説明

ディスクブレーキ装置

【課題】キャリパ12の弾性変形等に拘らず、ディスクの被制動側摩擦面とパッドのライニングの制動側摩擦面とを均一に当接させる。そして、これら両パッドのライニングが偏磨耗する事を防止できる構造を、低コストで実現する。
【解決手段】前記キャリパ12に設けた一対のパッド支持部18a、18bと、これら両パッド支持部18a、18bに支持された前記両パッドのプレッシャプレートとの間に、板ばね30a、30b等の複数の弾性部材を、径方向に関して内外にずらせた状態で挟持する。そして、前記両パッド支持部18a、18bに支持されたパッドを、これら両パッド支持部18a、18bに対し、揺動変位を可能に支持して、前記両摩擦面同士を均一に当接させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、新幹線等の高速鉄道車両の制動に使用するディスクブレーキの改良に関する。具体的には、キャリパの弾性変形に拘らず、ディスクの被制動側摩擦面とパッドのライニングの制動側摩擦面とを均一に当接させて、このパッドのライニングが偏磨耗する事を防止できる構造の実現を意図したものである。
【背景技術】
【0002】
新幹線等の高速鉄道車両には、通常、電気式と機械式との制動装置が使用されており、機械式としてはディスクブレーキ装置が多く使用されている。この様な鉄道車両用のディスクブレーキ装置に関する発明を記載した刊行物として、例えば特許文献1〜8が存在する。このうちの特許文献1には、被制動側となるディスク付車輪に関する発明が、特許文献2にはディスクの具体的な構造及び製造方法に関する発明が、特許文献3〜4には、制動側であるパッド押圧機構に関する発明が、特許文献5〜7には、ライニングを複数のセグメントに分割すると共に、これら各セグメントをプレッシャプレートに対し変位可能に支持したパッドに関する発明が、特許文献8には、制動力を発生させる為のアクチュエータの設置構造を工夫した発明が、それぞれ記載されている。鉄道車両用のディスクブレーキ装置は、特許文献1に記載された様なディスク付車輪と、特許文献3〜4に記載された様なパッド押圧機構とを組み合わせて成る。即ち、このディスク付車輪を構成する一対のディスクの両側に一対のパッドを配置し、制動時には前記パッド押圧機構によりこれら両パッドライニングの制動側摩擦面を、前記両ディスクの被制動側摩擦面に押圧する。本発明は、前記パッド押圧機構を構成するキャリパの弾性変形に拘らず、前記両制動側摩擦面と前記両被制動側摩擦面との擦れ合い部の面圧分布を均一にする事を意図している。そこで、本発明の前提となるディスクブレーキ装置の構造及び作用に就いて、図29〜30により説明する。尚、図30は、前記特許文献3〜4のうちの特許文献4に即した、パッド押圧機構の構造を示している。
【0003】
先ず、ディスク付車輪1は、図29に示す様に、一対のディスク2、2により、鉄道車両用の車輪3をサンドイッチ状に挟持している。そして、これら両ディスク2、2及び車輪3の円周方向複数箇所で互いに整合する部分に形成した各取付孔にスプリングピン4、4を挿通すると共に、これら各スプリングピン4、4等を挿通したボルト5、5とナット6、6とを螺合し更に締め付けている。この構成により、前記車輪3の両側に前記両ディスク2、2を、この車輪3と共に回転する様に支持している。これら両ディスク2、2の外側面(互いに反対側の側面)のうちの径方向外半部が、被制動側摩擦面7、7である。尚、前記ディスク2、2をアルミニウム合金製とする場合には、この被制動側摩擦面7、7部分は、セラミックス材料を混合した、アルミニウム合金基複合材料製とし、この被制動側摩擦面7、7部分の耐摩耗性を確保する事が、例えば特許文献2に記載されて従来から知られている。
【0004】
又、前記パッド押圧機構部分は、図30に示す様に構成している。特許請求の範囲に記載した固定支持部に相当する固定フレーム8は、上端部に設けた取付部9により、車台等の、前記車輪3(図29)の周囲部分に取付固定される。又、この取付部9から下方に垂れ下がった垂下部10に上下一対の支持軸11、11を設けている。この取付部9を前記車台等に結合固定した状態で、これら両支持軸11、11は、前記車輪3の回転軸に対し平行になる。そして、これら両支持軸11、11の両端部に、キャリパ12の基部13を構成する、上下2箇所ずつ、合計4箇所に設けた支持板部14、14を結合固定している。前記両支持軸11、11の中間部は、それぞれ前記垂下部10の上下2箇所位置に設けたガイド筒部15、15に、軸方向の変位を可能に挿通している。互いに対向する前記支持板部14、14同士の間隔は、それぞれ前記両ガイド筒部15、15の軸方向長さよりも長い。又、これら両ガイド筒部15、15の両端開口部と前記各支持板部14、14との間には、弾性変形可能なベローズ16、16を設けている。この構成により前記キャリパ12を前記固定フレーム8に対し、前記車輪3の軸方向の変位を可能に支持している。尚、本明細書及び特許請求の範囲で、「軸方向」、「径方向」、「周方向」とは、特に断わらない限り、それぞれディスクブレーキ装置を組み立てた状態での、車輪及びディスクに関するこれら各方向で表す。
【0005】
前記キャリパ12は、それぞれの基端部を前記基部13に連続させた、一対の押圧腕17a、17bを有する。これら両押圧腕17a、17bは、この基部13から前記車輪3を軸方向両側から挟む位置にまで延出されており、それぞれの先端部にパッド支持部18a、18bを、それぞれ設けている。これら両パッド支持部18a、18bのうちの一方(図30の手前側)のパッド支持部18aは、単なる枠状とし、このパッド支持部18aの内側面{前記ディスク2(図29)の被制動側摩擦面7に対向する面}に、一方のパッド19aを支持している。このパッド19aは、プレッシャプレート20aの内側面に、ライニング21aを添着したバックプレートをリベットにより結合固定したもので、このうちのプレッシャプレート20aを前記パッド支持部18aに対し、相対変位を阻止した状態で支持している。
【0006】
これに対して、他方(図30の奥側)のパッド支持部18bに関しては、制動力発生用の、複数組のアクチュエータを内蔵している。即ち、このパッド支持部18bの複数箇所に、それぞれがこのパッド支持部18bの内側面側に開口するシリンダ孔を形成し、これら各シリンダ孔内にピストンを密に嵌装すると共に、これら各シリンダ孔内に、ブレーキオイル、圧縮空気等の圧力流体を給排自在としている。尚、前記各アクチュエータは、ダイヤフラム式、ベローズ式等、圧力流体の給排により軸方向寸法を拡縮できるものであれば、シリンダ式に限らずに採用できる。又、前記パッド支持部18bの内側面側に他方のパッド19bを、軸方向の変位を可能に支持している。即ち、このパッド19bに関しても、プレッシャプレート20bの内側面に、ライニング21bを添着したバックプレートをリベットにより結合固定して成るが、このうちのプレッシャプレート20bを前記パッド支持部18bに対し、軸方向の変位のみを可能に支持している。この為の支持構造に就いては、従来から知られているが、後述する、本発明の実施の形態の第1例部分で、簡単に図示並びに説明する。
【0007】
制動時には、前記各シリンダ孔内に圧力流体を送り込み、前記各ピストンをこれら各シリンダ孔から突出させる等により、前記各アクチュエータの軸方向寸法を拡大する。そして、前記他方のパッド19bのライニング21bを、図30に矢印αで示す様に、前記車輪3の両側面に支持した一対のディスク2、2(図29)のうちの一方のディスク2の被制動側摩擦面7に押し付ける。すると、この押し付けの反作用として、前記キャリパ12が図30の矢印β方向に変位し、前記一方のパッド19aのライニング21aを、他方のディスク2の被制動側摩擦面7に押し付ける。この結果、一対のパッド19a、19bのライニング21a、21bの制動側摩擦面22、22と、前記両ディスク2、2の被制動側摩擦面7、7とが摩擦しあって、制動が行われる。
【0008】
上述の様な鉄道車両用のディスクブレーキ装置の場合、前記両ディスク2、2の被制動側摩擦面7、7と、前記両ライニング21a、21bの制動側摩擦面22、22との擦れ合い部の面圧が、次の(A) 〜(C) の様な現象に基づいて、不均一になり易い。
(A) 前記キャリパ12の弾性変形
このキャリパ12を構成する前記両押圧腕17a、17bは前記基部13に対し、片持ち式に支持されており、前記両パッド支持部18a、18bは、前記両押圧腕17a、17bの先端部に設けている。従って、制動時にこれら両押圧腕17a、17bは特許文献4の図5に誇張して示されている様に、先端部に向かうに従って互いの間隔が拡がる方向に弾性変形する。そして、前記両押圧腕17a、17bの先端部に支持された一対のパッド19a、19bのライニング21a、21bの制動側摩擦面22、22に関しても、同じ方向に傾斜する。
(B) 前記両ディスク2、2の被制動側摩擦面7、7の偏摩耗
これら両ディスク2、2の被制動側摩擦面7、7の周速は、径方向外側程速く、従ってこれら両被制動側摩擦面7、7の摩耗は、径方向外側程進み易い。この結果、図31の(a)に誇張して示す様に、ディスク2の被制動側摩擦面7が、径方向外側程凹む。
(C) 制動時に於ける、このディスク2の熱変形
制動時にこのディスク2は、パッド19a、19bのライニング21a、21bとの摩擦により温度上昇する。又、前記ディスク2は、前述した通り、被制動側摩擦面7部分をアルミニウム合金基複合材料製とし、残りの部分はアルミニウム合金製としている。アルミニウム合金基複合材料の線膨張係数は、アルミニウム合金の線膨張係数よりも低い。この為、制動開始直後、前記ディスク2のうちの被制動側摩擦面7部分のみが温度上昇している状態では、このディスク2は、図31の(b)に誇張して示す様に、外径側ほどライニング21a(21b)から遠ざかる方向に傾斜する。これに対して、制動開始後時間を経過して、前記ディスク2全体が温度上昇すると、図31の(c)に誇張して示す様に、外径側ほどライニング21a(21b)に近付く方向に傾斜する。
【0009】
上述した(A) 〜(C) の様な理由により、前記ディスク2の被制動側摩擦面7と前記ライニング21a、21bの制動側摩擦面22との擦れ合い部の面圧が不均一になった場合、理由に関係なく、ディスク2やパッド19a、19bの耐久性低下、制動力の安定性低下等の問題を生じる。このうちの耐久性低下の第一の形態は、前記被制動側摩擦面7と前記制動側摩擦面22との摩擦面の温度上昇が不均一になる事に基づく、各部の熱膨張量の不均一化に伴って発生する引っ張り応力による亀裂等の損傷として現れる。又、第二の形態は、前記ライニング21a、21bの偏摩耗として現れる。又、前記制動力の安定性低下は、前記各アクチュエータが発生する推力と、この推力に基づいて発生する制動力とが比例しなくなる現象として現れる。
【0010】
一方、前記特許文献3には、一対の押圧腕の中間部を揺動変位可能に支持すると共に、これら両押圧腕の先端部にそれぞれパッドを、揺動変位可能に枢支し、これら両押圧腕の基端部同士の間隔をアクチュエータにより拡縮する構造が記載されている。この様な特許文献3に記載された構造によれば、ディスク側の被制動側摩擦面と、パッド側の制動側摩擦面との面圧分布をほぼ均一にできるものと考えられる。但し、上述の様な特許文献3に記載された構造は、制動時に前記被制動側摩擦面と前記制動側摩擦面とを押し付け合う力の反力を、複数箇所に設置した枢支部により支承する必要がある。繰り返し加わる反力に拘らず、これら各枢支部の耐久性を確保する為には、これら各枢支部を含むディスクブレーキ装置全体が大型化し、製造コストが嵩むものと考えられる。
【0011】
これに対して、前記特許文献5〜7に記載された発明の構造の様に、ライニングを複数のセグメントに分割し、更にこれら各セグメントをプレッシャプレートに対し、それぞれ独立した変位を可能に支持したパッドを使用すれば、前述の(A) 〜(C) の様な理由による、ディスクの被制動側摩擦面とライニングの制動側摩擦面との擦れ合い部の面圧の不均一を、多少は改善できる可能性がある。但し、上述の様な構造のパッドを使用しても、前記ディスクの被制動側摩擦面と前記プレッシャプレートとの距離に、径方向外方と内方とで差が生じた場合には、この差を解消できない為、前記面圧の不均一を改善する効果は限られるものと考えられる。しかも、消耗品であるパッドに、多くの弾性部材を組み込む必要がある等、パッドの製造コストが嵩む為、鉄道車両のランニングコストを抑える面から不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−2375号公報
【特許文献2】特開2006−328474号公報
【特許文献3】特開2008−151168号公報
【特許文献4】特開2008−281156号公報
【特許文献5】特開2006−194429号公報
【特許文献6】特開2006−307895号公報
【特許文献7】特表平10−507250号公報
【特許文献8】特開2009−133462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、キャリパの弾性変形や、ディスクの偏摩耗、熱変形に拘らず、ディスクの被制動側摩擦面とパッドのライニングの制動側摩擦面とを均一に当接させて、このパッドのライニングの偏磨耗を抑えられる構造を、低コストで実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のディスクブレーキ装置は、特許文献3、4に記載される等により従来から知られているディスクブレーキ装置と同様に、一対のディスクと、固定支持部と、キャリパと、一対のパッドと、アクチュエータとを備える。
このうちの両ディスクは、車輪の両側面にこの車輪と同心に支持固定されて、それぞれの外側面を、この車輪の回転中心軸に対し直交する方向に存在する被制動側摩擦面としている。
又、前記固定支持部は、車台等の、前記車輪の周囲部分に設けられている。
又、前記キャリパは、前記固定支持部に支持された基部、及び、この基部から前記両ディスクを軸方向両側から挟む位置にまで延出された一対の押圧腕を備える。
又、前記両パッドは、プレッシャプレート、及び、このプレッシャプレートのうちの前記両ディスクの外側面と対向する面に添着されたライニングを備える。そして、このうちのプレッシャプレートを前記両押圧腕の先端部で前記両ディスクの外側面に対向する部分に設けられた一対のパッド支持部に支持している。
又、前記アクチュエータは、前記両パッドを遠近動させる為のもので、このアクチュエータにより、前記両パッドのライニングの制動側摩擦面を前記両被制動側摩擦面に押し付けて制動を行う様にしている。
【0015】
特に、本発明のディスクブレーキ装置に於いては、前記両パッド支持部のうちの少なくとも一方のパッド支持部と当該パッド支持部に支持された前記プレッシャプレートとの間に複数の弾性部材を、径方向に関して内外にずらせた状態で挟持している。即ち、前記少なくとも一方のパッド支持部と前記プレッシャプレートとの径方向外寄り部分同士の間、並びに、当該パッド支持部とこのプレッシャプレートとの径方向内寄り部分同士の間に、それぞれ弾性部材を挟持している。そして、前記少なくとも一方のパッド支持部に支持されたパッドを当該パッド支持部に対し、径方向に関して外寄り部分と内寄り部分とが軸方向に関して相対変位する方向への、揺動変位を可能に支持している。
この様な本発明を実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、前記各弾性部材を、前記両パッド支持部と前記両プレッシャプレートとの間にそれぞれ複数ずつ、径方向に関して内外にずらせた状態で挟持する。そして、前記両パッドを前記両パッド支持部に対し、それぞれ揺動変位を可能に支持する。
【0016】
上述の様な本発明のディスクブレーキ装置を実施する場合に、例えば請求項3に記載した発明の様に、前記キャリパの基部を、前記固定支持部に設けた、前記車輪の回転中心軸と平行な支持軸に沿った変位を可能に支持する。そして、前記両押圧腕の先端部にそれぞれ設けた、前記両パッド支持部のうち、一方のパッド支持部にのみ前記アクチュエータを設ける。
或は、請求項4に記載した発明の様に、前記キャリパの基部を前記固定支持部に、前記車輪の回転方向の変位を阻止した状態で支持する。そして、前記両押圧腕の先端部にそれぞれ設けた、前記両パッド支持部に、それぞれ前記アクチュエータを設ける。
【0017】
又、本発明のディスクブレーキ装置を実施する場合に好ましくは、請求項5に記載した発明の様に、前記両パッドを構成するライニングの一部で径方向中間部分に、周方向に関して一端縁から他端縁まで連続する周方向凹溝若しくは周方向不連続部を存在させる。
或は、請求項6に記載した発明の様に、前記両パッドを構成するライニングの一部で周方向に関して中間部の複数箇所部分に、内周縁から外周縁まで連続する、それぞれが径方向に長い径方向凹溝若しくは径方向不連続部を存在させる。
そして、前記両パッドを径方向(請求項5に記載した発明の場合)或いは周方向(請求項6に記載した発明の場合)に撓み易くして、前記両ディスクの被制動側摩擦面の凹凸や変形(反り)に追従し易くなる。
【0018】
又、本発明を実施する場合に、例えば請求項7に記載した発明の様に、前記各弾性部材を、前記両パッド支持部の幅方向両端寄り部分に設置された、これら両パッド支持部に沿った方向に長い板ばねとする。
或は、請求項8に記載した発明の様に、前記各弾性部材を、圧縮コイルばねと皿板ばねとエラストマーのブロックとのうちから選択される何れかとする。そして、径方向外側と径方向内側とでそれぞれ複数個ずつの弾性部材を、前記両パッド支持部と前記プレッシャプレートとの間に挟持する。
この様な請求項8に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項9に記載した発明の様に、前記両パッドのライニングを、周方向に関して一端縁から他端縁まで連続する周方向凹溝若しくは周方向不連続部、及び、それぞれが径方向に長い径方向凹溝若しくは径方向不連続部により複数の部分に分割された状態で、前記プレッシャプレートの内側面に添着する。そして、前記各弾性部材を、軸方向に関して前記各部分に重畳する位置で、前記パッド支持部と前記プレッシャプレートとの間に挟持する。
【発明の効果】
【0019】
上述の様に構成する本発明のディスクブレーキ装置に組み込まれる一対のパッドのうちの少なくとも一方のパッドは、複数の弾性部材の存在に基づき、径方向に関して外寄り部分と内寄り部分とが軸方向に関して相対変位する方向に揺動変位する。即ち、制動時に於ける一対の押圧腕同士の弾性変形や、ディスクの偏摩耗等により、これら両押圧腕の先端部に設けたパッド支持部の内側面とこのディスクの非制動側摩擦面とが非平行になると、前記少なくとも一方のパッド支持部に支持されたパッドが、前記方向に揺動変位する。そしてこのパッドを構成するライニングの制動側摩擦面と前記ディスクの被制動側摩擦面とを平行なままに維持する。この為、本発明のディスクブレーキ装置によれば、キャリパの弾性変形に拘らず、ディスクの被制動側摩擦面とパッドのライニングの制動側摩擦面とを均一に当接させる事ができて、このライニングが偏磨耗する事を防止できる。又、アクチュエータが発生する推力と前記各摩擦面同士の摩擦により得られる制動力とを関連付けたままにできて、安定した制動力を得られる。
【0020】
この様に、ライニングの偏摩耗を防止すべく、前記被制動側摩擦面と前記制動側摩擦面とを均一に当接させる為に、前述の特許文献3に記載された発明の構造の様に、制動時に大きな力が加わる複数箇所に枢軸による揺動支持部を設ける必要がない。この為、揺動支持部の耐久性確保の為に、重量が嵩んだり制作費が嵩む事を防止できて、前記パッドのライニングが偏磨耗する事を防止すると共に安定した制動力を得られる構造を、低コストで実現できる。特に、請求項2に記載した発明の様に、前記両パッドを前記両パッド支持部に揺動変位を可能に支持すれば、上述の様な作用・効果を顕著に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を、車輪及び一対のディスクを省略して上方から見た状態で示す正投影図。
【図2】同じく径方向内方から見た状態で示す正投影図。
【図3】同じく斜視図。
【図4】図1のイ部拡大図。
【図5】図3のロ部拡大図。
【図6】図3のハ−ハ断面図。
【図7】図6と反対側のパッド及びパッド支持部に関する、図6と同様の図。
【図8】本例の構造に組み込む板ばねの形状の第1例を示す斜視図(A)及び第2例を示す斜視図(B)。
【図9】本発明の実施の形態の第2例を示す、図5と同様の図。
【図10】同じく図6と同様の図。
【図11】同じく図7と同様の図。
【図12】同じく図8と同様の図。
【図13】本発明の実施の形態の第3例を示す、図4と同様の図。
【図14】同じく図2と同様の図。
【図15】同じく図5と同様の図。
【図16】同じく図6と同様の図。
【図17】同じく図7と同様の図。
【図18】同じく圧縮ばねを1個取り出して示す斜視図。
【図19】本発明の実施の形態の第4例を示す、図5と同様の図。
【図20】同じく図6と同様の図。
【図21】同じく図7と同様の図。
【図22】同じく圧縮ばねを1個取り出して示す斜視図。
【図23】本発明の実施の形態の第5例を示す、図4と同様の図。
【図24】同じく図2と同様の図。
【図25】同じく図5と同様の図。
【図26】同じく図6と同様の図。
【図27】同じく図7と同様の図。
【図28】押圧ユニットを1個取り出して、押圧面側から見た斜視図(A)、反対側から見た斜視図(B)、側面図(C)、押圧面から見た正投影図(D)。
【図29】本発明のディスクブレーキ装置を構成する為の鉄道車両用のディスク付車輪の1例を示す断面図。
【図30】同じく固定支持部及びパッドを組み付けたキャリパの構造の1例を示す斜視図。
【図31】ディスクの被制動側摩擦面が変位する形態の3例を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[実施の形態の第1例]
図1〜8は、請求項1〜3、5〜7に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例を含めて本発明の特徴は、前述の(A) 〜(C) の様な現象に拘らず、一対のディスク2、2の被制動側摩擦面7、7(図29参照)と、一対のパッド19a、19bのライニング21a、21bの制動側摩擦面22、22との擦れ合い部の面圧が不均一になるのを防止する為の構造にある。その他の部分の構造及び作用に就いては、図30により先に説明した通りであり、又、基本的には、特許文献4に記載される等により従来から知られている構造と同様である。就いては、前記図30に記載した構造と同等部分には同一符号を付して、重複する説明を省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分、及び先に説明しなかった部分を中心に説明する。
【0023】
それぞれが押圧腕17a、17bの先端部に設けられた一対のパッド支持部18a、18bのうちの一方のパッド支持部18bに、それぞれが油圧シリンダ型、又は、エアシリンダ型のアクチュエータ23を、このパッド支持部18bの長さ方向(上下方向)に互いに直列に並べて、複数組設けている。これら各アクチュエータ23は、図6に示す様に、シリンダ孔24内にピストン25を密に(気密若しくは液密に)嵌装して成る。前記一方のパッド支持部18bの内側面には、支持プレート26を、軸方向の変位を可能に支持している。即ち、この支持プレート26の上下両端部に配置した上下一対のアンカピン27、27により、この支持プレート26を前記パッド支持部17bに、軸方向の変位を可能に支持している。且つ、前記パッド19bから前記支持プレート26に伝えられたブレーキトルクを、前記パッド支持部17bにより支承可能としている。
【0024】
前記支持プレート26に前記パッド19bを支持する為に、この支持プレート26の前面に一対の係止突条28、28を、径方向に関して互いに離隔した状態で設けている。これら両係止突条28、28の互いに対向する面は、前記支持プレート26の前面から離れるに従って互いに近付く方向に傾斜している。従って、前記両係止突条28、28同士の間部分には、開口部の幅が狭く、奥に向かうに従って幅が広くなる、あり溝状の係止部が設けられている。一方、前記パッド19bのプレッシャプレート20bの裏面には、この様な係止部に係止する為の係止凸部29が設けられている。この係止凸部29は、前記プレッシャプレート20bの裏面から離れるに従って幅寸法が大きくなる。この様な係止凸部29は、前記両係止突条28、28同士の間の係止部に、前記支持プレート26の端部から滑り込ませる事で係合させる。これら係止凸部29と、両係止突条28、28から成る係止部とを係合させた状態で、図4から明らかな通り、前記プレッシャプレート20bは前記支持プレート26に対し、厚さ方向に関する若干の遠近動を可能に支持される。即ち、これら両プレート20b、26同士が分離する事はないが、このうちのプレッシャプレート20bの裏面と支持プレート26の表面との遠近動を可能としている。本例の場合には、これら両プレート20b、26の互いに対向する面同士が遠近動する分、この支持プレート26に対する、このプレッシャプレート20bの揺動変位を可能にしている。
【0025】
但し、この揺動変位に拘らず、前記パッド19bを構成するライニング21bの制動側摩擦面22と、前記ディスク2の被制動側摩擦面7との当接圧が、これら両摩擦面22、7同士の当接面に全体に亙って十分に高く、且つ、ほぼ均一になる様に、プレッシャプレート20bの裏面と支持プレート26の表面との間に、図3、5に示す様に、一対の板ばね30a、30bを挟持している。これら両板ばね30a、30bはそれぞれ、図8の(A)又は(B)に示す様に、平板状の基板部31a、31bと、この基板部31a、31bの幅方向端縁から90度未満(例えば40〜60度程度)曲げ起こされた、曲げ起こし部32a、32bとから成る。
【0026】
尚、図8のうちの(A)には、長尺な一体型の板ばね30a、30bを、(B)には寸法が短い分割型の板ばね30a、30bを、それぞれ示している。何れにしても、前記曲げ起こし部32a、32bの、軸方向に関する高さは、前記両係止突条28、28の高さよりも大きい。それぞれが曲げ起こし部32a、32bと基板部31a、31bとから成る、前記両板ばね30a、30bは、それぞれの基板部31a、31bを前記支持プレート26の幅方向両端部に、ねじ33、33等により支持固定する。この状態で、前記両曲げ起こし部32a、32bは、前記両係止突条28、28を幅方向両側から挟む位置に存在し、それぞれの先端縁がこれら両係止突条28、28よりも軸方向に突出する。
【0027】
従って、これら両係止突条28、28から成る係止部と前記係止凸部29とを係合させる事により、前記支持プレート26に対して前記プレッシャプレート20bを組み付けた状態では、前記両曲げ起こし部32a、32bがこのプレッシャプレート20bの裏面を弾性的に押圧する。そして、他の外力が作用しない状態では、図1、4、6に示す様に、前記プレッシャプレート20bの裏面と前記支持プレート26の表面とを最も離隔した状態とする。この状態で、このプレッシャプレート20bの裏面と前記両係止突条28、28の先端縁とが離隔すると同時に、前記係止凸部29の先端面と前記支持プレート26の表面とが離隔する。そして、これら各部分が離隔した分、前記プレッシャプレート20bが前記支持プレート26に対して、前記両曲げ起こし部32a、32bの弾性変形に基づいて、揺動変位可能になる。
【0028】
以上の説明は、アクチュエータ23を設けた一方のパッド支持部18bに対して、前記パッド19bを揺動変位可能に支持する為の構造に就いて示した。本例の場合には、アクチュエータを設けていない、他方のパッド支持部18aに対しても前記パッド19aを、図7に示す様な構造により、揺動変位可能に支持している。尚、このパッド19aを前記パッド支持部17aに支持する部分の構造に関しても、前記一方のパッド支持部17bの場合と同様であるから、同等部分には同一符号を付して、重複する説明を省略する。
【0029】
上述の様に構成する本例のディスクブレーキ装置に組み込まれる、前記両パッド19a、19bは、ぞれぞれ径方向に離隔して配置した、それぞれ一対ずつの板ばね30a、30bの存在に基づき、径方向に関して外寄り部分と内寄り部分とが軸方向に関して相対変位する方向に揺動変位する。例えば、制動時に前記両パッド19a、19bの制動側摩擦面22、22を前記両ディスク2、2の被制動側摩擦面7、7に押し付けると、この押し付けに伴って前記両パッド19a、19bに加わる反力に基づき、前記キャリパ12を構成する、前記両押圧腕17a、17bが弾性変形する。そして、これら両押圧腕17a、17bの先端部に設けた前記両パッド支持部18a、18bの内側面が、径方向外方に向うに従って互いの間隔が広がる方向に弾性変形する。
【0030】
この様に、前記両パッド支持部18a、18bの内側面同士が非平行になると、これら両パッド支持部18a、18bに支持された前記両パッド19a、19bが、径方向内側に配置した板ばね30aの曲げ起こし部32aを弾性的に押し潰しつつ揺動変位する。そして、前記両パッド19a、19bを構成するライニング21a、21bの制動側摩擦面22、22と、前記両ディスク2、2の被制動側摩擦面7、7とを平行なままに維持する。これら各摩擦面22、7同士が、前記キャリパ12の弾性変形以外の原因で非平行になる傾向になった場合でも、非平行になる方向及びその程度に応じて、前記各板ばね30a、30bの曲げ起こし部32a、32bのうちの何れかの曲げ起こし部32a、32bが適正量だけ押し潰される。そして、前記キャリパ12が弾性変形した場合と同様に、前記各摩擦面22、7同士を平行なままに維持する。
【0031】
この為、本例のディスクブレーキ装置によれば、前記キャリパ12の弾性変形や前記両ディスク2、2の偏摩耗、更にはこれら両ディスク2、2の熱変形に拘らず、前記各摩擦面7、22同士を均一に当接させる事ができる。そして、前記両ライニング21a、21bが偏磨耗する事を防止できる。又、前記各アクチュエータ23が発生する推力と前記各摩擦面7、22同士の摩擦により得られる制動力とを関連付けたままにできて、安定した制動力を得られる。尚、鉄道車両用のブレーキ装置の場合、レールと車輪との接触部に作用する摩擦力が限られており、従って、前記両ディスク2、2と前記両ライニング21a、21bとの擦れ合い部に作用させる摩擦力に関しても限られた値に止まる。従って、前記両パッド19a、19bを前記各板ばね30a、30bを介して前記両ディスク2、2に押し付けても、必要十分な押し付け力を確保できる。
【0032】
上述の様に本例の場合には、前記両パッド支持部18a、18bの内側面に前記各板ばね30a、30bを、径方向に離隔して配置するのみの、簡単な構造で、前記各摩擦面22、7同士を平行なままに維持できる。この為、各部の信頼性及び耐久性を考慮しても、これら各摩擦面22、7同士を平行なままに維持する為の構造を小型且つ軽量に構成できて、前記両パッド19a、19bのライニング21a、21bが偏磨耗する事を防止すると共に安定した制動力を得られる構造を、低コストで実現できる。
【0033】
[実施の形態の第2例]
図9〜12も、請求項1〜3、5〜7に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、板ばね30c、30dを構成する曲げ起こし部32c、32dを、基端部31c、31dの片側縁の複数箇所に設けている。これら各曲げ起こし部32c、32dの設置位置は、両パッド19a、19b(図30参照)を構成するライニング21a、21bの構造との関係で規制している。即ち、これら両パッド19a、19bのライニング21a、21bは、それぞれ複数枚のセグメント34a〜34dを(バックプレートを介して)プレッシャプレート20a、20bに添着固定して成る。前記各曲げ起こし部32c、32dは、前記各セグメント34a〜34dの径方向両端部の、ほぼ円周方向中央部を押圧する様にしている。そして、前記両プレッシャプレート20a、20bを僅かに弾性変形させつつ、前記各セグメント34a〜34d毎に分割された前記両ライニング21a、21bを両ディスク2、2の被制動側摩擦面7、7(図29参照)に、より均一に当接させる様にしている。本例の場合、前記各曲げ起こし部32c、32dの幅寸法を小さくした分、前記各板ばね30c、30dを構成する弾性金属板の厚さを大きくして、前記各曲げ起こし部32c、32dの弾性を確保している。
板ばね30c、30dの形状を異ならせた以外の部分の構成及び作用は、上述した実施の形態の第1例と同様であるから、同等部分には同一符号を付して、重複する説明は省略する。
【0034】
[実施の形態の第3例]
図13〜18は、請求項1〜3、5、6、8、9に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合には、一対のパッド19a、19bの径方向外端部及び内端部を押圧する為の弾性部材として、圧縮コイルばね35、35を使用している。この為に、これら各圧縮コイルばね35、35の基部を、両パッド支持部18a、18bの径方向両端部の複数箇所に形成した保持凹部36(図17参照)に緩く内嵌している。そして、前記各圧縮コイルばね35、35の先端面を、前記両パッド19a、19bを構成するプレッシャプレート20a、20bの裏面に突き当てている。前記各圧縮コイルばね35、35の先端面を前記両プレッシャプレート20a、20bの裏面に突き当てる位置は、上述した実施の形態の第2例で、前記各曲げ起こし部32c、32dの先端部を両プレッシャプレート20a、20bの裏面に当接させる場合と同様に、各セグメント34a〜34dの径方向両端部の、ほぼ円周方向中央部としている。
弾性部材を板ばねから圧縮コイルばね35、35に変更した以外の部分の構成及び作用は、上述した実施の形態の第2例と同様であるから、同等部分には同一符号を付して、重複する説明は省略する。
【0035】
[実施の形態の第4例]
図19〜22も、請求項1〜3、5、6、8、9に対応する、本発明の実施の形態の第4例を示している。本例の場合には、一対のパッド19a、19bの径方向外端部及び内端部を押圧する為の弾性部材である圧縮コイルばね35a、35aの先端部に鍔部37を設け、この鍔部37を、前記両パッド19a、19bを構成するプレッシャプレート20a、20bの裏面に突き当てている。
圧縮コイルばね35a、35aの形状を変更した以外の部分の構成及び作用は、上述した実施の形態の第3例と同様であるから、同等部分には同一符号を付して、重複する説明は省略する。
【0036】
[実施の形態の第5例]
図23〜28も、請求項1〜3、5、6、8、9に対応する、本発明の実施の形態の第4例を示している。本例の場合には、一対のパッド19a、19bの径方向外端部及び内端部を押圧する為の弾性部材として、皿板ばね38、38を組み込んだ押圧ユニット39、39を使用している。これら各押圧ユニット39、39はそれぞれ、ガイドピン40に押圧プレート41と前記皿板ばね38とを外嵌して成る。そして、このうちのガイドピン40を、支持プレート26に形成したガイド孔42に軸方向の変位を可能に内嵌すると共に、前記押圧プレート41を両パッド19a、19bを構成するプレッシャプレート20a、20bの裏面に突き当てている。この状態で、前記皿板ばね38を、前記支持プレート26と前記押圧プレート41との間で弾性的に圧縮している。前記各押圧ユニット39、39の押圧プレート41を前記両プレッシャプレート20a、20bの裏面に突き当てる位置は、前述した実施の形態の第2例で、前記各曲げ起こし部32c、32dの先端部を両プレッシャプレート20a、20bの裏面に当接させる場合と同様に、各セグメント34a〜34dの径方向両端部の、ほぼ円周方向中央部としている。
【0037】
又、本例の場合には、図26に示したアクチュエータ23aの構造を、前述の図6に示した第1例の構造の場合と異ならせている。このアクチュエータ23aに関しても、圧力流体の送り込みによりピストン25aを突出させ、パッド19bをディスク2(図29参照)に押し付ける様にしている。但し、このアクチュエータ23aの構造に関しては、従来から知られており、又、本発明の要旨とも関係しないので、詳しい説明は省略する。尚、本例の構造を有するアクチュエータ23aを他の実施の形態の構造に組み込む事もできるし、他の実施の形態の構造に組み込んだアクチュエータ23(例えば図6参照)を本例の構造に組み込む事もできる。
その他、弾性部材を板ばねから皿板ばね38に変更した以外の部分の構成及び作用は、上述した実施の形態の第2例と同様であるから、同等部分には同一符号を付して、重複する説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0038】
図示の例では、固定フレームに対してキャリパを、軸方向の変位を可能に支持すると共に、一対のパッド支持部のうちの一方のパッド支持部にのみアクチュエータを組み込んだ、フローティングキャリパ型の構造に就いて説明した。但し、本発明は、固定フレームに対してキャリパを、軸方向の変位を阻止した状態で支持する代わりに、一対のパッド支持部の両方に、それぞれアクチュエータを組み込んだ構造で実施する事もできる。この場合には、前記固定フレームと前記キャリパとを一体に構成する事もできる。或いは、特許文献8に記載されている構造の様に、アクチュエータをパッド支持部以外の部分に設置する構造を採用する事もできる。この場合に、アクチュエータが収縮する際に制動力を発生させる構造も、採用可能である。
【0039】
又、本発明を実施する場合に、請求項2に記載した発明の様に、各弾性部材を両パッド支持部と両プレッシャプレートとの間に挟持して、これら両パッド支持部に支持されたパッドを当該パッド支持部に対し揺動変位を可能に支持する事が好ましい。但し、キャリパを固定支持部に対し若干の揺動変位を可能に支持する構造を採用すれば、一方のパッドのみを、本発明の構造により、パッド支持部に対して揺動変位可能に支持し、他方のパッドに関しては、パッド支持部に対し変位不能に支持する事もできる。この場合に於いて、前記固定支持部に対する前記キャリパの揺動支持部には、ブレーキトルクが加わるが、このブレーキトルクは、何れにしても固定支持部に対するキャリパの支持部に加わる。従って、前述の特許文献3に記載された発明の構造に比べれば、コスト上昇を低く抑えられる。又、キャリパを固定支持部に対し揺動変位を不能に支持する代わりに、前記他方のパッドを前記パッド支持部に、例えば円筒状の凸面と円筒状の凹面との係合により、揺動変位を可能に支持する事もできる。この様な凸面と凹面との係合により揺動変位を許容する構造は、本発明の構造に比べてコストが嵩むが、片側のみであれば、コスト上昇を少なく抑えられる。
更に、各弾性部材として、硬質ゴムの如きエラストマーを使用する事もできる。
【符号の説明】
【0040】
1 ディスク付車輪
2 ディスク
3 車輪
4 スプリングピン
5 ボルト
6 ナット
7 被制動側摩擦面
8 固定フレーム
9 取付部
10 垂下部
11 支持軸
12 キャリパ
13 基部
14 支持板部
15 ガイド筒部
16 ベローズ
17a、17b 押圧腕
18a、18b パッド支持部
19a、19b パッド
20a、20b プレッシャプレート
21a、21b ライニング
22 制動側摩擦面
23、23a アクチュエータ
24 シリンダ孔
25、25a ピストン
26 支持プレート
27 アンカピン
28 係止突条
29 係止凸部
30a、30b、30c、30d 板ばね
31a、31b、31c、31d 基板部
32a、32b、32c、32d 曲げ起し部
33 ねじ
34a、34b、34c、34d セグメント
35、35a 圧縮コイルばね
36 保持凹部
37 鍔部
38 皿板ばね
39 押圧ユニット
40 ガイドピン
41 押圧プレート
42 ガイド孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪の両側面にこの車輪と同心に支持固定されて、それぞれの外側面を、この車輪の回転中心軸に対し直交する方向の被制動側摩擦面とした一対のディスクと、この車輪の周囲部分に設けられた固定支持部と、この固定支持部に支持された基部及びこの基部から前記両ディスクを軸方向両側から挟む位置にまで延出された一対の押圧腕を備えたキャリパと、プレッシャプレート及びこのプレッシャプレートのうちの前記両ディスクの外側面と対向する面に添着されたライニングを備え、このうちのプレッシャプレートを前記両押圧腕の先端部で前記両ディスクの外側面に対向する部分に設けられた一対のパッド支持部に支持された一対のパッドと、これら両パッドを遠近動させる為のアクチュエータとを備え、このアクチュエータにより前記両パッドのライニングの制動側摩擦面を前記両被制動側摩擦面に押し付けて制動を行うディスクブレーキ装置に於いて、前記両パッド支持部のうちの少なくとも一方のパッド支持部と、当該パッド支持部に支持された前記プレッシャプレートとの間に複数の弾性部材を、径方向に関して内外にずらせた状態で挟持する事により、前記少なくとも一方のパッド支持部に支持されたパッドを当該パッド支持部に対し、揺動変位を可能に支持した事を特徴とするディスクブレーキ装置。
【請求項2】
前記各弾性部材を、前記両パッド支持部と前記両プレッシャプレートとの間にそれぞれ複数ずつ、径方向に関して内外にずらせた状態で挟持する事により、前記両パッドを前記両パッド支持部に対し、それぞれ揺動変位を可能に支持した、請求項1に記載したディスクブレーキ装置。
【請求項3】
前記キャリパの基部が、前記固定支持部に設けられた、前記車輪の回転中心軸と平行な支持軸に沿った変位を可能に支持されており、前記両押圧腕の先端部にそれぞれ設けられた、前記両パッド支持部のうち、一方のパッド支持部にのみ前記アクチュエータが設けられている、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載したディスクブレーキ装置。
【請求項4】
前記キャリパの基部が前記固定支持部に、前記車輪の回転方向の変位を阻止した状態で支持されており、前記両押圧腕の先端部にそれぞれ設けられた、前記両パッド支持部に、それぞれ前記アクチュエータが設けられている、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載したディスクブレーキ装置。
【請求項5】
前記両パッドを構成するライニングの一部で径方向中間部分に、周方向に関して一端縁から他端縁まで連続する周方向凹溝若しくは周方向不連続部が存在する、請求項1〜4のうちの何れか1項に記載したディスクブレーキ装置。
【請求項6】
前記両パッドを構成するライニングの一部で周方向に関して中間部の複数箇所部分に、内周縁から外周縁まで連続する、それぞれが径方向に長い径方向凹溝若しくは径方向不連続部が存在する、請求項1〜5のうちの何れか1項に記載したディスクブレーキ装置。
【請求項7】
前記各弾性部材が、前記両パッド支持部の幅方向両端寄り部分に設置された、これら両パッド支持部に沿った方向に長い板ばねである、請求項1〜6のうちの何れか1項に記載したディスクブレーキ装置。
【請求項8】
前記各弾性部材が、圧縮コイルばねと皿板ばねとエラストマーのブロックとのうちから選択される何れかであり、径方向外側と径方向内側とでそれぞれ複数個ずつの弾性部材を、前記両パッド支持部と前記プレッシャプレートとの間に挟持している、請求項1〜6のうちの何れか1項に記載したディスクブレーキ装置。
【請求項9】
前記両パッドのライニングが、周方向に関して一端縁から他端縁まで連続する周方向凹溝若しくは周方向不連続部、及び、それぞれが径方向に長い径方向凹溝若しくは径方向不連続部により複数の部分に分割された状態で前記プレッシャプレートの内側面に添着されたものであり、前記各弾性部材が、軸方向に関して前記各部分に重畳する位置で、前記パッド支持部と前記プレッシャプレートとの間に挟持されている、請求項8に記載したディスクブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2012−52586(P2012−52586A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194608(P2010−194608)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】