説明

ディスクブレーキ用鋳造部品の製造方法及び製造装置

【課題】鋳造部品1、1が、鋳造後の工程で変形する事を低減する。
【解決手段】溶湯の流路が凝固した部分2(湯口3、湯道4、堰5、5、押湯6、6)により複数の鋳造部品1、1が連結された状態の方案(鋳造成形品)7を、鋳造用砂型から取り出した後、この方案7からこれら各鋳造部品1、1を分離させる事なくこの方案7のままショットブラスト処理を施す。このショットブラスト処理は、この方案7をハンガーに吊るした状態で施す。そして、このショットブラスト処理によりこの方案7から砂を落としてから、前記流路が凝固した部分2(3〜6)のうちで前記各鋳造部品1、1との各連結部(堰5)を同時に折断し、前記方案7からこれら各鋳造部品1、1を分離させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば自動車の制動を行なう為に使用するディスクブレーキを構成するディスクブレーキ用鋳造部品(例えば、キャリパやサポート)の製造方法及び製造装置の改良に関する。より具体的には、キャリパやサポート等の鋳造部品が、鋳造後の工程で変形する事を低減し、この鋳造部品の品質を十分に確保する事と、この鋳造部品に付着した砂を安定して効率良く(ムラなく)落とす事と、この鋳造部品の製造に携わる作業者の負担の低減を図る事とを意図するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の制動を行う為に、ディスクブレーキが広く使用されている。ディスクブレーキによる制動時には、車輪と共に回転するロータの軸方向両側に配置された一対のパッドを、ピストンによりこのロータの両側面に押し付ける。この様なディスクブレーキとして従来から、各種構造のもの、例えば、フローティングキャリパ型のものや対向ピストン型のものが知られている。又、この様なディスクブレーキを構成するキャリパやサポートを、例えば鋳鉄等の鉄系合金やアルミニウム合金等の鋳造により形成する事が、例えば特許文献1〜4に記載される等により、従来から知られている。
【0003】
又、この様にキャリパやサポートを鋳造により形成する場合に、1個の砂型で、複数の鋳造部品(キャリパ、サポート)を同時に鋳造(形成)する事が行われている。即ち、これら各鋳造部品を形成する為の空間(キャビティ)を、溶湯(鋳造に使用する溶融金属)の流路(湯口、湯道、堰、押湯)となる空間で互いに通じさせた砂型を形成する。そして、この様な砂型の空間内に前記溶湯を流し込み、この溶湯の流路が凝固した部分により前記各鋳造部品が不分離に連結された状態の方案(鋳造成形品)を形成してから、この方案を砂型から取り出し、この方案から前記各鋳造部品を分離させる事により、これら各鋳造部品を製造する事が行われている。
【0004】
ところで、この様な各鋳造部品を分離させる作業を従来は、前記各鋳造部品にハンマーで衝撃を与える事により、或は、回転するドラム内で複数の方案を互いに衝突させ合う事により行っていた。即ち、前記溶湯の流路が凝固した部分のうち、前記各鋳造部品同士を連結する部分(堰)を、上述の様なハンマーの衝撃や方案同士の衝突に基づいて破断させ、前記各鋳造部品同士を分離させていた。但し、この様な分離作業を行うと、前記衝撃や衝突に伴ってこれら各鋳造部品の表面に凹部(打痕)が形成されたり、これら各鋳造部品が変形する等の損傷を生じる可能性がある為、好ましくない。又、例えば前記ドラムを用いて分離を行う場合には、鋳造(形成)される順に各方案の順番を管理できても、これら各方案から各鋳造部品を分離させた状態でこの順番が乱れ(先入れ先出しが乱れ)、製造管理が面倒になる可能性もある。
【0005】
又、上述の様なハンマーにより各鋳造部品を分離させる作業や、或は、例えば特許文献5等に記載されている様な堰折装置を用いて各鋳造部品を分離させる作業は、これら各鋳造部品が砂型から取り出された後、これら各鋳造部品にこの砂型の砂が付着した状態のまま行われる。この為、分離作業を行う作業者は、この砂型の砂が舞うと言った厳しい環境の中で、ハンマーの打ち降ろしや堰折装置の操作を行わなければならない。又、前記ドラムにより分離作業を行う場合には、同じく砂が舞うと言った環境の中で、前記方案や前記各鋳造部品の取り入れ取り出しを行う必要がある等、作業者に負担(粉塵、重筋、騒音の三重苦)になる可能性ある。尚、例えば特許文献6〜7に記載された様な、ロボットアームに堰折装置を取り付けた自動堰折装置を用いて分離作業を行う事も考えられる。この様な自動堰折装置を用いれば、作業者の負担の低減を図れるが、装置自体のコストが嵩む他、分離させる個所が多い場合にその作業時間が長くなる(分離作業を迅速に行えない)可能性がある等、好ましくない。
【0006】
又、上述の様に砂型により鋳造(形成)される各鋳造部品は、その表面に付着している砂を落とす(除去する)必要がある。そして、この様な砂を落とす作業として、例えば鋼球等の研掃材(投射材、メディア)を前記各鋳造部品の表面に衝突させる事によりこの表面に付着した砂を落とす、ショットブラスト処理を施す事が考えられる。但し、例えば前記各鋳造部品の表面は入り組んだ形状をしており、単に分離後の前記各鋳造部品にショットブラスト処理を施すだけでは、前記表面に付着した砂を安定して効率良く(ムラなく)落とせない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−30802号公報
【特許文献2】特開2008−309181号公報
【特許文献3】特開2005−163808号公報
【特許文献4】特開2001−124117号公報
【特許文献5】特開平7−299558号公報
【特許文献6】特開2000−225459号公報
【特許文献7】特開2002−263826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明のディスクブレーキ用鋳造部品の製造方法及び製造装置は、上述の様な事情に鑑みて、キャリパやサポート等のディスクブレーキ用鋳造部品が、鋳造後の工程で変形する事を低減し、この鋳造部品の品質を十分に確保すると共に、この鋳造部品の表面に付着した砂を落とす作業の効率化、安定化を図り、更には、この鋳造部品の製造に携わる作業者の負担の低減を図るべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の製造方法及び製造装置により造られるディスクブレーキ用鋳造部品は、ロータにパッドを押し付ける事により制動力を付与するディスクブレーキを構成する為のものである。この様なディスクブレーキ用鋳造部品としては、車輪と共に回転するロータを跨ぐ状態で配置されるキャリパや、このロータに隣接して車体に固定されるサポートが挙げられる。
特に、請求項1に記載した本発明のディスクブレーキ用鋳造部品の製造方法に於いては、溶湯(鋳造に使用する、例えば鋳鉄等の鉄系合金やアルミニウム合金等の、溶融金属)の流路が凝固した部分(湯口、湯道、堰、押湯)により複数(例えば2〜10個)の鋳造部品が連結された状態の(各部が未分離のまま一体である)方案(鋳造成形品)を鋳造用砂型から取り出した後、ショットブラスト処理を施す。即ち、このショットブラスト処理を、この方案からこれら各鋳造部品を分離させる事なくこの方案のまま、この方案をハンガーに吊るした状態で施す事により、この方案から砂を落とす。尚、このショットブラスト処理は、例えば鋼球等の研掃材(投射材、メディア)を、前記各鋳造部品を含んで構成される前記方案の表面に衝突させる事により、この表面に付着した砂を落とす表面処理を言う。そして、この様なショットブラスト処理を施す事により、前記方案から砂を落としたならば、次いで、前記流路が凝固した部分のうちで前記各鋳造部品との各連結部(堰)を同時に折断し、前記方案からこれら各鋳造部品を分離させる。尚、この方案の形状(例えば、各鋳造部品同士を連結する湯道、堰等の大きさ、断面形状、各鋳造部品の位置関係等)は、例えばショットブラスト処理を行うべく前記ハンガーに吊るした状態でも、前記各鋳造部品が連結したままの状態を維持でき、且つ、折断作業の際には各連結部を容易に折断できる様に設計する。
【0010】
又、この様な本発明のディスクブレーキ用鋳造部品の製造方法を実施する場合により好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、1個のハンガーに複数(例えば2〜8個、好ましくは4個)の方案を吊るした状態でショットブラスト処理を施す。
【0011】
又、請求項3に記載した本発明のディスクブレーキ用鋳造部品の製造装置に於いては、ハンガーと、吊り上げ装置(吊り上げ負荷軽減装置)と、ショットブラスト装置と、取り外し装置(取り外し負荷軽減装置)と、分離装置(堰折装置)と、搬送装置とを備える。
このうちのハンガーは、鋳造用砂型から取り出された、溶湯の流路が凝固した部分(湯口、湯道、堰、押湯)により複数の鋳造部品が連結された状態の方案(鋳造成形品)を吊るすものである。
又、前記吊り上げ装置(吊り上げ負荷軽減装置)は、前記ハンガーに前記方案を吊るす為のものである。
又、前記ショットブラスト装置は、前記ハンガーに吊るされた方案から砂を落とすものである。
又、前記取り外し装置(取り外し負荷軽減装置)は、前記砂を落とした方案を、前記ハンガーから外す為のものである。
又、前記分離装置(堰折装置)は、前記流路が凝固した部分のうちで前記各鋳造部品との各連続部(堰)を同時に折断する事により、前記方案からこれら各鋳造部品を分離させるものである。この様な分離装置としては、例えば、プレス装置のラムの下面に固定した押型と、固定テーブルの上面に固定した受型との間で、前記方案の要部(堰の中間部)を上下方向に折り曲げて各部を折断する、堰折装置を使用できる。
更に、前記搬送装置は、循環式(環状、閉ループ状)のハンガーレールに沿って前記ハンガーを、前記吊り上げ装置と、前記ショットブラスト装置と、前記取り外し装置とを経由して、再びこの吊り上げ装置に搬送するものである。
【0012】
又、この様な本発明のディスクブレーキ用鋳造部品の製造装置を実施する場合により好ましくは、請求項4に記載した発明の様に、1個のハンガーに複数(例えば2〜8個、好ましくは4個)の方案を、鉛直方向の軸を中心とする円周方向に隣接する状態で(例えば円周方向4個所位置に)支持可能とする。又、これと共に、前記ハンガーをハンガーレールに、前記鉛直方向の軸を中心とする回転を可能に支持する。又、必要に応じて、このハンガーレールのうちで、前記吊り上げ装置及び前記取り外し装置に対応する位置にそれぞれ、前記ハンガーを鉛直方向の軸を中心に回転させると共に、所望の位置でこのハンガーの回転を止める事のできる回転駆動装置を設ける。
又、請求項5に記載した発明の様に、ハンガーの進行方向に関し、少なくとも吊り上げ装置よりも先からショットブラスト装置の出口までを、方案に付着した砂の飛散を制限する為の仕切部材(例えば仕切板や仕切りカーテン)により仕切る。
又、請求項6に記載した発明の様に、ハンガーを、鉛直方向に配置される中心軸部と、この中心軸部の中間部の円周方向等間隔4個所位置(90度ずつ離隔した位置)に、径方向に突出する状態でそれぞれ設けた支持軸部と、これら各支持軸部の先端部に設けられて、前記中心軸部を中心とする仮想円の接線方向に伸びる水平軸部と、これら各水平軸部に設けられて、前記方案のうちで前記鋳造部品から外れた部分を係止する係止腕とを備えたものとする。又、必要に応じて、前記水平軸部にアタッチメントを装着し、例えば溶湯が十分に行渡らずに所望の方案が得られない(各鋳造部品や流路が凝固した部分に欠損が生じた)場合でも、この方案をハンガーに吊るせる様にする。
【発明の効果】
【0013】
上述の様に構成する本発明のディスクブレーキ用鋳造部品の製造方法及び製造装置によれば、キャリパやサポート等のディスクブレーキ用鋳造部品が、鋳造後の工程で変形する事を低減でき、この鋳造部品の品質を十分に確保できる。又、これと共に、この鋳造部品の表面に付着した砂を落とす作業の効率化、安定化を図れ、更には、この鋳造部品の製造に携わる作業者の負担の低減も図れる。
即ち、請求項1に記載した本発明の製造方法の場合には、方案(鋳造成形品)から各鋳造部品を分離させる事なくこの方案のままショットブラスト処理を、この方案をハンガーに吊るした状態で施す為、この方案に研掃材(投射材、メディア)を効率良く衝突させる事ができる。この為、前記各鋳造部品を含んで構成される前記方案に付着した砂を、安定して効率良く(ムラなく)落とせる。又、この様に方案のままショットブラスト処理を施してから前記各鋳造部品を分離させる為、砂が舞うと言った環境の中でこの分離作業を行わなくて済み、製造に携わる作業者の負担の低減を図れる。又、前記方案から前記各鋳造部品を分離させる作業を、前記流路が凝固した部分のうちで前記各鋳造部品との各連続部を同時に折断する事により行う。この様な作業は、前記方案を構成する各鋳造部品に力を、前記連結部が折れる方向に緩徐に加える事により行える。この為、この様な作業の際に、前記各鋳造部品が変形する事を低減でき、この鋳造部品の品質を高度に確保できる。
又、請求項2に記載した発明の様に、1個のハンガーに複数の方案を吊るした状態でショットブラスト処理を施せば、砂を落とす作業の更なる効率化、安定化を図れる。
【0014】
又、請求項3に記載した本発明の製造装置の場合には、ショットブラスト装置によりショットブラスト処理を、方案(鋳造成形品)から各鋳造部品を分離させる事なく、この方案をハンガーに吊るした状態で行う為、この方案に研掃材(投射材、メディア)を効率良く衝突させる事ができる。この為、前記各鋳造部品を含んで構成される方案に付着した砂を、安定して効率良く(ムラなく)落とせる。又、この様に方案のままショットブラスト処理を施してから、分離装置(堰折装置)により前記各鋳造部品を分離させる為、砂が舞うと言った環境の中でこの分離作業を行わなくて済み、製造に携わる作業者の負担の低減を図れる。又、前記方案から前記各鋳造部品を分離させる作業を、前記分離装置により、前記流路が凝固した部分のうちで前記各鋳造部品との各連続部を同時に折断する事により行う。この様な作業は、前記方案を構成する各鋳造部品に力を、前記連結部が折れる方向に緩徐に加える事により行える。
【0015】
この為、この様な作業の際に、前記各鋳造部品が変形する事を低減でき、この鋳造部品の品質を十分に確保できる。更に、本発明の場合には、前記ハンガーに前記方案を吊り上げる作業を、吊り上げ装置(吊り上げ負荷軽減装置)により、同じくこの方案を取り外す作業を、取り外し装置(取り外し負荷軽減装置)により、それぞれ行える。この為、前記方案のハンガーへの吊り上げ取り外し作業が、この作業を行う作業者に負担になる事を低減できる(自動化できれば作業者の負担は0になる)。又、前記ハンガーは、搬送装置により、循環式(環状、閉ループ状)のハンガーレールに沿って、前記吊り上げ装置と、前記ショットブラスト装置と、前記取り外し装置とを経由して、再びこの吊り上げ装置に搬送される為、前記ハンガーを移動させる作業に関しても、作業者に負担になる事を低減できる。
【0016】
又、請求項4に記載した発明の様に、1個のハンガーに複数の方案を支持可能とすると共に、このハンガーをハンガーレールに回転を可能に支持すれば、ショットブラスト処理や搬送の効率化を図れると共に、前記ハンガーへの複数の方案の着脱(吊り上げ、取り外し)を迅速に行える。
又、請求項5に記載した発明の様に、方案に付着した砂の飛散を制限する為の仕切部材(例えば仕切板や仕切りカーテン)で仕切れば、この砂の飛散を低減でき、作業環境の向上を図れる。
又、請求項6に記載した発明の様に、ハンガーを、中心軸部と支持軸部と水平軸部と係止腕とを備えたものとすれば、このハンガーに方案を着脱し易く(吊り上げ、取り外し易く)でき、しかも、搬送時に、このハンガーからこの方案を脱落しにくくできる。
又、必要に応じて、前記水平軸部にアタッチメントを装着すれば、方案のうちで一部の鋳造部品や溶湯の流路が凝固した部分に欠損を生じた場合でも、この方案を前記ハンガーに吊るす事ができ、この方案のうちで正常に形成された鋳造部品を生かす(後工程に進ませる)事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態の1例を示す図で、(イ)は、方案を、(ロ)は、方案から各鋳造部品を分離させた状態を、それぞれ模式的に示している。
【図2】方案を吊るすハンガーを示す図で、(イ)は、(ハ)のA−A断面図、(ロ)は、(ハ)のB矢視図、(ハ)は、(イ)のC矢視図。
【図3】ハンガーに方案を吊るした状態を示す図で、(イ)は、1個の方案を吊るした状態を、図2の(ロ)と同方向から見た図、(ロ)は、4個の方案を吊るした状態を、図2の(ハ)と同方向から見た図。
【図4】製造装置全体を上から見た図。
【図5】図4のD部に相当する拡大図。
【図6】図4のE矢視図。
【図7】図4のF矢視図。
【図8】図4のG−G断面に相当する図。
【図9】吊り上げ装置を示す、図8のH部に相当する図。
【図10】図9の上から見た図。
【図11】図4のI−I断面に相当する図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1〜11は、本発明の実施の形態の1例を示している。本例のディスクブレーキ用鋳造部品の製造方法は、ロータにパッドを押し付ける事により制動力を付与するディスクブレーキの構成部品、具体的には、車輪と共に回転するロータを跨ぐ状態で配置されるキャリパや、このロータに隣接して車体に固定されるサポート等のディスクブレーキ用鋳造部品1、1を造るものである。本例の場合、図1の(A)に示す様な、溶湯の流路が凝固した部分2(湯口3、湯道4、堰5、5、押湯6、6)により複数(例えば2〜10個)の鋳造部品1、1が連結された状態の方案(鋳造成形品)7を、図示しない砂型により鋳造(形成)する。そして、この砂型から取り出した後、この方案7から前記各鋳造部品1、1を分離させる事なくこの方案7のままショットブラスト処理を、図2に示す様なハンガー8にこの方案7を吊るした状態で施す。
【0019】
即ち、図3に示す様にハンガー8に(複数、例えば4個の)方案7、7を吊るした状態で、前記各鋳造部品1、1を含んで構成されるこの方案7、7の表面に、例えば鋼球等の研掃材(投射材、メディア)を衝突させるショットブラスト処理を施して、この方案7、7から砂を落とす。そして、この様なショットブラスト処理を施す事により、前記方案7、7から砂を落としたならば、前記流路が凝固した部分2(3〜6)のうちで前記各鋳造部品1、1との各連結部となる堰5、5を同時に折断し、図1の(B)に示す様に、前記方案7、7からこれら各鋳造部品1、1を分離させる(各鋳造部品1、1を除いたスクラップのみを残す)。尚、この方案7、7の形状(例えば、各鋳造部品1、1の位置関係や、これら各鋳造部品1、1同士を連結する湯道4、堰5等の大きさ、断面形状等)は、例えばショットブラスト処理を行うべく前記ハンガー8に吊るした状態でも、前記各鋳造部品1、1が連結したままの状態を維持でき、且つ、折断作業の際には各連結部(堰5、5)を容易に折断できる様に設計する。
【0020】
上述の様な製造方法によりディスクブレーキ用鋳造部品1、1を造る為の、本例のディスクブレーキ用鋳造部品の製造装置は、図2〜3に示す様な前記ハンガー8と、図4、9、10に示す様な吊り上げ負荷軽減装置9と、図4に示す様なショットブラスト装置10と、同じく図4に示す様な取り外し負荷軽減装置11と、同じく図4に示す様な堰折装置12、12と、同じく図4、7に示す様な搬送装置13とを備える。
このうちのハンガー8は、前記方案7を吊るすもので、図2に示す様に、鉛直方向に配置される中心軸部14と、この中心軸部14の中間部の円周方向等間隔4個所位置に、径方向に突出する状態でそれぞれ設けた支持軸部15、15と、これら各支持軸部15、15の先端部に設けられて、前記中心軸部14を中心とする仮想円の接線方向(これら各支持軸部15、15に対し直角方向)に伸びる水平軸部16、16と、これら各水平軸部16、16に設けられて、前記方案7のうちで前記各鋳造部品1、1から外れた部分、例えば湯道4や、この湯道4に設けた被係止部等を係止する係止腕17a、17bとを備える。
【0021】
本例の場合には、図3の(ロ)に示す様に、この様なハンガー8の円周方向4個所位置に、方案7、7を支持(吊り下げ)可能としている。又、これら各方案7、7は、何れかの係止腕17a、17bに係止できる様に、例えば前記湯道4や、この湯道4に設ける被係止部等を設計する。例えば、前記各鋳造部品1、1がキャリパであれば係止腕17a、17aに、同じくサポートであれば係止腕17b、17bに、それぞれ係止できる様にする事ができる。又、これらキャリパやサポートの形状が異なる場合でも、前記各方案7、7のうちで前記係止腕17a、17bに係止する部分の形状を共通にする事で、何れの鋳造部品1、1を鋳造する場合にも、同じハンガー8を用いる事ができる。又、必要に応じて、例えば前記各水平軸部16、16にアタッチメントを装着する事で、例えば溶湯が十分に行渡らずに所望の方案7が得られない(例えば一部の鋳造部品1、1や流路が凝固した部分2に欠損が生じた)場合でも、所望の形状でない(欠損を生じた)この方案7を、前記ハンガー8に吊るせる様にする事もできる。この様にすれば、当該方案7のうちの一部の鋳造部品1が不良品であっても、残りの鋳造部品1が良品である限り、この鋳造部品1の砂落しをして、この残りの鋳造部品1を利用できる。
【0022】
又、前記吊り上げ負荷軽減装置9は、鋳造用砂型から取り外された状態で、ベルトコンベア19a、19bを通じて搬送された方案7、7を、上述のハンガー8に、作業者の操作に応じて吊るす為のものである。即ち、この吊り上げ負荷軽減装置9は、図9〜10に二点鎖線で示す範囲を移動可能なアーム20を備えたもので、作業者は、このアーム20の先端に、前記ベルトコンベア19bの上に載置された方案7を係止してから、この方案7を吊り上げ、前記ハンガー8の係止腕17a、17bに係止する(吊り下げる)。又、前記ショットブラスト装置10は、前記ハンガー8に吊るされた各方案7、7の表面に、鋼球等の研掃材(投射材、メディア)を衝突させ、これら各方案7、7の表面に付着した砂を落とすものである。
【0023】
又、前記取り外し負荷軽減装置11は、前記ショットブラスト装置10により砂が落とされた方案7を、作業者の操作に応じて前記ハンガー8から外す為のものである。この取り外し負荷軽減装置11も、前述した吊り上げ負荷軽減装置9と同様に、作業者のアーム20aの操作に基づいて方案7を動かすものである。作業者は、この取り外し負荷軽減装置11により、前記ハンガー8から前記方案7を外すと共に、この方案7を次述する堰折装置12、12の支持台23、23に載置する。又、この堰折装置12は、プレス装置のラムの下面に固定した押型と、同じく固定テーブルの上面に固定した受型とを備える。そして、これら押型の下面と受型の上面との間で、前記支持台23、23に載置された方案7のうち、前記各鋳造部品1、1の両側に存在する、前記各堰5、5部分に折り曲げ方向の力を与える。そして、前記方案7のうちで前記各鋳造部品1、1との連続部(堰5、5)を同時に折断し、図1の(イ)に示した方案7からこれら各鋳造部品1、1を分離し、同図の(ロ)に示したスクラップを、前記支持台23、23上に残す。分離した各鋳造部品1、1は、後の加工工程に送り、スクラップは再利用する為の工程に送る。更に、前記搬送装置13は、循環式(環状、閉ループ状)のハンガーレール18に沿って複数のハンガー8、8を、前記吊り上げ負荷軽減装置9と、前記ショットブラスト装置10と、前記取り外し負荷軽減装置11とを経由して、再びこの吊り上げ負荷軽減装置9に搬送するものである。
【0024】
又、本例の場合には、前記各ハンガー8、8を前記ハンガーレール18に、鉛直方向の軸を中心とする回転を可能に支持している。又、これと共に、前記ハンガーレール18のうちで、前記吊り上げ負荷軽減装置9及び取り外し負荷軽減装置11に対応する位置にそれぞれ、前記ハンガー8、8を鉛直方向の軸を中心に回転させると共に、所望の位置でこのハンガー8の回転を止める事のできる回転駆動装置(ロータリアクチュエータ)22、22を設けている。この回転駆動装置22、22は、例えばチェンとモータとを備えたもので、図8に示す様に、前記ハンガー8よりも上側に設けたスプロケット24にチェンを係合させた状態で、作業者の操作に応じてモータを駆動する事により、前記ハンガー8を回転させる。
【0025】
例えば前記吊り上げ負荷軽減装置9の作業者は、例えばハンガー8の正面に、前記ベルトコンベア19b上の方案7を取り上げて吊るしたならば、前記回転駆動装置22によりこのハンガー8を180度回転させる。そして、この様に180度回転させた状態でこのハンガー8の正面に、同じく方案7を吊るす。次いで、更に90度回転させ、同じくその正面に方案7を吊るすと共に、同じく180度回転させ、同じくその正面に方案7を吊るす。この様な作業により、前記ハンガー8の円周方向4箇所位置に前記方案7、7を吊るす。又、例えば、前記取り外し負荷軽減装置11の作業者は、前記ハンガー8の正面に吊るされた方案7を取り外し、前記堰折装置12の支持台23に載置したならば、前記回転駆動装置22によりこのハンガー8を180度回転させる。そして、この様に180度回転させた状態でこのハンガー8の正面に吊るされた方案7を、このハンガー8から取り外すと共に、同じく前記堰折装置12の支持台23に載置する。次いで、90度、更に180度回転させ、同じ作業を繰り返す事で、前記ハンガー8の円周方向4箇所位置に吊るされた前記方案7、7を取り外す。
【0026】
本例のディスクブレーキ用鋳造部品の製造装置の場合には、前記ベルトコンベア19a、19bを通じて搬送された方案7、7を、上述の様に吊り上げ負荷軽減装置9により前記ハンガー8の4個所位置に、作業者の操作に応じて吊るす。そして、この様にハンガー8に吊るされた各方案7、7は、前記搬送装置13の駆動に基づき前記ハンガーレール18に沿って前記ショットブラスト装置10に送られる。そして、このショットブラスト装置10により、前記ハンガー8に吊るされた各方案7、7の表面から砂が落とされる。次いで、この様に砂が落とされた各方案7、7は、同じく前記搬送装置13の駆動に基づき前記ハンガーレール18に沿って、前記取り外し負荷軽減装置11の位置まで送られる。そして、この取り外し負荷軽減装置11により前記各方案7、7を、前述の様に作業者の操作に応じて前記ハンガー8の4個所位置から取り外すと共に、前記堰折装置12の支持台23に載置する。この堰折装置12は、この様に支持台23に載置された方案7の所望部分に、上下方向に関して互いに逆向きの力を与え、この方案7のうちで前記各鋳造部品1、1との連続部(堰5、5)を同時に折断し、この方案7からこれら各鋳造部品1、1を分離させる{方案7を、図1の(イ)の状態から、同図の(ロ)の状態にする}。
【0027】
上述の様に構成する本例の場合には、キャリパやサポート等の鋳造部品1、1が、鋳造後の工程で変形する事を低減でき、この鋳造部品1、1の品質を十分に確保できる。又、これと共に、この鋳造部品1、1の表面に付着した砂を落とす作業の効率化、安定化を図れ、更には、この鋳造部品1、1の製造に携わる作業者の負担の低減も図れる。
即ち、本例の場合は、前記ショットブラスト装置10によりショットブラスト処理を、前記方案7から各鋳造部品1、1を分離させる事なく、この方案7をハンガー8に吊るした状態で行う為、この方案7に研掃材(投射材、メディア)を効率良く衝突させる事ができる。この為、前記各鋳造部品1、1を含んで構成される方案7に付着した砂を、安定して効率良く(ムラなく)落とせる。又、この様に方案7のままショットブラスト処理を施してから、前記堰折装置12により前記各鋳造部品1、1を分離させる為、砂が舞うと言った環境の中でこの分離作業を行わなくて済み、製造に携わる作業者の負担の低減を図れる。又、前記方案7から前記各鋳造部品1、1を分離させる作業を、前記堰折装置12により、前記流路が凝固した部分2(3〜6)のうちで前記各鋳造部品1、1との各連続部(堰5、5)を同時に折断する事により行う。この様な作業は、前記方案7を構成する各鋳造部品1、1に力を、前記連結部(堰5、5)が折れる方向に緩徐に加える事により行える。
【0028】
この為、この様な作業の際に、前記各鋳造部品1、1が変形する事を低減でき、この鋳造部品1、1の品質を十分に確保できる。更に、本例の場合には、前記ハンガー8に前記方案7を吊り上げる作業を前記吊り上げ負荷軽減装置9により、同じくこの方案7を取り外す作業を取り外し負荷軽減装置11により、それぞれ行える。この為、前記方案7のハンガー8への吊り上げ、取り外し作業が、これらの作業を行う作業者に負担になる事を低減できる。又、前記ハンガー8は、前記搬送装置13により、循環式のハンガーレール18に沿って、前記吊り上げ負荷軽減装置9と、前記ショットブラスト装置10と、前記取り外し負荷軽減装置11とを経由して、再びこの吊り上げ負荷軽減装置9に搬送される為、前記ハンガー8を移動させる作業に関しても、作業者に負担になる事を低減できる。
【0029】
又、本例の場合には、1個のハンガー8に4個の方案7、7を支持可能とすると共に、このハンガー8をハンガーレール18に回転を可能に支持している為、ショットブラスト処理や搬送の効率化を図れると共に、前記ハンガー8への複数の方案7、7の着脱(吊り上げ、取り外し)を迅速に行える。又、本例の場合には、前述した様に、ハンガー8を、中心軸部14と支持軸部15、15と水平軸部16、16と係止腕17a、17bとを備えたものとしている為、このハンガー8に前記各方案7、7を着脱し易く(吊り上げ、取り外し易く)でき、しかも、搬送時に、このハンガー8からこれら各方案7、7を脱落しにくくできる。又、前記水平軸部16にアタッチメントを装着する事ができる為、前記方案7のうちで一部の鋳造部品1、1や流路が凝固した部分2(3〜6)に欠損が生じた場合でも、この方案7を前記ハンガー8に吊るす事ができ、この方案7のうちで正常に形成された鋳造部品1、1を生かす(後工程に進ませる)事ができる。
【0030】
又、本例の場合には、ハンガー8、8の進行方向に関し、前記吊り上げ負荷軽減装置9よりも先からショットブラスト装置10の出口までを、前記方案7に付着した砂の飛散を制限する為に、仕切板や仕切りカーテン等により構成される仕切部材25により仕切っている。この為、この砂の飛散を低減でき、作業環境の向上を図れる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
上述した実施の形態の1例は、鋳造部品としてディスクブレーキ用鋳造部品(例えばキャリパやサポート)の場合を示したが、この様なディスクブレーキ用鋳造部品の他、各種の鋳造部品、例えば各種機械装置等を構成する為の鋳造部品に本発明を適用する事もできる。
【符号の説明】
【0032】
1 鋳造部品
2 流路が凝固した部分
3 湯口
4 湯道
5 堰
6 押湯
7 方案(鋳造成形品)
8 ハンガー
9 吊り上げ負荷軽減装置
10 ショットブラスト装置
11 取り外し負荷軽減装置
12 堰折装置
13 搬送装置
14 中心軸部
15 支持軸部
16 水平軸部
17a、17b 係止腕
18 ハンガーレール
19a、19b ベルトコンベア
20、20a アーム
22 回転駆動装置
23 支持台
24 スプロケット
25 仕切部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクブレーキ用鋳造部品の製造方法であって、溶湯の流路が凝固した部分により複数の鋳造部品が連結された状態の方案を鋳造用砂型から取り出した後に、ショットブラスト処理を、この方案から前記各鋳造部品を分離させる事なく、この方案をハンガーに吊るした状態で、この方案のまま施す事により、この方案から砂を落とし、次いで、前記流路が凝固した部分のうちで前記各鋳造部品との各連結部を同時に折断し、前記方案からこれら各鋳造部品を分離させる、ディスクブレーキ用鋳造部品の製造方法。
【請求項2】
1個のハンガーに複数の方案を吊るした状態でショットブラスト処理を施す、請求項1に記載したディスクブレーキ用鋳造部品の製造方法。
【請求項3】
ロータにパッドを押し付ける事により制動力を付与するディスクブレーキを構成する為のディスクブレーキ用鋳造部品の製造装置であって、鋳造用砂型から取り出された、溶湯の流路が凝固した部分により複数の鋳造部品が連結された状態の方案を吊るすハンガーと、このハンガーにこの方案を吊るす為の吊り上げ装置と、このハンガーに吊るされた方案から砂を落とすショットブラスト装置と、この砂を落とした方案を前記ハンガーから外す為の取り外し装置と、前記流路が凝固した部分のうちで前記各鋳造部品との各連続部を同時に折断する事により、前記方案からこれら各鋳造部品を分離させる分離装置と、循環式のハンガーレールに沿って前記ハンガーを、前記吊り上げ装置と、前記ショットブラスト装置と、前記取り外し装置とを経由して、再びこの吊り上げ装置に搬送する搬送装置とを備えた、ディスクブレーキ用鋳造部品の製造装置。
【請求項4】
1個のハンガーに複数の方案を、鉛直方向の軸を中心とする円周方向に隣接する状態で支持可能とすると共に、前記ハンガーをハンガーレールに、前記鉛直方向の軸を中心とする回転を可能に支持した、請求項3に記載したディスクブレーキ用鋳造部品の製造装置。
【請求項5】
ハンガーの進行方向に関し、少なくとも吊り上げ装置よりも先からショットブラスト装置の出口までを、方案に付着した砂の飛散を制限する為の仕切部材により仕切った、請求項3〜4に記載したディスクブレーキ用鋳造部品の製造装置。
【請求項6】
ハンガーは、鉛直方向に配置される中心軸部と、この中心軸部の中間部の円周方向等間隔4個所位置に、径方向に突出する状態でそれぞれ設けた支持軸部と、これら各支持軸部の先端部に設けられて、前記中心軸部を中心とする仮想円の接線方向にそれぞれ伸びる水平軸部と、これら各水平軸部に設けられて、前記方案のうちで前記鋳造部品から外れた部分を係止する係止腕とを備えたものである、請求項3〜5に記載したディスクブレーキ用鋳造部品の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−240685(P2010−240685A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91689(P2009−91689)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【出願人】(599114944)伊藤機工株式会社 (1)