説明

ダミーウェハー

【目的】 シリコンウェハーに対する薄膜形成過程において、各種処理条件評価及び検査に用いられるダミーウェハーを提供する。
【構成】 平均強度450MPa以上、平均結晶粒径が5μm以下、嵩密度3980kg/m3以上で、純度が99.9%以上である多結晶酸化アルミニウム焼結体からなるダミーウェハー。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、シリコンウェハーに対する薄膜形成過程において、各種処理条件評価及び検査に用いられるダミーウェハーに関するものである。
【0002】
【従来の技術】半導体製造プロセスにおいては、CVD、PVD、スパッタリング等によりシリコンウェハー上に成膜して回路を構成することから、成膜された薄膜には高い均一性が要求される。このことから、成膜工程での品質管理や薄膜の評価が半導体製造プロセスにとって非常に重要な要素となっている。実際には、時間やウェハー温度等の成膜条件とウェハー上に形成される膜の厚さとの関係をダミーウェハーを用いて測定したり、膜の化学組成、エックス線回折等により構成相の評価を行ない、その結果を成膜条件へフィードバックしている。
【0003】このような工程に、ダミーウェハーとしてシリコンウェハーを用いることは、薄膜の組成を分析する際に、ダミーウェハー中からのシリコンも同時に検出されてしまい、正確な分析とならない。また、CVD等の熱処理を行なう工程では繰り返し使用できない。このような理由から、従来、ダミーウェハーとしては、シリコン以外の材料が選ばれている。例えば、99%以上の純度を有する酸化アルミニウム焼結体や単結晶サファイヤ等が挙げられる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、一般的な純度99.5%程度の酸化アルミニウム焼結体を用いたダミーウェハーには、数10〜数100μmのポアが存在することから、薄膜形成に際し、ポアの内部にも膜が蒸着され、洗浄してもポアに入り込んだ薄膜形成物は取り切れない。その結果、膜厚の測定に大きな誤差を生じる。また、ごく僅かであるが、シリコン、カルシウム、マグネシウム、鉄等が含有されていることから、薄膜の化学組成評価が正確にできない。また、再利用するために薄膜をフッ酸、硝酸等で削除するに際しての耐薬品性にも劣る。
【0005】これに対して、近年、ポアも不純物も極めて少ない、高純度の酸化アルミニウム焼結体を用いることが提案されている。しかしながら、この材料はポア低減のために、水素中で1800℃以上と通常の酸化アルミニウム焼結体と比較して高温で焼成されることから、結晶の粒成長が促進され、得られた焼結体の平均結晶粒径が40〜50μmと比較的大きくなることから強度が低下する。このことは、ダミーウェハーの薄板化あるいは大型化に伴い割れやすくなるという問題がある。一方、単結晶サファイヤは、薄膜のエックス線分析時に、ノイズを発生する問題がある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記の問題点を解決するために鋭意検討した結果、平均強度450MPa以上、平均結晶粒径が5μm以下、嵩密度が3980kg/m3以上で、純度が99.9%以上である多結晶酸化アルミニウム焼結体から成るダミーウェハーを用いることにより、強度が高く、洗浄性、耐薬品性に優れる、各種薄膜分析に適し、繰り返して使用可能なダミーウェハーを提供できることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0007】以下に本発明を詳細に説明する。ダミーウェハーの厚さは、1mm以下と薄く、繰り返し使用されることから、高強度で、ポアが非常に少なく、シリコンを含有しない材料で高純度であることが要求される。多結晶酸化アルミニウム焼結体の平均強度は450MPa以上であることが望ましく、500MPa以上であることが好ましい。平均強度を450MPa以上とすることにより、薄いダミーウェハーを取り扱う際に、欠けや割れ等が生じにくくなり、取扱が容易となる。
【0008】用いられる多結晶酸化アルミニウム焼結体は平均結晶粒径が5μm以下であることが必要で、3μm以下が好ましい。平均結晶粒径を5μm以下にすることにより、破壊の起点が小さくなることより、酸化アルミニウムの強度向上が計れ、薄いダミーウェハーとしての取扱が可能となる。また、耐熱衝撃性も、従来の結晶粒径が大きい高純度酸化アルミニウム焼結体の200℃に比較して300℃と高い値が得られ、熱衝撃による破壊が抑えられ、ダミーウェハーの繰り返し使用が可能となる。
【0009】さらに、平均結晶粒径を5μm以下にすることにより3μm以上の大きなポアーの残存が抑えられる、もしくは、極めて少なくなる。ポアーの大きさが3μm未満であれば、スパッタ等の成膜時に蒸着物のポアー内部への回り込みが少なく、膜厚測定に影響しにくく、あるいは、影響が極めて少なくなることから、膜厚測定に際して、ほとんど問題とならない。
【0010】一方、平均結晶粒径が5μmを越えると、破壊の起点が大きくなり、ダミーウェハーの強度が低下し、取扱が困難となる。さらに、粒界にポアーが集中しやすくなることから、3μm以上の大きさのポアーが増加し、膜厚測定に影響を及ぼすことから問題となる。また、ポアの低減には、嵩密度が3980kg/m3以上要求され、3990kg/m3以上あることが好ましい。嵩密度が3980kg/m3以上であるとポアが極めて少なくなり、膜厚が精度良く測定できる。一方、嵩密度が3980kg/m3未満になると、ポアが増加し、膜厚の測定に影響を及ぼす。
【0011】シリコンを含有しない材料としては純度が99.9%以上の酸化アルミニウム焼結体が良く、99.99%以上が好ましい。純度が99.9%未満の場合、形成された薄膜の化学組成を分析する際に、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄等材料に含まれる不純物が検出され、該不純物が、形成した薄膜中に含有しているのか、ダミーウェハー中に含有しているのかの判断できなくなり、薄膜の正確な分析ができない。純度99.9%以上の高純度酸化アルミニウム焼結体を用いることで、酸化アルミニウム中の不純物が非常に少なく、実質上無視できることから、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄等の不純物が検出されたとしても、薄膜中に含有しているものと判断できる。
【0012】さらに、99.9%未満の純度の酸化アルミニウム焼結体中には酸化アルミニウム粒子の粒界第2相にシリコン、マグネシウム、カルシウム、鉄等が含有され、薄膜の洗浄に使用するフッ酸、硝酸等により粒界中に存在する不純物が溶け出すことから、酸化アルミニウム粒子が剥離して、大きなポアを形成することから、再利用できない。99.9%以上の高純度とすることで、酸化アルミニウム粒子の粒界不純物を実質上無くすことができることから、耐薬品性が非常に優れ、ダミーウェハーの再利用が充分可能となる。
【0013】上記ダミーウェハーの製造には、平均粒子径0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下、純度99.9%以上、好ましくは99.99%以上の酸化アルミニウム原料粉末を用いる。原料粉末の粒子径を0.5μm以下とすることで、緻密でかつ平均結晶粒径が5μm以下の焼結体を得ることができる。酸化アルミニウム原料粉末と有機成形助剤を混合し、一般的な成形方法、例えば、CIP、鋳込み成形、押出し成形、ドクターブレード、射出成形等を用いて成形する。
【0014】得られた成形体を脱脂した後、大気雰囲気中、1200℃〜1400℃で焼成する。焼成温度が1200℃未満であると十分緻密化せず大きなポアが残存する。一方、1400℃を越えると、細かい原料粉末を使用することから粒成長が促進され、平均結晶粒径が5μm以上となりやすく、強度が低下する。さらに、3μm以上の大きなポアーが発生しやすくなる。
【0015】上記のような方法で得られた焼結体中のポアをより少なくするため、さらにHIP処理を行なってもよい。HIP処理の圧力は50MPa以上、好ましくは150MPa以上である。50MPa未満では、ポアの低減効果が小さく好ましくない。また、HIP処理の温度は焼結温度よりも低い1000〜1400℃で行なうことが好ましい。1000℃未満ではポア低減の効果が小さく、また、1400℃を越える温度では粒成長が顕著となり、強度の低下を引き起こすと共に、ポアが集積し、粗大化するため好ましくない。HIP処理時の雰囲気としては、大気雰囲気、不活性雰囲気、還元雰囲気中等、いずれでも差しつかえない。
【0016】上記方法により製造したポアの残存しない、もしくは極めて少ない焼結体は、加工による粒子の脱落が少なく均一な表面状態に仕上げることができることから、ダミーウェハーとして非常に適したものである。
【0017】
【作用】強度に優れ、ポアの残存がない、もしくは極めて少ない焼結体が得られるのは、微粉で高純度な酸化アルミニウム原料を用いて、低温で焼結することから、粒成長を抑制し、ポアの集積による粗大化を避けて、焼結体内部の欠陥を低減できたことによると考えられる。
【0018】このようにポアーの残存がない、もしくは極めて少なく、高純度酸化アルミニウム焼結体から成るダミウェハーを用いることにより、膜厚測定、成膜分析が正確に行なえると共に、ダミーウェハーの薄板化あるいは大型化に適し、酸化アルミニウム焼結体の粒界相が実質上無くなることから、フッ酸、硝酸等の耐腐食性に優れ、洗浄して繰り返し使用しても影響されなくなる。
【0019】
【実施例】以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
[実施例1〜6]表1に示す平均粒子径、純度99.99%の酸化アルミニウム原料粉100重量部にメチルセルローズ系バインダー5重量部、イオン交換水18重量部を混練して、坏土を作製した。この坏土を一晩ねかした後、高さ1.2mm、幅200mmの開口を有する口金から押出した。押出シートを2日間常温で乾燥後、50℃で更に2日間乾燥し、薄板状の成形体を得た。
【0020】得られた薄板状の成形体を直径200mmの円板に打ち抜いて、ウェハー素材とした。この円板を大気中、450℃の温度で脱バインダーし、表1に示す温度で2時間、大気中で焼成して、焼結体を得た。また、同様にして作製した焼結体を表1に示す条件で2時間HIP処理を行なった。 次に、これらの焼結体をレーザー加工により、直径6インチにくり抜き、研削加工により厚さを0.7μmに加工した。さらに、片面をダイヤモンドパウダーを用いて研磨加工してダミーウェハーとした。
【0021】上記ダミーウェハーの嵩密度測定、研磨面のSEMによるポアー観察、5×40×0.7mmに切出し、3点曲げ強度を測定した。これらの結果を合せて表1に示す。また、上記ダミーウェハーを1300℃でサーマルエッチングし、SEM観察によって結晶粒径を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0022】さらに、上記ダミーウェハー上にスパッタリングによりシリカ膜を形成し、成膜したシリカをフッ酸で溶解・水洗乾燥後にダミーウェハーの重量変化、EDS分析およびフッ酸のICPによる定量分析を行なった。得られた結果を表2に示す。
【0023】[比較例1]実施例と同様な原料を用い、実施例と同様な方法で成形体を作製し、450℃で脱バインダー後、水素雰囲気中1800℃で2時間焼成した。その後、実施例と同様に加工しダミーウェハーを作製した。得られたダミーウェハーを実施例と同様の試験を行なった。結果を表1および表2に示す。
【0024】[比較例2]平均粒子径0.6μm、純度99.5%の酸化アルミニウム原料粉末を用い、実施例と同様な方法で成形体を作製し、1600℃の温度で2時間焼成し、1500℃、180MPa、2時間HIP処理を行ない、実施例と同様に加工しダミーウェハーを作製し、実施例と同様の試験を行なった。結果を表1および表2に示す。
【0025】この結果より、実施例では平均結晶粒径が1.5〜4.5μmと小さく強度も450〜700MPaと高い。一方、比較例1では、平均結晶粒径が45μmと大きく、強度も350MPaと低くなった。
【0026】比較例2では、平均結晶粒径が20μmと大きく、50μmを越える異常粒成長も認められた。また、ポアの数も多く、そのポア内に蒸着されたシリカがフッ酸に全て溶解されずに残った。これに対して、実施例の高純度酸化アルミニウム焼結体からなるダミーウェハーではポアの数が極めて少なく、シリカの残存物が無い事が確認された。
【0027】また、比較例2では、フッ酸洗浄後のダミーウェハーの表面剥離が多く表面が荒れ、重量減少が大きかった。実施例では、フッ酸洗浄後も、酸化アルミニウムの剥離が無く表面の荒れは認められず、重量減少もほとんど認められなかった。
【0028】
【発明の効果】平均強度450MPa以上、平均結晶粒径が5μm以下で、嵩密度3980kg/m3以上、純度が99.9%以上である多結晶酸化アルミニウム焼結体から成ることを特徴とするダミーウェハーとすることにより、高強度であり、成膜層に極めて正確な組成分析、膜厚測定が可能となり、また、洗浄による蒸着物の除去効果が向上し、かつ洗浄の際の耐腐食性に優れたものとすることができる。
【表1】


【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】 平均強度450MPa以上、平均結晶粒径が5μm以下、嵩密度3980kg/m3以上で、純度が99.9%以上である多結晶酸化アルミニウム焼結体から成ることを特徴とするダミーウェハー。

【公開番号】特開平8−17888
【公開日】平成8年(1996)1月19日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−170325
【出願日】平成6年(1994)6月30日
【出願人】(000004190)日本セメント株式会社 (3)