説明

ダンパ及びダンパを用いた木構造

【課題】パネル部材を設けた木造軸組パネル構法や木造枠組壁構法を用いた木構造に対して優れた制振効果を発揮するとともに、設置箇所に制限を受けないダンパおよびダンパを用いた木構造を提供する。
【解決手段】ダンパ1は、パネル部材13に固定具(木ねじ5)にて固定される第一の高剛性部材2と、縦架材11の側面11aに木ねじ5にて固定される第二の高剛性部材3と、第一の高剛性部材2と第二の高剛性部材3の対向部3aとの間に、粘弾性を有する高減衰ゴムからなる板状の減衰材4を挟み込み、加硫接着によって一体に固着される。
このダンパ1を木造フレームFの仕口部や縦架材中央部に設置することによって、地震などの揺れにより木造フレームFに横方向の力が作用した場合、パネル部材13にかかる力を減衰材4のせん断変形により吸収し、木造フレームFの揺れを抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造住宅等の木構造に用いられるダンパ及び当該ダンパを用いた木構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、戸建木造住宅などの木構造においては、耐震性を向上させるため、縦架材(柱など)と横架材(土台や梁など)に補強用金物を固定し、剛性を高める構造とするのが一般的である。このような耐震型の補強用金物に対し、粘弾性体を配する構造とすることにより、地震の揺れを吸収・軽減し、建物の倒壊を防ぐ制振型の補強用金物(「制振金物」や「ダンパ」とも呼ばれる)が提案されている。(例えば、特許文献1)。
【0003】
この特許文献1に記載の制振金物は、縦架材のおもて面に固定される第一の鋼板と、この第一の鋼板よりも大きく横架材のおもて面に固定される第二の鋼板と、これらの鋼板間に配置される減衰材とを備え、これらが接着により一体構造となっている。この制振金物は、従来の横架材と縦架材のみの木造軸組構造に対して剛性及び減衰性能ともに効果を発揮する。
【0004】
一方、近年、木造建築物において従来の柱や梁などの軸材(線材)のみで組まれた木造軸組構造以外に、様々な木構造が用いられている。
【0005】
例えば、柱や梁などの軸材を組んで骨組みを構成し、当該骨組みで構成された面に、耐力壁としてパネル部材(薄板パネルの両側に柱材を配した構造用合板)を組み合わせて構成された木造軸組パネル構造や、欧米で一般的なツーバイフォー構法(木造枠組壁構法)と呼ばれる、規定の木材でフレーム状に組まれた構造に合板を打ち付けて、壁や床(いわゆる面材)で建物を支える木構造である。
【0006】
これら比較的新しい木構造は、従来の木造軸組構造が線(線材)で建物を支持しているのに対し、面(面材)で建物を支持しているため高い耐震性を備えており、阪神大震災や新潟中越地震などで、建物の新旧を問わず、大きな被害を生じなかったことからも証明されている。一方、従来の木造軸組構造の建築物は、倒壊したものや、大きな被害を生じたものが多かった。
【0007】
今後、耐震性を考慮すると、木造軸組パネル構法や木造枠組壁構法を用いた木構造が増加していくと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−336260号(第4頁〜第5頁、第1図、第4図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の制振金物は、従来の木造軸組構造の接合部(横架材と縦架材の接合部)に対して設置するものであって、前記した木造軸組パネル構法や木造枠組壁構法などを用いた木構造への設置は考慮されていない。
【0010】
また、特許文献1の明細書中には、筋交いを設けた木造軸組構造の仕口部に設置可能な実施例など、種々記載されているが(第4図や第8図)、これら制振金物も、やはり木造軸組パネル構法や木造枠組壁構法を用いた木構造への設置は考慮されていない。さらに、横架材や縦架材とパネル部材との設置に際し、これら木材の面が合わず段差が生じている場合にも使用できない。
【0011】
以上のように、特許文献1に記載の制振金物は、これら木造軸組パネル構法や木造枠組壁構法などを用いた木構造に対して設置できない等、設置箇所が制限されるといった課題がある。
【0012】
また、特許文献1の制振金物は、各架材の外側に飛び出した形で設置する構造であるため、外壁や構造用合板などの外装材と干渉するといった課題もある。
【0013】
一方、特許文献1には前記制振金物を設置した木造住宅の接合部の構造が提案されているが、この構造についても前記同様、木造軸組パネル構法や木造枠組壁構法などを用いた木構造への設置は考慮されていない。
【0014】
そこで、本発明のダンパは、木造軸組パネル構法や木造枠組壁構法などを用いた木構造にも設置可能であって、優れた制振効果を発揮するとともに設置箇所の制限が少なく、かつ、従来よりも剛性・耐力をより向上したダンパ及びダンパを用いた木構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の請求項1にかかるダンパは、横架材と縦架材と左右両側に柱材を配したパネル部材とを有する木構造において用いられるダンパであって、前記柱材に固定具により固定される第一の高剛性部材と、粘弾性を有する減衰材と、 前記縦架材の側面に固定具により固定される一つの側辺部と前記減衰材を介して前記第一の高剛性部材に対向する対向部とを有する第二の高剛性部材とを備え、これらが積層され一体に固着されていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、パネル部材が設けられている耐力壁の木造フレームに対し、建物の揺れなどにより横方向から力が加わった場合、パネル部材にかかる力を減衰材がせん断変形することにより吸収することができる。つまり、建物が受ける地震や強風などの揺れによるエネルギーを、減衰材のせん断変形によって吸収し、建物の揺れを抑制することができる。
【0017】
しかも、本発明のダンパは、木造フレームの内側に設置する構造であるため、横架材や縦架材とパネル部材との設置に際し、木材の面に段差が生じている場合にも設置することができ、設置箇所の制限を受けることがなく、外壁や構造用合板などの外装材との干渉も回避することができる。ここで、縦架材とは木構造の骨子となる柱や束など、横架材とは梁や桁、胴差し、土台などをいう。
【0018】
さらに、本発明のダンパは、縦架材とパネル部材のみに固定して取付けできるため、従来のダンパと異なり木造フレームの角隅以外、例えば縦架材の中間位置などにも設置することができる。
【0019】
また、第一及び第二の高剛性部材としては、例えば鋼板や金属板、FRP等の合成樹脂板などを用いることができる。減衰材としては、例えば高減衰ゴム、ポリウレタンゴム、ブチルゴムなどを用いることができる。第一及び第二の高剛性部材と減衰材との定着は、例えば加硫接着や接着剤による固着などを用いることができる。
【0020】
ここで、高減衰ゴムとは、等価減衰定数heqが5〜40%、せん断弾性率Gが0.1〜2.0N/mm2のゴムであり、高減衰ゴムを用いる場合には、好ましくは、等価減衰定数heqが15〜25%、せん断弾性率Gが0.3〜1.2N/mm2のものを用いるとよい。
【0021】
なお、高減衰ゴムの原料ゴムとしては、特に特定されるものではないが、天然ゴムやIR、SBR、BR、EPDM、NBR、IIR等の合成ゴムから選ばれる1種以上の原料ゴムを使用できる。また、クマロン樹脂、カーボンブラック等の一般的に使用されているゴム薬品(ゴム補強材)を必要に応じて添加してもよい。
【0022】
以上のように、減衰材は、ゴム組成物として特殊な原材料を使用するものではないため、安価に製造することができる。
また、第一及び第二の高剛性部材としては、例えば鋼板や金属板、FRP等の合成樹脂板などが、減衰材としては、例えば高減衰ゴム、ポリウレタンゴム、ブチルゴムなどをそれぞれ用いることができる。第一及び第二の高剛性部材と減衰材との定着は、例えば加硫接着や接着剤による固着などを用いることができる。
【0023】
請求項2にかかるダンパは、前記対向部が、前記第一の高剛性部材及び前記減衰材よりも大きく形成され、前記対向部と前記減衰材と前記第一の高剛性部材とが積層されて一体に固着されており、前記対向部の周縁と、前記第一の高剛性部材及び前記減衰材との間にクリアランスが形成される構成としてもよい。
【0024】
この構成によれば、ダンパを設置した際、第二の高剛性部材の対向部周縁と、第一の高剛性部材及び減衰材の周縁との間にクリアランスが形成されるため、減衰材が縦架材やパネル部材に干渉せず、せん断変形することができる。したがって、地震などの揺れによるエネルギーを効率良く吸収し、建物の変形を抑え、揺れを抑制することができる。
【0025】
請求項3にかかるダンパは、前記第二の高剛性部材において、前記側辺部が前記対向部と直交し、前記第一の高剛性部材側と反対方向に突出して設けられていることが望ましい。
【0026】
この構成によれば、パネル部材を配した木構造においては、通常縦架材の側面とパネル部材の柱材のおもて面が直交しているため、一般的な木構造への設置に対し制限が少なく、当該ダンパの設置が容易である。なお、「前記側辺部が前記対向部と直交し」とは、例えば鋼板などを折り曲げることにより成形した断面略L字形状のものを示す。
【0027】
請求項4にかかるダンパは、前記第一の高剛性部材に、その積層方向に貫通する複数の取付孔を設け、前記減衰材及び前記対向部に、貫通孔を前記取付孔に対応する位置に配し、前記側辺部に複数の取付孔を設けたことを特徴とする。
【0028】
この構成によれば、前記第二の高剛性部材側から貫通孔を通り取付孔を介して、前記第一の高剛性部材を前記柱材に容易に固定できる。
【0029】
また、前記第一の高剛性部材の複数の取付孔を設けているため、前記パネル部材の設置位置に応じて、使用する取付孔を適宜選択することができる。
【0030】
前記複数の取付孔は、例えば前記第一の高剛性部材の中央列付近に2列または3列に配する構成や、側辺部側を底辺とした略三角形状様となるように取付孔を5個、3個、1個の順に配するような構成とすればよい。
【0031】
なお、取付孔はパネル部材との設置が可能であればよいため、例えば前記第一の高剛性部材の左右両端部付近などに取付孔を設けなくともよい。このように取付孔を減らせば、前記第一の高剛性部材自体の剛性を高めることもできる。前記第二の高剛性部材及び前記減衰材に設ける貫通孔についても同様である。
【0032】
請求項5にかかるダンパによれば、横架材と縦架材と左右両側に柱材を配したパネル部材とを有する木構造の仕口部において用いられるダンパであって、前記柱材に固定具により固定される第一の高剛性部材と、粘弾性を有する減衰材と、前記縦架材の側面と前記横架材の水平面との間に固定具により固定される少なくとも二つの側辺部と前記減衰材を介して前記第一の高剛性部材に対向する対向部とを有する第二の高剛性部材とを備え、これらが積層され一体に固着されていることを特徴とする。
【0033】
この構成のダンパは、前記請求項1〜4のダンパがパネル部材の柱材と縦架材に固定して設置するのに対し、主に木構造の仕口部に設置するダンパであって、パネル部材の柱材と縦架材に加え、横架材にも固定する。具体的には、第一の高剛性部材と前記柱材とを固定し、第二の高剛性部材の一つの側辺部と縦架材の側面とを、別の一つの側辺部と横架材の水平面とを固定することにより設置する。
【0034】
なお、このダンパを設置した場合の効果については、前記請求項1のダンパと同様、パネル部材が設けられている耐力壁の木造フレームに対し、建物の揺れなどにより横方向から力が加わった場合、パネル部材にかかる力を減衰材がせん断変形することにより吸収することができる。つまり、建物が受ける地震や強風などの揺れによるエネルギーを、減衰材のせん断変形によって吸収し、建物の揺れを抑制することができる。
【0035】
さらに、木造フレームの内側に設置する構造であるため、横架材や縦架材とパネル部材との設置に際し、木材の面に段差が生じている場合にも設置でき、設置箇所の制限が少なく、外壁や構造用合板などの外装材との干渉も回避することができる。
【0036】
請求項6にかかるダンパは、前記対向部が、前記第一の高剛性部材及び前記減衰材よりも大きく形成され、前記対向部と前記減衰材と前記第一の高剛性部材とが積層され一体に固着されており、前記対向部の周縁と、前記第一の高剛性部材及び前記減衰材の周縁との間にクリアランスが形成されるように配置してもよい。
【0037】
この構成によれば、ダンパを設置した際、第二の高剛性部材の対向部周縁と、第一の高剛性部材及び減衰材の周縁との間にクリアランスが形成されるため、減衰材が縦架材やパネル部材に干渉せず、せん断変形することができる。したがって、地震などの揺れによるエネルギーを効率良く吸収し、建物の変形を抑え、揺れを抑制することができる。
【0038】
請求項7にかかるダンパは、前記第二の高剛性部材において、前記縦架材及び前記横架材に固定するための側辺部が前記対向部と直交し、前記第一の高剛性部材側と反対方向に突出して設けることとしてもよい。
【0039】
この構成によれば、前記第二の高剛性部材を前記縦架材の側面及び前記横架材の水平面に固定する際、前記第一の高剛性部材や減衰材及びパネル部材等に干渉することなく、施工性が良くなる。
【0040】
請求項8にかかるダンパは、前記第一の高剛性部材に、その積層方向に貫通する複数の取付孔を設け、 前記減衰材及び前記対向部に、貫通孔を前記取付孔に対応する位置に配し、前記側辺部に複数の取付孔を設けたことを特徴とする。
【0041】
この構成によれば、前記第二の高剛性部材側から貫通孔を通り取付孔を介して、前記第一の高剛性部材を前記柱材に容易に固定できる。
【0042】
また、前記第一の高剛性部材の複数の取付孔を設けているため、前記パネル部材の設置位置に応じて、使用する取付孔を適宜選択することができる。
【0043】
前記複数の取付孔は、例えば前記第一の高剛性部材に散在する構成としたり、前記第一の高剛性部材の中央列付近に2列または3列に配する構成とすればよい。
【0044】
なお、取付孔はパネル部材との設置が可能であればよいため、例えば前記第一の高剛性部材の左右両端部付近等に取付孔を設けなくともよい。このように取付孔を減らせば、前記第一の高剛性部材自体の剛性を高めることもできる。前記第二の高剛性部材及び前記減衰材に設ける貫通孔についても同様である。
【0045】
一方、前記第二の高剛性部材の側辺部には、複数の取付孔が設けられており、ネジ等の固定具を用いて、縦架材側面に容易に固定することができる。
【0046】
請求項9にかかる木構造は、横架材と縦架材と左右両側に柱材を配したパネル部材と請求項1〜4のいずれか1に記載のダンパとを有する木構造であって、前記ダンパの第一の高剛性部材が前記柱材に固定具により固定され、前記ダンパの側辺部が前記縦架材の側面のみに固定具により固定されていることを特徴とする。
【0047】
この構成によれば、木構造に前記請求項1〜4のダンパを用いることで、制振効果を備えた木構造とすることができる。
【0048】
なお、当該ダンパは、例えば木構造の角隅4箇所に設けたり、縦架材の左右中央部に設けたり、これら双方に設けたりすることもできる。これら設置位置や設置数は、木構造の剛性や減衰量に応じて、適宜選択すればよく、いずれの場合にも制振効果が期待できる。
【0049】
請求項10のように、本発明にかかる木構造の仕口部において、請求項5〜8のいずれか1に記載のダンパを用いてもよい。
【0050】
請求項11のように、本発明にかかる木構造の仕口部において、請求項5〜8のいずれか1に記載のダンパを用い、前記木構造の両側辺において、請求項1〜4のいずれか1に記載のダンパを用いた構造としてもよい。
【発明の効果】
【0051】
本発明にかかるダンパ及びダンパを用いた木構造によれば、建物の揺れを緩やかに、かつ早期に止めることができるため、建物の倒壊を効果的に防ぐことができる。
【0052】
しかも、従来の木造軸組構法以外の木造軸組パネル構法や木造枠組壁構法を用いた木構造にも設置可能であり、かつ、従来と比較して設置箇所の制限を受けにくいため、新築であるか否かに関わらず設置でき、木構造の補強が容易に行える。
【0053】
また、外壁や構造用合板などの外装材と干渉しないため外壁の施工も容易となる。
【0054】
さらに、ダンパにクリアランスを設け、減衰材のせん断変形を拘束しない構造にすれば、揺れのエネルギーをより効率良く吸収し、大きな地震等にも強い木構造の構築が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】(a)は本発明の実施例1にかかるダンパ1の正面図、(b)は同左側面図、(c)は同底面図である。
【図2】木造フレームに実施例1のダンパ1を設置した斜視図である。
【図3】図2における仕口部の拡大図である。
【図4】図3における縦架材中央部の拡大図である(クリアランスを明らかにするため、上面を切断している)。
【図5】(a)は図2におけるAA線断面図、(b)はパネル部材の取付位置が異なる場合の説明図である。
【図6】(a)はダンパ1の変形例(ダンパ1α)を示す正面図、(b)は同左側面図、(c)は同底面図である。
【図7】(a)はダンパ1の変形例(ダンパ1β)を示す正面図、(b)はダンパ1の変形例(ダンパ1γ)を示す正面図である。
【図8】(a)は本発明の実施例2にかかるダンパ101の正面図、(b)は同左側面図、(c)は同底面図である。
【図9】木造フレームに実施例2のダンパ101を設置した斜視図である。
【図10】図9における仕口部の拡大図である。
【図11】(a)は図10におけるBB線断面図、(b)はパネル部材の取付位置が異なる場合の説明図である。
【図12】(a)はダンパ101の変形例(ダンパ101α)を示す正面図、(b)は同左側面図、(c)は同底面図である。
【図13】(a)はダンパ101の変形例(ダンパ101β)を示す正面図、(b)はダンパ101の変形例(ダンパ101γ)を示す正面図である。
【図14】木造フレームに実施例1のダンパ1及び実施例2のダンパ101を設置した場合の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
本発明にかかるダンパ及びダンパを用いた木構造の実施形態について、図1〜図14を用いて説明する。
【実施例1】
【0057】
[ダンパ1の構成]
図1は本発明にかかるダンパ1の構成を示す図である。ダンパ1は、鋼板からなる第一の高剛性部材2と第二の高剛性部材3との間に、粘弾性を有する高減衰ゴムからなる板状の減衰材4を挟み込み、加硫接着によって一体に定着したものである。
【0058】
第一の高剛性部材2は、四隅に面取加工を施した略正方形状に形成されている。第二の高剛性部材3は、第一の高剛性部材2よりも一回り大きい略正方形状の対向部3aと、対向部3aの四辺のうちの一辺縁部に端部をL型に屈曲させた側辺部3bとにより形成されている。また、減衰材4は、第一の高剛性部材2よりもやや小さい略正方形状に形成されている。
【0059】
そして、第一の高剛性部材2と減衰材4と第二の高剛性部材3の対向部3aとを順に、それぞれの中心を一致させた状態で積層し、加硫接着により一体に定着している。また、一体化する際、第一の高剛性部材2及び減衰材4は第二の高剛性部材3に対して、積層方向(正面方向)から見て、第二の高剛性部材3の対向部3aの周縁と、第一の高剛性部材2及び減衰材4との間にクリアランスが形成されるように定着されている。
【0060】
このように構成されているダンパ1は、厚み方向に貫通する複数の取付孔1zが設けられている。これら取付孔1zは、第一の高剛性部材2に設けられた取付孔2zと、第二の高剛性部材3の対向部3aと減衰材4とにそれぞれ設けられた貫通孔3z、4zとを、加硫接着の際に配置を一致させることにより構成したもので、第二の高剛性部材3及び減衰材4の貫通孔3z、4zは、第一の高剛性部材2の取付孔2zよりもやや大径になっており、取付孔2zにはネジ止めのための座ぐりが設けられている(第5図(a)参照)。
【0061】
また、取付孔1zは、例えば側辺部3b側から、5個、3個、1個の順で略三角形状様に所定の間隔をあけて設けられている。このように取付孔1zを配置することで、パネル部材の種々の設置位置に応じて、取付孔1zを適宜選択できるようになっている(第5図(b)参照)。
【0062】
なお、ダンパ1の構造は上記に限定されるものではなく、例えば図6に記載のダンパ1αのように第一の高剛性部材2と第二の高剛性部材3の対向部3aを略同寸としたり、取付孔1zの配置を図7に記載のダンパ1βや1γとしてもよい。
【0063】
一方、第二の高剛性部材3の側辺部3bには、取付孔3yが8個設けられ、略M字形に所定の間隔で配置されている。
【0064】
建築基準法によると、木構造の仕口部において、ダンパと横架材及び縦架材との固定に使用できる固定具(ネジ)の合計数が規定されている(例えば、5本や8本など)。
【0065】
本例のダンパ1は横架材12とは固定せず、縦架材11とパネル部材13にのみ固定する構造であるため、従来のダンパにおいて横架材との固定に用いられていた固定具(数)分を、縦架材との固定に用いる固定具(数)分にまわし、全体の固定具数を変更しないよう取付孔3yを構成している。
【0066】
具体的には、取付孔3yの数を、建築基準法の仕口部におけるダンパ1と縦架材11及び横架材12との固定に使用できる固定具数以上設けることとすればよい。
【0067】
例えば、建築基準法で使用できる固定具数が8本と規定されている場合、従来のダンパであれば縦架材11への取付孔が4個、横架材への取付孔が4個といった構成であったところ、本発明のダンパ1では側辺部3bに8個又はそれ以上の取付孔を設けることとすればよい。なお、側辺部3b自体の剛性との兼ね合いがあるため、あまりに多数の取付孔3yを設けることは好ましくない。
【0068】
そこで、本例のダンパ1においては、取付孔3yを8個設けることとしている。
【0069】
[ダンパ1の設置例]
次に、このダンパ1を木造フレームへ設置する設置方法の説明を行う。
【0070】
図2は木造建築物の耐力壁となる木造フレームFの正面図であり、図3は図2における仕口部の拡大図、図4は同縦架材中央部の拡大図であり、図5(a)は図2におけるAA線断面図である。符号11は縦架材、符号12は横架材(土台)、符号13はパネル部材、符号14は基礎、符号15は横架材(梁)を示す。
【0071】
パネル部材13は、合板やベニヤ板などの板材13aとその両側に配した柱材13bとからなり、パネル部材13と縦架材11及び横架材12との間に隙間C1が生じるように配置する。木造フレームFの各仕口部及び縦架材11の左右両中央部において、第一の高剛性部材2を柱材13bのおもて面に当接させるとともに、第二の高剛性部材3の側辺部3bを縦架材11の側面11aに当接させた状態で配置する。そして、側辺部3bの取付孔3yに木ねじ5をねじ込み、側辺部3bを縦架材11に固定し、また、ダンパ1の厚み方向に貫通している取付孔1zのうち、柱材13bに対向する取付孔1zに、第二の高剛性部材3側から木ねじ5をねじ込み、第一の高剛性部材2を柱材13bに固定する。
【0072】
このようにしてダンパ1を各仕口部及び縦架材11の左右両中央部に設置すれば、パネル部材13と縦架材11及び横架材12との間に隙間C1が形成された状態で、パネル部材13と縦架材11及び横架材12とがダンパ1を介して結合された状態になる(図2参照)。
【0073】
なお、ダンパ1の設置位置については、木構造の剛性や減衰量に応じて適宜選択することができ、上記以外にも、各仕口部にのみ設置してもよいし、縦架材11の左右両中央部にのみ設置してもよいし、縦架材11の中央部以外の位置に設置してもよい。
【0074】
[ダンパ設置の作用効果]
この木造建築物が地震などによる揺れを受け、木造フレームFに横方向(水平方向)の揺れ(力)が発生すると、木造フレームFの変形に伴ってパネル部材13に力が作用する。そうすると、パネル部材13に固定されたダンパ1の減衰材4が、パネル部材13に作用する力によりせん断変形することによって、木造フレームFにかかる地震等のエネルギーを効率良く吸収し、揺れを抑える。こうして、建物の揺れを効果的に抑えることによって、早期に揺れを止めることができ、建物の倒壊を防止・抑制することができる。
【0075】
さらに、ダンパ1は、木造フレームFの内側に設置されるため、外壁や構造用合板などの外装材に干渉せず、外装材の施工を容易に行うことができる。
【0076】
なお、ダンパ1の設置については、設置位置や設置数を適宜変更することにより、建築物の剛性や減衰量などの調整を容易に行うことができる。
【実施例2】
【0077】
図8は、本発明にかかるダンパ1と別の実施例のダンパ101を示しており、図8(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は底面図を示している。ダンパ101は、鋼板からなる第一及び第二の高剛性部材102、103間に、粘弾性を有する高減衰ゴムからなる板状の減衰材104を挟み込み、加硫接着によって一体に定着したものである。
【0078】
第二の高剛性部材103は、第一の高剛性部材102よりも一回り大きい略正方形状の対向部103aと、対向部3aの四辺のうち隣接する一組の辺の縁部の端部をL型に屈曲させた側辺部103b、103cとにより形成されている。側辺部103b、103cには、取付孔3yがそれぞれ4個設けられ、これら取付孔103yは長手方向に所定の間隔で、かつ隣接する取付孔103yと幅方向に位置をずらした状態で配置されている。一方、減衰材104は、第一の高剛性部材102よりもやや小さい略正方形状に形成されている。
【0079】
そして、第一の高剛性部材102と減衰材104と第二の高剛性部材103の対向部103aとを順に、それぞれの中心を一致させた状態で積層し、加硫接着により一体に定着している。また、一体化する際、第一の高剛性部材102及び減衰材104は第二の高剛性部材103に対して、積層方向(正面方向)から見て、第二の高剛性部材103の対向部103aの周縁と、第一の高剛性部材102及び減衰材104との間にクリアランスが形成されるように定着されている。
【0080】
このように構成されているダンパ101には、厚み方向に貫通する複数の取付孔101zが設けられている。これら取付孔101zは、第一の高剛性部材102に設けられた取付孔102zと、第二の高剛性部材103の対向部103aと減衰材104とにそれぞれ設けられた貫通孔103z、104zとを、加硫接着の際に配置を一致させることにより構成したもので、第二の高剛性部材103及び減衰材104の貫通孔103z、104zは、第一の高剛性部材102の取付孔102zよりもやや大径になっており、取付孔102zにはネジ止めのための座ぐりが設けられている。
【0081】
また、取付孔101zは、散在して設けられている。このように取付孔101zを配置することで、パネル部材の種々の設置位置に応じて、固定に用いる取付孔101zを適宜選択できるようになっている(図11(b)参照)。
【0082】
なお、ダンパ101の構造は上記に限定されるものではなく、例えば図12に記載のダンパ101αのように第一の高剛性部材102と第二の高剛性部材103の対向部103aを略同寸としたり、取付孔101zの配置を図13に記載のダンパ101βや101γとしてもよい。
【0083】
[ダンパ101の設置例]
次に、このダンパ101の設置方法の説明を行う。
【0084】
図9は木造建築物の耐力壁となる木造フレームF’の斜視図であり、図10(a)は図9における仕口部の拡大図であり、図11(a)は図9におけるBB線断面図である。符号111は縦架材、符号112は横架材(土台)、符号113はパネル部材、符号114は基礎、符号115は横架材(梁)を示す。
【0085】
パネル部材113は、合板やベニヤ板などの板材113aとその両側に配した柱材113bとからなり、パネル部材113と縦架材111及び横架材112との間に隙間C101が生じるように配置する。木造フレームF’の各仕口部及び縦架材111の左右両中央部において、第一の高剛性部材102を柱材113bのおもて面に当接させるとともに、第二の高剛性部材103の側辺部103bを縦架材111の側面111aに、側辺部103cを横架材112の水平面112aに、当接させた状態で配置する。そして、側辺部103b及び103cの取付孔103yに木ねじ105をねじ込み、縦架材111及び横架材112に固定する。また、ダンパ101の厚み方向に貫通している取付孔101zのうち、柱材113bに対向する取付孔101zに、第二の高剛性部材103側から木ねじ105をねじ込み、第一の高剛性部材102を柱材113bに固定する。
【0086】
このようにしてダンパ101を各仕口部に設置すれば、パネル部材113と縦架材111及び横架材112との間に隙間C101が形成された状態で、パネル部材113と縦架材111及び横架材112とがダンパ101を介して結合された状態となる(図9参照)。
【0087】
なお、ダンパ101を設置した場合の作用効果については、実施例1と同様であるため記載を省略する。
【0088】
[その他の設置例]
前記実施例1及び実施例2で記載したダンパの設置例以外にも、木構造の剛性や減衰量に応じて、ダンパ1とダンパ101を組み合わせた構造とすることもできる。
【0089】
具体的には、図14に示すように、木造フレームF’’の各仕口部にダンパ101を設置し、縦架材の左右両中央部にダンパ1を設置する。
【0090】
また、木構造の剛性を高めたい場合には、横架材及び縦架材とパネル部材との間に隙間(C1やC101)を設けずに配置したうえで、ダンパ1やダンパ101を設置してもよい。このような構成とすれば、高い剛性を確保し、ある程度の制振効果を有する木構造とすることができる。
【符号の説明】
【0091】
1、101 ダンパ
1z、101z 取付孔
2、102 第一の高剛性部材
2z、102z 取付孔
3、103 第二の高剛性部材
3a、103a 対向部
3b、103b、103c 側辺部
3y、103y 取付孔
3z、103z 貫通孔
4、104 減衰材
4z、104z 貫通孔
5、105 木ねじ
11、111 縦架材
11a、111a 縦架材側面
12、112 横架材(土台)
13、113 パネル部材
13a、113a 板材
13b、113b 柱材
14、114 基礎
15、115 横架材(梁)
C1、C101 隙間
F、F’、F’’ 木造フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横架材と縦架材と左右両側に柱材を配したパネル部材とを有する木構造に用いるダンパであって、
前記柱材に固定具により固定される第一の高剛性部材と、
粘弾性を有する減衰材と、
前記縦架材の側面に固定具により固定される一つの側辺部と前記減衰材を介して前記第一の高剛性部材に対向する対向部とを有する第二の高剛性部材とを備え、
これらが積層され一体に固着されているダンパ。
【請求項2】
前記対向部が、前記第一の高剛性部材及び前記減衰材よりも大きく形成され、
前記対向部と前記減衰材と前記第一の高剛性部材とが積層され一体に固着されており、
前記対向部の周縁と、前記第一の高剛性部材及び前記減衰材の周縁との間にクリアランスが形成されるように配置した請求項1に記載のダンパ。
【請求項3】
前記第二の高剛性部材において、前記側辺部が前記対向部と直交し、前記第一の高剛性部材側と反対方向に突出して設けられている請求項1又は2に記載のダンパ。
【請求項4】
前記第一の高剛性部材に、その積層方向に貫通する複数の取付孔を設け、
前記減衰材及び前記対向部に、貫通孔を前記取付孔に対応する位置に配し、
前記側辺部に複数の取付孔を設けた請求項1〜3のいずれか1に記載のダンパ。
【請求項5】
横架材と縦架材と左右両側に柱材を配したパネル部材とを有する木構造の仕口部に用いるダンパであって、
前記柱材に固定具により固定される第一の高剛性部材と、
粘弾性を有する減衰材と、
前記縦架材の側面と前記横架材の水平面とに固定具により固定される少なくとも二つの側辺部と、前記減衰材を介して前記第一の高剛性部材に対向する対向部とを有する第二の高剛性部材とを備え、
これらが積層され一体に固着されているダンパ。
【請求項6】
前記対向部が、前記第一の高剛性部材及び前記減衰材よりも大きく形成され、
前記対向部と前記減衰材と前記第一の高剛性部材とが積層され一体に固着されており、
前記対向部の周縁と、前記第一の高剛性部材及び前記減衰材の周縁との間にクリアランスが形成されるように配置した請求項5に記載のダンパ。
【請求項7】
前記第二の高剛性部材において、前記縦架材及び前記横架材に固定するための側辺部が前記対向部と直交し、前記第一の高剛性部材側と反対方向に突出して設けられている請求項5又は6記載のダンパ。
【請求項8】
前記第一の高剛性部材に、その積層方向に貫通する複数の取付孔を設け、
前記減衰材及び前記対向部に、貫通孔を前記取付孔に対応する位置に配し、
前記側辺部に複数の取付孔を設けた請求項5〜7のいずれか1に記載のダンパ。
【請求項9】
横架材と縦架材と左右両側に柱材を配したパネル部材と請求項1〜4のいずれか1に記載のダンパとを有する木構造であって、
前記ダンパの第一の高剛性部材が前記柱材に固定具により固定され、
前記ダンパの側辺部が前記縦架材の側面のみに固定具により固定されている木構造。
【請求項10】
横架材と縦架材と左右両側に柱材を配したパネル部材と請求項5〜8のいずれか1に記載のダンパとを有する木構造であって、
仕口部において、
前記ダンパの第一の高剛性部材が前記柱材の端部に固定具により固定され、
前記ダンパの側辺部の一つが前記縦架材の側面に固定具により固定され、別の一つが横架材の水平面に固定具により固定されている木構造。
【請求項11】
横架材と縦架材と左右両側に柱材を配したパネル部材と請求項1〜4のいずれか1に記載のダンパと請求項5〜8のいずれか1に記載のダンパとを有する木構造であって、
前記請求項1〜4のいずれか1に記載のダンパの第一の高剛性部材が前記柱材に固定具により固定され、側辺部が前記縦架材の側面のみに固定具により固定され、
仕口部において、前記請求項5〜8のいずれか1に記載のダンパの第一の高剛性部材が前記柱材の端部に固定具により固定され、側辺部の一つが前記縦架材の側面に固定され、別の側辺部の一つが横架材の水平面に固定されている木構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−157728(P2011−157728A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20516(P2010−20516)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】