説明

ディスクブレーキ用ピストン

【課題】必要とする冷却性能及び信頼性を確保しつつ、資源の再利用に要するコストを低減できる構造を実現する。
【解決手段】有底円筒状のピストン本体6aと、このピストン本体6aの先端側開口部に嵌合支持されるピストンキャップ15とを、金属板製の中間スリーブ16を介して結合する。このピストンキャップ15は、内部空間と外部空間とを連通させる空気流路を有する。このピストンキャップ15と前記ピストン本体6aとを、このピストン本体6aの先端面とこのピストンキャップ15の押圧部の背面とを軸方向に離隔させた状態で、前記中間スリーブ16を介して組み合わせる事で、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車や鉄道車両等の制動を行う為のディスクブレーキに組み込んで、パッドをロータに向け押し付ける為に使用するディスクブレーキ用ピストンの改良に関する。特に、本発明は、必要とする冷却性能を確保しつつ、資源の再利用に要するコストを低減できる構造の実現を図るものである。
【背景技術】
【0002】
自動車や鉄道車両の制動を行う為に、ディスクブレーキが広く使用されている。ディスクブレーキによる制動時には、車輪と共に回転するロータを挟む状態で設けた一対のパッドを、ピストンにより、このロータの両側面に押し付ける。このピストンは、キャリパに設けたシリンダ空間内に液密に嵌装しており、制動時にはこのシリンダ空間内に油圧を導入し(加圧したブレーキオイルを送り込み)、前記ピストンをこのシリンダ空間から押し出す。この様なディスクブレーキの作動時には、前記ロータの両側面と、前記両パッドを構成するライニングとの摩擦により発熱する。そして、この熱が前記ピストンを介して前記ブレーキオイルに伝わると、このブレーキオイルの温度が上昇する。このブレーキオイルの温度が過度に上昇し、このブレーキオイルが沸騰するベーパロックが発生すると、制動力が極端に低下する。この為従来から、競技用自動車やスポーツカー等の高性能車に組み込むピストンとして、内部に空気を流通させる事でこのピストンの温度上昇を抑え、このピストンに触れるブレーキオイルの温度上昇を抑える、冷却型のディスクブレーキ用ピストンが使用されている。
【0003】
この様な冷却型のピストンを備えたディスクブレーキとして、例えば特許文献1に記載された構造が知られている。図6〜8は、この特許文献1に記載された、従来構造の1例を示している。この従来構造は、対向ピストン型ディスクブレーキに関するもので、車輪と共に回転するロータ1を挟んで一対のパッド2、2を設けている。又、これらロータ1及びパッド2、2を軸方向(本明細書及び特許請求の範囲で、軸方向とは、特に断わらない限り、ロータの軸方向を言う)両側から挟む状態で、キャリパ3を設けている。このキャリパ3の互いに対向する位置にそれぞれシリンダ空間4、4を設け、これら各シリンダ空間4、4に、冷却型のピストン5、5を液密に嵌装している。
【0004】
これら各ピストン5、5は、有底円筒状のピストン本体6と円筒状の内側スリーブ7とを、弾性リング8を介して結合して成る。この内側スリーブ7の先端部には外向フランジ状の鍔部9を、中間部には内外両周面同士を連通させる通孔10、10を軸方向に複列に形成し、これら複列の通孔10、10の間部分に鋸歯状突起部11を、外周面奥端寄り部分に係止溝12を、それぞれ形成している。又、前記ピストン本体6の内周面奥端寄り部分に係止突条13を、それぞれ形成している。この様な各部材6〜8は、図8に示す状態から図7に示す状態に組み合わせる。組み合わせた状態で前記ピストン本体6の先端縁と前記鍔部9との間に隙間14が形成される。従って、前記各ピストン5、5内に外気を、この隙間14及び前記各通孔10、10を介して流通させ、これら各ピストン5、5の温度上昇を抑え、前記各シリンダ空間4、4内に送り込まれるブレーキオイルの温度上昇を抑えられる。
【0005】
上述の様な従来構造の場合、前記ピストン本体6と前記内側スリーブ7とを弾性リング8を介して結合した後、外部からこの弾性リング8の直径を縮める事はできない。この為、前記ピストン本体6と前記内側スリーブ7とを、再利用可能な状態で(これら両部材6、7を傷めずに)分離する事はできない。又、これら両部材6、7の再利用を考慮しない場合にしても、各構成部材6〜8の材質は互いに異なる事が殆どであるから、資源の再利用を図る場合には、これら各構成部材6〜8を互いに分離して、それぞれの材質に応じて処理する必要がある。但し、これら各構成部材6〜8の係合部を破壊しつつ、これら各構成部材6〜8を分離する事は、大きな力を要するか、時間を要する為、資源の再利用の為のコストが嵩む事が避けられない。
【0006】
冷却型のピストンを構成する、キャリパのシリンダ空間に嵌合するピストン本体と、パッドのプレッシャプレートに突き当てる突き当て部材(上述した従来構造の内側スリーブ7に、本発明のピストンキャップに、それぞれ相当する部材)とを結合する構造として、他にも、接着や締り嵌めによる嵌合が知られている。但し、接着は、制動時に発生する熱による劣化により、接着強度が低下する可能性があり、十分な信頼性を確保する事が難しい。又、締り嵌めによる嵌合は、例えばアルミニウム合金製のピストン本体と、セラミックや高機能樹脂等、熱抵抗の大きな材料製の突き当て部材との熱膨張量の差により、嵌合部が緩む可能性があり、やはり十分な信頼性を確保する事が難しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、必要とする冷却性能及び信頼性を確保しつつ、資源の再利用に要するコストを低減できる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のディスクブレーキ用ピストンは、車輪と共に回転するロータの側面に対向して軸方向の変位を可能に支持されたパッドの背面側に、キャリパに設けられたシリンダ空間内に軸方向の変位を可能に嵌装されて、このシリンダ空間からの押し出しに伴い前記パッドを前記ロータの側面に押し付ける為のものである。
この様な本発明のディスクブレーキ用ピストンは、前記シリンダ空間内に液密に嵌装される、基端側が塞がれて先端側が開口した有底円筒状のピストン本体と、このピストン本体の先端側開口部に嵌合支持されるピストンキャップとを備える。
このピストンキャップは、前記パッドの背面を前記ロータの側面に向けて押圧する押圧部と、このピストン本体内に先端側開口部から挿入される挿入部と、この挿入部の内径側に存在する内部空間と外径側に存在する外部空間とを連通させる空気流路とを有する。
又、前記ピストン本体と前記ピストンキャップとは、このピストン本体の先端面と前記押圧部の背面とを軸方向に離隔させた状態で組み合わされており、これらピストン本体の先端面と押圧部の背面との間に、前記空気流路の一部を開口させている。
特に、本発明のディスクブレーキ用ピストンに於いては、前記ピストン本体の先端開口部に弾性材製の中間スリーブを内嵌支持し、更にこの中間スリーブに前記ピストンキャップを内嵌支持している。
【0009】
上述の様な本発明のディスクブレーキ用ピストンを実施する場合、具体的には、請求項2に記載した発明の様に、前記中間スリーブを、弾性金属板製で、前記ピストン本体の先端部に内嵌される嵌合部と、この嵌合部の先端縁から径方向外方に折れ曲がった外向フランジ状の鍔部とを備え、断面L字形で全体を円環状とされたものとする。
【0010】
又、この様な請求項2に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項3に記載した発明の様に、前記ピストン本体の先端部外周面に、残りの部分と段差面を介して連続する小径段部を形成する。又、前記鍔部の外径を、この小径段部の外径よりも大きくする。そして、この鍔部と前記段差面との間に、防塵用ブーツの端部を係止する為の係止溝を形成する。
【0011】
又、上述の様な請求項2〜3に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項4に記載した発明の様に、前記ピストン本体の内周面の中間部先端寄り部分に係止凹部を、前記嵌合部の外周面に、前記鍔部に向かう程この外周面からの突出量が多くなる方向に傾斜した外径側係止突起を、それぞれ形成する。そして、この外径側係止突起の先端縁と、前記係止凹部のうちで前記ピストン本体の開口側端縁部との係合により、前記中間スリーブがこのピストン本体の開口部から抜け出る事を防止する。
【0012】
更に、上述の様な請求項2〜4に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項5に記載した発明の様に、前記ピストンキャップの挿入部のうちで前記押圧部寄り部分に、この挿入部を径方向に貫通して前記空気流路の一部を構成する通孔を、前記中間スリーブの嵌合部の一部に、この嵌合部の先端縁側と一致する側に存在する先端縁に向かう程、この嵌合部の内周面からの突出量が多くなる内径側係止突起を、それぞれ形成する。そして、この内径側係止突起の先端縁と、前記通孔の内面のうちで前記挿入部の先端側の面との係合により、前記ピストンキャップが前記中間スリーブの内径側から抜け出る事を防止する。
【発明の効果】
【0013】
上述の様に構成する本発明のディスクブレーキ用ピストンによれば、必要とする冷却性能及び信頼性を確保しつつ、資源の再利用に要するコストを低減できる。
即ち、ピストン本体とピストンキャップとを結合する為の中間スリーブを、このピストン本体の先端開口部に内嵌支持している為、温度上昇下でも、前記ピストン本体と前記ピストンキャップとの結合強度を十分に確保できる。
又、適宜の工具を使用する事により、何れの構成部材も破壊しなくても、前記中間スリーブと前記ピストン本体及び前記ピストンキャップとを分離できる。又、中間スリーブを破壊しても良ければ、ドライバの如き一般的な工具で、前記ピストン本体と前記ピストンキャップとを分離できる。この為、材質が互いに異なる、これらピストン本体とピストンキャップとを分離する作業に要する手間を軽減できて、資源の再利用に要するコストを低減できる。
更に、請求項3に記載した発明の構造によれば、ピストン空間の開口部とピストンの先端部外周面との間に設ける防塵ブーツの端部を係止する為の係止溝の加工が容易になり、冷却型のピストンの製造コストの低減も図れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態の1例を示す分解斜視図。
【図2】ピストンキャップと中間スリーブとを組み合わせて図1と反対側から見た状態で示す斜視図。
【図3】ピストン本体とピストンキャップと中間スリーブとを組み合わせた状態で示す側面図。
【図4】更に防塵ブーツを組み付けた状態で示す断面図。
【図5】図4の左上部拡大図。
【図6】従来構造の1例を示す、冷却型のピストンを組み込んだディスクブレーキの断面図。
【図7】冷却型のピストンを取り出して示す断面図。
【図8】同じく分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施の形態の第1例]
図1〜5は、本発明の実施の形態の1例を示している。本例のディスクブレーキ用ピストン5aは、ピストン本体6aと、ピストンキャップ15と、中間スリーブ16とから成る。このうちのピストン本体6aは、例えばアルミニウム合金等の軽合金製で、基端側が塞がれて先端側が開口した有底円筒状である。この様なピストン本体6aの中心孔17は、奥半部(基半部)の小径部18と開口側半部(先半部)の大径部19とを段部20により連続させた、段付き形状である。又、このうちの大径部19の中間部開口寄り部分に係止凹部21を、全周に亙って形成している。更に、この大径部19の開口側端部に、開口端縁に向かうに従って内径が大きくなる方向に傾斜した、部分円すい凹面状のガイド傾斜面22を形成している。更に、前記ピストン本体6aの先端部外周面に、小径段部23を形成している。そして、この小径段部23と、残りの部分(中間部乃至基端寄り部分)とを、段差面24を介して連続させている。この様なピストン本体6aは、キャリパ3に設けられたシリンダ空間4(図6参照)内に軸方向の変位を可能に、且つ、オイルリング等により液密を保持した状態で嵌装される。
【0016】
又、前記ピストンキャップ15は、ステンレス鋼、炭素鋼等の降伏応力の大きな金属材量、或は、セラミック、高機能樹脂等の、降伏応力が大きく、熱抵抗が大きな(熱を伝達し難い)非金属材料により、一体に造っている。何れの場合でも前記ピストンキャップ15は、押圧部25と挿入部26とを備える。このうちの押圧部25は、パッド2(図6参照)の背面をロータ1(図6参照)の側面に向けて押圧する為のもので、円環状としている。又、前記挿入部26は、前記ピストン本体6a内に、このピストン本体6aの先端側開口部から挿入されるもので、筒状に形成されている。本例の場合に前記挿入部26の内外両周面のうちの内周面は、次述する空気流路を構成する通孔27、27及び切り欠き28、28部分を除き、大略円筒面状としている。これに対して、前記挿入部26の外周面は、外周面の複数個所に、それぞれが軸方向に長い凹溝29、29を、円周方向に関し等間隔に形成して、円周方向に関する形状を段付形状(大略歯車状)としている。そして、円周方向に関する位相が前記各凹溝29、29の間部分(外径が大きくなった部分)で前記押圧部25寄り(先端寄り)部分に前記各通孔27、27を、これら各凹溝29、29に整合する部分で前記押圧部25から反対側部分(基端縁部分)に前記各切り欠き28、28を、それぞれ形成している。前記各通孔27、27と、これら各切り欠き28、28と、前記各凹溝29、29とが、前記挿入部の内径側に存在する内部空間と外径側に存在する外部空間とを連通させる空気流路を構成する。
【0017】
上述の様なピストン本体6aと、前述の様なピストンキャップ15とは、前記中間スリーブ16を介して、非分離に結合している。この中間スリーブ16は、ステンレス鋼板、SPCCの如き炭素鋼板等、弾性を有する金属板を曲げ形成する事により、断面L字形で全体を円環状としている。即ち、前記中間スリーブ16は、前記ピストン本体6aの先端部に内嵌される嵌合部30と、この嵌合部30の先端縁から径方向外方に折れ曲がった外向フランジ状の鍔部31とを備える。このうちの嵌合部30は、円周方向に関する幅が互いに異なる、幅広舌片32、32と幅狭舌片33、33とを、円周方向に関して交互に、円周方向に隣り合う舌片32、33同士の間に隙間を開けて配置する事により、欠円筒状に構成している。
【0018】
又、前記鍔部31の内周縁の一部で、隣り合う舌片32、33同士の間部分は、径方向外方に凹んだ切り欠き部として、これら各舌片32、33(特に幅狭舌片33、33)を、それぞれの基端部から(これら各舌片32、33全体を)、径方向に弾性変形できる様にしている。又、前記鍔部31の外径D31を、前記ピストン本体6aの先端部外周面の小径段部23の外径D23よりも大きく(D31>D23)している。尚、前記各幅広舌片32、32の数は、前記ピストンキャップ15の外周面の各凹溝29、29の数と同じである。又、前記各幅広舌片32、32の円周方向に関する幅W32は、前記各凹溝29、29の開口部の幅W29よりも少しだけ小さい(W32<W29)。
【0019】
上述の様な嵌合部30を構成する、前記各幅広舌片32、32と前記幅狭舌片33、33とのうち、各幅広舌片32、32の先半部の外周面に、それぞれ外径側係止突起34、34を、これら各幅広舌片32、32の一部(円周方向である幅方向中央部)を径方向外方に曲げ形成する事により、形成している。前記各外径側係止突起34、34は、これら各外径側係止突起34、34の基端側となる、前記鍔部31側に向かう程、前記各幅広舌片32、32の外周面からの突出量が多くなる方向に傾斜している。これに対して、前記各幅狭舌片33、33は、自由状態で、先端縁に向かう程径方向内方に向かう方向に傾斜している。本例の場合には、前記各幅狭舌片33、33が、特許請求の範囲に記載した内径側係止突起として機能する。
【0020】
それぞれが以上に述べた様な構成を有する、前記ピストン本体6aと、前記ピストンキャップ15と、前記中間スリーブ16とは、互いに組み合わせて、図3〜5に示す様なピストン5aとする。組み合わせ作業の始めには、前記ピストンキャップ15と前記中間スリーブ16とを、図2に示す様に組み合わせる。この第一段階の組み合わせ作業では、先ず、この中間スリーブ16側の幅広舌片32、32と前記ピストンキャップ15側の凹溝29、29との円周方向に関する位相を合わせる。次いで、このピストンキャップ15の挿入部26を、前記中間スリーブ16の内径側に押し込む(この挿入部26にこの中間スリーブ16を外嵌する)。この際、前記各幅狭舌片33、33が、径方向外方に弾性変形しつつ、前記挿入部26の基端側に進入する。そして、これら各幅狭舌片33、33と、この挿入部26側に形成した前記各通孔27、27とが整合すると、これら各幅狭舌片33、33が径方向内方に向けて、弾性的に復元する。そして、これら各幅狭舌片33、33の先端縁と、前記各通孔27、27の内面のうちで前記挿入部26の先端側の面との係合により、前記ピストンキャップ15が前記中間スリーブ16の内径側から抜け出る事を防止する。この様な組み合わせ作業の際、前記各幅広舌片32、32は、前記各凹溝29、29に沿って、前記ピストンキャップ15の押圧部25側(先端側)に入り込む。
【0021】
この様にして、このピストンキャップ15と前記中間スリーブ16とを組み合わせたならば、組み合わせ作業の第二段階として、この中間スリーブ16の嵌合部30を、前記ピストン本体6aの開口部に押し込む。この押し込み作業は、この嵌合部30のうちの前記各幅広舌片32、32を径方向内方に弾性変形させつつ、これら各幅広舌片32、32の外周面に形成した前記各外径側係止突起34、34を、前記ピストン本体6a内に進入させる事により行う。これら各外径側係止突起34、34をこのピストン本体6a内に、所定量進入させ、これら各外径側係止突起34、34が、このピストン本体6aの内周面に形成した前記係止凹部21に整合すると、前記各幅広舌片32、32が径方向外方に向け、弾性的に復元する。この結果、図4〜5に示す様に、前記各外径側係止突起34、34の先端縁と、前記係止凹部21のうちで前記ピストン本体6aの開口側端縁部とが係合する。この状態では、前記中間スリーブ16がこのピストン本体6aの開口部から、不用意に抜け出る事がなくなる。
【0022】
この様に、前記ピストンキャップ15と前記ピストン本体6aとを、前記中間スリーブ16を介して組み合わせた状態で、このピストンキャップ15を構成する前記挿入部26の先端縁が、前記ピストン本体6a内に存在する前記段部20に突き当たる。又、前記ピストンキャップ15の押圧部25の背面(図4〜5の右側面)と前記ピストン本体6aの先端面とが軸方向に離隔し、これら両面同士の間に、空気が流通可能な環状隙間35が形成される。前記ピストン本体6aの内部空間と外部空間とは、この環状隙間35と、前記通孔27、27及び前記切り欠き28、28とを介して連通する。そして走行に伴って発生するラム圧等により上記内部空間に、図4に矢印で示す様に外気が流通し、前記ピストン本体6aを冷却し、このピストン本体6aと接触するブレーキオイルの温度上昇を抑える様にする。
【0023】
又、上述した組み合わせ完了の状態で、前記中間スリーブ16の鍔部31と、前記ピストン本体6aの先端部外周面の段差面24との間に、軸方向両側が仕切られて外径側のみが開口した、係止溝36を形成する。この係止溝36には、本例のピストン5aをキャリパ3に組み付けてディスクブレーキを構成した状態で、防塵用ブーツ37の内径側端部を係止する。防塵用ブーツの内径側端部を係止する為の係止溝は、一般的には、ピストンの先端部外周面に直接形成する。この様な従来構造に比べて本例に構造によれば、前記係止溝36の加工コストを抑えられる。尚、ピストンに別部品を嵌合させる事により係止溝を設ける構造は、特許文献2に記載されて従来から知られているが、この特許文献2に記載された従来構造は、係止溝を設ける為にだけ、別部品を用意するものであり、コスト低減効果は限られている。
【0024】
上述の様に構成する本例のディスクブレーキ用のピストン5aによれば、必要とする冷却性能及び信頼性を確保しつつ、資源の再利用に要するコストを低減できる。
即ち、前記ピストン本体6aと前記ピストンキャップ15とを、金属板製の中間スリーブ16を介して結合している為、温度上昇下でも、前記ピストン本体6aと前記ピストンキャップ15との結合強度を十分に確保できる。
【0025】
又、適宜の工具を使用する事により、何れの構成部材も破壊しなくても、前記中間スリーブ16と前記ピストン本体6a及び前記ピストンキャップ15とを分離できる。例えば、先端が折れ曲がった工具を、このピストンキャップ15の通孔27、27から挿入して、前記中間スリーブ16の幅広舌片32、32を径方向内側に弾性変形させつつ、この中間スリーブ16を前記ピストン本体6aから抜き出す事ができる。その後、前記各通孔27、27を内径側から挿入した別の工具により前記各幅狭舌片33、33を径方向外方に弾性変形させつつ、前記中間スリーブ16と前記ピストン本体6aとを分離できる。分離作業の手順は逆であっても良い。又、このうちの中間スリーブ16を破壊しても良ければ、ドライバの如き一般的な工具で、前記ピストン本体6aと前記ピストンキャップ15とを分離できる。この為、材質が互いに異なる、これらピストン本体6aとピストンキャップ15とを(更には前記中間スリーブ16と)分離する作業に要する手間を軽減できて、資源の再利用に要するコストを低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のディスクブレーキ用ピストンは、一般的には、高性能車用のディスクブレーキに組み込む事を考慮したものであるから、図6に示す様な対向ピストン型のディスクブレーキに組み込む場合が多いと考えられる。但し、制動時の繰り返しに伴ってブレーキオイルの上昇を抑える必要がある事は、対向ピストン型のディスクブレーキに限った事ではないので、本発明のディスクブレーキ用ピストンを、フローティングキャリパ型のディスクブレーキに適用する事もできる。
【符号の説明】
【0027】
1 ロータ
2 パッド
3 キャリパ
4 シリンダ空間
5、5a ピストン
6、6a ピストン本体
7 内側スリーブ
8 弾性リング
9 鍔部
10 通孔
11 鋸歯状突起部
12 係止溝
13 係止突条
14 隙間
15 ピストンキャップ
16 中間スリーブ
17 中心孔
18 小径部
19 大径部
20 段部
21 係止凹部
22 ガイド傾斜面
23 小径段部
24 段差面
25 押圧部
26 挿入部
27 通孔
28 切り欠き
29 凹溝
30 嵌合部
31 鍔部
32 幅広舌片
33 幅狭舌片
34 外径側係止突起
35 環状隙間
36 係止溝
37 防塵用ブーツ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】特表2004−527715号公報
【特許文献2】特開昭57−86640号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転するロータの側面に対向して軸方向の変位を可能に支持されたパッドの背面側に、キャリパに設けられたシリンダ空間内に軸方向の変位を可能に嵌装されて、このシリンダ空間からの押し出しに伴い前記パッドを前記ロータの側面に押し付ける為のディスクブレーキ用ピストンであって、
前記シリンダ空間内に液密に嵌装される、基端側が塞がれて先端側が開口した有底円筒状のピストン本体と、このピストン本体の先端側開口部に嵌合支持されるピストンキャップとを備え、
このピストンキャップは、前記パッドの背面を前記ロータの側面に向けて押圧する押圧部と、このピストン本体内に先端側開口部から挿入される挿入部と、この挿入部の内径側に存在する内部空間と外径側に存在する外部空間とを連通させる空気流路とを有するものであり、
前記ピストン本体と前記ピストンキャップとは、このピストン本体の先端面と前記押圧部の背面とを軸方向に離隔させた状態で組み合わされており、これらピストン本体の先端面と押圧部の背面との間に、前記空気流路の一部を開口させているディスクブレーキ用ピストンに於いて、
前記ピストン本体の先端開口部に弾性材製の中間スリーブを内嵌支持し、更にこの中間スリーブに前記ピストンキャップを内嵌支持した事を特徴とするディスクブレーキ用ピストン。
【請求項2】
中間スリーブが、弾性金属板製で、前記ピストン本体の先端部に内嵌される嵌合部と、この嵌合部の先端縁から径方向外方に折れ曲がった外向フランジ状の鍔部とを備え、断面L字形で全体を円環状とされたものである、請求項1に記載したディスクブレーキ用ピストン。
【請求項3】
前記ピストン本体の先端部外周面に、残りの部分と段差面を介して連続する小径段部が形成されており、前記鍔部の外径がこの小径段部の外径よりも大きく、この鍔部と前記段差面との間に、防塵用ブーツの端部を係止する為の係止溝が形成されている、請求項2に記載したディスクブレーキ用ピストン。
【請求項4】
前記ピストン本体の内周面の中間部先端寄り部分に係止凹部が、前記嵌合部の外周面に、前記鍔部に向かう程この外周面からの突出量が多くなる方向に傾斜した外径側係止突起が、それぞれ形成されており、この外径側係止突起の先端縁と、前記係止凹部のうちで前記ピストン本体の開口側端縁部との係合により、前記中間スリーブがこのピストン本体の開口部から抜け出る事を防止した、請求項2〜3のうちの何れか1項に記載したディスクブレーキ用ピストン。
【請求項5】
前記ピストンキャップの挿入部のうちで前記押圧部寄り部分に、この挿入部を径方向に貫通して前記空気流路の一部を構成する通孔が、前記中間スリーブの嵌合部の一部に、この嵌合部の先端縁側と一致する側に存在する先端縁に向かう程、この嵌合部の内周面からの突出量が多くなる内径側係止突起が、それぞれ形成されており、この内径側係止突起の先端縁と、前記通孔の内面のうちで前記挿入部の先端側の面との係合により、前記ピストンキャップが前記中間スリーブの内径側から抜け出る事を防止した、請求項2〜4のうちの何れか1項に記載したディスクブレーキ用ピストン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−163435(P2011−163435A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26329(P2010−26329)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】