説明

チーズ、ゲル状食品およびその製造方法

【課題】レンネットや乳酸菌のような天然物や、酸、塩化カルシウムなどを使用することなく、加熱するだけでチーズを製造でき、また、乳化剤やゲル化剤などを利用することなく、加熱するだけでゲル状食品を製造できる製造方法の提供。
【解決手段】原料乳液を塩素型陰イオン交換体で処理して得られる調整乳、又は、該調整乳と乳製品との混合物のいずれかを加熱して凝固させる。撹拌下で加熱することによりチーズが得られ、非撹拌下で加熱することによりゲル状食品が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チーズやゲル状食品の製造方法と、該製造方法で得られたチーズおよびゲル状食品に関する。
【背景技術】
【0002】
牛乳などの乳は、飲用に供される他に数多くの加工食品の原料として用いられる。このような加工食品の1つとしてチーズがあり、チーズ製造時に副産物として得られるホエイも、そのまま食品原料として利用されたり、ホエイタンパク質や乳糖などの原料として幅広く利用されたりしている。
また、乳は、酸添加や発酵などの方法によりゲル化することから、プリンやヨーグルトなどの原料としても用いられている。
【0003】
従来、乳からチーズ(カゼイン)およびホエイを作る方法は、非特許文献1〜3、特許文献1などに示されるように多数存在するが、その中でも代表的なものとして、(1)レンネット・乳酸菌法、(2)酸添加(酸カゼイン、酸ホエイ)、(3)塩化カルシウムを添加し加熱する方法(共沈カゼイン)などをあげることが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−125589号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ミルク総合事典(朝倉書店)、初版第1刷、358−361頁
【非特許文献2】乳業ハンドブック(朝倉書店)、初版(昭和48年9月15日)、317−324頁
【非特許文献3】乳学(光琳書院)、589−590頁、昭和50年7月15日印刷、昭和50年7月30日発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、レンネット・乳酸菌法(上記(1))は、手間やコストがかかるうえ、レンネットや乳酸菌という天然由来の成分を用いる方法であるため、得られる製品の品質が安定しなかった。
また、酸添加(上記(2))では、得られる製品の風味に影響を及ぼすことがあり、消費者の嗜好によっては好まれない場合もある。
一方、共沈カゼイン(上記(3))で得られる製品は、特許文献1にも示されているように、膠臭が強く、非常に風味が悪いと言われている。さらに、塩化カルシウムを加えて製造するという方法に由来して、調製粉乳原料や病人用食品(流動食など)に用いるにはミネラル含量が多すぎるという欠点がある。
【0007】
また最近の消費者の嗜好傾向として、保存料や着色料などの添加剤を含まない無添加食材が、健康志向などの理由から好まれつつある。ところが、市販のプリンや流動食などのようなゲル状食品は、ゲル化剤などの添加剤が利用されて製造されていることがほとんどである。
【0008】
本発明は上記を鑑みてなされたもので、レンネットや乳酸菌のような天然物や、酸、塩化カルシウムなどを使用することなく、加熱するだけでチーズを製造でき、また、乳化剤やゲル化剤などを利用することなく、加熱するだけでゲル状食品を製造できる、チーズおよびゲル状食品の製造方法と、該製造方法で製造されたチーズおよびゲル状食品の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のチーズの製造方法は、原料乳液を塩素型陰イオン交換体で処理して得られる調整乳、又は、該調整乳と乳製品との混合物のいずれかを撹拌下で加熱して凝固させる撹拌加熱工程を有し、該撹拌加熱工程で加熱される前記調整乳又は前記混合物は、無脂乳固形分濃度x(質量%)が6≦x≦15である場合には下記式(1)を満足し、前記無脂乳固形分濃度が15<x≦35である場合には下記式(2)を満足することを特徴とする。
[(6Mct+Mp)/Mcl]≦0.037x+0.27・・・(1)
[(6Mct+Mp)/Mcl]≦0.015x+0.60・・・(2)
(ただし、式中、Mctは無脂乳固形分100g当たりのクエン酸のモル量、Mpは無脂乳固形分100g当たりのリンのモル量、Mclは無脂乳固形分100g当たりの塩素のモル量を示す。)
チーズを製造する上で、凝固に問題が無い範囲で、糖類、香料、又は油脂類等の各素材を適宜追加して添加することが可能である。
前記調整乳は、無脂乳固形分100g当たりの塩素のモル量が48〜90mmol、クエン酸のモル量が0.2〜3.3mmol、リンのモル量が17〜35mmolであることが好適である。
前記撹拌加熱工程で生成した生成物を固液分離する固液分離工程を有することが好適である。
【0010】
本発明のゲル状食品の製造方法は、原料乳液を塩素型陰イオン交換体で処理して得られる調整乳、又は、該調整乳と乳製品との混合物のいずれかを非撹拌下で加熱して凝固させる非撹拌加熱工程を有し、該非撹拌加熱工程で加熱される前記調整乳又は前記混合物は、無脂乳固形分濃度x(質量%)が6≦x≦20である場合には下記式(3)を満足することを特徴とする。
[(6Mct+Mp)/Mcl]≦0.066x−0.05・・・(3)
(ただし、式中、Mctは無脂乳固形分100g当たりのクエン酸のモル量、Mpは無脂乳固形分100g当たりのリンのモル量、Mclは無脂乳固形分100g当たりの塩素のモル量を示す。)
ゲル状食品を製造する上で、ゲル化に問題が無い範囲で、糖類、香料、又は油脂類等の各素材を適宜追加して添加することが可能である。
前記調整乳は、無脂乳固形分100g当たりの塩素のモル量が44〜90mmol、クエン酸のモル量が0.2〜3.5mmol、リンのモル量が17〜36mmolであることが好適である。
本発明のチーズおよびゲル状食品は、前記製造方法により製造される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、レンネットや乳酸菌のような天然物や、酸、塩化カルシウムなどを使用することなく、加熱するだけでチーズを製造でき、また、乳化剤やゲル化剤などを利用することなく、加熱するだけでゲル状食品を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のチーズの製造方法において、多数の調整乳についての無脂乳固形分濃度xと[(6Mct+Mp)/Mcl]との関係と、式(1)および(2)を満足する領域を示すグラフである。
【図2】本発明のゲル状食品の製造方法において、多数の調整乳についての無脂乳固形分濃度xと[(6Mct+Mp)/Mcl]との関係と、式(3)を満足する領域を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で使用される原料乳液としては、全脂乳、部分脱脂乳、脱脂乳等が好適に利用でき、中でも部分脱脂乳、脱脂乳などが特に好適に例示できる。このように全脂乳(脂肪を取り除いていない乳)から少なくとも一部の脂肪を除去した乳を用いると、塩素型陰イオン交換体への脂肪付着を予防する点で好適である。
原料乳液としては、これらをそのまま用いてもよいし、希釈または濃縮により固形分濃度を調整して用いてもよい。乳としては、牛、山羊、羊などの乳を用いることができる。
また、原料乳液は、噴霧乾燥法や凍結乾燥法などで粉末化された乳、部分脱脂粉乳、脱脂粉乳などを水などで還元したものでもよい。
また、常法により殺菌を行ったものも使用できるが、好ましくは、殺菌されていない未殺菌乳か、低温殺菌品(ローヒート品)を用いる。ここで低温殺菌品とは、例えば、上述の非特許文献1の278頁に記載されているように、未変性乳清タンパク質含量(WPNI)が6.0以上のものである。
【0014】
本発明では、まず、原料乳液を塩素型陰イオン交換体に通液させ、接触させる方法により、原料乳液をイオン交換し、クエン酸濃度が低減され、リン濃度が低減又は維持され、塩素濃度が増大された調整乳を得る。
ここで使用される塩素型陰イオン交換体としては、市販の塩素型陰イオン交換樹脂が挙げられ、これを使用してもよいし、塩素型以外の陰イオン交換樹脂を食塩水、塩酸などにより塩素型にしたものを使用してもよい。
このように塩素型陰イオン交換体で原料乳液を処理することによって、得られる調整乳は熱安定性が低下し、加熱により固まりやすくなる。
なお、一般的に使用されているような水酸基(OH−)型の陰イオン交換体を用いて原料乳液を処理した場合は、処理後の調整乳は塩基性となり、中和剤等を添加してpHを中性域に調整しなければならなかった。特に調整乳が塩基性である場合は、そのまま食品として供するには好ましくなく、中和剤によるpH調整は不可欠であった。
これに対し、塩素型陰イオン交換体を用いる本発明では、水酸基(OH−)型の陰イオン交換体を用いる場合とは異なり、中和剤を添加する必要がなく、処理後の調整乳を直接加熱して、安全にかつ簡便にチーズやゲル状食品を製造できる点で、従来の一般的な陰イオン交換処理に比して有利な効果を有するものである。
【0015】
原料乳液を塩素型陰イオン交換体に通液する際の通液条件は、目的とする調整乳の熱安定性などに応じて決定される。熱安定性の指標としては、[(6Mct+Mp)/Mcl]の値を採用できる。ただし、[(6Mct+Mp)/Mcl]中、Mct、Mp、Mclは、塩素型陰イオン交換体で処理して得られる調整乳の無脂乳固形分100g当たりのクエン酸のモル量、リンのモル量、塩素のモル量をそれぞれ示す。
[(6Mct+Mp)/Mcl]の値が小さくなるほど、得られる調整乳の熱安定性は低下して、加熱により固まりやすくなる。
なお、調整乳をチーズの原料とする場合には、調整乳の[(6Mct+Mp)/Mcl]の値は1.1以下であることが望ましい。
また、調整乳をゲル状食品の原料とする場合には、調整乳の[(6Mct+Mp)/Mcl]の値は1.3以下であることが望ましい。
例えば一般の脱脂乳における[(6Mct+Mp)/Mcl]の値は、2.5〜3.3である。
ここで、原料乳液を塩素型陰イオン交換体に通液する際の通液条件は、このように調整乳に求められる熱安定性を考慮する他、塩素型陰イオン交換体に通液する際のイオン交換効率、微生物増殖の抑制なども勘案して適宜決定される。
【0016】
好適な通液条件としては、例えば、原料乳液の固形分濃度は4〜35質量%、特に7〜25質量%の範囲が好ましい。空間速度(SV)は2〜12、特に4〜9の範囲が好ましい。原料乳液の温度は2〜50℃の範囲が例示でき、微生物増殖を抑えるためには、原料乳液の温度は10℃以下とすることが特に好ましい。これらの条件内において、乳糖を析出させることがない範囲で通液させることが好ましい。
【0017】
一般には、SVおよび固形分濃度がともに小さい方がイオン交換効率は上昇する。そのため、得られる調整乳の[(6Mct+Mp)/Mcl]の値は、SVおよび固形分濃度がともに小さい方が低くなる傾向にある。また、塩素型陰イオン交換体の単位交換容量あたりの、原料乳液の乳固形分の通液量が少ない程、塩素の増加量と、クエン酸やリンの除去量とが増加し、[(6Mct+Mp)/Mcl]の値は低くなる傾向にある。
例えば、本発明のチーズの製造方法において、固形分濃度が10質量%の原料乳液をSV6.5、温度10℃で通液する場合、塩素型陰イオン交換体のイオン交換容量1eqあたり、原料乳液の乳固形分の通液量が3.1kg程度以下であれば、得られる調整乳の[(6Mct+Mp)/Mcl]の値は1.1以下となる。ここでのeqとは、塩素型陰イオン交換体のイオン交換容量を表し、1eqは、1mol分の電荷を交換出来ることを表す。
また、本発明のゲル状食品の製造方法において、固形分濃度が10質量%の原料乳液をSV6.5、温度10℃で通液する場合、塩素型陰イオン交換体のイオン交換容量1eqあたり、原料乳液の乳固形分の通液量が3.6kg程度以下であれば、得られる調整乳の[(6Mct+Mp)/Mcl]の値は1.3以下となる。
なお、原料乳液を塩素型陰イオン交換体に通液させる回数は、1回でも複数回でもよく、目的とする[(6Mct+Mp)/Mcl]の値に応じて決定できる。
【0018】
このようにして塩素型陰イオン交換体に通液することにより、クエン酸のモル量は低減され、リンのモル量は低減又は維持され、塩素のモル量は高められた調整乳が得られる。ただし、リンの除去量は塩素型陰イオン交換体のイオン交換容量あたりの原料乳液の乳固形分の通液量が多くなるにつれて、顕著に減少し、[(6Mct+Mp)/Mcl]の値が0.8を超える段階では、ほぼゼロとなり、調整乳中のリン含量は原料乳液とほぼ同じ値もしくは、リークにより原料乳液より多少高い値を示す。得られた調整乳のクエン酸のモル量が0.2〜3.3mmol/100g無脂乳固形、リンのモル量が17〜35mmol/100g無脂乳固形、塩素のモル含量が48〜90mmol/100g無脂乳固形であると、本発明の製造方法により、チーズがより得られやすい。ここで[/100g無脂乳固形]とは、「無脂乳固形分100g当たり」を意味する。
また、得られた調整乳のクエン酸のモル量が0.2〜3.5mmol/100g無脂乳固形、リンのモル量が17〜36mmol/100g無脂乳固形、塩素のモル含量が44〜90mmol/100g無脂乳固形であると、本発明の製造方法により、ゲル状食品がより得られやすい。
【0019】
塩素型陰イオン交換体によりイオン交換された調整乳は、熱安定性が低下し、加熱するだけで凝固やゲル化が起こりやすい。そのため、このような調整乳を原料とすることによって、レンネットや乳酸菌のような天然物や、酸、塩化カルシウムなどを使用することなく、加熱するだけでチーズを製造したり、乳化剤やゲル化剤などを利用することなく、加熱するだけでゲル状食品を製造したりできる。
[(6Mct+Mp)/Mcl]の値の好適な下限値は、調整乳の製造効率の観点から0.3であることが好ましい。
【0020】
従来、乳製品などにおいて、塩素(塩化物イオン)は除去することが好ましい場合がある。
例えば、「牛乳・乳製品(養賢堂)」の245頁には、ホエー(ホエイ)の脱塩において、陰イオン交換樹脂により塩素を除去することが記載されている。また、「乳製品製造II(朝倉書店)」の353頁にも、塩素はイオン交換により除去されるものとして記載されている。そのため、従来、脱塩などを目的として陰イオン交換樹脂が使用される場合には、塩素型の陰イオン交換樹脂が使用されることはなく、水酸基型の陰イオン交換樹脂が一般に使用されてきた。このことは、「乳製品製造II(朝倉書店)」の353頁に、陰イオン交換樹脂の再生剤として水酸化ナトリウムを使用することが記載されている点や、特開2001−275562号公報の段落0024に例示されているアニオン交換樹脂(陰イオン交換樹脂)は、水酸基型である点からも裏づけられる。
【0021】
本発明は、このような従来の技術に反して、原料乳液を塩素型陰イオン交換体で処理して、クエン酸濃度を低減させ、リン濃度が低減又は維持され、塩素濃度を増大させた調整乳を原料とすることにより、酸、塩化カルシウム、乳化剤、ゲル化剤などを用いなくても、また、例えば脱塩処理などの他の処理をせずにそのまま加熱するだけで、チーズやゲル状食品を製造できることを見出したものである。
【0022】
チーズを製造する場合には、上述のようにして塩素型陰イオン交換体で処理して得られる調整乳を撹拌下で加熱して凝固させる撹拌加熱工程を行う。このような撹拌加熱工程で調整乳が凝固する結果、カード(固形分)が生成し、固形分と固形分以外の液体(ホエイ)に分かれる。よって、固形分と固形分以外の液体とを固液分離する固液分離工程を行うことにより、チーズを得ることができる。
なお、撹拌加熱工程における撹拌とは、その後の固液分離工程においてカードとホエイとが固液分離できる程度にカードが生じる条件で行う撹拌のことを言う。
【0023】
撹拌加熱工程では、熱安定性の指標となる[(6Mct+Mp)/Mcl]の値と、無脂乳固形分濃度x(質量%)とが、xが6≦x≦15である場合には下記式(1)を満足し、xが15<x≦35である場合には下記式(2)を満足する調整乳を撹拌下で加熱する。
[(6Mct+Mp)/Mcl]≦0.037x+0.27・・・(1)
[(6Mct+Mp)/Mcl]≦0.015x+0.60・・・(2)
ただし、式中、Mctは無脂乳固形分100g当たりのクエン酸のモル量、Mpは無脂乳固形分100g当たりのリンのモル量、Mclは無脂乳固形分100g当たりの塩素のモル量を示す。
【0024】
[(6Mct+Mp)/Mcl]の値と無脂乳固形分濃度x(質量%)とが、式(1)または(2)を満足する調整乳を用いることによって、カードが生成する。
例えば、式(1)または(2)を満足する調整乳であって、[(6Mct+Mp)/Mcl]の値が0.5未満の調整乳の場合には、約75℃以上でカードが生成し始める。また、[(6Mct+Mp)/Mcl]の値が0.5以上0.75未満の調整乳の場合には約80℃以上で、0.75以上の調整乳の場合には約85℃以上でカードが生成し始める。そして、カードが発生し始める温度以上の温度で1〜5分間程度保持することで、カードの発生が終了する。
発生するカードの性状は、撹拌加熱工程に供する調整乳の無脂乳固形分濃度や、加熱条件、撹拌条件などに依存する。よって、目的とするカードの性状に応じて、無脂乳固形分濃度を6〜35質量%の範囲内で設定するとともに、加熱条件および撹拌条件も決定すればよい。
【0025】
無脂乳固形分濃度が6質量%未満の調整乳の場合、加熱しても十分に凝固せず、カードが生成しにくいか、生成するとしても、高温での加熱や長時間の加熱が必要となり、好ましくない。一方、無脂乳固形分濃度が35質量%を超えた調整乳は、粘度が高く、取扱いに困難を伴う点で好ましくない。
なお、無脂乳固形分濃度が6〜35質量%の範囲内であって、かつ、式(1)または(2)を満足する調整乳であれば、加熱により効果的にカードが発生し、特に高温での加熱や長時間の加熱を必要とせずに本発明の効果が享受される。
【0026】
撹拌加熱工程に供する調整乳は、塩素型陰イオン交換体で処理された後に減圧濃縮などで濃縮されたものでも、一旦粉末化後、水などで還元された溶液でもよく、撹拌加熱工程に供する時点において、[(6Mct+Mp)/Mcl]の値と無脂乳固形分濃度xとが、式(1)または(2)を満足するものであればよい。
さらに、式(1)または(2)を満足する調整乳と、満足しない調整乳とを複数種混合し、その結果、式(1)または(2)を満足するように調整された調整乳を用いてもよい。
【0027】
粉末化方法としては、噴霧乾燥法、凍結乾燥法などが例示でき、特に制限はないが、この調整乳は加熱により固形分を生成しやすい。そのため、例えば噴霧乾燥法など、加熱を伴う粉末化方法を採用する場合には、固形分の生成しない条件で行うことが好ましい。加熱時の温度が低いほど、また、加熱時の無脂乳固形分濃度が低いほど、固形分は生成しにくい傾向にある。
【0028】
撹拌加熱工程後の固液分離工程での固液分離の具体的方法には特に制限はなく、例えば、200メッシュ程度のフィルターを用いたろ過法などを例示できる。
【0029】
このような方法によれば、通常のチーズの製造時に必要とされる乳酸菌やレンネットを加えることなく、加熱するだけでチーズを得ることができる。そのため、乳酸菌やレンネットのような天然物を使用したことに起因する製品品質のばらつきや、これらを使用することによるコストなども低減することができる。
また、こうして得られた本発明のチーズは、通常のチーズに比べて、歩留まりが高く、経済的に有利である。
本発明のチーズは、フレッシュチーズとして食することが可能であり、また食品原料などその他の用途に使用することもできる。
なお、本発明の製造方法により製造したチーズは、そのままカゼインとして利用することも可能である。
【0030】
ゲル状食品を製造する場合には、塩素型陰イオン交換体で処理して得られる調整乳を撹拌せずに、すなわち、非撹拌下で静置して加熱して凝固させる非撹拌加熱工程を行う。
そして、その際、上述したチーズの製造の場合と同様に、熱安定性の指標となる[(6Mct+Mp)/Mcl]の値と、無脂乳固形分濃度x(質量%)とが、6≦x≦20および下記式(3)を満足する調整乳を用い、これを非撹拌下で加熱する。
[(6Mct+Mp)/Mcl]≦0.066x−0.05・・・(3)
[(6Mct+Mp)/Mcl]の値と無脂乳固形分濃度x(質量%)とが、式(3)を満足する調整乳を非撹拌下で加熱することによって、高温で加熱したり長時間加熱したりしなくても、ゲルが生成する。
そして、生成したゲルを崩すことなくそのままの状態で、または崩して、ゲル状食品とすることができる。
【0031】
無脂乳固形分濃度が6質量%未満の調整乳の場合、加熱しても十分にゲル化せず、ゲル化するとしても、高温での加熱や長時間の加熱が必要となり、好ましくない。
なお、無脂乳固形分濃度が6〜20質量%の範囲内であって、かつ、式(3)を満足する調整乳であれば、加熱により効果的にゲル化し、特に高温での加熱や長時間の加熱を必要とせずに本発明の効果が享受される。
【0032】
ゲル状食品の製造の場合でも、非撹拌加熱工程に供する調整乳は、塩素型陰イオン交換体で処理された後に減圧濃縮などで濃縮されたものでも、一旦粉末化後、水などで還元された溶液でもよく、非撹拌加熱工程に供する時点において、式(3)を満足するものであればよい。さらに、式(3)を満足する調整乳と、満足しない調整乳とを複数種混合し、その結果、式(3)を満足するように調整された調整乳を用いてもよい。
【0033】
このような方法によれば、乳化剤、ゲル化剤などを利用することなく、また、例えば脱塩処理などの他の処理をせずにそのまま加熱するだけで、ゲル状食品を製造することができる。加熱温度や加熱方式(直接加熱、間接加熱)などの加熱条件は、調整乳の無脂乳固形分濃度などに応じて決定できる。
【0034】
以上説明した態様では、塩素型陰イオン交換体で処理した調整乳を撹拌加熱工程または非撹拌加熱工程に供し、チーズまたはゲル状食品を製造したが、次に説明する本発明の別の態様では、調整乳に乳製品を混合した混合物を撹拌加熱工程または非撹拌加熱工程に供する。乳製品としては、バター、クリーム、生乳(全脂乳)、脱脂乳、脱脂粉乳などが挙げられる。
【0035】
この態様の場合には、調整乳に乳製品を混合した後の混合物が、前記式(1)若しくは(2)又は(3)を満足するものであることが必要である。例えば、調整乳に分離クリーム(生クリーム)を混合した混合物を用いる場合、分離クリームもクエン酸、リン、塩素を通常は含有する。そのため、分離クリームに含まれるこれらの無脂乳固形分100gあたりのモル量と、調整乳に含まれるこれらの無脂乳固形分100gあたりのモル量の合計から、混合物としての[(6Mct+Mp)/Mcl]の値を算出し、この値と、混合物としての無脂乳固形分濃度xとが、上記式(1)若しくは(2)又は(3)を満足することが必要である。
【0036】
また、特に、原料乳液として、例えば、全脂乳から少なくとも一部が除去された乳を使用し、これを塩素型陰イオン交換体で処理した調整乳を用いる場合などには、調整乳に対して、脂肪、すなわち、分離クリーム(生クリーム)、バターなどの乳脂肪、植物性脂肪、動物性脂肪から選ばれる1種以上の脂肪を添加して、脂肪量を調整した混合物を加熱して、チーズやゲル状食品を製造してもよい。さらに、凝固やゲル化に影響のない範囲で、原料液に砂糖等の糖類や香料等の各種食品添加物を適宜添加してもよい。
【0037】
また、例えばゲル状食品としては、プリン、ヨーグルト、流動食、嚥下困難者用食品、ゲル状スポーツ飲料などを製造できるが、この際、砂糖、香料などのその他の成分を調整乳に適宜混合してから加熱してもよい。さらに、添加後のゲル状食品のpHが4.6以下とならない範囲で、果汁を追加して添加できる。なお、この場合の具体的な加熱条件としては、混合物を160℃のオーブンで湯煎しながら、撹拌せずに20分間加熱する条件が例示できる。
【0038】
以上説明したように、塩素型陰イオン交換体での処理により、クエン酸濃度が低減され、リン濃度が低減又は維持され、塩素濃度が増大された調整乳に対して、必要に応じて上述した濃縮を行ったり、粉末化後、水などで還元したりし、さらに、乳製品の添加を行ってから、これを出発原料として加熱することによって、レンネットや乳酸菌のような天然物や、酸、塩化カルシウムなどを使用したり、乳化剤やゲル化剤などを利用したりすることなく、チーズおよびゲル状食品を製造することができる。
【実施例】
【0039】
以下本発明について、実施例を挙げて具体的に説明する。
なお、各例中、「%」は「質量%」を意味する。
【0040】
[実施例1]
脱脂粉乳(森永乳業(株)製、森永脱脂粉乳(ローヒート)、タンパク質34.9%、脂質0.7%、炭水化物50.7%、灰分7.8%、水分5.9%、ナトリウム18.0mmol/100g固形、カリウム44.0mmol/100g固形、カルシウム32.4mmol/100g固形、マグネシウム4.8mmol/100g固形、リン33.8mmol/100g固形、塩素31.5mmol/100g固形、クエン酸9.3mmol/100g固形、[(6Mct+Mp)/Mcl]=2.9)3kgを水22kgに溶解したものを約10℃まで冷却した。なお、[/100g固形]とは、「固形分100g当たり」を意味する。
この溶液を塩素型にした強アニオン性イオン交換樹脂(アンバーライトIRA402BL)1LにSV6で通液し、イオン交換液を経時的に8kgずつ3つのフラクションに分けて、採取した。
なお、この通液条件では、塩素型陰イオン交換体のイオン交換容量1eqあたり、原料乳液の乳固形分の通液量は、2.4kgである。
これらの調製乳をそれぞれ凍結乾燥して3種類の粉末を得て、これらの3種類の粉末について、塩素型にした強アニオン性イオン交換樹脂からの溶出順にサンプル1、2、3とした。
また、サンプル1〜3を混合し、サンプル4(サンプル1:サンプル2=3:2(質量比))、サンプル5(サンプル2:サンプル3=3:1(質量比))、サンプル6(サンプル2:サンプル3=1:1(質量比))を調製した。
それぞれのサンプルについての各種値を表1に示す。なお、表に記載のリン、塩素、クエン酸の濃度は、無脂乳固形分100gあたりに換算した値である。
【0041】
なお、各例成分分析は、以下により行った。
タンパク質:ミクロケルダール法
脂質:レーゼ・ゴットリーブ法
炭水化物:差し引き法
灰分:550℃で加熱し、残留物質量を測定
水分:乾燥減量法
ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン:ICP法
クエン酸:HPLC法
塩素:電位差滴定法
【0042】
得られた各サンプル1〜6を表2に示すように、7%、10%、15%、20%、25%、30%の無脂乳固形分濃度になるように水に溶解し、各溶液を撹拌しながら90℃達温まで沸騰浴中で加熱し、凝固が起こるかどうかを目視評価した。その結果を表2に示す。
一方、各溶液をオートクレーブで、撹拌せずに、121℃、1分加熱(静置加熱)し、ゲル化が起こるかどうかを目視評価した。その結果を表3に示す。
【0043】
なお、沸騰浴中での加熱は、ガラス製試験管に各サンプルを8g分注後、Panasonic KZ−PH30PのIHヒーターを用いて92℃前後(±2℃)まで加熱した湯浴中で、穏やかに撹拌しながら行った。
一方、オートクレーブでの加熱は、ガラス製試験管に各サンプルを8g分注後、それぞれのガラス製試験管を1Lのガラス製ビーカーの中にこぼれないように静置し、ビーカーの口をアルミホイルで覆った後、株式会社トミー精工製のHIGH−PRESSURE STEAM STERILIZER BS−245を用いて121℃、1分間の加熱条件にて行った。また、この際、撹拌は行わなかった。
【0044】
表2および表3の結果より、式(1)若しくは(2)又は(3)を満足する調整乳であれば、加熱により固まることが明確となった。
なお、図1に、式(1)または式(2)を満足する領域を斜線で示した。また、図2に式(3)を満足する領域を斜線で示した。
なお、図1、図2に、種々の無脂乳固形分濃度xと[(6Mct+Mp)/Mcl]の値とを有する多数の調整乳(実施例1と同様に塩素型陰イオン交換体で処理した種々の調整乳。)についてプロットした。その際、図1では凝固を、図2ではゲル化を目視確認できたものを「○」とした。一方、凝固およびゲル化を目視確認できなかったものを「×」で示した。
沸騰浴中、オートクレーブ中での加熱条件は実施例1と同じ条件とした。
式(1)若しくは(2)又は(3)は、このように図1および図2にプロットした多数のデータから導いた。
【0045】
一方、得られたサンプル1を100.1g計量し、水300.1gを加えて無脂乳固形分濃度25%の溶液を調整した。
この溶液を撹拌しながら、沸騰浴に浸漬し、液温が90℃になるまで加熱した所、カードが発生した。このカードを集めて、目開き425μmのザル(フィルター)で濾過した所、チーズ205.2gとホエイ154.8g(Brix20.0%)を得ることが出来た。当該チーズは、カッテージチーズ様の形態をしていた。
得られたチーズ及びホエイを凍結乾燥機(共和真空技術株式会社製、RL−B04)により各々凍結乾燥し、2種類の粉末を得た。
チーズを凍結乾燥したものは、タンパク質49.7%、脂質0.9%、炭水化物37.5%、灰分7.7%、水分4.2%、ナトリウム13.9mmol/100g固形、カリウム33.1mmol/100g固形、カルシウム42.2mmol/100g固形、マグネシウム4.8mmol/100g固形、リン36.4mmol/100g固形、塩素48.0mmol/100g固形の組成であった。
ホエイを乾燥したものは、タンパク質7.1%、脂質0.4%、炭水化物81.3%、灰分7.4%、水分3.8%、ナトリウム28.6mmol/100g固形、カリウム68.9mmol/100g固形、カルシウム8.0mmol/100g固形、マグネシウム2.6mmol/100g固形、リン9.4mmol/100g固形、塩素103.8mmol/100g固形の組成であった。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
[実施例2]
脱脂粉乳(森永乳業(株)製、森永脱脂粉乳(ローヒート)、タンパク質34.6%、脂質0.8%、炭水化物52.7%、灰分7.6%、水分4.3%、ナトリウム19.7mmol/100g固形、カリウム47.3mmol/100g固形、カルシウム34.7mmol/100g固形、マグネシウム5.3mmol/100g固形、リン35.8mmol/100g固形、塩素30.4mmol/100g固形、クエン酸10.9mmol/100g固形、[(6Mct+Mp)/Mcl]=3.3)2.5kgを水17.5kgに溶解し、約10℃に冷却した。
この溶液を塩素型にした強アニオン性イオン交換樹脂(アンバーライトIRA402BL)1LにSV6で通液し、イオン交換液を経時的に4kgずつ5つのフラクションに分けて、採取した。
なお、この通液条件では、塩素型陰イオン交換体のイオン交換容量1eqあたり、原料乳液の乳固形分の通液量は、2.0kgである。
これらの液をそれぞれ凍結乾燥して、5種類の粉末を得た。
これらの5種類の粉末について、イオン交換樹脂からの溶出順に、サンプル7、8、9、10、11とし、それぞれのサンプルについての各種値を表4に示す。
【0050】
【表4】

【0051】
得られたサンプル10を7.3g計量し、水29.4gを加えて無脂乳固形分濃度20%の溶液を調整した。さらに、カスタードフレーバー0.04g、バニラエッセンス0.06g、砂糖3.2gを加え、良く混合した後、ガラス製容器(50mlビーカー)に30g分注した。アルミホイルでガラス製容器に蓋をした後、1Lビーカーに入れてさらにアルミホイルで覆い、オートクレーブ(株式会社トミー精工製 HIGH−PRESSURE STEAM STERILIZER BS−245)で、非撹拌下で、121℃、1分間加熱した。オートクレーブが80℃以下になった後、ガラス製容器を取り出し、さらに常温でしばらく冷却したところ、プリン様のゲル状のものが出来ていた。これを試食したところ、滑らかで食感の良いプリンができており、風味もよく非常に美味であった。
【0052】
一方、サンプル7、8、9をそれぞれ水に溶解して、無脂乳固形分濃度25%の溶液を3種調製した。ついで、各溶液に脂肪分45%の生クリーム(森永乳業(株)製、タンパク質1.8%、脂質46.1%、炭水化物5.1%、灰分0.3%、水分46.7%、ナトリウム1.9mmol/100g固形、カリウム4.3mmol/100g固形、カルシウム2.4mmol/100g固形、マグネシウム0.4mmol/100g固形、リン3.3mmol/100g固形、塩素3.1mmol/100g固形、クエン酸1.0mmol/100g固形、[(6Mct+Mp)/Mcl]=3.0)を質量基準でそれぞれ0%(生クリーム添加なし)、10%(サンプル12.6g+生クリーム1.4g)、20%(サンプル11.2g+生クリーム2.8g)配合となるように添加して液状の混合物を得て、この混合物を撹拌しながら90℃達温まで沸騰浴中で加熱した。
なお、沸騰浴中での加熱は、ガラス製試験管に各サンプルを8g分注後、Panasonic KZ−PH30PのIHヒーターを用いて92℃前後(±2℃)まで加熱した湯浴中で、穏やかに撹拌しながら加熱実験を行った。
サンプル7、8、9に生クリームを添加した混合物の無脂乳固形分濃度xと[(6Mct+Mp)/Mcl]の値を表5に示す。
加熱実験の結果、サンプル7、8、9を用いた各混合物は、いずれも凝固した。
また、各混合物は、式(2)を満足していた。
【0053】
【表5】

【0054】
[比較例1]
サンプル10からプリンを製造した上記実施例2の比較として、本比較例1を行った。
具体的には、サンプル10の代わりに、脱脂粉乳(森永乳業(株)製、森永脱脂粉乳(ローヒート)、[(6Mct+Mp)/Mcl]=3.3)を使用して、無脂乳固形分濃度20%の溶液を調製した以外は、実施例2と同様にして、オートクレーブを用いた非撹拌下での加熱を行った。
オートクレーブが80℃以下になった後、ガラス製容器を取り出し、さらに常温でしばらく冷却したが、ガラス製容器に流し込まれた液体は、加熱後であっても液体状態を保っていて、ゲル化が認められなかった。
【0055】
[実施例3]
分離脱脂乳(殺菌)(森永乳業製(ただし測定値は凍結乾燥品とする)、タンパク質36.9%、脂質0.6%、炭水化物52.5%、灰分8.1%、水分1.9%、ナトリウム18.8mmol/100g固形、カリウム43.8mmol/100g固形、カルシウム31.5mmol/100g固形、マグネシウム4.9mmol/100g固形、リン33.9mmol/100g固形、塩素31.3mmol/100g固形、クエン酸9.4mmol/100g固形、[(6Mct+Mp)/Mcl]=2.9)33kgをまずは約10℃まで冷却した。
ついで、この溶液を塩素型陰イオン交換樹脂(塩素型にした強アニオン性イオン交換樹脂(アンバーライトIRA402BL))1LにSV約8で通液し、イオン交換液を経時的に6kgずつ5つのフラクションに分けて採取した。
なお、この通液条件では、塩素型陰イオン交換体のイオン交換容量1eq(樹脂量約0.8L)あたり、原料乳液の乳固形分の通液量は、約2.5kgである。
これらの液をそれぞれ凍結乾燥して、5種類の粉末を得た。
これらの5種類の粉末について、イオン交換樹脂からの溶出順に、サンプル12、13、14、15、16(表6)とした。
各サンプル12〜15を表7に示すように、7%、10%、15%、20%、25%、30%の無脂乳固形分濃度になるように水に溶解し、各溶液を撹拌しながら90℃達温まで沸騰浴中で加熱した。その結果を表7に示す。
一方、各溶液をオートクレーブで、攪拌せずに、121℃、1分加熱(静置加熱)した結果を表8に示す。
【0056】
【表6】

【0057】
【表7】

【0058】
【表8】

【0059】
[実施例4]
脱脂粉乳(森永乳業(株)製、森永脱脂粉乳(ローヒート)、タンパク質34.8%、脂質0.7%、炭水化物51.1%、灰分7.7%、水分5.7%、ナトリウム18.4mmol/100g固形、カリウム43.9mmol/100g固形、カルシウム30.2mmol/100g固形、マグネシウム4.9mmol/100g固形、リン32.3mmol/100g固形、塩素30.8mmol/100g固形、クエン酸9.7mmol/100g固形、[(6Mct+Mp)/Mcl]=2.9)7.0kgを水55.0kgに溶解した後、約10℃に冷却した。
ついで、この溶液を塩素型にした強アニオン性イオン交換樹脂(アンバーライトIRA402BL)2.5LにSV約6で通液し、50kgのイオン交換乳を得た。
得られた調整乳のうち、5kgを凍結乾燥機(共和真空技術株式会社製、RL−B04)により凍結乾燥して、粉末(タンパク質36.6%、脂質0.7%、炭水化物53.3%、灰分8.1%、水分1.3%、ナトリウム18.9mmol/100g固形、カリウム44.6mmol/100g固形、カルシウム28.8mmol/100g固形、マグネシウム4.1mmol/100g固形、リン31.7mmol/100g固形、塩素58.3mmol/100g固形、クエン酸1.8mmol/100g固形、[(6Mct+Mp)/Mcl]=0.73)0.6kgを得た。
このサンプルを用いて、無脂乳固形分濃度20%の溶液250gを調整した。
この溶液を撹拌しながら、沸騰浴に浸漬し、液温が90℃になるまで加熱した所、カードが発生した。このカードを目開き425μmのザル(フィルター)で濾過して集めた後、ろ紙で挟んで軽く吸水した。この工程で得られたチーズ20gにクエン酸(三)ナトリウムを1g添加し、ビーカーに入れて約90℃の湯浴で6分間加熱し、溶融した。溶融したチーズを冷蔵庫で冷却し、プロセスチーズを作製した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料乳液を塩素型陰イオン交換体で処理して得られる調整乳、又は、該調整乳と乳製品との混合物のいずれかを撹拌下で加熱して凝固させる撹拌加熱工程を有し、
該撹拌加熱工程で加熱される前記調整乳又は前記混合物は、無脂乳固形分濃度x(質量%)が6≦x≦15である場合には下記式(1)を満足し、前記無脂乳固形分濃度が15<x≦35である場合には下記式(2)を満足することを特徴とするチーズの製造方法。
[(6Mct+Mp)/Mcl]≦0.037x+0.27・・・(1)
[(6Mct+Mp)/Mcl]≦0.015x+0.60・・・(2)
(ただし、式中、Mctは無脂乳固形分100g当たりのクエン酸のモル量、Mpは無脂乳固形分100g当たりのリンのモル量、Mclは無脂乳固形分100g当たりの塩素のモル量を示す。)
【請求項2】
前記調整乳は、無脂乳固形分100g当たりの塩素のモル量が48〜90mmol、クエン酸のモル量が0.2〜3.3mmol、リンのモル量が17〜35mmolであることを特徴とする請求項1に記載のチーズの製造方法。
【請求項3】
前記撹拌加熱工程で生成した生成物を固液分離する固液分離工程を有することを特徴とする請求項1または2に記載のチーズの製造方法。
【請求項4】
原料乳液を塩素型陰イオン交換体で処理して得られる調整乳、又は、該調整乳と乳製品との混合物のいずれかを非撹拌下で加熱して凝固させる非撹拌加熱工程を有し、
該非撹拌加熱工程で加熱される前記調整乳又は前記混合物は、無脂乳固形分濃度x(質量%)が6≦x≦20である場合には下記式(3)を満足することを特徴とするゲル状食品の製造方法。
[(6Mct+Mp)/Mcl]≦0.066x−0.05・・・(3)
(ただし、式中、Mctは無脂乳固形分100g当たりのクエン酸のモル量、Mpは無脂乳固形分100g当たりのリンのモル量、Mclは無脂乳固形分100g当たりの塩素のモル量を示す。)
【請求項5】
前記調整乳は、固形分100g当たりの塩素のモル量が44〜90mmol、クエン酸のモル量が0.2〜3.5mmol、リンのモル量が17〜36mmolであることを特徴とする請求項4に記載のゲル状食品の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法で製造されたチーズ。
【請求項7】
請求項4または5に記載の方法で製造されたゲル状食品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−70701(P2012−70701A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219325(P2010−219325)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】