説明

デジタル動画像記録装置

【課題】記録媒体に記録を開始する前の符号化処理を制限することにより、符号量制御による処理量を減らすと共に、不必要な処理を削減する。
【解決手段】フレーム間符号化モード時には、I,Pピクチャの符号化ブロックが動き予測の参照画像として使用されるので、動き補償予測器306において、周波数空間の量子化された直交変換係数は、逆量子化、逆直交変換され、画素空間の符号化ブロックの画素値に戻され、符号化モードによって動き補償される。符号化制御部307はバッファ305のバッファ量を目標値とするように量子化スケールを可変設定する。記録開始前は制御部504からの記録開始信号によって、この符号量制御を停止し、所定の量子化スケールを用いることで制御による処理量を減らす。また、スイッチSW4をオフにし、バッファ305からの符号化ストリームを記録部503へ供給するのを停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はデジタル動画像記録装置に係り、特にフレーム内符号化方式とフレーム間符号化方式の両方を用いて時間的に前後のデジタル動画像を参照画像として圧縮符号化して記録媒体に記録するデジタル動画像記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル信号処理の技術及び大規模半導体集積回路(LSI)技術の進歩により、動画像、静止画像、音声などの大量の情報を圧縮符号化し、磁気記録媒体、光記録媒体、半導体記録媒体などへ記録再生することが可能になっている。このような技術を用い、簡単に映像を撮影し、記録する撮像装置や、アナログ放送信号をデジタル圧縮して記録するデジタルディスクレコーダなどの映像記録装置の開発が行われている。動画像符号化の代表的な例としてはMPEG(Moving Picture Experts Group)が広く使われている。
【0003】
図2はMPEG技術を用いた従来のデジタル動画像記録装置の一例のブロック図を示す。同図において、カメラなどの映像入力部501から入力された映像信号(動画像信号)は、圧縮符号化を行うMPEG符号化部502に供給される。MPEG符号化部502では通常、一つのフレーム内の空間的相関を用いて符号化するフレーム内符号化画像(Iピクチャ)と、時間的に前のフレームとの相関を用いて符号化するフレーム間順方向予測符号化画像(Pピクチャ)と、時間的に前後のフレーム間の相関を用いて符号化する双方向予測符号化画像(Bピクチャ)とを生成し、それらを所定の順番で組み合わせた符号化信号を得る圧縮符号化処理を行う。MPEG符号化部502で圧縮符号化して得られた符号化信号は、記録部503に供給され、記録部503により任意の記録媒体505に保存される。
【0004】
ここで、I,P,Bピクチャの符号化処理量について説明する。Iピクチャの主な処理は画素値の直交変換、可変長符号化である。PピクチャはIピクチャの処理に加え、1つの参照画像からの予測画像の推定、画像ブロック毎の予測モード決定のための演算を行う。BピクチャはPピクチャの処理に加えてさらにもう1つの参照画像からの予測画像の推定、2つの参照画像から作成される両方向予測画像からの推定、画像ブロック毎の予測モード決定のための演算を行う。従って、I<P<Bピクチャの順に符号化ピクチャタイプで予測画像の推定を決定するための処理量が大きく異なる。
【0005】
図3に日本のデジタル放送での符号化ピクチャグループの構成での一般的な符号化処理量を示す。一般的なピクチャタイプの並びは図3(A)に示すように、I,B,B,P,B,B,P,・・・となっている。符号化処理量としては図3(B)に示すように、I<P<Bピクチャの順に符号化処理量が大きくなっていることが知られている。
【0006】
図2のデジタル動画像記録装置において、MPEG符号化部502から符号化された映像を含む符号化ストリームが記録部503へ出力されている最中に、記録媒体505への記録開始が操作部506から制御部504を介して記録部503に指示された場合、例えば、図4における記録開始時刻T、即ちIピクチャ710から開始されるピクチャグループG04内のフレーム間符号化ピクチャ712に相当するタイミングで記録開始が指示された場合、記録媒体505にはピクチャグループG04内の途中のフレーム間符号化ピクチャ712から記録が開始されるため、ピクチャグループG04の先頭のIピクチャ710からフレーム間符号化ピクチャ712の直前のフレーム間符号化ピクチャ711は記録されず、従って、ピクチャグループG04内のフレーム間符号化ピクチャ712以降の各ピクチャが記録媒体505に正常に記録されても、フレーム間符号化ピクチャ712の参照画像となるピクチャが欠落するため、正しく復号できない。
【0007】
そのため、記録開始の指示より後におけるピクチャグループ内のフレーム内符号化ピクチャの数又は割合を、記録開始の指示以前におけるピクチャグループ内のフレーム内符号化ピクチャの数又は割合よりも少なくするように、MPEG符号化部502を制御する動画像記録装置が従来知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
この動画像記録装置によれば、ピクチャグループ内のフレーム間符号化ピクチャに相当するタイミングで記録開始が指示された場合であっても、記録開始の指示がされたピクチャグループ内では、記録開始の指示より後におけるピクチャグループ内のフレーム内符号化ピクチャの数又は割合よりもフレーム内符号化ピクチャの数又は割合が多いので、ピクチャグループ内の記録開始指示がされたフレーム間符号化ピクチャはその参照画像となるピクチャは欠落するが、次のフレーム内符号化ピクチャから正常に復号が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−194173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1記載の従来の動画像記録装置では、記録開始の指示より後における符号化ピクチャグループの構成を記録開始の指示以前における符号化ピクチャグループの構成から変更するようにしているため、符号化処理量は記録開始時刻Tの前後で変動し、記録開始前は記録開始後と比較して小さくなるが、ピクチャ符号化タイプを変更(Pピクチャ→Iピクチャ、Bピクチャ→Iピクチャなど)するため、記録開始前後でピクチャタイプ(I,P,Bピクチャ)が変化し、その結果、予めピクチャ符号化タイプを決めて行う処理が無駄になる。また、ピクチャ符号化タイプの変更処理を実現するため、処理構造の複雑度が増加するという課題がある。
【0011】
本発明は上記の点に鑑みなされたもので、記録媒体に記録を開始する前の符号化処理を制限することにより、符号量制御による処理量を減らすと共に、不必要な処理を削減し得るデジタル動画像記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明のデジタル動画像信号記録装置は、デジタル動画像信号を符号化して得た符号化画像信号を記録媒体に記録するデジタル動画像記録装置において、デジタル動画像信号又はデジタル動画像信号と動き補償信号との差分信号を所定画素数のブロック単位で直交変換して得た直交変換係数を、設定される量子化スケールの値で除算する量子化処理と、この量子化処理で得られた信号の可変長符号化とを順次に行って符号化画像信号を生成してバッファに蓄積した後出力し、かつ、量子化処理で得られた信号を動き補償予測して動き補償信号を生成すると共に、バッファの符号化画像信号の蓄積符号量が予め設定される所定の目標符号量となるように量子化スケールの値を可変設定する符号化手段と、符号化手段から出力された符号化画像信号を記録媒体に記録する記録手段と、外部から記録開始の指示を受ける前は、記録動作を行わないように記録手段を制御すると共に、量子化スケールの値を予め設定した固定値として量子化処理を行わせるように符号化手段を制御し、外部から記録開始の指示を受けた後は、記録動作を行うように記録手段を制御すると共に、バッファの符号化画像信号の蓄積符号量が予め設定される所定の目標符号量となるように量子化スケールの値を可変設定させて量子化処理を行わせるように符号化手段を制御する制御手段とを有することを特徴とする。
【0013】
この発明では、記録開始指示前は、符号化手段を制御して、バッファの符号化画像信号の蓄積符号量に応じた量子化スケールの可変設定の制御を停止して量子化スケールを予め設定した固定値とし、記録開始指示後は、符号化手段を制御して、量子化スケールの可変設定の制御の停止を解除して、バッファの符号化画像信号の蓄積符号量に応じて量子化スケールを可変設定させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、記録開始指示前は、量子化スケールの値を予め設定した固定値とする量子化処理を行うように符号化手段を制御するようにしたため、符号量制御による処理量を減らすことができる。また、本発明では、符号化手段で生成される符号化画像信号のピクチャの並びは記録開始指示前も記録開始指示後と同じにできるため、従来生じていた記録指示開始前と開始後とでの符号化構造を切り替えることによる符号化構造の複雑化を回避し、不必要な処理を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のデジタル動画像記録装置の一実施の形態のブロック図である。
【図2】従来のデジタル動画像記録装置の一例のブロック図である。
【図3】符号化におけるピクチャタイプ毎の符号化処理量の割合を示す図である。
【図4】符号化ストリーム出力中に記録開始指示がなされた場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明をその最良の実施の形態に基づき詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明になるデジタル動画像記録装置の一実施の形態のブロック図を示す。同図中、図2と同一構成部分には同一符号を付してある。本実施の形態は、所定の量子化スケールを用いることで符号量制御による処理量を減らす点に特徴がある。
【0018】
図1において、本実施の形態のデジタル動画像記録装置は、映像入力部101、画素ブロック分割部102、フレーム間符号化部300、符号化制御部307、スイッチSW4、記録部503、及び制御部504を含む構成である。制御部504は、例えばCPU(中央処理装置)とROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)を含み、ROM又は光ディスクや半導体メモリなど記録媒体に記録されたプログラムを実行することにより、デジタル動画像記録装置全体の制御を行う。もちろん、処理の一部又は全部をハードウェアによって処理するように構成することも可能である。
【0019】
記録部503はスイッチSW4を介して供給される符号化ストリームを所定の記録方式に従って変調し、その変調により生成した被変調信号を記録媒体(図示せず)に記録する。記録媒体には磁気記録媒体や光記録媒体等任意の記録媒体が利用可能である。例えば、本実施形態では磁気テープや光ディスク、ハードディスクドライブ、半導体メモリなどの記録媒体を用いる。
【0020】
映像入力部101は、被写体を撮像して得た動画像信号をデジタル動画像信号に変換した後、画素ブロック分割部102に供給する。画素ブロック分割部102は、映像入力部101から供給されるデジタル動画像信号を、所定の画素数からなるブロック単位に分割する。上記のブロックは例えば、画像符号化規格MPEG−2であれば、横方向16画素、縦方向16画素(以下、これを16×16画素と記す;以下同様)の画素ブロック、画像圧縮規格H.264では8×8画素(16×16画素)など画像圧縮規格で定義された画素ブロックである。画素ブロック分割部102は、分割したブロック単位の画像データをフレーム間符号化部300内の減算器301と動き補償予測器306に供給する。
【0021】
フレーム間符号化部300は、フレーム内符号化部104と動き補償予測部306とからなる。フレーム内符号化部104は、ブロック単位の画像データの同一フレーム内の画素間相関のみを用いて符号化してフレーム内符号化画像であるIピクチャを生成する。フレーム内符号化部104では、画素ブロック分割部102から出力されたブロック単位の画像データを入力として受け、まず、後述する動き補償予測器306からの動き補償信号と減算器301で減算して得た差分信号を直交変換器302で画素空間から周波数空間へ変換する。
【0022】
直交変換器302で周波数空間に変換されたブロック単位の画像データは直交変換係数(例えば16×16画素)で構成され、その直交変換係数が量子化器303で除算されて量子化される。量子化された直交変換係数は、可変長符号化器304で可変長符号化された後バッファ305へ出力される。バッファ305から所定のタイミングで符号化データとしてスイッチSW4へ出力される。
【0023】
また、量子化された直交変換係数は、動き補償予測器306に供給される。ここで、Bピクチャの符号化ブロックは動き予測の参照画像として用いられないが、フレーム間符号化モード時には、I,Pピクチャの符号化ブロックが動き予測の参照画像として使用されるので、動き補償予測器306において、周波数空間の量子化された直交変換係数は、逆量子化、逆直交変換(図示せず)され、画素空間の符号化ブロックの画素値に戻され、符号化モードによって動き補償される。
【0024】
動き補償され、画素値に戻された符号化ブロック(動き補償信号)は減算器301で、画素ブロック分割部102から入力された次の画素ブロックと減算されて差分信号とされた後、直交変換器302へ出力される。なお、フレーム内符号化モード時には動き補償予測器306からは動き補償信号は出力されず、入力画像データは減算器301をそのまま通過して直交変換器302に入力される。
【0025】
ここで、通常の符号化においては、バッファ305のバッファ量すなわち符号化ストリームのバッファ占有量(符号化画像信号の蓄積符号量)を目標値とするように、符号化制御部307はバッファ305からのバッファ量情報に応じて量子化スケールを可変設定する。すなわち、量子化器303は量子化スケールで直交変換係数を除算するため、量子化スケールが大きいほど除算された直交変換係数(量子化後信号)の値が小さくなり、符号化ストリームのデータ量は小さくなる。また、反対に符号化ストリームのバッファ占有量が小さいときは量子化スケールを小さくして、直交変換係数を除算する除数を小さくし、除算された直交変換係数(量子化後信号)の値を大きくし、符号化ストリームのデータ量を大きくする。
【0026】
符号化制御部307は通常このような符号化制御を行っている。本実施の形態では、記録開始前は制御部504からの記録開始信号によって、この符号量制御を停止し、所定の量子化スケールを用いることで制御による処理量を減らす。また、スイッチSW4をオフにし、バッファ305からの符号化ストリームを記録部503へ供給するのを停止する。
【0027】
これにより、記録開始前はバッファ305のデータ占有量を制御しないため、バッファ305のオーバーフロー又はアンダーフローが生じるが、このときには記録媒体への記録は行わないため問題とならない。記録された少なくとも映像を含む符号化ストリームの再生には影響を与えない。
【0028】
また、本実施形態では、フレーム内符号化部104で生成される符号化画像信号のピクチャの並びは記録開始指示前も記録開始指示後と同じにできるため、従来生じていた記録指示開始前と開始後とでの符号化構造を切り替えることによる符号化構造の複雑化を回避し、不必要な処理を削減することができる。
【符号の説明】
【0029】
101 映像入力部
102 画素ブロック分割部
104 フレーム内符号化部
300 フレーム間符号化部
301 減算器
302 直交変換器
303 量子化器
304 可変長符号化器
305 バッファ
306 動き補償予測器
307 符号化制御部
503 記録部
504 制御部
SW4 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタル動画像信号を符号化して得た符号化画像信号を記録媒体に記録するデジタル動画像記録装置において、
前記デジタル動画像信号又は前記デジタル動画像信号と動き補償信号との差分信号を所定画素数のブロック単位で直交変換して得た直交変換係数を、設定される量子化スケールの値で除算する量子化処理と、この量子化処理で得られた信号の可変長符号化とを順次に行って前記符号化画像信号を生成してバッファに蓄積した後出力し、かつ、前記量子化処理で得られた信号を動き補償予測して前記動き補償信号を生成すると共に、前記バッファの前記符号化画像信号の蓄積符号量が予め設定される所定の目標符号量となるように前記量子化スケールの値を可変設定する符号化手段と、
前記符号化手段から出力された前記符号化画像信号を前記記録媒体に記録する記録手段と、
外部から記録開始の指示を受ける前は、記録動作を行わないように前記記録手段を制御すると共に、前記量子化スケールの値を予め設定した固定値として前記量子化処理を行わせるように前記符号化手段を制御し、外部から記録開始の指示を受けた後は、記録動作を行うように前記記録手段を制御すると共に、前記バッファの前記符号化画像信号の蓄積符号量が予め設定される所定の目標符号量となるように前記量子化スケールの値を可変設定させて前記量子化処理を行わせるように前記符号化手段を制御する制御手段と
を有することを特徴とするデジタル動画像記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−182448(P2011−182448A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97737(P2011−97737)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【分割の表示】特願2007−45221(P2007−45221)の分割
【原出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】