説明

ディスクブレーキ装置

【課題】従来の多点押圧型ディスクブレーキ装置に比べて部品点数の削減と構造の簡素化を図ることができると共に、出力の小さな駆動手段であっても十分な制動力を得ることのできるディスクブレーキ装置を提供する。
【解決手段】ディスクロータと、前記ディスクロータの摺動面の上に複数、前記摺動面を挟持するように配置されるブレーキパッド、および前記ブレーキパッドを介して前記ディスクロータと一方の面を対向させて配置されるランプロータ62と、ランプロータ62における他方の面に対向させて配置されるランプステータ84と、ランプロータ62に設けられたランプ溝64にはめ込まれるボール82と、ランプロータ62を前記ディスクロータの回転方向と同一方向に回動させるモータとを有するランプユニット60とを備え、ランプ溝64は少なくとも、前記ディスクロータの回転方向と反対方向に向かうに従って溝深さを浅くする構成としたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はディスクブレーキ装置に係り、特にディスクロータ摺動面の複数個所に摩擦材を押し当てる構造のディスクブレーキ装置であり、かつ制御形態を電動としたディスクブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスクロータにおける摺動面の複数個所に摩擦材を押し当てる構造のディスクブレーキ装置としては、例えば特許文献1に開示されているディスクブレーキ装置のような構造を挙げることができる。特許文献1に開示されているディスクブレーキ装置は、流体圧(実施形態においては空気)により制動力を得る構造のものであり、ディスクロータを挟み込むように一対のハウジングが配置されている。ハウジングにはそれぞれ、ディスクロータの摺動面に倣うように複数、互いに対向位置となるようにシリンダが配置され、各シリンダには直列的に流体挿通配管が接続されている。シリンダ内にはそれぞれ、流体圧で作動するピストンが配置され、各ピストンに対して摩擦材が備えられている。このような構造のディスクブレーキ装置では、流体挿通配管に圧力流体が供給されることにより、シリンダからディスクロータ側へピストンが押出され、ピストンにより支持された摩擦材がディスクロータを挟持することにより制動力を生じさせる。
【0003】
このような構成のディスクブレーキでは、特許文献1に開示されているような、圧縮性流体である空気を圧力流体として使用することは困難である。また、圧力流体として一般的な作動油を使用した場合にはエア抜きなどの作業を行う必要があると共に、電動化が進む自動車産業の中、作動油等の廃棄、回収についても、検討が必要とされてきている。
【0004】
このような観点を視野に入れ、特許文献2に開示されているようなディスクブレーキ装置が提案されている。特許文献2に開示されているディスクブレーキ装置は、アウタ側とインナ側の二枚1対で構成されるロータを備える。対を成すロータ間には、ランプ機構が介在されており、アウタ側またはインナ側のいずれか一方のロータを回動させることにより、ロータ幅を拡幅させる。対を成すロータの外周上には、ロータを跨いで配置されたキャリパと、このキャリパに対してロータを挟み込むように取り付けられた摩擦材が設けられている。このため、ロータ幅が拡幅することにより、ロータの摺動面は摩擦材に押し当てられることとなり、制動力を生じさせる。なお、ロータの拡幅動作、すなわち、いずれか一方のロータの回動は、超音波モータによって成す旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平2−27530号公報(4頁左欄31行−4頁右欄31行、図1、図2))
【特許文献2】特開平8−312693号公報(段落0011−0018、図1、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に開示されているようなディスクブレーキ装置によれば、確かに作動油等の圧力流体を用いることなく制動力を得ることのできるディスクブレーキ装置を提供することが可能となる。
【0007】
しかし、特許文献1に開示されているような構成のディスクブレーキ装置では、大きな制動力(大きな摩擦力)を得ようとする場合には、対を成すロータのいずれか一方を回動させる役割を担うモータを高出力化する必要が生ずる。このため、装置の小型化や低消費電力化に対する課題が生ずることとなる。
【0008】
そこで本発明では、上記課題を解決し、従来の多点押圧型ディスクブレーキ装置に比べて部品点数の削減と構造の簡素化を図ることができると共に、出力の小さな駆動手段であっても十分な制動力を得ることのできるディスクブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係るディスクブレーキ装置は、ディスクロータと、前記ディスクロータの摺動面の上に複数、前記摺動面を挟持するように配置されるブレーキパッド、および前記ブレーキパッドを介して前記ディスクロータと一方の面を対向させて配置されるランプロータと、前記ランプロータにおける他方の面に対向させて配置されるランプステータと、前記ランプロータと前記ランプステータとの間に介在され、前記ランプロータの前記他方の面に設けられたランプ溝にはめ込まれるボールと、前記ランプロータを前記ディスクロータの回転方向と同一方向に回動させる駆動手段とを有するランプユニットとを備え、前記ランプ溝は少なくとも、前記ディスクロータの回転方向と反対方向に向かうに従って溝深さを浅くする構成としたことを特徴とする。
【0010】
また、上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置において前記ランプ溝は、前記ディスクロータの回転方向と同一方向に向かうに従って溝深さを浅くする構成も有することが望ましい。このような構成とすることにより、車軸(ディスクロータ)が、どちらの方向に回転している場合であっても、制動時にサーボ効果を生じさせることが可能となる。
【0011】
また、上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置では、前記ランプ溝は前記ランプロータ上に複数設けられ、前記ボールは、複数の前記ランプ溝のそれぞれに対応して設けられると共に、複数の前記ボールを回転可能に連結支持する支持部材を備えるようにすると良い。このような構成とすることにより、ボールがランプ溝から脱落したり、一部のボールの動きが不均一となることにより、ランプロータに傾きが生ずるといった虞がなく、ランプロータをディスクロータに平行に押出すことが可能となる。
【0012】
また、上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置では、前記ランプユニットと前記ディスクロータとの隙間を調整するアジャスタ機構を備えるようにすることが望ましい。ブレーキパッドの摩耗によりディスクロータとランプユニットとの隙間が広がると、ブレーキ動作開始から制動力が生ずるまでのタイムラグが大きくなる虞がある。これに対してアジャスタ機構を備えるようにすることで、前記隙間を適正値に調整することが可能となる。
【0013】
さらに、上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置において、前記アジャスタ機構は、前記ランプステータに設けられた雄ねじと、前記雄ねじに螺合するアジャスタナットと、前記アジャスタナットの外周上に設けられたワンウェイギアに噛合うアジャスタレバーとを有し、前記アジャスタレバーは、前記ランプロータの回動により動作する構成とすることが望ましい。このような構成とすることにより、アジャスタ機構は、ランプロータの回動に伴って自動で動作することとなる。
【発明の効果】
【0014】
上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置によれば、従来の多点押圧型ディスクブレーキ装置に比べて部品点数の削減と構造の簡素化を図ることができる。また、ランプ機構を介したサーボ効果により、出力の小さな駆動手段を用いた場合であっても十分な制動力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態に係るディスクブレーキ装置の外観構成を示す斜視図である。
【図2】図1におけるA−D断面、A′−D′断面を示す図である。
【図3】ディスクブレーキ装置をアウタ側から見た分解斜視図である。
【図4】ディスクブレーキ装置をインナ側から見た分解斜視図である。
【図5】ランプユニットとモータとの関係を示す分解斜視図である。
【図6】ランプユニットとブレーキパッドとの関係を示す分解斜視図である。
【図7】アウタ側から見た、ランプユニットの詳細な分解斜視図である。
【図8】インナ側から見た、ランプユニットの詳細な分解斜視図である。
【図9】アジャスタ機構を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のディスクブレーキ装置に係る実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。まず、本実施形態のディスクブレーキ装置における各構成要素を説明するための図面について説明する。図1は、本実施形態に係るディスクブレーキ装置の斜視図であり、図1(A)はアウタ側外観を示す斜視図、図1(B)はインナ側外観を示す斜視図である。図2は、ディスクブレーキ装置の断面構成を示す図であり、図2(A)は図1(A)におけるA、B、C、D断面、図2(B)は図1(A)におけるA′、B′、C′、D′断面を示す。図3は、アウタ側から見たディスクブレーキ装置の分解斜視図である。図4は、インナ側から見たディスクブレーキ装置の分解斜視図である。図5は、ランプ機構とモータとの関係を示す分解斜視図である。図6は、ランプ機構とブレーキパッドとの関係を示す図であり、図6(A)はアウタ側から見た場合の分解斜視図であり、図6(B)はインナ側から見た場合の分解斜視図である。図7、はインナ側から見たランプ機構の分解斜視図である。図8は、アウタ側から見たランプ機構の斜視図である。
【0017】
本実施形態に係るディスクブレーキ装置10は、ハブ20と、ディスクロータ30、アウタハウジング40、キャリパハウジング50、ランプユニット60、ボディハウジング130を有する。
【0018】
ハブ20は、図示しない車軸(ディスクロータ30の回転軸)に固定され、車軸の回転力をディスクロータ30に伝達する役割を担う部材である。ハブ20は、リング状に構成された部材であり、中心の貫通孔に車軸を挿通させると共に、その外周部を車軸のフランジ部(不図示)などに固定することで、車軸の回転と共に回転することとなる。このため、ハブ20には、固定孔22が設けられる。また、ハブ20の外周側には、円周状に肉厚部24が設けられており、肉厚部24には、均等な間隔で、ロータガイド26が配置されている。ロータガイド26は、ハブ20の肉厚部24のインナ側に螺合されるピンであり、詳細を後述するディスクロータ30に対して車軸の回転力を伝達すると共に、ディスクロータ30を車軸の軸方向へスライド自在に保持するための部材である。
【0019】
ディスクロータ30は、ハブ20のインナ側に配置され、詳細を後述するブレーキパッド42,66により挟持されることで、車軸の回転力に制動力を付与する役割を担う部材である。ディスクロータ30は、リング状に形成された部材であり、その外周側には、ブレーキパッド42,66を当接させるための摺動面32a,32bが備えられる。摺動面32a,32bの内周側には、上述したハブ20に螺合・立設されたロータガイド26に係合するための複数の切欠き部34が設けられている。また、本実施形態に係るディスクロータ30では、インナ側の摺動面32bとアウタ側の摺動面32aとの間に、ロータ中心から放射状に配置された複数の孔36を形成することで、制動時に生ずる熱の放熱性を高める構成としている。
【0020】
アウタハウジング40は、ディスクロータ30のアウタ側に配置されるリング形状を成すハウジングであり、内周側には、上述したハブ20が配置されることとなる。アウタハウジング40の内面(インナ面)には、ディスクロータ30の摺動面32aと対向する位置に、ディスクロータ30の摺動面32aに沿って複数(本実施形態においては3つ)のブレーキパッド42が配置されている。ブレーキパッド42は、プレッシャプレート42aと、このプレッシャプレート42aの一方の面に貼付されたライニング42bにより構成され、プレッシャプレート42aの他方の面に設けられたピン(不図示)を、アウタハウジングの内面に設けられた穴(不図示)に嵌合することで固定される。複数のブレーキパッド42は、互いに均等な配置間隔となる角度を持って配置される。従って、本実施形態の場合、3つのブレーキパッド42はそれぞれ120°の間隔を持って配置すれば良い。ディスクロータ30を複数個所で押圧することとなる。このため、押圧箇所のバランスを採ることにより、ライニング42bの片摩耗や鳴き、およびディスクロータ30の変形等を防ぐことができる。
【0021】
アウタハウジング40の外面(アウタ面)には、複数のフィン46を設けると共に複数の開口部44を設けている。このような構成とすることで、制動時における摩擦によって生ずる熱の放熱性を向上させることができる。放熱効果を高めることにより、熱ダレによる制動力の低下や、部材の変形等を防止することができる。
【0022】
キャリパハウジング50は、ディスクロータ30のインナ側に配置されるリング状を成すハウジングであり、詳細を後述するランプユニット60を収容する役割を担う。また、上述したアウタハウジング40と係合することで、ディスクロータ30をハウジング間(アウタハウジング40とキャリパハウジング50の間)に収容することが可能となる。キャリパハウジング50には、ランプユニット60を構成するランプステータ84を支持すると共にアウタハウジング40との係合を図るための複数のハウジングボルト140が設けられると共に、ランプユニット60を駆動させるための駆動手段であるモータ120を取り付けるための駆動手段取付部52が設けられている。
【0023】
なお、キャリパハウジング50の外周面にも、アウタハウジング40と同様に複数のフィン54を設けることにより、ディスクブレーキ装置10としての放熱効果を高めることができる。
【0024】
ランプユニット60は、ランプロータ62、ランプステータ84、ボールホルダ80、モータ120、およびアジャスタナット94を基本として構成される。
【0025】
ランプロータ62は、上述したディスクロータ30のインナ側の摺動面32bと対向して配置され、ディスクロータ30に対する押圧力を生じさせる役割を担うリング状部材である。ランプロータ62において、ディスクロータ30と対向する一方の面には、ディスクロータ30のインナ側の摺動面32bに沿って配置される複数のブレーキパッド66が設けられる。ブレーキパッド66の配置位置は、上述したアウタハウジング40に配置されたブレーキパッド42と、ディスクロータ30を介して対向する位置とすることが望ましい。このような配置形態とすることにより、ランプロータ62を介して伝達される押圧力をアウタハウジング40に設けられたブレーキパッド42により確実に受けることができ、高い制動力を確保することができると共に、ライニング42b,66bの片摩耗やディスクロータ30の変形等を防止することができる。なお、ブレーキパッド66の構成は、上述したブレーキパッド42と同様に、プレッシャプレート66aとライニング66bにより構成されており、プレッシャプレート66aに設けられたピン66cをランプユニット60に設けられた穴68に嵌合させることにより固定される。
【0026】
ランプロータ62の他方の面には、詳細を後述するボール82が転動するランプ溝64が設けられる。ランプ溝64は、ランプロータ62の一方の面における特定の円周上に複数設けられる。ランプ溝64の配置位置としては、一方の面におけるブレーキパッド66の配置位置に対応した位置とすることが望ましい。ランプロータ62による押圧力は、ランプ溝64をボール82が転動することにより生ずるため、このような配置形態とすることで、押圧力がロス無くブレーキパッド66に伝達されることとなる。
【0027】
ランプ溝64は、円周上に沿って設けられる溝であり、長手方向中心部を最も深く形成し、両端部にかけて浅くなるように形成されている。ランプ溝64をこのような形態とすることにより、ランプ溝64に配置されるボール82が転動した場合、ボール82は、ランプ溝64の端部側へ転がるほどランプ溝64からせり上がることとなる。ここでボール82は、詳細を後述するランプステータ84により、インナ側への動きが抑制されるため、反作用を受けたランプロータ62がディスクロータ側へ押し出され、ブレーキパッド66をディスクロータ30へ押し当てることとなる。
【0028】
ランプロータ62の他方の面側には、駆動リング70が設けられる(図7参照)。駆動リング70は、リング状の枠部74と、枠部74の外周上に設けられたラックギア72とから構成される。ラックギア72は、詳細を後述するモータ120に設けられるピニオンギア122と噛合う構成とされる。これにより、モータ120が駆動されることで、駆動リング70を固定したランプロータ62が回動し、詳細を後述するランプステータ84との間に挟まれて支持されるボール82に転動を生じさせることが可能となる。このため、ラックギア72は、ボール82の転動範囲に合わせた距離だけ設ければ良く、枠部74の全周に亙って設ける必要は無い。ランプロータ62と駆動リング70との間には、ダストシール76を配置することが望ましい。ランプロータ62の一方の面にはブレーキパッド66が配置されるため、ブレーキパッド66とディスクロータ30との摺動によって生ずるダストが、ランプロータ62における他方の面に介入することで、ランプ溝64に沿ったボール82の転動を妨げることを防止するためである。
【0029】
また、駆動リング70の枠部74には、詳細を後述するアジャスタ機構を構成するアジャスタギア78が設けられる。アジャスタギア78は、駆動リング70の外周上に突出するノコ歯状のギアを有する部材である。アジャスタギア78の取り付け位置は、ギア部が枠部の外周上に配置されれば特に限定するものでは無いが、図5に示すように、枠部74の中心を基点としたラックギア72の点対称位置に配置することで、重量バランスを良好に保つことができる。なお、ランプロータ62、駆動リング70、およびアジャスタギア78は、これを一体として構成しても良いが、分割形成することにより、生産性、および加工性を向上させることができ、結果として低コスト化を図ることができる。また、ランプロータ62と駆動リング70、およびアジャスタギア78の組み付けは、ボルト112による締結とすることができる。
【0030】
ランプステータ84は、上述したランプロータ62における他方の面に対向する板面を有し、詳細を後述するボール82を支持すると共に、ランプユニット60を上述したキャリパハウジング50に保持させるための保持部材としての役割を担う。ランプステータ84は、キャリパハウジング50への保持部を担うベース86と、ベース86の一方の面に設けられたボール支持部88と、ベース86の他方の面に設けられたボス部92を基本として構成される。
【0031】
ベース86は、円形板に2箇所の平坦部(いわゆるオリエンテーションフラット)を設けた形状を成し、板面における外周近傍に、複数の貫通孔が備えられている。2箇所の平坦部のうち、一方の平坦部はラックギア72に対応する位置に設けられ、他方の平坦部はアジャスタギア78に対応する位置に設けられる。貫通孔は、ハウジングボルト140を挿通させる孔である。このような構成のベース86を有するため、ランプステータ84はキャリパハウジング50に対し、車軸の軸線方向へ摺動することを可能に保持されることとなる。
【0032】
ボール支持部88は、ランプ機構を作動させるボール82を支持する部位であり、複数のランプ溝90を有する。ボール支持部88に設けられるランプ溝90も、その形態はランプロータ62に設けたランプ溝64と同様であり、中心部が深く、端部に至るにしたがって浅くなるように構成されている。ランプ溝90の数、および配置位置は、ランプロータ62に設けられたランプ溝64と同じ数、および対応する位置とすれば良い。このような構成とすることで、ランプロータ62に設けられたランプ溝64とランプステータ84に設けたランプ溝90とによりボール82を確実に保持することが可能となると共に、ランプ機構によるせり出し距離を、一方の部材にランプ溝を有する場合よりも大きくすることができる。また、ボール支持部88の内周側には、ランプステータ84の内周面に対して凸状を成す段差部84aが設けられている。
【0033】
ボス部92は、詳細を後述するアジャスタナット94と螺合する役割を担う部位であり、外周面に雄ねじが形成されている。
【0034】
ボールホルダ80は、上述したランプロータ62に設けられたランプ溝64と、ランプステータ84に設けられたランプ溝90の双方により挟持されるボール82を支持する枠部材である。ボール82は、少なくともその半径をランプ溝64,90の中心位置の深さよりも大きいものを採用する。複数配置されるボール82をボールホルダ80により相互に連結することで、ボール82の配置位置にズレを生じさせることが無くなる。これにより、ボール82の位置ずれによるトラブルを回避することができる。また、ボール82は、ボールホルダ80に対して回転自在に保持される構成とされている。具体的な構成については図示しないが、例えば構成の1つとして、ボール82の直径よりも僅かに小さな開口を有する2枚のホルダ構成部材により、ボール82を挟み込むような形態とすることで構成することができる。
【0035】
上記のような特徴を有するランプロータ62とランプステータ84は、ランプ溝64,90を有する面でボールホルダ80(実際に挟持するのはボール82)を挟持するように配置される。ランプステータ84の内周側には、ランプステータ84の内周面に摺動可能な外径を有するスプリングシート98が配置され、このスプリングシート98にランプロータ62が締結される。このような構成とすることにより、ランプロータ62はランプステータ84の内周面を基点として軸ブレすることなく回動することが可能となると共に、回転軸の軸線方向への摺動が可能となる。なお、スプリングシート98とランプロータ62との締結は、ボルト114によれば良い。
【0036】
ここで、スプリングシート98とランプステータ84における内周面に設けた段差部84aとの間には、ランプロータ62とランプステータ84との間に付勢力を生じさせるセットスプリング102を配置する。このような構成とすることにより、ランプ機構が動作した際には常に、ボール82に対する挟持力を生じさせることができ、ランプ機構を有効に動作させることができる。また、ランプ機構を動作させた際の作用により、ランプロータ62とランプステータ84との間の距離が開いた場合であっても、ランプ機構が解除された場合には、ランプロータ62とランプステータ84との間の隙間を元の状態に戻すことが可能となる。
【0037】
また、スプリングシート98とランプロータ62との間には、ダストシール100を設けるようにすることが望ましい。ランプロータ62の一方の面にはブレーキパッド66が配置されるため、ブレーキパッド66とディスクロータ30との摺動によって生ずるダストが、ランプロータ62における他方の面に介入することで、ランプ溝64に沿ったボール82の転動を妨げることを防止するためである。
【0038】
モータ120は、ランプ機構を動作させるための駆動手段である。モータ120は、キャリパハウジング50に設けられた駆動手段取付部52に固定される。モータ120は、制御性の良いステッピングモータやサーボモータ等であれば良い。モータ120の回転軸124には、上述したラックギア72と噛合うピニオンギア122が設けられる。これにより、モータ120の駆動力をラックギア72に伝達し、ランプロータ62を回動させることが可能となる。
【0039】
ここで、モータ120は、ディスクロータ30の回転方向と、ランプロータ62の回動方向とが同一となるように、回転軸124の回転方向が定められる。このような構成とすることにより、ランプ機構の作用によりディスクロータ30にブレーキパッド66が押付けられると、ブレーキパッド66とディスクロータ30の摺動面32bとの間に生ずる摩擦力により、ブレーキパッド66には、ディスクロータ30の回転方向に引き摺られる力が付与される。ブレーキパッド66はランプロータ62の一方の面に固定されているため、ランプロータ62も回転方向の力を受けることとなる。ランプロータ62が回転方向の力を受けて回動すると、ランプ機構の作用が大きく働くこととなり、ディスクロータ30には、より大きな挟持力が付与されることとなる(サーボ効果)。このように、ランプロータ62の回動方向と、ディスクロータ30の回転方向とを合わせるようにモータ120を駆動させることにより、サーボ効果を生じさせ、モータ120の出力が小さい場合であっても、大きな挟持力、すなわち高い制動力を生じさせることが可能となる。
【0040】
アジャスタナット94は、上述したランプステータ84におけるボス部92に螺合するナットである。アジャスタナット94は組み付け状態では、図2に示すように、一方の面をランプステータ84に対向させ、他方の面をキャリパハウジング50の内面に当接されることとなる。アジャスタナット94の他方の面は、キャリパハウジング50の内面により位置決めされることとなるため、アジャスタナット94を回転させることにより、アジャスタナット94を基点として、ランプユニット60をディスクロータ30側へシフトさせることができる。これにより、ライニング66bの摩耗が生じた場合であっても、ディスクロータ30とブレーキパッド66との距離を適正に保つことが可能となる。
【0041】
このような機能を奏するアジャスタナット94の外周には、ワンウェイギア96が配されている。ベース86における他方の平坦部には、アジャスタ機構を構成するホルダー104とアジャスタレバー106、およびコイルバネ108が固定されている。詳細を図9に示すように、ホルダー104は、ランプステータ84のベース86を貫通するホールドピン110と、コイルバネ108を支持する支持アーム104aとを有する。アジャスタレバー106は、断面をコ字(横U字)状に形成される(図5参照)と共に、ホルダー104に設けられたホールドピン110を介入可能なスリット106aを有する。また、アジャスタレバー106は、スリット106aにより構成された切片の一方に、ベース86の各面(一方の面と他方の面)から立設するように形成される凸片106c,106bを有する。一方の端部をホルダー104の支持アーム104aに支持されたコイルバネ108は、他方の端部を凸片106bの基端部に締結させている。コイルバネ108をこのように配置することにより、ホールドピン110を基点に揺動可能とされるアジャスタレバー106の凸片106cを、支持アーム104a側に付勢させることとができる。ここで、図9における図9(A)はベース86の他方の面側から見たホルダー104とアジャスタレバー106の構成であり、図9(B)はベース86の他方の面を透過させて見たアジャスタレバー106の構成を示す図である。
【0042】
このような構成のアジャスタ機構におけるホルダー104とアジャスタレバー106のうち、凸片106cはワンウェイギア96と噛合い、凸片106cはアジャスタギア78に噛合う構成とする。
【0043】
ランプロータ62の回動によりアジャスタギア78が動くと、アジャスタギア78に噛合った凸片106cの作用により、ホールドピン110を基点としてアジャスタレバー106が矢印Aの方向へ揺動する。このとき、凸片106bは、ワンウェイギア96の歯の傾斜に沿って動くこととなるため、アジャスタレバー106には矢印A′の方向への動きも伴われる。このため、アジャスタレバー106は、矢印Aと矢印A′を合わせた動きである矢印Bのような軌跡で揺動することとなる。
【0044】
アジャスタギア78は図9に示すように、歯と歯の間に遊びを有する。このため、凸片106cが1つの歯を越えると、アジャスタレバー106はホールドピン110を基点として、コイルバネ108の作用で矢印Cの方向へ揺動(付勢)する。このとき、アジャスタギア78よりも密に歯を持つアジャスタナット94のワンウェイギア96に、凸片106bが噛合うこととなる。凸片106bはコイルバネ108の作用により、矢印Cの方向へ付勢するため、この凸片106bに噛合ったワンウェイギア96は、矢印Dの方向へ回動されることとなる。
【0045】
このように、本実施形態に係るディスクブレーキ装置10では、アジャスタ機構を備えることにより、ランプ機構の動作に伴って自動で、ランプユニット60を車軸の軸線方向に送り出すことができる。
【0046】
ボディハウジング130は、上述したキャリパハウジング50のインナ側に締結されると共に、車体に固定されることとなるハウジングである。ボディハウジング130を有することにより、ランプユニット60を収容したキャリパハウジング50、およびアウタハウジング40が、制動時に生ずる摩擦力によりディスクロータ30に対して供回りすることを防ぐことができる。このため、ボディハウジング130は、いわゆるアンカとしての役割を担うこととなる。
【0047】
上記のような構成とされるディスクブレーキ装置10では、モータ120を駆動させることでピニオンギア122が回転し、ピニオンギア122に噛合うラックギア72に駆動力が伝達される。ラックギア72により伝達された駆動力は、駆動リング70が固定されたランプロータ62を回動させてランプ機構を動作させる。
【0048】
ランプ機構が動作されると、ランプロータ62がディスクロータ30側へ押し出され、ランプロータ62の一方の面に設けられたブレーキパッド66がディスクロータ30の摺動面32bに当接する。ランプロータ62の押し出しによりブレーキパッド66がディスクロータ30に当接すると、ディスクロータ30は、ランプロータ62の押し出し力により、ロータガイド26に沿ってアウタ側にシフトすることとなる。
【0049】
アウタ側にシフトしたディスクロータ30は、アウタハウジング40の内面に設けられたブレーキパッド42にアウタ側の摺動面32aが当接し、ブレーキパッド42とブレーキパッド66により挟持されることとなる。ディスクロータ30のアウタ側とインナ側に設けられた対を成すブレーキパッド42,66によりディスクロータ30が挟持されることにより、摺動面32a,32bには摩擦力が生じ、ブレーキパッド42、ブレーキパッド66は共に、ディスクロータ30の回転方向へ供回りする力を受ける。
【0050】
ここで、ブレーキパッド42を支持するアウタハウジング40、およびブレーキパッド66を支持するランプユニット60は共に、ボディハウジング130を介して車体に固定されているため、供回りすることなく回転方向の応力を受け止め、制動力が生ずることとなる。ここで、ディスクロータ30のインナ側に位置するブレーキパッド66は、ランプ機構によりディスクロータ30の回転方向と同一な方向に回転しながら押出される構成とされている。このため、ディスクロータ30の回転と摩擦力によって生ずる供回りする力を受けることにより、ランプ機構によるサーボ効果が働き、ブレーキパッド66は、モータ120によって生じさせる押し付け力以上の力でディスクロータ30を押圧することとなり、高い制動力を得ることとなる。なお、このサーボ効果は、ディスクロータ30の回転速度が速いほど効果的に働くこととなる。
【0051】
また、制動の繰り返しによりブレーキパッド42,66におけるライニング42b,66bが摩耗すると、ランプロータ62の押出し量を増す必要が生ずることより、必然的にランプロータ62の回動量が増加する。ランプロータ62の回動量が増加すると、アジャスタ機構が働き、アジャスタナット94が回動させられ、ランプユニット60全体がディスクロータ30側へせり出されることとなり、ブレーキパッド42,66とディスクロータ30との距離の補正が成される。
【0052】
このように、本実施形態に係るディスクブレーキ装置10によれば、従来の圧力流体型の多点押圧型ディスクブレーキ装置に比べて、個々の押圧点ごとのシリンダやピストンが不要となるため、部品点数の削減を図ることができる。また、基本的にはキャリパハウジング50に収容するランプユニット60があれば足りるため、構造の簡素化を図ることもできる。さらに、ランプユニット60を介したサーボ効果により、出力の小さな駆動手段であっても十分な制動力を得ることが可能となった。
【0053】
なお、上記実施形態では、具体的な構成を説明するために、各構成要素の形態についても詳細に説明した。しかしながら本発明に係るディスクブレーキ装置を構成する上では、各構成要素における機能を発揮することができる形態であれば、適宜設計変更することに何ら支障は無い。
【符号の説明】
【0054】
10………ディスクブレーキ装置、20………ハブ、22………固定孔、24………肉厚部、26………ロータガイド、30………ディスクロータ、32a,32b………摺動面、34………切欠き部、40………アウタハウジング、42………ブレーキパッド、42a………プレッシャプレート、42b………ライニング、50………キャリパハウジング、60………ランプユニット、62………ランプロータ、64………ランプ溝、66………ブレーキパッド、66a………プレッシャプレート、66b………ライニング、70………駆動リング、72………ラックギア、74………枠部、78………アジャスタギア、80………ボールホルダ、82………ボール、84………ランプステータ、86………ベース、88………ボール支持部、90………ランプ溝、92………ボス部、94………アジャスタナット、96………ワンウェイギア、98………スプリングシート、102………セットスプリング、104………ホルダー、106………アジャスタレバー、108………コイルバネ、110………ホールドピン、120………モータ、122………ピニオンギア、130………ボディハウジング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクロータと、
前記ディスクロータの摺動面の上に複数、前記摺動面を挟持するように配置されるブレーキパッド、
および前記ブレーキパッドを介して前記ディスクロータと一方の面を対向させて配置されるランプロータと、前記ランプロータにおける他方の面に対向させて配置されるランプステータと、前記ランプロータと前記ランプステータとの間に介在され、前記ランプロータの前記他方の面に設けられたランプ溝にはめ込まれるボールと、前記ランプロータを前記ディスクロータの回転方向と同一方向に回動させる駆動手段とを有するランプユニットとを備え、
前記ランプ溝は少なくとも、前記ディスクロータの回転方向と反対方向に向かうに従って溝深さを浅くする構成としたことを特徴とするディスクブレーキ装置。
【請求項2】
前記ランプ溝は、前記ディスクロータの回転方向と同一方向に向かうに従って溝深さを浅くする構成も有することを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項3】
前記ランプ溝は前記ランプロータ上に複数設けられ、
前記ボールは、複数の前記ランプ溝のそれぞれに対応して設けられると共に、複数の前記ボールを回転可能に連結支持する支持部材を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項4】
前記ランプユニットと前記ディスクロータとの隙間を調整するアジャスタ機構を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項5】
前記アジャスタ機構は、前記ランプステータに設けられた雄ねじと、前記雄ねじに螺合するアジャスタナットと、前記アジャスタナットの外周上に設けられたワンウェイギアに噛合うアジャスタレバーとを有し、前記アジャスタレバーは、前記ランプロータの回動により動作する構成としたことを特徴とする請求項4に記載のディスクブレーキ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−190838(P2011−190838A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55809(P2010−55809)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】