説明

テニス靴

テニス靴のソール5は、ベース7と多数の横筋山9とを備えている。横筋山9の断面形状は非対称である。横筋山9は、接地面11、爪先側壁面13及び踵側壁面15を備えている。踵側壁面15の傾斜角度θbは、爪先側壁面13の傾斜角度θaよりも大きい。両者の差(θb−θa)は、10°以上60°以下である。横筋山9の高さHは、1mm以上8mm以下である。ベース7と横筋山9との境界部の距離L1に対する接地面11の距離L2の比(L2/L1)は、0.2以上0.8以下である。底面の爪先方向における摩擦係数μaと踵方向における摩擦係数μbとの比(μa/μb)は、0.3以上0.9以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、テニス靴に関する。詳細には、本発明は、テニス靴の底面の改良に関する。
【背景技術】
テニスのラリーでは、プレーヤーは、コートの中を激しく移動しつつストロークを行う。プレーヤーは、相手のストロークからボールの方向を予測し、目標地点に向かって移動する。移動は、足が地面をキックすることで行われる。目標地点に近づくと、プレーヤーはキックを停止してストロークの体勢を整える。この後は、プレーヤーの足は地面とスライドする。短い距離ではあるが、スライドによってプレーヤーの体は前進する。目標地点までの移動の大半はキックによってなされるが、移動の最終段階はスライドによってなされる。目標地点に到達したプレーヤーは、ストロークを行う。次にプレーヤーは体を反転させて地面をキックし、次の目標地点へと移動する。
キックによる移動では、テニス靴と地面とがスリップを起こさないことが好ましい。テニス靴には、防滑性能が要求される。一方、スライドによる移動では、テニス靴と地面とが適度にスリップすることが好ましい。テニス靴には、スライド性能が要求される。特開平7−213304号公報には、底面の突起の平面形状が工夫されることにより防滑性能とスライド性能とが両立されたテニス靴が開示されている。
上記公報に開示されたテニス靴であっても、防滑性能とスライド性能との両立は十分ではない。本発明の目的は、防滑性能及びスライド性能に優れたテニス靴の提供である。
【発明の開示】
本発明に係るテニス靴は、底面に並列された多数の筋山を備えている。この筋山の横断面形状は、非対称である。この底面の一方向における摩擦係数μaと逆方向における摩擦係数μbとの比(μa/μb)は、0.3以上0.9以下である。このテニス靴は、一方向におけるスライド性能と、逆方向における防滑性能とに優れる。
他の発明に係るテニス靴は、幅方向に延びる多数の横筋山を底面に備えている。この横筋山の断面形状は非対称である。この底面の爪先方向における摩擦係数μaと踵方向における摩擦係数μbとの比(μa/μb)は、0.3以上0.9以下である。このテニス靴は、爪先方向におけるスライド性能と、踵方向における防滑性能とに優れる。
横筋山は、接地面並びにこの接地面に連続する爪先側壁面及び踵側壁面を備える。好ましくは、爪先側壁面の傾斜角度θaと踵側壁面の傾斜角度θbとの差(θb−θa)は、10°以上60°以下である。横筋山の好ましい高さは、1mm以上8mm以下である。
好ましくは、テニス靴は、横筋山とともに縦筋山を備える。この縦筋山は、長さ方向に延びる。底面のうち長さ方向中心よりも爪先側であってかつ幅方向中心よりもアウトサイドの領域には、主として横筋山が形成される。底面のうち長さ方向中心よりも爪先側であってかつ幅方向中心よりもインサイドの領域には、主として縦筋山が形成される。このテニス靴は、前進時のスライド性能及び防滑性能並びに方向転換時の防滑性能に優れる。
さらに他の発明に係るテニス靴は、その底面に、横筋山及び縦筋山を多数備えている。爪先部における全接地面積に占める横筋山の接地面積の比率R1は、40%以上70%以下である。インサイド部における全接地面積に占める縦筋山の接地面積の比率R2は、70%以上100%以下である。このテニス靴は、防滑性能とスライド性能とに優れる。
好ましくは、横筋山の靴長さ方向断面形状は非対称であり、縦筋山の靴幅方向断面形状も非対称である。底面と接地面との爪先方向の摩擦係数μaは踵方向への摩擦μbより小さく、μaとμbとの比(μa/μb)は0.3以上0.9以下である。
好ましくは、比率R1は45%以上65%以下であり、比率R2は75%以上95%以下である。好ましくは、比率R1は50%以上60%以下であり、比率R2は80%以上90%以下である。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の一実施形態に係るテニス靴が示された側面図であり、
第2図は第1図のテニス靴が示された底面図であり、
第3図は第2図のソールの一部が示された下方からの斜視図であり、
第4図は第2図のソールの一部が示された拡大断面図であり、
第5図は本発明の他の実施形態に係るテニス靴のソールの一部が示された断面図であり、
第6図は本発明のさらに他の実施形態に係るテニス靴のソールの一部が示された断面図であり、
第7図は本発明のさらに他の実施形態に係るテニス靴のソールが示された底面図であり、
第8図は第7図のソールの一部が示された拡大断面図であり、
第9図は、本発明のさらに他の実施形態に係るテニス靴のソールが示された底面図であり、
第10図は第9図のソールの一部が示された下方からの斜視図であり、
第11図は第10図のソールの一部が示された拡大断面図であり、
第12図は第9図のソールの一部が示された拡大断面図であり、
第13図は本発明のさらに他の実施形態に係るソールの一部が示された底面図であり、
第14図は本発明のさらに他の実施形態に係るテニス靴のソールが示された底面図であり、
そして、
第15図は第14図のソールの一部が示された拡大底面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、適宜図面が参照されつつ、実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
第1図に示されたテニス靴1は、アッパー3及びソール5を備えている。アッパー3の材質は、既知のテニス靴のアッパーと同等である。ソール5の材質は、既知のテニス靴のソールと同等である。一般的には、ソール5は架橋ゴム又は合成樹脂から構成される。
第2図には、ソール5が示されている。この第2図において上側は爪先側であり、下側は踵側であり、右側はアウトサイドであり、左側はインサイドである。このソール5は、左足用である。右足用のソールは、第2図に示された形状が反転された形状を呈する。
ソール5は、ベース7と多数の横筋山9とを備えている。横筋山9はベース7と一体的に成形されており、ベース7から突出している。横筋山9は、幅方向(第2図における左右方向)に延びている。多数の横筋山9が、所定間隔を隔てて平行に並んでいる。土踏まずに相当する領域には、横筋山9は存在していない。本明細書において横筋山9とはソール5の長さ方向に対して、略直交する方向に延びる筋山を意味する。好ましくは、横筋山9の延びる方向は、ソール5の長さ方向に対して80°以上100°以下である。
第3図は第2図のソール5の一部が示された下方からの斜視図であり、第4図はその一部が示された拡大断面図である。これらの図において左側が爪先側であり、右側が踵側である。第3図及び第4図から明らかなように、横筋山9の断面形状は非対称である。横筋山9は、接地面11、爪先側壁面13及び踵側壁面15を備えている。接地面11は、テニス靴1が着用されたときに地面と接する面である。爪先側壁面13は接地面11に連続しており、接地面11よりも爪先側に位置している。踵側壁面15は接地面11に連続しており、接地面11よりも踵側に位置している。
第4図において両矢印θaで示されているのは、爪先側壁面13の傾斜角度である。傾斜角度θaは、爪先側壁面13が水平面G(地面)に対してなす角度である。第4図において両矢印θbで示されているのは、踵側壁面15の傾斜角度である。傾斜角度θbは、踵側壁面15が水平面Gに対してなす角度である。傾斜角度θbは、傾斜角度θaよりも大きい。
テニス靴1が地面に置かれ、爪先方向に引っ張られた場合、引っ張りの力は主として爪先側壁面13にかかる。爪先側壁面13の傾斜は緩いので、地面と底面との摩擦係数μaは小さい。プレーヤーがシューズをスライドさせる場合、そのスライド方向は爪先方向である。このテニス靴1は摩擦係数μaが小さいので、スライド性能に優れる。このテニス靴1を着用したプレーヤーは、移動からストロークへの移行を円滑に行いうる。スライドは、着地時の衝撃の緩和にも寄与する。
テニス靴1が地面に置かれ、踵方向に引っ張られた場合、引っ張りの力は主として踵側壁面15にかかる。踵側壁面15の傾斜はきついので、地面と底面との摩擦係数μbは大きい。プレーヤーが地面をキックして前進する場合、そのキックの方向は踵方向である。このテニス靴1は摩擦係数μbが大きいので、キックの際の防滑性能に優れる。
スライド性能と防滑性能との両立の観点から、摩擦係数μaと摩擦係数μbとの比(μa/μb)は0.9以下が好ましく、0.7以下がより好ましい。比(μa/μb)が小さすぎると爪先方向への意図せぬスリップが生じやすいので、比(μa/μb)は0.3以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。
摩擦係数は、以下の(1)及び(2)に示された条件を備えた砂入り人工芝の上で測定される。
(1)パイル
材質:ポリプロピレン
形状:スプリットヤーン
糸:8400デシテックス
パイルの緯密度(ゲージ):5/16インチ間隔
パイルの経密度(ステッチ):4.8本/インチ
基布表面から葉先までの高さ:19mm
(2)充填される砂
種類:乾燥させた粒度調整砂(住友ゴム工業社の商品名「オムニサンドA」)
充填量:25kg/m
充填高さ:人工芝の葉先2mmを残すように充填
測定では、上記砂入り人工芝の上でテニス靴1に600Nの鉛直荷重がかけられ、このテニス靴1が所定方向に50cm/sの速度で引っ張られるように水平方向の力がかけられる。この引っ張りの力がロードセルで検出され、この引っ張りの力が鉛直荷重で除されることにより摩擦係数が算出される。測定は、20℃の環境下で行われる。
スライド性能と防滑性能との両立の観点から、差(θb−θa)は10°(degree)以上が好ましく、20°以上がより好ましい。差(θb−θa)が過大であると爪先方向への意図せぬスリップが生じやすいので、差(θb−θa)は60°以下が好ましく、50°以下がより好ましい。傾斜角度θaは、30°以上70°以下が好ましい。傾斜角度θbは、50°以上90°以下が好ましい。
横筋山9の高さHは、1mm以上8mm以下が好ましい。高さHが上記範囲未満であると、防滑性能が不十分となることがある。この観点から、高さHは2mm以上がより好ましい。高さHが上記範囲を超えると、横筋山9の剛性が不足することがある。この観点から、高さHは6mm以下がより好ましい。
ベース7と横筋山9との境界部の距離L1に対する接地面11の距離L2の比(L2/L1)は、0.2以上0.8以下が好ましい。比(L2/L1)が上記範囲未満であると、横筋山9の剛性が不足することがある。この観点から、比(L2/L1)は0.3以上がより好ましい。比(L2/L1)が上記範囲を超えると、接地圧が不足して防滑性能が不十分となることがある。この観点から、比(L2/L1)は0.6以下が特に好ましい。
全ての接地面の合計面積の、底面の投影面積に対する比率は、15%以上70%以下が好ましい。比率が上記範囲未満であると、接地面が摩耗しやすい。この観点から、比率は25%以上がより好ましい。比率が上記範囲を超えると、接地圧が不足して防滑性能が不十分となることがある。この観点から、比率は60%以下がより好ましい。
第2図に示されたテニス靴1では、筋山9は幅方向に延びているが、筋山が他の方向に延びてもよい。この場合も、筋山と直行する一方向において優れたスライド性能が達成され、逆方向において優れた防滑性能が達成される。
第5図は、本発明の他の実施形態に係るテニス靴のソール17の一部が示された断面図である。この図には、横筋山19とベース21とが示されている。この図において左側が爪先側であり、右側が踵側である。この横筋山19の断面形状は、非対称である。この横筋山19は、接地面23、爪先側壁面25及び踵側壁面27を備えている。爪先側壁面25は、湾曲している。このソール17は、第2図に示されたソール5と同様に、平行に配置された多数の横筋山19を備えている。
第5図において二点差線で示されているのは、接地面23と爪先側壁面25との境界点P1と、ベース21と爪先側壁面25との境界点P2とが結ばれた仮想線である。この仮想線と水平線Gとのなす角度が、爪先側壁面25の傾斜角度θaである。このソールにおいても、傾斜角度θaは、30°以上70°以下が好ましい。一方、踵側壁面27傾斜角度θbは、50°以上90°以下が好ましい。スライド性能と防滑性能との両立の観点から、差(θb−θa)は10°以上が好ましく、20°以上がより好ましい。差(θb−θa)が過大であると爪先方向への意図せぬスリップが生じやすいので、差(θb−θa)は60°以下が好ましく、50°以下がより好ましい。
このソール17においても、横筋山19の高さHは、1mm以上8mm以下が好ましい。このソール17においても、比(L2/L1)は、0.2以上0.8以下が好ましい。
このソール17においても、スライド性能と防滑性能との両立の観点から、摩擦係数μaと摩擦係数μbとの比(μa/μb)は0.9以下が好ましく、0.7以下がより好ましい。比(μa/μb)が小さすぎると爪先方向への意図せぬスリップが生じやすいので、比(μa/μb)は0.3以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。
第6図は、本発明のさらに他の実施形態に係るテニス靴のソール29の一部が示された断面図である。この図には、横筋山31とベース33とが示されている。この図において左側が爪先側であり、右側が踵側である。この横筋山31の断面形状は、非対称である。この横筋山31は、接地面35、爪先側壁面37及び踵側壁面39を備えている。この接地面35は、湾曲している。接地面35は、第4図に示された横筋山9の接地面11に比べて狭い。このソール29は、第2図に示されたソール5と同様に、平行に配置された多数の横筋山31を備えている。
このソール29においても、爪先側壁面37が水平面に対してなす傾斜角度θaは、30°以上70°以下が好ましい。一方、踵側壁面39が水平面に対してなす傾斜角度θbは、50°以上90°以下が好ましい。スライド性能と防滑性能との両立の観点から、差(θb−θa)は10°以上が好ましく、20°以上がより好ましい。差(θb−θa)が過大であると爪先方向への意図せぬスリップが生じやすいので、差(θb−θa)は60°以下が好ましく、50°以下がより好ましい。
このソール29においても、横筋山31の高さHは、1mm以上8mm以下が好ましい。このソール29においても、比(L2/L1)は、0.2以上0.8以下が好ましい。
このソール29においても、スライド性能と防滑性能との両立の観点から、摩擦係数μaと摩擦係数μbとの比(μa/μb)は0.9以下が好ましく、0.7以下がより好ましい。比(μa/μb)が小さすぎると爪先方向への意図せぬスリップが生じやすいので、比(μa/μb)は0.3以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。
第7図は、本発明のさらに他の実施形態に係るテニス靴のソール41が示された底面図である。この第7図において上側は爪先側であり、下側は踵側であり、右側はアウトサイドであり、左側はインサイドである。このソール41は、左足用である。右足用のソールは、第7図に示された形状が反転された形状を呈する。
ソール41は、ベース43と、多数の横筋山45と、多数の縦筋山47とを備えている。横筋山45及び縦筋山47はベース43と一体的に成形されており、ベース43から突出している。横筋山45は、幅方向(第7図における左右方向)に延びている。縦筋山47は、長さ方向(第7図における上下方向)に延びている。本明細書において縦筋山47とは、ソール41の長さの方向に略平行に延びる筋山を意味する。好ましくは、縦筋山47の延びる方向は、ソール41の長さ方向に対して−10°以上10°以下である。横筋山45の断面形状及び寸法は、第4図に示された横筋山9の断面形状と同等である。
第8図は、第7図のソール41の一部が示された拡大断面図である。この第8図には、縦筋山47が示されている。この第8図において左側がインサイドであり、右側がアウトサイドである。第8図から明らかなように、縦筋山47は接地面49、インサイド壁面51及びアウトサイド壁面53を備えている。インサイド壁面51の水平方向に対する傾斜角度θcは、アウトサイド壁面53の水平方向に対する傾斜角度θdよりも緩やかである。
第7図に示されている一点鎖線CL1は、長さ方向中心線である。中心線CL1は、ソール41の輪郭線内に画かれうる最長線分が想定されたとき、この最長線分の中心においてこの最長線分と直交する直線である。仮想線Liは、最長線分と平行でソール41のインサイドに接する直線である。仮想線Loは、最長線分と平行でソール41のアウトサイドに接する直線である。仮想線Liと仮想線Loとの距離は、ソール41の幅Wである。第7図に示されている一点鎖線CL2は、幅方向中心線である。中心線CL2は、仮想線Li及びLoと平行である。
底面のうち中心線CL1よりも上方であって中心線CL2よりも右側は、長さ方向中心よりも爪先側であってかつ幅方向中心よりもアウトサイドの領域である。この領域には、主として横筋山45が形成されている。具体的には、この領域に含まれる全ての筋山45、47の接地面積に占める横筋山45の接地面積は、50%以上、特には70%以上である。この領域は、プレーヤーが地面をキックして前進するとき、及び前進しつつテニス靴をスライドさせるときに大きな荷重がかかる領域である。この領域に主として横筋山45が形成されることにより、スライド性能と防滑性能とが両立される。
底面のうち中心線CL1よりも上方であって中心線CL2よりも左側は、長さ方向中心よりも爪先側であってかつ幅方向中心よりもインサイドの領域である。この領域には、主として縦筋山47が形成されている。具体的には、この領域に含まれる全ての筋山45、47の接地面積に占める縦筋山47の接地面積は、50%以上、特には70%以上である。この領域は、プレーヤーが方向転換するときに大きな荷重がかかる領域である。この領域に主として縦筋山47が形成されることにより、方向転換時の防滑性能が高められる。この防滑性能の向上には、主としてアウトサイド壁面53が寄与する。インサイド壁面51の傾斜が緩やかなことに起因して、縦筋山47では接地面49の面積が小さい。面積が小さな接地面49により、接地圧が高められる。大きな接地圧は、防滑性能の向上に寄与する。
インサイド壁面51が水平面に対してなす傾斜角度θcは、30°以上70°以下が好ましい。一方、アウトサイド壁面53が水平面に対してなす傾斜角度θdは、50°以上90°以下が好ましい。防滑性能の観点から、差(θd−θc)は10°以上が好ましく、20°以上がより好ましい。差(θd−θc)は60°以下が好ましく、50°以下がより好ましい。
縦筋山47の高さHは、1mm以上8mm以下が好ましい。ベース43と縦筋山47との境界部の距離L3に対する接地面49の距離L4の比(L4/L3)は、0.2以上0.8以下が好ましい。
このソール41においても、スライド性能と防滑性能との両立の観点から、摩擦係数μaと摩擦係数μbとの比(μa/μb)は0.9以下が好ましく、0.7以下がより好ましい。比(μa/μb)が小さすぎると爪先方向への意図せぬスリップが生じやすいので、比(μa/μb)は0.3以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。
このソール41においても、全ての接地面の合計面積の、底面の投影面積に対する比率は、15%以上70%以下が好ましい。比率が上記範囲未満であると、接地面が摩耗しやすい。この観点から、比率は25%以上がより好ましい。比率が上記範囲を超えると、防滑性能が不十分となることがある。この観点から、比率は60%以下がより好ましい。
第9図は、本発明のさらに他の実施形態に係るテニス靴のソール55が示された底面図である。この第9図において上側は爪先側であり、下側は踵側であり、右側はアウトサイドであり、左側はインサイドである。底面のうち中心線CL1よりも上方の部分は爪先部である。中心線CL2よりも左側はインサイド部である。このソール55は、左足用である。右足用のソールは、第9図に示された形状が反転された形状を呈する。
ソール55は、ベース57と筋山59とを備えている。この筋山59はベース57と一体的に成形されており、ベース57から突出している。筋山59は複数の横筋山61と縦筋山63とからなる。横筋山61は、幅方向に延びている。縦筋山63は長さ方向に延びている。横筋山61は、長さ方向に所定間隔を隔てて平行に複数の列をなして並んでいる。縦筋山63は、幅方向に同様の列をなして並んでいる。
爪先部のアウトサイドには、複数の横筋山61が並んでいる。爪先部であってかつインサイド部である領域には、主として縦筋山63が並んでいる。長さ方向中心線CL1よりも下方には縦筋山61が平行に並んでいる。土踏まずに相当する領域には、筋山59は存在していない。
第9図の場合、ソール55の接地面積は、横筋山61の接地面積と縦筋山63の接地面積との合計である。爪先部において、全接地面積に占める横筋山61の接地面積の比率R1(%)は、下記数式(I)で表される。
R1=(Sxt/(Sxt+Syt))・100 (I)
この数式(I)において、Sxtは爪先部における横筋山59の接地面積を表し、Sytは爪先部における縦筋山59の接地面積を表す。比率R1が40%以上70%以下となるように、筋山59が形成される。このR1は、45%以上65%以下がより好ましく、50%以上60%以下が特に好ましい。
インサイド部において、全接地面積に占める縦筋山63の接地面積の比率R2(%)は、下記数式(II)で表される。
R2=(Syi/(Sxi+Syi))・100 (II)
この数式(II)において、Sxiはインサイド部における横筋山61の接地面積を表し、Syiはインサイド部における縦筋山63の接地面積を表す。比率R2が70%から100%となるように、筋山59が形成される。インサイド部には横筋山61が存在せず、縦筋山63のみからなる場合もスリップ性能と防滑性能とがよい場合がある。比率R2は、75%以上95%以下がより好ましく、80%以上90%以下特に好ましい。
ソールの接地部分に、筋山59以外のものが含まれる場合がある。例えば、不規則な配列の突起、筒状突起又は商品名等のパターン等が含まれる場合がある。これらの場合は、上記横筋山61及び縦筋山63に相当しない部分が除外されて比率R1及びR2が計算される。
このソール55を備えたテニス靴が用いられると、テニスプレーがよりスムースに行われる。実際のテニスプレーでは、前方向に移動を開始するとき、爪先部で地面がキックされる。その後、移動の最終段階では足全体が接地している。また、横方向に移動するときは、移動の開始時は外足(例えば、右方向に移動するときの左足)のインサイド部で地面がキックされる。
換言すれば、前進時に爪先部に力がかかり、横移動時にインサイド部に力がかかる。さらに、移動の最終段階でスリップしながら停止するときは、底面全体が作用している。このソール55では、力を受け止める必要のある部分に、力の方向に対して直行方向に筋山59が配置されている。これにより、防滑性能が高められている。このソール55では、適切な比率で縦筋山63が配置されているので、摩擦抵抗が低減されている。これにより、スリップ性能が高められている。
第10図は、第9図のソール55の一部が示された下方からの斜視図である。この図には、ベース57と横筋山61とが示されている。第11図は第10図の一部が示された拡大断面図である。第10図及び第11図から明らかなように、横筋山61の断面形状は非対称である。横筋山61は、接地面67、爪先側壁面69及び踵側壁面71を備えている。接地面67は、テニス靴が着用されたときに地面と接する面である。爪先側壁面69は接地面67に連続しており、接地面67よりも爪先側に位置している。踵側壁面71は接地面67に連続しており、接地面67よりも踵側に位置している。
第11図において、爪先側壁面69の傾斜角度θaは、踵側壁面71の傾斜角度θbよりも小さい。このソール55は、砂入り人工芝での使用に適している。テニス靴が砂入り人工芝に置かれて爪先方向に引っ張られた場合、引っ張りの力は主として爪先側壁面69にかかる。爪先側壁面69の傾斜角度θaは小さいので、地面と底面との摩擦係数μaは小さい。プレーヤーがシューズをスライドさせる場合、そのスライド方向は爪先方向である。このテニス靴は摩擦係数μaが小さいので、スライド性能に優れる。このテニス靴を着用したプレーヤーは、移動からストロークへの移行を円滑に行いうる。スライドは、着地時の衝撃の緩和にも寄与する。
テニス靴が砂入り人工芝に置かれて踵方向に引っ張られた場合、引っ張りの力は主として踵側壁面71にかかる。踵側壁面71の傾斜角度θbは大きいので、地面と底面との摩擦係数μbは大きい。プレーヤーが地面をキックして前進する場合、そのキックの方向は踵方向である。このテニス靴は摩擦係数μbが大きいので、キックの際の防滑性能に優れる。
スライド性能と防滑性能との両立の観点から、摩擦係数μaと摩擦係数μbとの比(μa/μb)は0.9以下が好ましく、0.7以下がより好ましい。比(μa/μb)が小さすぎると爪先方向への意図せぬスリップが生じやすいので、比(μa/μb)は0.3以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。
横筋山61の高さHは、1mm以上8mm以下が好ましい。高さHが上記範囲未満であると、防滑性能が不十分となることがある。この観点から、高さHは2mm以上がより好ましい。高さHが上記範囲を超えると、横筋山61の剛性が不足することがある。この観点から、高さHは6mm以下がより好ましい。
ベース57と横筋山61との境界部の距離L1に対する接地面19の距離L2の比(L2/L1)は、0.2以上0.8以下が好ましい。比(L2/L1)が上記範囲未満であると、横筋山61の剛性が不足することがある。この観点から、比(L2/L1)は0.3以上がより好ましい。比(L2/L1)が上記範囲を超えると、接地圧が不足して防滑性能が不十分となることがある。この観点から、比(L2/L1)は0.6以下が特に好ましい。
テニス靴がハードコートで使用される場合の筋山59の変形挙動は、、砂入り人工芝コートで使用される場合の筋山59の変形挙動と異なる。ハードコートで使用されるテニス靴の場合は、爪先側壁面の傾斜角度θaが踵側壁面の傾斜角度θbよりも大きいことが好ましい。
第12図は、第9図のソール55の一部が示された拡大断面図である。この図には、ベース57と縦筋山63とが示されている。この第12図において左側がインサイドであり、右側がアウトサイドである。第12図から明らかなように、縦筋山63は接地面73、インサイド壁面75及びアウトサイド壁面77を備えている。インサイド壁面75の傾斜度θcは、アウトサイド壁面77の傾斜角度θdよりも小さい。アウトサイド壁面77は、方向転換時の防滑性能に寄与する。インサイド壁面75の傾斜が緩やかなことに起因して、縦筋山63では接地面73の面積が小さい。面積が小さな接地面73により、接地圧が高められる。大きな接地圧は、防滑性能の向上に寄与する。
インサイド壁面75の傾斜角度θcは、30°以上70°以下が好ましい。一方、アウトサイド壁面77の傾斜角度θdは、50°以上90°以下が好ましい。防滑性能の観点から、差(θd−θc)は10°以上が好ましく、20°以上がより好ましい。差(θd−θc)は60°以下が好ましく、50°以下がより好ましい。
縦筋山75の高さHは、1mm以上8mm以下が好ましい。ベース57と縦筋山63との境界部の距離L3に対する接地面73の距離L4の比(L4/L3)は、0.2以上0.8以下が好ましい。
全ての接地面の合計面積の、底面の投影面積に対する比率は、15%以上70%以下が好ましい。比率が上記範囲未満であると、接地面が摩耗しやすい。この観点から、比率は25%以上がより好ましい。比率が上記範囲を超えると、接地圧が不足して防滑性能が不十分となることがある。この観点から、比率は60%以下がより好ましい。
第13図は、本発明のさらに他の実施形態に係るソール79の一部が示された底面図である。このソール79も、筋山81を備えている。この筋山81は、角錐台状の突起83と円錐台状の突起85とからなる。この第13図から明らかなように、本発明では、複数の突起が連続して筋状を呈する場合、これら突起全体として1つの筋山81と称される。
第14図は、本発明のさらに他の実施形態に係るテニス靴のソール91が示された底面図である。この第14図において上側は爪先側であり、下側は踵側であり、右側はアウトサイドであり、左側はインサイドである。このソール91は、左足用である。右足用のソールは、第14図に示された形状が反転された形状を呈する。ソール91は、ベース93と、複数の横筋山95と、複数の縦筋山97とを備えている。横筋山95及び縦筋山97はベース93と一体的に成形されており、ベース93から突出している。横筋山95は、幅方向に延びている。縦筋山97は、長さ方向に延びている。
第15図は、第14図のソール91の一部が示された拡大底面図である。この図には、横筋山95が示されている。第7図における上側が爪先側であり、下側が踵側である。横筋山95は、接地面の形状が円形である突起99と、接地面の形状がダンベル状の突起99とが連続することで形成されている。第15図には示されていないが、縦筋山97も、接地面の形状が円形である突起と接地面の形状がダンベル状の突起とが連続することで形成されている(第14図参照)。横筋山95は、爪先側に傾斜角度の小さな壁面103を備え、踵側に傾斜角度の大きな壁面105を備えている。第15図には示されていないが、縦筋山97は、傾斜角度の小さな壁面をインサイドに備え、傾斜角度の大きな壁面をアウトサイドに備えている。
このソール91では、比率R1は40%以上70%以下であり、比率R2は70%以上100%以下である。このソール91では、爪先方向の摩擦係数μaは踵方向への摩擦μbより小さい。μaとμbとの比(μa/μb)は、0.3以上0.9以下である。このソール91を備えたテニス靴は、防滑性能とスライド性能との両方に優れる。
このソール91では、横筋山95と縦筋山97とが交わる地点で、円弧状の突起107が形成されている。円弧状突起107により、横筋山95と縦筋山97とが滑らかに連続している。このソール91では、欠けが生じにくい。
【実施例】
[実験1]
【実施例1】
スチレン−ブタジエン共重合体を基材とするゴム組成物を成形型に投入し、ゴムに架橋反応を起こさせて、ソールを得た。このソールの底面のパターンは、第2図に示されている。このソールには、多数の横筋山が形成されている。この横筋山の傾斜角度θaは30°であり、傾斜角度θbは90°であり、高さHは3mmであり、(L2/L1)は0.25である。このソールに、エチレン酢酸ビニル共重合体からなるミッドソールと、綿からなるアッパーを取り付けて、実施例1のテニス靴を得た。
[実施例2から3及び比較例1から2]
成形型を変更して下記の表2に示される形状の横筋山を備えたソールを成形した他は実施例1と同様にして、実施例2から3及び比較例1から2のテニス靴を得た。
【実施例4】
成形型を変更して下記の表1に示される形状の横筋山及び縦筋山を備えたソールを成形した他は実施例1と同様にして、実施例4のテニス靴を得た。このソールのパターンは、第7図に示されている。
[実用テスト]
プレーヤーにテニス靴を着用され、砂入り人工芝コート(住友ゴム工業社の商品名「オムニコート」)にてテニスのラリーを行わせた。そして、方向転換の容易さ、スタート時の防滑性能、スライド性能及び脚の疲労感を「1」から「5」の5段階で評価させた。最も評価の高いものを「5」とした。10名のプレーヤーの評価の平均値が、下記の表1に示されている。表1に示されるように、実施例のアウトソールは、全ての項目において良好な評価結果となっている。

[実験2]
【実施例5】
スチレン−ブタジエン共重合体を基材とするゴム組成物を成形型に投入し、このゴム組成物を加硫して、ソールを得た。このソールの底面のパターンは、第9図に示されている。このソールには、複数の横筋山と縦筋山が形成されている。爪先部における筋山の全接地面積に対する横筋山の接地面積比率R1は50%であり、インサイド部における筋山の全接地面積に対する縦筋山の接地面積比率R2は90%である。このソールに、エチレン酢酸ビニル共重合体からなるミッドソールと、綿からなるアッパーを取り付けて、実施例5のテニス靴を得た。
[実施例6及び比較例4から5]
成形型を変えて下記の表2に示される仕様のソールを成形した他は実施例5と同様にして、実施例6及び比較例4から5のテニス靴を得た。
[比較例3]
市販品の株式会社ニューバランスジャパンから販売されている商品名「CT592」を用意し、比較例3とした。
[実用テスト]
プレーヤーにテニス靴を着用させ、砂入り人工芝コート(住友ゴム工業社の商品名「オムニコート」)にてテニスのラリーを行わせた。そして、前進移動時の防滑性能、横方向移動時の防滑性能及び快適性について、「1」から「5」の5段階で評価させた。最も評価の高いものを「5」とした。10名のプレーヤーの評価の平均値が、下記の表2に示されている。表2に示されるように、実施例のアウトソールは、全ての項目において良好な評価結果となっている。

【産業上の利用可能性】
本発明に係るテニス靴は、種々のコートにおけるプレーに適している。このテニス靴は、摩擦係数が小さなコート(砂入り人工芝コート及びクレーコート)に、より適している。特にこのテニス靴は、砂入り人工芝コートに好適である。このテニス靴は、プレーヤーの競技成績の向上に寄与しうる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
その底面に並列された多数の筋山を備えており、この筋山の横断面形状が非対称であり、この底面の一方向における摩擦係数μaと逆方向における摩擦係数μbとの比(μa/μb)が0.3以上0.9以下であるテニス靴。
【請求項2】
幅方向に延びる多数の横筋山をその底面に備えており、この横筋山の断面形状が非対称であり、この底面の爪先方向における摩擦係数μaと踵方向における摩擦係数μbとの比(μa/μb)が0.3以上0.9以下であるテニス靴。
【請求項3】
上記横筋山が、接地面並びにこの接地面に連続する爪先側壁面及び踵側壁面を備えており、爪先側壁面の傾斜角度θaと踵側壁面の傾斜角度θbとの差(θb−θa)が10°以上60°以下である請求の範囲第2項に記載のテニス靴。
【請求項4】
上記横筋山の高さが1mm以上8mm以下である請求の範囲第2項又は第3項に記載のテニス靴。
【請求項5】
長さ方向に延びる縦筋山をさらに備えており、底面のうち長さ方向中心よりも爪先側であってかつ幅方向中心よりもアウトサイドの領域には主として横筋山が形成されており、底面のうち長さ方向中心よりも爪先側であってかつ幅方向中心よりもインサイドの領域には主として縦筋山が形成されている請求の範囲第2項から第4項のいずれかに記載のテニス靴。
【請求項6】
その底面に横筋山及び縦筋山を多数備えており、爪先部における全接地面積に占める横筋山の接地面積の比率R1が40%以上70%以下であり、インサイド部における全接地面積に占める縦筋山の接地面積の比率R2が70%以上100%以下であるテニス靴。
【請求項7】
上記横筋山の靴長さ方向断面形状が非対称であり、縦筋山の靴幅方向断面形状が非対称であり、底面と接地面との爪先方向の摩擦係数μaが踵方向への摩擦μbより小さく、μaとμbとの比(μa/μb)が0.3以上0.9以下である請求の範囲第6項に記載のテニス靴。
【請求項8】
上記比率R1が45%以上65%以下であり、上記比率R2が75%以上95%以下である請求の範囲第6項又は第7項に記載のテニス靴。
【請求項9】
上記比率R1が50%以上60%以下であり、上記比率R2が80%以上90%以下である請求の範囲第8項に記載のテニス靴。

【国際公開番号】WO2004/032660
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【発行日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−501016(P2005−501016)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012703
【国際出願日】平成15年10月3日(2003.10.3)
【出願人】(504017809)SRIスポーツ株式会社 (701)
【Fターム(参考)】