説明

ダンス用被服

【課題】複数の異なる素材構造又は素材構成を有する生地を組み合わせてなるダンス用被服において、ダンス用被服として必要な強度を保ちつつ各々の生地の伸縮特性その他の特性を生かすことのできるダンス用被服を提供する。
【解決手段】高い伸縮性を有する生地で形成されるベース地2と、このベース地2よりも強い緊締力を有し、上記ベース地2に積層された各緊締帯3とが接着貼付して構成されたダンス用被服であって、接着貼付する際に、各緊締帯の周辺部のみを貼着部6a、6b、6cとすることにより、各々の生地の特性を生かし所望の緊締力を有するダンス用被服。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、バレエ、ジャズダンスなどにダンサーが着用するダンス用被服、いわゆるコンディショニングダンスウェアに関する。
【背景技術】
【0002】
運動用被服には、通常の被服とは異なり、単に着用するだけに止まらない、各種の運動各々に求められる付加的な機能を有しているものが多い。この付加的な機能としては、例えば吸汗作用に優れたものや、激しい身体衝突から身体を保護するといった機能などがよく知られている。
【0003】
ここでダンスにおいては、ジャンルにおいて異なる点はあるものの、総じて、四肢の上げ下げや伸縮におけるスムーズな動きや、ジャンプ、ターンといった動きにおける身体のバランスが殊に求められる。こうした四肢の動きや身体のバランスを上手くコントロールして美しい動きを体得するために、ダンサーには体の軸を意識した訓練が欠かせない。そこでこの体の軸をより強く意識させるための方法として、従来はテーピングやサポーターといった手法を用いて都度各部位の動きを適宜制限し、これにより正しい姿勢、正しい動きを体得するようにされていた。こうしたテーピングやサポーターといった手法は、元来は捻挫、関節障害、肉離れなどの怪我を未然に防止したり、また怪我をしてしまった身体部位に無用な負担がかからないようにすることを目的とするものであるが、今日では身体の制動を適切にサポートするために用いられる例も多数見受けられる。
【0004】
しかしながら、こうしたテーピングには施術に独特の技術が必要であり、施術の仕方によっては却って身体の動きを不適当に制限してしまう等逆効果となってしまう場合もある。またサポーターを着用するにしても、その着用する部位が本来の体の位置をズレてしまうと効果を発揮しない。またサポーター自体は決して重量感のあるものではないものの、被服とは別に着用するため、必要以上に着用感が生じ、結果身体のバランスを意識させる、という本来の目的に却って反することもある。
【0005】
そこで、このようなテーピングやサポーターの機能を被服に持たせた運動用被服が、特許文献1等に開示されている。これらの被服は、例えば脚部の外側や膝蓋の周辺に、緊締力に富む強い伸縮性特性を有する生地で形成されたテーピングパターンを形成するため、下半身用ダンス被服本体の生地にそのパターンを縫いあわせたり、あるいは全面的に接着させたり、裏打ちして設けてある。
【特許文献1】特公平6−41641
【特許文献2】特開2005−48332
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、緊締力の異なる素材をあわせる際、縫合に依った場合、縫合箇所が出っ張る(いわゆる、「ひびく」状態となる)ため、外形的にも体のラインが乱れ美しく見えず、また着用者にも縫合箇所の凸部が違和感を与える原因となっていた。また緊締力の異なる素材を全面的に接着させて裏打ちする場合、360度方向に伸縮する生地と上下左右方向の2方向に緊締力に富む生地との各々の生地本来の特性が発揮できないという問題があった。
【0007】
上記従来の問題点に鑑み、その解決策を種々検討した結果、本発明の目的は、性質の異なる生地を相互に貼付する際の接着方法により、筋肉を傷めることを予防したり、疲労を低減させたり、ダンサーにダンス時に身体の軸をより明確に感じさせダンスし易いようなダンス用被服を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載のダンス用被服の特徴は、ダンス用被服の所定箇所に強い緊締力を有する緊締帯が積層してあり、その緊締帯を構成する生地は、ベースとなる伸縮性素材の生地よりも緊締力が大きく、積層された緊締帯の周辺部のみが上記伸縮性素材の生地に接着手段により相互に貼付されていることにある。
【0009】
なおここで「緊締力」とは、身体を締め付け制動するよう働く生地の張力のことをいう。また貼着する手段としては、でんぷんのり・カゼイン・にかわ・ゴムなどやフェノール樹脂・ビニル樹脂・エポキシ樹脂などの合成樹脂その他任意の接着剤を用いることができる。更に、「周辺部」とは、ベースとなる伸縮性素材の生地の上に積層した緊締帯の周縁から所定の幅の部分を意味する。
【0010】
この構成によれば、緊締力、及び方向によっては伸縮性の異なる複数の素材が相互に貼付して固定される際、各々の生地の特性を必要以上に減殺することがないため、所望の部位に適切な伸縮性を備えることができる。
【0011】
また請求項2に記載のダンス用被服の特徴は、伸縮性を有する生地は360度方向に伸縮可能なマルチウェイ素材からなり、緊締帯を構成する生地は2ウェイ素材からなるものである点にある。
【0012】
ここで「360度方向に伸縮可能なマルチウェイ素材」とは、360度全ての方向に対して同一又は実質的に同一の伸縮性を有する素材を意味する。
【0013】
また請求項3に記載のダンス用被服の特徴は、前記2ウェイ素材が、上下左右に伸縮かつ緊締力を有するものであることにある。
【0014】
ここで「マルチウェイ素材」及び「2ウェイ素材」は、いずれも伸縮性を有するが、これらの伸縮性を有する素材はいずれも、ポリウレタン繊維のように伸縮性のある繊維をそのままで、または他繊維との複合糸として、織編物に用いることにより伸縮性を有する。方向による伸縮性の強弱は生地の編組織パターンにより異なる。
【0015】
この構成によれば、積層箇所に位置する身体の伸縮、捻りといった動きが、上下左右に対して強い張力が生じることにより制限され、ダンスにおける身体のバランス・動きとして望ましいバランス・動きをサポートすることができる。
【0016】
さらに緊締帯の周辺の幅としては、貼着した各々の生地の剥離防止と各生地の特長の発揮のバランスから、1cm以上であり、かつ3cm以下とすることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
このように、本発明によれば、各々異なる特徴を有する素材からなる複数の生地を周辺部のみ貼付した構成にすることにより、それぞれの生地の特徴を損なうことなく、かつ激しい動きを伴うダンス用被服として求められる強度を維持することができる。従って、身体の制動を適切に行い、ダンスにおいて重要な体の軸・バランスを体得することを容易にすることができ、かつ外形的にも美しく装着時の違和感も無いという顕著な効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0019】
図1は、この発明の具体的な実施形態を示すもので、特にバレエをする際の身体の制動を適切に行うことを意図したものである。この実施形態のダンス用被服は、ウエストライン4から踝部5まで至っている下半身用のスパッツ1である。図1(a)はスパッツ1を着用した際の体の前面から見た図であり、図1(b)は同様に体の後面から見た図である。
【0020】
スパッツ1は、ベース地2に複数の緊締帯3(ウエスト緊締帯3a、前腿緊締帯3b、脹脛緊締帯3c)を積層することによって構成されている。ベース地2は体表面に密着して着用される伸縮性素材の生地によって構成されており、緊締帯3はベース地2よりも強い緊締力を有する生地、例えば2ウェイ素材からなる生地によって構成されている。なお緊締帯3は、ベース地2の体表面側に積層されており、着用した際には外部から緊締帯3自体を視認することはできないが、説明の便宜上図示している。
【0021】
ベース地2は、スパッツ1の形状をなす基礎となる構造であり、ウエストライン4から踝部5までの体表面に密着する連続した生地で構成されている。なお必ずしも一枚の連続した生地で構成する必要はなく、縫合により複数の生地を縫い合わせたものであっても良い。このベース地2に、各緊締帯3(ウエスト緊締帯3a、前腿緊締帯3b、脹脛緊締帯3c)を積層する。以下では各緊締帯3につき説明する。
【0022】
ウエスト緊締帯3aは、図1(a)に示すように、ウエストライン4の下、下腹部から両体側部を経て、図1(b)に示すように、臀部の下から内太腿に至るらせん帯状の形状を有している。このように下腹部から外向きらせん状に緊締力が生じることにより、体のバランスを感じる上で重要な腰部付近の力を着用者に意識させ、望ましい体勢をとることを促す。なおこのウエスト緊締帯3aは、後述する前腿緊締帯3bと重複部分が生じている(図1(a)におけるA部)。このように重複して積層した部分においては、一層強い緊締力が生じる。このため本実施例においては、体側部がいわばカッチリと固められた感覚を着用者は感じることができ、体の重心、バランスをより強く意識することが可能となる。
【0023】
前腿緊締帯3bは、図1(a)に示すように、内腿膝上付近から前腿を通り、体側部、高さにして股関節に相当する位置(前述の重複部分A部)に向かって斜めに上がっていく帯状の形状を有している。このように内腿から外側へ向かって作用する緊締力により、ターンアウトの動作を行い易いようにしている。なおターンアウトとは、股関節からつま先までを大きく外側に開く(外旋)、バレエの基本動作のことをいう。
【0024】
脹脛緊締帯3cは、図1(b)に示すように膝関節部内側からふくらはぎを通り、更に図1(a)に示すように向うずね下部を経てらせん状に脚を略一周する帯状の形状を有している。このようにらせん状に緊締力がかかることにより、ふくらはぎの力のかかり方が整えられる。
【0025】
また、各緊締帯3の周縁部分(ハッチングで示した箇所)は、ベース地2と、これに積層させた各緊締帯3、或いは各緊締帯3同士を相互に貼着して接着させる貼着部6a、6b、6cとなっている。重複部分Aにおいては、ベース地2、ウエスト緊締帯3aを構成する生地、及び前腿緊締帯3bを構成する生地とを積層して接着させている。このように、生地同士の接着は、生地と生地とを全面的に接着させるのではなく、積層する生地の周縁部から1cmないし3cm、より好ましくは1.5cmから2cmの幅に限定して行う。このような接着方法をとることにより、生地同士の接着強度を維持しつつ、積層した各生地の特性を損なうことを防止することができる。
【0026】
以上述べてきた実施形態においては、積層する各々の生地の特性を生かしつつ、更にダンス用被服として種々の激しい動きに耐えうる強度は維持しつつ、特にバレエの動作に際して適切な身体の動きのサポートを行うことが可能である。
【0027】
上記実施例においては、特にバレエの動作に適した形態を有するダンス用被服について述べたが、これに限らず、例えばジャズダンスやダンスエクササイズに適したダンス用被服にも適用することができる。
【0028】
図2は、本発明の第二の実施形態にかかるダンス用被服であり、特にジャズダンスやダンスエクササイズにおける動作をサポートするのに適した構成を有している。この実施形態のダンス用被服は、ウエストライン14から踝部15までを覆うスパッツ11である。
【0029】
ベース地12は体表面に密着して着用される伸縮性素材の生地によって構成されている。このベース地12を裏打ちする形で、ウエスト緊締帯13a、前腿緊締帯13bを図示するような形状に積層することにより、腹部が適度に締め付けられ、また臀部が下から支えられ、理想的なシルエットを形成するとともに、ももの中心を意識させ、骨盤を両脚でしっかり支えるのに適した位置に補正されることで膝にかかる負担が軽減される。かかる実施形態においても、積層する生地の貼着部16a、16bは各緊締帯の周縁部分の一定幅のみとしていることで、各生地の伸縮特性を損なわず、またダンス用被服として求められる強度も保つことができる。
【0030】
このように、ダンスのジャンルによって各緊締帯3、13を設ける身体部位は異なっても、生地と生地とを貼付する際の貼着部6a、6b、6c、16a、16bを各緊締帯3、13の周縁部分の一定幅とすることにより、各生地を構成する素材の特性を生かしたダンス用被服が提供可能となる。
【0031】
以上の実施例としては、下半身用の被服、いずれもスパッツについて説明したが、これに限られず、上半身用のダンス用ウェア、或いは上下が一体となったダンス用レオタード等任意の形状を有するダンス用被服に適用可能である。

【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第一の実施例であるダンス用被服を示したものであり、(a)は正面図、(b)は背面図である。
【図2】本発明の第二の実施例であるダンス用被服を示したものであり、(a)は正面図、(b)は背面図である。
【符号の説明】
【0033】
1、11 スパッツ
2、12 ベース地(伸縮性素材の生地)
3、13 緊締帯
3a、13a ウエスト緊締帯
3b、13b 前腿緊締帯
3c 脹脛緊締帯
4、14 ウエストライン
5、15 踝部
6a、6b、6c、16a、16b
貼着部
A 重複部分



【特許請求の範囲】
【請求項1】
体表面に密着して着用される伸縮性素材の生地によって構成されているダンス用被服において、
上記ダンス用被服の所定箇所には、強い緊締力を有する緊締帯が積層してあり、
上記緊締帯を構成する生地は、上記伸縮性素材の生地よりも緊締力が大きく、
積層された上記緊締帯の周辺部のみが上記伸縮性素材の生地に接着手段により相互に貼付されている
ことを特徴とするダンス用被服。
【請求項2】
請求項1において、上記伸縮性を有する生地は360度方向に伸縮可能なマルチウェイ素材からなり
上記緊締帯を構成する生地は2ウェイ素材からなるものである
ことを特徴とするダンス用被服。
【請求項3】
請求項2において、2ウェイ素材とは上下左右に伸縮かつ緊締力を有するものであることを特徴とするダンス用被服。
【請求項4】
上記緊締帯の周辺の幅とは、この緊締帯の周縁から1cm〜3cmであることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれかに記載のダンス用被服。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−239160(P2007−239160A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−66963(P2006−66963)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000109288)チャコット株式会社 (7)
【Fターム(参考)】