説明

ディスクブレーキ用パッドの戻し装置

【課題】アウタ、インナ両パッド3a、4aのライニング6c、6dの摩耗代を犠牲にする事なく、これら両パッド3a、4aをロータから効果的に退避させる事ができ、しかもリターンスプリング11aの組み付け作業を容易に行える構造を実現する。
【解決手段】プレッシャプレート5c、5dの周方向端縁部で前記ライニング6c、6dの周方向端縁よりも周方向に突出した部分の径方向中間部分にそれぞれ凹入部14、14を形成する。又、前記両プレッシャプレート5c、5dの周方向端縁部の径方向中間部でこれら各凹入部14、14の底部に整合する部分に係止受部16、16を設ける。そして、ロータ1の一部を跨ぐ形状を有する前記リターンスプリング11aの両端部に設けた係止部17、17を前記各係止受部16、16にそれぞれ係止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の制動に用いるディスクブレーキに組み込んで、非制動時に一対のパッドのライニングとロータの側面とが擦れ合う事を防止するパッドの戻し装置の改良に関する。具体的には、前記ライニングの摩耗代を犠牲にする事なく、前記両パッドを前記ロータから効果的に退避させる事ができる構造の実現を図るものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用の制動装置として、ディスクブレーキが広く使用されている。ディスクブレーキは、車輪と共に回転するロータを挟んで1対のパッドを、軸方向(本明細書及び特許請求の範囲中で、「軸方向」、「径方向」、「周方向」とは、それぞれロータに関する「軸方向」、「径方向」、「周方向」を言う)の変位を可能に支持している。制動時にはこれら両パッドを、キャリパのシリンダ内に導入された油圧に基づいてこのシリンダから押し出されるピストンにより、前記ロータの軸方向両側面に押し付ける。この状態で、このロータの軸方向両側面と前記両パッドを構成するライニングとの摩擦に基づき、制動が行われる。制動解除時には前記シリンダ内の油圧を排除し、前記ピストンによる押圧力を解消する。この制動解除後の状態で、前記ロータの軸方向側面と前記両パッドのライニングとが擦れ合う事を防止する為、これら両パッド同士の間にリターンスプリングを設ける事が、例えば特許文献1〜8に記載される等により、従来から広く知られている。
【0003】
図11〜12は、このうちの特許文献4に記載された、パッドの戻し装置を備えたディスクブレーキの従来構造の1例として、フローティングキャリパ型のディスクブレーキにパッドの戻し装置を組み込んだ構造を示している。この従来構造では、車輪と共に回転するロータ1の一部を跨ぐ状態で、特許請求の範囲に記載した支持部材であるサポート2を設けている。そして、このサポート2に、一対のパッドであるアウタパッド3とインナパッド4とを、前記ロータ1の一部を軸方向両側から挟む状態で、軸方向の変位を可能に支持している。前記両パッド3、4はそれぞれ、プレッシャプレート5a、5bと、このプレッシャプレート5a、5bの軸方向両側面のうちで前記ロータ1の軸方向側面に対向する面に添着固定されたライニング6a、6bとから成る。又、前記サポート2にキャリパ7を、軸方向の変位を可能に支持している。このキャリパ7は、インナ側半部{車体への組み付け状態でこの車体の幅方向中央側半部であって、図11の(B)の右半部}にシリンダ部8を、アウタ側端部{車体への組み付け状態でこの車体の幅方向端部であって、図11の(B)の左端部}にキャリパ爪9を、それぞれ有する。そして、前記シリンダ部8に液密に内嵌したピストン10の先端面{図11の(B)の左端面}を、前記インナパッド4のプレッシャプレート5bの裏面に突き当てている。更に、このインナパッド4と前記アウタパッド3との間に一対のリターンスプリング11、11を、周方向両端部に振り分けて設置している。これら両リターンスプリング11、11は、弾性を有する線材を曲げ形成して成るもので、それぞれの中間部を弾性変形部12とし、両端部を押圧部13、13としている。この様な前記両リターンスプリング11、11は、それぞれの押圧部13、13を、前記両パッド3、4を構成する前記プレッシャプレート5a、5bの周方向両端部で前記ライニング6a、6bの周方向両端縁から突出した部分に当接させている。従って前記両パッド3、4の周方向両端部には、互いに離れる方向の弾力が付与された状態となる。
【0004】
上述の様なディスクブレーキで制動を行う際には、前記シリンダ部8内に油圧を導入し、このシリンダ部8から前記ピストン10を押し出して、前記インナパッド4を前記ロータ1のインナ側面に押し付ける。すると、この押し付けの反作用として、前記キャリパ7が前記サポート2に対し、インナ側に変位し、前記キャリパ爪9が、前記アウタパッド3を前記ロータ1のアウタ側面に押し付ける。この結果このロータ1が、このアウタパッド3と前記インナパッド4とにより、軸方向両側から強く挟持される。そして、これら両パッド3、4のライニング6a、6bと前記ロータ1の軸方向両側面との摩擦により、制動が行われる。制動を解除するには、前記シリンダ部8から圧油を排出し、前記ピストン10と前記キャリパ爪9とによる押圧力を解消させる。すると、前記両リターンスプリング11、11の弾力に基づいて前記両パッド3、4の間隔が拡がり、これら両パッド3、4のライニング6a、6bと前記ロータ1の軸方向両側面とが擦れ合う事がなくなる。
上述の様な従来構造の場合、制動解除状態での前記両パッド3、4の姿勢の安定化と、これら両パッド3、4のライニング6a、6bの摩耗代の確保とを、高次元で両立させる事が難しい。この理由に就いて、以下に説明する。
【0005】
近年に於ける自動車の省燃費化の流れにより、車輪の回転抵抗を少しでも小さくする事が求められている。この為にディスクブレーキでも、制動解除状態で無駄な摩擦抵抗(所謂ブレーキの引き摺り)が発生しない様に、アウタ、インナ両パッドのライニングの表面とロータの軸方向両側面とを完全に離隔させる事が求められている。一対のリターンスプリングによりこれら各面を完全に離隔させる為には、これら両リターンスプリングにより前記両パッドを押圧する位置(作用点位置)を適切に規制する必要がある。具体的には、前記両リターンスプリングの作用点位置同士を結ぶ仮想直線上に、ピストンの押圧中心が存在する様に、前記両リターンスプリングの設置構造を工夫する事が好ましい。この押圧中心が前記仮想直線上から大きく外れた位置に存在すると、制動解除状態で前記両パッドが前記ロータに対して傾斜し、これら両パッドの内外両周縁部のうちの何れかの周縁部が前記ロータの側面と擦れ合い易くなる。
【0006】
又、前記ライニングの摩耗代を確保する為には、プレッシャプレートの軸方向両側面のうちでロータの側面と対向する部分に、前記ライニング以外にこのロータの側面に向けて突出する部材が存在しない様にする事が望ましい。図12に示した従来構造の場合には、ライニング6a、6bの摩耗が進んだ状態で、前記両リターンスプリング11、11の押圧部13、13が前記ロータ1の側面と擦れ合う為、前記両ライニング6a、6bの摩耗代を確保する面からは不利である。図11〜12に示した従来構造を記載した特許文献4には、プレッシャプレートの片面でリターンスプリングの押圧部に対向する部分に凹溝を形成する事により、この押圧部とロータの側面との干渉を防止する構造が記載されている(特許文献4の明細書の段落[0043]〜[0046]部分及び図4)。この様な凹溝を形成した構造は、前記摩耗代を確保する面からは有利である。
【0007】
上述の様な特許文献4に記載された従来構造の場合、前記凹溝の有無に拘らず、前記各押圧部13、13と前記両プレッシャプレート5a、5bとの成す角度が小さい。言い換えれば、これら各押圧部13、13がこれら両プレッシャプレート5a、5bに対して、平行に近く配置されている。特に、前記両ライニング6a、6bの摩耗が進行した状態では、前記各押圧部13、13と前記両プレッシャプレート5a、5bとが、平行に近い状態になる。この為、前記両リターンスプリング11、11の作用点位置同士を結ぶ仮想直線上に、前記ピストン10の押圧中心を安定して存在させる事が難しい。言い換えれば、前記両リターンスプリング11、11の作用点位置が、径方向に関してずれ易く、前記ピストン10の押圧中心が、前記両リターンスプリング11、11の作用点位置同士を結ぶ仮想直線上からずれ動き易い。そして、ずれ動いた場合には、制動解除状態で前記アウタ、インナ両パッド3、4が前記ロータ1に対して傾斜し、このロータ1の側面と、前記両ライニング6a、6bとが擦れ合い易くなる。
【0008】
前記特許文献4には記載されていないが、図12に示した構造で、前記両リターンスプリング11、11の押圧部13、13の先端部を互いに反対方向に折り曲げ、この折り曲げた部分の先端を前記両プレッシャプレート5a、5bの互いに対抗する面の所定位置に付き当てれば、前記両リターンスプリング11、11の作用点位置を安定させられる。但し、この様な構成を採用した場合には、前記両プレッシャプレート5a、5bに前記各凹溝を形成したとしても、これら両プレッシャプレート5a、5bからの前記各押圧部13、13の突出量が多くなり、前記両ライニング6a、6bの摩耗代を確保する事が難しくなる。この点に関しては、特許文献8に記載された構造も、ほぼ同様の問題を有する。
【0009】
他の特許文献に記載された構造のうち、特許文献1、2、7に記載された様な、板ばね製のリターンスプリングを円周方向両端部に配置する構造は、一対のリターンスプリングを設置する為のスペースが嵩む割合に、一対のパッドを引き離す方向の力が弱く、非制動時の引き摺りを防止する効果が不確実になり易い。
又、特許文献3、6に記載されている様に、一対のパッドの外径側端部に一対のリターンスプリングの両端部を係止する構造の場合、制動解除状態でこれら両パッドがロータに対して、内径側ほど近づく方向に傾斜し、このロータの側面とこれら両パッドのライニングの内周縁とが擦れ合い易くなる。
【0010】
更に、特許文献5に記載されている様に、サポートにより一対のパッドの内径側部分のみを支承し、キャリパにより一対のリターンスプリングの基部を、これら両パッドの周方向中央部で支持する構造の場合も、安定した性能を得る事が難しい。即ち、前記特許文献5に記載された従来構造の場合には、制動時に前記両パッドに加わるブレーキトルクを、径方向内端寄り部分でのみ支承する為、制動時に於けるこれら両パッドの姿勢が不安定になり、制動時に異音や振動が発生し易くなる可能性がある。又、前記両リターンスプリングの設置状態が不安定で、これら両リターンスプリングの組み付け作業が面倒になるものと考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、アウタ、インナ両パッドのライニングの摩耗代を犠牲にする事なく、制動解除に伴ってこれら両パッドを、前記ロータから効果的に退避させる事ができ、しかもリターンスプリングの組み付け作業を容易に行える構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の戻し装置を組み込むディスクブレーキは、前述した従来から知られているディスクブレーキと同様に、一対のパッドを、車輪と共に回転するロータの円周方向の一部を跨ぐ状態で設けられた、サポート(フローティングキャリパ型ディスクブレーキの場合)或はキャリパ(対向ピストン型ディスクブレーキの場合)等の支持部材に、軸方向の変位を可能に支持している。又、前記両パッドは、それぞれが、プレッシャプレートと、このプレッシャプレートの軸方向両側面のうちで前記ロータの軸方向側面に対向する面に添着固定されたライニングとから成る。前記支持部材には、このうちのプレッシャプレートを、軸方向の変位を可能に支持している。そして、前記戻し装置は、前記両パッドを構成する、前記両プレッシャプレートの周方向端部同士の間に、これら両パッドを互いに離れる方向に向けて押圧するリターンスプリングを設けて成る。
【0013】
特に、本発明のディスクブレーキ用パッドの戻し装置に於いては、前記両プレッシャプレートの周方向端縁部で前記ライニングの周方向端縁よりも周方向に突出した部分の径方向中間部分に、それぞれ凹入部を形成している。又、前記両プレッシャプレートの周方向端縁部の径方向中間部でこれら各凹入部の底部に整合する部分に、係止受部を設けている。そして、これら各係止受部に、前記ロータの一部を跨ぐ形状を有する前記リターンスプリングの両端部に設けた係止部を、それぞれ係止している。更に、この状態で、このリターンスプリングを、前記両プレッシャプレートの周方向端縁部の径方向両端部よりも周方向に突出させない。
【0014】
上述の様な本発明のディスクブレーキ用パッドの戻し装置を実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、前記凹入部及び前記係止受部を、前記両プレッシャプレートの周方向両端縁部に設ける。そして、一対のリターンスプリングを、これら両プレッシャプレートの周方向両端縁部同士の間に設ける。
【0015】
又、好ましくは、請求項3に記載した発明の様に、前記両プレッシャプレートの周方向端部で径方向位置が前記凹入部に対応する部分を、前記両ライニングの周方向端縁部よりも周方向に突出させる。更に、この部分で前記ロータに対向する面に凹部を形成し、この凹部を前記各係止受部として、これら各係止受部に前記各係止部を係止する。そして、この状態で、これら各係止部を、前記両プレッシャプレートのうちで前記ロータに対向する面から軸方向に(このロータ側に)突出させない。
【0016】
又、本発明を実施する場合に、例えば請求項4に記載した発明の様に、前記リターンスプリングを、弾性を有する金属板を曲げ形成して成る板ばねとする。この様な板ばね製のリターンスプリングは、弾性変形部と、一対の腕部と、一対の折れ曲がり部とを備えたものとする。このうちの弾性変形部は、前記ロータを跨ぐ部分に設ける。又、前記両腕部は、この弾性変形部の軸方向両端部から径方向内方に折れ曲がったものとする。更に、前記両折れ曲がり部は、前記両腕部の径方向内端部から軸方向に関して互いに近づく方向に折れ曲がると共に、これら両腕部よりも周方向に関して同方向に延出したものとする。そして、この延出した部分を、前記両係止部とする。
【0017】
又、本発明を実施する場合に、好ましくは請求項5に記載した発明の様に、ディスクブレーキを対向ピストン型ディスクブレーキとする。又、この対向ピストン型ディスクブレーキは、キャリパのアウタ、インナ両ボディ部の互いに対向する面に設けられた保持凹部の周方向両端面と、前記両パッドを構成するプレッシャプレートの周方向両端面との間に挟持される一対のパッドクリップを、前記アウタ、インナ両ボディ部同士の間に掛け渡す状態で設けられたものとする。
又、前記両パッドクリップの径方向外端縁の軸方向中間部に形成された係止部と係合する事により軸方向にずれ動く事を阻止された状態で、前記両パッドに対して、非制動時にこれら両パッドががたつく事を防止する為の弾性力を付与する板ばねを設ける。
そして、リターンスプリングの弾性変形部のうちの径方向外方へ開口した湾曲部を、前記板ばねに対して径方向内方から係合する事により、前記リターンスプリングの軸方向の位置決めを図る。
【0018】
この様な請求項5に記載した発明を実施する場合に、好ましくは請求項6に記載した発明の様に、板ばねの幅方向両端縁のうちの少なくとも一方の端縁の一部で、組み付け状態でリターンスプリングと整合する位置に、係合凹部を形成する。
又、前記リターンスプリングの弾性変形部のうちの径方向外方へ開口した湾曲部を、前記板ばねの係合凹部に対して径方向内方から係合する事により、前記リターンスプリングの軸方向及び周方向の位置決めを図る。
【発明の効果】
【0019】
上述の様に構成する本発明によれば、アウタ、インナ両パッドのライニングの摩耗代を犠牲にする事なく、制動解除後にこれら両パッドを前記ロータから効果的に退避させる事ができ、しかもリターンスプリングの組み付け作業を容易に行えるディスクブレーキ用パッドの戻し装置を実現できる。更には、制動時に於ける前記両パッドの姿勢を安定させて、制動時に発生する異音や振動を低く抑える事もできる。以下、それぞれの理由に就いて説明する。
【0020】
先ず、リターンスプリングのうちで、ロータの側面と対向する部分(請求項4に記載した発明の折れ曲がり部)を、前記両パッドを構成するプレッシャプレートの周方向端縁部の径方向中間部に設けた各凹入部に収められる。この為、前記両パッドを構成するライニングの摩耗が進んでも、前記リターンスプリングの一部と前記ロータの側面とが干渉する事がない。この為、前記両パッドを、それぞれのライニングがほぼ摩耗し切るまで使用できる。即ち、未使用状態でのライニングの厚さ寸法を特に大きくしなくても、このライニングの摩耗代(使用可能なライニングの厚さ寸法)を大きくできる。
【0021】
次に、前記リターンスプリングの両端部が前記両パッドのプレッシャプレートを押圧する点(作用点)を、安定して適正位置に設置できる。特に、請求項2に記載した発明によれば、ピストンの押圧中心を、一対のリターンスプリングの作用点位置同士を結ぶ仮想直線上に、安定して位置させる事ができる。この為、制動解除後に前記両パッドを、前記ロータから効果的に退避させる事ができて、これら両パッドを構成するライニングとこのロータの側面とが擦れ合う事を確実に防止できる。
【0022】
又、前記リターンスプリングは、例えば請求項4に記載した発明に関して見た場合に、弾性変形部と、一対の腕部と、一対の折れ曲がり部とがほぼ同一平面上に位置するもので、前述の特許文献5に記載されたリターンスプリングに比べて単純な形状を有する。そして、この様な比較的単純な形状を有するリターンスプリングを、前記両パッドを構成するプレッシャプレート同士の間に、前記両腕部の先端部同士の間隔を縮めつつ装着すれば良い。この為、前記リターンスプリングを所定部分に組み付ける組み付け作業を、容易に行える。
【0023】
更に、前記両パッドのプレッシャプレートの円周方向端縁は支持部材に対し、前記凹入部を径方向両側から挟む、径方向に関して内外両端部で当接(ブレーキトルクの支承を可能に係合)する。制動時に前記両パッドに加わるブレーキトルクの作用線は、前記両プレッシャプレートの円周方向端縁の径方向内外両端部と支持部材との当接部同士の間を通過する。この為、制動時に前記両パッドに対し、回転方向のモーメントが加わる事がなくなって、これら両パッドの姿勢が安定する。この結果、制動時に発生する異音や振動を低く抑える事ができる。
【0024】
又、請求項5に記載した発明の様に、軸方向にずれ動く事を阻止された板ばねと、リターンスプリングの弾性変形部のうち、径方向外方へ開口した湾曲部とを係合させれば、このリターンスプリングの軸方向の位置決めを図る事ができる。更に、前記パッドクリップがアンカの役割を果たし、前記両パッド5a、5aに対して、互いに離隔させる方向の弾力を安定して付与する事ができる。
【0025】
又、請求項6に記載した発明の様に、板ばねに形成した係合凹部と、前記リターンスプリングとを係合すれば、前記リターンスプリングの軸方向及び周方向の位置決めを図る事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、ディスクブレーキ用パッドの戻し装置の要部切断斜視図。
【図2】図1のa−a断面図。
【図3】図1の右側のパッドのみを取り出して、この図1と同方向から見た部分斜視図。
【図4】リターンスプリングを取り出して、図1と逆側から見た斜視図。
【図5】パッドが新品の状態(A)とライニングが摩耗し切った状態(B)とを、円周方向から見た状態で示す正投影図。
【図6】本発明の実施の形態の第2例を示す、対向ピストン型ディスクブレーキを径方向外側且つインナ側から見た状態で示す斜視図。
【図7】同じく、径方向外側から見た正投影図。
【図8】同じく、図6のb−b断面図。
【図9】同じく、一対のパッドのプレッシャプレートの周方向端縁と保持凹部の内面との突合せ部に挟持するパッドクリップを、周方向から見た状態(A)と、軸方向から見て一部を階段状に切断した状態(B)とで示す正投影図。
【図10】本発明の実施の形態の第3例を示す、図6のc部に相当する図。
【図11】パッドの戻し装置が組み込まれるディスクブレーキの従来構造の1例を、インナ側から見た状態で示す正投影図(A)と、(A)のd−d断面図(B)。
【図12】パッドの戻し装置の従来構造の1例を示す、部分斜視図(A)及び径方向外方から見た正投影図(B)。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[実施の形態の第1例]
図1〜5は、請求項1〜4に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例の構造を含めて本発明の特徴は、サポート或はキャリパ等の支持部材に軸方向の変位を可能に支持した一対のパッド3a、4aを、制動解除に伴って互いに離隔させる為のリターンスプリング11aの組み付け部の構造にある。又、本例は、本発明を、対向ピストン型ディスクブレーキのキャリパ7aに軸方向の変位を可能に組み込んだ、アウタパッド3aとインナパッド4aとの周方向両端部を、制動解除に伴って互いに離隔させる構造に適用した場合に就いて示している。対向ピストン型ディスクブレーキの構造及び作用に就いては、例えば特許文献9等に記載されて従来から周知である。又、前記両パッド3a、4aの周方向両端部に組み付けるパッドの戻し装置の構造は、互いに対称である。この為、以下の説明は、対向ピストン型ディスクブレーキ自体の構造及び作用に就いては、図示並びに説明を省略し、パッドの戻し構造に就いても、前記両パッド3a、4aの周方向一端側の構造に就いてのみ、図示並びに説明する。
【0028】
本例の戻し装置を構成する為に、前記両パッド3a、4aを構成する、一対のプレッシャプレート5c、5dの周方向両端部同士の間に、それぞれ前記リターンスプリング11aを設けている。そして、このリターンスプリング11aにより、前記両パッド3a、4aのプレッシャプレート5c、5dを、互いに離れる方向に向けて押圧している。前記リターンスプリング11aを設置する為に、前記両プレッシャプレート5c、5dの周方向両端縁部に、それぞれ凹入部14、14を形成している。前記両パッド3a、4aは、それぞれプレッシャプレート5c、5dの両側面のうちでロータ1の軸方向側面と対向する面にライニング6c、6dを添着固定する事により構成している。何れのパッド3a、4aに関しても、前記両プレッシャプレート5c、5dの円周方向両端部は、前記ライニング6c、6dの周方向両端縁よりも周方向に突出している。
【0029】
周方向の寸法に関して、前記各凹入部14、14の深さD14は、前記両プレッシャプレート5c、5dの円周方向両端部の前記両ライニング6c、6dの周方向両端縁からの突出長さL5 よりも小さく(D14<L5 )している。従って、前記両プレッシャプレート5c、5dの円周方向両端部のうち、前記各凹入部14、14の底部と前記両ライニング6c、6dの周方向両端縁との間部分に、互いに対向する段差部15、15が存在する。そして、これら各段差部15、15の一部(図示の例では径方向中央位置よりも径方向内側寄り部分)に、それぞれ係止受部16、16を設けている。本例の場合にこれら各係止受部16、16は、周方向から見た形状が略V字形である、凹溝状としている。そして、前記ロータ1の一部を跨ぐ形状を有する前記リターンスプリング11aの両端部に設けた係止部17、17を、前記各係止受部16、16に、それぞれ係止している。前記キャリパ7aのシリンダ部に液密に嵌装されて、前記各プレッシャプレート5c、5dを押圧する、ピストンの押圧中心は、周方向両端部に形成した一対の係止受部16、16の底部(V溝の最も深くなった部分)同士を結ぶ仮想直線上、若しくはこの仮想直線の近傍位置(この仮想直線からのずれが、ピストン直径の1/5以下、好ましくは1/10以下に収まる位置)に存在する。
【0030】
前記リターンスプリング11aは、ステンレスのばね鋼、亜鉛メッキ鋼板の如く、弾性及び耐食性を有する金属板を曲げ形成して成る板ばねであり、弾性変形部18と、一対の腕部19、19と、一対の折れ曲がり部20、20とを備える。このうちの弾性変形部18は、前記リターンスプリング11a全体としての中央部で、前記ロータ1を跨ぐ部分に設けられている。本例の場合に前記弾性変形部18は、波型形状として、弾性変形量を確保し、前記両折れ曲がり部20、20を近付ける事に関するばね定数を低く抑え、これら両折れ曲がり部20、20の間隔の変動が、これら両折れ曲がり部20、20を離隔させる方向の弾力の大きさに及ぼす影響を低く抑えている。又、前記両腕部19、19は、前記弾性変形部18の軸方向両端部から径方向内方に折れ曲がったもので、ほぼ(少なくとも外力が加わらない自由状態で)直線状としている。
【0031】
更に、前記両折れ曲がり部20、20は、前記両腕部19、19の径方向内端部から、軸方向に関して互いに近づく方向に折れ曲がっている。又、周方向に関して、前記両折れ曲がり部20、20の幅寸法W(図4参照)は、前記弾性変形部18及び前記両腕部19、19の幅寸法wよりも大きく(W>w)している。従って、周方向に関して、前記両折れ曲がり部20、20の片半部は、前記両腕部19、19の径方向内端部よりも同方向に延出している。そして、この延出した部分を、前記両係止部17、17としている。本例の場合、この延出した部分の基端部で前記両腕部19、19に対向する側の側縁にV字形の切り欠き21、21を形成する事により、前記両係止部17、17の先端縁(軸方向に関して、互いに反対側の端縁)の幅寸法を小さくしている。尚、前記弾性変形部18及び前記両腕部19、19の幅寸法wは、前記各凹入部14、14の深さD14よりも小さく(w<D14)している。
【0032】
上述の様なリターンスプリング11aは、前記弾性変形部18を弾性変形させつつ、前記両腕部19、19の先端部同士の間隔を縮めた状態で、前記両プレッシャプレート5c、5dの周方向両端部同士の間に組み付ける。即ち、前記弾性変形部18を前記ロータ1の外周縁よりも径方向外方に位置させると共に、前記両腕部19、19をこのロータ1の軸方向両側に配置した状態で、前記両係止部17、17の先端縁を前記両係止受部16、16の底部(V型溝の最も深くなった部分)に突き当てる。この状態で、前記リターンスプリング11aのうちで、前記両プレッシャプレート5c、5dの延長上に位置する部分(図5に示す様に周方向から見た場合に、これら両プレッシャプレート5c、5dの端面と重畳する部分)は、図2に示す様に、これら両プレッシャプレート5c、5dの周方向端縁部の径方向両端部(図2の上下両端部)よりも周方向(図2の右方向)に突出しない(前記各凹入部14、14内に収まる)。又、この状態で、上記各係止部17、17は、図5に示す様に、前記両プレッシャプレート5c、5dのうちで前記ロータ1に対向する面から軸方向(図5の左右方向)に突出しない。
【0033】
上述の様に、前記両リターンスプリング11aを、前記両プレッシャプレート5c、5dの円周方向両端部同士の間に組み付けた状態で、前記両パッド3a、4aには、それぞれの周方向両端部を互いに離隔させる方向の弾力が付与される。これら両パッド3a、4aを押圧するピストンの中心は、前記両リターンスプリング11aが前記両パッド3a、4aの両端部に付与する力の作用点同士を結ぶ仮想直線上若しくはその近傍部分に位置する。この為、制動解除に伴って、前記両パッド3a、4aを前記ロータ1の側面に押し付けている力が解除されると、前記両リターンスプリング11aが前記両パッド3a、4aを効果的に押圧して、前記ピストンをシリンダ内に押し込みつつ、傾斜する事なく、前記ロータ1の側面から退避させられる。この為、非制動時に於ける、このロータ1の側面と前記両ライニング6c、6dとの擦れ合い(引き摺り)を、ほぼ完全に解消できる。
【0034】
これら両ライニング6c、6dの摩耗が進行するのに伴って、キャリパのシリンダ内に設けた自動間隙調整機構の働きにより、非制動時に於ける前記ピストンの軸方向位置が、前記ロータ1の側面に向けて移動(前進)する。この為に前記パッドスプリング11aの形状は、前記両パッド3a、4aの新品時(前記両ライニング6c、6dの未摩耗時)に図5の(A)に示す様な形状であったものが、これら両ライニング6c、6dが摩耗し切った状態では、図5の(B)に示す様になる。前記パッドスプリング11aの弾性変形部18のばね定数は、前述の様に低い為、図5の(A)→(B)の様に変化する過程で、前記両パッド3a、4aを前記ロータ1から離す方向に作用する力が大きく変化する事はない。
【0035】
上述した、前記両ライニング6c、6dの摩耗に伴う、図5の(A)→(B)に示した全過程で、前記リターンスプリング11aが、その一部でも、前記ロータ1と干渉する(擦れ合う)事はない。先ず、前記両プレッシャプレート5c、5dを押圧する部分である、前記各係止部17、17を含む前記各折れ曲がり部20、20、及び前記各腕部19、19の内径寄り部分は、前記各凹入部14、14内で、前記両プレッシャプレート5c、5dの厚さ範囲内に収まったままである。又、前記各腕部19、19の外径寄り部分は、前記両ライニング6c、6dの厚さが十分にある状態では、前記各凹入部14、14よりも前記ロータ1側にはみ出しているが、この状態で、このロータ1と前記各腕部19、19の外径寄り部分とが擦れ合う事はない。そして、前記両ライニング6c、6dが摩耗し、それぞれの厚さが小さくなるに従って、前記各腕部19、19の外径寄り部分も、前記各凹入部14、14内に入り込む(退避する)。この為、前記両ライニング6c、6dの厚さ変化に拘らず、前記各腕部19、19の外径寄り部分が前記ロータ1と擦れ合う事はない。更に、前記弾性変形部18は、常にこのロータ1の外周縁よりも径方向外方に存在して、このロータ1と擦れ合う事はない。
【0036】
上述の様に本例の構造では、前記両ライニング6c、6dの厚さ変化に拘らず、前記リターンスプリング11aと前記ロータ1とが擦れ合う事はないので、前記両ライニング6c、6dを、ほぼ摩耗し切るまで使用できる。従って、未使用状態でのこれら両ライニング6c、6dの厚さ寸法を特に大きくしなくても、これら両ライニング6c、6dの摩耗代(使用可能なライニングの厚さ寸法)を大きくできる。
【0037】
一方、制動時には、前記両パッド3a、4aを構成する前記両プレッシャプレート5c、5dの回出側(前記ロータ1の回転方向前側)端縁の径方向両端部が、前記キャリパ7aのトルク受部22に突き当たる。即ち、前記両プレッシャプレート5c、5dの円周方向両端縁はこのトルク受部22に対し、前記各凹入部14、14を径方向両側から挟む、径方向に関して内外両端部で当接(ブレーキトルクの支承を可能に係合)している。制動時に前記両パッド3a、4aに加わるブレーキトルクの作用線の方向は、前記両ライニング6c、6dと前記ロータ1の側面との摩擦中心から接線方向に向いている。図2で説明すると、同図に矢印αで示す様に、前記両プレッシャプレート5c(5d)の径方向(図2の上下方向)中間部で左右方向に向いており、これら両プレッシャプレート5c(5d)の円周方向両端縁の径方向内外両端部と前記トルク受部22との当接部同士の間を通過する。この為、制動時に前記両パッド3a、4aに対し、回転方向のモーメントが加わる事がなくなって、これら両パッド3a、4aの姿勢が安定する。この結果、制動時に発生する異音や振動を低く抑える事ができる。
【0038】
又、前記両リターンスプリング11aは、前記弾性変形部18と、前記両腕部19、19と、前記両折れ曲がり部20、20とが、ほぼ同一平面上に位置する。この様な前記両リターンスプリング11aは、設置場所が嵩まないだけでなく、組み付け作業の為に前記両折れ曲がり部20、20同士の間隔を縮める際に、余分な方向の力(これら両折れ曲がり部20、20同士の間隔を拡げる方向以外の方向の反発力)が発生しない。この為、前記両リターンスプリング11aを、前記両パッド3a、4aを構成するプレッシャプレート5c、5d同士の間に組み付ける組み付け作業を、容易に行える。
【0039】
[実施の形態の第2例]
図6〜9は、請求項1〜5に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の構造も上述した実施の形態の第1例と同様に、本発明を、対向ピストン型ディスクブレーキのキャリパ7aに軸方向の変位を可能に組み込んだ、アウタパッド3aとインナパッド4aとの周方向両端部を、制動解除に伴って互いに離隔させる構造に適用した場合に就いて示している。対向ピストン型ディスクブレーキの基本構造及び作用に就いては、前記特許文献9等に記載されて従来から周知である。この為、対向ピストン型ディスクブレーキの構造及び作用に関する説明は、本例の説明に必要となる部分以外は省略する。
【0040】
本例の戻し装置を構成する為に、前記実施の形態の第1例と同様に、両パッド3a、4aを構成する、一対のプレッシャプレート5c、5dの周方向両端部同士の間に、リターンスプリング11a、11bを設けている。そして、これらリターンスプリング11a、11bにより、前記両パッド3a、4aのプレッシャプレート5c、5dを、互いに離れる方向に向けて押圧している。前記リターンスプリング11aの構造は前述した実施の形態の第1例と同様である。又、前記リターンスプリング11bの構造は、前記リターンスプリング11aの構造に対して、このリターンスプリング11aの中央部に設けた弾性変形部の折り返し部(波形)の個数を多くしている。この様な構造にする事で、前記リターンスプリング11bのばね定数を低く抑え、前記両パッド3a、4aのライニング6c、6dの摩耗の進行に伴う、これら両パッド3a、4aを離隔させる方向に作用する弾力の変化を、より低く抑えている。尚、本例は、前記リターンスプリング11aの構造の場合に適用されるものである為、このリターンスプリング11bの詳細な構造に関しては図示並びに説明を省略する。但し、このリターンスプリング11bに関しても、前記リターンスプリング11aと同様の形状として、後述する、軸方向に関する位置決め構造を構成する事もできる。又、前記両リターンスプリング11a、11bの前記両パッド3a、4aへの組み付け構造は、前記実施の形態の第1例と同様である。
【0041】
又、前記対向ピストン型ディスクブレーキは、前記両パッド5c、5d(を構成する前記両プレッシャプレート5c、5d)を、後述する前記両パッドクリップ25、25を介して、前記キャリパ7aの保持凹部23、23内に、一方(図6、7の右側)のガイドピン24bを中心とする、若干の揺動変位を可能に支持している。更に、前記キャリパ7aと、径方向に関する若干の変位を可能に支持した他方(図6、7の左側)のガイドピン24aとの間に設けた、後述する板ばね26によりこの他方のガイドピン24aに、径方向内方に向いた弾力を付与している。この様な構造にする事で、前記両パッド3a、4aの両プレッシャプレート5c、5dが前記キャリパ7a(の保持凹部23、23)に対しがたつく事を防止している。
【0042】
前記両パッドクリップ25、25は、アルミニウム合金製の前記キャリパ7aに設けた前記両保持凹部23、23の回出側(図6、7の右側)の端部内面に、ブレーキトルクに基づく大きな面圧が作用した場合に、この端部内面に圧痕等の損傷が生じるのを防止する為に設ける。これに対して、鋳鉄製のキャリパを使用する場合には、このキャリパとパッドのバッキングプレートとの摺接部が錆び付くのを防止する為に、同様のパッドクリップが必要になる。
【0043】
何れにしても、前記両パッドクリップ25、25は、ステンレス鋼板等の、耐食性及び耐圧縮性を有する金属薄板製で、図9の(A)に示す様な、門形の基板部27を有する。 又、この基板部27の端縁部に、複数の側方折れ曲がり部28、28と、1個の内径側折れ曲がり部29と、一対の外径側折れ曲がり部30、30とを形成している。このうちの側方折れ曲がり部28、28は、軸方向に関して前記基板部27の両端縁部複数個所ずつ(図示の例では2箇所ずつ合計4箇所)から、この基板部27から同方向にほぼ直角にまで折れ曲がった状態で形成している。又、前記内径側折れ曲がり部29は、前記基板部27の中央部径方向内端縁から前記各側方折れ曲がり部28、28とは逆方向に、前記キャリパ7aのアウタ、インナボディ部31、32の両端部同士を連結する連結部33、33の内周面の傾斜に合わせて折れ曲がった状態で形成している。更に、前記両外径側折れ曲がり部30、30は、前記基板部27の外径側端縁の中央部から両端寄りに少し外れた部分から径方向外方に延出した部分の中間部を180度弱折り返し、更にその先端部を前記各側方折れ曲がり部28、28とは逆方向に折り曲げた状態で形成している。
【0044】
それぞれが上述の様な形状を有する、前記両パッドクリップ25、25は、図6、7に示す様に、前記キャリパ7aの周方向両端寄り部分に装着する。即ち、前記両パッドクリップ25、25を構成する前記基板部27を、前記両保持凹部23、23の周方向両端部内面と前記両連結部33、33の互いに対向する面とに当接させる。この状態で、前記各側方折れ曲がり部28、28を、前記両保持凹部23、23の周方向両端部で前記アウタ、インナ両ボディ部31、32の互いに対向する面に当接させる。又、前記内径側折れ曲がり部29を前記両連結部33、33の内周面に、前記両外径側折れ曲がり部30、30をこれら両連結部33、33の外周面に、それぞれ当接させる。
【0045】
又、前記板ばね26は、ステンレスのばね鋼板等の弾性を有する帯状の金属板を曲げ形成して成るもので、前記キャリパ7aの周方向両端部を構成する、前記両連結部33、33同士の間隔よりも大きな長さ寸法を有する。又、前記板ばね26の長さ方向中間部の2箇所位置に、それぞれが部分円弧形の弾性押圧部34a、34bを設けている。これら両弾性押圧部34a、34bの湾曲方向は互いに逆であり、一方の弾性押圧部34bは径方向内側面が、他方の弾性押圧部34aは径方向外側面が、それぞれ凸面となる方向に湾曲している。
【0046】
この様な形状を有する前記板ばね26は、長さ方向(周方向)両端部を前記両連結部33、33の径方向外側面に弾性的に突き当てると共に、前記他方の弾性押圧部34aを前記他方のガイドピン24aの軸方向中間部の径方向外側面に、一方の弾性押圧部34bを前記一方のガイドピン24bの軸方向中間部の径方向内側面に、それぞれ弾性的に突き当てる。この状態で前記他方のガイドピン24aに径方向内方に向いた、前記一方のガイドピン24bに径方向外方に向いた、それぞれ弾力が加わる。又、前記板ばね26の両端部は、図9に示す様な構造のパッドクリップ25の径方向外端縁部にそれぞれ一対ずつ設けた、前記各外径側折れ曲がり部30、30同士の間に位置する。従って、前記板ばね26はキャリパ7aに対して、図6〜8に示した設置位置から軸方向にずれ動く事はない。
【0047】
又、本例の戻し装置の場合、組み付け状態で、図8に示す様に、前記リターンスプリング11aの弾性変形部18のうちの、径方向外方に開口した湾曲部を、前記板ばね26に対して径方向内方から係合(当接)させている。
この様な構造にする事で、前記リターンスプリング11aの軸方向の位置決めを図る事ができる。又、前記板ばね26がアンカの役割を果たし、前記両パッド3a、4aに対して、互いに離隔させる方向の弾力を安定して付与する事ができる。その他の部分の構成及び作用は、上述した実施の形態の第1例と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略する。
【0048】
[実施の形態の第3例]
図10は、請求項6に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合、板ばね26aの幅方向両端縁のうち、組み付け状態でリターンスプリング11aと整合する位置に一対の係合凹部35、35を形成している。そして、このリターンスプリング11aの弾性変形部18のうちの径方向外方へ開口した湾曲部を、前記両係合凹部35、35に対して径方向内方から係合している。
この様な構造にする事で、前記リターンスプリング11aの軸方向および周方向の位置決めを図る事ができる。尚、板ばね26aの幅方向片端縁にのみ係合凹部35を形成し、この係合凹部35とリターンスプリング11aの湾曲部の片側部分とを係合させても、同様の位置決めを図れる。その他の部分の構成及び作用は、上述した実施の形態の第2例と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、ディスクブレーキであれば、ロータを挟む状態で設けたキャリパに互いに対向する状態で設けた複数のシリンダ空間にそれぞれピストンを嵌装した、対向ピストン型のディスクブレーキに限らず、図11に示す様なフローティングキャリパ型ディスクブレーキでも実施できる。又、リターンスプリングに関しても、図示の様な、素材となる板材に打ち抜き加工及び曲げ加工を施して成る板ばねに限らず、素材となる線材を所定長さに切断してこれに曲げ加工を施した線ばねとする事もできる。即ち、弾性を有する線材を図4に示す様な形状に曲げ加工する事によりリターンスプリングとする事もできる。この様な線ばね製のリターンスプリングを使用する場合には、プレッシャプレート側の係止受部を、このプレッシャプレートの周方向端縁部の中央部(この周方向端縁部に形成した凹入部の底面中央部)に形成した係止孔とする事もできる。更に、本発明は、回入側、回出側両端部にリターンスプリングを設ける形態で実施する事が好ましいが、回入側(前進状態)にのみ設ける形態で実施しても、或る程度の効果を得られる。
【符号の説明】
【0050】
1 ロータ
2 サポート
3、3a アウタパッド
4、4a インナパッド
5a、5b、5c、5d プレッシャプレート
6a、6b、6c、6d ライニング
7、7a キャリパ
8 シリンダ部
9 キャリパ爪
10 ピストン
11、11a、11b リターンスプリング
12 弾性変形部
13 押圧部
14 凹入部
15 段差部
16 係止受部
17 係止部
18 弾性変形部
19 腕部
20 折れ曲がり部
21 切り欠き
22 トルク受部
23 保持凹部
24a、24b ガイドピン
25 バッドクリップ
26、26a 板ばね
27 基板部
28 側方折れ曲がり部
29 内径側折れ曲がり部
30 外径側折れ曲がり部
31 アウタボディ部
32 インナボディ部
33 連結部
34a、34b 弾性押圧部
35 係合凹部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0051】
【特許文献1】特開平8−270690号公報
【特許文献2】特開平8−284983号公報
【特許文献3】特開2009−127715号公報
【特許文献4】特開2009−222202号公報
【特許文献5】実願昭61−34818号(実開昭62−147736号)のマイクロフィルム
【特許文献6】実願平3−11446号(実開平5−14679号)のCD−ROM
【特許文献7】実願平5−61483号(実開平7−25342号)のCD−ROM
【特許文献8】実願平5−73668号(実開平7−38770号)のCD−ROM
【特許文献9】特開2008−304026号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが、プレッシャプレートと、このプレッシャプレートの軸方向両側面のうちで前記ロータの軸方向側面に対向する面に添着固定されたライニングとから成る一対のパッドを、車輪と共に回転するロータの円周方向の一部を跨ぐ状態で設けられた支持部材に、軸方向の変位を可能に支持すると共に、前記両パッドの周方向端部同士の間に、これら両パッドを互いに離れる方向に向けて押圧するリターンスプリングを設けて成るディスクブレーキ用パッドの戻し装置に於いて、前記両プレッシャプレートの周方向端縁部で前記ライニングの周方向端縁よりも周方向に突出した部分の径方向中間部分にそれぞれ凹入部を形成すると共に、前記両プレッシャプレートの周方向端縁部の径方向中間部でこれら各凹入部の底部に整合する部分に係止受部を設け、これら各係止受部に、前記ロータの一部を跨ぐ形状を有する前記リターンスプリングの両端部に設けた係止部をそれぞれ係止した状態で、このリターンスプリングが、前記両プレッシャプレートの周方向端縁部の径方向両端部よりも周方向に突出しない事を特徴とするディスクブレーキ用パッドの戻し装置。
【請求項2】
前記凹入部及び前記係止受部が、前記両プレッシャプレートの周方向両端縁部に設けられており、一対のリターンスプリングが、これら両プレッシャプレートの周方向両端縁部同士の間に設けられている、請求項1に記載したディスクブレーキ用パッドの戻し装置。
【請求項3】
前記両プレッシャプレートの周方向端部で径方向位置が前記凹入部に対応する部分が、前記両ライニングの周方向端縁部よりも周方向に突出しており、この部分で前記ロータに対向する面に形成された凹部が前記各係止受部であり、これら各係止受部に前記各係止部を係止した状態で、これら各係止部が前記両プレッシャプレートのうちで前記ロータに対向する面から軸方向に突出しない、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載したディスクブレーキ用パッドの戻し装置。
【請求項4】
前記リターンスプリングが、弾性を有する金属板を曲げ形成して成るもので、前記ロータを跨ぐ部分に設けられた弾性変形部と、この弾性変形部の軸方向両端部から径方向内方に折れ曲がった一対の腕部と、これら両腕部の径方向内端部から軸方向に関して互いに近づく方向に折れ曲がると共に、これら両腕部よりも周方向に関して同方向に延出して、この延出した部分を前記両係止部とした一対の折れ曲がり部とを備えたものである、請求項3に記載したディスクブレーキ用パッドの戻し装置。
【請求項5】
ディスクブレーキが対向ピストン型ディスクブレーキであり、キャリパのアウタ、インナ両ボディ部の互いに対向する面に設けられた保持凹部の周方向両端面と、両パッドを構成するプレッシャプレートの周方向両端面との間に挟持される一対のパッドクリップを、前記アウタ、インナ両ボディ部同士の間に掛け渡す状態で設けており、
これら両パッドクリップの径方向外端縁の軸方向中間部に形成された係止部と係合する事により軸方向にずれ動く事を阻止された状態で、前記両パッドに対して、非制動時にこれら両パッドががたつく事を防止する為の弾性力を付与する板ばねが設けられており、
リターンスプリングの弾性変形部のうちの径方向外方へ開口した湾曲部が、前記板ばねに対して径方向内方から係合する事により、前記リターンスプリングの軸方向の位置決めを図っている、請求項1〜4のうちの何れか1項に記載したディスクブレーキ用パッドの戻し装置。
【請求項6】
板ばねの幅方向両端縁のうちの少なくとも一方の端縁の一部で、組み付け状態でリターンスプリングと整合する位置に、係合凹部が形成されており、リターンスプリングの弾性変形部のうちの径方向外方へ開口した湾曲部が、前記板ばねの係合凹部に対して径方向内方から係合する事により、前記リターンスプリングの軸方向及び周方向の位置決めを図っている、請求項5に記載したディスクブレーキ用パッドの戻し装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−189188(P2012−189188A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55513(P2011−55513)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】