説明

ディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体

【課題】 コスト節減、生産性向上、破損防止ができる摩擦パッド組立体を得る。
【解決手段】ライニング組立体13がディスクロータへ押圧されるディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体であって、ライニング組立体13は摩擦材21と摩擦材の裏面に固着された裏板部22とから構成され、裏板部22に、ガイドプレート11のガイド孔部11aに嵌合するプレート嵌合部22aを備え、ディスクロータと摩擦材との接触時の制動トルクをプレート嵌合部22aからガイドプレート11に伝達し、ガイドプレートに固着されたトルク受けプレート3と裏板部22との間には、トルク受けプレート3からの押圧力をこれらのライニング組立体に作用させる複数のリンクプレート5が設けられ、リンクプレート5は単一のプレート当接曲面部35と複数個の裏板当接曲面部37とを備え、制動時の押圧力の反力が過大な場合、リンクプレート5が変形するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動トルクを受けるガイドプレートに複数のライニングアッシが旋回自在に支持されて、前記ライニングアッシがディスクロータへ押圧された時の摺動摩擦によって制動力を発生するディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体に関し、特に、使用部品の加工精度の緩和や構成部品の削減によるコストの節減、生産性の向上を実現するための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキ装置は、車軸に固定されるディスクロータと、このディスクロータに対峙して配置されるトルク受けプレートのディスクロータ側の面にライニング部材を組み付けた摩擦パッド組立て体と、トルク受けプレートをディスクロータに向かって進退駆動するアクチュエータを内蔵して車体フレームに固定されるブレーキキャリパとを具備し、トルク受けプレートをディスクロータ側に進出させてライニング部材がディスクロータへ押圧された時の摺動摩擦によって制動力を発生する。
【0003】
鉄道車両用のディスクブレーキ装置では、ディスクロータや摩擦パッド組立て体が大型であるため、ディスクロータに押圧させるライニング部材を一体部品で形成すると、摩擦熱等でディスクロータに発生するうねり等のために非接触の領域が多くなり、安定した摩擦面積を維持できず、安定した制動特性が得られない。
【0004】
そこで、このような問題を解決するために、トルク受けプレート上には複数個の第2リンクプレートを略平面上に敷設し、各第2リンクプレート上には多数個の第1リンクプレートを互いに独立に旋回自在に敷設し、各第1リンクプレート上には多数個のライニング組立体を互いに独立に旋回自在に配設して、トルク受けプレートのディスクロータ側への移動により、各第1リンクプレート上の各ライニング組立体をディスクロータに接触させる構成の摩擦パッド組立て体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このような構成の摩擦パッド組立て体では、小さく分割された各ライニング組立体が、それぞれ個別の旋回動作でディスクロータ表面のうねりに追従して、ディスクロータ表面に接触するため、安定した摩擦面積を維持して、安定した制動特性を維持できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平10−507250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記特許文献1に記載の摩擦パッド組立て体では、トルク受けプレート上でのライニング組立体の位置規制は、ライニング組立体の表面と平行な方向、及びライニング組立体の表面と直交する方向のいずれも、球面接触部によりライニング組立体を旋回自在に第1リンクプレートに連結している第1のユニバーサルジョイントで行っている。
また、第1リンクプレート上での第2リンクプレートの位置規制も、ライニング組立体の表面と平行な方向、及びライニング組立体の表面と直交する方向のいずれも、球面接触部により第1リンクプレートを旋回自在に第2リンクプレートに連結している第2のユニバーサルジョイントで行っている。
【0008】
その結果、制動時にライニング組立体に作用する制動トルクは、全て、ユニバーサルジョイントの球面接触部を介して、ライニング組立体から第1リンクプレートへ、第1リンクプレートから第2リンクプレートへと順に伝達され、そして最終的に第2リンクプレートが結合されているトルク受けプレートに伝達されることになり、各ユニバーサルジョイントを堅牢に、且つ、各ユニバーサルジョイントの球面接触部を高精度に加工しておかないと、一部のユニバーサルジョイントに過大な負荷が集中して、破損を招く虞がある。
【0009】
しかし、ユニバーサルジョイントの使用箇所が多いため、全てのユニバーサルジョイントを堅牢な構成とし、且つ、その球面接触部、及び該球面接触部が接触する相手側接触部を高精度に加工しなければならないとなると、部品の加工コストが嵩み、摩擦パッド組立て体のコストアップや、生産性の低下を招くという問題があった。
【0010】
また、摩擦パッド組立て体の搬送時や、ディスクブレーキ装置の整備時等に、不用意にライニング組立体が脱落しないように、ライニング組立体の保持構造に工夫が必要であるが、そのために部品が増加するようであると、部品の増加がコストアップを招くと同時に、部品の増加に伴う組み立て工程数の増加が生産性の低下を招くという問題があった。
【0011】
また、ディスクロータとの接触によってライニング組立体が不用意に回転すると、それにより制動トルクの伝達にロスが発生してしまうため、ライニング組立体の回転を規制する手段が必要になるが、そのために部品が増加すると、その場合も、部品の増加がコストアップを招くと同時に、部品の増加に伴う組み立て工程数の増加が生産性の低下を招くという問題があった。
【0012】
更に、ディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体は、複数個のライニング組立体を平面状に敷き並べた形態になるため、ライニング組立体の厚さ方向の寸法公差を吸収する工夫をしないと、寸法公差のために、ディスクロータに対する各ライニング組立体の接触性にばらつきが生じて、安定した制動特性を維持することが難しくなる虞があった。
【0013】
そこで、本発明の目的は上記課題を解消することに係り、使用部品の加工精度の緩和や部品の削減により、コストの節減、生産性の向上を実現することができ、また、ライニング組立体の厚さ方向の寸法公差を許容して、ディスクロータに対する各ライニング組立体の接触性にばらつきが生じることを防止でき、従って、ライニング組立体の厚さ方向の寸法公差の影響を受けずに、安定した制動特性を維持することができる摩擦パッド組立て体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的は下記構成により達成される。
(1):本発明に係るディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体は、制動トルクを受けるガイドプレートに複数のライニング組立体が旋回自在に支持されて、前記ライニング組立体がディスクロータへ押圧されるディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体であって、
前記ライニング組立体は、
制動時に前記ディスクロータと接触する摩擦材と、前記摩擦材の裏面に固着された裏板部とから構成され、かつ前記裏板部に、前記ガイドプレートに設けられたガイド孔部に旋回自在に嵌合するプレート嵌合部を備え、
前記プレート嵌合部が前記ガイドプレートの裏面側から前記ガイド孔部に挿入装着されて、前記ディスクロータと摩擦材との接触時に作用する制動トルクを前記プレート嵌合部から前記ガイドプレートに伝達し、
前記裏板部との間に間隙を開けて前記ガイドプレートに固着されたトルク受けプレートと前記裏板部との間には、複数のライニング組立体に跨って配備されて前記トルク受けプレートからの押圧力をこれらのライニング組立体に作用させる複数のリンクプレートが設けられ、
前記リンクプレートは、前記トルク受けプレートのリンク支持部に当接して旋回可能に支持される単一のプレート当接曲面部と、各ライニング組立体の裏板部の中心のリンク当接部に当接してライニング組立体を旋回可能に支持する複数個の裏板当接曲面部とを備え、
前記摩擦材が前記ディスクロータに押圧された時の押圧力の反力が通常範囲の大きさの場合は、前記ライニング組立体から、前記リンクプレートの前記裏面当接曲面部および前記プレート当接曲面部を経て伝達され、前記トルク受けプレートで受け止められ、
前記反力が前記通常範囲の大きさを超えた過大な反力の場合は、前記リンクプレートが変形してトルク受けプレートに強く当接して、前記リンクプレートの前記裏面当接曲面部の近傍および前記プレート当接曲面部のそれぞれを前記トルク受けプレートに接触させて、過大な反力を前記トルク受けプレートに伝達するものである。
【0015】
(2):上記(1)に記載の構成で、更に、前記ガイドプレートとトルク受けプレートはスペーサを挟んで当接し、これらのガイドプレートとトルク受けプレートとがリベットによる締結によって、一体の筐体構造を形成している構成とする。
【0016】
(3)上記(1)又は(2)に記載の構成で、前記スペーサが前記トルク受けプレートまたは前記ガイドプレートの少なくともいずれか一方と一体に形成されている構成とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る摩擦パッド組立て体によれば、制動時にライニング組立体に作用する制動トルクは、ガイドプレートに伝達され、さらにガイドプレートが固定されているトルク受けプレートにダイレクトに伝達される。
また、ディスクロータへライニング組立体を押圧する押圧力は、トルク受けプレートから、トルク受けプレートのリンク支持部とリンクプレートのプレート当接曲面部との接触部を介してリンクプレートに伝達され、リンクプレートの裏板当接曲面部とライニング組立体のリンク当接部との接触部を介してライニング組立体に作用する。即ち、ライニング組立体から制動トルクを受ける部材と、ライニング組立体へ押圧力を作用させる部材とが別個に設定されており、ライニング組立体へ押圧力を作用させる、ライニング組立体とリンクプレートとの接触部や、リンクプレートとトルク受けプレートとの接触部には、大きい負荷となる制動トルクが作用しない。
そのため、押圧力を伝達する各接触部は、制動トルクを受け止める玉継手等の堅牢な係合にする必要がなく、加工精度の緩和によるコストの節減、生産性の向上を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体の一実施の形態の正面図である。
【図2】図1のA矢視図である。
【図3】図2のB矢視図である。
【図4】図1のC矢視図である。
【図5】図1のD−D断面図である。
【図6】図5に示した摩擦パッド組立て体の分解斜視図である。
【図7】図3に示したディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体からリンクプレートを露出させた状態の説明図である。
【図8】図7のE矢視図である。
【図9】本発明に係るディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体の他の実施の形態の分解斜視図である。
【図10】図9に示した摩擦パッド組立て体の、図5に対応した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体の好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1〜図8は本発明に係る摩擦パッド組立て体の一実施の形態を示したもので、図1はディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体の正面図、図2は図1のA矢視図、図3は図2のB矢視図、図4は図1のC矢視図、図5は図1のD−D断面図、図6は図5に示した摩擦パッド組立て体の分解斜視図、図7は図3に示したディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体のリンクプレートを露出させた状態の説明図、図8は図7のE矢視図である。
【0020】
この一実施の形態のディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体1は、鉄道車両用ディスクブレーキ装置に使用されるもので、図1〜図3に示すように、車軸上のディスクロータの周方向に隣接配置される2つの摩擦パッド組立て体1A,1Bから構成されている。
各摩擦パッド組立て体1A,1Bは、同様の構成をしており、車軸上のディスクロータに対峙して配置されて車体フレームに固定されたブレーキキャリパに内蔵のアクチュエータによってディスクロータに向かって進退駆動される。
【0021】
各摩擦パッド組立て体1A,1Bは、図5及び図6に示すように、不図示のブレーキキャリパに内蔵されたアクチュエータによってディスクロータに向かって進退駆動されるトルク受けプレート3と、このトルク受けプレート3のディスクロータ側の面の上に略平面上に敷設される各リンクプレート5,6と、トルク受けプレート3のディスクロータ側にスペーサ8を介してトルク受けプレート3に連結固定されるガイドプレート11と、ガイドプレート11に旋回可能に嵌合支持された5個のライニング組立体13とから構成されている。
【0022】
ライニング組立体13は、略円板状に成型された摩擦材21と、この摩擦材21の裏面に固着された裏板部22とから構成されている。裏板部22には、外周面がガイドプレート11に貫通形成された円形のガイド孔部11aに旋回自在に嵌合するプレート嵌合部22aと、ガイド孔部11aよりも大きな外径の抜け止めフランジ部22bとが備えられている。
プレート嵌合部22aには、環状の板ばね24が嵌着される。板ばね24の外径は、ガイド孔部11aよりも大きく設定されている。
【0023】
各ライニング組立体13は、プレート嵌合部22aに嵌着された板ばね24がガイドプレート11と抜け止めフランジ部22bとの間に挟まれるように、ガイドプレート11の裏面側からガイド孔部11aに挿入装着されて、ディスクロータと摩擦材21との接触時に作用する制動トルクをプレート嵌合部22aからガイドプレート11に伝達する。
【0024】
ガイドプレート11は、ガイド孔部11aが所定の離間間隔で5つ形成されていて、各ガイド孔部11aにライニング組立体13が装着される。
スペーサ8は、ガイドプレート11の周縁部に当接する枠体で、ガイドプレート11とトルク受けプレート3とに挟まれることにより、トルク受けプレート3と裏板部22との間に、各リンクプレート5,6を配置するリンク収容空間26を画成する。
【0025】
スペーサ8を挟んで積層状態になったガイドプレート11とトルク受けプレート3は、図1及び図3に示すように、これらを貫通したリベット28による締結によって、一体の筐体構造に形成される。
【0026】
トルク受けプレート3の裏面には、図3〜図6に示すように、アンカープレート31がリベット32により固定装備されている。このアンカープレート31が、ブレーキキャリパに内蔵されたアクチュエータに連結されて、摩擦パッド組立て体1A,1Bのディスクロータへの進退駆動が可能になる。
【0027】
各リンクプレート5,6は、複数のライニング組立体13に跨って配備されて、トルク受けプレート3からの押圧力をこれらのライニング組立体13に作用させる。
トルク受けプレート3のリンクプレート5,6側の面には、各リンクプレート5,6を旋回自在に支持するための曲面形状の凹面構造であるリンク支持部3aが、各リンクプレート5,6の略重心位置に対応するように、形成されている。
一方、各リンクプレート5,6の略重心位置には、トルク受けプレート3に形成されたリンク支持部3aに当接して旋回可能に支持される単一のプレート当接曲面部35が形成されている。本実施の形態の場合、プレート当接曲面部35は、リンク支持部3aの凹湾曲面に旋回自在に当接する凸湾曲面に形成されている。
なお、本実施の形態の場合、各リンクプレート5,6は略重心位置のプレート当接曲面部35がトルク受けプレート3に当接して旋回自在に支持されているから、このプレート当接曲面部35を除いて、リンクプレート5,6のトルク受けプレート3側の面とトルク受けプレート3との間には旋回を許容する隙間が形成されている。
【0028】
各ライニング組立体13の裏板部22は、図5及び図6に示すように、中心に凹曲面形状のリンク当接部22cが形成されると共に、中心から離れた位置に回り止め用の係合孔22dが形成されている。
これに対応して、各リンクプレート5,6には、図5に示すように、裏板部22のリンク当接部22cに当接してそのライニング組立体13を旋回可能に支持する複数個の裏板当接曲面部37と、裏板部22の係合孔22dに遊嵌して各ライニング組立体13の旋回挙動を規制する回転規制部38とが備えられている。
【0029】
本実施の形態の場合、裏板当接曲面部37はリンク当接部22cが回転自在に当接する凸湾曲面に形成されている。回転規制部38は、リンクプレート5,6の端部に延出した突片を、係合孔22d側に折り曲げたものである。
【0030】
以上に説明した摩擦パッド組立て体1では、トルク受けプレート3上でのライニング組立体13の位置規制は、ライニング組立体13のディスクロータ面と平行な方向に対しては、ライニング組立体13のプレート嵌合部22aとガイドプレート11のガイド孔部11aとの嵌合によって行い、また、ディスクロータ面と直交する方向に対しては、ライニング組立体13のリンク当接部22cとリンクプレート5,6の裏板当接曲面部37との当接によって行う。
従って、制動時にライニング組立体13に作用する制動トルクは、ガイドプレート11に伝達され、当該ガイドプレート11が固定されているトルク受けプレート3にダイレクトに伝達される。
また、ディスクロータへライニング組立体13を押圧する押圧力は、トルク受けプレート3から、トルク受けプレート3のリンク支持部3aとリンクプレート5,6のプレート当接曲面部35との接触部を介してリンクプレート5,6に伝達され、リンクプレート5,6の裏板当接曲面部37とライニング組立体13のリンク当接部22cとの接触部を介してライニング組立体13に作用する。
【0031】
即ち、ライニング組立体13から制動トルクを受ける部材(ガイドプレート11)と、ライニング組立体13へ押圧力を作用させる部材(リンクプレート5,6とトルク受けプレート3)とが別個に設定されており、ライニング組立体13へ押圧力を作用させる、ライニング組立体13とリンクプレート5,6との接触部や、リンクプレート5,6とトルク受けプレート3との接触部には、大きい負荷となる制動トルクが作用しない。
そのため、押圧力を伝達する各接触部は、制動トルクを受け止める玉継手等の堅牢な係合にする必要がなく、加工精度の緩和によるコストの節減、生産性の向上を実現することができる。
【0032】
また、以上に説明した摩擦パッド組立体1では、摩擦材21がディスクロータに押圧された時の押圧力の反力は、通常範囲の大きさの場合には、ライニング組立体13から、各リンクプレート5,6の裏板当接曲面部37、プレート当接曲面部35を経て伝達されて、トルク受けプレート3で受け止められる。しかし、過大な反力がディスクロータから入力された場合には、プレス加工によって製作されている各リンクプレート5,6が、トルク受けプレート3との間で旋回可能な隙間を埋めるように変形してトルク受けプレート3に強く当接する。
そのため、各リンクプレート5,6は、裏板当接曲面部37の近傍、プレート当接曲面部35のそれぞれをトルク受けプレート3に接触させて、過大な反力をトルク受けプレート3に伝達すると同時に、リンクプレート5,6自体の破損が防止される。
【0033】
また、以上に説明した摩擦パッド組立て体1では、ライニング組立体13の裏板部22に形成した抜け止めフランジ部22bの外径をガイドプレート11のガイド孔部11aよりも大きく設定していて、抜け止めフランジ部22bの引っかかりにより、ライニング組立体13がガイドプレート11から脱落しないようにしており、万一、板ばね24が破損しても、ライニング組立体13がガイドプレート11から脱落することはなく、高い安全性が得られる。
また、ライニング組立体13のガイドプレート11からの脱落防止のために、独立した専用部品を追加していないため、部品の増加に起因したコストアップや組み立て工程数の増加による生産性の低下といった不都合の発生を回避できる。
【0034】
また、以上に説明した摩擦パッド組立て体1では、ディスクロータにライニング組立体13が接触したときの制動トルクの伝達効率を高めるために、ディスクロータ面に平行な面内でのライニング組立体13の旋回規制を、ライニング組立体13の裏板部22に形成した係合孔22dと、リンクプレート5,6に突設された回転規制部38との嵌合によって行っている。即ち、ディスクロータ面に平行な面内でのライニング組立体13の旋回規制には、独立した専用部品を追加していないため、ライニング組立体13の旋回規制のために部品が増加することがなく、部品の増加に起因したコストアップや組み立て工程数の増加による生産性の低下といった不都合の発生を回避できる。
【0035】
更に、以上に説明した摩擦パッド組立て体1では、複数個のライニング組立体13を平面状に敷き並べた形態であるが、ライニング組立体13の抜け止めフランジ部22bとガイドプレート11との間に挟まれるように配置された板ばね24が、ライニング組立体13の厚さ方向の寸法公差を吸収するため、ディスクロータに対する各ライニング組立体13の接触性にばらつきが生じることを防止できる。
従って、ライニング組立体13の厚さ方向の寸法公差の影響を受けずに、安定した制動特性を維持することができる。
【0036】
更に、以上に説明した摩擦パッド組立て体1では、ガイドプレート11とスペーサ8とトルク受けプレート3とをリベット28による締結によって、一体の筐体構造としたことで、振動等で緩みが生じることのない堅牢な筐体構造を安価に得ることができる。
【0037】
次に、本発明に係るディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体の他の実施の形態を説明する。
図9は他の実施の形態におけるディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体の分解斜視図、図10は先の実施の形態で示した図5に対応する本実施の形態での断面図である。なお、この実施の形態は、トルク受けプレート3の形状が相異するのみで、その他は先の実施の形態と同じ構成なので、同一箇所には同一符号を付して説明を省略する。
【0038】
トルク受けプレート3Aは、先の実施の形態におけるスペーサ(図6の符号8参照)が一体に形成された構造である。詳述すれば、トルク受けプレート3Aは実質的にスペーサに相当する高さの周壁8′が、ガイドプレート11と対峙して配置される板状部材の周縁部に突出形成されて、この周壁8′が、図10に示すようにガイドプレート11と当接することより、裏板部22との間にリンクプレート5,6を配置可能にするリンク収容空間26を確保する。
このように、トルク受けプレート3Aとスペーサを一体化させたことにより、部品点数が削減できてコスト低減が図れると同時に、組み立て性も改善できて量産化に好適となる。
なお、上記実施の形態では、スペーサをトルク受けプレートに一体に形成するとしたが、外にガイドプレートに一体に形成することや、トルク受けプレートとガイドプレートの双方に一体に突出形成したものでも良い。
【符号の説明】
【0039】
1,1A,1B 摩擦パッド組立て体
3,3A トルク受けプレート
3a リンク支持部
5,6 リンクプレート
8 スペーサ
11 ガイドプレート
11a ガイド孔部
13 ライニング組立体
21 摩擦材
22 裏板部
22a プレート嵌合部
22b 抜け止めフランジ部
22c リンク当接部
22d 係合孔
28 リベット
31 アンカープレート
32 リベット
35 プレート当接曲面部
37 裏板当接曲面部
38 回転規制部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制動トルクを受けるガイドプレートに複数のライニング組立体が旋回自在に支持されて、前記ライニング組立体がディスクロータへ押圧されるディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体であって、
前記ライニング組立体は、
制動時に前記ディスクロータと接触する摩擦材と、前記摩擦材の裏面に固着された裏板部とから構成され、かつ前記裏板部に、前記ガイドプレートに設けられたガイド孔部に旋回自在に嵌合するプレート嵌合部を備え、
前記プレート嵌合部が前記ガイドプレートの裏面側から前記ガイド孔部に挿入装着されて、前記ディスクロータと摩擦材との接触時に作用する制動トルクを前記プレート嵌合部から前記ガイドプレートに伝達し、
前記裏板部との間に間隙を開けて前記ガイドプレートに固着されたトルク受けプレートと前記裏板部との間には、複数のライニング組立体に跨って配備されて前記トルク受けプレートからの押圧力をこれらのライニング組立体に作用させる複数のリンクプレートが設けられ、
前記リンクプレートは、前記トルク受けプレートのリンク支持部に当接して旋回可能に支持される単一のプレート当接曲面部と、各ライニング組立体の裏板部の中心のリンク当接部に当接してライニング組立体を旋回可能に支持する複数個の裏板当接曲面部とを備え、
前記摩擦材が前記ディスクロータに押圧された時の押圧力の反力が通常範囲の大きさの場合は、前記ライニング組立体から、前記リンクプレートの前記裏面当接曲面部および前記プレート当接曲面部を経て伝達され、前記トルク受けプレートで受け止められ、
前記反力が前記通常範囲の大きさを超えた過大な反力の場合は、前記リンクプレートが変形してトルク受けプレートに強く当接して、前記リンクプレートの前記裏面当接曲面部の近傍および前記プレート当接曲面部のそれぞれを前記トルク受けプレートに接触させて、過大な反力を前記トルク受けプレートに伝達することを特徴とするディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体。
【請求項2】
前記ガイドプレートとトルク受けプレートはスペーサを挟んで当接し、これらのガイドプレートとトルク受けプレートとがリベットによる締結によって、一体の筐体構造を形成していることを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体。
【請求項3】
前記スペーサが前記トルク受けプレートまたは前記ガイドプレートの少なくともいずれか一方と一体に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のディスクブレーキ用摩擦パッド組立て体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−145228(P2012−145228A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−69823(P2012−69823)
【出願日】平成24年3月26日(2012.3.26)
【分割の表示】特願2007−260174(P2007−260174)の分割
【原出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】