説明

ディスクブレーキ用パッド組立体

【課題】プレッシャプレート2aに対して周方向に変位する外側シム板4aに形成した、外径側、内径側各係止片20、21を前記プレッシャプレート2aの周縁部に対し直接当接させて、この周縁部からの前記外側シム板4aの突出量を抑える。且つ、これら各係止片20、21と周縁部との周方向変位を円滑に行わせる事ができる構造を、低コストで実現する。
【解決手段】前記プレッシャプレート2aの周縁部で前記各係止片20、21と当接する部分に凸部を形成し、これら各係止片20、21の周方向端縁部を前記プレッシャプレート2aの周縁部から浮かせる。そして、先鋭端であるこれら各係止片20、21の周方向端縁が、前記プレッシャプレート2aの周縁部と強く擦れ合う事を防止して、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の制動を行う為に利用するディスクブレーキに組み込んで、制動時にパッドが振動する事により発生するブレーキ鳴きを抑えたり、このパッドのライニングの磨耗が不均一になる偏摩耗を抑える為に利用する、ディスクブレーキ用パッド組立体の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の制動に使用するディスクブレーキは、車輪と共に回転するロータを挟んで一対のパッドを配置し、制動時にはこれら両パッドをこのロータの軸方向両側面に押し付ける様に構成している。この様なディスクブレーキの基本的構造としては、フローティング型と対向ピストン型との2種類がある。何れの構造の場合でも、制動時には一対のパッドにより車輪と共に回転するロータを軸方向両側から強く挟持する。これら両パッドは、十分な剛性を有するプレッシャプレートの前面にライニングを添着して成る。そして、制動時にこのうちのプレッシャプレートの背面を押圧し、このライニングの前面と前記ロータの軸方向両側面とを摩擦させる。尚、本明細書及び特許請求の範囲で、軸方向、周方向、径方向とは、特に断らない限り、ディスクブレーキ用パッド組立体をディスクブレーキに組み付けた状態での、ロータの軸方向、周方向、径方向を言う。又、周縁部とは、このロータの径方向に関する内周縁部又は外周縁部を言う。
【0003】
制動時には、摩擦力が作用する部分である、前記ロータの軸方向両側面と前記両パッドのライニングの前面との当接部と、これら両パッドに加わるブレーキトルクを支承するアンカ部分である、前記プレッシャプレートとサポート又はキャリパとの当接部とは、軸方向に関して、少なくとも前記両パッドのライニングの厚さ分だけずれる(ブレーキトルクの支承部に対して、摩擦部分がオフセットする)。そして、この厚さ分のずれに基づいてこれら両パッドに、前記ロータの回入側が互いに近づく(倒れ込む)方向のモーメントが加わり、これら両パッドの姿勢が不安定になり易い。制動時にこれら両パッドの姿勢が不安定になると、これら両パッドの挙動がスムーズになりづらく、これら両パッドが振動して、鳴きと呼ばれる騒音を発生したり、前記ライニングの偏摩耗の程度が著しくなり易い。
【0004】
この様な鳴きや偏摩耗を緩和する為に、従来から、パッドを構成するプレッシャプレートの背面と、この背面を押圧する為の押圧面であるピストンの先端面或いはキャリパ爪部の内側面との間にシム板を挟持する事が、広く行われている。この様なシム板は、1枚のみの単板構成の場合もあるが、前記鳴きや偏摩耗の抑制効果を向上させる為、内側シム板と外側シム板とを重ね合わせた2枚構造とする事も、広く行われている。又、1枚構造であるか2枚構造であるかを問わず、シム板の内外両周縁部の複数箇所に形成した係止片を前記プレッシャプレートの内外両周縁部に係合させる事により、前記シム板をこのプレッシャプレートの背面側に、径方向への脱落を阻止した状態で、周方向に関する若干の変位を可能に支持する事が行われている。
【0005】
例えば、特許文献1には、この様な機能を備えたディスクブレーキ用パッド組立体として、図13〜15に示す様な構造が記載されている。この従来構造は、パッド1を構成するプレッシャプレート2の背面に、内側シム板3と外側シム板4とから成る組み合わせシム板5を装着して成る。前記パッド1は、前記プレッシャプレート2の前面(ディスクブレーキへの組み付け時にロータの側面と対向する面)にライニング6を、制動時に加わるブレーキトルクによりずれ動かない様に、大きな結合力により添着固定して成る。前記内側シム板3は、ステンレス鋼板、ゴムをコーティングしたステンレス鋼板等の金属板製で、平板状の内側本体部分7と、複数の内側係止片8a、8b、8cとを備える。又、この内側本体部分7に、それぞれの内側にグリースを保持する為の、複数の透孔9、9を形成している。又、前記プレッシャプレート2の径方向に関する内外両周縁部のうち、外径側周縁部の周方向中央部に係止凹部10を、内径側周縁部の周方向両端寄り部分に一対の段差部11、11を、それぞれ形成している。前記内側シム板3は、前記各内側係止片8a、8b、8cのうちの外径側の内側係止片8aを前記係止凹部10に、内径側の内側係止片8b、8cを前記両段差部11、11に、それぞれ係合させつつ、これら各内側係止片8a、8b、8cにより前記プレッシャプレート2を、径方向両側から挟持している。この状態で前記内側シム板3がこのプレッシャプレート2の背面側に、周方向及び径方向の変位を制限(実質的に阻止)された状態で装着される。
【0006】
又、前記外側シム板4は、ステンレス鋼板等の金属板製で、平板状の外側本体部分12と、複数の外側係止片13a、13b、13cとを備える。この様な外側シム板4は、これら各外側係止片13a、13b、13cを前記各内側係止片8a、8b、8cに重ね合わせつつ、前記外側本体部分12を前記内側本体部分7に重ね合わせる。この状態で前記外側シム板4が前記内側シム板3に、周方向の変位を可能に組み付けられる。この為に、前記外側係止片13aの周方向に関する幅寸法を、前記係止凹部10及び前記内側係止片8aの周方向の幅寸法よりも小さくし、前記両外側係止片13b、13cの互いに反対側側縁である周方向外側縁同士の間隔を、前記両段差部11、11同士の間隔よりも小さくしている。
【0007】
上述の様な構成を有する従来構造の場合、前記内側シム板3に設けた各内側係止片8a、8b、8cを、前記プレッシャプレート2の周縁部に当接させている。そして、これら各内側係止片8a、8b、8cに対して前記各外側係止片13a、13b、13cを、周方向の摺動を可能に当接させている。制動及びその解除時に前記プレッシャプレート2に対して周方向に変位する、前記外側シム板4に設けた前記各外側係止片13a、13b、13cは、前記プレッシャプレート2の周縁部に対し摺動する事はない。従って、このプレッシャプレート2の周縁部に対する、前記各外側係止片13a、13b、13cの摺動特性に就いて特に考慮する必要はない。
【0008】
上述の様な従来構造の場合には、前記各内側係止片8a、8b、8cと前記各外側係止片13a、13b、13cとを重ね合わせている為、前記プレッシャプレート2の周縁からの、これら各外側係止片13a、13b、13cの突出量が多くなる。この結果、これら各外側係止片13a、13b、13cと、ディスクブレーキの他の構成部材、例えばキャリパとの干渉防止の為の配慮が必要になる。ディスクブレーキの設置スペースは限られている反面、キャリパ等の構成部材には大きな剛性が要求される。この為、前記干渉防止の為の配慮が必要になる事は、ディスクブレーキの設計の自由度を確保する面から不利になる。
【0009】
プレッシャプレートの周縁からのシム板の一部の突出量を少なく抑える為には、制動及びその解除時にこのプレッシャプレートに対して周方向に変位する前記シム板(例えば上述した従来構造に於ける外側シム板4)に形成した係止片を、前記プレッシャプレートの周縁に、直接係合させる事が考えられる。但し、単に係止片をこれら両周縁部に直接係合させると、この係止片の周方向端縁がこれら両周縁部に食い込み、このプレッシャプレートに対する前記シム板の、周方向に関する変位を円滑に行えなくなる。特に、このプレッシャプレートの表面は、前記両周縁部を含めて、防錆や体裁確保の為に、塗膜により覆っている。この塗膜の硬度は、前記係止片の硬度に比べて遥かに低い為、前記プレッシャプレートに対する前記シム板の周方向変位に基づいて、前記係止片の周方向端縁が前記塗膜に食い込み易い。そして、食い込んだ場合には、前記周方向変位が円滑に行われなくなる他、前記塗膜を剥がして、防錆の面からも問題となる。
【0010】
この様な事情に対応する構造として、特許文献2に、係止片のうちでプレッシャプレートの周縁部に当接する部分に球状凸部を形成する構造が記載されている。この様な構造によれば、前記係止片が前記プレッシャプレートの周縁部に食い込む事を防止できる。但し、ステンレスのばね鋼等の硬質金属板製のシム板の係止片に球状凸部を形成する事は難しく、亀裂の発生等による歩留り悪化により、製造コストが相当に嵩む事は避けられないものと考えられる。又、仮に形成できるにしても、前記硬質金属板製の素材を曲げ形成して前記係止片を形成する工程と、この係止片に前記球状凸部を形成する工程とは別工程とする必要があり、製造コストが嵩む事は避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−200560号公報
【特許文献2】特開2009−30719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、プレッシャプレートに対して周方向に変位するシム板に形成した係止片をこのプレッシャプレートの周縁部に対し直接当接させ、しかも、これら係止片と周縁部との周方向変位を円滑に行わせる事ができる構造を、低コストで実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のディスクブレーキ用パッド組立体は、パッドとシム板とを備える。
このうちのパッドは、プレッシャプレートの前面にライニングを添着固定して成り、ロータの軸方向側面に対向する部分に配置される。
又、前記シム板は、平板状の本体部分と、この本体部分の周縁部から前記プレッシャプレート側に折れ曲がった複数の係止片とを備える。そして、この本体部分をこのプレッシャプレートの背面に重ね合わせた状態で、前記各係止片をこのプレッシャプレートの周縁部に、前記ロータの回転方向の変位を可能に当接させている。
特に、本発明のディスクブレーキ用パッド組立体に於いては、前記プレッシャプレートの周縁部で前記各係止片の片面と当接する部分に、この片面と対向する部分の周方向中央部が周方向両端部よりも突出した凸部を形成している。そして、前記プレッシャプレートの周縁部と前記各係止片の片面とを、この片面の周方向両端寄り部分で互いに離隔させている。
【0014】
上述の様な本発明のディスクブレーキ用パッド組立体を実施する場合に、例えば請求項2に記載した発明の様に、前記プレッシャプレートの周縁部に係止凹部を形成する。この係止凹部は、周方向に隣接する両側部分よりも径方向に凹入し、周方向に関する幅寸法が前記係止片の同方向の幅寸法よりも大きなものとする。そして、前記プレッシャプレートの周縁部のうちでこの係止凹部の底部に対応する部分に、前記凸部を形成する。
【0015】
又、上述の様な請求項2に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項3に記載した発明の様に、前記凸部の周方向中央部に、この凸部の周方向中央位置での接線方向に広がる平坦面を存在させる。そして、この平坦面の周方向に関する幅寸法を、前記各係止片のうちで前記係止凹部と係合する係止片の同方向の幅寸法よりも小さく、この係止凹部の周方向に関する幅寸法とこの係止片の同方向の幅寸法との差を、前記平坦面の周方向両端縁とこの係止凹部の周方向両内側面との距離よりも小さくする。
【発明の効果】
【0016】
上述の様に構成する本発明のディスクブレーキ用パッド組立体によれば、プレッシャプレートに対して周方向に変位するシム板に形成した係止片をこのプレッシャプレートの周縁部に対し直接当接させ、しかも、これら係止片と周縁部との周方向変位を円滑に行わせる事ができる構造を、低コストで実現できる。
即ち、前記プレッシャプレートの周縁部に形成した凸部の存在に基づき、この周縁部と前記各係止片の片面とが、この片面の周方向両端寄り部分で互いに離隔するので、尖った形状を有する(断面形状の曲率半径ほぼ0である)、前記片面の端縁と前記周縁部とが擦れ合う事がない。この為、前記係止片の周方向端縁がこの周縁部に食い込む事を防止して、前記プレッシャプレートに対する前記シム板の、周方向に関する変位を円滑に行える。
【0017】
特に、請求項2、3に記載した発明の構造によれば、係止片の周方向両端縁と係止凹部の周方向両内側面との係合により、前記プレッシャプレートに対する前記シム板の周方向変位量を規制する構造で、上述した作用・効果を確実に得られる。又、前記係止凹部の隅角部の曲率半径を或る程度大きくしても、前記プレッシャプレートに対する前記シム板の周方向変位に伴って、前記係止片が前記隅角部に乗り上げる事がなく、このシム板の姿勢が不安定化する事を防止できる。そして、この隅角部の曲率半径を大きくする事で、前記係止凹部を含め、前記プレッシャプレートを打ち抜き成形するプレス型の耐久性を確保して、このプレッシャプレートを含むディスクブレーキ用パッド組立体の製造コストの低減を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の実施の形態の第1例を示す、パッドの背面側で径方向外側から見た斜視図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態の第1例を、背面側から見た正投影図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態の第1例を、外側シム板を取り外して図1と同方向から見た斜視図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態の第1例を、外側シム板を取り外して背面側から見た正投影図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態の第1例を、パッドのみを取り出して背面側から見た正投影図である。
【図6】図6は、図5のa部拡大図(A)、単に隅角部の曲率半径を大きくした場合に生じる問題を説明する為の(A)の左下部に相当する拡大図(B)、本発明を適用しない構造を示す、(A)と同様の図(C)である。
【図7】図7は、係止凹部の底部に形成する凸部の形状の別例を示す、図6の(A)と同様の図である。
【図8】図8は、本発明の実施の形態の第2例を示す、図1と同様の図である。
【図9】図9は、本発明の実施の形態の第2例を、背面側から見た正投影図である。
【図10】図10は、本発明の実施の形態の第2例を、外側シム板を取り外して図8と同方向から見た斜視図である。
【図11】図11は、本発明の実施の形態の第2例を、外側シム板を取り外して背面側から見た正投影図である。
【図12】図12は、本発明の実施の形態の第2例を、内側シム板のみを取り出して背面側から見た正投影図である。
【図13】図13は、従来構造の1例を示す、図1と同様の図である。
【図14】図14は、この従来構造を、組み合わせる以前の状態で示す斜視図である。
【図15】図15は、この従来構造を、組み合わせた状態でパッドの背面側から見た正投影図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[実施の形態の第1例]
図1〜6は、請求項1、2に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例のディスクブレーキ用パッド組立体14は、パッド1と、内側シム板3aと、外側シム板4aとを備える。このうちのパッド1は、プレッシャプレート2aの前面にライニング6を添着固定して成り、ロータの軸方向側面に対向する部分に配置される。前記プレッシャプレート2aの外径側周縁部の周方向中央部に係止凹部15を、内径側周縁部の周方向両端寄り部分に一対の段差部11、11を、それぞれ形成している。
【0020】
又、前記内側シム板3aは、ステンレス鋼板、ゴムをコーティングしたステンレス鋼板等、耐食性を有する金属板に、プレス加工により打ち抜き加工及び曲げ加工を施す事により造ったもので、平板状の内側本体部分16と、この内側本体部分16の周方向両端部から前記プレッシャプレート2と反対側に、ほぼ直角に曲げ起こされた、一対の周端曲げ起こし部17、17とを備える。又、前記内側本体部分16の複数箇所に、それぞれの内部に潤滑用のグリースを保持する為の、透孔18、18を形成している。前記内側シム板3aは、前記ディスクブレーキ用パッド組立体14を組み立てた状態で軸方向から見た場合にその周縁部が、前記プレッシャプレート2aの周縁よりも突出しない形状及び大きさとしている。
【0021】
又、前記外側シム板4aは、ステンレスのばね鋼板等、耐食性及び弾性を有する金属板に、プレス加工により打ち抜き加工及び曲げ加工を施す事により造ったもので、平板状の外側本体部分19と、それぞれが特許請求の範囲に記載した係止片である、外径側係止片20及び一対の内径側係止片21、21とを備える。このうちの外径側係止片20は、前記外側本体部分19の外径側周縁の中央部から、前記両内径側係止片21、21はこの外側本体部分19の内径側周縁の周方向両端寄りの2箇所位置から、それぞれ前記プレッシャプレート2aの側に折り曲げ形成されている。前記各係止片20、21は、それぞれの先半部が、前記外側本体部分19に対する角度が鋭角となる状態まで折り曲げており、前記外径側係止片20の先半部を径方向外側に、前記両内径側係止片21、21の先半部を径方向内側に、それぞれ弾性変形させつつ、前記プレッシャプレート2aの背面側に添着可能としている。そして、添着した状態では、前記各係止片20、21の先半部が前記プレッシャプレート2aを、径方向両側から弾性的に挟持し、前記外側シム板4aをこのプレッシャプレート2aの背面に、径方向の位置決めを図った状態で添着される様にしている。
【0022】
前記各係止片20、21の先半部の周方向に関する形状は直線状である。又、このうちの外径側係止片20の周方向に関する幅寸法wは、前記プレッシャプレート2aに形成した係止凹部15の幅寸法Wよりも小さく(w<W)している。又、前記両内径側係止片21、21の周方向反対側端縁同士の間隔dは、前記プレッシャプレート2aに形成した一対の段差部11、11同士の間隔Dよりも小さく(d<D)している。そして、前記外径側係止片20を前記係止凹部15の幅方向中央部に配置した(前記プレッシャプレート2aと前記外側シム板4aとの位置関係を中立とした)状態で、前記外径側係止片20の周方向両側縁と前記係止凹部15の周方向両内側面との間、並びに、前記両内径側係止片21、21の周方向反対側端縁と前記両段差部11、11との間に、それぞれ隙間が介在する様にしている。前記プレッシャプレート2aと前記外側シム板4aとは、これら隙間分だけ、中立状態から周方向に変位可能である。そして、変位する際に、前記各係止片20、21の先半部内面と前記プレッシャプレート2aの内外両周縁部とが擦れ合う。尚、前記内側シム板3aの周方向両端部に形成した、前記両周端曲げ起こし部17、17同士の間隔は、前記外側シム板4aのうちでこれら両周端曲げ起こし部17、17同士の間に存在する部分の周方向長さよりも大きくしている。従って、前記内側、外側両シム板3a、4a同士も、周方向に相対変位可能である。
【0023】
本例の場合には、前記各係止片20、21の先半部内面と前記プレッシャプレート2aの内外両周縁部との擦れ合いを伴う、前記プレッシャプレート2aと前記外側シム板4aとの周方向変位が円滑に行われる様にすべく、このプレッシャプレート2aの内外両周縁部のうちで前記各係止片20、21の先半部内面と擦れ合う部分の形状を工夫している。即ち、前記プレッシャプレート2aの内外両周縁部で前記各係止片20、21の先半部内面と当接する部分の形状を、部分円筒面状の凸曲面として、当該部分に、周方向中央部が周方向両端部よりも突出した凸部22a、22bを形成している。尚、前記各係止片20、21の先半部内面が、特許請求の範囲に記載した係止片の片面に相当する。
【0024】
具体的には、前記係止凹部15の底部に存在する凸部22aの表面に関しては、周方向中央部が最も径方向外方に突出し、周方向両端に向かうに従って漸次径方向内方に向かう方向に湾曲した凸曲面としている。そして、この凸曲面と前記係止凹部15の周方向両内側面とを、部分円筒面状の凹曲面により、滑らかに連続させている。又、この係止凹部15の周方向両内側面のうちで、これら両凹曲面よりも径方向外側部分は、互いに平行な平坦面としている。そして、この平坦面の径方向内端部を、前記凸部22aの頂部(前記凸曲面の周方向中央部)よりも径方向内側部分に(この凸部22aの頂部を、前記平坦面の径方向中間部)存在させている。
【0025】
一方、前記両段差部11、11に隣接した部分に存在する、前記両凸部22b、22bの表面に関しては、周方向中央部が最も径方向内方に突出し、周方向両端に向かうに従って漸次径方向外方に向かう方向に湾曲した凸曲面としている。そして、この凸曲面と前記両段差部11、11の基端部(径方向外端部)とを、部分円筒面状の凹曲面により、滑らかに連続させている。又、前記両段差部11、11のうちで、この凹曲面よりも径方向内側部分は、互いに平行な平坦面としている。そして、この平坦面の径方向外端部を、前記両凸部22b、22bの頂部よりも径方向外側部分に存在させている。
【0026】
前記パッド1と前記内側シム板3aと前記外側シム板4aとを組み合わせて、前記ディスクブレーキ用パッド組立体14とするには、図3〜4に示す様に、前記内側シム板3aの内側本体部分16を、前記プレッシャプレート2aの背面に重ね合わせる。次いで、各係止片20、21同士の径方向に関する間隔を弾性的に拡げつつ、図1〜2に示す様に、これら各係止片20、21を前記プレッシャプレート2aの内径側周縁部に係合させる。即ち、これら各係止片20、21の先半部内面を、このプレッシャプレート2aの内外両周縁部に、弾性的に当接させる。そして、前記外側シム板4aの外側本体部分19を、前記内側本体部分16に重ね合わせる。前記各透孔18、18内には、前記外側シム板4aの組み付けに先立って、グリースを塗布・充填しておく。
【0027】
この様に前記ディスクブレーキ用パッド組立体14を組み立てた状態で、前記各係止片20、21の先半部内面が、前記各凸部22a、22bの頂部に当接する。そして、前記プレッシャプレート2aと前記外側シム板4aとの周方向に関する位置関係を中立位置とした状態で、このプレッシャプレート2aの外径側周縁部と前記各係止片20、21の先半部内面とが、径方向に関して離隔する。言い換えれば、尖鋭な端縁である、これら各係止片20、21の先半部内面の周方向端縁は、前記プレッシャプレート2aの内外両周縁部に当接しない。
【0028】
上述の様に本例のディスクブレーキ用パッド組立体14は、前記外側シム板4aに形成した、前記外径側、内径側各係止片20、21を前記プレッシャプレート2aの内外両周縁部に対し直接当接させている。従って、前述の図13〜15に示した従来構造の様に、内側、外側各係止片8a、8b、8c、13a、13b、13cを径方向に重ね合わせる構造に比べて、前記各係止片20、21の前記プレッシャプレート2aの内外両周縁からの突出量を少なく抑えられる。この為、ディスクブレーキの構造(フローティング型であるか、対向ピストン型であるか、更にはピストンの数が幾つであるか)に拘らず、前記ディスクブレーキ用パッド組立体14と、ディスクブレーキの他の構成部分とが干渉し難くなり、高性能のディスクブレーキの設計の自由度を高くできる。
【0029】
しかも、本例のディスクブレーキ用パッド組立体14の場合には、図6の(A)に示す様に、前記各係止片20(21)の先半部の周方向両端部の内面と前記プレッシャプレート2aの周縁部とを離隔させている。そして、この構成により、このプレッシャプレート2aと前記外側シム板4aとの周方向変位を円滑に行わせる事ができる。即ち、前記プレッシャプレート2aの内外両周縁部に形成した前記各凸部22a、22bの存在に基づき、この周縁部と前記各係止片20、21の片面の端縁とが擦れ合うのを防止できる。この為、これら各係止片20、21の周方向端縁が前記周縁部に食い込む事を防止して、前記プレッシャプレート2aに対する前記外側シム板4aの、周方向に関する変位を円滑に行える。しかも、前記各係止片20、21の先半部の周方向両端部の内面と前記プレッシャプレート2aの周縁部とを離隔させる為、前記各凸部22a、22bを形成する作業は、金属板製の素材から前記プレッシャプレート2aを打ち抜く際に、同時に行える。この為、前記擦れ合い及び食い込み防止の為の構造の製造コストを低く抑えられる。
【0030】
更に、本例の構造によれば、前記係止凹部15の凸部22aと周方向両内側面との連続部である、隅角部23、23の曲率半径を或る程度大きくしても、前記プレッシャプレート2aに対する前記外側シム板4aの周方向変位に伴って、前記外径側係止片20が前記両隅角部23、23のうちの何れか一方に乗り上げる事がなく、この外側シム板4aの姿勢が不安定化する事を防止できる。そして、前記両隅角部23、23の曲率半径を大きくする事により、前記係止凹部15を含め、前記プレッシャプレート2aを打ち抜き成形するプレス型の耐久性を確保して、このプレッシャプレート2aを含む、前記ディスクブレーキ用パッド組立体14のコスト低減を図れる。この点に就いて、図6の(A)に加えて同図の(B)(C)を参照しつつ説明する。
【0031】
図6の(B)に示す様に、底面の形状が直線状である係止凹部15aの隅角部23aを、曲率半径が或る程度大きな凹曲面とした場合、外径側係止片20がこの係止凹部15aの周方向端部まで移動すると、この外径側係止片20の周方向端縁が前記隅角部23aに乗り上げる。そして、この外径側係止片20が、図6の(B)に鎖線で示す様に、前記係止凹部15aの底面に対し傾斜して、前記外径側係止片20を設けた、前記外側シム板4aの姿勢が不安定になる。この結果、例えば外側本体部分19が、内側シム板3aの内側本体部分16に対し浮き上がる傾向になり易く、これら両シム板4a、3aによる、騒音及び振動の抑制機能が損なわれる可能性がある。
【0032】
この様な原因での、騒音及び振動の抑制機能の低下を防止する為には、図6の(C)に示す様に、係止凹部15bの隅角部23b、23bの曲率半径を極く小さくする(それぞれが平坦面である底面と周方向内側面とを直角に交差させる)事が考えられる。但し、この様な形状を採用すると、プレッシャプレートを打ち抜き成形する為の金型のうち、前記係止凹部15bに対応する部分の曲率が大きくなって(尖鋭端が必要になって)当該部分の耐久性確保が難しくなり、前記プレッシャプレートの製造コストを高くする原因となる。
【0033】
これに対して本例の構造の場合には、前記係止凹部15の底面に前記凸部22aを設けた事により、前記両隅角部23、23の曲率半径を大きくしても、前記外径側係止片20が前記係止凹部15の周方向端部まで移動した状態で、この外径側係止片20の周方向端縁が前記隅角部23に乗り上げる事はない。この状態でこの外径側係止片20の周方向端縁が突き当たるのは、前記係止凹部15の周方向内側面のうちで、前記隅角部23よりも径方向外方に存在する平坦面部である。従って、前記外側シム板4aの姿勢が不安定になる事はない。この結果、騒音及び振動の抑制機能の確保と、打ち抜き用金型の耐久性確保に基づく、前記プレッシャプレート2aの製造コストの抑制とを両立させられる。尚、前記両段差部11、11の基端部(径方向外端部)に関しても、同様の理由により、隅角部23c、23cの曲率半径を大きくして、プレス型の耐久性向上に基づくコスト低減を図れる。
【0034】
[実施の形態の第2例]
図7は、請求項1〜3に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、プレッシャプレート2aの外径側周縁の周方向中央部に形成した係止凹部15cの底面に設けた凸部22cの形状を、上述した実施の形態の第1例と異ならせている。具体的には、この凸部22cの周方向中央部に、平坦面24を形成している。この平坦面24の広がり方向は、この凸部22cの周方向中央位置での接線方向で、且つ軸方向である。そして、前記平坦面24の周方向に関する幅寸法W24を、前記係止凹部15cと係合する外径側係止片20の先半部の同方向の幅寸法W20よりも小さく(W24<W20)している。又、前記係止凹部15cの周方向に関する幅寸法W15と、前記外径側係止片20の先半部の同方向の幅寸法W20との差(W15−W20)を、前記平坦面24の周方向両端縁と前記係止凹部15cの周方向両内側面との距離Lよりも小さくしている{(W15−W20)<L}。
【0035】
上述の様に構成する本例の構造によれば、前記外径側係止片20の先半部の周方向両端縁と前記プレッシャプレート2aの外径側周縁とが擦れ合う事を確実に防止し、しかも、この外径側周縁と前記外径側係止片20との当接状態を安定させて、騒音及び振動の抑制機能を十分に高くできる。即ち、前記外径側係止片20の先半部と前記凸部22cの頂部とを広い面積で当接させて、この外径側係止片20を含む外側シム板の姿勢を安定させられる為、前記抑制機能を確保する面から有利になる。又、前記外径側係止片20の先半部と前記凸部22cの頂部との接触部の面圧を低く抑えて、前記外側シム板の変位に伴う磨耗を抑える面からも有利になる。更に、前記各部の寸法W24、W20、W15、Lを上述の様に規制している為、前記外側シム板が前記プレッシャプレート2aに対し、最も周方向に変位した状態でも、前記外径側係止片20の周方向端縁が前記凸部22cの頂部に対向する事はない。従って、尖鋭端であるこの外径側係止片20の周方向端縁が、前記凸部22cの頂部と擦れ合う事はない。
【0036】
尚、本例の構造を実施する場合に、前記係止凹部15cのうち、前記平坦面24の周方向両端縁と、前記係止凹部15cの周方向両内側面との間部分の形状は、この平坦面24よりも径方向内方に凹入しており、各隅角部の曲率半径を或る程度大きくしてさえいれば、特に問わない。図7に実線で示す様に、前記凸部22cの形状を矩形としても、或いは、同図に鎖線で示す様に、山形としても良い。
【0037】
[実施の形態の第3例]
図8〜12は、請求項1、2に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合には、内側シム板3bと外側シム板4bとの間に、周方向に関する係合部を設ける事により、ディスクブレーキ用パッド組立体14aを組み立てた状態で、前記内側シム板3bが、プレッシャプレート2aと前記外側シム板4bとの間から、周方向に抜け出る事を防止している。前述の実施の形態の第1例で内側シム板3aの周方向両端部に設けた、周端曲げ起こし部17、17(図1〜4参照)は省略している。本例の場合、具体的には、前記内側シム板3bの外径側周縁の中央寄り部分に一対の外径側突片25、25を、同じく内径側周縁の両端寄り部分に一対の内径側突片26、26を、それぞれ形成している。又、前記外側シム板4bの内径側周縁の両端寄り部分に形成した一対の内径側係止片21、21の周方向中央部に、それぞれ係止孔27、27を形成している。そして、前記ディスクブレーキ用パッド組立体14aを組み立てた状態で、前記両外径側突片25、25同士の間部分に、前記外側シム板4bの径方向外側の周縁の中央部分に形成した外径側係止片20を、緩く(周方向に関する変位を可能に)係合させている。又、前記両内径側突片26、26を前記両係止孔27、27に、緩く(周方向に関する変位を可能に)挿通している。
【0038】
上述の様な本例の構造によっても、前記ディスクブレーキ用パッド組立体14aを組み立てた後、ディスクブレーキに組み込む以前の状態で、前記内側シム板3bが抜け出る事を防止して、前記ディスクブレーキ用パッド組立体14aの搬送作業やディスクブレーキの組立作業の容易化を図れる。尚、本例の構造を実施する場合には、前記各突片25、26と、ディスクブレーキを構成する他の部材(サポート、キャリパ、ロータ等)との干渉を防止すべく、前記各突片25、26の形状及び寸法を規制する。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のディスクブレーキ用パッド組立体を構成するシム板の数は、2枚に限定されるものではない。1枚のみで実施する(実施の形態の構造から内側シム板を除く)事もできるし、逆に、3枚目のシム板(例えば中間シム板)を、プレッシャプレートと内側シム板との間、或いは内側シム板と外側シム板との間に挟持する構造に関して、本発明を実施する事もできる。
【符号の説明】
【0040】
1 パッド
2、2a プレッシャプレート
3、3a、3b 内側シム板
4、4a、4b 外側シム板
5 組み合わせシム板
6 ライニング
7 内側本体部分
8a、8b、8c 内側係止片
9 透孔
10 係止凹部
11 段差部
12 外側本体部分
13a、13b、13c 外側係止片
14、14a ディスクブレーキ用パッド組立体
15、15a、15b、15c 係止凹部
16 内側本体部分
17 周端曲げ起こし部
18 透孔
19 外側本体部分
20 外径側係止片
21 内径側係止片
22a、22b、22c 凸部
23、23a、23b、23c 隅角部
24 平坦部
25 外径側突片
26 内径側突片
27 係止孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレッシャプレートの前面にライニングを添着固定して成り、ロータの軸方向側面に対向する部分に配置されるパッドと、シム板とを備え、このシム板は、平板状の本体部分と、この本体部分の周縁部から前記プレッシャプレート側に折れ曲がった複数の係止片とを備え、この本体部分をこのプレッシャプレートの背面に重ね合わせた状態で、前記各係止片をこのプレッシャプレートの周縁部に、前記ロータの回転方向の変位を可能に当接させているディスクブレーキ用パッド組立体に於いて、
前記プレッシャプレートの周縁部で前記各係止片の片面と当接する部分に、この片面と対向する部分の周方向中央部が周方向両端部よりも突出した凸部を形成し、前記プレッシャプレートの周縁部と前記各係止片の片面とを、この片面の周方向両端寄り部分で互いに離隔させた事を特徴とするディスクブレーキ用パッド組立体。
【請求項2】
前記プレッシャプレートの周縁部に周方向に隣接する両側部分よりも径方向に凹入し、周方向に関する幅寸法が前記係止片の同方向の幅寸法よりも大きな係止凹部が形成されており、前記プレッシャプレートの周縁部のうちでこの係止凹部の底部に対応する部分に前記凸部が形成されている、請求項1に記載したディスクブレーキ用パッド組立体。
【請求項3】
前記凸部の周方向中央部に、この凸部の周方向中央位置での接線方向に広がる平坦面が存在しており、
この平坦面の周方向に関する幅寸法が、前記各係止片のうちで前記係止凹部と係合する係止片の同方向の幅寸法よりも小さく、この係止凹部の周方向に関する幅寸法とこの係止片の同方向の幅寸法との差が、前記平坦面の周方向両端縁とこの係止凹部の周方向両内側面との距離よりも小さい、請求項2に記載したディスクブレーキ用パッド組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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