説明

ダム堤体の仮締切構造

【課題】施工時に作用する浮力に確実に対処可能である仮締切構造を提供する。
【解決手段】既存ダム堤体1での貫通穴構築に際し用いる仮締切構造100を、貫通穴2の開口予定位置4aを囲むようにダム堤体上流面3に開口21が当接するドーム体10と、ダム堤体上流側の水底部5に打設され、ドーム体10と連結されたアンカー60とから構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダム堤体の仮締切構造に関するものであり、具体的には、施工時に作用する浮力に確実に対処可能である仮締切構造の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ダム堤体上流側における堆積土砂の排砂経路、洪水調節容量増加を目的とした新たな放水経路、或いは、小水力発電機の設置領域などを確保する目的で、既存ダムの堤体に貫通穴を構築するケースが増えている。従来、既存のダム堤体に貫通穴を構築する場合、ダム堤体の上流側に水底まで達する大規模な仮設の締切工を実施し、締切構造内側をドライアップして貫通穴掘削を行っていた。しかし、こうした方法では仮設の締切構造が大がかりになり、施工期間及び施工費が増大するという問題点があった。そこで、小規模・低コストでダム水域の仮締切を可能とする技術として、例えば、ダム堤体の水域側の面に球面状止水壁を取り付けた仮締切構造(特許文献1)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−263380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の仮締切構造の技術においては、水中の半球状止水壁が水圧によりダム堤体に押圧されることで両者の間に摩擦力が発生し、これによりダム堤体への半球状止水壁の固定が図られるとの前提に立っている。一方、そうした従来の仮締切構造を実際の施工に採用した場合、内部を排水した半球状止水壁には自身の空中重量に比べて遥かに大きな浮力がかかるとの知見が、発明者らにおいて得られている。しかもこの浮力は、上述の摩擦力が十分発揮される前の、半球状止水壁の内部を排水する際に発生するものであるため、上記摩擦力により浮力に対抗することを期待するのは危険である。
他方、仮締切構造の周縁部を、貫通穴外周のダム堤体にアンカーを打設することで固定する場合、上述したような大きな浮力が仮締切構造にかかると、この浮力を受けたアンカーによる反力で、貫通穴周囲のダム堤体が損傷する懸念もある。
つまり、従来技術においては、施工に際し仮締切構造にかかる浮力について、その対策が十分考慮されていなかったのである。
【0005】
そこで本発明では、施工時に作用する浮力に確実に対処可能である仮締切構造の技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明のダム堤体の仮締切構造は、既存ダム堤体での貫通穴構築に際し用いる仮締切構造であり、前記貫通穴の開口予定位置を囲むようにダム堤体上流面に開口が当接するドーム体と、ダム堤体上流側の水底部に打設され、前記ドーム体と連結されたアンカーとからなることを特徴とする。
【0007】
こうした仮締切構造によれば、ドーム体内空の水を排水する際に生じる浮力に対し、打設済みのアンカーに反力をとってドーム体の浮き上がりを抑止することが出来る。ドーム体と連結されているアンカーは、ダム堤体上流側の水底部に打設されているものとする。この水底部としては、ダム堤体上流側の水底地盤の他、ダム堤体上流側における堤体の底部など、アンカーの打設が可能な所定構造物も含まれるものとする。
【0008】
上記構造の場合、アンカーから延びるワイヤーの先端に備わるフック等の連結具を、ドーム体外周に備わる連結受入治具(例:フッキング用のリングや孔)に連結させ、ドーム体とアンカーとを連結させる。本発明によれば、施工時に作用する浮力に確実に対処可能である仮締切構造を提供できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、施工時に作用する浮力に確実に対処可能である仮締切構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態における仮締切構造の構造例を示す全体図である。
【図2】本実施形態における仮締切構造の施工手順1を示す図である。
【図3】本実施形態における仮締切構造の施工手順2を示す図である。
【図4】本実施形態における仮締切構造の施工手順3を示す図である。
【図5】本実施形態における仮締切構造の施工手順4を示す図である。
【図6】本実施形態における仮締切構造の施工手順5を示す図である。
【図7】本実施形態における仮締切構造の施工手順6を示す図である。
【図8】本実施形態における仮締切構造の施工手順7を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態におけるダム堤体の仮締切構造の構造例を示す全体図である。本実施形態における仮締切構造100は、既存ダムの堤体1での、排砂坑などの貫通穴2の構築に際し用いる、堤体上流側の仮締切構造である。本実施形態の仮締切構造100は、図1で示すように、断面がダム堤体上流側に凸である半楕円状の構造をなすドーム体10と、このドーム体10と水底部5たる水底地盤(以下、水底地盤5とする)とを結ぶアンカー60とで構成されている。
【0012】
ドーム体10は、その開口21がダム堤体上流面3に止水材7を介して当接し、貫通穴2の開口予定位置4aを囲むものである。このドーム体10の外周上部には、給気バルブ27とマンホール28が、また外周下部には排水バルブ29がそれぞれ備わっている。
【0013】
給気バルブ27は、堤体2上の給気装置と適宜な給気経路を介して結ばれ、ドーム体10すなわち仮締切構造100の内空25に空気を導くためのバルブである。また、マンホール28は、仮締切構造100の内空25で作業を行う作業員の出入口となる開閉口である。このマンホール28は図示しないバルブを備えており、内空25とマンホール外との間の開閉が可能となっている。また、排水バルブ29は仮締切構造100の内空25から水を外部に排水するためのバルブである。
【0014】
こうしたドーム体10の外周面24には、リング状のリブ材30が備わっている。このリブ材30はドーム体10の補剛材である。こうしたリブ材30を設けることにより、ドーム体10自体の肉厚を(リブ材30の取り付け前より)薄くし、ドーム体10の軽量化を図ることが出来る。軽量化したドーム体10は運搬や設置が容易となり、その為のコストや手間も軽減される。
【0015】
このリブ材30の下端は、ダム堤体上流側における水底地盤5に打設したアンカー60との連結構造31を有している。本実施形態で例示する連結構造31は、リブ材30の下端を下方に延長したスカート状のプレート32と、このプレート32に設けられたフッキング用孔33からなっている。この場合、水底地盤5中に打設されているアンカー60(から延びるワイヤー)の先端に備わるフック61を、上述の連結構造31に備わるフッキング用孔33にフッキングさせ、連結構造31を介して、リブ材30ひいてはドーム体10とアンカー60とを連結させることができる。このような連結構造31を採用すれば、仮締切構造内空の水を排水する際に生じる浮力に対し、水底地盤5中のアンカー60に反力をとって仮締切構造100の浮き上がりを抑止することが出来る。
【0016】
上記のアンカー60は、水底地盤5に設けた孔6に鋼材等を挿入、定着させた構造となっており、アンカー体120、引張り部130、アンカー頭部140から構成されている。このうちアンカー体120は、アンカー60にかかる引張り力を水底地盤5に直接伝達するもので、孔6へのグラウト注入によって形成される。また、引張り部130は、アンカー頭部140からの引張り力をアンカー体120に伝達する部分で、PC鋼棒、PC鋼より線、多重PC鋼より線、連続繊維補強材などを材料としたテンドン131と、テンドン131の防食と摩擦損失を防ぐ機能を担うシース132から構成されている。アンカー頭部140は、テンドン131の定着具141と、これを支えて荷重を水底地盤5に伝達する支圧板142からなっている。
【0017】
なお、本実施形態では、アンカー60の打設先であるダム堤体上流側の水底部として水底地盤5を例示しているが、この水底部としては、ダム堤体上流側における堤体1の底部など、アンカー60の打設が可能な所定構造物も含まれるものとする。
【0018】
貫通穴2の施工に当たっては、ドーム体10を貫通穴2における上流側の開口4の位置(開口予定位置4a)に予め設置してアンカー60と連結の上、ドーム体10の内空25に存在する水を排水することにより、ドーム体10をダム堤体上流面3に押しつけ、作業空間を確保する。
【0019】
次に、本実施形態の仮締切構造100の施工手順について詳細に説明する。図2〜8は本実施形態における仮締切構造の各施工手順1〜7をそれぞれ示す図である。まず、図2に示すように、ドーム体10を、クレーン80で堤体上部より吊り下げて、堤体上流面3における放流管48の呑口位置となる場所(水中の仮設構台上)まで沈める(手順1)。なお、ドーム体10の内空25には放流管呑口の閉鎖ゲート扉体49(図8)等を予め載置しておくが、これらは、ともに寸法、重量ともに大きく、現地まで一体で搬入することは不可能である。よってこれらは、工場での検査終了後、施工現地まで分割して輸送し、ダム堤体近傍で組立作業を行うこととする(不図示)。また、堤体上流側の水底地盤5における、ドーム体10の設置位置には、予め潜水作業等にてアンカー60を設置しておく。
【0020】
なお、アンカー60の打設は以下のような手順で行われる。まず、アンカー挿入用の所定径の孔6をボーリングマシンで削孔し、形成した孔6にテンドン131およびシース132を挿入する。テンドン131およびシース132の挿入後、アンカー体120としてグラウトを孔6に注入し、注入後のグラウトが所定強度に達した後、引張部130への緊張付加を行う。また、引張部130の上端に支圧板142を挿通させた上で定着具141により引張部130とアンカー頭部140を一体となし、アンカー60の打設が完了する。
【0021】
手順1に続き、図3に示すように、仮締切構造100におけるドーム体10の開口21と堤体上流面3との間を止水材で挟み込んで固定するなどの水密加工を実施する(手順2)。また、上述のように予め打設してあるアンカー60を、ドーム体10の下部に備わる連結構造31に連結し、この連結構造31を介してドーム体10とアンカー60とを連結させておく。これらの作業は潜水夫による水中作業と共同して行う。
【0022】
続いて、図4に示すように、マンホール管8をクレーン81で堤体上より吊り下げて、ドーム体10のマンホール28に接続し、マンホール28に接続したマンホール管8の上端に他のマンホール管8を順次接続していく(手順3)。このマンホール管8の設置に当たっては、堤体上流側の水域に作業台船40を浮かべて作業員を配置し、クレーン81で吊下したマンホール管8の位置決め、マンホール28とマンホール管8の連結、およびマンホール管8同士の連結といった作業に当たらせる。また、マンホール管8は堤体上流面3に対し、鋼棒など適宜な転倒防止材9で一時的に固定される。
【0023】
次に、図5に示すように、作業台船40上に設置したポンプ41より、給気ホース42を伸ばしてドーム体10の給気バルブ27に接続し、ドーム体10の内空25への圧力空気の給気を開始する(手順4)。また、それとともに、ドーム体10の排水バルブ29を開き、ドーム体10の内空25に存在する水を、上述の給気による空気充填に伴って排出し、内空25をドライ状態とする。上述の圧力空気の給気に際し、ドーム体10の排水バルブ29から空気泡が噴出し始めたら、内空25において完全に排水がなされたことを意味するから、排水バルブ29および給気バルブ27を閉じ、マンホール28のバルブを開放して圧力空気を徐々に逃がし、内空25を大気圧とする。こうして内空25は大気圧となって、ドーム体10は水圧によって堤体上流面3に押圧されることになり、アンカー60と連結構造31の連結によって水中位置に留められる。
【0024】
なお、内空25の水を排水するにあたっては、内空25に予めセットしておいた水中ポンプを、上述の給気バルブ27および排水バルブ29を閉じた状態で稼働させ、マンホール管8の上端から排水を行う方法を採用しても良い。
【0025】
なお、ドーム体10の内空25の排水を行った際に発生する浮力は、ドーム体10の空中重量に比べて遥かに大きくなる。例えば、水深17mの位置に直径10000mmの開口を備えたドーム体10を設置しようとした場合、凡そ18000kNの浮力がドーム体10の空中重量に勝るという知見を発明者らは得ている。一方、水圧によってドーム体10がダム堤体上流面3に押圧されていれば、堤体上流面3とドーム体10との間に摩擦力が発生して浮力を減らすことが出来るが、この浮力は、前述の摩擦力が十分発揮される前の、内空25の水を排出する際に発生するため、上述の摩擦力により浮力に対抗することを期待するのは危険である。よって、アンカー60に関して想定する荷重は、ドーム体10にかかる全浮力分以上の大きさとする。また、この浮力対策が必要な期間はドーム体10の内空25での作業員による作業時だけであるから、仮設のアンカーとして設計する。こうしたアンカー60にはPC鋼より線を採用できる。
【0026】
続いて、図6に示すように、連結したマンホール管8のうち最上部のマンホール管8の上部に、管理歩廊43を設け、堤体1の上部より移動してきた作業員がこの管理歩廊43、マンホール管8、およびマンホール28を通ってドーム体10の内空25に入る(手順5)。内空25に入った作業員は、内空25が排水完了状態である事を確認する。一方で、堤体下流側からは、ローダー85など適宜な掘削機が貫通穴2を掘削しているものとする。内空25の排水完了状態の確認の後、ローダー85は、ドーム体10の内空25と掘削済みの貫通穴2との間に残された部位の掘削を実行する。
【0027】
この掘削が完了し、ドーム体10の内空25と貫通穴2とが貫通したならば、図7に示すように、閉鎖ゲート扉体用戸当り47およびベルマウス46の据え付けと空気管45の設置を行う(手順6)。この場合、ドーム体10の内空25に予め載置しておいた閉鎖ゲート扉体用戸当り47およびベルマウス46を堤体1に据え付け、また、貫通穴2において堤体下流から放流管48を搬入し、この放流管48を閉鎖ゲート扉体49およびベルマウス46と接続する。更に、閉鎖ゲート扉体49を閉鎖ゲート扉体用戸当り47およびベルマウス46に接続する。
【0028】
この接続の完了後、放流管48と貫通穴2の内壁との間の空隙など所定領域にコンクリートを打設しておく。また、ドーム体10の内空25で作業を行っていた作業員を、マンホール管8を介して水上の作業台船40上又は管理歩廊43上に退出させる。
【0029】
続いて、給気バルブ27、排水バルブ29を開き、ドーム体10の内空25への充水を行う。また、図8に示すように、マンホール28に連結させていたマンホール管8を順次撤去し、仮締切構造100におけるドーム体10とアンカー60との連結を解除して、ドーム体10もクレーン80によって吊り上げて撤去する(手順7)。
【0030】
このように本実施形態によれば、施工時に作用する浮力に確実に対処可能である仮締切構造を提供できる。
【0031】
本発明の実施の形態について、その実施の形態に基づき具体的に説明したが、これに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 堤体
2 貫通穴
3 ダム堤体上流面
4 開口
4a 貫通穴の開口予定位置
5 水底地盤(水底部)
6 孔
7 止水材
10 ドーム体
21 開口
24 外周面
25 内空
27 給気バルブ
28 マンホール
29 排水バルブ
30 リブ材
31 連結構造
32 プレート
33 フッキング用孔
45 空気管
46 ベルマウス
47 閉鎖ゲート扉体用戸当り
48 放流管
49 閉鎖ゲート扉体
60 アンカー
61 フック
100 仮締切構造
120 アンカー体
130 引張り部
131 テンドン
132 シース
140 アンカー頭部
141 定着具
142 支圧板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存ダム堤体での貫通穴構築に際し用いる仮締切構造であり、
前記貫通穴の開口予定位置を囲むようにダム堤体上流面に開口が当接するドーム体と、
ダム堤体上流側の水底部に打設され、前記ドーム体と連結されたアンカーと、
からなることを特徴とするダム堤体の仮締切構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−104203(P2013−104203A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247783(P2011−247783)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(000241290)豊国工業株式会社 (28)