説明

ディスクブレーキのパッド戻し機構

【課題】制動解除後のパッドをロータに対して平行に離間することができ、引き摺りやジャダー、および鳴きなどの問題を低減することのできるディスクブレーキのパッド戻し機構を提供する。
【解決手段】ディスクブレーキのパッド50,60を構成するプレッシャプレート52,62に対して半径方向に穿孔した組付け穴58,68にリターンスプリング70を組付けることで構成されるパッド戻し機構であって、プレッシャプレート52,62における半径方向のパッド支持領域内に、組付け穴58,68の先端を設けると共に、リターンスプリング70における組付け部76a,76bの先端78a,78bを前記パッド支持領域内に配置し、先端78a,78bをプレッシャプレート52,62との接触点とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキに係り、特にブレーキパッドをロータから離間させるためのパッド戻し機構に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキにおいて、制動解除後のブレーキパッド(パッド)をロータから離間させる手段として、略V字型のリターンスプリングを一対、パッドに配置するという構成が、特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1に開示されているリターンスプリングは図10(A)に示すように、パッド1におけるプレッシャプレート2の上部に設けられた小穴、すなわちロータの半径方向外側から内側へ向けて穿孔された組付け穴3に、アーム部4aの先端に設けられた組付け部4bを挿入することで組付けられるという配置構造が採られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−346125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されているようなリターンスプリング4を用いれば、確かにパッド1には、ロータから離間する力を付与することができる。しかし、特許文献1に開示されているパッド戻し機構は、リターンスプリング4によりプレッシャプレート2の上部を押し広げる構造としているため、次のような問題が生ずる。
【0006】
すなわち、図10(B)に示すように、リターンスプリング4による押し広げ箇所(押圧箇所)と、パッド1が軸方向へ摺動する際のパッド支持領域の中心がずれている。このため、パッド1には、パッド支持領域の中心を基点として、上部(外周側)が外側へ押し広げられ(矢印A)、下部(内周側)が内側へ倒れ込むような力を受け(矢印B)、結果として矢印Cで示すような回転方向のモーメントが発生することとなる。
【0007】
このようなモーメントが生ずると、制動解除後のパッド1は、内周側がロータから離間されず、引き摺りを起こし、偏摩耗を生じさせると共に、ロータが局部摩耗して振動や鳴きの一要因となる。
【0008】
そこで本発明では、制動解除後のパッドをロータに対して平行に離間することができ、引き摺りやジャダー、および鳴きなどの問題を低減することのできるディスクブレーキのパッド戻し機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ロータに対してパッドを平行に離間させるためには、パッドに対する押圧力をパッド支持領域の中心近傍へ付与するようにすれば良いと考えられる。よって、上記目的を達成するための本発明に係るディスクブレーキのパッド戻し機構は、ディスクブレーキのパッドを構成するプレッシャプレートに対して半径方向に穿孔した組付け穴にリターンスプリングを組付けることで構成されるパッド戻し機構であって、前記プレッシャプレートにおける半径方向のパッド支持領域内に、前記組付け穴の先端を設けると共に、前記リターンスプリングの組付け部先端を前記支持領域内に配置し、前記組付け部先端を前記プレッシャプレートとの接触点とすることを特徴とする。
【0010】
また、上記のような特徴を有するディスクブレーキのパッド戻し機構では、前記組付け穴は、開口部よりも先端を狭く形成すると良い。このような構成とすることによれば、リターンスプリングの組付け部先端のみが組付け穴の側面に接触することとなり、パッドを押し戻す力が、パッド支持領域内で作用することとなる。
【0011】
また、上記のような特徴を有するディスクブレーキのパッド戻し機構では、前記組付け穴は、前記プレッシャプレート形成時にコイニングにより形成した段差部の壁面に開口部を有する構成とすることもできる。このような構成とすることにより、小径な組付け穴を深く形成する必要が無くなる。よって、穴開け加工が容易となる。
【0012】
また、上記のような特徴を有するディスクブレーキのパッド戻し機構では、前記リターンスプリングにおける前記組付け部先端に大径部を備えるようにしても良い。このような構成とすることにより、組付け穴をストレート構造とした場合であっても、リターンスプリングにおける組付け部の先端のみを組付け穴の側壁に接触させることが可能となる。
【0013】
さらに、前記大径部は、前記組付け部先端に樹脂キャップを組付けて構成することができる。このような構成とすることにより、リターンスプリングの加工が不要となり、別途製造したキャップを先端に組付けるだけで発明の効果を奏することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
上記のような特徴を有するディスクブレーキのパッド戻し機構によれば、制動解除後のパッドをロータに対して平行に離間することができる。これにより、引き摺りやジャダー、および鳴きなどの問題を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】発明に係るディスクブレーキのパッド戻し機構に係る基本形態を示す図であり、(A)はパッドに対してリターンスプリングを組付けた状態の正面図であり、(B)はリターンスプリングの構成を示す斜視図であり、(C)はプレッシャプレートに設けた組付け穴の詳細を説明するための部分拡大斜視図である。
【図2】実施形態に係るディスクブレーキのパッド戻し機構におけるリターンスプリングの組付け状態と、力の作用する方向を示す図である。
【図3】ディスクブレーキのパッド戻し機構を採用するディスクブレーキの構成を示す図である。
【図4】パッド戻し機構における第1の変形例を示す図である。
【図5】パッド戻し機構における第2の変形例を示す図である。
【図6】パッド戻し機構における第3の変形例のためのリターンスプリングの構成を示す斜視図である。
【図7】パッド戻し機構における第3の変形例を示す図である。
【図8】パッド戻し機構における第4の変形例のためのリターンスプリングの構成を示す図である。
【図9】パッド戻し機構における第5の変形例のためのリターンスプリングの構成を示す図である。
【図10】従来のディスクブレーキのパッド戻し機構の構成と作用する力の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のディスクブレーキのパッド戻し機構に係る実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
まず、図3を参照して、本発明に係るパッド戻し機構を採用するディスクブレーキについて説明する。なお、図3(A)はディスクブレーキの正面図であり、図3(B)は同図(A)における左側面部分断面を示す図である。
【0017】
図3に示すディスクブレーキ10は、キャリパ浮動型のものであり、キャリパ20とサポート40、ブレーキパッド(以下、単にパッド50,60と称す)、及びロータ80を基本として構成されている。
【0018】
キャリパ20は、前記ロータ80を介してインナ側に配置されるシリンダ部22と、アウタ側に配置される爪部26、ロータ80を跨ぐようにしてシリンダ部22と爪部26とを繋ぐブリッジ部24、及びキャリパ20を前記サポート40に保持するためのアーム部30とを有する。なお、インナ側、アウタ側については、図示しない車両を基準として、ロータ80の車両側をインナ側、反対側をアウタ側と称している。
【0019】
シリンダ部22の内部には、ピストン28が設けられている。このピストン28は、シリンダ部22の内部に導入される作動油により押し出し動作が成される。つまり、ブレーキ操作に伴って送り込まれる作動油が、シリンダ部22の内部に流入することにより、シリンダ部22の内部に配置されたピストン28がロータ80側へ向けて押し出されることとなる。
爪部26は、上述したシリンダ部22と対向して設けられるパッド(アウタ側パッド)60の押圧部である。
【0020】
前記ブリッジ部24は、上述したシリンダ部22と爪部26とを連結する連結部であり、両者の間に介在されるロータ80を跨ぐように配置されている。
前記アーム部30は、キャリパ20をサポート40へ固定するための係合部であり、本実施形態の場合、その基端部の接続個所をシリンダ部22としてロータ80の回入側と回出側のそれぞれに一対のアーム部30を延設している。アーム部30の先端には、ガイドピン32を挿通固定するための貫通孔(不図示)が形成されている。なお、ガイドピン32は、キャリパ20をサポート40に対して摺動可能に支持するための支持部材である。
【0021】
サポート40は、図示しない車両にキャリパ20を保持するための保持部材である。本実施形態に係るサポート40は、ロータ80のインナ側とアウタ側のそれぞれにブレーキパッド保持部を有する。本実施形態に係るサポート40には、取付孔(不図示)と、ガイドシリンダ(不図示)が形成されている。
【0022】
取付孔は、図示しない車両に対してサポート40を固定する取付ボルト(不図示)を螺合させるためのネジ孔である。また、ガイドシリンダは、サポート40の本体と共に一体形成された凸型の鋳造部に、キャリパ20におけるアーム部30に備えるガイドピン32の長さに応じたガイド穴(不図示)を形成することで構成される。
【0023】
パッド(インナ側パッド50、アウタ側パッド60)は、ロータ80との間で摩擦力を発生させるライニング54,64と、ライニング54,64が貼り付けられた金属板であるプレッシャプレート52,62を有する。
【0024】
本実施形態に係るパッド50,60のプレッシャプレート52,62には、図1(A)に示すように、リターンスプリング70が組み付けられる組付け穴58,68が設けられている。リターンスプリング70は、制動動作が解除された際、ブレーキパッド50,60の引き摺りを防ぐために、ブレーキパッド50,60をロータ80から離間させる役割を担う線条バネである。リターンスプリング70の具体的な構成としては、図1(B)に示すように、折返し部72と、その両端に略V字型となるように延設されたアーム部(一方のアーム部74aと他方のアーム部74b)、およびアーム部74a,74bの先端側に設けられた組付け部76a,76bとから成る。対を成して設けられるアーム部74a,74bと、その間に設けられる折返し部72とは、略V字型を成し、前記アーム部74a,74bと折返し部72の撓みによって生ずる反発力により、ブレーキパッド50,60をロータ80から離間させる。
【0025】
組付け穴58,68は、ロータ80を基準としてプレッシャプレート52,62の円周方向両端部近傍であって、半径方向外周側の側面に開口部を有し、内周側へ向かって穿孔されている。本実施形態に係る組付け穴58,68は、プレッシャプレート52,62の外形形成をする際に、コイニング加工などにより裏面側(ライニング54,64を貼付する側を表面側とした際の反対側)に段差部56,66を設け、この段差部56,66の壁面に組付け穴58,68の開口部を形成するようにしている(図1(C)参照)。
【0026】
組付け穴58,68の先端(底部)は、パッド50,60を構成するプレッシャプレート52,62における軸方向摺動部、すなわちパッド支持領域の範囲内としている。ロータ80の外形に沿った円弧状を成すプレッシャプレート52,62における半径方向のパッド支持領域内に組付け穴58,68の先端を配置し、当該先端に押圧力を付与することで、パッド50,60の押し広げによって生ずる内周側を内側に押し付ける方向に働く回転モーメントを抑制することができる。
【0027】
本実施形態に係るリターンスプリング70は、ロータ80を跨ぐように、一対のブレーキパッド50,60に対して2つ、ロータ80の回入側と回出側にそれぞれ配置される。
【0028】
リターンスプリング70は本実施形態のように通常、2つで一対として配置される。リターンスプリング70の配置形態としては、組付け部76a,76bを基点として、アーム部74a,74bがキャリパ20の中心方向へ向かって延びるように、すなわち回入側と回出側とにそれぞれ配置される2つのリターンスプリング70の折返し部72が対向するように配置される。
【0029】
また、本実施形態に係るリターンスプリング70の配置形態では、図2に示すように組付け部76a,76bの先端78a,78bをプレッシャプレート52,62におけるパッド支持領域の範囲内に位置させ、プレッシャプレート52,62に接触させた組付け部76a,76bの先端78a,78bでプレッシャプレートを押圧することとなる。このため、ブレーキパッド50,60が逆ハの字に開く事を抑制することができ、ブレーキパッド50,60の引き摺りやロータ80の経時劣化を抑制することができる。
【0030】
全体として上記のように構成されたディスクブレーキ10では、シリンダ部22に対して作動油が導入されると、内部に配置されたピストン28が押し出される。押し出されたピストン28は、サポート40に保持されたインナ側ブレーキパッド50のプレッシャプレート52を押圧する。プレッシャプレート52を押圧されたインナ側ブレーキパッド50のライニング54は、ロータ80のインナ側主面に圧接される。
【0031】
インナ側ブレーキパッド50がロータ80に圧接されると、ピストン28によるインナ側ブレーキパッド50への押圧力は、キャリパ20に対し反力として作用することとなる。反力を受けたキャリパ20は、ガイドピン32がガイド穴から抜き出るように全体がインナ側へとスライドすることとなる。このスライドにより爪部26がロータ80のアウタ側主面へ近接することとなり、爪部26の内側面に保持されたアウタ側ブレーキパッド60のライニング64は、ロータ80のアウタ側主面に圧接することとなる。
【0032】
ロータ80に押し付けられたインナ側ブレーキパッド50とアウタ側ブレーキパッド60と、ロータ80の主面との間には摩擦力が発生し、双方のブレーキパッド50,60にはロータ80の回出方向へ移動しようとする力が働く。
【0033】
そして、ロータ80の回出方向へ移動しようとするインナ側ブレーキパッド50、アウタ側ブレーキパッド60をサポート40のトルク受け部により受け止めることで、車両に対して制動力を与えることができる。
【0034】
ブレーキ動作が解除され、シリンダ部22に対する作動油の導入が無くなると、ピストン28を介したロータ80に対するブレーキパッド50,60の圧接は解除される。ブレーキパッド50,60の圧接が解除されると、ブレーキパッド50,60に対してはリターンスプリング70による反発力のみが作用することとなる。ブレーキパッド50,60に対してリターンスプリング70による反発力のみが作用すると、ブレーキパッド50,60はロータ80から離間する動きを示し、ロータ80に対するライニング54,64の引き摺りを回避することができる。
【0035】
また、リターンスプリング70の組付け部76a,76bは通常、ブレーキパッド50,60の上部寄りに配置され、アーム部74a,74bはブレーキパッド50,60の上部に掛け渡される。このため、ブレーキパッド50,60はロータ80を中心として逆ハの字型に開き気味となり、ロータ80の内周側に位置するブレーキパッド50,60の下半部分は、常に引き摺り状態となってしまう事がある。
【0036】
これに対し、本実施形態のような構成とすることによれば、プレッシャプレート62とリターンスプリング70との接点が組付け部76a,76bの先端78a,78bのみとなるとともに、この接触部がパッド支持領域の範囲内に位置することとなるため、ロータ80から離間させる方向の力が水平方向外側(図2では矢印Aの方向)のみに働くこととなる。よって、ブレーキパッド50,60が逆ハの字に開く事を抑制することができ、ブレーキパッド50,60の偏摩耗、引き摺りによる鳴きなどを抑制することができる。
【0037】
次に、本実施形態に係るパッド戻し機構の変形例について説明する。まず、図4を参照して、第1の変形例について説明する。本変形例では、組付け穴58,68を2段の段孔とした点を特徴としている。上記実施形態では、コイニングにより形成した段差部56,66の壁面に組付け穴の開口部を配置する構成としていた。これに対し、本変形例では、パッド50a,60aのプレッシャプレート52,62における外形側側面に対し、大径の第1穴58a,68aと、第1穴58a,68aの底部に開口部を有する小径の第2穴58b,68bとから成るようにしている。
【0038】
このような構成とした場合であっても、リターンスプリング70における組付け部76a(76b:図1(B)参照)の先端78a(78b:図1(B)参照)は、第2穴58b,68bの側面若しくは、側面と底面のみに接触することとなり、パッド50a,50bをロータ80の回転軸に沿った方向(軸方向)へ摺動させるパッド支持部を備える領域(パッド支持領域)に位置することとなる。このため、ロータ80に対してパッド50a,60aを平行に離間させることが可能となる。
【0039】
次に、図5を参照して、第2の変形例について説明する。本変形例の殆どの構成は、図4に示した第1の変形例と同一である。本変形例では、パッド50b,60bに対して段孔として形成した組付け穴58,68における第1穴58a,68aと第2穴58b,68bとの段部に傾斜部58c,68cを設けた点を特徴としている。このような構成とすることにより、リターンスプリング70を第2穴58b,68bまで組付ける際の引っ掛かりが無くなり、組付けの容易性、および確実性を向上させることができる。
【0040】
次に、図6、図7を参照して、第3の変形例について説明する。なお、図6は、本変形例に使用するリターンスプリングの形態を示す斜視図であり、図7は、リターンスプリングをパッドにおけるプレッシャプレートに組付けた状態を示す正面図である。
【0041】
上記実施形態、および第1、第2の変形例は、プレッシャプレート52,62における組付け穴58,68を段状に形成したり、段差部56,66を設けたりすることを主な特徴としていた。これに対し、本変形例に係るパッド戻し機構は、パッド50c,60cに組付けるリターンスプリング70aにおける組付け部76a(76b:図1(B)参照)に特徴を有する。具体的には、組付け部76a(76b)の先端78a(78b:図1(B)参照)を大径化させている。大径化の手法としては種々の選択肢があるが、例えば組付け部76a(76b)の先端78a(78b)にゴムやシリコン、などの軟質樹脂や、アクリルやポリエチレンなどの硬質樹脂により形成したキャップ79を組付けるようにすれば良い。
【0042】
このように、リターンスプリング70aにおける組付け部76a(76b)の先端78a(78b)を大径化することにより、プレッシャプレート52,62側に設ける組付け穴58,68の構造をシンプルなストレート穴とすることができる。組付け部76a(76b)の先端78a(78b)が大径化されていることにより、組付け穴58,68に挿入させた組付け部76a(76b)では、先端78a(78b)に設けたキャップ79のみが組付け穴58,68の側壁と接触することとなる。そして、組付け部76a(76b)の先端78a(78b)は、パッド支持領域の範囲内に位置することとなるため、上記実施形態と同様に、ロータ80に対してパッド50c,60cを平行に離間させることが可能となる。
【0043】
次に、図8を参照して、第4の変形例について説明する。なお、図8において図8(A)は本変形例に係るリターンスプリングの正面図であり、図8(B)は本変形例に係るリターンスプリングの平面図である。本変形例の構成は、上述した第3の変形例に係るパッド戻し機構と同様である。相違点は、リターンスプリング70bにおける組付け部76a,76bの先端78a,78bの構成にある。具体的には、第3の変形例では、組付け部76a,76bの先端78a,78bを大径化するためにキャップ79等を設ける構成としていた。これに対し、本変形例では、リターンスプリング70bの中心を基点として、組付け部76a,76bの先端78a,78bを外側へ屈曲させたことを特徴としている。
【0044】
このような構成とした場合であっても、リターンスプリング70bを図7に示すような構成のパッド50c,60cに組付けた際には、組付け部76a,76bの先端78a,78bのみが組付け穴58,68の側壁と接触することとなり、上記実施形態、および変形例と同様な効果を奏することが可能となる。なお、図8に示す例では、先端78a,78bを外側へ180°屈曲させる形態としているが、先端78a,78bの屈曲は、90°としても良い。さらに先端78a,78bの屈曲は、外側に段差を形成することができれば、その形態自体に制限は無い。すなわち、外側に段差を形成するように屈曲させた上で、最終的に先端78a,78bを内側へ折り曲げた場合であっても、本実施形態の一部とみなすことができる。屈曲形態が変わった場合であっても、同様な効果を奏することができるからである。
【0045】
次に、図9を参照して、第5の変形例について説明する。なお、図9において図9(A)は本変形例に係るリターンスプリングの正面図であり、図9(B)は本変形例に係るリターンスプリングの平面図である。本変形例の構成は、上述した第4の変形例に係るパッド戻し機構と同様である。相違点は、リターンスプリング70cにおける組付け部76a,76bの先端78a,78bの構成にある。具体的には、第4の変形例では、組付け部76a,76bの先端78a,78bを折り曲げることで、組付け部76a,76bの外側に段差を形成する構成としていた。これに対し、本変形例では、リターンスプリング70cにおける組付け部76a,76bの先端78a,78bを押し潰すことで、先端78a,78bを外側へ張り出させる形態とした。
【0046】
このような構成とした場合であっても、リターンスプリング70cを図7に示すような構成のパッド50c,60cに組付けた際には、組付け部76a,76bの先端78a,78bのみが組付け穴58,68の側壁と接触することとなり、上記実施形態、および変形例と同様な効果を奏することが可能となる。なお、このような構成とする場合には、先端78a,78bに金型などをあてがった上でプレス加工するなどして、先端78a,78bの外側側面78a1,78b1に垂直面を持たせるようにすると良い。
【0047】
また、上記実施形態ではいずれも、リターンスプリングは2つで一対として配置される旨記載した。しかしながら、リターンスプリングの配置は、いずれか一方(例えばロータ回入側)だけとしても良い。
【符号の説明】
【0048】
10………ディスクブレーキ、20………キャリパ、22………シリンダ部、24………ブリッジ部、26………爪部、28………ピストン、30………アーム部、32………ガイドピン、40………サポート、50………インナ側パッド(ブレーキパッド)、52………プレッシャプレート、54………ライニング、56………段差部、58………組付け穴、60………アウタ側パッド(ブレーキパッド)、62………プレッシャプレート、64………ライニング、66………段差部、68………組付け穴、70………リターンスプリング、72………折返し部、74a………一方のアーム部(アーム部)、74b………他方のアーム部(アーム部)、76a,76b………組付け部、78a,78b………先端、80………ロータ。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクブレーキのパッドを構成するプレッシャプレートに対して半径方向に穿孔した組付け穴にリターンスプリングを組付けることで構成されるパッド戻し機構であって、
前記プレッシャプレートにおける半径方向のパッド支持領域内に、前記組付け穴の先端を設けると共に、
前記リターンスプリングの組付け部先端を前記支持領域内に配置し、前記組付け部先端を前記プレッシャプレートとの接触点とすることを特徴とするディスクブレーキのパッド戻し機構。
【請求項2】
前記組付け穴は、開口部よりも先端を狭く形成したことを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキのパッド戻し機構。
【請求項3】
前記組付け穴は、前記プレッシャプレート形成時にコイニングにより形成した段差部の壁面に開口部を有することを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキのパッド戻し機構。
【請求項4】
前記リターンスプリングにおける前記組付け部先端に大径部を備えたことを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキのパッド戻し機構。
【請求項5】
前記大径部は、前記組付け部先端に樹脂キャップを組付けて構成されることを特徴とする請求項4に記載のディスクブレーキのパッド戻し機構。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−72830(P2012−72830A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217652(P2010−217652)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】