説明

チイラン化合物及びその硬化物

【課題】屈折率とアッベ数とが共に高く光学樹脂の材料として有用であるチイラン化合物の提供。
【解決手段】下記式(1)等で表される構造を有するチイラン化合物。


式中、X1及びX2は、それぞれ独立して酸素原子又は硫黄原子であるがX1及びX2の少なくとも1つは硫黄原子であり、そしてY1〜Y4は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チイラン化合物及びその製造方法、並びに硬化性樹脂組成物及び硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
光学樹脂材料は、軽量で靭性が高いことから、透明樹脂基板用途及びプラスチックレンズ用途等、従来ガラスが用いられてきた分野において広範囲に利用されている。また、光学樹脂材料は、成形性に優れることから、LED等の発光素子の透明封止材としての利用も進んでいる。
【0003】
半導体装置、実装基板、及びLED発光素子等の電子材料用途においては、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル(ダイセル化学工業株式会社製、商品名:セロキサイド2021P)に代表されるような、脂肪族環状構造を有する多官能エポキシ化合物が、透明性、耐熱性、機械強度、及び電気絶縁性等に優れることから広範囲に利用されている。また近年では、より高い耐熱性の付与、光効率の向上及び波長依存性の抑制を目的として、より高度な熱機械特性及び光学特性が求められており、中でも、高い屈折率と高いアッベ数とを併せ持つ光学樹脂材料の要求が高まっている。
【0004】
ところで、光学樹脂材料の屈折率を向上させる手法として、従来はフェニル基等の芳香族環構造の導入が一般的であり、代表的なものとしてビスフェノールAを原料とする芳香族系ポリカーボネート樹脂の使用が知られている。しかし、一般的な樹脂の光学特性は、屈折率1.50〜1.62、アッベ数30〜60の範囲内でトレードオフの関係にあることから、アッベ数を高い値に維持したまま屈折率を向上させることは困難であり、光学樹脂材料として要求される、高屈折率かつ高アッベ数である光学樹脂の開発が精力的に進められている。
【0005】
近年、屈折率及びアッベ数をバランス良く向上させる手法として、硫黄原子を構造中に導入する手法が示されており、これまでに、チオウレタン樹脂、ポリチオール化合物、チイラン化合物、含硫黄オレフィン化合物等の含硫黄光学樹脂材料が報告されている。中でも、エポキシ化合物の酸素原子を硫黄原子へと変換させたチイラン化合物においては、硬化物の屈折率が1.70を超えるものが報告されており、また、適切な硬化剤の存在下、比較的容易に硬化反応が進行する等、反応性及び成形性にも優れることから、より広範囲な用途での利用が期待されている(特許文献1〜3参照)。
【0006】
また、チップボンディング組成物への適用を意図して、シクロヘキサン骨格にチイラン環が縮環した構造を有する脂肪族環状チイラン化合物が一般式として開示されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平09−110979号公報
【特許文献2】特開平09−255781号公報
【特許文献3】国際公開第WO2001070853号パンフレット
【特許文献4】米国特許第US7108920号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜4に記載されたチイラン化合物はいずれも、高い屈折率と高いアッベ数とを有する光学樹脂を実現するという観点からは、なお改良の余地を有するものであった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、屈折率とアッベ数とが共に高い光学樹脂を製造するための原料として有用であるチイラン化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、例えば特定の構造を有するエポキシ化合物に対して適切なチイラン化剤を作用させることにより得ることができる、後述する特定の構造の脂肪族環状チイラン化合物が、予想外に高い屈折率と高いアッベ数とを有することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は以下の通りである。
【0011】
[1] 下記式(1):
【化1】

[式中、X1及びX2は、それぞれ独立して酸素原子又は硫黄原子であるがX1及びX2の少なくとも1つは硫黄原子であり、そしてY1〜Y4は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基である。]で表される構造、又は下記式(2):
【化2】

[式中、X3及びX4は、それぞれ独立して酸素原子又は硫黄原子であるがX3及びX4の一方が硫黄原子、他方が酸素原子であり、そしてY5〜Y10は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基である。]で表される構造を有する、チイラン化合物。
[2] 上記式(1)中、Y1、Y3及びY4が水素原子であり、かつY2が水素原子又はメチル基である、上記[1]に記載のチイラン化合物。
[3] 上記式(2)中、Y5、Y7、Y8及びY10が水素原子であり、かつY6及びY9がそれぞれ独立して水素原子又はメチル基である、上記[1]に記載のチイラン化合物。
[4] 上記[1]〜[3]のいずれかに記載のチイラン化合物と、硬化剤とを含有する、硬化性樹脂組成物。
[5] 上記[4]に記載の硬化性樹脂組成物を光及び熱の少なくともいずれかで硬化処理することにより得られる、硬化物。
[6] 光波長589nmにおける屈折率が1.55以上1.70以下であり、かつアッベ数が45以上60以下である、上記[5]に記載の硬化物。
[7] 上記[1]〜[3]のいずれかに記載のチイラン化合物の製造方法であって、下記式(3):
【化3】

[式中、Y11〜Y14は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基である。]で表される構造、又は下記式(4):
【化4】

[式中、Y15〜Y20は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基である。]で表される構造を有するジエポキシ化合物に対して、チオ尿素を作用させることによって、該ジエポキシ化合物の少なくとも1つのエポキシ基をエピチオ基に変換する工程を含む、チイラン化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、屈折率とアッベ数とが共に高い光学樹脂を製造するための原料として有用であるチイラン化合物及びその製造方法が提供される。本発明によれば、本発明のチイラン化合物を含有する硬化性樹脂組成物を用いることにより、高い屈折率と高いアッベ数とを併せ持つ硬化物を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1及び2で用いたエポキシ化合物E−1の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図2】実施例1で得られたチイラン化合物T−1の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図3】実施例2で得られたチイラン化合物T−2の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【図4】実施例5で得られたチイラン化合物T−4の1H−NMRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲内で種々変形して実施することができる。
【0015】
<チイラン化合物>
本発明の一態様は、下記式(1):
【化5】

[式中、X1及びX2は、それぞれ独立して酸素原子又は硫黄原子であるがX1及びX2の少なくとも1つは硫黄原子であり、そしてY1〜Y4は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基である。]で表される構造、又は下記式(2):
【化6】

[式中、X3及びX4は、それぞれ独立して酸素原子又は硫黄原子であるがX3及びX4の一方が硫黄原子、他方が酸素原子であり、そしてY5〜Y10は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基である。]で表される構造を有するチイラン化合物を提供する。式(1)で表される構造は、チイラン骨格を有するとともに任意にエポキシ骨格を有し、式(2)で表される構造は、チイラン骨格及びエポキシ骨格の両者を有する。本発明に係るチイラン化合物は、シクロヘキサン骨格とチイラン環とを共に有し、更に特定の態様においてはシクロヘキサン骨格にチイラン環が縮環した構造を有する。アッベ数の低下を抑制する効果を有する脂環式構造に対して、原子屈折の大きな硫黄原子を導入した脂肪族環状チイラン化合物であることにより、高い屈折率と高いアッベ数とを両立できる。チイラン化合物が上記(1)又は(2)で表される構造を有することは、例えばプロトン核磁気共鳴(1H−NMR)スペクトル分析によって確認できる。
【0016】
式(1)において、X1及びX2のいずれかが硫黄原子である場合、X1及びX2のいずれが硫黄原子であってもよいが、好ましい態様としては、X1が酸素原子であり、かつX2が硫黄原子であるモノチイラン化合物、又はX1及びX2が共に硫黄原子であるジチイラン化合物が挙げられる。これらは、後述されるように、チイラン化剤であるチオ尿素の使用モル量、溶剤の種類及び反応温度を適宜選択することにより、同一の原料であるジエポキシ化合物から製造することが可能である。
【0017】
式(1)において、Y1〜Y4で表される、炭素数1以上4以下のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等が挙げられ、それぞれ独立に選択される。中でも、原料であるジエポキシ化合物の入手が容易であるという観点から、Y1、Y3及びY4が水素原子であり、Y2が水素原子又はメチル基であることが好ましい。
【0018】
式(2)において、X3及びX4の一方が硫黄原子、他方が酸素原子であり、X3及びX4のいずれが硫黄原子であってもよい。一般的に、ジエポキシ化合物のチイラン化反応において同等の反応性を有する2つのエポキシ基の一方のみを選択的にチイラン化することは困難であり、多くの場合において混合物の状態で合成単離され、そのまま使用される。
【0019】
式(2)において、Y5〜Y10で表される、炭素数1以上4以下のアルキル基としては、例えば、Y1〜Y4に関して上記で列挙したのと同様の基、即ちメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等を用いることができる。中でも、原料であるジエポキシ化合物の入手が容易であるという観点から、Y5、Y7、Y8及びY10が水素原子であり、Y6及びY9がそれぞれ独立して水素原子又はメチル基であることが好ましい。
【0020】
本発明に係るチイラン化合物の具体的な例としては、例えば、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸2,3−エピチオプロピル、3,4−エポキシ−4−メチルシクロヘキサンカルボン酸2,3−エピチオプロピル、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸2,3−エピチオプロピル、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸1−メチル−2,3−エピチオプロピル、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸1,1−ジメチル−2,3−エピチオプロピル、3,4−エポキシ−4−メチルシクロヘキサンカルボン酸1−メチル−2,3−エピチオプロピル、3,4−エポキシ−4−メチルシクロヘキサンカルボン酸1,1−ジメチル−2,3−エピチオプロピル、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸1−メチル−2,3−エピチオプロピル、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸1,1−ジメチル−2,3−エピチオプロピル、3,4−エピチオシクロヘキサンカルボン酸2,3−エピチオプロピル、3,4−エピチオ−4−メチルシクロヘキサンカルボン酸2,3−エピチオプロピル、3,4−エピチオ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸2,3−エピチオプロピル、3,4−エピチオシクロヘキサンカルボン酸1−メチル−2,3−エピチオプロピル、3,4−エピチオシクロヘキサンカルボン酸1,1−ジメチル−2,3−エピチオプロピル、3,4−エピチオ−4−メチルシクロヘキサンカルボン酸1−メチル−2,3−エピチオプロピル、3,4−エピチオ−4−メチルシクロヘキサンカルボン酸1,1−ジメチル−2,3−エピチオプロピル、3,4−エピチオ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸1−メチル−2,3−エピチオプロピル、3,4−エピチオ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸1,1−ジメチル−2,3−エピチオプロピル、3,4−エピチオシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル、3,4−エピチオ−4−メチルシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル、3,4−エピチオ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル、3,4−エピチオシクロヘキサンカルボン酸1−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル、3,4−エピチオシクロヘキサンカルボン酸2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−2−プロピル、3,4−エピチオシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エポキシ−4−メチルシクロヘキシル)メチル、3,4−エピチオシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル)メチル、
【0021】
3,4−エピチオ−4−メチルシクロヘキサンカルボン酸1−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル、3,4−エピチオ−4−メチルシクロヘキサンカルボン酸2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−2−プロピル、3,4−エピチオ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸1−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル、3,4−エピチオ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−2−プロピル、3,4−エピチオシクロヘキサンカルボン酸1−(3,4−エポキシ−4−メチルシクロヘキシル)エチル、3,4−エピチオシクロヘキサンカルボン酸2−(3,4−エポキシ−4−メチルシクロヘキシル)−2−プロピル、3,4−エピチオシクロヘキサンカルボン酸1−(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル)エチル、3,4−エピチオシクロヘキサンカルボン酸2−(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル)−2−プロピル、3,4−エピチオ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル)メチル、3,4−エピチオ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸1−(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル)エチル、3,4−エピチオ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸2−(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル)−2−プロピル、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エピチオシクロヘキシル)メチル、3,4−エポキシ−4−メチルシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エピチオシクロヘキシル)メチル、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エピチオシクロヘキシル)メチル、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸1−(3,4−エピチオシクロヘキシル)エチル、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸2−(3,4−エピチオシクロヘキシル)−2−プロピル、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エピチオ−4−メチルシクロヘキシル)メチル、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エピチオ−6−メチルシクロヘキシル)メチル、3,4−エポキシ−4−メチルシクロヘキサンカルボン酸1−(3,4−エピチオシクロヘキシル)エチル、3,4−エポキシ−4−メチルシクロヘキサンカルボン酸2−(3,4−エピチオシクロヘキシル)−2−プロピル、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸1−(3,4−エピチオシクロヘキシル)エチル、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸2−(3,4−エピチオシクロヘキシル)−2−プロピル、
【0022】
3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸1−(3,4−エピチオ−4−メチルシクロヘキシル)エチル、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸2−(3,4−エピチオ−4−メチルシクロヘキシル)−2−プロピル、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸1−(3,4−エピチオ−6−メチルシクロヘキシル)エチル、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸2−(3,4−エピチオ−6−メチルシクロヘキシル)−2−プロピル、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エピチオ−6−メチルシクロヘキシル)メチル、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸1−(3,4−エピチオ−6−メチルシクロヘキシル)エチル、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸2−(3,4−エピチオ−6−メチルシクロヘキシル)−2−プロピル等が挙げられ、特に好ましくは、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸2,3−エピチオプロピル、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸2,3−エピチオプロピル、3,4−エピチオシクロヘキサンカルボン酸2,3−エピチオプロピル、3,4−エピチオ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸2,3−エピチオプロピル、3,4−エピチオシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル、3,4−エピチオ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル)メチル、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エピチオシクロヘキシル)メチル、及び3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エピチオ−6−メチルシクロヘキシル)メチルを挙げることができる。
【0023】
<チイラン化合物の製造方法>
本発明に係るチイラン化合物は、例えば以下に説明するような方法によって製造できる。本発明の別の態様は、上述した本発明のチイラン化合物の製造方法であって、下記式(3):
【化7】

[式中、Y11〜Y14は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基である。]で表される構造、又は下記式(4):
【化8】

[式中、Y15〜Y20は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基である。]で表される構造を有するジエポキシ化合物に対して、チオ尿素を作用させることによって、該ジエポキシ化合物の少なくとも1つのエポキシ基をエピチオ基に変換する工程を含む、チイラン化合物の製造方法を提供する。より具体的には、上記の方法において、上記の特定構造を有するジエポキシ化合物に対してチオ尿素を主剤(すなわちジエポキシ化合物と反応させる主成分)として作用させることにより、本発明所定の構造を有するチイラン化合物を得ることができる。上記式(3)で表される構造を有するジエポキシ化合物を用いる場合には上記式(1)で表される構造を有するチイラン化合物が、上記式(4)で表される構造を有するジエポキシ化合物を用いる場合には上記式(2)で表される構造を有するチイラン化合物が、それぞれ得られる。ジエポキシ化合物が上記(3)又は(4)で表される構造を有することは、例えばプロトン核磁気共鳴(1H−NMR)スペクトル分析によって確認できる。
【0024】
式(3)において、Y11〜Y14で表される、炭素数1以上4以下のアルキル基としては、例えば、Y1〜Y4について上記で列挙したのと同様の基、即ちメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等が挙げられ、それぞれ独立に選択される。中でも、入手が容易であるという観点から、Y11、Y13及びY14が水素原子であり、Y12が水素原子又はメチル基であることが好ましい。
【0025】
一方、式(4)において、Y15〜Y20で表される、炭素数1以上4以下のアルキル基としては、例えば、Y11〜Y14について上記で列挙したのと同様の基、即ちメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等を用いることができる。中でも、入手が容易であるという観点から、Y15、Y17、Y18及びY20が水素原子であり、Y16及びY19がそれぞれ独立して水素原子又はメチル基であることが好ましい。
【0026】
ジエポキシ化合物の具体的な例としては、例えば、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸2,3−エポキシプロピル、3,4−エポキシ−4−メチルシクロヘキサンカルボン酸2,3−エポキシプロピル、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸2,3−エポキシプロピル、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸1−メチル−2,3−エポキシプロピル、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸1,1−ジメチル−2,3−エポキシプロピル、3,4−エポキシ−4−メチルシクロヘキサンカルボン酸1−メチル−2,3−エポキシプロピル、3,4−エポキシ−4−メチルシクロヘキサンカルボン酸1,1−ジメチル−2,3−エポキシプロピル、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸1−メチル−2,3−エポキシプロピル、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸1,1−ジメチル−2,3−エポキシプロピル、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル、3,4−エポキシ−4−メチルシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸1−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−2−プロピル、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エポキシ−4−メチルシクロヘキシル)メチル、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル)メチル、3,4−エポキシ−4−メチルシクロヘキサンカルボン酸1−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル、3,4−エポキシ−4−メチルシクロヘキサンカルボン酸2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−2−プロピル、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸1−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−2−プロピル、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸1−(3,4−エポキシ−4−メチルシクロヘキシル)エチル、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸2−(3,4−エポキシ−4−メチルシクロヘキシル)−2−プロピル、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸1−(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル)エチル、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸2−(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル)−2−プロピル、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル)メチル、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸1−(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル)エチル、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸2−(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル)−2−プロピル等が挙げられ、中でも入手が容易であるという観点から、特に好ましくは、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸2,3−エポキシプロピル、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸2,3−エポキシプロピル、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル、及び3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル)メチルを挙げることができる。
【0027】
チオ尿素を用いてジエポキシ化合物のチイラン化を行う方法としては、例えば、ジエポキシ化合物を水溶性有機溶媒又は水に溶解させてなる溶液を調製したのち、該溶液にチオ尿素を添加し、適切な反応温度にて混合撹拌することによってジエポキシ化合物のエポキシ基をエピチオ基に変換して、目的とするチイラン化合物を得る方法が挙げられる。
【0028】
上記チイラン化反応に用いられるチオ尿素の使用モル量は、原料として用いるジエポキシ化合物中のエポキシ基の合計モル量に対する相対比率で0.4倍以上、1.2倍以下の範囲であることが好ましい。上記相対比率が0.4倍以上である場合、チイラン化反応が良好に進行する。一方、上記相対比率が1.2倍を超えて増大してもチイラン化反応の進行程度に影響が殆どなく、上記相対比率が1.2倍以下であることが製造コストの観点から有利である。なお、上記相対比率が1.0倍以上である場合、ジエポキシ化合物のエポキシ基が2つともチイラン化する反応が進行しやすい。
【0029】
チオ尿素を用いたチイラン化反応において、使用する溶媒により、反応性は劇的に変化する。溶媒が水である場合には、ジエポキシ化合物中の2つのエポキシ基のうち、1つだけが選択的にチイラン化される。一方、溶媒が水溶性の有機溶媒である場合には、ジエポキシ化合物中の2つのエポキシ基のうち、2つともチイラン化される。よって、例えばジエポキシ化合物中のエポキシ基を2つともチイラン化することを目指す場合には水溶性の有機溶媒を使用する等、所望のチイラン化合物に応じて溶媒を適宜選択できる。
【0030】
本明細書において、水溶性の有機溶媒とは、原料であるジエポキシ化合物を1質量%以上溶解させる溶解度を有する有機溶媒を意味する。水溶性の有機溶媒は、上記の溶解度を有するとともに、例えば、硫黄原子の脱離反応により生成するオレフィン化合物等の副生成物を発生させないものが好ましい。好適な水溶性の有機溶媒としては、具体的にはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。特に好ましい有機溶媒としては、チオ尿素と原料であるジエポキシ化合物との両方に対する溶解性が優れるとともに反応活性が良好であるという観点から、アルコール類の有機溶媒が挙げられる。
【0031】
チイラン化反応における溶媒の使用量には特に制限はないが、通常、原料であるジエポキシ化合物100質量部に対し、100質量部以上10000質量部以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは200質量部以上1000質量部以下、さらに好ましくは300質量部以上700質量部以下である。上記使用量が100質量部以上であれば良好な溶解性が得られ、10000質量部以下であれば良好な反応速度が得られる。
【0032】
チイラン化の際の反応温度は通常、5℃以上90℃以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは15℃以上60℃以下、さらに好ましくは20℃以上50℃以下、最も好ましくは25℃以上50℃以下である。反応温度が5℃以上であれば良好な反応速度を得られ、90℃以下であればチイランの硫黄原子脱離反応に代表される副反応を抑制できる。
【0033】
チイラン化の際の反応時間は、目的とするチイラン化変換率、所望する副反応抑制の程度等により適宜決定することができる。反応時間は、通常は10分間以上20時間以下が好ましく、より好ましくは1時間以上8時間以下、さらに好ましくは1時間以上5時間以下、最も好ましくは1.5時間以上、4時間以下である。反応時間が10分間以上であれば良好なチイラン化変換率が得られ、20時間以下であれば副反応を良好に抑制できる。
【0034】
尚、上記の反応温度と反応時間との間の関係については、上記の条件の中でも、反応温度が低いほど反応時間を長くすることが特に好ましい。
【0035】
チイラン化により得られたチイラン化合物は、有機溶媒又は水から分離回収する。分離回収方法としては、通常使用される分離回収方法及び精製方法を採用することができる。例えばチイラン化反応において有機溶媒を用いる場合の例では、該有機溶媒と混合可能でかつチイラン化合物を溶解させる別の有機溶媒による抽出、及びシリカゲルによるカラムクロマトグラフィーが可能である。上記の抽出に使用される有機溶媒として、例えばトルエン、シクロヘキサノン等を例示することができる。カラムクロマトグラフィーは、例えば酢酸エチル:ヘキサン=1:9(体積比)の混合溶液を展開溶媒として用いることで、目的とするチイラン化合物を高効率で分離回収することができる。
例えば上記のような方法によって、本発明に係るチイラン化合物を製造できる。
【0036】
<硬化性樹脂組成物>
本発明の別の態様は、上述したような本発明のチイラン化合物と、硬化剤とを含有する、硬化性樹脂組成物を提供する。硬化剤としては、光、熱等の作用によりチイラン化合物と反応して架橋構造を形成する化合物、又は、チイラン化合物に作用して重合反応を促進する化合物を典型的に使用できる。例えば、エポキシ化合物の硬化剤として従来公知のものを本発明における硬化剤として使用できる。より具体的には、例えば、アミン系硬化剤、ポリアミド樹脂硬化剤、イミダゾール系硬化剤、リン系硬化剤、ポリメルカプタン硬化剤、酸無水物硬化剤、光硬化剤、及びその他の従来公知の硬化剤が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
【0037】
アミン系硬化剤としては、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン、及び変性アミンが挙げられる。脂肪族アミンとしては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロピレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、N−アミノエチルピペラジン、BASF社製ラミロンC−260、CIBA社製Araldit HY−964、メンセンジアミン、イソフォロンジアミン、新日本理化株式会社製ワンダミンHM、新日本理化株式会社製ワンダミンCHE−20P、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ピペリジン、N,N−ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、及びその塩類(例えばサンアプロ株式会社製U−CAT SA−1、SA−102、SA−506、SA−603、SA−810、SA−831、SA−841、SA−851、SA−881)、サンアプロ株式会社製U−CAT 18X、12XD等が挙げられる。
【0038】
芳香族アミンとしては、例えば、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、m−キシレンジアミン、キシレンジアミン三量体、各種キシレンジアミン誘導体等が挙げられる。
【0039】
変性アミンとしては、例えば、ポリアミンとエポキシ樹脂との複合体(例えば株式会社スリーボンド製Three Bond 2102、2131B)、上記脂肪族アミンとメチルエチルケトン、イソブチルケトン等のケトン化合物とから得られるケトイミン化合物等が挙げられる。
【0040】
ポリアミド樹脂硬化剤としては、例えば、1級及び2級のアミンを含むポリアミドアミン(例えば株式会社スリーボンド製Three Bond 2105、2105C、2105F、2107)等が挙げられる。
【0041】
イミダゾール系硬化剤としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウム・トリメリテート、ビスフェノールAグリシジルエーテルとイミダゾールとの複合体等が挙げられる。
【0042】
リン系硬化剤としては、例えば、トリフェニルホスフィン、亜リン酸トリフェニル、テトラフェニルホスフィンブロマイド等が挙げられる。
【0043】
ポリメルカプタン硬化剤としては、例えば、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサ(3−メルカプトプロピオネート)、トリス[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]イソシアヌレート、ジエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、液状ポリメルカプタン(例えば株式会社スリーボンド製、ThRee Bond 2086B)、ポリスルフィド樹脂(例えば株式会社スリーボンド製、ThRee Bond 2104)等が挙げられる。
【0044】
酸無水物硬化剤としては、例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、グリセロールトリストリメリテート、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルブテニルテトラヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水コハク酸、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物、ポリアジピン酸無水物、ポリセバシン酸無水物、ポリ(フェニルヘキサデカン二酸)無水物、ポリ(エチルオクタデカン二酸)無水物、シクロヘキセンジカルボン酸無水物、ヘキサヒドロ−4,7−メタノ−2−ベンゾフラン−1,3−ジオン、メチルヘキサヒドロ−4,7−メタノ−2−ベンゾフラン−1,3−ジオン、無水メチルハイミック酸等が挙げられる。これら酸無水物硬化剤の使用においては、必要に応じて、アミン系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、リン系硬化剤、ルイス酸硬化剤等を硬化促進剤として併用することが望ましい。
【0045】
光硬化剤とは、光照射により分解してカチオン等の活性種を発生し、チイラン化合物及びエポキシ化合物に作用してこれらを硬化させる化合物であり、例えば、対アニオンとしてPF6-、SbF6-、AsF6-等を有するジアリルヨードニウム塩、トリアリルスルホニウム塩(例えばサンアプロ株式会社製CPI−100P、101A、200K、210S、株式会社ADEKA製アデカオプトマーSP−150,152,170,172、三新化学工業株式会社製サンエイドSI−60L、80L、100L、110L、150L)等が挙げられる。光硬化剤を使用する場合においても、光照射後に適切な熱処理を行うことが望ましい。
【0046】
その他の硬化剤としては、ルイス酸、ジシアンジアミド、有機酸ヒドラジド化合物、炭化水素基を有するスルホニウム塩(例えば株式会社ADEKA製アデカオプトンCP−66、77)、アレン−イオン錯体、アルミニウムキレート化合物、スルホン酸エステル、イミドスルホネート等が挙げられる。
【0047】
硬化剤の配合量は、チイラン化合物100質量部に対して、0.1質量部以上20質量部以下であることが好ましい。上記配合量が0.1質量部以上であれば、架橋反応による硬化が良好に進行し、20質量部以下であれば硬化物の着色等の影響が少ない傾向となるため好ましい。
【0048】
本発明に係る硬化性樹脂組成物は、更に、硬化剤存在下での硬化処理工程においてチイラン化合物と反応可能な硬化性化合物を含有していても良い。硬化性化合物としては、多官能エポキシ化合物、多官能ビニル化合物、酸無水物、イオウ含有化合物等が挙げられる。これらの硬化性化合物は1種で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
多官能エポキシ化合物としては、例えば、ジシクロペンタジエンジオキサイド、リモネンジオキサイド、アジピン酸ジ(3,4−エポキシシクロヘキシル)、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸2,3−エポキシプロピル、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸2,3−エポキシプロピル、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル)メチル、エチレン−1,2−ジ(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、ビシクロヘキサ−3,3’−ジエンジオキシド等の環状脂肪族骨格を有するエポキシ化合物、グリシジルメタクリレート、2−メチル−グリシジルメタクリレート、3,4−エポキシイソプレニルメタクリレート等のエポキシ化アクリレート及びメタクリレート、1,3,5−トリス(2,3−エポキシプロピル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H、3H、5H)−トリオン等の三官能エポキシ化合物、各種ビスフェノールのジグリシジルエーテル、芳香環水添ビスフェノールのグリシジルエーテル、ノボラック型フェノール樹脂のグリシジルエーテル、多環芳香族のグリシジルエーテル、エポキシ基を有するシリコーン化合物等が挙げられる。
【0050】
多官能ビニル化合物としては、例えば、ジシクロペンタジエン、リモネン、ジ(3−シクロヘキセニル)アジペート、(3−シクロヘキセニル)メチル−3−シクロヘキセンカルボキシレート、(6−メチル−3−シクロヘキセニル)メチル−6−メチル−3−シクロヘキセンカルボキシレート、エチレン−1,2−ジ(3−シクロヘキセンカルボキシレート)、ビシクロヘキサ−3,3’−ジエン等の環状脂肪族骨格を有するビニル化合物、ビニルメタクリレート、アリルメタクリレート、2−メチル−ビニルメタクリレート、2−メチル−アリルメタクリレート等のビニル化アクリレート及びメタクリレート、1,3,5−トリアリル−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H、3H、5H)−トリオン等の三官能ビニル化合物、各種ビスフェノールのビニル及びアリルエーテル、芳香環水添ビスフェノールのビニル及びアリルエーテル、ノボラック型フェノール樹脂のビニル及びアリルエーテル、多環芳香族のビニル及びアリルエーテル、ビニル基を有するシリコーン化合物、アリル基を有するシリコーン化合物等が挙げられる。
【0051】
酸無水物としては、例えば、ポリアゼライン酸無水物、ポリアジピン酸無水物、ドデセニル無水コハク酸、ポリセバシン酸無水物、ポリ(フェニルヘキサデカン二酸)無水物、ポリ(エチルオクタデカン二酸)無水物等の脂肪族カルボン酸無水物及びそのカルボン酸、シクロヘキセンジカルボン酸無水物、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物、ヘキサヒドロ−4,7−メタノ−2−ベンゾフラン−1,3−ジオン、メチルヘキサヒドロ−4,7−メタノ−2−ベンゾフラン−1,3−ジオン、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルハイミック酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等の脂環式カルボン酸無水物、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコールビストリメリテート、グリセロールトリストリメリテート等の芳香族カルボン酸無水物等が挙げられる。
【0052】
イオウ含有化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサ(3−メルカプトプロピオネート)、トリス[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]イソシアヌレート、ジエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、液状ポリペルカプタン(例えば株式会社スリーボンド製、ThRee Bond 2086B)、ポリスルフィド樹脂(例えば株式会社スリーボンド製、ThRee Bond 2104)等が挙げられる。
【0053】
上記硬化性化合物の使用量は、チイラン化合物100質量部に対して、10質量部以上1000質量部以下であることが好ましい。上記使用量については、目的とする硬化物の屈折率及びアッベ数に合わせて調節可能である。
【0054】
<硬化物>
本発明の別の態様は、上述した本発明の硬化性樹脂組成物を光及び熱の少なくともいずれかで硬化処理することにより得られる、硬化物を提供する。なお上記の硬化処理とは、具体的には、前述の硬化剤の存在下、チイラン化合物、又はチイラン化合物と硬化性化合物との混合物を、光及び熱の少なくともいずれかで処理して硬化させる処理を意味する。硬化処理方法としては従来公知の方法を用いることができる。一般的には、熱エネルギー単独による反応の工程、又は光照射後に熱エネルギーで反応を促進する工程が用いられるが、特に限定されない。具体的な硬化条件としては、特に限定されないが、例えば圧縮成形機を用いた真空下における50〜300℃での熱処理、又は自動搬送式の光硬化装置を用いた露光量0.1〜100J/cm2での光照射等の条件を例示できる。
【0055】
本発明に係る硬化物は、高度な光学品位を達成する。具体的には、高い屈折率と高いアッベ数とを満足する。光学素子の小型軽量化、及び光効率の向上に良好に寄与するという観点から、光波長589nmにおいて、硬化物の屈折率は1.55以上1.70以下であることが好ましい。また、屈折率の波長依存性(分散)を抑制するという観点から、アッベ数は45以上60以下であることが好ましい。このように、本発明の硬化物は高い屈折率と高いアッベ数とを同時に満足する良好な光学特性を有することから、光学フィルム、プラスチックレンズ、及び透明封止材として特に有用である。硬化物の屈折率及びアッベ数は、プリズムカプラーを使用して測定される値である。具体的には、硬化物の波長532nm、632.8nm及び824nmでの屈折率の測定結果からコーシーの式を利用して屈折率の波長分散図を求め、波長589nmの屈折率を求める。同様に、波長546.1nmでの屈折率(ne)、488nmでの屈折率(nF’)、及び643.9nmでの屈折率(nC’)を求め、アッベ数=(ne−1)/(nF’−nC’)の式に代入してアッベ数を求める。
【0056】
なお、上述した各種パラメータは、特に断りの無い限り、後述する実施例における具体的な測定方法に準じて測定される。
【実施例】
【0057】
次に、実施例及び比較例により本発明をより詳細に説明する。以下に述べる実施例は本発明の理解を容易にするために代表的な化合物の一例を挙げたものであり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0058】
(1)プロトン核磁気共鳴(1H−NMR)スペクトル
エポキシ化合物、及びチイラン化合物の濃度が約5〜10wt%になるように、これらをそれぞれ重水素化クロロホルムに溶解し、得られた溶液のプロトン核磁気共鳴スペクトル(本明細書において「1H−NMRスペクトル」ともいう。)を日本電子株式会社製、JNM−ECX400 FT−NMR装置を用いて16回積算することにより測定した。標準物質にはテトラメチルシラン(TMS)を用いた。
【0059】
(2)カラムクロマトグラフィー
反応混合物に対して、質量比で約20〜100倍量のシリカゲル(和光純薬工業株式会社製、Wakosil C−200)を、少量の展開溶媒(ヘキサン−酢酸エチルの混合溶液、体積比20:1)を用いて円筒状のガラス製カラム管に充填した。次に、シリカゲル層の最上部に、反応混合物を必要最小限の展開溶媒に溶解したサンプル溶液を充填し、展開溶媒を流して溶出させた。薄膜クロマトグラフィー(TLC)を用いて、目的とする化合物のUV吸収バンドが確認できる成分を回収し、ロータリーエバポレータで溶媒を留去することにより目的とする化合物を得た。
【0060】
(3)化合物の屈折率
25℃の恒温室に設置した株式会社アタゴ製アッベ屈折計「DR−M2」を使用し、25℃での波長589nmにおけるチイラン化合物及びエポキシ化合物の屈折率(実測屈折率)を求めた。
【0061】
(4)硬化物の屈折率及びアッベ数
硬化物の屈折率及びアッベ数は、25℃の恒温室に設置したメトリコン社製モデル2010プリズムカプラーを使用して求めた。サンプルとしては、一昼夜、測定を実施する25℃の恒温室で養生した板状サンプルを使用した。板状サンプルの、同装置による波長532nm、632.8nm及び824nmの屈折率の測定結果からコーシーの式を利用して屈折率の波長分散図を求め、波長589nmの屈折率を求めた。同様に、波長546.1nmでの屈折率(ne)、488nmでの屈折率(nF’)、及び643.9nmでの屈折率(nC’)を求め、アッベ数=(ne−1)/(nF’−nC’)の式に代入してアッベ数を求めた。
【0062】
[製造例]
<3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸2,3−エポキシプロピル(エポキシ化合物E−1)の合成>
磁気攪拌子を備えた200mLナスフラスコにメタ−クロロ過安息香酸(7.3g、27mmol)、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸アリル(5.0g、27mmol)、及びジクロロメタン(80ml)を入れ、室温で3日間攪拌し反応させた。その後、チオ硫酸ナトリウム五水和物(6.9g、27mmol)の水溶液で、過剰に存在するメタークロロ安息香酸を分解し、更に炭酸水素ナトリウム(3.2g、36mmol)の水溶液を加え攪拌した。得られた溶液の有機層を集め、エバポレータを用いてジクロロメタンを留去した。得られた混合物をカラムクロマトグラフィーにて精製することにより、標題のエポキシ化合物E−1を4.0g得た。エポキシ化合物E−1の重クロロホルム溶液の1H−NMRスペクトルを図1に示す。
【0063】
<チイラン化率の計算方法>
チイラン化率の算出には、ガスクロマトグラフ(GC)装置(株式会社島津製作所製GC−2014、使用カラム:ジーエルサイエンス社製InertCap1、昇温プログラム:初期温度120℃から最終温度300℃まで10℃/分にて温度上昇)を使用した。異性体の存在により、シグナルは主に2種類観測される。下記実施例1及び2に関しては、保持時間7.8分及び8.1分を原料であるエポキシ化合物E−1、保持時間9.7分及び9.9分を本発明によりモノチイラン化されたチイラン化合物T−1、保持時間12.0分及び12.2分を本発明によりジチイラン化されたチイラン化合物T−2として、ビフェニルを標準物質に用いた検量線を作成した。反応溶液中に内部標準物質としてビフェニルを加え、GC測定を行い、上記検量線との比較から原料の転化率(すなわちチイラン化率)、及び本発明のチイラン化合物の収率を算出した。
【0064】
下記実施例3に関しては、保持時間13.2分及び13.4分を原料であるエポキシ化合物E−3、保持時間15.4分及び15.6分を本発明によりモノチイラン化されたチイラン化合物T−4として、ビフェニルを標準物質に用いた検量線を作成した。反応溶液中に内部標準物質としてビフェニルを加え、GC測定を行い、上記検量線との比較から原料の転化率(すなわちチイラン化率)、及び本発明のチイラン化合物の収率を算出した。
【0065】
<チイラン化合物の合成>
[実施例1]
磁気攪拌子を備えた試験管にチオ尿素(311.5mg、4mmol)、エポキシ化合物E−1(398.6mg、2mmol)、及び蒸留水(4ml)を入れ、25℃で4時間反応させた(攪拌速度:1000rpm)。その後、トルエンにて反応溶液中の有機物を抽出した。得られた溶液をガスクロマトグラフで定量したところ、原料であるエポキシ化合物E−1の転化率は99.8%であり、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸2,3−エピチオプロピルであるチイラン化合物T−1の収率は70.8%、3,4−エピチオシクロヘキサンカルボン酸2,3−エピチオプロピルであるチイラン化合物T−2の収率は11.0%であるという結果が得られた(内部標準物質:ビフェニル)。カラムクロマトグラフィーを用いてチイラン化合物T−1を単離した。元素分析の結果は、C:56.28%、H:6.74%、S:14.82%(理論値、C:56.05%、H:6.59%、S:14.96%)であった。チイラン化合物T−1の重クロロホルム溶液の1H−NMRスペクトルを図2に示す。
【0066】
[実施例2]
磁気攪拌子を備えた試験管にチオ尿素(311.7mg、4mmol)、エポキシ化合物E−1(395.1mg、2mmol)、及びメタノール(2ml)を入れ、50℃で2時間反応させた(攪拌速度:1000rpm)。その後、トルエンにて反応溶液中の有機物を抽出した。得られた溶液をガスクロマトグラフで定量したところ、原料であるエポキシ化合物E−1の転化率は94.1%であり、チイラン化合物T−1の収率は28.0%、チイラン化合物T−2の収率は27.9%であるという結果が得られた(内部標準物質:ビフェニル)。カラムクロマトグラフィーを用いてチイラン化合物T−2を単離した。元素分析の結果は、C:52.28%、H:6.14%、S:27.72%(理論値、C:52.24%、H:6.13%、S:27.84%)であった。チイラン化合物T−2の重クロロホルム溶液の1H−NMRスペクトルを図3に示す。
【0067】
[実施例3]
上記実施例2において、エポキシ化合物E−1の代わりに、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸2,3−エポキシプロピルであるエポキシ化合物E−2を用いることにより、3,4−エピチオ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸2,3−エピチオプロピルであるチイラン化合物T−3が得られた。
【0068】
[実施例4]
磁気攪拌子を備えた試験管にチオ尿素(156.0mg、2mmol)、エポキシ化合物E−1(205.1mg、1mmol)、及びN,N−ジメチルホルムアミド(1ml)を入れ、25℃で2時間反応させた(攪拌速度:1000rpm)。その後、トルエンにて反応溶液中の有機物を抽出した。得られた溶液をガスクロマトグラフで定量したところ、原料であるエポキシ化合物E−1の転化率は28.9%であり、チイラン化合物T−1の収率は21.4%、チイラン化合物T−2の収率は0.4%であるという結果が得られた(内部標準物質:ビフェニル)。
【0069】
[実施例5]
磁気攪拌子を備えた試験管にチオ尿素(311.5mg、4mmol)、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルであるエポキシ化合物E−3(シグマアルドリッチ社製、504.6mg、2mmol)、及び蒸留水(1ml)を入れ、50℃で1.5時間反応させた(攪拌速度:1000rpm)。その後、トルエンにて反応溶液中の有機物を抽出した。得られた溶液をガスクロマトグラフで定量したところ、原料であるエポキシ化合物E−3の転化率は85.0%であり、3,4−エピチオシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルと3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エピチオシクロヘキシル)メチルとの混合物であるチイラン化合物T−4の収率は57.0%であるという結果が得られた(内部標準物質:ビフェニル)。カラムクロマトグラフィーを用いて、チイラン化合物T−4を混合物として分離した。元素分析の結果は、C:62.47%、H:7.52%、S:11.76%(理論値、C:62.66%、H:7.51%、S:11.95%)であった。チイラン化合物T−4の重クロロホルム溶液の1H−NMRスペクトルを図4に示す。
【0070】
[実施例6]
上記実施例5において、エポキシ化合物E−3の代わりに、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル)メチルであるエポキシ化合物E−4を用いることにより、3,4−エピチオ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル)メチルと3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボン酸(3,4−エピチオ−6−メチルシクロヘキシル)メチルとの混合物であるチイラン化合物T−5が得られた。
【0071】
<チイラン化合物の硬化>
上記実施例1〜6において得られたチイラン化合物100質量部に対して、硬化剤としてトリアリルスルホニウム塩系の光硬化剤(株式会社ADEKA製アデカオプトマーSP−150)を5質量部加えて室温で撹拌し、硬化性樹脂組成物を調製した。0.1mm厚みのSUS製のスペーサーを、離型処理されたPETフィルム(パナック株式会社製、品番SP−PET−01−100BU)で挟んだ型の中に上記硬化性樹脂組成物を流し入れ、約10J/cm2のUV光を照射して厚み0.1mmのフィルム状硬化物を得た。
【0072】
[比較例1]
エポキシ化合物E−1、100質量部に対して、硬化剤としてトリアリルスルホニウム塩系の光硬化剤(三新化学工業株式会社製サンエイドSI−100L)を5質量部加えて室温で撹拌し、硬化性樹脂組成物を調製した。0.1mm厚みのSUS製のスペーサーを、離型処理されたPETフィルム(パナック株式会社製、品番SP−PET−01−100BU)で挟んだ型の中に上記硬化性樹脂組成物を流し入れ、さらにハードクロムメッキにより鏡面加工されたステンレス(SUS304)板で挟み込んだ上、機内雰囲気を真空にすることが可能な圧縮成形機(株式会社神藤金属工業所製、形式SFV−30、特注品)へ導入した。真空到達圧力5kPa、面圧2MPa、170℃で15分間熱処理し、厚み0.1mmのフィルム状硬化物を得た。
【0073】
[比較例2]
上記比較例1において、エポキシ化合物E−1の代わりに、エポキシ化合物E−3を用いることにより、対応するフィルム状硬化物を得た。
【0074】
【表1】

【0075】
表1の結果から、本発明に係る硬化物は、屈折率とアッベ数とが共に高く、光学樹脂の材料として有用であることが読み取れる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のチイラン化合物、並びにこれを用いた硬化性樹脂組成物及び硬化物は、高い屈折率とアッベ数とが要求される各種用途、例えば光学フィルム、プラスチックレンズ、及び透明封止材料等の材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】

[式中、X1及びX2は、それぞれ独立して酸素原子又は硫黄原子であるがX1及びX2の少なくとも1つは硫黄原子であり、そしてY1〜Y4は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基である。]で表される構造、又は下記式(2):
【化2】

[式中、X3及びX4は、それぞれ独立して酸素原子又は硫黄原子であるがX3及びX4の一方が硫黄原子、他方が酸素原子であり、そしてY5〜Y10は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基である。]で表される構造を有する、チイラン化合物。
【請求項2】
前記式(1)中、Y1、Y3及びY4が水素原子であり、かつY2が水素原子又はメチル基である、請求項1に記載のチイラン化合物。
【請求項3】
前記式(2)中、Y5、Y7、Y8及びY10が水素原子であり、かつY6及びY9がそれぞれ独立して水素原子又はメチル基である、請求項1に記載のチイラン化合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のチイラン化合物と、硬化剤とを含有する、硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の硬化性樹脂組成物を光及び熱の少なくともいずれかで硬化処理することにより得られる、硬化物。
【請求項6】
光波長589nmにおける屈折率が1.55以上1.70以下であり、かつアッベ数が45以上60以下である、請求項5に記載の硬化物。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のチイラン化合物の製造方法であって、下記式(3):
【化3】

[式中、Y11〜Y14は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基である。]で表される構造、又は下記式(4):
【化4】

[式中、Y15〜Y20は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基である。]で表される構造を有するジエポキシ化合物に対して、チオ尿素を作用させることによって、該ジエポキシ化合物の少なくとも1つのエポキシ基をエピチオ基に変換する工程を含む、チイラン化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−188379(P2012−188379A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52818(P2011−52818)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】