説明

ディスクブレーキ装置用ブレーキパッド

【課題】プレッシャプレートの板厚を厚くした場合であっても、スライドピンによる支承用貫通部の形成と外形形状の形成を一括してプレス加工で行うことが可能なディスクブレーキ装置用ブレーキパッドを提供する。
【解決手段】スライドピンに支承されるブレーキパッドであって、前記スライドピンを挿通させる貫通部を備えたプレッシャプレートと、前記プレッシャプレートに添着された摩擦部材とを備え、前記貫通部は、対を成す前記貫通部の中心間ピッチPと対を成す前記スライドピンの中心間ピッチPとの関係が、P<PまたはP>Pを満たし、制動時に生ずるモーメントに起因するトルクを受ける第1の保持部と、前記第1の保持部に対向して配置され、組付け状態においては前記第1の保持部との間に前記スライドピンが介在されることとなる第2の保持部とにより構成され、少なくとも前記ロータの半径方向外周側に位置する部位に開放部を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はディスクブレーキ装置に係り、特にブレーキパッドをピンスライドさせるフローティング型のディスクブレーキ装置に用いられるブレーキパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキパッドをピンスライドさせるタイプのフローティング型ディスクブレーキ装置として、例えば特許文献1や特許文献2に開示されているものが知られている。特許文献1や特許文献2に開示されているディスクブレーキ装置は図19〜図21に示すように、ロータ2の外周側に配置されたスライドピン3によってブレーキパッド4が保持される形態を採っている。このため、少なくともブレーキパッド4を構成するプレッシャプレート5には、ロータ2と対向するプレート本体5aと、ロータ2の外周側に延設されたアーム部5bとが備えられている。そして、プレート本体5aには、ロータ2へ押し付けられることによって摩擦力を生じさせるライニング7が添着されており、アーム部5bには、ブレーキパッド4を支承するスライドピン3を挿通させるための貫通孔6が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭57−12130号公報
【特許文献2】特開昭60−82027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ディスクブレーキ装置は、制動力を得るためにロータを大径化する必要がある一方で、車輪ホイール等との干渉を避ける必要があり、ロータ外周面とホイール内周面とのクリアランス内での設計は非常にシビアなものとなっている。
【0005】
このような実状において、高い摩擦力=制動力を得るためには、ブレーキパッドにおけるライニングの面積を拡大する必要がある。そして、ライニングの面積を拡大するために大型化されるプレッシャプレートは、制動時の押圧力の均等化や押圧力による歪みを抑制するために、その板厚を厚くしたり、剛性の高い素材を用いる必要が生ずる。
【0006】
このような素材を用いた場合一般的に、形状形成のための加工性が低下する。量産性の観点から、外形形成や貫通孔の形成といったプレッシャプレートの形状形成は通常、プレス加工により成される。しかし、板厚が厚くなった場合、金属板を打ち抜く際の力によって切断部に生ずるせん断力に起因する面ダレが大きくなり、アーム部の端部と貫通孔との距離を薄板の場合よりも大きく取る必要が生ずる。こうした場合、アーム部の端部がキャリパの外周側に張り出し、ホイール内周面と干渉してしまう可能性が生ずる。
【0007】
一方、貫通孔の形成を切削加工により行った場合には面ダレは生じ難いが、プレス加工による外形形状と貫通孔の一括形成に比べ、加工時間も、加工コストも大幅に増加すると共に、量産性の低下も招くため、現実的ではない。
【0008】
そこで本発明では、面ダレによる影響が少なく、スライドピンによる支承用貫通部の形成と外形形状の形成を一括してプレス加工で行うことを可能とするディスクブレーキ装置用ブレーキパッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係るディスクブレーキ装置用ブレーキパッドは、ロータの半径方向外周側に配置された対を成すスライドピンに支承されるブレーキパッドであって、前記スライドピンを挿通させる貫通部を備えたプレッシャプレートと、前記プレッシャプレートに添着された摩擦部材とを備え、前記貫通部は、対を成す前記貫通部の中心間ピッチPと対を成す前記スライドピンの中心間ピッチPとの関係が、P<PまたはP>Pを満たし、制動時に生ずるモーメントに起因するトルクを受ける第1の保持部と、前記第1の保持部に対向して配置され、組付け状態においては前記第1の保持部との間に前記スライドピンが介在されることとなる第2の保持部とにより構成され、少なくとも前記ロータの半径方向外周側に位置する部位に開放部を有することを特徴とする。
【0010】
また、このような特徴を有するディスクブレーキ装置用ブレーキパッドにおいて前記開放部の幅は、前記スライドピンの直径よりも狭くすると良い。
このような特徴を有することによれば、スライドピンからブレーキパッドが脱落する虞が無くなる。
【0011】
さらに、上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置用ブレーキパッドにおいて前記第2の保持部には、前記貫通部に挿通されるスライドピンとの隙間を狭める隙間埋め部を備えるようにすると良い。
このような特徴を有することによれば、スライドピンと貫通部との不要な隙間を減らすことができ、ラトル音の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置用ブレーキパッドによれば、プレッシャプレートの板厚を厚くした場合であっても面ダレによる影響が少なく、スライドピンによる支承用貫通部の形成と外形形状の形成を一括してプレス加工で行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の実施形態に係るアウタパッドの構成を示す正面図である。
【図2】実施形態に係るインナパッドの構成を示す正面図である。
【図3】実施形態に係るディスクブレーキ装置の平面形態を示す図である。
【図4】実施形態に係るディスクブレーキ装置の正面形態を示す図である。
【図5】実施形態に係るディスクブレーキ装置の右側面形態を示す図である。
【図6】実施形態に係るディスクブレーキ装置の右下面側斜視図である。
【図7】実施形態に係るディスクブレーキ装置におけるスライドピンと係合部の構成を示す図である。
【図8】第1の実施形態に係るアウタパッドにおける貫通孔のピッチPとスライドピンのピッチPの関係、および制動トルク負荷時の様子を説明するための図である。
【図9】一対のパッドクリップの構成を示す側面側斜視図である。
【図10】一対のパッドクリップの構成を示すバネ部側から見た斜視図である。
【図11】アウタパッドおよびパッドクリップの係合状態を示す斜視図である。
【図12】ディスクブレーキ装置におけるロータ回出側のスライドピンとアウタパッドの貫通孔との動作関係を説明するための図である。
【図13】制動時にアウタパッドに生ずる偶力がロータ回転方向と逆向きとなる構成の一例を示す図である。
【図14】アウタパッドにおける貫通部のベースとなる孔形状を楕円とした場合の例を示す図である。
【図15】実施形態に係るアウタパッドにおける貫通部を構成するベース孔の直径とスライドピンの直径の関係を示す図である。
【図16】制動時にアウタパッドに生ずる偶力がロータ回転方向と同一方向となる第2の実施形態に係るアウタパッドの概略構成の一例を示す図である。
【図17】第2の実施形態に係るアウタパッドにおけるスライドピンに対するアウタパッドの押し付け形態を示す図である。
【図18】第2の実施形態に係るアウタパッドにおける貫通孔のピッチPとスライドピンのピッチPの関係、および制動トルク負荷時の様子を説明するための図である。
【図19】従来のブレーキパッドを組付けたディスクブレーキ装置の平面構成を示す図である。
【図20】従来のブレーキパッドを組付けたディスクブレーキ装置の正面構成を示す図である。
【図21】従来のブレーキパッドの正面構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のディスクブレーキ装置用ブレーキパッド(以下、単にブレーキパッドと称す)に係る実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。まず、図3〜図6を参照して、本実施形態に係るブレーキパッドを組付けるディスクブレーキ装置について説明する。なお、図3は本発明に係るブレーキパッドが組付けられるディスクブレーキ装置の一例を示す平面図であり、図4は正面図、図5は右側面図である。また、図6は右下側からの斜視図である。
【0015】
ディスクブレーキ装置10は、サポート38と、このサポート38に係合するスライドピン24(24a,24b)、およびスライドピン24に係合するキャリパ12、並びにブレーキパッド(インナパッド52,アウタパッド58)を基本として構成される。
【0016】
サポート38は、ディスクブレーキ装置10を車両に固定すると共に、車輪と共に回転するロータ(不図示)の制動トルクを受け止めるトルク受けとしての役割を担う。サポート38は、詳細を後述するスライドピン24を係合させるために設けられる一対のトルク受け部40(40a,40b)と、一対のトルク受け部40を連結するサポートブリッジ部46とを有し、全体形状として略コ字状を成す。
【0017】
トルク受け部40の先端側にはそれぞれ、スライドピン24を係合させるためのネジ孔42(図7参照)が設けられている。トルク受け部40とサポートブリッジ部46との接合箇所には、サポート38を車両等に固定するための取付孔44が設けられている。また、一対のトルク受け部40の対向する側面には、対向位置に、略コ字状の凹部48が形成されている。凹部48は、詳細を後述するインナパッド52(ブレーキパッド)を保持すると共に摺動させるための摺動レールとしての役割を担う。
【0018】
スライドピン24は、上述したサポート38のトルク受け部40に設けられたネジ孔42に螺合され、詳細を後述するキャリパ12とアウタパッド58(ブレーキパッド)の摺動レールとしての役割を担うと共に、制動時には、アウタパッド58のトルク受けとしての役割も担う。
【0019】
スライドピンは図7に示すように、サポート38に対して螺合部30を基点として先端と基端をそれぞれロータ軸方向に延設されることとなり、先端側にアウタパッド58の摺動部を有し、基端側にキャリパ12の摺動部を有することとなる。このため、スライドピン24は、締付けのためのボルト頭26とキャリパ摺動部28、螺合部30、およびアウタパッド摺動部32を有することとなる。本実施形態に係るキャリパ12は詳細を後述するように、アーム部20に設けられた貫通孔22を介してスライドピン24に係合し(支持され)、また、貫通孔22とスライドピン24との間には、スリーブ34とブーツ36が設けられる。スリーブ34は、キャリパ12のスライド量を確保する。一方ブーツ36は、スリーブ34と貫通孔22との間の摺動部にダストが付着することを防止すると共に、スリーブ34と貫通孔22とのダンピング機能を有する。
【0020】
キャリパ12は、キャリパ本体14と爪部18、キャリパブリッジ部16、およびアーム部20を基本として構成される。キャリパ本体14には、図3から図6には図示しないロータ100(図1、図2参照)のインナ側に配置され、少なくともシリンダ(不図示)と、ピストン15が設けられる。シリンダ内には、ブレーキ操作により作動油が流入し、流入した作動油を介してピストン15が押し出され、詳細を後述するインナパッド52におけるプレッシャプレート54を押圧することとなる。シリンダの開口部とピストン15の先端部の間には、蛇腹状のピストンブーツ(不図示)が設けられ、摺動部へのダストの付着防止が図られている。
【0021】
爪部18は、ロータ100を介してキャリパ本体14と反対側、すなわちロータ100のアウタ側に配置され、詳細を後述するアウタパッド58を支持する役割を担う。爪部18は、詳細を後述するキャリパブリッジ部16を基点として、ロータ半径方向内側へ向けて延設されている。このため、爪部18とキャリパ本体14とはロータ100を介して対向する位置に設けられる。また、本実施形態に係るディスクブレーキ装置10では、爪部18におけるロータ100の回入側と回出側の双方に貫通孔18a,18aが設けられ、詳細を後述するアウタパッド58を爪部18の内壁に凹凸嵌合可能な構成としている。
【0022】
アーム部20は、キャリパ本体14から両端側(ロータ100の回入側と回出側)へ延設された係合部である。アーム部20の先端側には、スライドピン24におけるキャリパ摺動部28に係合するための貫通孔22(図7参照)が設けられており、この貫通孔22を介してスライドピン24との係合が成される。
【0023】
このような基本構成を有するディスクブレーキ装置10ではブレーキパッドとして、サポート38に設けられた凹部48を摺動するインナパッド52と、スライドピン24a,24bを摺動するアウタパッド58とを備える。本実施形態に係るブレーキパッドは、主にアウタパッド58のことを示す。なお、インナパッド52、アウタパッド58共に、プレッシャプレート54,60と、プレッシャプレート54,60に添着された摩擦部材であるライニング56,62とを基本として構成される。
【0024】
インナパッド52におけるプレッシャプレート54は図2に示すように、ライニング56よりも一回り大きな金属の平板により略扇状に形成されたプレート本体54aと、このプレート本体54aの両端に突設された耳部54bを有する。プレッシャプレート54の耳部54bをサポート38に形成された凹部48に遊嵌させることで、インナパッド52がロータの軸方向へスライド可能となる。なお、サポート38の凹部48には、金属板により構成されたパッドクリップ50が設けられ、インナパッド52がロータ軸方向へ摺動する際の摺動抵抗の低減と走行時の引き摺り防止が図られている。
【0025】
アウタパッド58におけるプレッシャプレート60は図1に示すように、ライニング62よりも一回り大きな金属の平板により略扇状に形成されたプレート本体60aと、このプレート本体60aの両端に、プレート本体60aを基点として略V字状となるように突設されたアーム部60bおよびアーム部60bの先端側に形成された貫通部66(66a,66b)を有する。アウタパッド58は、アーム部60bの貫通部66にスライドピン24におけるアウタパッド摺動部32を挿通させることで、スライドピン24上での摺動が可能となる。
【0026】
本実施形態に係るアウタパッド58は、貫通部66を単なる孔とせず、平面形状を鍬形状に形成した一対の保持部69(第1の保持部69a、第2の保持部69b)により囲まれた領域として構成している。このため、貫通部66は少なくとも一部に切欠きとなる開放部69cを有することとなる。開放部69cは、アーム部60bの先端であって、ロータ100の中心を基点として半径方向外縁に位置する部位に設けられている。このような構成とすることで、アーム部60bと図示しない車輪ホイール等とのクリアランスを確保するために、アーム部60bの端部から貫通部66までの間の距離を縮めた場合であっても、その距離が最も小さくなる部位を開放部69cとすることができる。よって、引張、ダレなどの影響により平面が確保できないなどの加工(プレス加工)上の制約を受けることが無くなり、従来通りの加工を行うことが可能となる。なお、開放部69cの幅は、スライドピン24の直径よりも狭くすることが望ましい。挿通させたスライドピン24からアウタパッド58が脱落することを防ぐためである。
【0027】
また、本実施形態に係るディスクブレーキ装置10では、アウタパッド58における貫通部66a,66bの中心間ピッチPと、スライドピン24a,24bの中心間ピッチPとが
<P
の関係を満たすように、貫通部66a,66bの中心間ピッチPが定められている。このような構成とした場合図8に示すように、ロータ回入側に配置されたスライドピン24bが先行トルク受け部となる。制動時における制動トルクの付加状態について具体的に説明すると、制動初期時等の低制動トルク発生時には回入側に配置されたスライドピン24aのみに貫通部66aの内壁が接触し、スライドピン24aのみに制動トルクが負荷されることとなる。一方、高い制動トルクが生じた場合には、回入側に配置されたスライドピン24aが制動トルク負荷方向に撓み、回出側に配置されたスライドピン24bに貫通部66bの内壁が接触することとなり(後続トルク受け部)、一対のスライドピン24a,24bに制動トルクが分散されることとなる。このように、制動トルクの高低に応じて制動トルクを分散させることを可能にすることで、スライドピン24の大径化等、強度補強を行う必要性がなくなり、スライドピンの大径化に伴う重量増加等を抑制することができる。
【0028】
スライドピン24の中心間ピッチPと貫通部66の中心間ピッチPをこのような関係とした本実施形態に係るアウタパッド58には、アーム部60bに一対のパッドクリップ74(第1パッドクリップ)が設けられている。アーム部60bに設けられたパッドクリップ74は、貫通部66a,66bに挿通されたスライドピン24a,24bに付勢し、パッドクリップ74で保持されたアウタパッド58を付勢方向と逆側に押し付ける役割を担う。本実施形態に係るパッドクリップ74は、ロータの回入側と回出側とで同じものが採用される。具体的な構成としては図9、図10に詳細を示すように、ベース部76と支持部80、およびバネ部82を基本として構成される。ベース部76は、詳細を後述する支持部80とバネ部82との間に位置する部位であり、本実施形態の場合、スライドピン24を挿通させるための貫通孔78が設けられ、プレッシャプレート60の面に沿って配置される。支持部80は、ベース部76からアウタパッド58のプレッシャプレート60側へ屈曲された板片により構成される。支持部80は、板片を略コ字状(横U字状)に形成することで、プレッシャプレート60を厚み方向に挟持可能とされる。また、バネ部82は、ベース部76を基点として、支持部80とは反対側に向けてロール状に曲げ形成された板片である。このように形成されたロール部をスライドピン24に押し当てることで、支持部80によって挟持されたプレッシャプレート60がバネ部82側へ引き寄せられることとなる。つまり、本実施形態に係るパッドクリップ74を用いることによれば、スライドピン24を基点(アース)として、アウタパッド58をバネ部82の配置方向に引き寄せることができる。
【0029】
このような構成のパッドクリップ74は、支持部80やバネ部82を形成するための曲げ方向がいずれも捻れを含まない一方向であるため、加工性が良い。また、展開状態での平面形態がシンプルであり、板取性が良いため、材料歩留まりが良好で、製造コストが安価となる。
【0030】
アウタパッド58の押し付け方向は、アーム部60bに対するパッドクリップ74の取り付け形態に依存する。例えば本実施形態の場合、図11に示すように、プレート本体60aを基点として略V字状に延設されているアーム部60bにおけるロータ半径方向内側に位置する辺を支持部80により挟持し、ベース部76を貫通部66(66a,66b)に重ね合わせるように取り付けている。このような取り付け形態とした場合、ロータの回入側に配置されたパッドクリップ74は、スライドピン24aに対して、バネ部82をロータ半径方向内側のロータ回入側へ向けて当接させる。これにより、アウタパッド58はスライドピン24aに対して、ロータ半径方向外側のロータ回出側へ向けて押し付けられる力を受ける。その結果、貫通部66aではロータ半径方向内側のロータ回入側に位置する内周面がスライドピン24aに付勢する。一方、ロータの回出側に配置されたパッドクリップ74は、スライドピン24bに対して、バネ部82をロータ半径方向内側のロータ回出側へ向けて当接させる。これにより、アウタパッド58はスライドピン24bに対して、ロータ半径方向外側のロータ回入側へ向けて押し付けられる力を受ける。その結果、貫通部66bでは非制動時においてはロータ半径方向内側のロータ回出側に位置する内周面がスライドピン24bに付勢し、制動時(高制動トルク負荷時)においては貫通部66bの優弧部に沿って(点線、破線で示す軌跡に沿って)スライドピン24bがロータ回入側へ移動することとなる。このため、車両走行時のラトル音や、制動時のクロンク音(カチン音)を抑制することができる。
【0031】
また、上記のようにして支承される本実施形態に係るアウタパッドには、図13に示すように、制動時に生ずる偶力(モーメント)が矢印Aに示す方向に働くことが多い。その1つの理由として、ロータ中心軸C1からアウタパッド58のモーメント中心までの距離tよりも、ロータ中心軸C1から貫通部66の中心までの距離tが長くなっているということを挙げることができる。
【0032】
そして、本実施形態ではロータの回入側に配置されたスライドピン24aが先行トルク受け部となり、回出側に配置されたスライドピン24bが後続トルク受け部となる。ここで、矢印A方向のモーメントは、先行トルク受け部がスライドピンに接触した後に生ずる。このため、パッドクリップ74により、後続トルク受け部となるスライドピン24bに対し、アウタパッド58を回転モーメントの作用方向であるロータ回転方向と反対側へ向けた方向、すなわちロータ半径方向外周側(正確には、半径方向外周側であって回入側)へ押し付ける付勢力を与えることで、制動時のクロンク音(カチン音)を抑制することができる。具体的には、後続トルク受け部となるスライドピン24bは、先行トルク受け部となるスライドピン24aと貫通部66aの内周面が接触した際、既に貫通部66bの内周面であってロータ半径方向内周側に位置する部位に接触していることとなり、スライドピン24bと貫通部66bとの間に衝撃が生ずることが無いからである。
【0033】
パッドクリップ74による付勢力が制動時のクロンク音(カチン音)抑制に高い効果を発揮することとなる貫通部66bにおいては、制動時に生ずる矢印A方向のモーメントに起因して生ずるトルクは、第1の保持部69aが受けることとなる。このため、第2の保持部69bを、第1の保持部69aに対向して配置することで、組付け状態においてはスライドピン24を挟み込むような形態とすることができ、貫通部66bにスライドピン24bを保持することができる。
【0034】
また、本実施形態に係るアウタパッド58では、第2の保持部69bにおける第1の保持部69aとの対向面に、組付け状態においてスライドピン24bとの間の隙間を狭める隙間埋め部65を設けている。スライドピン24と貫通部66の内壁面との間に必要以上の隙間を設けた場合、スライドピン24と貫通部66との間でのラトル音が増大する要因となる。よって、第2の保持部69bに設けた隙間埋め部65によりその隙間を狭めることで、無用なガタツキを防止し、ラトル音の抑制を成すことができる。
【0035】
また、アウタパッド58におけるプレッシャプレート60のライニング添着面と反対側の爪部18との当接面には、キャリパ12の爪部18に設けた貫通孔18aに対応する位置に、一対の凸部64が形成されている。一対の凸部64を爪部18の貫通孔18a(凹部)に嵌合させることで、キャリパ12をアウタパッド58に対して安定保持させることが可能となる。
【0036】
また、本実施形態に係るアウタパッド58には、プレッシャプレート60における爪部18との当接面に第2クリップ68が設けられている。第2クリップ68は、その中心部を基部70として両側に延設された一対のバネ部72を有するクリップである。第2クリップ68は、プレッシャプレート60aに対し、基部70が固定されることで機能する。基部70は、プレッシャプレート60に設けられた一対の凸部64間の中心位置に固定されている。なお、基部70の固定手段としては、カシメや、ネジ止めなどを挙げることができる。
【0037】
このような第2クリップ68を設けたアウタパッド58では、アウタパッド58を爪部18へ固定する際、プレッシャプレート60に設けた凸部64を貫通孔18aへ嵌合させると共に、第2クリップ68により爪部18を挟み込むことで、アウタパッド58を爪部18へ付勢させる。これにより、アウタパッド58の倒れ込みを防ぎ、ライニングの偏摩耗を防止することができる。また、アウタパッド58は、詳細を後述する一対のパッドクリップ74により、スライドピン24に対して安定接触することとなる。このため、スライドピン24を介して安定保持されるアウタパッド58に対して爪部18を付勢させることで、キャリパ12のガタツキを防止し、安定させることができる。なお、第2クリップ68のように、基部70からバネ部72の作用点である先端までの距離を長くすることにより、荷重のバラツキを抑制することができる。また、本実施形態では爪部18の内壁に設ける凹部について貫通孔18aとして表現しているが、貫通孔に替えて有底の袋穴としても良い。
【0038】
このような構成を有するディスクブレーキ装置10によれば、爪部18に嵌着されたアウタパッド58をスライドピン24に対してメタルタッチで支持することとなる。このため、スライドピン24に対してスリーブ34およびブーツ36を介して係止されたキャリパ12の倒れ込みを防止し、ガタツキを抑えることができる。
【0039】
上記のような構成としたアウタパッド58によれば、アーム部60bと図示しない車輪ホイール等とのクリアランスを確保するために、アーム部60bの端部から貫通部66までの間の距離を縮めた場合であっても、その距離が最も小さくなる部位を開放部69cとすることができる。よって、引張、ダレなどの影響により平面が確保できないなどの加工(プレス加工)上の制約を受けることが無くなり、従来通りの加工を行うことが可能となる。
【0040】
また、上記実施形態に係るアウタパッド58では、貫通部66は優弧と弦(隙間埋め部65)、および開放部69cにより構成されるものとして説明しているが、本願における貫通部は、図14に示すように楕円をベースとして開放部69cを設けたものとしても良いし、図示しない長円をベースとしたものであっても良い。
【0041】
上記実施形態においては、貫通部66を構成する優弧の直径をφD、スライドピン24の直径をφdとした場合(図15参照)、φDとφdの差となるΔdが、スライドピン24(上記実施形態の場合スライドピン24b)が弾性変形することにより得られるアウタパッド58のシフト距離よりも短くなるように定める。このような構成とすることで、スライドピン24が弾性変形する範囲で制動トルクの分散が図られることとなる。
【0042】
また、上記実施形態においては、貫通部66a,66bの中心ピッチPと、スライドピン24a,24bの中心ピッチPとが
<P
の関係を満たす旨記載した。しかしながら本発明に係るブレーキパッドは、制動時にアウタパッド58aに生ずる偶力(モーメント)が矢印A′に示す方向に作用する場合(図16参照)には、貫通部66a,66bの中心ピッチPと、スライドピン24a,24bの中心ピッチPとが
>P
の関係となる場合であっても、適用することができる。P1とP2の関係が
P1>P2
となる場合には、図18に示すように、低制動トルク時にはまず、スライドピン24bが貫通部66bに接触する。この後、アウタパッド58aは、スライドピン24b(貫通部66bとの接点)を基準としてモーメントの発生方向である矢印A′の方向へ回転する力を受ける。そして、高制動トルク時には、先行トルク受け部がロータ回転方向へ撓み、後続トルク受け部であるスライドピン24aが貫通部66aの内周面に接触することとなる。
【0043】
このため、アウタパッド58aの貫通部66における優弧と弦との関係は図17に示すように、優弧がロータ半径方向内側、弦が半径方向外側に位置することとなり、貫通部66単体で見た場合には、上記実施形態と同様な構成を採ることとなる。なお、このような方向にモーメントを生じさせるための手段の一例としては、図16に示すように、ロータ中心軸Cからアウタパッド58のモーメント中心までの距離tが、ロータ中心軸Cから貫通部66の中心までの距離tよりも長い場合を挙げることができる。
【0044】
このような構成のアウタパッドでは、ロータの回入側に配置されたパッドクリップ74(図9、10参照)は、スライドピン24aに対して、バネ部82をロータ半径方向内側のロータ回出側へ向けて当接させる。これにより、アウタパッド58aはスライドピン24aに対して、ロータ半径方向外側のロータ回入側へ向けて押し付けられる力を受ける。その結果、貫通部66aではロータ半径方向内側のロータ回出側に位置する内周面がスライドピン24aに付勢する。一方、ロータの回出側に配置されたパッドクリップ74は、スライドピン24bに対して、バネ部82をロータ半径方向内側のロータ回入側へ向けて当接させる。これにより、アウタパッド58はスライドピン24bに対して、ロータ半径方向外側のロータ回出側へ向けて押し付けられる力を受ける。その結果、貫通部66bではロータ半径方向内側のロータ回入側に位置する内周面がスライドピン24bに付勢する(図17参照:パッドクリップ74の具体的な取り付け状態は不図示)。
【0045】
なお、本実施形態に係るアウタパッド58aも、貫通部66を単なる孔とせず、平面形状を鍬形状に形成した一対の保持部69(第1の保持部69a、第2の保持部69b)により囲まれた領域として構成している。このため、貫通部66は少なくとも一部に切欠きとなる開放部69cを有することとなる。本実施形態においても開放部69cは、アーム部60bの先端であって、ロータ100の中心を基点として半径方向外縁に位置する部位に設けられている。このような構成とすることで、アーム部60bと図示しない車輪ホイール等とのクリアランスを確保するために、アーム部60bの端部から貫通部66までの間の距離を縮めた場合であっても、その距離が最も小さくなる部位を開放部69cとすることができる。よって、引張、ダレなどの影響により平面が確保できないなどの加工(プレス加工)上の制約を受けることが無くなり、従来通りの加工を行うことが可能となる。その他の構成、作用、効果については、上述した第1の実施形態に係るブレーキパッド(アウタパッド58)と同様である。
【符号の説明】
【0046】
10………ディスクブレーキ装置、12………キャリパ、14………キャリパ本体、15………ピストン、16………キャリパブリッジ部、18………爪部、20………アーム部、22………貫通孔、24(24a,24b)………スライドピン、26………ボルト頭、28………キャリパ摺動部、30………螺合部、32………アウタパッド摺動部、34………スリーブ、36………ブーツ、38………サポート、40(40a,40b)………トルク受け部、42………ネジ孔、44………取付孔、46………サポートブリッジ部、48………凹部、50………パッドクリップ、52………インナパッド、54………プレッシャプレート、56………ライニング、58………アウタパッド、60………プレッシャプレート、60a………プレート本体、60b………アーム部、62………ライニング、64………凸部、65………隙間埋め部、66(66a,66b)………貫通部、68………第2クリップ、69(69a,69b)………保持部(第1の保持部,第2の保持部)、69c………開放部、70………基部、72………バネ部、74………パッドクリップ、76………ベース部、78………貫通孔、80………支持部、82………バネ部、100………ロータ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータの半径方向外周側に配置された対を成すスライドピンに支承されるブレーキパッドであって、
前記スライドピンを挿通させる貫通部を備えたプレッシャプレートと、
前記プレッシャプレートに添着された摩擦部材とを備え、
前記貫通部は、対を成す前記貫通部の中心間ピッチPと対を成す前記スライドピンの中心間ピッチPとの関係が、P<PまたはP>Pを満たし、制動時に生ずるモーメントに起因するトルクを受ける第1の保持部と、前記第1の保持部に対向して配置され、組付け状態においては前記第1の保持部との間に前記スライドピンが介在されることとなる第2の保持部とにより構成され、少なくとも前記ロータの半径方向外周側に位置する部位に開放部を有することを特徴とするディスクブレーキ装置用ブレーキパッド。
【請求項2】
前記開放部の幅は、前記スライドピンの直径よりも狭いことを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ装置用ブレーキパッド。
【請求項3】
前記第2の保持部には、前記貫通部に挿通されるスライドピンとの隙間を狭める隙間埋め部が備えられることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のディスクブレーキ装置用ブレーキパッド。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−172739(P2012−172739A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33908(P2011−33908)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】