説明

チタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物

【課題】チタン酸鉛系材料のエッチングにおいて、実用的なエッチング工程時間内に、微細化されたチタン酸鉛系材料配線間であっても配線上部幅を維持することができ、チタン酸鉛系材料表面に発生する黒変が無く、目的とするパターン形成を行うことができるチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物を提供することにある。
【解決手段】本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物は、(A)フッ化水素、フッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム及びフッ化リチウムから選ばれる少なくとも1種類のフッ化化合物成分、(B)塩酸、硝酸、硫酸から選ばれる少なくとも1種類の無機酸成分及び(C)無機塩成分を含む水溶液からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電体材料や強誘電体材料等に用いられるチタン酸鉛系材料をエッチングするためのエッチング剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チタン酸鉛系の金属酸化物膜のパターン形成はドライエッチングで実施されてきた。しかし最近では、一度に大量の基板の処理が可能であり、ドライエッチングと比較して装置や薬液が安価であるウエットエッチングによるパターン形成技術が報告されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、チタン酸鉛系材料の1つであるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)用エッチング液として、フッ化化合物と塩素化合物の両方を含む水溶液であるエッチング液が開示されている。しかし、特許文献1に記載のエッチング液を用いて微細化されたPZT配線を得るためにエッチング処理を行った場合には、微細化されたPZT配線間にエッチング液が入り込むことができずにPZT配線間に残渣が残ってしまうことや、配線上部幅を維持することができず、目的とする微細化されたPZT配線を得ることができなくなってしまうことや、エッチング処理後にPZT表面が黒く変色し、PZTが劣化してしまうという問題点があった。
また、特許文献2には、酸化ジルコニウム、酸化タンタルなどの高誘電体をエッチングするためのエッチング剤組成物として、有機酸及び/または無機酸と、フッ素化合物を含有する水溶液が開示されている。しかしながら、チタン酸鉛系材料への適用等に関する記載は何らない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−151484号公報
【特許文献2】特開2004−311993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のようなチタン酸鉛材料のエッチング処理後のチタン酸鉛材料表面の黒変は、チタン酸鉛材料とレジストとの界面にエッチング液が染みこむことによって発生するものであると考えられるが、変色が発生したチタン酸鉛系材料は性能が劣化してしまい、大きな問題点となる。また、従来のエッチング剤組成物は面内均一性が乏しく、例えば処理基材が大面積化した場合に、面内のエッチング処理時間が不均一化してしまうことがあり、局所的に処理時間がエッチング剤に適した時間以上に伸びてしまい、配線上部幅を維持することができず、目的とするパターン形成をすることができない。このような場合においても、配線上部幅を維持することができ、さらに変色の問題が発生することなく、エッチング処理を行うことができるエッチング剤組成物が望まれている。
従って、本発明が解決しようとする課題は、チタン酸鉛系材料のエッチングにおいて、実用的なエッチング工程時間内に、微細化されたチタン酸鉛系材料配線間であっても配線上部幅を維持することができ、チタン酸鉛系材料表面で黒変が発生することがなく、目的とするパターン形成を行うことができるチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、フッ化化合物及び無機酸を含有するエッチング剤組成物に無機塩及び必要に応じて用いられるキレート剤を添加することで上記課題を解決し得ることを知見し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は、(A)フッ化水素、フッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム及びフッ化リチウムから選ばれる少なくとも1種類のフッ化化合物成分、(B)無機酸成分及び(C)無機塩成分を含む水溶液からなることを特徴とするチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物を提供するものである。
【0008】
また、本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物には、(D)キレート剤成分を配合することもできる。
【0009】
さらに、本発明は、上記チタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物を使用することを特徴とするチタン酸鉛系材料のエッチング方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、チタン酸鉛系材料のエッチングにおいて、実用的なエッチング工程時間内に、チタン酸鉛系材料表面で黒変等の変色が無く、変色が所定量のエッチングに必要な時間以上にエッチング処理を行っても発生せず、さらに配線上部幅を維持し、精密なパターン形成を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物について具体的に説明する。
まず、本明細書に記載する「チタン酸鉛系材料」は、鉛、チタンを含有する複合酸化物の総称であり、一般に(PbLn)(ZrTi1−z)O(式中、Lnは、ランタノイド原子を表し、0.9<x<1.3、0≦y<0.1、0≦z<0.9)で表される。さらに、Bi、Si、Pb、Ge、Sn、Al、Ga、In、Mg、Ca、Sr、Ba、V、Nb、Ta、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Cd、Li、NaおよびKから選ばれる1種あるいは2種以上の金属原子をドープしたものも知られており、本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物はいずれにも使用できる。
【0012】
本発明において、(A)フッ化化合物成分は、本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物の主剤を構成する成分である。本発明に使用するフッ化化合物成分はフッ化水素もしくは、(B)無機酸成分と反応してフッ化水素を生じるものであればよく、具体的にはフッ化水素、フッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム及びフッ化リチウムが挙げられ、これらを2種類以上併用することもできる。これらの中でも、フッ化アンモニウムが溶解性の点やエッチング速度を制御しやすい点で特に好ましい。
【0013】
本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物における(A)フッ化化合物成分の濃度は、所望とする被エッチング材であるチタン酸鉛系材料薄膜、該材料配線、該材料層等の厚みや幅によって適宜調節することができ、例えば0.001〜30質量%、好ましくは0.01〜20質量%の範囲内である。ここで、(A)フッ化化合物成分の濃度が0.001質量%未満であると、エッチング速度が遅くなり、許容される工程時間内にエッチングを終えることができなくなる場合があるために好ましくなく、また、30質量%を超えると、エッチング速度が早くなり、エッチング速度の制御が難しく、エッチングしすぎてしまう場合があるために好ましくない。
【0014】
本発明において、(B)無機酸成分は、本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物の主剤を構成する成分である。本発明に使用する(B)無機酸成分は特に限定されるものではないが、(A)フッ化化合物成分と反応して、フッ化水素を生じるものであればよく、具体的には強酸が挙げられ、さらに具体的には硫酸、硝酸、塩酸が挙げられ、これらを2種類以上併用することもできる。これらの中でも、塩酸がエッチング速度を制御しやすい点で特に好ましい。
【0015】
本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物における(B)無機酸成分の濃度は、所望とする被エッチング材であるチタン酸鉛系材料薄膜、該材料配線、該材料層等の厚みや幅によって適宜調節することができ、例えば、0.001〜40質量%、好ましくは0.01〜30質量%の範囲内である。ここで、(B)無機酸成分の濃度が0.001質量%未満であると、エッチング速度が遅くなり、許容される工程時間内にエッチングを終えることができなくなる場合があるために好ましくなく、また、40質量%を超えると、エッチング速度が早くなり、エッチング速度の制御が難しく、エッチングしすぎてしまう場合があるために好ましくない。
【0016】
ここで、(A)フッ化化合物成分及び(B)無機酸成分の濃度を、本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物をSi基板/Pt/PZTのように積層された膜厚2μmのPZT膜のエッチングに使用する場合について説明すると、エッチング工程に許容される工程時間が60〜600秒であるとした時には、(A)フッ化化合物成分の濃度は、エッチング速度の制御性から0.1〜10質量%が好ましく、1〜4質量%が特に好ましい。この場合、0.1質量%未満であると、エッチング速度が遅くなり、許容される工程時間内にエッチングを終えることができなくなることがあり、また、10質量%を超えると、エッチング速度が早くなるために、エッチング速度の制御が難しく、エッチングしすぎてしまうことがある。なお、上記で想定される膜厚よりも薄い膜を処理する場合には、0.1質量%以下が好ましいこともあり、上記で想定される膜厚よりも厚い膜を処理する場合には10質量%以上が好ましいこともある。また、(B)無機酸成分の濃度は、エッチング速度の制御性から0.1〜20質量%が好ましく、5〜15質量%が特に好ましい。この場合、0.1質量%未満であると、エッチング速度が遅くなり、許容される工程時間内にエッチングを終えることができなくなることがあり、20質量%を超えると、エッチング速度が早くなるために、エッチング速度の制御が難しく、エッチングしすぎてしまうことがある。なお、上記で想定される膜厚よりも薄い膜を処理する場合には、0.1質量%以下が好ましいこともあり、上記で想定される膜厚よりも厚い膜を処理する場合には20質量%以上が好ましいこともある。
【0017】
本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物における(C)無機塩成分は、本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物の比重調整を行うと共に、エッチング処理後にチタン酸鉛系材料表面での変色の発生を防ぐ機能をエッチング剤組成物へ付与する役割を果たす。本発明に使用する(C)無機塩成分は、特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩(これらのフッ化化合物を除く)が挙げられ、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が溶解性の点や該変色を防ぐ効果が高い点から好ましい。具体的には塩化アンモニウムや塩化ナトリウム等の塩酸塩や、硫酸アンモニウムや硫酸ナトリウム等の硫酸塩が挙げられ、これらを2種類以上併用することもできる。塩化アンモニウムが変色の発生を防ぐ効果が高い点から特に好ましい。
【0018】
本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物における(C)無機塩成分の濃度は、用いられるレジスト材やチタン酸鉛系材料によって適宜調節することができ、例えば、0.1〜10質量%、好ましくは2〜6質量%の範囲内である。(C)無機塩成分の濃度が0.1質量%未満であると、その配合効果が発現しないために好ましくなく、また、10質量%を超えても、配合量の増加に伴う配合効果の向上が見られない。
【0019】
本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物には、(D)キレート剤成分を配合することができる。(D)キレート剤成分は、本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物に、配線上部幅を維持する機能を付与する役割を果たす。特に、チタン酸鉛系材料用組成物において適切なエッチング時間以上にエッチング処理を行った場合にも、配線上部幅を維持する効果を付与することができる。例えば、エッチング対象が大面積化し、局所的にエッチング時間が多くなってしまった部分があった場合にも、本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物はこのような効果によって、局所的なパターンのバラツキが少なく、微細なチタン酸鉛系材料のパターニング処理を行うことができると考えられる。
本発明に使用する(D)キレート剤成分は、特に限定されるものではなく、キレート効果を発揮することが認められる化合物であればどのようなものでも使用することができる。一例として、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、グルコン酸などの有機酸や、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、1,3−プロパンジアミン四酢酸、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン四酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ジヒドロキシエチルグリシン、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ジカルボキシメチルグルタミン酸、(S,S)−エチレンジアミン二コハク酸などのアミノカルボン酸系キレート剤や、これらの塩(例えば、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、アルカノールアミン塩等)も例示することができ、1−ヒドロキシエチリデンビスホスホン酸、ニトリロトリスメチレンホスホン酸、2−ホスホノ−1,2,4−ブタントリカルボン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸などのホスホン酸系キレート剤や、これらのアンモニウム塩、有機アミン塩、アルカリ金属塩、さらに、これらホスホン酸系キレート剤のうち、分子中に窒素原子を有するものが酸化されてN−オキシド体となっている酸化体、メタリン酸、テトラメタリン酸、ヘキサメタリン酸、もしくは、トリポリリン酸、または、これらのアンモニウム塩、金属塩、有機アミン塩などの縮合リン酸類を挙げることができ、2種類以上のキレート剤を併用することもできる。これらの中でも、アミノカルボン酸系キレート剤及びこれらの塩、ホスホン酸系キレート剤及びこれらの塩は配線上部幅の維持効果が高く、特に好ましい。
【0020】
本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物における(D)キレート剤成分の濃度は、使用されるエッチング状況に応じて適宜調節することができ、例えば、0.01〜5質量%、好ましくは0.1〜2質量%の範囲内である。(D)キレート剤成分の濃度が、0.01質量%未満では、その配合効果が発現しないために好ましくなく、また、5質量%を超えても、配合量の増加に伴う配合効果の向上が見られない。
【0021】
本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて公知のその他の添加剤と混合することができる。このようなその他の添加剤として、例えば、界面活性剤、酸化剤、pH調整剤などが挙げられる。
【0022】
上記の界面活性剤は、本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物のエッチング対象への濡れ性を向上させるために用いられる。例えば、カチオン性、ノニオン性、アニオン性、ベタイン性などの界面活性剤が挙げられ、カチオン性、ノニオン性またはアニオン性界面活性剤が好ましく用いられ、これらを2種類以上併用することもできる。界面活性剤を使用する場合の使用量は、0.001〜10質量%、好ましくは0.01〜5質量%の範囲内である。界面活性剤の使用量が0.001質量%未満では、その配合効果が発現しないために好ましくなく、また、10質量%を超えても、配合量の増加に伴う配合効果の向上が見られない。
【0023】
本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物に使用してもよいカチオン性界面活性剤としては、例えば、アルキル(アルケニル)トリメチルアンモニウム塩、ジアルキル(アルケニル)ジメチルアンモニウム塩、アルキル(アルケニル)四級アンモニウム塩、エーテル基或いはエステル基或いはアミド基を含有するモノ或いはジアルキル(アルケニル)四級アンモニウム塩、アルキル(アルケニル)ピリジニウム塩、アルキル(アルケニル)ジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキル(アルケニル)イソキノリニウム塩、ジアルキル(アルケニル)モルホニウム塩、ポリオキシエチレンアルキル(アルケニル)アミン、アルキル(アルケニル)アミン塩、ポリアミン脂肪酸誘導体、アミルアルコール脂肪酸誘導体、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が挙げられ、これらの構造中にフッ素原子が含まれていてもよい。
【0024】
本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物に使用してもよいノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル(エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの付加形態は、ランダム状、ブロック状の何れでもよい)、ポリエチレングリコールプロピレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、グリセリン脂肪酸エステルまたはそのエチレンオキサイド付加物、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アルキルポリグルコシド、脂肪酸モノエタノールアミドまたはそのエチレンオキサイド付加物、脂肪酸−N−メチルモノエタノールアミドまたはそのエチレンオキサイド付加物、脂肪酸ジエタノールアミドまたはそのエチレンオキサイド付加物、ショ糖脂肪酸エステル、アルキル(ポリ)グリセリンエーテル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸メチルエステルエトキシレート、N−長鎖アルキルジメチルアミンオキサイドなどが挙げられ、これらの構造中にフッ素原子が含まれていてもよい。
【0025】
本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物に使用してもよいアニオン系界面活性剤としては、例えば、高級脂肪酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、硫化オレフィン塩、高級アルキルスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、硫酸化脂肪酸塩、スルホン化脂肪酸塩、リン酸エステル塩、脂肪酸エステルの硫酸エステル塩、グリセライド硫酸エステル塩、脂肪酸エステルのスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸メチルエステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸塩、アシル化ペプチド、脂肪酸アルカノールアミドまたはそのアルキレンオキサイド付加物の硫酸エステル塩、スルホコハク酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルベンゾイミダゾールスルホン酸塩、ポリオキシアルキレンスルホコハク酸塩、N−アシル−N−メチルタウリンの塩、N−アシルグルタミン酸またはその塩、アシルオキシエタンスルホン酸塩、アルコキシエタンスルホン酸塩、N−アシル−β−アラニンまたはその塩、N−アシル−N−カルボキシエチルタウリンまたはその塩、N−アシル−N−カルボキシメチルグリシンまたはその塩、アシル乳酸塩、N−アシルサルコシン塩、およびアルキルまたはアルケニルアミノカルボキシメチル硫酸塩などを挙げられ、これらの構造中にフッ素原子が含まれていてもよい。
【0026】
上記の酸化剤はチタン酸鉛系材料の溶解を促進し、エッチング速度の向上のために用いられる。例えば、過マンガン酸カリウム、二クロム酸カリウム、二酸化マンガン、さらに過酸化水素、オゾン、次亜塩素酸、硫酸、硝酸などが挙げられ、2種類以上を併用することもできる。酸化剤を使用する場合の使用量は、例えば0.0001〜20質量%、好ましくは0.0001〜10質量%の範囲内である。酸化剤の使用量が、0.0001質量%未満では、その配合効果が発現しないために好ましくなく、また、20質量%を超えても、配合量の増加に伴う配合効果の向上が見られない。
【0027】
上記のpH調整剤は、チタン酸鉛系材料用エッチング液のpHを調整するために用いられる。例えば、アンモニア、アミン、テトラメチルアンモニウム水酸化物などの第四級アンモニウム水酸化物やギ酸、酢酸、シュウ酸、プロピオン酸、メルカプト酢酸、硫酸、硝酸、リン酸などが挙げられ、2種類以上を併用することもできる。本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物のpHは特に制限はなく、エッチング条件などにより適宜選択すればよいが、pH0.01〜6での使用が好ましい。
【0028】
本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物は、エッチングする際に各成分を添加して使用してもよいし、あらかじめ各成分を混合しておいてから使用することもできる。
【0029】
本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物の使用方法は、特に制限されるものではなく、通常のウエットエッチング法の条件を応用すればよい。
【0030】
本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物を使用する時の温度は、10〜100℃、好ましくは10〜70℃、さらに好ましくは20〜50℃である。10℃未満の温度では、実用的なスピードでパターン形成することができない場合があり、また、100℃を超える温度では、チタン酸鉛系材料以外の基体あるいは電極膜等の周辺部材に対してダメージを与えてしまう場合があるために好ましくない。
【0031】
本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物を被エッチング材であるチタン酸鉛系材料に塗布または散布する方法としては、シャワー法、スプレー法、ディップ法などが挙げられる。
【0032】
本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物を使用する時の処理時間は必要なエッチング量により適宜決定される。好ましくは30〜300秒となるように調整することができる。
【0033】
本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物を用いたチタン酸鉛系材料のエッチング方法としては、特に限定されるものではなく、周知一般のエッチング方法を用いればよい。例えば、ディップ式、スプレー式、スピン式によるエッチング方法が挙げられる。
【0034】
例えば、スプレー式のエッチング方法によって、シリコン基板上にPZT/Ptが成膜された基材をエッチングする場合には、該基材へ本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物を適切な条件にて噴霧することでシリコン基板上のPZTをエッチングすることができる。
【0035】
エッチング条件は、特に限定されるものではなく、エッチング対象の形状や膜厚などに応じて任意に設定することができる。例えば、噴霧条件は、0.01MPa〜0.2MPaが好ましく、0.01MPa〜0.1MPaが特に好ましい。また、エッチング温度は、10℃〜50℃が好ましく、20℃〜50℃が特に好ましい。エッチング剤の温度は反応熱により上昇することがあるので、必要なら上記温度範囲内に維持するよう公知の手段によって温度制御してもよい。また、エッチング時間は、エッチング対象が完全にエッチングされるに十分必要な時間とすればよいので特に限定されるものではない。例えば、膜厚2μm程度のエッチング対象であれば、上記温度範囲であれば30〜300秒程度エッチングを行えばよい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物を実施例により更に具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例等によって何ら制限を受けるものではない。また、以下の実施例等において「%」は、特に記載がない限り質量基準である。
【0037】
実施例1
表1に示した配合割合にて、本発明品組成物1〜22及び比較品組成物1〜14を調製した。なお、含有量の残部は水である。また、添加剤として、添加剤A(構造中にフッ素を含むアルコール系エチレンオキサイド付加物、数平均分子量1400、エチレンオキサイド基の含有量70質量%)を用いた。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
実施例2:エッチング処理後におけるPZT部材表面の変色の有無
Si基板/Pt/PZT(2.0μm)上にポジ型液状レジストを用いて幅8μm、開口部8μmのレジストパターンを形成した基板を10mm□に切断してテストピースとし、このテストピースに対し、実施例1で調製したエッチング剤を使用して30℃、スプレー圧0.05MPaの条件でスプレー方によるパターンエッチングを行った。露出したPZTが完全に見られなくなるまで処理したテストピースについてPZT部材表面の変色の有無を光学顕微鏡により観察した。結果を表2に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
表2の結果より、本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物は、エッチング処理後にPZT表面の変色が発生しないことがわかった。このことにより、本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物は、エッチング処理によりPZTの性能を劣化させることなく、エッチング処理を行うことができることがわかった。
【0044】
実施例3
表3に示すキレート剤を用いて、表4に示す配合割合にて、本発明品組成物23〜38、及び比較品組成物15及び16を調製した。なお、含有量の残部は水である。また、添加剤として、添加剤A(構造中にフッ素を含むアルコール系エチレンオキサイド付加物、数平均分子量1,400、エチレンオキサイド基の含有量70質量%)を用いた。
【0045】
【表5】

【0046】
【表6】

【0047】
実施例4:オーバーエッチング試験
Si基板/Pt/PZT(2.0μm)上にポジ型液状レジストを用いて幅8μm、開口部8μmのレジストパターンを形成した基板を10mm□に切断してテストピースとし、このテストピースを上記で調製したエッチング液を使用して30℃、スプレー圧0.05MPaの条件でスプレー方によるパターンエッチングを行った。ここで、各々のエッチング剤において、配線間残渣が無くなった時の時間を最適エッチング時間と定義した。最適エッチング時間および最適エッチング時間から60秒超過処理後のテストピースについて、配線上部幅およびPZT表面の変色の有無を光学顕微鏡によって観察した。結果を表5に示す。
【0048】
【表7】

*1:実験を試みたが、配線間残渣がなくなる前に配線がなくなってしまった。
【0049】
表5の結果より、比較例3−1では、最適エッチング時間だけエッチング処理を行った場合にPZT表面の変色が発生してしまうことや、最適エッチング時間から60秒超過して処理した場合には配線が全て溶解し、無くなってしまうことがわかった。また、比較例3−2では、配線間残渣が無くなる前に配線が全て溶解し、無くなってしまった。また、本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物の中でも、キレート剤を添加していない実施例3−1、3−4、3−7、3−10、3−12は、最適エッチング時間だけのエッチング処理であればPZT表面変色は発生せず、配線を良好な配線幅で得ることができるが、最適エッチング時間から60秒超過してエッチング処理した場合にはエッチング処理後に得られる配線の配線幅に大きなバラツキが発生してしまうことがわかった。一方、キレート剤を添加した実施例3−2、3−3、3−5、3−6、3−8、3−9、3−11、3−13〜3−16では、最適エッチング時間だけエッチング処理した場合においても、最適エッチング時間から60秒超過してエッチング処理した場合においてもPZT表面に変色が発生することなく配線を得ることができ、さらに、得られた配線はバラツキの少ない配線上部幅で得られ、得られた配線は直線性に優れていることも確認できた。この結果により、(D)キレート剤成分を含む本発明のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物は、エッチング時間が長くなった場合にも配線上部幅を大幅に残すことができるエッチング剤組成物であることがわかり、さらに配線上部幅のバラツキが少ないことから、大面積のエッチング対象においても面内均一性が良く、高い歩留まりで精密なパターンを形成できることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)フッ化水素、フッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム及びフッ化リチウムから選ばれる少なくとも1種類のフッ化化合物成分;
(B)無機酸成分;及び
(C)無機塩成分
を含む水溶液からなることを特徴とするチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物。
【請求項2】
さらに、(D)キレート剤成分を含むことを特徴とする請求項1記載のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物。
【請求項3】
(D)キレート剤成分が、アミノカルボン酸系キレート剤及びこれらの塩、ホスホン酸系キレート剤及びこれらの塩から選ばれる少なくとも1種である、請求項2記載のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物。
【請求項4】
さらに、界面活性剤、酸化剤及びpH調整剤からなる群から選択される少なくとも1種のその他の添加剤を含有する、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のチタン酸鉛系材料用エッチング剤組成物を使用することを特徴とするチタン酸鉛系材料のエッチング方法。

【公開番号】特開2013−102089(P2013−102089A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245659(P2011−245659)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】