説明

チタンアルコキシドを用いた直鎖型オリゴアニリン化合物の製造方法

【課題】電子材料分野などで使用される有用な直鎖型オリゴアニリン化合物を、酸化剤の存在下、チタンアルコキシドを用い芳香族ジアミン化合物とフェノール化合物とを反応する事により、安定的にかつ高収率で得る製造方法を提供する。
【解決手段】下記式[1]で表される芳香族ジアミン化合物と下記式[2]で表されるフェノール化合物とを、酸化剤及びチタンアルコキシドの存在下で反応させることを特徴とする、下記式[3]及び[4]で表される直鎖型オリゴアニリン化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料分野などで使用される有用な直鎖型オリゴアニリン化合物を酸化剤の存在下、チタンアルコキシドを用いて製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チタンアルコキシドを用いた芳香族ジアミン化合物とフェノール化合物との反応による直鎖型オリゴアニリン化合物を合成する方法は、非特許文献1に記載されている。非特許文献1では本反応を窒素雰囲気下で行っているが、記載条件のみでは目的とする直鎖型オリゴアニリン化合物を安定的に製造する事はできない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Bull.Chem.Soc.Jpn.,67,1749(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、電子材料分野などで使用される有用な直鎖型オリゴアニリン化合物を、酸化剤の存在下、チタンアルコキシドを用い芳香族ジアミン化合物とフェノール化合物とを反応させる事により、安定的にかつ高収率で得る製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行い、以下の要旨を有する本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記式[1]で表される芳香族ジアミン化合物と下記式[2]で表されるフェノール化合物とを、酸化剤及びチタンアルコキシドの存在下で反応させることを特徴とする、下記式[3]及び[4]で表される直鎖型オリゴアニリン化合物の製造方法に関する。ここで、nは1から5の整数を表し、mは1から5の整数を表す。
【0006】
【化1】



【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電子材料分野等に使用される有用な直鎖型オリゴアニリン化合物の製造法であり、本反応系中に、触媒量の酸化剤を添加することにより、目的物を安定的にかつ高収率で得る事を可能とする製造法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次いで、本発明における芳香族ジアミン化合物とフェノール化合物との反応について述べる。
本発明の製造方法は、次のスキームで表される。
【0009】
【化2】

【0010】
ここで、nは1から5の整数を表し、mは1から5の整数を表す。
式[2]で表される化合物は、式[3]で表される化合物を製造したい場合には、式[1]で表される芳香族ジアミン化合物1モルに対して0.8〜1モル使用すればよく、式[4]で表される化合物を製造したい場合は、式[1]で表される芳香族ジアミン化合物1モルに対して2〜3モル使用すればよい。
酸化剤としては、酸素、過酸化水素水、クメンハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物、および無機過酸化物が挙げられ、酸素と有機過酸化物が好ましい。
酸化剤の使用量は触媒量でよく、使用量としては、原料である芳香族ジアミン化合物1モルに対して0.00001〜1モル倍が好ましい。
溶媒としては、有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、ベンゼン、トルエンに代表される芳香族炭化水素が好ましい。有機溶媒量としては、芳香族ジアミン化合物1重量部に対し、10〜100倍が望ましい。
チタンアルコキシドとしては、式[5]
【0011】
【化3】

【0012】
(式中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立に直鎖、分岐または環状のC1-6アルキル基、フェニル基、メチルフェニル基またはメトキシフェニル基を表し、但し、R1、R2、R3およびR4のうち少なくとも2つは、直鎖、分岐または環状のC1-6アルキル基を表す。)で表されるチタンアルコキシドが好ましい。
式[5]のR1、R2、R3およびR4の定義における直鎖、分岐または環状のC1-6アルキル基としては、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、セカンダリーブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、ノルマルペンチル基、シクロペンチル基、ノルマルヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
チタンアルコキシドの具体例としては、例えば、Ti(OiPr)、Ti(OnBu)、Ti(OiPr)(OPh)、Ti(OiPr)(OPh)、Ti(OnBu)(OC−4−Me)、Ti(OnBu)(OC−4−Me)、Ti(OnBu)(OC−4−OMe)及びTi(OnBu)(OC−4−OMe)が挙げられる。ここで、Meはメチル基、iPrはイソプロピル基、nBuはノルマルブチル基、Phはフェニル基を示す。
チタンアルコキシドの使用量としては、フェノール化合物1モルに対して1〜10モル倍が好ましい。
反応温度としては、50℃から使用する有機溶媒の沸点までが望ましい。
反応時間としては、1時間〜100時間が望ましく、更に1時間から30時間が好ましい。
反応終了後は、反応溶液を冷却し、析出してきた目的物を濾取すればよい。
【実施例】
【0013】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明の解釈はこれらに限定されるものではないことはもちろんである。
尚、実施例で用いた分析法は以下の通りである。
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析装置、および定量分析条件を以下に示す。
装置:LC−20A(島津製作所)
カラム:Xterra MS C18 5μm、4.6x150mm(Waters製)
分析条件
カラム温度:40℃
カラム流量:1.0ml/min
検出波長:285nm
溶離液組成:100mMりん酸(ナトリウム)緩衝溶液:アセトニトリル=30:70
検出温度:290℃
内部標準物質:ナフタレン

参考例1 Ti(OnBu)(OC−4−Me)の調製方法

【0014】
非特許文献1記載と同様に、Ti(OnBu)(9.45g、27.8mmol)と酢酸p−トリル(4.17g、27.8mmol)を反応器に入れ、内部温度60℃に加熱した。加熱後、生成する酢酸ブチルを減圧留去することにより、目的とするTi(OnBu)(OC−4−Me)を黄色粘性液体として得た。
【0015】

実施例1 酸化剤として、酸素5mol%添加した場合

【0016】
反応容器中に、p-フェニレンジアミン(1g、9.3mmol)、p−アニリノフェノール(3.44g、18.6mmol)及び脱水トルエン40mlを加え攪拌し、反応系内を窒素置換した。窒素置換完了後、反応溶液を内温90℃に加熱後、参考例1で調製したTi(OnBu)(OC−4−Me)に脱水トルエン10mlを加え更に窒素置換した溶液を、反応系内に30分かけて適下した。適下終了後、p−フェレンジアミンに対し5mol%量の酸素をシリンダーにて反応容器内へ入れた。酸素注入後、内温90℃にて5.5時間攪拌した。反応終了後、25℃まで冷却したところ、目的とするPTAが析出してきた。結晶を濾過後、結晶部と濾液部を各々HPLC定量分析する事により、収率を求めた。結果、PTAの収率としては、97.8%であった。
【0017】

実施例2 酸化剤として、クメンヒドロキシパーオキサイド5mol%添加した場合

【0018】
実施例1と同様に窒素雰囲気下、p-フェニレンジアミン(1g、9.3mmol)、p−アニリノフェノール(3.44g、18.6mmol)及び脱水トルエン40mlを用いて実施した。参考例1の方法で調製したTi(OnBu)(OC−4−Me)と脱水トルエン10mlの混合溶液を、内温90℃で適下した。適下終了後、約80%クメンヒドロキシパーオキシド(0.08g、p−フェニレンジアミンに対して5mol%)とトルエン4mlの混合溶液を内温90℃で適下し、内温90℃で4.5間攪拌した。反応終了し冷却後、得られた結晶と濾液を各々、HPLC定量分析する事により、収率を求めた。結果、PTAの収率は82.4%であった。
【0019】

実施例3 酸化剤として、空気(酸素5mol%)を添加した場合

【0020】
実施例1と同様に窒素雰囲気下、p-フェニレンジアミン(1g、9.3mmol)、p−アニリノフェノール(3.44g、18.6mmol)及び脱水トルエン40mlを用いて実施した。参考例1の方法で調製したTi(OnBu)(OC−4−Me)と脱水トルエン10mlの混合溶液を、内温90℃で適下した。適下終了後、乾燥空気25ml(p−フェニレンジアミンに対し酸素換算で2.5mol%)をシリンダーにて反応容器内へ入れた。内温90℃にて2時間攪拌後、乾燥空気25ml(2.5mol%)を添加し、内温90℃にて更に5時間攪拌した。反応終了し冷却後、得られた結晶と濾液を各々、HPLC定量分析する事により、収率を求めた。結果、PTAの収率は93.8%であった。
【0021】

比較例1 酸化剤を添加しない場合

【0022】
実施例1と同様に窒素雰囲気下、p−フェニレンジアミン(1g、9.3mmol)、p−アニリノフェノール(3.44g、18.6mmol)及び脱水トルエン40mlを用いて実施した。参考例1の方法で調製したTi(OnBu)(OC−4−Me)と脱水トルエン10mlの混合溶液を、内温90℃で適下した。適下終了後、内温90℃で4.5時間攪拌した。次いで反応液を冷却したが、PTAの晶析は確認されなかった。得られた反応液をHPLC分析したところ、目的とするPTAのピークは観測されなかった。
【0023】

実施例4

【0024】
反応容器中に、p-フェニレンジアミン(1g、9.3mmol)、p−アニリノフェノール(3.44g、18.6mmol)、Ti(OnBu)(9.45g、27.8mmol)及び脱水トルエン50mlを加え攪拌し、反応系内を窒素置換した。窒素置換完了後、反応溶液を内温90℃に加熱後、乾燥空気50ml(p−フェレンジアミンに対し5mol%量の酸素)をシリンダーにて反応容器内へ入れた。酸素注入後、内温90℃にて10時間攪拌した。反応終了後、25℃まで冷却したところ、目的とするPTAが析出してきた。結晶を濾過後、結晶部と濾液部を各々HPLC定量分析する事により、収率を求めた。結果、PTAの収率としては、69.4%であった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、電子材料分野などで使用される有用な直鎖型オリゴアニリン化合物の製造法であり、酸化剤を添加する事により、安定的に且つ高収率で目的物が得られる製造法を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[1]で表される芳香族ジアミン化合物と下記式[2]で表されるフェノール化合物とを、酸化剤及びチタンアルコキシドの存在下で反応させることを特徴とする、下記式[3]及び[4]で表される直鎖型オリゴアニリン化合物の製造方法。ここで、nは1から5の整数を表し、mは1から5の整数を表す。
【化1】



【請求項2】
チタンアルコキシドが下記式[5]


(式中、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立に直鎖、分岐または環状のC1-6アルキル基、フェニル基、メチルフェニル基またはメトキシフェニル基を表し、但し、R1、R2、R3およびR4のうち少なくとも2つは、直鎖、分岐または環状のC1-6アルキル基を表す。)で表されるチタンアルコキシドである請求項1記載の製造方法。

【公開番号】特開2013−87086(P2013−87086A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228966(P2011−228966)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】