したうえでスプレ作業を実施する。従って、スプレ飛抹が外部に飛散することなくマシン周囲の作業環境は汚染されることなく清浄に保たれる。
【0006】
【実施例】以下、図面に基づいて本発明の実施例の詳細について説明する。図1〜図5は本発明の実施例に係り、図1はダイカストマシンの全体縦断面図、図2はダイカストマシンの全体平面図、図3はスプレ装置の斜視図、図4は他の実施例を示すスプレ装置の縦断面図、図5R>5は図4のスプレ装置の要部拡大縦断面図である。図1〜図3はダイカストマシン200のスプレ装置100の1実施例を示すもので、スプレボディ26は固定プラテン11Aの頂部に立設されたスタンド22に金型開閉方向に向けて水平に固設された油圧シリンダ(またはエアシリンダ)24のピストンロッド24aの先端に取り付けられ、水平方向進退動できる。スプレヘッド20はスプレボディ26に垂直方向に固設された油圧シリンダ(またはエアシリンダ)28のピストンロッド28aの先端に垂直に取り付けられ、上下動自在に移動可能である。スプレヘッド20へはスプレボディ26を介して離型剤や保温剤などのスプレ剤Lと噴霧用圧縮エアを供給するフレキシブル管が各々接続され、スプレヘッド20の左右両側側面に配設した複数個のスプレノズル20aより型開状態の金型12(固定金型12Aおよび可動金型12B)の表面へ噴霧塗布されるよう構成される。一方、左右一対の金型12A、12Bの外周側面に金型開閉方向に伸縮自在な蛇腹形状の可撓性材質(金属、合成樹脂、織布など)のスプレカバー30、30の一端が取り付けられ、その他端のフランジ板32、32同志はボルトナットでなく、フックとピンにより着脱自在に簡易に係合される。上記の係合方法以外にもフランジ板接合面に永久磁石を埋設して、この磁力により接合させることもできる。このようなスプレカバー30、30の接合個所の上部中央に円形もしくは矩形状の開口33が設けられ、上部より垂下するスプレノズル20aを左右複数個備えたスプレヘッド20が挿通されるよう構成される。さらに、スプレヘッド20の中間部にはスプレヘッド20の下降限に前記開口33を形成するフランジ板34を密閉する円形もしくは矩形状の水平板で形成される蓋板42が取り付けられ、該開口33を密閉するよう構成される。蓋板42の上部にはスプレヘッド20より直径の大きい有蓋のフード40が設けられ、スプレ時にスプレカバー30内の噴霧ミストを排気管40Aを介して吸引排気できるようになっている。また、スプレカバー30の下部にはドレン管50が設けられ、スプレ時およびスプレ完了後の液滴を排出回収できるようになっている。なお、フランジ板32は鋼板製としてもよいが、密着気密性を高めるため外表面にスポンジラバー状の弾性体を貼設するか、フランジ板32そのものをある程度の弾力性有る合成樹脂シートとしてもよい。
【0007】図4はスプレカバー30の他の実施例を示すもので、主に異なる点を示せば図1〜図3のものが伸縮部分が蛇腹タイプであるのに対して、スライド式のスプレカバー30となっている。すなわち、薄肉鋼板製でそれぞれ口径の異なる複数のスライド筒30a、30a、30aを順次重畳して伸縮自在に構成され、一端が左右の金型外周側面に締結され、他端を金型間隙中央付近で接合する点、および接合部の上部中央付近に開口33を設ける点は図1〜図3の実施例と同様である。図5は開口33のフランジ板34と蓋板42との当接時の衝撃を緩和し、かつ、蓋板42のフランジ板34への密着度を高め、スプレカバー30内部の気密度を向上させるために蓋板42を二重蓋とし、下方の蓋板44を新たに設け、上方の蓋板42との間に圧縮コイルばね70を封着したものである。下方の蓋板44の下面にはスポンジラバーなどのシール材44Aを貼設することにより気密度を一層向上することができる。
【0008】以上のように構成された図1〜図3の実施例ならびに図4の実施例につきその作動について説明する。ダイカストマシン200の運転開始に先立って、左右一対のスプレカバー30、30を各々金型12A、12Bへ固結する。そして、スプレカバー30、30の伸縮部分を伸張し両者の接合部を緊結する。このような状態で、運転に入り、金型表面にスプレ剤を噴霧するスプレ作業をするには、昇降用の油圧シリンダ28を操作し、スプレヘッド20を静かに垂下する。下降限に到達するとスプレヘッド20は停止し、同時に蓋板42(または蓋板44)がフランジ板34に密閉され、開口33は閉じられる。このようにスプレカバー30内が完全気密領域になったあと、排気管40Aへ通風吸引しながらスプレヘッド20へスプレ剤および圧縮エアを送ってスプレノズル20aより金型表面へ噴霧塗布する。スプレ作業が完了すると、スプレヘッド20は上昇し、両金型12A、12Bはスプレカバー30、30を接合したまま型締工程に入る。このようにして、本発明のスプレカバー30は、上述したようにスプレノズル20aの取り付けられたスプレヘッド20を内部に収納し、密閉状態に保持してからスプレ作業を開始するので、スプレ中の噴霧ミストはダイカストマシン周辺に飛散することがない(排気管40Aによる吸引によりスプレカバー30内部は負圧となっており、一層外部への散逸が防止される)。また、スプレ中やスプレ作業後のスプレカバー30内部のスプレ剤液滴はドレン管50を介して排出回収されるので省資源となるとともに床面の汚染が防止される。なお、金型の取換えや、金型の点検、成形後の製品取出しの際は、フランジ板32、32の簡易接合が容易に離脱される。あるいは各々のスプレカバーに伸縮用のエアシリンダなどの進退動手段を設けて自動伸縮タイプとしてもよい。
【0009】本発明の実施例においては、スプレノズル20aを取り付けたスプレヘッド20を垂下してスプレカバー30内に入れてスプレ作業する場合のスプレカバー30の構成を示したが、これに限らずスプレヘッド20を水平に横からスプレカバー30内に入れるようにしてもよい。また、本実施例の場合型締後の製品取出しは側面から行う場合を想定しているが、スプレヘッド20と同様に上部から製品取出しを行う場合には、スプレカバー30の頂部の開口部をさらに拡大してこの開口部を利用して行うこともできる。この場合には、運転中常時一対のスプレカバー30を接合したまま運転が続行できるため、噴霧ミストの飛散がさらに少なく、伸縮部分の寿命も長くなる。
【0010】
【発明の効果】以上述べたように、本発明におけるダイカストマシンのスプレ装置は、ダイカストマシンの鋳造作業中に繰り返し行われるスプレ作業において、スプレ剤の噴霧ミストを周辺の作業場所に飛散させることがなく、作業環境を清浄に保つことができる。従って、労働環境の改善とそれに伴う生産効率の向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るダイカストマシンの全体縦断面図である。
【図2】本発明に係るダイカストマシンの全体平面図である。
【図3】本発明に係るダイカストマシンのスプレ装置の1実施例を示す斜視図である。
【図4】本発明に係るダイカストマシンのスプレ装置の他の実施例を示す縦断面図である。
【図5】図4の要部拡大縦断面図である。
【図6】従来のスプレ装置の概略構成図である。
【符号の説明】
1 タンク
2 圧気源(コンプレッサ)
3 フィルタ
4 電磁弁
5 流量調整弁
6 圧気源(コンプレッサ)
7 電磁弁
8 配管
9 油圧シリンダ
10 スプレ装置
10A スプレヘッド
10a スプレノズル
11 プラテン
11A 固定プラテン
11B 可動プラテン
12 金型
12A 固定金型
12B 可動金型
20 スプレヘッド
20a スプレノズル
22 スタンド
24 油圧シリンダ(エアシリンダ)
24a ピストンロッド
26 スプレボディ
28 油圧シリンダ(エアシリンダ)
28a ピストンロッド
30 スプレカバー
30a スライド筒
32 フランジ板
33 開口
34 フランジ板
40 フード
40A 排気管
42 蓋板
44 蓋板
44A シール材
50 ドレン管
70 圧縮コイルばね
100 スプレ装置
200 ダイカストマシン

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ダイカストマシンの金型表面にスプレ剤を噴霧するスプレ装置において、金型開閉方向に伸縮自在に形成され一端が金型の外周側面に外嵌されるとともに他端が互いに着脱自在に接合され、かつ、スプレノズルを有するスプレヘッドを挿通させる開口を有する一対のスプレカバーを備えるとともに、該スプレヘッド挿通時に該開口部を密閉する蓋板を該スプレヘッドに配設して気密領域を形成したことを特徴とするダイカストマシンのスプレ装置。
【請求項2】 スプレカバーの伸縮部分を蛇腹形状を有する可撓性材質で形成するか、または口径の異なる複数個のスライド筒を重畳して形成してなる請求項1記載のダイカストマシンのスプレ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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