説明

デュオサーボ式ドラムブレーキ

【課題】車両の進行方向に拘わらず、制動時に、ライニング11a、11bの外周面とブレーキドラムの内周面との隙間を一定に自動調整できる構造を実現する。
【解決手段】1対のブレーキシュー9a、9bを構成するウェブ13a、13bの円周方向他端縁同士の間に、伸長可能なアジャスタ本体16を掛け渡す様に設ける。又、セカンダリ側のブレーキシュー9bに、このアジャスタ本体16を操作する為のアジャスタレバー17を揺動可能に支持する。そして、このアジャスタレバー17にその一端部を連結したアジャスタケーブルの中間部を、アンカ部材8aに掛け回した状態で、他端部をプライマリ側のブレーキシュー9aに連結する。この様な構成により、前記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばフォークリフト等の産業車両の制動用ブレーキとして使用するデュオサーボ式ドラムブレーキに関して、車両の進行方向に拘わらず、制動時に、ライニングの外周面とブレーキドラムの内周面との間の隙間(クリアランス)を一定に自動調整できる構造を実現するものである。
【背景技術】
【0002】
フォークリフト等の産業車両の制動用ブレーキとしては、低速でも大きな制動力を得られ、しかも前進時と後退時とで同じ制動力を得られるデュオサーボ式ドラムブレーキが、特許文献1〜5等に記載され広く知られており、実際に使用されている。図5は、この様なデュオサーボ式ドラムブレーキの従来構造の1例を示している。
【0003】
デュオサーボ式ドラムブレーキ1を構成するバックプレート2は、円形状で、車軸を挿通する為の嵌挿孔3と、複数のボルト孔4、4とが形成されており、懸架装置(車体)に支持されて回転しない。この様なバックプレート2の一部外径寄り部分(図5の中央部上端寄り部分)には、特許請求の範囲に記載した入力機構に相当する、ホイルシリンダ5が固定されている。このホイルシリンダ5は、筒状のシリンダ本体6と、1対のピストン7、7とを備え、このシリンダ本体6内への油圧導入に伴って、これら各ピストン7、7を互いに逆方向(互いの間隔が拡がる方向)に変位させる。又、前記バックプレート2の一部で、前記ホイルシリンダ5の径方向外側に隣接した部分には、アンカ部材8が固定されている。
【0004】
又、前記バックプレート2と同心に配置され、車輪と共に回転する有底円筒状の図示しないブレーキドラムの内側に、1対のブレーキシュー9a、9bを互いに対向する状態で設けている。これら各ブレーキシュー9a、9bは、シューホールドスプリング10、10によって、前記バックプレート2に弾性的に支持されている。この様なブレーキシュー9a、9bは、ライニング11a、11bと、これら各ライニング11a、11bをその外周面に添着固定した円弧板状のリム12a、12bと、これら各リム12a、12bの内周面に結合された、円弧形(大略三日月形)のウェブ13a、13bとから成る。
【0005】
前記各ウェブ13a、13bの円周方向一端縁(図5の上端縁)は、前記各ピストン7、7の先端部及び前記アンカ部材8にそれぞれ対向させている。そして、このアンカ部材8と前記各ブレーキシュー9a、9bとの間に、リターンスプリング14a、14bを張設して、前記各ウェブ13a、13bの円周方向一端縁を前記アンカ部材8に向けて付勢している。又、これら各ウェブ13a、13bの円周方向一端縁(図5の上端縁)同士の間部分には、上記両ブレーキシュー9a、9bを拡開する為の上記ホイルシリンダ5を設けているのに対して、上記各ウェブ13a、13bの円周方向他端縁(図5の下端縁)同士の間には、アジャスタ機構15を構成するアジャスタ本体16を掛け渡す様に設けている。又、このアジャスタ本体16よりも径方向内側部分で、前記各ウェブ13a、13bの円周方向他端寄り部分同士の間には、リターンスプリング14cを張設して、前記アジャスタ本体16が脱落等する事を防止している。
【0006】
前記アジャスタ機構15は、前記各ライニング11a、11bの外周面と前記ブレーキドラムの内周面との隙間(クリアランス)を一定に自動調整する機能を有するもので、前記アジャスタ本体16と、アジャスタレバー17と、アジャスタケーブル18とから構成される。このうちのアジャスタ本体16は、図6に示す様に、歯車部19を一体に備えたボルト部材20と、ナット部材21と、ソケット部材22とから成る。又、このうちのナット部材21及びソケット部材22の端部にはそれぞれ、係合溝23a、23bが形成されている。そして、これら各係合溝23a、23bを、前記各ウェブ13a、13bの円周方向他端縁にそれぞれ係合させている。この様な構成を有する前記アジャスタ本体16は、前記歯車部19(ボルト部材20)を前記ナット部材21及び前記ソケット部材22に対して回転させる事により、その全長を伸長させる。
【0007】
前記アジャスタレバー17は、全体形状を略J字形としており、前記1対のブレーキシュー9a、9bのうちの一方のブレーキシュー9bを構成するウェブ13bに揺動(回転)可能に支持されている。又、前記アジャスタレバー17には、揺動時に、前記アジャスタ本体16を構成する歯車部19を回転させる為の爪部24が設けられている。
【0008】
前記アジャスタケーブル18は、その一端部(図5の下端部)を、テンションスプリング25を介して、前記アジャスタレバー17に連結しており、他端部(図5の上端部)を前記アンカ部材8に係止している。又、前記アジャスタケーブル18の中間部は、前記一方のブレーキシュー9bのウェブ13bに支持固定されたガイド部材31の外周面に、掛け回されている(摺動可能に案内されている)。
【0009】
以上の様な構成を有する従来構造のデュオサーボ式ドラムブレーキ1は、サービスブレーキの作動時(制動時)に、前記ホイルシリンダ5を構成するシリンダ本体6内に油圧が導入され、前記各ピストン7、7を互いに逆方向に変位させる。これにより、前記各ブレーキシュー9a、9bを、前記各リターンスプリング14a、14bの弾力に抗して拡開させて、これら各ブレーキシュー9a、9bのライニング11a、11bの外周面を、前記ブレーキドラムの内周面に向けて押し付ける。
【0010】
そして、上述の様に、前記各ライニング11a、11bの外周面を前記ブレーキドラムの内周面に押し付けると、前記各ブレーキシュー9a、9bが、このブレーキドラムと共に回転する傾向となる。
例えば、前記ブレーキドラムが、前記図5の矢印Aで示す様に、車両の前進時の回転方向に回転している場合、制動時には、前記各ブレーキシュー9a、9bに就いても、矢印Aで示す方向に回転する傾向になる。そして、図5の左側(プライマリ側)のブレーキシュー9aの動きが、前記アジャスタ本体16を介して、同図の右側(セカンダリ側)のブレーキシュー9bに伝わり、このセカンダリ側のブレーキシュー9bを構成するウェブ13bの円周方向一端縁が、前記アンカ部材8に突き当てられる。この結果、プライマリ側のブレーキシュー9aの円周方向一端縁を入力側とし、セカンダリ側のブレーキシュー9bの円周方向一端縁をアンカ側として、これら各ブレーキシュー9a、9bのライニング11a、11bの外周面が、前記ブレーキドラムの内周面に押し付けられる。この際、これら両周面同士の間に作用し、前記各ブレーキシュー9a、9bを前記ブレーキドラムと同方向に回転させようとする摩擦力が、ライニング12a、12aとブレーキドラムとの当接圧を高める方向に作用する。この結果、これら両周面同士の間に働く摩擦力を大きくする事ができて、大きな制動力が得られる。
【0011】
これに対して、前記ブレーキドラムが、前記図5の矢印Bで示す様に、車両の後退時の回転方向に回転している場合、制動時には、前記各ブレーキシュー9a、9bに就いても、矢印Bで示す方向に回転する傾向になる。そして、図5の右側(セカンダリ側)のブレーキシュー9bの動きが、前記アジャスタ本体16を介して、同図の左側(プライマリ側)のブレーキシュー9aに伝わり、このプライマリ側のブレーキシュー9aを構成するウェブ13aの円周方向一端縁が、前記アンカ部材8に突き当てられる。この結果、セカンダリ側のブレーキシュー9bの円周方向一端縁を入力側とし、プライマリ側のブレーキシュー9aの円周方向一端縁をアンカ側として、これら各ブレーキシュー9a、9bのライニング11a、11bの外周面が、前記ブレーキドラムの内周面に押し付けられる。この様に、車両の後退時にも、前進時と同様に、大きな制動力を得る事ができる。
【0012】
そして、上述の様な車両の前進時並びに後退時に於けるサービスブレーキの作動時に、前記アジャスタ機構15は、次の様に作動する。
先ず、車両の前進時(ブレーキドラムが矢印A方向に回転している場合)に、サービスブレーキを作動させた場合、セカンダリ側のブレーキシュー9bは、ウェブ13bの円周方向一端縁を前記アンカ部材8に当接させたままの状態で、前記ブレーキドラムの内周面に押し付けられる。この為、前記セカンダリ側のブレーキシュー9bの拡開動作によって、前記アンカ部材8にその他端部を係止した前記アジャスタケーブル18が牽引される事はなく、このアジャスタケーブル18によって前記アジャスタレバー17が揺動させられる事もない。従って、前記アジャスタ本体16が伸長する事はなく、前記各ライニング11a、11bの外周面と前記ブレーキドラムの内周面との隙間は、これら各ライニング11a、11bが摩耗した分だけ大きくなる。
【0013】
これに対して、車両の後退時(ブレーキドラムが矢印B方向に回転している場合)に、サービスブレーキを作動させた場合、セカンダリ側のブレーキシュー9bは、ウェブ13bの円周方向一端縁を前記アンカ部材8から離隔させた状態で、前記ブレーキドラムの内周面に押し付けられる。この為、前記セカンダリ側のブレーキシュー9bの拡開動作に基づく移動量分だけ、前記アジャスタケーブル18が牽引されて、前記アジャスタレバー17を時計回りに揺動させる。従って、このアジャスタレバー17の爪部24により、このアジャスタレバー17の揺動量に見合う分(ブレーキシュー9bの拡開量に見合う分)だけ、前記アジャスタ本体16の歯車部19(ボルト部材20)を回転させて、このアジャスタ本体16を伸長させる。この結果、前記各ライニング11a、11bの外周面と前記ブレーキドラムの内周面との間の隙間を一定に自動調整する(ライニング11a、11bの摩耗量に応じて、ウェブ13a、13bの円周方向他端部同士の間隔を拡げる)事ができる。
【0014】
以上に説明した様に、従来構造のデュオサーボ式ドラムブレーキにあっては、アジャスタ機構を、車両の前進時と後退時との何れか一方で(殆どの場合には後退時に)作動させる事しか意図していなかった。ところが、車両の種類やその使用態様によっては、前進と後退との走行量が著しく不均衡になる(一方に著しく偏る)場合がある。そして、この様な場合には、アジャスタ機構が長時間作動せず、ライニングとブレーキドラムとの隙間が過大になる可能性があり、フットブレーキの踏み込み量が過大になる等、安定したブレーキ制動を得る面からは改良の余地がある。
尚、この様な問題は、前記図5に示した様な、1対のブレーキシューの拡開時(制動時)に、アジャストレバーを揺動させてアジャスタ本体を伸長させる、所謂ポジティブ型のアジャスタ機構に限らず、例えば特許文献3に記載される様な、1対のブレーキシューが非制動時の位置に戻る際(制動解除時)に、アジャスタレバーを揺動させてアジャスタ本体を伸長させる、所謂ネガティブ型のアジャスタ機構に就いても同様に生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特公平1−17015号公報
【特許文献2】特開平9−273572号公報
【特許文献3】特開2001−165214号公報
【特許文献4】実開昭63−146241号公報
【特許文献5】実開昭63−168334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、車両の進行方向に拘わらず、制動時に、ライニングの外周面とブレーキドラムの内周面との隙間を一定に自動調整できる構造を実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のデュオサーボ式ドラムブレーキは、前述した従来構造の場合と同様に、バックプレートと、アンカ部材と、1対のブレーキシューと、入力機構と、アジャスタ本体と、アジャスタレバーと、アジャスタケーブルとを備える。
このうちのバックプレートは、懸架装置に支持されて回転しない。
又、前記アンカ部材は、前記バックプレートの一部外径寄り部分に固定されている。
又、前記各ブレーキシューは、それぞれの外周面にライニングを添着固定したリムの内周面を、円弧形のウェブの外周縁に結合して成る。そして、それぞれのウェブの円周方向一端縁を、前記アンカ部材に対向させている。
又、前記入力機構は、前記アンカ部材の近傍部分で、前記両ウェブの円周方向一端縁同士の間部分に設けられ、前記両ブレーキシューを拡開させる。尚、この様な入力機構には、油圧を利用して1対のピストンを変位させるホイルシリンダの他、空気圧を利用したエアシリンダ、電動モータ等の各種アクチュエータ(カム機構等を含んで構成されるものも含む)が相当する。
又、前記アジャスタ本体は、前記両ブレーキシューを構成する前記ウェブの円周方向他端縁同士の間に設けられている(掛け渡されている)。
又、前記アジャスタレバーは、前記1対のブレーキシューのうちの一方のブレーキシューに揺動可能に支持されており、その揺動量に応じて、前記アジャスタ本体を伸長させる。
又、前記アジャスタケーブルは、前記アジャスタレバーにその一端部を直接或いは他の部材(テンションスプリング等)を介して連結されており、前記各ブレーキシューの拡開動作に基づき、前記アジャスタレバーを揺動させる。
【0018】
特に、本発明のデュオサーボ式ドラムブレーキの場合には、前記アジャスタケーブルの中間部を、前記アンカ部材に、径方向外方から掛け回している。そして、この状態で、前記アジャスタケーブルの他端部を、前記1対のブレーキシューのうちの他方のブレーキシューに連結している。
【0019】
又、本発明を実施する場合に好ましくは、例えば請求項2に記載した発明の様に、前記アジャスタケーブルの他端部を、前記他方のブレーキシューを構成するウェブの円周方向一端寄り部分に連結する。
【0020】
又、好ましくは、請求項3に記載した発明の様に、前記アジャスタケーブルの他端部を前記他方のブレーキシューに対して連結する為の連結部材を用いて、この他方のブレーキシューに対してパーキングレバーを揺動可能に支持する。
【0021】
又、好ましくは、請求項4に記載した発明の様に、前記アンカ部材の外周面に、前記アジャスタケーブルを案内する為の案内凹溝を形成する。
【発明の効果】
【0022】
上述の様に構成する本発明によれば、車両の進行方向に拘わらず、制動時に、ライニングの外周面とブレーキドラムの内周面との隙間を一定に自動調整する事ができる。
即ち、本発明の対象とするデュオサーボ式のドラムブレーキの場合、サービスブレーキの作動時に、車両の前進時と後退時とで、プライマリ側のブレーキシューとセカンダリ側のブレーキシュー(尚、前進時と後退時とでは、プライマリ側とセカンダリ側とが逆転するが、各ブレーキシューを区別し易くする為、プライマリ側、セカンダリ側は、前進時の状態で言う。)との何れか一方がアンカ部材から離れる方向に移動し、他方が前記アンカ部材に突き当てられたままとなる。従って、本発明の様に、1対のブレーキシューのうちの一方のブレーキシューにアジャスタレバーを揺動可能に支持し、このアジャスタレバーに対してその一端部を連結したアジャスタケーブルの中間部を、前記アンカ部材に掛け回すと共に、このアジャスタケーブルの他端部を、他方のブレーキシューに連結すれば、制動時に、何れかのブレーキシューの拡開動作に基づいてアジャスタケーブルを牽引できる。この為、車両の前進、後進を問わず、アジャスタレバーを揺動させる事ができて、アジャスタ本体を伸長させられる。
例えば、前述した従来構造の場合と同様に、アジャスタレバーをセカンダリ側のブレーキシューに揺動可能に支持する場合、アジャスタケーブルの中間部をアンカ部材に掛け回した状態で、このアジャスタケーブルの他端部を、プライマリ側のブレーキシューに連結する。そして、この様な構成に於いて、車両の前進時にサービスブレーキを作動させると、セカンダリ側のブレーキシューを構成するウェブの円周方向一端縁は、前記アンカ部材に突き当てられたままの状態であるのに対して、前記アジャスタケーブルの他端部を連結したプライマリ側のブレーキシューを構成するウェブの円周方向一端縁は、前記アンカ部材から離れる方向に移動する。この為、このプライマリ側のブレーキシューの拡開量分だけ、前記アジャスタケーブルが牽引される。この結果、アジャスタレバーを揺動させる事ができて、アジャスタ本体を伸長させられる。
これに対して、車両の後退時にサービスブレーキを作動させると、アジャスタケーブルの他端部を連結したプライマリ側のブレーキシューを構成するウェブの円周方向一端縁は、アンカ部材に突き当てられたままの状態であるのに対して、セカンダリ側のブレーキシューを構成するウェブの円周方向一端縁は、前記アンカ部材から離れる方向に移動する。この為、アジャスタケーブルの他端部をアンカ部材に係止した場合と同様に、セカンダリ側のブレーキシューがこのアンカ部材から離れる方向に移動する(セカンダリ側のブレーキシューの拡開量)分だけ、前記アジャスタケーブルが牽引される。この結果、アジャスタレバーを揺動させる事ができて、アジャスタ本体を伸長させられる。
尚、上述した説明とは反対に、アジャスタレバーをプライマリ側のブレーキシューに揺動自在に支持し、アジャスタケーブルの中間部をアンカ部材に掛け回した状態で、このアジャスタケーブルの他端部をセカンダリ側のブレーキシューに連結した場合にも、前進時と後退時での動作が逆になる以外は同様にして、アジャスタ本体を伸長させられる。
この様に、本発明によれば、車両の前進時と後退時とを問わず、制動時に、ライニングの外周面とブレーキドラムの内周面との隙間を一定に自動調整する事ができる。この結果、車両の前進と後退との走行量が著しく不均衡になる場合にも、前記隙間が過大になる事を防止して、安定したブレーキ制能を得る事ができる。
【0023】
又、前述した様な請求項2に記載した発明によれば、前記アジャスタケーブルの全長を徒に大きくする必要がないだけでなく、前記他方のブレーキシューが前記アンカ部材から離れる方向に移動した際に、この他方のブレーキシューの移動量に応じて前記アジャスタケーブルを適切に牽引できる。又、このアジャスタケーブルが、入力機構やリターンスプリング等の他の部材と干渉する事も防止できて、設計上も有利になる。
又、前述した様な請求項3に記載した発明によれば、部品の共通化を図れる為、本発明を実施する事によるコスト上昇を抑えられる。
更に、前述した様な請求項4に記載した発明によれば、車両の走行時に加わる振動等に基づいて、前記アジャスタケーブルの中間部が前記アンカ部材から脱落等する事を有効に防止できる。この為、本発明のデュオサーボ式ドラムブレーキの信頼性の向上を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す正面図。
【図2】同じく一部を省略して示す図1のX−O−X断面図。
【図3】同じく図1のY−Y断面図。
【図4】同じく図1のZ−Z断面図。
【図5】従来構造のデュオサーボ式ドラムブレーキの1例を示す正面図。
【図6】同じくアジャスタ本体を取り出して示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1〜4は、本発明の実施の形態の1例を示している。尚、本例の特徴は、アジャスタ機構15aを構成するアジャスタケーブル18aの連結構造(連結位置)を工夫した点にある。その他の部分の構成及び作用・効果に就いては、前述した従来構造の場合とほぼ同様である。この為、同等部分に関する図示並びに説明は省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分及び先に説明しなかった部分を中心に説明する。
【0026】
本例のデュオサーボ式ドラムブレーキ1aの場合にも、バックプレート2の一部外径寄り部分(図1の中央部上端寄り部分)に固定した、特許請求の範囲に記載した入力機構に相当する、ホイルシリンダ5の近傍部分で、このホイルシリンダ5よりも径方向外側部分に、アンカ部材8aを固定している。このアンカ部材8aは、多段円柱状で、その中間部外周面に、前記アジャスタケーブル18aの中間部を掛け回す(案内する)為の案内凹溝26を形成している。
【0027】
又、図示しないブレーキドラムの内側に互いに対向する状態で設けられた、1対のブレーキシュー9a、9bを前記バックプレート2に、弾性的に支持している。又、これら各ブレーキシュー9a、9bを構成する各ウェブ13a、13bの円周方向一端縁(図1の上端縁)を、前記ホイルシリンダ5を構成する各ピストン7、7の先端部及び前記アンカ部材8aに、それぞれ対向させ、このアンカ部材8aと前記各ブレーキシュー9a、9bとの間に、リターンスプリング14a、14bを張設している。この為、非制動時の状態で、前記各ウェブ13a、13bの円周方向一端縁は、前記アンカ部材8aにそれぞれ当接している。一方、これら各ウェブ13a、13bの円周方向他端縁(図1の下端縁)同士の間に、アジャスタ機構15aを構成する、アジャスタ本体16を掛け渡す様に設けている。
【0028】
又、前記アジャスタ本体16を伸長させる為のアジャスタレバー17を、前記1対のブレーキシュー9a、9bのうちの一方(図1の右側、セカンダリ側)のブレーキシュー9bを構成するウェブ13bの円周方向他端寄り部分に、揺動(回転)可能に支持している。そして、前記アジャスタレバー17に設けられた爪部24を、前記アジャスタ本体16を構成する歯車部19に径方向外方から係合させている。又、前記ウェブ13bの円周方向中間部には、略半円形状のガイド部材31を支持固定している。このガイド部材31の外周面には、前記アンカ部材8aの場合と同様に、前記アジャスタケーブル18aの中間部を案内する為の案内凹溝26aを形成している。
【0029】
これに対して、前記1対のブレーキシュー9a、9bのうちの他方(図1の左側、プライマリ側)のブレーキシュー9aを構成するウェブ13aの円周方向一端寄り部分には、連結ピン27を用いて、パーキングレバー28の円周方向一端部(図1の上端部)を揺動(回転)可能に支持している。
【0030】
そして、本例の場合にも、可撓性を有する線材製のアジャスタケーブル18aの一端部(図1の下端部)を、前記アジャスタレバー17に対して、テンションスプリング25を介して連結している。特に、本例の場合には、前記アジャスタケーブル18aの中間部のうちの一端寄り部分を、前記一方のブレーキシュー9bのウェブ13bに支持固定したガイド部材31の外周面に掛け回すと共に、同じく中間部のうちの他端寄り部分を、前記アンカ部材8aの案内凹溝26に掛け回している。そして、この状態で、前記アジャスタケーブル18aの他端部を、前記他方のブレーキシュー9aを構成するウェブ13aの円周方向一端寄り部分(図1の上端部)に、前記連結ピン27を用いて連結している。要するに、本例の場合には、前記図5に示した従来構造のアジャスタケーブル18の全長を伸ばし、このアジャスタケーブル18の他端部の連結位置を、アンカ部材8から、他方のブレーキシュー9aに変更した如き構成を有している。尚、前記テンションスプリング25は、制動時に於ける前記アジャスタケーブル18aの張力を緩和して、前記アジャスタ機構15aにオーバーアジャストが生じる事を防止する。
【0031】
又、本例の場合、前記パーキングレバー28の円周方向他端寄り部分にパーキングケーブル29を連結しており、このパーキングケーブル29によって、前記パーキングレバー28を、前記連結ピン27を中心に揺動させられる様にしている。又、このパーキングレバー28と、前記一方のブレーキシュー9bを構成するウェブ13bとの間部分に、板状のストラット30を掛け渡す様に設けている。この様な構成により、パーキングブレーキの作動時に、前記パーキングケーブル29を牽引し、前記パーキングレバー28を、前記連結ピン27を中心に反時計方向に揺動させる。これにより、前記ストラット30を介して、前記一方のブレーキシュー9bを拡開させ、このブレーキシュー9bを構成するライニング12bの外周面を前記ブレーキドラムの内周面に押し付ける。そして、前記パーキングケーブル29を更に牽引すると、前記パーキングレバー28を介して、前記連結ピン27に径方向外方に向いた力が付与される。これにより、前記他方のブレーキシュー9aを、前記アジャスタ本体16との当接部を支点に拡開させて、このブレーキシュー9aを構成するライニング12aの外周面を前記ドラムブレーキの内周面に押し付ける。この様なパーキングブレーキの構造及び作動に就いては、従来から知られている構造と同様である。
【0032】
以上の様な構成を有する本例のデューサーボ式ドラムブレーキ1aによれば、車両の進行方向に拘わらず、サービスブレーキの作動時(制動時)に、前記各ライニング11a、11bの外周面と前記ブレーキドラムの内周面との隙間を一定に自動調整する事ができる。
先ず、車両の前進時(ブレーキドラムが図1の矢印A方向に回転している場合)に、サービスブレーキを作動させた場合、図1の右側のセカンダリ側のブレーキシュー9bを構成するウェブ13bの円周方向一端縁は、前記アンカ部材8aに突き当てられたままの状態であるのに対して、図1の左側のプライマリ側のブレーキシュー9aを構成するウェブ13aの円周方向一端縁は、前記アンカ部材8aから離れる方向に移動する。この為、このプライマリ側のブレーキシュー9aの拡開量分だけ、前記アジャスタケーブル18aが牽引される。この結果、前記アジャスタレバー17を揺動させる事ができて、前記アジャスタ本体16を伸長させられる。
【0033】
これに対して、車両の後退時(ブレーキドラムが図1の矢印B方向に回転している場合)に、サービスブレーキを作動させた場合、前記アジャスタケーブル18aの他端部を連結したプライマリ側のブレーキシュー9aを構成するウェブ13aの円周方向一端縁は、前記アンカ部材8aに突き当てられたままの状態であるのに対して、セカンダリ側のブレーキシュー9bを構成するウェブ13aの円周方向一端縁は、前記アンカ部材8aから離れる方向に移動する。この為、前記図5に示した従来構造の様に、アジャスタケーブル18の他端部をアンカ部材8に係止した場合と同様に、セカンダリ側のブレーキシュー9bが前記アンカ部材8aから離れる方向に移動する(セカンダリ側のブレーキシュー9bの拡開量)分だけ、前記アジャスタケーブル18aが牽引される。この結果、前記アジャスタレバー17を揺動させる事ができて、前記アジャスタ本体16を伸長させられる。
【0034】
以上の様に、本例のデュオサーボ式ドラムブレーキ1aによれば、車両の前進時と後退時とを問わず、サービスブレーキの作動時に、前記各ライニング11a、11bの外周面と前記ブレーキドラムの内周面との隙間を一定に自動調整する事ができる。この結果、車両の前進と後退との走行量が著しく不均衡になる場合にも、前記隙間が過大になる事を防止して、安定したブレーキ制能を得る事ができる。
【0035】
又、本例の場合には、前記アジャスタケーブル18aの他端部を、前記他方(プライマリ側)のブレーキシュー9aを構成するウェブ13aの円周方向一端寄り部分に連結している為、前記アジャスタケーブル18aの全長が徒に大きくなる事はない。又、このアジャスタケーブル18aの他端部を連結する為の連結部材として、前記パーキングレバー29を前記ブレーキシュー9aに支持する為の連結ピン27を利用(共用)できる。この為、アジャスタケーブル18a自体のコスト上昇を抑えられると共に、部品の共通化を図れ、本例のデュオサーボ式ドラムブレーキ1aを実施する事によるコスト上昇を十分に抑えられる。
【0036】
又、本例の場合には、前記アジャスタケーブル18aの他端部を、前記他方のブレーキシュー9aを構成するウェブ13aの円周方向一端寄り部分に連結している為、このブレーキシュー9aの拡開動作前後での前記アジャスタケーブル18aの他端部の位置が、前記アンカ部材8a(の上端部)を中心とする同心円上に位置する様な事がなくなる。更に、前記アジャスタケーブル18aが、前記ホイルシリンダ5や前記リターンスプリング14a等の他の部材と干渉する事も有効に防止できる。従って、前記他方のブレーキシュー9aが前記アンカ部材8aから離れる方向に移動した際に、この他方のブレーキシュー9aの移動量に応じて前記アジャスタケーブル18aを適切に牽引できる。又、このアジャスタケーブル18aと他の部材との干渉も生じにくくできて、設計上も有利になる。
【0037】
更に、本例の場合には、前記アンカ部材8a及び前記ガイド部材25の外周面に、それぞれ案内凹溝26、26aを形成している為、車両の走行時に加わる振動等に基づいて、前記アジャスタケーブル18aの中間部が、前記アンカ部材8a及び前記ガイド部材25の外周面から脱落等する事を有効に防止できる。この為、本例のデュオサーボ式ドラムブレーキ1aの信頼性の向上を図れる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明を実施する場合に、上述した実施の形態の1例の場合とは反対に、アジャスタレバーをプライマリ側のブレーキシューに揺動自在に支持し、アジャスタケーブルの中間部をこのプライマリ側のブレーキシューの一部(例えばガイド部材)及びアンカ部材に掛け回した状態で、このアジャスタケーブルの他端部をセカンダリ側のブレーキシューに連結する事もできる。この様な構成を採用した場合には、前進時と後退時での動作が逆になる以外は、前記実施の形態の1例の場合と同様に作用し、前記各ブレーキシューのライニングの摩耗に伴って、アジャスタ本体を伸長させられる(アジャスタ機構を作動させられる)。
【符号の説明】
【0039】
1、1a デュオサーボ式ドラムブレーキ
2 バックプレート
3 嵌挿孔
4 ボルト孔
5 ホイルシリンダ
6 シリンダ本体
7 ピストン
8、8a アンカ部材
9a、9b ブレーキシュー
10 シューホールドスプリング
11a、11b ライニング
12a、12b リム
13a、13b ウェブ
14a〜14c リターンスプリング
15、15a アジャスタ機構
16 アジャスタ本体
17 アジャスタレバー
18、18a アジャスタケーブル
19 歯車部
20 ボルト部材
21 ナット部材
22 ソケット部材
23a、23b 係合溝
24 爪部
25 テンションスプリング
26、26a 案内凹溝
27 連結ピン
28 パーキングレバー
29 パーキングケーブル
30 ストラット
31 ガイド部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸架装置に支持されて回転しないバックプレートと、このバックプレートの一部外径寄り部分に固定されたアンカ部材と、それぞれの外周面にライニングを添着固定したリムの内周面を円弧形のウェブの外周縁に結合して成り、それぞれのウェブの円周方向一端縁を前記アンカ部材に対向させた1対のブレーキシューと、このアンカ部材の近傍部分で、上記両ウェブの円周方向一端縁同士の間部分に設けられ、上記両ブレーキシューを拡開させる入力機構と、これら両ブレーキシューを構成する前記ウェブの円周方向他端縁同士の間に設けられ、その全長を伸長可能としたアジャスタ本体と、前記1対のブレーキシューのうちの一方のブレーキシューに揺動可能に支持され、揺動量に応じて前記アジャスタ本体を伸長させるアジャスタレバーと、このアジャスタレバーに一端部が連結されており、前記各ブレーキシューの拡開動作に基づき牽引されて前記アジャスタレバーを揺動させるアジャスタケーブルとを備えたデュオサーボ式ドラムブレーキに於いて、
前記アジャスタケーブルは、その中間部が前記アンカ部材に掛け回された状態で、他端部が前記1対のブレーキシューのうちの他方のブレーキシューに連結されている事を特徴とするデュオサーボ式ドラムブレーキ。
【請求項2】
前記アジャスタケーブルの他端部が、前記他方のブレーキシューを構成するウェブの円周方向一端寄り部分に連結されている、請求項1に記載したデュオサーボ式ドラムブレーキ。
【請求項3】
前記アジャスタケーブルの他端部を前記他方のブレーキシューに対して連結する為の連結部材により、この他方のブレーキシューに対してパーキングレバーを揺動可能に支持している、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載したデュオサーボ式ドラムブレーキ。
【請求項4】
前記アンカ部材の外周面に、前記アジャスタケーブルを案内する為の案内凹溝が形成されている、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載したデュオサーボ式ドラムブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−92896(P2012−92896A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240352(P2010−240352)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】