説明

ディスクブレーキ装置

【課題】走行時のラトル音や制動時のクロンク音を抑制できるディスクブレーキ装置。
【解決手段】一対のスライドピン有するフローティング型ディスクブレーキ装置において、キャリパの爪部内面に対してアウタパッドのプレッシャプレートを凹凸嵌合させ、アウタパッドには、一対のスライドピンを挿通させる貫通孔を設けてアウタパッドによる制動トルクをスライドピンにて支承可能とし、一対の貫通孔間の中心ピッチと前記スライドピン間の中心ピッチとの関係をロータ回出側に配置されたスライドピンが先行トルク受け部または後続トルク受け部となるように設定してなり、一対のスライドピンのうちの少なくとも後続トルク受け部となる側には、アウタパッドの貫通孔内周面を当該スライドピンに押付ける付勢力を発生させるパッドクリップを設け、パッドクリップは、制動時に発生するアウタパッドの回転モーメントの作用方向に付勢力を生じさせるように設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はディスクブレーキ装置に係り、特にブレーキパッドをピンスライドさせるフローティング型のディスクブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキパッドをピンスライドさせるタイプのフローティング型ディスクブレーキとしては、特許文献1や特許文献2に開示されているものが知られている。いわゆるピンスライド型のブレーキパッドを備えたディスクブレーキ装置では、スライドピンのピン径に対してブレーキパッドの貫通孔径が、比較的余裕を持つ大きさとなるように形成されている。スライドピンのピンピッチと、ブレーキパッドの貫通孔ピッチとの間の加工誤差による組付け不良やスライド抵抗の極端な増大を防止するためである。
【0003】
しかし、このような構成のディスクブレーキ装置では従来より、スライドピンの直径とブレーキパッドの貫通孔の直径との相違から生ずる走行時のラトル音や、制動時のクロンク音(カチン音)が問題視され、これらの音の抑制を図るための工夫が種々採られてきた。
【0004】
それらの手段の一例として、スライドピンと貫通孔との間にブッシュを配置し、両者間における余分な隙間を無くすというものや、パッドクリップと呼ばれるバネを用いてブレーキパッドをロータの半径方向、円周方向へ押し付けるといったものを挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭55−142127号公報
【特許文献2】特表2006−520448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
確かに、上記のような手段であれば、走行時に生ずるラトル音や、制動時に生ずるクロンク音(カチン音)を抑制することができる場合もあると考えられる。しかし、ブッシュを用いる場合には、別途ブッシュを製造、加工する工程が必要となり、コスト増大や歩留まりの低下を招く虞が生ずる。
【0007】
また、パッドクリップによるブレーキパッドの押さえ付けでは、ラトル音の抑制には大きな効果を挙げられるものの、クロンク音(カチン音)については抑制することができない場合があった。さらに、このクロンク音(カチン音)を抑制しようとしてパッドクリップのバネ力を強めた場合には、ブレーキパッドのスライド抵抗が増大し、パッドの引き摺りトルク増大などの新たな問題が生じていた。
【0008】
本願発明者達は、クロンク音(カチン音)発生の要因として、第1に、制動初期時におけるアンカ部分(スライドピン)とブレーキパッドとの衝突、第2に、制動時にブレーキパッドの生ずる偶力(回転モーメント)によるブレーキパッドとスライドピンの衝突といったものを見出した。
【0009】
そこで本発明では、上記問題を解決し、パッドクリップのバネ力を極端に向上させること無く、走行時のラトル音や制動時のクロンク音(カチン音)を抑制することのできるディスクブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係るディスクブレーキ装置は、サポートからロータ軸方向に延設されロータ回入側とロータ回出側に設けられた一対のスライドピンの延設方向に沿ってスライド可能に支持されるキャリパを有するフローティング型ディスクブレーキ装置において、前記キャリパを前記スライドピンの基端側に係合させると共に、前記キャリパの爪部内面に対してアウタパッドのプレッシャプレートを凹凸嵌合させ、前記アウタパッドには、前記一対のスライドピンの先端側を挿通させる貫通部を設けて前記アウタパッドによる制動トルクを前記スライドピンにて支承可能とし、一対の前記貫通部間の中心ピッチPと前記スライドピン間の中心ピッチPとの関係をロータ回出側に配置されたスライドピンが先行トルク受け部または後続トルク受け部となるように設定してなり、前記一対のスライドピンのうちの少なくとも後続トルク受け部となる側には、前記アウタパッドの貫通部内周面を当該スライドピンに押付ける付勢力を発生させるクリップを設け、前記クリップは、制動時に発生する前記アウタパッドの回転モーメントの作用方向に付勢力を生じさせるように設定されてなる、ことを特徴とする。
【0011】
また、上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置において前記クリップは、先行トルク受け部となるスライドピンに対しても、前記後続トルク受け部となるスライドピンと対称に設けるようにすると良い。
このような構成とすることによれば、車両が前進した場合であっても、後退した場合であっても、同様な効果を得ることができるようになる。
【0012】
さらに、上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置において前記クリップは、前記スライドピンをアンカとして前記アウタパッドのプレッシャプレートに係合されて付勢力を発生させる形状とすると良い。
このような構成とすることにより、クリップの小型化と組付け性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0013】
上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置によれば、クリップのバネ力を極端に向上させること無く、走行時のラトル音や制動時のクロンク音(カチン音)を抑制する効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施形態に係るディスクブレーキ装置の平面形態を示す図である。
【図2】第1の実施形態に係るディスクブレーキ装置の正面形態を示す図である。
【図3】第1の実施形態に係るディスクブレーキ装置の右側面形態を示す図である。
【図4】第1の実施形態に係るディスクブレーキ装置の右下面側斜視図である。
【図5】実施形態に係るディスクブレーキ装置におけるスライドピンと係合部の構成を示す図である。
【図6】アウタパッドおよびパッドクリップの係合状態を示す斜視図である。
【図7】第1の実施形態に係るディスクブレーキ装置のアウタパッドにおける貫通孔のピッチPとスライドピンのピッチPの関係、および制動トルク負荷時の様子を説明するための図である。
【図8】一対のパッドクリップの構成を示す側面側斜視図である。
【図9】一対のパッドクリップの構成を示すバネ部側から見た斜視図である。
【図10】第1の実施形態に係るディスクブレーキ装置におけるスライドピンに対するアウタパッドの押し付け形態を示す図である。
【図11】制動時にアウタパッドに生ずる偶力がロータ回転方向と逆向きとなる構成の一例を示す図である。
【図12】貫通孔とパッドクリップを係止する座の配置関係によるパッドクリップの分力の違いを説明するための図であり、貫通孔の中心を通る第1の直線lと第2の直線lとの角度θが45°の場合の例を示す図である。
【図13】貫通孔とパッドクリップを係止する座の配置関係によるパッドクリップの分力の違いを説明するための図であり、貫通孔の中心を通る第1の直線lと第2の直線lとの角度θが45°未満の場合の例を示す図である。
【図14】貫通孔とパッドクリップを係止する座の配置関係によるパッドクリップの分力の違いを説明するための図であり、貫通孔の中心を通る第1の直線lと第2の直線lとの角度θが45°より大きい場合の例を示す図である。
【図15】第1の実施形態に係るディスクブレーキ装置におけるロータ回入側のスライドピンとアウタパッドの貫通孔との動作関係を説明するための図である。
【図16】貫通孔の一部壁面が欠落している場合の例を示す図である。
【図17】優弧部と弦部により構成される貫通孔の弦部を凸状部とした場合の例を示す図である。
【図18】優弧部と弦部により構成される貫通孔の弦部を湾曲凸状部とした場合の例を示す図である。
【図19】貫通孔を半円と方形の組み合わせにより構成した場合の例を示す図である。
【図20】制動時にアウタパッドに生ずる偶力がロータ回転方向と同一方向となる構成の一例を示す図である。
【図21】第1の実施形態において、制動時にアウタパッドに生ずる偶力が逆転した場合におけるスライドピンに対するアウタパッドの押し付け形態を示す図である。
【図22】第2の実施形態に係るディスクブレーキ装置の右下面側斜視図である。
【図23】第2の実施形態に係るディスクブレーキ装置の正面形態を示す図である。
【図24】第2の実施形態に係るディスクブレーキ装置のアウタパッドにおける貫通孔のピッチPとスライドピンのピッチPの関係、および制動トルク負荷時の様子を説明するための図である。
【図25】第2の実施形態に係るディスクブレーキ装置におけるスライドピンに対するアウタパッドの押し付け形態を示す図である。
【図26】第2の実施形態に係るディスクブレーキ装置におけるロータ回出側のスライドピンとアウタパッドの貫通孔との動作関係を説明するための図である。
【図27】第2の実施形態において、制動時にアウタパッドに生ずる偶力が逆転した場合におけるスライドピンに対するアウタパッドの押し付け形態を示す図である。
【図28】第3の実施形態に係るディスクブレーキ装置の右下面側斜視図である。
【図29】第3の実施形態に係るディスクブレーキ装置の正面形態を示す図である。
【図30】第3の実施形態に係るパッドクリップの平面形態を示す図である。
【図31】第3の実施形態に係るパッドクリップの正面形態を示す図である。
【図32】第3の実施形態に係るパッドクリップの右側面形態を示す図である。
【図33】ロータ回入側に配置されるパッドクリップの形態を示す斜視図である。
【図34】ロータ回出側に配置されるパッドクリップの形態を示す斜視図である。
【図35】パッドクリップの展開平面図である。
【図36】第4の実施形態に係るディスクブレーキ装置の右下面側斜視図である。
【図37】第4の実施形態に係るディスクブレーキ装置の正面形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のディスクブレーキ装置に係る実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、図1は第1の実施形態に係るディスクブレーキ装置に係る平面図であり、図2は正面図、図3は右側面図である。また、図4は右下側からの斜視図である。
【0016】
本実施形態に係るディスクブレーキ装置10は、サポート38と、このサポート38に係合するスライドピン24(24a,24b)、およびスライドピン24に係合するキャリパ12、並びにブレーキパッド(インナパッド52,アウタパッド58)を基本として構成される。
【0017】
サポート38は、ディスクブレーキ装置10を車両に固定すると共に、車輪と共に回転するロータ(不図示)の制動トルクを受け止めるトルク受けとしての役割を担う。サポート38は、詳細を後述するスライドピン24を係合させるために設けられる一対のトルク受け部40(40a,40b)と、一対のトルク受け部40を連結するサポートブリッジ部46とを有し、全体形状として略コ字状を成す。
【0018】
トルク受け部40の先端側にはそれぞれ、スライドピン24を係合させるためのネジ孔42(図5参照)が設けられている。トルク受け部40とサポートブリッジ部46との接合箇所には、サポート38を車両等に固定するための取付孔44が設けられている。また、一対のトルク受け部40の対向する側面には、対向位置に、略コ字状の凹部48が形成されている。凹部48は、詳細を後述するインナパッド52(ブレーキパッド)を保持すると共に摺動させるための摺動レールとしての役割を担う。
【0019】
スライドピン24は、上述したサポート38のトルク受け部40に設けられたネジ孔42に螺合され、詳細を後述するキャリパ12とアウタパッド58(ブレーキパッド)の摺動レールとしての役割を担うと共に、制動時には、アウタパッド58のトルク受けとしての役割も担う。
【0020】
スライドピンは図5に示すように、サポート38に対して螺合部30を基点として先端と基端をそれぞれロータ軸方向に延設されることとなり、先端側にアウタパッド58の摺動部を有し、基端側にキャリパ12の摺動部を有することとなる。このため、スライドピン24は、締付けのためのボルト頭26とキャリパ摺動部28、螺合部30、およびアウタパッド摺動部32を有することとなる。本実施形態に係るキャリパ12は詳細を後述するように、アーム部20に設けられた貫通孔22を介してスライドピン24に係合し(支持され)、また、貫通孔22とスライドピン24との間には、スリーブ34とブーツ36が設けられる。スリーブ34は、キャリパ12のスライド量を確保する。一方ブーツ36は、スリーブ34と貫通孔22との間の摺動部にダストが付着することを防止すると共に、スリーブ34と貫通孔22とのダンピング機能とキャリパ12のアーム部20への制動時の負荷を低減する機能を有する。
【0021】
キャリパ12は、キャリパ本体14と爪部18、キャリパブリッジ部16、およびアーム部20を基本として構成される。キャリパ本体14には、図示しないロータのインナ側に配置され、少なくともシリンダ(不図示)と、ピストン15が設けられる。シリンダ内には、ブレーキ操作により作動油が流入し、流入した作動油を介してピストン15が押し出され、詳細を後述するインナパッド52におけるプレッシャプレート54を押圧することとなる。シリンダの開口部とピストン15の先端部の間には、蛇腹状のピストンブーツ(不図示)が設けられ、摺動部へのダストの付着防止が図られている。
【0022】
爪部18は、ロータを介してキャリパ本体14と反対側、すなわちロータのアウタ側に配置され、詳細を後述するアウタパッド58を支持する役割を担う。爪部18は、詳細を後述するキャリパブリッジ部16を基点として、ロータ半径方向内側へ向けて延設されている。このため、爪部18とキャリパ本体14とはロータを介して対向する位置に設けられる。また、本実施形態に係るディスクブレーキ装置10では、爪部18におけるロータの回入側と回出側の双方に貫通孔18a,18aが設けられ、詳細を後述するアウタパッド58を爪部18の内壁に凹凸嵌合可能な構成としている。
【0023】
アーム部20は、キャリパ本体14から両端側(ロータの回入側と回出側)へ延設された係合部である。アーム部20の先端側には、スライドピン24におけるキャリパ摺動部28に係合するための貫通孔22(図5参照)が設けられており、この貫通孔22を介してスライドピン24との係合が成される。
【0024】
本実施形態に係るディスクブレーキ装置10ではブレーキパッドとして、サポート38に設けられた凹部48を摺動するインナパッド52と、スライドピン24a,24bを摺動するアウタパッド58とを備える。なお、インナパッド52、アウタパッド58共に、プレッシャプレート54,60と、プレッシャプレート54,60に添着された摩擦部材であるライニング56,62とを基本として構成される。
【0025】
インナパッド52におけるプレッシャプレート54は、ライニング56よりも一回り大きな金属の平板により略扇状に形成されたプレート本体と、このプレート本体の両端に突設された耳部(不図示)を有する。プレッシャプレート54の耳部をサポート38に形成された凹部48に遊嵌させることで、インナパッド52がロータの軸方向へスライド可能となる。なお、サポート38の凹部48には、金属板により構成されたパッドクリップ50が設けられ、インナパッド52がロータ軸方向へ摺動する際の摺動抵抗の低減と走行時の引き摺り防止が図られている。
【0026】
アウタパッド58におけるプレッシャプレート60は図6に示すように、ライニング62よりも一回り大きな金属の平板により略扇状に形成されたプレート本体60aと、このプレート本体60aの両端に、プレート本体60aを基点として略V字状となるように突設されたアーム部60bおよびアーム部60bの先端側に形成された貫通孔66(66a,66b)を有する。アウタパッド58は、アーム部60bの貫通孔66にスライドピン24におけるアウタパッド摺動部32を挿通させることで、スライドピン24上での摺動が可能となる。また、アウタパッド58におけるプレッシャプレート60のライニング添着面と反対側の爪部18との当接面には、キャリパ12の爪部18に設けた貫通孔18aに対応する位置に、一対の凸部64が形成されている。一対の凸部64を爪部18の貫通孔18a(凹部)に嵌合させることで、キャリパ12をアウタパッド58に対して安定保持させることが可能となる。
【0027】
また、本実施形態に係るアウタパッド58には、プレッシャプレート60における爪部18との当接面に第2クリップ68が設けられている。第2クリップ68は、その中心部を基部70として両側に延設された一対のバネ部72を有するクリップである。第2クリップ68は、プレッシャプレート60に対し、基部70が固定されることで機能する。基部70は、プレッシャプレート60に設けられた一対の凸部64間の中心位置に固定されている。なお、基部70の固定手段としては、カシメや、ネジ止めなどを挙げることができる。
【0028】
このような第2クリップ68を設けたアウタパッド58では、アウタパッド58を爪部18へ固定する際、プレッシャプレート60に設けた凸部64を貫通孔18aへ嵌合させると共に、第2クリップ68により爪部18を挟み込むことで、アウタパッド58を爪部18へ付勢させる。これにより、アウタパッド58の倒れ込みを防ぎ、ライニングの偏摩耗を防止することができる。また、アウタパッド58は、詳細を後述する一対のパッドクリップ74により、スライドピン24に対して安定接触することとなる。このため、スライドピン24を介して安定保持されるアウタパッド58に対して爪部18を付勢させることで、キャリパ12のガタツキを防止し、安定させることができる。なお、第2クリップ68のように、基部70からバネ部72の作用点である先端までの距離を長くすることにより、荷重のバラツキを抑制することができる。また、本実施形態では爪部18の内壁に設ける凹部について貫通孔18aとして表現しているが、貫通孔に替えて有底の袋穴としても良い。
【0029】
また、本実施形態に係るディスクブレーキ装置10では、アウタパッド58における貫通孔66a,66bの中心ピッチPと、スライドピン24a,24bの中心ピッチPとが
>P
の関係を満たすように、貫通孔66a,66bのピッチPが定められている。このような構成とした場合図7に示すように、ロータ回出側に配置されたスライドピン24bが先行トルク受け部となる。制動時における制動トルクの付加状態について具体的に説明すると、制動初期時等の低制動トルク発生時には回出側に配置されたスライドピン24bのみに貫通孔66bの内壁が接触し、スライドピン24bのみに制動トルクが負荷されることとなる。一方、高い制動トルクが生じた場合には、回出側に配置されたスライドピン24bが制動トルク負荷方向に撓み、回入側に配置されたスライドピン24aに貫通孔66aの内壁が接触することとなり(後続トルク受け部)、一対のスライドピン24a,24bに制動トルクが分散されることとなる。このように、制動トルクの高低に応じて制動トルクを分散させることを可能にすることで、スライドピン24の大径化等、強度補強を行う必要性がなくなり、スライドピンの大径化に伴う重量増加等を抑制することができる。
【0030】
アウタパッド58には、アーム部60bに一対のパッドクリップ74(第1パッドクリップ)が設けられている。アーム部60bに設けられたパッドクリップ74は、貫通孔66a,66bに挿通されたスライドピン24a,24bに付勢し、パッドクリップ74で保持されたアウタパッド58を付勢方向と逆側に押し付ける役割を担う。本実施形態に係るパッドクリップ74は、ロータの回入側と回出側とで同じものが採用される。具体的な構成としては図8、図9に詳細を示すように、ベース部76と支持部80、およびバネ部82を基本として構成される。ベース部76は、詳細を後述する支持部80とバネ部82との間に位置する部位であり、本実施形態の場合、スライドピン24を挿通させるための貫通孔78が設けられ、プレッシャプレート60の面に沿って配置される。支持部80は、ベース部76からアウタパッド58のプレッシャプレート60側へ屈曲された板片により構成される。支持部80は、板片を略コ字状(横U字状)に形成することで、プレッシャプレート60を厚み方向に挟持可能とされる。また、バネ部82は、ベース部76を基点として、支持部80とは反対側に向けてロール状に曲げ形成された板片である。このように形成されたロール部をスライドピン24に押し当てることで、支持部80によって挟持されたプレッシャプレート60がバネ部82側へ引き寄せられることとなる。つまり、本実施形態に係るパッドクリップ74を用いることによれば、スライドピン24を基点(アース)として、アウタパッド58をバネ部82の配置方向に引き寄せることができる。
【0031】
このような構成のパッドクリップ74は、支持部80やバネ部82を形成するための曲げ方向がいずれも捻れを含まない一方向であるため、加工性が良い。また、展開状態での平面形態がシンプルであり、板取性が良いため、材料歩留まりが良好で、製造コストが安価となる。
【0032】
アウタパッド58の押し付け方向は、アーム部60bに対するパッドクリップ74の取り付け形態に依存する。例えば本実施形態の場合、図6に示すように、プレート本体60aを基点として略V字状に延設されているアーム部60bにおけるロータ半径方向外側に位置する辺を支持部80により挟持し、ベース部76を貫通孔66(66a,66b)に重ね合わせるように取り付けている。このような取り付け形態とした場合、ロータの回入側に配置されたパッドクリップ74は、スライドピン24aに対して、バネ部82をロータ半径方向外側のロータ回出側へ向けて当接させる。これにより、アウタパッド58はスライドピン24aに対して、ロータ半径方向内側のロータ回入側へ向けて押し付けられる力を受ける。その結果、貫通孔66aではロータ半径方向外側のロータ回出側に位置する内周面がスライドピン24aに付勢する。一方、ロータの回出側に配置されたパッドクリップ74は、スライドピン24bに対して、バネ部82をロータ半径方向外側のロータ回入側へ向けて当接させる。これにより、アウタパッド58はスライドピン24bに対して、ロータ半径方向内側のロータ回出側へ向けて押し付けられる力を受ける。その結果、貫通孔66bではロータ半径方向外側のロータ回入側に位置する内周面がスライドピン24bに付勢し(図10参照)、車両走行時のラトル音や、制動時のクロンク音(カチン音)を抑制することができる。
【0033】
ところで、制動時のクロンク音(カチン音)は、一対のスライドピン24のうちの一方が制動トルクを受けた後、このスライドピン24(先行トルク受け部)を基点としてアウタパッド58が回転し、後続トルク受け部となる他方のスライドピン24と、この他方のスライドピン24を挿通させている貫通孔66とが接触することで生ずることが1つの要因とされている。
【0034】
本実施形態に係るディスクブレーキ装置10では図11に示すように、制動時にアウタパッド58に生ずる偶力(モーメント)が矢印Aに示す方向に働いている場合を前提としている。そして、本実施形態ではロータの回出側に配置されたスライドピン24bが先行トルク受け部となり、回入側に配置されたスライドピン24aが後続トルク受け部となる。このため、パッドクリップ74により、後続トルク受け部となるスライドピン24aに対し、アウタパッド58を回転モーメントの作用方向であるロータ回転方向と反対側へ向けた方向、すなわちロータ半径方向内周側(正確には、半径方向内周側であって回入側)へ押し付ける付勢力を与えることで、制動時のクロンク音(カチン音)を抑制することができる。具体的には、後続トルク受け部となるスライドピン24aは、先行トルク受け部となるスライドピン24bと貫通孔66bの内周面が接触した際、既に貫通孔66aの内周面であってロータ半径方向外周側に位置する部位に接触していることとなり、スライドピン24aと貫通孔66aとの間に衝撃が生ずることが無いるからである。
【0035】
なお、実施形態に係る構成のディスクブレーキ装置10において、図11に示すような方向にモーメントを生じさせるための手段の一例としては、ロータ中心軸C1からアウタパッド58のモーメント中心までの距離tよりも、ロータ中心軸C1から貫通孔66の中心までの距離tが長い場合の構成を挙げることができる。
【0036】
本実施形態では、パッドクリップ74の組付け形態を安定させるために、支持部80の挟持する辺に座65を設け、貫通孔66を構成する円弧部(優弧)の中心Oから座65へ向けて伸ばした直線l(第2の直線)が、座65と垂直に交わるように構成している。このような構成とした場合、図12乃至図14に示すように、円弧部の中心Oを通るロータ半径方向に沿った直線l(第1の直線)と、座65に垂直に交わる直線lとの成す角θを変えることで、パッドクリップ74による付勢力の分力であるF(円周方向)、F(半径方向)の割合を変化させることができる。角度θの変化に伴う分力FとFの関係は、次のようなものとなる。すなわち、θ<45°の場合にはF<F、θ=45°の場合にはF=F、θ>45°の場合には、F>Fといった関係である。
【0037】
また、本実施形態では、アウタパッド58における貫通孔66の形態を次のようなものとしている。すなわち図10に示すように、スライドピン24を押し付ける側の壁面の平面形態を円弧状とし、押し付け側と反対側の壁面を平坦とし、いわゆる円弧と弦を組み合わせた形態としている。なお、本実施形態の場合、円を弦によって分けられる2つの円弧のうち、弧状部が長い方、すなわち優弧部67aと弦部(隙間埋め部)67bを組み合わせた馬蹄形の貫通孔66を構成している。本実施形態に係るディスクブレーキ装置10では、パッドクリップ74によりアウタパッド58をスライドピン24に押し付ける形態を採っている。このため、スライドピン24を押し付けた側と反対側に位置する貫通孔66の壁面とスライドピン24との間には大きな隙間が生ずることとなる。そして、スライドピン24と貫通孔66の壁面との間に必要以上の隙間を設けた場合、スライドピン24と貫通孔66との間でのラトル音が増大する要因となる。よって、その隙間を埋めるように貫通孔66の一部を狭めることで、無用なガタツキを防止し、ラトル音の抑制を成すことができる。
【0038】
このような構成を有するディスクブレーキ装置10によれば、爪部18に嵌着されたアウタパッド58をスライドピン24に対してメタルタッチで支持することとなる。このため、スライドピン24に対してスリーブ34およびブーツ36を介して係止されたキャリパ12の倒れ込みを防止し、ガタツキを抑えることができる。
【0039】
次に、このような構成を有するディスクブレーキ装置10における制動時の動作について説明する。まず、車両運転者が図示しないブレーキペダルやブレーキレバーを操作すると、キャリパ本体14のシリンダに作動油が充填される。シリンダへの作動油の充填に伴い、シリンダ内に収容されているピストン15がロータ側へ押し出される。シリンダから押し出されたピストン15は、サポート38のトルク受け部40に支持されたインナパッド52のプレッシャプレート54を押圧し、インナパッド52におけるライニング56をロータの摺動面に押し付ける。インナパッド52のライニング56がロータに押し付けられると、キャリパ本体14は押し付け力の反力を受け、スライドピン24に沿ってロータから離間するようにスライドする。キャリパ本体14がロータから離間するようにスライドすると、キャリパブリッジ部16によりキャリパ本体14に連接されている爪部18は、ロータ側に引き寄せられるように動作する。爪部18がロータ側に引き寄せられると、爪部18に固定されたアウタパッド58のプレッシャプレートが爪部18により押圧され、スライドピン24に沿ってロータ側へスライドし、ライニング62がロータ摺動面に押し付けられる。
【0040】
上記動作によりインナパッド52とアウタパッド58によりロータ摺動面が挟持されると、摩擦力によりインナパッド52とアウタパッド58は、ロータ回出方向へ連れ回りする力を受ける。この時、インナパッド52はプレッシャプレート54における耳部がサポート38のトルク受け部40に形成された凹部48に当接し、制動時に生ずる制動トルクを受けることで制動力を生じさせる。一方アウタパッド58は、回出側のスライドピン24bと回入側のスライドピン24aの双方により制動トルクを受け、これを車両本体に固定されたサポート38に伝達することで、制動力を生じさせる。なお、上述したように、アウタパッド58における制動トルクは、回出側のスライドピン24bに負荷された後に回入側のスライドピン24aにも負荷されて分散されることとなる。ここで、アウタパッド58における制動トルクがスライドピン24bに負荷されると、アウタパッド58は摺動面に生ずる回転モーメントの影響により、スライドピン24bを基点として図11中矢印Aで示す方向に回転する力を受ける。しかしこの際、貫通孔66aの内周面であってロータ半径方向外周側に位置する部位は、スライドピン24aに付勢されているため、クロンク音(カチン音)は抑制される。
【0041】
また、本実施形態に係るディスクブレーキ装置10では、スライドピン24に対して貫通孔66の半径方向外側に位置する内周面が押し付けられた状態を維持しているため、アウタパッド58が制動トルクを受けた際、引き側(回入側)では、図15に示すように、貫通孔66aにおける円弧部67aの内周面に沿って(点線、および破線で示した軌跡に沿って)スライドピン24aが移動するようにプレッシャプレート60がずれることとなる。このため、高制動トルク負荷時にスライドピン24aが急激に反対側の壁面に衝突するという事態が生じず、押しアンカから押し+引きアンカへの切り替わりが急激に行われず、除々に切り替わる為、接触変化の安定化が図れる。よって、このような作用によっても、制動時のクロンク音(カチン音)が抑制される。また、本実施形態に係るディスクブレーキ装置10では、インナパッド52のみをサポート38で保持する形態としたため、サポート38がロータを跨ぐ構成とする必要が無い。このため、アウタ側の凹部形成等のためのサポート38の切削加工時間を短縮することができ、また、軽量化が図れる。
【0042】
上記のような構成を持ち、上記のようにして動作するディスクブレーキ装置10は、以下のように組付けることにより構成される。まず、サポート38にインナパッド52を配置すると共に、キャリパ12の爪部18にアウタパッド58を嵌着する。その後、キャリパ12を所定位置に保持した状態で、スライドピン24を取り付ける。スライドピン24は、螺合部30を基点として先端側にアウタパッド58の貫通孔66を、基端側にキャリパ12の貫通孔22を挿通する。
【0043】
なお、上記実施形態では、貫通孔66の平面形態について、優弧と弦を組み合わせて成る馬蹄形として説明したが、その機能としては、制動トルクをスライドピン24a,24bに分配することができる形態であれば良い。よって、本願における貫通孔66には、図16に示すようなスリット63を有するものも含まれる。すなわち、スライドピン24の付勢、および制動トルク負荷時のスライドピン24の押し付けに係わらない壁面であれば、貫通孔66の内壁面が一部欠落していても、貫通孔とみなすことができる。
【0044】
また、図10に示す例では、貫通孔は優弧部67aと弦部67bにより構成されるものとして説明しているが、本願における貫通部は、図17や、図18に示すような形態としても良いし、図示しない楕円や長円としても良い。図17に示す貫通孔66a1(66b1)は、貫通孔66a(66b)の弦部67bであった箇所を、優弧部67a側(円弧の中心側)に凸状に形成した凸状部67cを有するものである。アウタパッド58は、スライドピン24を優弧部67aの弧に沿って移動する。このため、中心線付近では、弦部67bと弧との距離が広がることとなる。これに対し、弦部67bに替えて凸状部67cを採用することで、全体的な隙間を小さくし、ラトル音の抑制効果を高めることができる。
【0045】
さらに、図18に示す貫通孔66a2(66b2)は、図17における凸状部67cを、湾曲させ、弧により構成した湾曲凸状部67dとしている。ここで、凸状部67dは、円を弦部67bにより分割されて成る優弧と対を成す劣弧を、弦部67bを基準として線対称となるように優弧側へせり出させた形態とすることができる。凸状部を円弧状とすることにより、凸状部を直線により構成するよりもさらにスライドピン24との隙間を小さくすることが可能となる。
【0046】
また、上記貫通孔はいずれも、円形を主体として構成されるものであるが、本実施形態に係る貫通孔は、図19に示すように円形と方形(矩形)の組み合わせにより構成するものであっても良い。具体的には、スライドピン24の押し付けを受ける辺(ロータ半径方向外側)を円弧(半円:円弧部)により構成し、押し付けを受けない辺(ロータ半径方向内側)を方形(方形部)により構成するというものである。このような構成とした場合、スライドピン24のロータ半径方向内側におけるロータ回入側と回出側に位置する貫通孔66a3,66b3との間の隙間を広げることができる。よって、円形の孔を弦により分割し、その優弧側部分を貫通孔とする場合(例えば図10に示す例の場合)と同様に、スライドピン24と貫通孔66とのガタツキによるラトル音を抑制する効果を奏することに加え、その余の隙間を広げることができる。これにより、スライドピン24と貫通孔66a3,66b3との間に水が溜まったとしても、この水の抜け性を良好にすることができ、該当部分に生ずる錆を抑制することができる。なお、貫通孔66a3,66b3における方形部分の角部にRを設けることで、制動トルク負荷時における応力集中による割れを抑制することができる。
【0047】
上記実施形態においては、貫通孔66を構成する優弧の直径をφD、スライドピン24の直径をφdとした場合(図10参照)、φDとφdの差となるΔdが、スライドピン24(上記実施形態の場合スライドピン24b)が弾性変形することにより得られるアウタパッド58のシフト距離よりも短くなるように定める。このような構成とすることで、スライドピン24が弾性変形する範囲で制動トルクの分散が図られることとなる。
【0048】
上述したように、本実施形態に係るディスクブレーキ装置10では図11に示すように、制動時にアウタパッド58に生ずる偶力(回転モーメント)が矢印Aに示す方向に働いている場合を前提として説明した。一方、制動時にアウタパッド58に生ずる偶力(回転モーメント)が矢印A′に示すように逆向きとなった場合(図20参照)、スライドピン24に対するアウタパッド58の押し付け方向が逆向きとなるようにパッドクリップが装着される(パッドクリップは不図示)。この場合におけるスライドピン24と貫通孔66との関係は、図21に示すようなものとなる。具体的には、ロータの回入側に配置されたパッドクリップ74(図8参照)は、スライドピン24aに対して、バネ部82をロータ半径方向内側のロータ回出側へ向けて当接させる。これにより、アウタパッド58はスライドピン24aに対して、ロータ半径方向外側のロータ回入側へ向けて押し付けられる力を受ける。その結果、貫通孔66aではロータ半径方向内側のロータ回出側に位置する内周面がスライドピン24aに付勢する。一方、ロータの回出側に配置されたパッドクリップ74は、スライドピン24bに対して、バネ部82をロータ半径方向内側のロータ回入側へ向けて当接させる。これにより、アウタパッド58はスライドピン24bに対して、ロータ半径方向外側のロータ回出側へ向けて押し付けられる力を受ける。その結果、貫通孔66bではロータ半径方向内側のロータ回入側に位置する内周面がスライドピン24bに付勢する。
【0049】
モーメントが逆転した場合制動時には、先行トルク受け部となるスライドピン24bと貫通孔66bの内周面が接触すると、アウタパッド58は回出側に配置されたスライドピン24を基点としてロータ半径方向外周側へ向けた力を受けることとなる。このため、アウタパッド58を予め、スライドピン24を基点としてロータ半径方向外周側へ付勢させておくことで、制動時のクロンク音(カチン音)を抑制することができる。
【0050】
このような構成とする場合には、貫通孔66における優弧と弦との関係は、相対的に、優弧がロータ半径方向内側、弦が半径方向外側に位置することとなる。なお、このような方向にモーメントを生じさせるための手段の一例としては、図20に示すように、ロータ中心軸C1からアウタパッド58のモーメント中心までの距離tが、ロータ中心軸C1から貫通孔66の中心までの距離tよりも長い場合の構成を挙げることができる。
【0051】
次に、本発明のディスクブレーキ装置に係る第2の実施形態について、図22、図23を参照して説明する。図22は第2の実施形態に係るディスクブレーキ装置の右下面斜視図であり、図23は同正面図である。なお、本実施形態に係るディスクブレーキ装置10aの殆どの構成は、上述した第1の実施形態に係るディスクブレーキ装置10と同様である。よって、その構成を同一とする箇所には図面に同一符号を附して詳細な説明は省略することとする。
【0052】
本実施形態に係るディスクブレーキ装置10aは、第1の実施形態に係るディスクブレーキ装置と異なり、アウタパッド58における貫通孔66a,66b間の中心ピッチPとスライドピン24a,24b間の中心ピッチPとの関係が、
<P
となるように構成されている(図24参照)。
【0053】
このような構成のため制動時においては、低制動トルク負荷時には回入側に配置されたスライドピン24aが先行トルク受け部となり、貫通孔66aに接触することとなる。一方、制動トルクが高くなった場合には、回入側に配置されたスライドピン24aが回出側(制動トルク方向)に撓み、回出側に配置されたスライドピン24bが貫通孔66bに接触することとなり(後続トルク受け部)、制動トルクの分散が図られる。
【0054】
また、本実施形態では、一対のパッドクリップ74により、スライドピン24を基点としてアウタパッド58を持ち上げるように付勢させている。このため、本実施形態に係るディスクブレーキ装置10aにおけるアウタパッド58の貫通孔66は、第1の実施形態に示したアウタパッドとは逆に、優弧部67aがロータ半径方向内側、弦部67bがロータ半径方向外側に配置された形態となる(図26参照)。なお、本実施形態で使用するパッドクリップ74は、上述した第1の実施形態に係るパッドクリップ74と同様な形態のもので良い。
【0055】
第1の実施形態に係るディスクブレーキ装置10との相違点は、アウタパッド58に対するパッドクリップ74の取り付け形態にある。具体的には、図23に示すように、プレート本体60aを基点として略V字状に延設されているアーム部60bを基点としてロータ半径方向内側に位置する辺を支持部80により挟持し、ベース部76を貫通孔66(66a,66b)に重ね合わせるように取り付けている。このような取り付け形態とした場合、ロータの回入側に配置されたパッドクリップ74は、スライドピン24aに対して、バネ部82をロータ半径方向内側のロータ回入側へ向けて当接させる。これにより、アウタパッド58はスライドピン24aに対して、ロータ半径方向外側のロータ回出側へ向けて押し付けられる力を受ける。その結果、貫通孔66aではロータ半径方向内側のロータ回入側に位置する内周面がスライドピン24aに付勢する。一方、ロータの回出側に配置されたパッドクリップ74は、スライドピン24bに対して、バネ部82をロータ半径方向内側のロータ回出側へ向けて当接させる。これにより、アウタパッド58はスライドピン24bに対して、ロータ半径方向外側のロータ回入側へ向けて押し付けられる力を受ける。その結果、貫通孔66bではロータ半径方向内側のロータ回出側に位置する内周面がスライドピン24bに付勢する(図25参照)。このため、本実施形態に係るアウタパッド58には、アーム部60bを基点としてロータ半径方向内側に位置する辺に、パッドクリップを安定保持させるための座65が設けられている。
【0056】
また、本実施形態に係るディスクブレーキ装置10aでは、スライドピン24が貫通孔66におけるロータ半径方向内側に位置する内周面に押し付けられた状態を維持しているため、アウタパッド58が制動トルクを受けた際、押し側(回出側)では、図26に示すように、貫通孔66bにおける優弧部67aの内周面に沿って(点線、および破線で示した軌跡に沿って)スライドピン24bが移動するようにプレッシャプレート60がずれることとなる。このため、高制動トルク負荷時にスライドピン24bが急激に反対側の壁面に衝突するという事態が生じず、引きアンカから引き+押しアンカへの切り替わりが急激におこなわれず、除々に切り替わる為、接触変化の安定化が図れる。
【0057】
また、本実施形態に係るディスクブレーキ装置10aでは上述したように、ロータ回入側に配置されたスライドピン24aが先行トルク受け部となり、ロータ回出側に配置されたスライドピン24bが後続トルク受け部となる。このため、後続トルク受け部となるスライドピン24bに対し、貫通孔66bの内周面であって半径方向内周側を付勢させることで、貫通孔66bはスライドピン24bに対し、制動時発生するアウタパッド58の回転モーメントの作用方向に付勢することとなる。よって、制動時のクロンク音(カチン音)が抑制される。
【0058】
本実施形態に係るディスクブレーキ装置10aも、図11に示すように、制動時にアウタパッド58に生ずる偶力(回転モーメント)が矢印Aに示す方向に働いている場合を前提として説明した。このような方向に回転モーメントを生じさせるための手段の一例としては上述したように、ロータ中心軸C1からアウタパッド58のモーメント中心までの距離tよりも、ロータ中心軸C1から貫通孔66の中心までの距離tが長い場合の構成を挙げることができる。
【0059】
一方、制動時にアウタパッド58に生ずる偶力(回転モーメント)が矢印A′に示すように逆向きとなった場合(図20参照)、スライドピン24に対するアウタパッド58の押し付け方向が逆向きとなるようにパッドクリップが装着される(パッドクリップは不図示)。いわゆる引きアンカの場合、貫通孔66aが制動トルクを受けた後、この貫通孔66aを基点としてアウタパッド58が偶力発生方向に回動することとなるためである。このため、アウタパッド58を予め、スライドピン24を基点としてロータ半径方向内周側へ付勢させておくことで、制動時のクロンク音(カチン音)を抑制することができる。
【0060】
この場合におけるスライドピン24と貫通孔66との関係は、図27に示すようなものとなる。具体的な説明をするにあたり、第2の実施形態で用いたパッドクリップ74(第1の実施形態と共通:図8参照)による付勢を例に挙げて説明すると、ロータの回入側に配置されたパッドクリップ74は、スライドピン24aに対して、バネ部82をロータ半径方向外側のロータ回入側へ向けて当接させる。これにより、アウタパッド58はスライドピン24aに対して、ロータ半径方向内側のロータ回出側へ向けて押し付けられる力を受ける。その結果、貫通孔66aではロータ半径方向外側のロータ回入側に位置する内周面がスライドピン24aに付勢する。一方、ロータの回出側に配置されたパッドクリップ74は、スライドピン24bに対して、バネ部82をロータ半径方向外側のロータ回出側へ向けて当接させる。これにより、アウタパッド58はスライドピン24bに対して、ロータ半径方向内側のロータ回入側へ向けて押し付けられる力を受ける。その結果、貫通孔66bではロータ半径方向外側のロータ回出側に位置する内周面がスライドピン24bに付勢する。
【0061】
このような構成とする場合には、貫通孔66における優弧と弦との関係は、相対的に、優弧がロータ半径方向外側、弦が半径方向内側に位置することとなる。なお、このような方向にモーメントを生じさせるための手段の一例としては、上記と同様、図20に示すように、ロータ中心軸C1からアウタパッド58のモーメント中心までの距離tが、ロータ中心軸C1から貫通孔66の中心までの距離tよりも長い場合の構成を挙げることができる。
【0062】
次に、本発明のディスクブレーキ装置に係る第3の実施形態について、図28、図29を参照して説明する。図28は第3の実施形態に係るディスクブレーキ装置の右下面斜視図であり、図29は同正面図である。なお、本実施形態に係るディスクブレーキ装置10bの殆どの構成は、上述した第1の実施形態に係るディスクブレーキ装置10と同様であり、アウタパッド58における貫通孔66a,66bの中心ピッチPと、スライドピン24a,24bの中心ピッチPとが
>P
の関係を満たす。よって、その構成を同一とする箇所には図面に同一符号を附して詳細な説明は省略することとする。
【0063】
本実施形態に係るディスクブレーキ装置10bにおけるパッドクリップ90(90a,90b)は一対で、第1の実施形態に係るディスクブレーキ10における一対のパッドクリップ(第1パッドクリップ)74と1つの第2パッドクリップ68双方の役割を担う。
【0064】
パッドクリップ90は、図30〜図35に詳細を示すように、基部92と第1バネ部94、および第2バネ部96を基本として構成されている。なお、図面において、図30はパッドクリップの平面図、図31は正面図、図32は右側面図である。また、図33、および図34は一対のパッドクリップ90a,90bの双方を示す斜視図であり、図35はパッドクリップの展開平面図である。
【0065】
パッドクリップ90は、図35に示すように、基部92に連接された第1支持片93と第2支持片95からなる板状部材を折り曲げ形成することで構成される。第1バネ部94と第2バネ部96とは、バネとして作用する面が直交する関係となるため、折り曲げ加工前の展開状態では、その平面形状は、略S字状、あるいはクランク状の部材となる。なおパッドクリップ90の材質はステンレス鋼などを用いることができる。
【0066】
基部92は、板状部材の中心付近に固定孔92aを備えている。パッドクリップ90は、基部92に設けた固定孔92aを介して、プレッシャプレート60のアーム部60bに定められた固定部60c(図29参照)に固定される。なお、パッドクリップ90の固定は、凹凸を利用したカシメ加工や他のクリップ等を用いた挟持、およびネジ止めなどにより行うことができる。
【0067】
パッドクリップ90を構成する第1バネ部94は、第1支持片93を折り曲げて形成することができる。具体的には、第1支持片93における第1折り曲げ部93aを基部92に対して略直交する方向に谷折りし、ついで第2折り曲げ部93bを山折りする。クランク状を成し、基部92に対して略平行となった第1支持片93の先端に位置する第3折り曲げ部93cを波状に折り曲げて接触部を形成する。これにより、第1バネ部94は、キャリパ12の爪部18に係止可能となる。
【0068】
第2バネ部96は、第2支持片95を折り曲げて形成することができる。具体的には、第2支持片95における第1折り曲げ部95aを基部92に対して略直交する方向に谷折りする。第2支持片95に設けられた第2折り曲げ部95b、第3折り曲げ部95cを共に谷折りする。
【0069】
このように構成される本実施形態のパッドクリップ90は、ロータの回入側と回出側に一対配置されることとなるが、図29や図33、図34に示すようにロータの回入側と回出側とで、左右対称な形態となるように構成される。このような形態を構成するには、展開形状からの第1折り曲げ部93a,95aの折り曲げ方向の基準面を異ならせることで可能となる。このような構成のパッドクリップ90は、図35に示すような形態で配置することで、板取性を向上させることができ、製造コストの削減を図ることができる。
【0070】
パッドクリップ90の取り付けは上述したように、アウタパッド58におけるプレッシャプレート60のアーム部60bに設けられた固定部60cにパッドクリップ90の基部92を固定することで成される。そして、第1バネ部94の先端部分を爪部18に係止し、スライドピン24の先端をアウタパッド58の貫通孔66に挿入し、第2バネ部96をスライドピン24のアウタパッド摺動部32に付勢させることで、キャリパ12に対するアウタパッド58の組付けを成す。本実施形態では図28に示すように、ロータ回入側に設けたパッドクリップ90aの第2バネ部96の先端は、スライドピン24aを基準としてロータ半径方向内側であってロータ回出側に付勢させ、ロータ回出側に設けたパッドクリップ90bの第2バネ部96の先端は、スライドピン24bを基準としてロータ半径方向内側であってロータ回入側に付勢させている。このような組付け状態とすることで、アウタパッド58はスライドピン24を基点(アース)としてロータ半径方向内側に押し下げられる力を受ける。
【0071】
このような構成のディスクブレーキ装置であっても、パッドクリップ90aは、制動時に発生するアウタパッド58の回転モーメントの作用方向に付勢力を作用させることができる。よって、第1、第2の実施形態に係るディスクブレーキ装置と同様に、制動時のクロンク音(カチン音)を抑制することができる。また、制動トルク負荷時には、第1、第2の実施形態に係るディスクブレーキ装置10と同様に、一対のスライドピン24による制動トルクの分散が図られる。
【0072】
次に、本発明のディスクブレーキ装置に係る第4の実施形態について、図36、図37を参照して説明する。図36は第4の実施形態に係るディスクブレーキ装置の右下面斜視図であり、図37は同正面図である。なお、本実施形態に係るディスクブレーキ装置10cの殆どの構成は、上述した第3の実施形態に係るディスクブレーキ装置10aと同様である。よって、その構成を同一とする箇所には図面に同一符号を附して詳細な説明は省略することとする。
【0073】
本実施形態に係るディスクブレーキ装置10cにおけるアウタパッド58の貫通孔66の形態は、第2の実施形態と同様に、アウタパッド58における貫通孔66a,66b間の中心ピッチPとスライドピン24a,24b間の中心ピッチPとの関係が、
<P
となるように構成されている。よって、優弧部67aがロータ半径方向内側、弦部67bが半径方向外側に配置され、スライドピン24を基準にしてアウタパッド58を半径方向外側へ付勢させる構成としている。また、本実施形態で採用するパッドクリップ90(90a,90b)は、第3の実施形態に係るディスクブレーキ装置10aに使用したパッドクリップ90と同様である。第3の実施形態に係るディスクブレーキ装置10aとの相違点は、スライドピン24に対するパッドクリップ90における第2バネ部96先端の付勢方向にある。
【0074】
具体的には、ロータ回入側に設けたパッドクリップ90aの第2バネ部96の先端は、スライドピン24aを基準としてロータ半径方向外側であってロータ回入側に付勢させ、ロータ回出側に設けたパッドクリップ90bの第2バネ部96の先端は、スライドピン24bを基準としてロータ半径方向外側であってロータ回出側に付勢させている。このような組付け状態とすることで、アウタパッド58はスライドピン24を基点(アース)としてロータ半径方向外側に押上げられる力を受ける。
【0075】
このような構成であった場合でも、制動トルク負荷時には、第1の実施形態に係るディスクブレーキ装置10と同様に、一対のスライドピン24による制動トルクの分散が図られることとなる。
【符号の説明】
【0076】
10………ディスクブレーキ装置、12………キャリパ、14………キャリパ本体、15………ピストン、16………キャリパブリッジ部、18………爪部、20………アーム部、22………貫通孔、24(24a,24b)………スライドピン、26………ボルト頭、28………キャリパ摺動部、30………螺合部、32………アウタパッド摺動部、34………スリーブ、36………ブーツ、38………サポート、40(40a,40b)………トルク受け部、42………ネジ孔、44………取付孔、46………サポートブリッジ部、48………凹部、50………パッドクリップ、52………インナパッド、54………プレッシャプレート、56………ライニング、58………アウタパッド、60………プレッシャプレート、60a………プレート本体、60b………アーム部、62………ライニング、64………凸部、66(66a,66b)………貫通孔、68………第2クリップ、70………基部、72………バネ部、74………パッドクリップ、76………ベース部、78………貫通孔、80………支持部、82………バネ部、90(90a,90b)………パッドクリップ、92………基部、94………第1バネ部、96………第2バネ部。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
サポートからロータ軸方向に延設されロータ回入側とロータ回出側に設けられた一対のスライドピンの延設方向に沿ってスライド可能に支持されるキャリパを有するフローティング型ディスクブレーキ装置において、
前記キャリパを前記スライドピンの基端側に係合させると共に、前記キャリパの爪部内面に対してアウタパッドのプレッシャプレートを凹凸嵌合させ、
前記アウタパッドには、前記一対のスライドピンの先端側を挿通させる貫通部を設けて前記アウタパッドによる制動トルクを前記スライドピンにて支承可能とし、
一対の前記貫通部間の中心ピッチPと前記スライドピン間の中心ピッチPとの関係をロータ回出側に配置されたスライドピンが先行トルク受け部または後続トルク受け部となるように設定してなり、
前記一対のスライドピンのうちの少なくとも後続トルク受け部となる側には、前記アウタパッドの貫通部内周面を当該スライドピンに押付ける付勢力を発生させるクリップを設け、
前記クリップは、制動時に発生する前記アウタパッドの回転モーメントの作用方向に付勢力を生じさせるように設定されてなる、
ことを特徴とするディスクブレーキ装置。
【請求項2】
前記クリップは、先行トルク受け部となるスライドピンに対しても、前記後続トルク受け部となるスライドピンと対称に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項3】
前記クリップは、前記スライドピンをアンカとして前記アウタパッドのプレッシャプレートに係合されて付勢力を発生させる形状とされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のディスクブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【公開番号】特開2012−172741(P2012−172741A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33910(P2011−33910)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】