説明

ダブルカバリング糸とその製造方法およびこのダブルカバリング糸を用いたストレッチ布帛

【課題】高伸長率で極めて伸縮性に優れたストレッチ布帛にでき、着脱性や装着性に優れるホージャリー製品を得ることができるようにする。
【解決手段】芯糸(2)に、繊度が110〜330dtexのポリウレタン弾性繊維を用いる。下ヨリ糸(4)と上ヨリ糸(5)とからなる鞘糸(3)に、ポリエチレンテレフタレート繊維とポリアミド繊維のいずれか又は両方を用いる。ポリウレタン弾性繊維の繊度をSSとし、鞘糸全体の繊度をSCとし、カバリング時のポリウレタン弾性繊維のドラフト率をDとし、下ヨリ糸の撚り数をRとしたとき、式K=(SS÷D+SC)1/2×Rで表される撚り係数Kが11000〜16100であり、伸長率が360%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯糸にポリウレタン弾性繊維を用いたダブルカバリング糸に関し、さらに詳しくは、高伸長率で極めて伸縮性に優れたストレッチ布帛にでき、着脱性や装着性に優れるホージャリー製品を得ることができる、ダブルカバリング糸とその製造方法およびこのダブルカバリング糸を用いたストレッチ布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ストレッチ素材を得るために、芯糸としてポリウレタン弾性繊維を用い、鞘糸となるポリアミド繊維やポリエチレンテレフタレート繊維などを一重あるいは二重に被覆したカバリング糸が、ストッキング、靴下等のいわゆるホージャリー製品をはじめ、インナーなど一般衣料用途にも使用されてきた(例えば特許文献1参照、以下、従来技術1という。)。しかしこの従来技術1では、カバリング糸の伸縮性が必ずしも十分ではないことから、更なるストレッチへの要望が大きく、改善の余地があった。
【0003】
また、ストレッチ素材の布帛を縫製するための、弾性糸に可溶性繊維を被覆してなるミシン糸についての提案もあった(例えば特許文献2参照、以下、従来技術2という。)。この従来技術2は、縫製時に糸とミシン針との間に発生する摩擦抵抗を、上記の可溶性繊維によって低減させ、取り扱いを簡便にする効果を得るとともに、縫製後に可溶性繊維を溶解して弾性糸のみを残し、縫製部に伸縮性を持たせるものである。しかしこの従来技術2では、布帛に弾性糸のみが残ることになるので、耐久性に問題が残った。
【0004】
さらに、弾性糸に可溶性繊維を被覆したものを芯糸とし、精紡工程で粗糸を上記の芯糸に被覆したカバリング糸が提案されている(例えば特許文献3参照、以下、従来技術3という。)。この従来技術3では、カバリング糸の伸長性が制限されるため、製品の伸長性に関しても、通常の精紡交撚糸を使用した糸と何ら変わらず、高い伸長性を得ることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−178845号公報
【特許文献2】特開平01−260030号公報
【特許文献3】特開平05−044130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の技術的課題は上記の問題点を解消し、極めて伸縮性に優れたストレッチ布帛にできるダブルカバリング糸とその製造方法およびそのダブルカバリング糸を用いたストレッチ布帛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の課題を解決するために、例えば本発明の実施の形態を示す図1から図3に基づいて説明すると、次のように構成したものである。
即ち本発明1はダブルカバリング糸に関し、芯糸(2)に繊度が110dtex以上、330dtex以下のポリウレタン弾性繊維を配し、下ヨリ糸(4)と上ヨリ糸(5)とからなる鞘糸(3)にポリエチレンテレフタレート繊維とポリアミド繊維との少なくともいずれかを配しており、下記式で表される撚り係数Kが11000以上、16100以下であり、伸長率が360%以上であることを特徴とする。
K=(SS÷D+SC)1/2×R
ここで、上記のSSはポリウレタン弾性繊維の繊度(dtex)であり、上記のSCは鞘糸全体の繊度(dtex)であり、上記のDはカバリング時のポリウレタン弾性繊維のドラフト率(倍)であり、上記のRは下ヨリ糸の撚り数(回/m)である。
【0008】
上記のポリウレタン弾性繊維は、特定の組成のものに限定されないが、このポリウレタン弾性繊維が有機ジイソシアネートとポリオールを主成分とするポリウレタンからなり、そのポリオール成分がテトラヒドロフランとアルキル側鎖を有するテトラヒドロフランとのコポリエーテルポリオールであると、伸縮性に優れたダブルカバリング糸を得ることができてより好ましい。
【0009】
また本発明2はダブルカバリング糸の製造方法に関し、芯糸(2)に繊度が110dtex以上、330dtex以下のポリウレタン弾性繊維を用い、カバリング時のポリウレタン弾性繊維のドラフト率を、4.7倍以上、6.0倍以下に設定したことを特徴とする。
【0010】
この本発明2において、鞘糸は特に限定されないが、下ヨリ糸と上ヨリ糸とからなる鞘糸にポリエチレンテレフタレート繊維とポリアミド繊維との少なくともいずれかを用い、上記の式で表される撚り係数Kが11000以上、16100以下となるように、下ヨリ糸の撚り数Rを設定すると、伸長率が360%以上であるダブルカバリング糸を得ることができるので、より好ましい。
【0011】
さらに本発明3はストレッチ布帛に関し、上記の本発明1のダブルカバリング糸(1)を用いたことを特徴とする。
【0012】
上記のポリウレタン弾性繊維は、繊度が110dtex以上であるので、カバリング時のドラフト率が4.7倍以上であってもこのポリウレタン弾性繊維の糸切れが防止され、工業的に効率よく生産されるとともに、ダブルカバリング糸のパワーが高く維持される。またこのポリウレタン弾性繊維の繊度が330dtex以下であるので、ダブルカバリング糸自体が過剰に太くなることや嵩高となることが抑制されるうえ、衣料品を形成した時のパワーが過剰に強くなることが抑制されるので、締め付け力が適度の強さに維持され、着用者の血行を害したり、皮膚に締め付け痕を残す虞が低減される。
【発明の効果】
【0013】
本発明は上記のように構成され作用することから、次の効果を奏する。
即ち本発明のダブルカバリング糸は伸長率が360%以上であるので、高伸長率で極めて伸縮性に優れたストレッチ布帛にすることができ、このダブルカバリング糸を用いることにより、着脱性や装着性に優れた、靴下等のホージャリー製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のダブルカバリング糸の実施形態を示す模式図である。
【図2】本発明の実施例を示す、ダブルカバリング糸の製造に用いるカバリング装置の概略模式図である。
【図3】本発明の実施例のダブルカバリング糸の物性等の測定結果を、比較例と対比して示す、測定結果対比表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明のダブルカバリング糸の実施形態を模式的に示している。このダブルカバリング糸(1)は、芯糸(2)にポリウレタン弾性繊維を配してあり、鞘糸(3)にポリエチレンテレフタレート繊維とポリアミド繊維とのいずれかまたは両方を配してある。
【0016】
上記の鞘糸(3)は芯糸(2)の周りを二重に被覆してあり、芯糸(2)のすぐ外周を被覆している下ヨリ糸(4)と、さらにその外側を被覆している上ヨリ糸(5)とからなる。この下ヨリ糸(4)と上ヨリ糸(5)とは、同じ材質の繊維を用いても良く、互いに異なる材質の繊維を用いても良い。この下ヨリ糸(4)と上ヨリ糸(5)の撚り方向は、例えば下ヨリ糸(4)をS撚りとし、上ヨリ糸(5)をZ撚りとするなど、互いに逆の撚り方向にしてある。
【0017】
上記のダブルカバリング糸(1)は優れた伸長性を有しているが、詳細に検討した結果、その伸長性は鞘糸(3)の撚りによる拘束度合いに大きく影響を受け、360%以上の優れた伸長率を確保するには、下記式で表される撚り係数Kが11000以上、16100以下であることを必要とすることが認められた。
K=(SS÷D+SC)1/2×R
ここで、上記のSSはポリウレタン弾性繊維の繊度(dtex)であり、上記のSCは鞘糸全体の繊度(dtex)であり、上記のDはカバリング時のポリウレタン弾性繊維のドラフト率(倍)であり、上記のRは下ヨリ糸の撚り数(回/m)である。
【0018】
上記の撚り係数に設定されたダブルカバリング糸(1)は、360%以上の伸長率を有している。そして、この360%以上の伸長率を有するダブルカバリング糸(1)やこれを用いたストレッチ布帛を、靴下やストッキングなどのホージャリー製品に、例えば靴下のソックトップなどに適用すると、着脱性に優れ、着用時にも着用者につっぱり感を感じさせない優れた装着感が得られるものとなる。
【0019】
上記のダブルカバリング糸(1)の芯糸(2)に使用される前記ポリウレタン弾性繊維としては、ポリウレタン弾性繊維自体の伸長性を鑑み、有機ジイソシアネートとポリオールを主成分とするポリウレタンからなるものが好ましく、そのポリオール成分がテトラヒドロフランとアルキル側鎖を有するテトラヒドロフランとのコポリエーテルポリオールであることが好ましい。
【0020】
具体的には、例えば、重合体のソフトセグメント形成成分としてメチル基側鎖を有するアルキレンジオールが用いられる。メチル基側鎖を有するアルキレンジオールを採用することで、重合体に結晶の成長を阻害して、得られる弾性繊維の伸度を大きくすると共に、低温時の伸長回復性を顕著に維持することができる。
【0021】
ただし、メチル基側鎖を有するポリアルキレンエーテルジオールの共重合では、環状オリゴマーの生成が増加する傾向にあり、環状オリゴマーの弾性繊維表面へのブリードによって弾性繊維表面の粘着性が上昇し、特に表面へのブリード量が一定以上になると、急激に弾性繊維同士の粘着性が強くなり、粘着によるチーズでの逆巻きによる糸切れが起こりやすくなる。そこで、寒冷時の低温度下においてカバリング性の良好な弾性繊維を得るためには、用いられるジオールのメチル基側鎖が、低温伸長時に結晶形成をする共重合量以上にされ、また、弾性繊維の粘着性を大きくする環状オリゴマー含有量を少なくすることが重要であり、1.5重量%以下にすることが特に重要である。
【0022】
共重合に使用するアルキレン基としては、得られるポリウレタン弾性繊維の耐水性、耐光性、耐摩耗性、および弾性機能の観点から、アルキレン基の1つがテトラメチレン基であり、他のアルキレン基と共重合していることが好ましい。共重合するアルキレン基として、2,2−ジメチルプロピレン基、3−メチルペンタメチレン基および3−メチルテトラメチレン基が好ましい。特に好ましくは、2,2−ジメチルプロピレン基である。
【0023】
また、テトラメチレン基以外のアルキレンエーテルユニットは、4モル%以上、かつ40モル%以下含むことが好ましく、より好ましくは8モル%以上、かつ30モル%以下である。4モル%未満では、低温伸長時テトラメチレン基が結晶を形成しやすく、伸長回復性が低下しダブルカバリング糸のたるみを生じ、40モル%を超えると弾性繊維の強度または伸度が低下する傾向がある。
【0024】
本発明で使用される共重合ポリアルキレンエーテルジオールの数平均分子量(Mn)は、1000〜40000が好ましい。Mnが1000より小さい場合は、繰り返し単位9以下の環状オリゴマー量が多くなり、4000より大きいとヒステリシスロスや低温下の伸長回復性が悪くなり好ましくない。
【0025】
本発明に用いられるポリウレタン弾性繊維では、例えば、上記のMnが1000〜40000、繰り返し単位が9以下である環状オリゴマーの含有量が1.5重量%を超えないメチル基側鎖を含む共重合ポリアルキレンエーテルジオールをジオール成分とし、これに過剰の有機ジイソシアネート、例えば4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを反応させて、両末端イソシアネートプレポリマーが常法によって合成される。上記のジオールとジイソシアネートのモル比は1.2〜1.8であり、ソフトセグメントの分子量は4000〜8000の範囲に調整される。環状オリゴマーはジイソシアネートと反応せず、そのままプレポリマーの中に取り込まれる。
【0026】
次いで、両末端イソシアネートプレポリマーと2官能有機ジアミンとが適当量の1官能有機アミンの存在下で反応され、これによってポリウレタンウレアが得られる。プレポリマー、ジアミンは溶剤に溶かされ、混合する事でポリウレタンウレア紡糸原液とされ、これを汎用の乾式もしくは湿式紡糸に適用することでポリウレタンウレア弾性繊維が得られる。
【0027】
上記ポリウレタンウレア重合体の調整において、用いられるメチル基側鎖を有する共重合ポリアルキレンエーテルジオールは、いかなる方法で製造されたものであってもよい。例えば、特開昭59−221326号公報に開示されているヘテロポリ酸を触媒とし、THFとネオペンチルグリコール、3−メチル−1、5−ペンタンジオール、またはそれらの脱水環状化合物、例えば3、3−ジメチルオキセタンを反応させることによって製造される。その共重合ジオールは、所定の分子量、共重合比となるように反応方法および反応条件を種々変化させることにより、繰り返し単位9以下の環状オリゴマー含有量が1.5重量%以下のジオールを得ることができる。
【0028】
ポリエーテル系ポリウレタン弾性繊維について、さらに詳細に検討した結果、最も代表的なポリテトラメチレングリコールをポリオール成分としたポリマーと比較して、3−メチルテトラヒドロフランとテトラヒドロフランが開環共重合したコポリエーテルポリオールをポリオール成分としたポリマーが、さらにそのコポリエーテルポリオールの重合度が高いものほど、伸長性の効果およびその効果の安定性が優れていることが認められた。
【0029】
前記ポリウレタン弾性繊維の繊度は110dtex以上、330dtex以下である。この繊度が110dtex未満では、カバリングのドラフト率が4.7倍以上であると糸切れしやすくなり、工業的に生産が非常に難しくなったり、ダブルカバリング糸のパワーが低くなる。一方、繊度が330dtexを超えるとダブルカバリング糸自体が太く、嵩高となり、衣料品を形成した時、パワーも非常に強くなり、締め付け力過多により着用者の血行を害したり、皮膚に締め付け後を残すようなものとなりやすい。
【0030】
また、本発明のダブルカバリング糸(1)の前記の鞘糸(3)は、ポリエチレンテレフタレート繊維とポリアミド繊維との何れか、または両方が用いられる。これらの繊維の繊度および態様は特定のものに限定されず、用途や目的に応じて適宜選択するのが好ましい。例えば、フィラメント糸と紡績糸のいずれであってもよく、その態様は、原糸、仮撚り加工糸、もしくは先染糸等のいずれであってもよく、また、これらの複合糸であってもよい。ただし、いずれも撚糸加工のし易い、安定した糸条であることが好ましい。
【0031】
次に、本発明のダブルカバリング糸の製造方法について説明する。
本発明のダブルカバリング糸(1)は、芯糸(2)に繊度が110dtex以上、330dtex以下のポリウレタン弾性繊維を用い、例えば図2に示すカバリング装置(6)にて製造される。
【0032】
即ち、図2に示すカバリング装置(6)は、二つのフィードローラ(7・8)と、下ヨリ糸(4)をカバリングするための第1スピンドル(9)、第1Hボビン(10)、並びに第1バルーンガイド(11)と、上ヨリ糸(5)をカバリングするための第2スピンドル(12)、第2Hボビン(13)、並びに第2バルーンガイド(14)と、デリベリローラ(15)と、ダブルカバリング糸(1)をパッケージ(16)に巻き取るワインダ(17)とを備える。
【0033】
上記のカバリング装置(6)を用いた製造工程では、最初に、上記の第1フィードローラ(7)で給糸されたポリウレタン弾性繊維からなる芯糸(2)がこの第1フィードローラ(7)と上記の第2フィードローラ(8)との間でプレドラフトされる。そして、このプレドラフトされた芯糸(2)は、第2フィードローラー(8)とデリベリローラ(15)との間で再ドラフトされながら、下ヨリ糸(4)により、例えばS撚りにカバリング被覆された後、上ヨリ糸(5)により、下ヨリ糸(4)と反対方向の、例えばZ撚りにカバリング被覆される。
【0034】
上記のカバリングの際のドラフト率は、第1フィードローラ(7)とデリベリローラ(15)との間で引っ張られる倍率として定義され、第1フィードローラ(7)の表面速度に対するデリベリローラ(15)の表面速度の比で表される。本発明の製造方法では、上記のドラフト率が4.7倍以上、6.0倍以下に設定される。ドラフト率が4.7倍未満であれば、ダブルカバリング糸(1)の伸長率を360%以上にすることが出来ず、ドラフト率が6.0倍以上であれば、芯糸(2)に糸切れが頻発し易く、工業的に安定生産することが出来なくなる問題がある。
【0035】
上記の下ヨリ糸(4)と上ヨリ糸(5)のカバリング被覆により得られたダブルカバリング糸(1)は、上記のワインダ(17)により上記のパッケージ(16)に巻き取られる。
【0036】
このようにして得られる本発明のダブルカバリング糸は一般衣料にも用いられるが、特にソックトップ等のホージャリー製品に好ましく使用することが出来、例えばソックトップに使用した場合、靴下の優れた着脱性を有し、着用時にもソフトな締め付けを有することから、脹ら脛の締め付け痕(レッドマーク)を軽減するのに有効である。
【実施例】
【0037】
以下、上記のカバリング装置(6)を用いて製造した実施例により、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0038】
[実施例1]
糸構成として、芯糸(2)に、繊度が200dtexのポリウレタン弾性糸(東レ・オペロンテックス株式会社製、ライクラ(登録商標)、タイプ906C)を用い、鞘糸(3)の下ヨリ糸(4)と上ヨリ糸(5)のそれぞれに、36フィラメントで繊度が84dtexのカチオン可染型ポリエチレンテレフタレート延伸糸を用いた。従って、鞘糸(3)全体の繊度は168dtexである。
【0039】
上記のカバリング装置(6)における糸加工条件は、第1スピンドル(9)の回転数を8000rpmとし、ドラフト率を5.4倍とし、下ヨリ糸(4)はS撚りで、その撚り数を950回/mとし、上ヨリ糸(5)はZ撚りでその撚り数を810回/mとした。
そして上記の示す糸構成とこの糸加工条件で糸加工し、実施例1のダブルカバリング糸(1)を得た。
【0040】
[実施例2]
ドラフト率を5.0倍とした以外は、上記の実施例1と同一の糸加工条件とし、実施例1と同一の糸構成で糸加工して、実施例2のダブルカバリング糸(1)を得た。
【0041】
[実施例3]
芯糸(2)に、繊度が285dtexのポリウレタン弾性糸(東レ・オペロンテックス株式会社製、ライクラ(登録商標)、タイプ906C)を用いた以外は、上記の実施例1と同一の糸構成とし、実施例1と同一の糸加工条件で糸加工して、実施例3のダブルカバリング糸(1)を得た。
【0042】
[実施例4]
糸構成として、鞘糸(3)の下ヨリ糸(4)と上ヨリ糸(5)のそれぞれに、24フィラメントで繊度が56dtexのポリアミド延伸糸を用い、糸加工条件として、下ヨリ糸(4)の撚り数を1120回/mとし、上ヨリ糸(5)の撚り数を950回/mとした以外は、上記の実施例1と同一の糸構成と同一の糸加工条件で糸加工して、実施例4のダブルカバリング糸(1)を得た。
【0043】
[比較例1]
下ヨリ糸(4)の撚り数を1160回/mとし、上ヨリ糸(5)の撚り数を990回/mとした以外は、上記の実施例1と同一の糸加工条件とし、実施例1と同一の糸構成で糸加工して、比較例1のダブルカバリング糸(1)を得た。
【0044】
[比較例2]
下ヨリ糸(4)の撚り数を700回/mとし、上ヨリ糸(5)の撚り数を595回/mとした以外は、上記の実施例1と同一の糸加工条件とし、実施例1と同一の糸構成で糸加工して、比較例2のダブルカバリング糸(1)を得た。
【0045】
[比較例3]
ドラフト率を4.4倍とした以外は、上記の実施例1と同一の糸加工条件とし、実施例1と同一の糸構成で糸加工して、比較例3のダブルカバリング糸(1)を得た。
【0046】
[比較例4]
芯糸(2)に、繊度が395dtexのポリウレタン弾性糸(東レ・オペロンテックス株式会社製、ライクラ(登録商標)、タイプ906C)を用いた以外は、上記の実施例1と同一の糸構成とし、実施例1と同一の糸加工条件で糸加工して、比較例4のダブルカバリング糸(1)を得た。
【0047】
次に、上記の各実施例と比較例で得られた各ダブルカバリング糸(1)について、それぞれ下記のように撚り係数Kを算出し、また、各ダブルカバリング糸(1)の伸長率を測定した。さらに各ダブルカバリング糸(1)について、そのダブルカバリング糸(1)がソックトップ部となるように、針本数360本で4口給糸の靴下編機により靴下を編成したのち、生地をカチオン染料で染色し、仕上げおよび型板セットした。そして得られたそれぞれの靴下について、ソックトップ部の締め付け度、着脱性および目剥きについて測定した。なお各実施例と比較例において、それぞれのダブルカバリング糸(1)の物性やソックトップ部の特性等は、次のように測定し算出した。
【0048】
[伸長率(%)]
1.8×10-3cN/dtex荷重下で、周長1mの手回し検尺器にて10回巻のカセを5つ採取した。そして、得られた5つの試料について、自記記録装置付定速伸長型引張試験機を用い、1.8×10-3cN/dtexの初荷重をかけた状態で10cmのつかみの間隔に取付け、引張速度を10cm/minとして、破断するまで引き伸ばし、破断したときの伸度を測定して、その5つの値の平均を伸長率とした。
【0049】
[撚り数(回/m)]
ダブルカバリング糸(1)を、0.0883cN/dtex荷重下で検撚機にて解撚し、下ヨリ糸(4)と上ヨリ糸(5)のそれぞれについて、1m当たりの撚り数を5回計測し、その平均値を撚り数とした。
【0050】
[撚り係数]
下記式にて撚り係数Kを算出した。
K=(SS÷D+SC)1/2×R
ここで、
SS:ポリウレタン弾性繊維の繊度(dtex)
SC:鞘糸の繊度(dtex)
D :ポリウレタン弾性繊維のドラフト率(倍)
R :下ヨリ糸の撚り数(回/m)
とした。
【0051】
[ソックトップ部の締め付け度]
靴下を8時間、検査者(5人)に着用してもらい、ソックトップ部の締め付け度について下記評点にて評価し、その平均値を算出した。
5:締め付けがきつすぎる
4:締め付けがややきつすぎる
3:丁度良い締め付け感である
2:ややゆるい
1:ゆるすぎる
【0052】
[ソックトップの着脱性]
検査者(5人)について、靴下着用時と8時間後の脱ぐ時においての着脱性について下記評点にて評価し、その平均値を算出した。
3:着脱がよい
2:着脱がやや悪い
1:着脱が悪い
【0053】
[ソックトップの目剥き]
検査者(5人)について、靴下着脱時のソックトップにおいて、ダブルカバリング糸の芯糸であるポリウレタン繊維が露出する、いわゆる目剥きの度合いについて下記評点にて評価し、その平均値を算出した。
3:目剥きしない
2:やや目剥きする
1:目剥きする
【0054】
上記の実施例と比較例の物性や測定結果を図3の測定結果対比表に示す。
この測定結果から明らかなように、比較例1は撚り係数が過剰に大きく、伸長率が360%未満となっているため、これを用いたソックトップは締め付け度が弱く、着脱性にも問題があった。
また比較例2は伸長率が大きいものの、撚り係数が過剰に小さく、これを用いたソックトップは締め付け度がやや強過ぎるうえ、目剥きする問題があった。
また比較例3はドラフト率が小さく、伸長率が小さいため、これを用いたソックトップは締め付け度が弱く、着脱性に劣る問題があった。
さらに比較例4は繊度が過剰に大きいため、これを用いたソックトップは締め付け度が強くなり過ぎる問題があり、また着脱性もやや劣る問題があった。
【0055】
これに対し本発明の実施例1〜4では、いずれも優れた伸長率を備えており、これを用いたソックトップは適度な締め付け度を発揮でき、着脱性に優れ、しかも目剥きを生じることがなかった。
【0056】
上記の実施形態や実施例で説明したダブルカバリング糸とその製造方法は、本発明の技術的思想を具体化するために例示したものであり、糸構成や糸加工条件等は上記の実施形態や実施例のものに限定するものではなく、本発明の特許請求の範囲内において種々の変更を加え得るものである。
【0057】
例えば、上記の実施例では、ポリウレタン弾性糸として東レ・オペロンテックス株式会社製のライクラ(登録商標)、タイプ906Cを用いた。しかし本発明では、他の市販品をはじめ、任意のポリウレタン弾性繊維を用いてもよい。
また上記の実施形態では、鞘糸にポリエステル繊維とポリアミド繊維とのいずれかを用いた。しかし本発明では両者を組み合わせて用いてもよい。
また上記のポリウレタン弾性繊維や鞘糸は、特定の繊度のものに限定されず、上記の実施例で用いたもの以外の繊度であってもよい。
【0058】
さらに上記の実施例では、上記のダブルカバリング糸で靴下を編成した場合について説明した。しかし本発明のダブルカバリング糸は、他のストレッチ布帛やホージャリー製品等に用いても良く、また布帛等にする場合に、上記の編成方法や染色方法に限定されないことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のダブルカバリング糸は、高伸長率で極めて伸縮性に優れたストレッチ布帛にできるので、特にホージャリー製品に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0060】
1…ダブルカバリング糸
2…芯糸
3…鞘糸
4…下ヨリ糸
5…上ヨリ糸
6…カバリング装置
7…第1フィードローラ
8…第2フィードローラ
9…第1スピンドル
10…第1Hボビン
11…第1バルーンガイド
12…第2スピンドル
13…第2Hボビン
14…第2バルーンガイド
15…デリベリローラ
16…パッケージ
17…ワインダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯糸(2)に繊度が110dtex以上、330dtex以下のポリウレタン弾性繊維を配し、下ヨリ糸(4)と上ヨリ糸(5)とからなる鞘糸(3)にポリエチレンテレフタレート繊維とポリアミド繊維との少なくともいずれかを配しており、
下記式で表される撚り係数Kが11000以上、16100以下であり、
伸長率が360%以上であることを特徴とする、ダブルカバリング糸。
K=(SS÷D+SC)1/2×R
ここで、
SS:ポリウレタン弾性繊維の繊度(dtex)
SC:鞘糸全体の繊度(dtex)
D :カバリング時のポリウレタン弾性繊維のドラフト率(倍)
R :下ヨリ糸の撚り数(回/m)
である。
【請求項2】
上記のポリウレタン弾性繊維が有機ジイソシアネートとポリオールを主成分とするポリウレタンからなり、そのポリオール成分がテトラヒドロフランとアルキル側鎖を有するテトラヒドロフランとのコポリエーテルポリオールであることを特徴とする、請求項1に記載のダブルカバリング糸。
【請求項3】
芯糸(2)に繊度が110dtex以上、330dtex以下のポリウレタン弾性繊維を用い、
カバリング時のポリウレタン弾性繊維のドラフト率を、4.7倍以上、6.0倍以下に設定したことを特徴とする、ダブルカバリング糸の製造方法。
【請求項4】
下ヨリ糸(4)と上ヨリ糸(5)とからなる鞘糸(3)にポリエチレンテレフタレート繊維とポリアミド繊維との少なくともいずれかを用い、
下記式で表される撚り係数Kが11000以上、16100以下となるように下ヨリ糸の撚り数Rを設定したことを特徴とする、請求項3に記載のダブルカバリング糸の製造方法。
K=(SS÷D+SC)1/2×R
ここで、
SS:ポリウレタン弾性繊維の繊度(dtex)
SC:鞘糸全体の繊度(dtex)
D :カバリング時のポリウレタン弾性繊維のドラフト率(倍)
R :下ヨリ糸の撚り数(回/m)
である。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のダブルカバリング糸(1)を用いたことを特徴とする、ストレッチ布帛。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−153993(P2012−153993A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12581(P2011−12581)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(396010270)マエダ繊維工業株式会社 (3)
【出願人】(502179282)東レ・オペロンテックス株式会社 (100)
【Fターム(参考)】