デンプン分解酵素活性及び食物繊維分解酵素活性が増強された液体麹の製造方法
【課題】液体麹において、デンプン分解酵素活性だけでなく、食物繊維分解酵素活性をも増強すること。
【解決手段】穀粒表面の全部又は一部が穀皮で覆われた穀類及び繊維質を含む基質を含有する炭素源を含有する液体培地を用いて、白麹菌又は黒麹菌を培養する工程を包含する、デンプン分解酵素活性及び食物繊維分解酵素活性が増強された液体麹の製造方法。
【解決手段】穀粒表面の全部又は一部が穀皮で覆われた穀類及び繊維質を含む基質を含有する炭素源を含有する液体培地を用いて、白麹菌又は黒麹菌を培養する工程を包含する、デンプン分解酵素活性及び食物繊維分解酵素活性が増強された液体麹の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素活性が増強された液体麹の製造方法に関し、特に、デンプン分解酵素活性及び食物繊維分解酵素活性が増強された液体麹の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
麦、米、芋などの穀物類から酒類を製造する場合、穀物類の中の炭水化物はデンプンの形で存在しているため、先ず、デンプンが糖に分解(即ち糖化)される。デンプンを糖化するためにはアミラーゼ等のデンプン分解酵素が必要である。酵素の供給源としては麹及び麦芽等が用いられる。
【0003】
例えば、非特許文献1には、麹媒体として小麦ふすま、米ぬか、トウモロコシの皮などを、糸状菌であるアスペルギルス・ニガー及びアスペルギルス・アワモリと組み合わせた各種麹について、酵素活性が測定されている。測定結果において、これらの麹は主としてデンプン分解酵素活性を有することが示されている。
【0004】
麹には、蒸煮等の処理後の原料に糸状菌の胞子を接種して培養する固体麹と、水に原料及びその他の栄養源を添加して液体培地を調製し、これに麹菌の胞子又は前培養した菌糸等を接種して培養する液体麹がある。
【0005】
液体培養法は培養制御や品質管理が容易であり、麹を効率的に生産するのに適した培養形態である。しかし、糖化力が十分に得られない等の理由から、酒類等を製造するために、実際に液体麹を酵素の供給源として用いた例は少ない。
【0006】
液体麹の糖化力を向上させるために、本発明者らは、これまでも液体培養法の改良を試みてきた。例えば、特許文献1には、穀粒表面の全部又は一部が穀皮で覆われた穀類、及び硝酸カリウム等の窒素源を含有する液体培地を用いて白麹菌又は黒麹菌を培養することで、液体麹のデンプン分解酵素活性が増強されることが記載されている。
【0007】
しかし、糖化の原料が繊維質を多く含む場合、例えば、繊維質を多く含む穀類又は芋類である場合、従来の液体麹では糖化が進行し難くなる問題が明らかになった。繊維質を多く含む糖化原料において糖化が進行し難い理由は、デンプンを糖化する過程で繊維質が固形分として残存するためと考えられる。即ち、繊維質を多く含む穀物類に対しても実用レベルの糖化力を得るには、液体麹のデンプン分解酵素活性だけでなく、食物繊維分解酵素活性をも増強する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許4083194
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Badunnesa Feroza et a1, Annual Reports ICBiotech Vol.8, Page109-119 (1985)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者は、上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、液体麹において、液体麹のデンプン分解酵素活性だけでなく、食物繊維分解酵素活性をも増強することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、穀粒表面の全部又は一部が穀皮で覆われた穀類及び繊維質を含む基質を含有する炭素源を含有する液体培地を用いて、白麹菌又は黒麹菌を培養する工程を包含する、デンプン分解酵素活性及び食物繊維分解酵素活性が増強された液体麹の製造方法を提供する。
【0012】
ある一形態においては、前記デンプン分解酵素が少なくとも耐酸性α−アミラーゼ及びグルコアミラーゼであり、前記食物繊維分解酵素が少なくともβ−グルカナーゼ及びキシラナーゼである。
【0013】
ある一形態においては、前記繊維質を含む基質がビートファイバー及び大根からなる群から選択される少なくとも一種である。
【0014】
ある一形態においては、前記繊維質を含む基質がビートファイバーである。
【0015】
ある一形態においては、前記白麹菌がアスペルギルス・カワチであり、前記黒麹菌がアスペルギルス・アワモリである。
【0016】
ある一形態においては、前記穀粒表面の全部又は一部が穀皮で覆われた穀類が、玄米、籾殻が全部又は一部付いている米又は未精白から精白歩合92%以上の大麦若しくは小麦である。
【0017】
また、本発明は、上記のいずれかに記載の方法により製造された液体麹を提供する。
【0018】
また、本発明は、繊維質の穀類又は繊維質の芋類に対し、前記液体麹に含まれるデンプン分解酵素及び食物繊維分解酵素を作用させる工程を包含する、繊維質の穀類又は繊維質の芋類の糖化方法を提供する。
【0019】
ある一形態においては、前記繊維質の穀類が小麦、大麦、トウモロコシ、稗などであり、前記繊維質の芋類がキャッサバ、サツマイモ、ジャガイモなどである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の方法によれば、液体麹において、デンプン分解酵素活性及び食物繊維分解酵素活性が増強される。そのため、繊維質を多く含む糖化原料であっても液体麹を用いて効率よく糖化することが可能となる。つまり、液体麹による実用的な糖化の対象が、繊維質を多く含む穀類又は芋類にまで拡大される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】各種の繊維質を含む基質及びアスペルギルス・カワチを用いて製造された本発明の液体麹についてのβ−グルカナーゼ活性を示すグラフである。
【図2】各種の繊維質を含む基質及びアスペルギルス・カワチを用いて製造された本発明の液体麹についてのキシラナーゼ活性を示すグラフである。
【図3】各種の繊維質を含む基質及びアスペルギルス・アワモリを用いて製造された本発明の液体麹についてのβ−グルカナーゼ活性を示すグラフである。
【図4】各種の繊維質を含む基質及びアスペルギルス・アワモリを用いて製造された本発明の液体麹についてのキシラナーゼ活性を示すグラフである。
【図5】各種の繊維質を含む基質及びアスペルギルス・カワチを用いて製造された本発明の液体麹についての耐酸性α−アミラーゼ活性を示すグラフである。
【図6】各種の繊維質を含む基質及びアスペルギルス・カワチを用いて製造された本発明の液体麹についてのグルコアミラーゼ活性を示すグラフである。
【図7】各種の繊維質を含む基質及びアスペルギルス・アワモリを用いて製造された本発明の液体麹についての耐酸性α−アミラーゼ活性を示すグラフである。
【図8】各種の繊維質を含む基質及びアスペルギルス・アワモリを用いて製造された本発明の液体麹についてのグルコアミラーゼ活性を示すグラフである。
【図9】各種の繊維質を含む基質及びアスペルギルス・カワチを用いて製造された本発明の液体麹で小麦を糖化して得られた糖化率を示すグラフである。
【図10】各種の繊維質を含む基質及びアスペルギルス・アワモリを用いて製造された本発明の液体麹で小麦を糖化して得られた糖化率を示すグラフである。
【図11】各種の繊維質を含む基質及びアスペルギルス・カワチを用いて製造された本発明の液体麹でキャッサバを糖化して得られた糖化率を示すグラフである。
【図12】各種の繊維質を含む基質及びアスペルギルス・アワモリを用いて製造された本発明の液体麹でキャッサバを糖化して得られた糖化率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
液体培地
本発明の方法で用いる液体培地は、白麹菌又は黒麹菌が生育及び増殖するのに必要な栄養を水中に溶解又は懸濁させた液体である。かかる栄養には、例えば、炭素源、窒素源、無機塩類などが含まれる。
【0023】
炭素源の一つとしては、穀類を用いる。そうすると、デンプンを分解するデンプン分解酵素が生産される。穀類としては、例えば、大麦、小麦、米、そば、ヒエ、アワ、キビ、コウリャン、トウモロコシ等を挙げることができる。穀類の粒子、即ち穀粒は、表面の全部又は一部、好ましくは全部が穀皮で覆われていることが必要である。穀皮とは穀粒の表面を覆っている皮膜を言う。
【0024】
穀粒の表面が穀皮で覆われていると、当該穀粒中のでん粉の糖化に時間がかかり、培養系への糖の放出速度が抑制され、液体麹の酵素活性が増強される。
【0025】
穀類は、例えば、玄米、玄大麦、玄小麦などの未精白物、又は穀皮が穀粒の表面に残されている程度までに精白された精白物を用いることができる。また、米の場合には、籾殻が全部又は一部付いているものでもよい。
【0026】
未精白の穀粒の重量を100として、精白後にも残存する穀粒の重量の割合を精白歩合とすると、本発明の方法で用いる精白物は、精白歩合が、未精白の精白歩合(100%)から穀粒の穀皮歩合を差し引いた割合以上である。
【0027】
例えば、大麦は穀皮歩合が7〜8%であり、精白歩合が92〜93%以上のものを用いることができる。
【0028】
穀類は、液体培地中の含有量が1〜20%(w/vo1)であり、穀類が未精白の場合は好ましくは8〜10%(w/vol)であり、95%精白の場合は好ましくは1〜4%(w/vo1)となる量で用いられる。穀類の含有量が1%未満であると麹菌は十分に育成又は増殖せず、酵素活性が不十分となり、20%を超えると、培養液の粘性が高くなり、麹菌を好気培養するために必要な酸素や空気の供給が不十分となり、培養物中の酸素濃度が低下して、培養が進み難くなる。
【0029】
穀類に含まれるデンプンは、培養前に予め糊化しておいてもよい。デンプンの糊化方法については特に限定はなく、蒸きょう法、焙焼法等常法に従って行なえばよい。後述する液体培地の殺菌工程において、高温高圧滅菌等によりデンプンの糊化温度以上に加熱する場合は、この処理によりデンプンの糊化も同時に行なわれる。
【0030】
また、液体培地の炭素源としては、穀類と組み合わせて、繊維質を含む基質も用いる。そうすると、デンプン分解酵素ばかりでなく、食物繊維分解酵素も生産される。繊維質を含む基質としてはビートファイバー及び大根からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。大根は、好ましくは切断し乾燥する。食物繊維分解酵素を高生産させるために、好ましくはビートファイバーである。
【0031】
繊維質を含む基質は、液体培地中の炭素源に占める割合が1〜40%(w/v)、好ましくは5〜30%(w/v)、より好ましくは10〜25%(w/v)となる割合で用いられ、1%未満であると効果がなく、40%を超えると活性が低下する。
【0032】
窒素源としては、麹菌が育成及び増殖するのに必要な窒素供給源であれば特に限定はない。有機物としては、例えば、酵母菌体又はその処理物(例えば、酵母菌体分解物、酵母エキスなど)等が挙げられ、無機物としては、例えば、硝酸塩が挙げられる。
【0033】
硝酸塩としては硝酸カリウム、硝酸ナトリウムなどを用いることができ、特に硝酸カリウムが好ましい。窒素源は、単独で用いる他、2種類以上の有機物及び/又は無機物を組み合せて使用してもよい。
【0034】
窒素源の添加量は、麹菌の増殖を促進する程度であれば特に限定はないが、有機物としては0.1〜2%(w/vol)、好ましくは0.5〜1.0%(w/vol)である。また、無機物としての硝酸塩の添加量は0.05〜2.0%(w/vol)、好ましくは0.1〜2.0%(w/vol)、もっとも好ましくは0.2〜1.5%(w/vol)である。
【0035】
上限値を超えて窒素源を添加した場合は、麹菌の増殖を阻害するため好ましくない。また、添加量が下限値未満である場合は、酵素生産が促されないため、やはり好ましくない。
【0036】
本発明で窒素源の一種として用いられる酵母は、醸造工程や食品製造で用いられるビール酵母、ワイン酵母、ウイスキー酵母、焼酎酵母、清酒酵母、パン酵母のほかにサッカロマイセス(Saccharomyces)属、キャンディダ(Candida)属、トルロプシス(Torulopsis)属、ハンゼニアスポラ(Hanseniaspora)属、ハンゼヌラ(Hansenula)属、デバリオマイセス(Debaryomyces)属、サッカロマイコプシス(Saccharomycopsis)属、サッカロマイコデス(Saccharomycodes)属、ピヒア(Pichia)属、パキィソレン(Pachysolen)属等の酵母菌体を挙げることができる。
【0037】
これらの酵母は、菌体そのものを窒素源として用いることもできるが、酵母菌体分解物や酵母エキスとして用いることもできる。酵母菌体分解物あるいは酵母エキスは、酵母菌体を自己消化法(酵母菌体内に本来あるタンパク質分解酵素を利用して菌体を可溶化する方法)、酵素分解法(微生物由来や植物由来の酵素製剤等を添加して可溶化する方法)、熱水抽出物法(熱水中に酵母菌体を一定時間浸漬して可溶化する方法)、酸あるいはアルカリ分解法(種々の酸あるいはアルカリを添加して可溶化する方法)、物理的破砕法(超音波処理や高圧ホモジナイズ法、ガラスビーズ等の固形物を混合して混合・攪拌することにより破砕する方法)、凍結融解法(凍結・融解を1回以上行なうことにより破砕する方法)等により処理することで得られる。
【0038】
その他の栄養
本発明に用いる液体培地には、炭素源又は窒素源の他に、硫酸塩及びリン酸塩を添加し含有させることができる。これらの無機塩類を併用することにより、酵素活性が増強される。
【0039】
例えば、硫酸塩としては硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム7水和物、硫酸鉄7水和物、硫酸アンモニウムなどを用いることができ、特に硫酸マグネシウム7水和物が好ましい。リン酸塩としてはリン酸2水素カリウム、リン酸アンモニウムなどを用いることができ、特にリン酸2水素カリウムが好ましい。これらの無機塩類は、単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0040】
また、液体培地における上記の無機塩類の濃度は、麹菌培養物中にデンプン分解酵素や食物繊維分解酵素、タンパク分解酵素などの酵素が選択的に生成、蓄積される程度のものに調整される。例えば、硫酸塩の場合は0.01〜0.5%(w/vo1)、好ましくは0.02〜0.2%(w/vo1)、リン酸塩の場合は0.05〜1.0%(w/vo1)、好ましくは0.1〜0.8%(w/vol)とする。
【0041】
液体培地には、前述の窒素源や無機塩類以外の有機物や無機塩類等も、栄養源として適宜添加することができる。これらの添加物は麹菌の培養に一般に使用されているものであれば特に限定はないが、有機物としては小麦麩、コーンスティープリカー、大豆粕、脱脂大豆等を、無機塩類としてはアンモニウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等の水溶性の化合物を挙げることができ、2種類以上の有機物及び/又は無機塩類を同時に使用してもよい。
【0042】
これらの添加量は麹菌の増殖を促進する程度であれば特に限定はないが、有機物としては0.1〜5%(w/vo1)程度、無機塩類としては0.1〜1%(w/vo1)程度添加するのが好ましい。
【0043】
上限値を超えてこれらの栄養源を添加した場合は、麹菌の増殖を阻害するため好ましくない。また、添加量が下限値未満である場合は、酵素生産が促されないため、やはり好ましくない。
【0044】
上記の培養原料及び窒素源を水と混合することにより得られる麹菌の液体培地は、必要に応じて滅菌処理を行なってもよく、処理方法には特に限定はない。例としては、高温高圧滅菌法を挙げることができ、121℃で15分間行なえばよい。
【0045】
液体麹の製造
滅菌した液体培地を培養温度まで冷却後、白麹菌及び/又は黒麹菌を液体培地に接種する。培地に接種する麹菌の形態は任意であり、胞子又は菌糸を用いることができる。
【0046】
麹菌の液体培地への接種量には特に制限はないが、液体培地1ml当り、胞子であれば1×104〜1×106個程度、菌糸であれば前培養液を0.1〜10%程度接種することが好ましい。
【0047】
麹菌の培養温度は、生育に影響を及ぼさない限りであれば特に限定はないが、好ましくは25〜45℃、より好ましくは30〜40℃で行なうのがよい。培養温度が低いと、麹菌の増殖が遅くなるため雑菌による汚染が起きやすくなる。培養時間は24〜120時間が適当である。
【0048】
本発明で用いる麹菌としては、グルコアミラーゼ、耐酸性α−アミラーゼ、α−アミラーゼなどのデンプン分解酵素、セルラーゼ、β−グルコシダーゼ、キシラナーゼなどの食物繊維分解酵素等の生産能を有する麹菌が好ましい。具体的には、白麹菌としてはアスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)等、黒麹菌としてはアスペルギルス・アワモリ(Aperigillus awamori)又はアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等が挙げられる。
【0049】
白麹菌としてはアスペルギルス・カワチが好ましい。黒麹菌としてはアスペルギルス・アワモリが好ましい。これらを用いることにより、デンプン分解酵素及び食物繊維分解酵素が高生産されるからである。
【0050】
これらの麹菌は1種類の菌株による培養、又は同種若しくは異種の2種類以上の菌株による混合培養のどちらでも用いることができる。これらは胞子又は前培養により得られる菌糸のいずれの形態のものを用いても問題はないが、菌糸を用いる方が対数増殖期に要する時間が短くなるので好ましい。
【0051】
培養装置は、液体培養を行なうことができるものであればよいが、麹菌は好気培養を行なう必要があるので、酸素や空気を培地中に供給できる好気的条件下で行なう必要がある。また、培養中は培地中の原料、酸素、及び麹菌が装置内に均一に分布するように撹拌をするのが好ましい。撹拌条件や通気量については、培養環境を好気的に保つことができる条件であればいかなる条件でもよく、培養装置、培地の粘度等により適宜選択すればよい。
【0052】
上記の培養法で培養することにより、デンプンを分解するデンプン分解酵素及び食物繊維及びヘミセルロースを分解する食物繊維分解酵素などの酵素活性を有する液体麹が得られる。
【0053】
ここでいう液体麹には、液体培養した培養物そのもの、培養物の上清液、培養物を濾過又は遠心分離等することにより得られる清澄液、それらの濃縮物等が含まれる。又、液体麹の乾燥物等も液体麹の同等物であり、酵素源として同様に使用することができる。
【0054】
本発明の液体麹は、未濃縮の状態で、例えば、次に示す酵素活性を示すことが好ましい。各酵素活性の測定は実施例に説明する方法に準じて行なわれる。
【0055】
耐酸性α−アミラーゼ(ASAA)活性については、16U/ml以上、好ましくは18U/ml以上、より好ましくは20U/ml以上、更に好ましくは23U/ml以上。
グルコアミラーゼ(GA)活性については、45U/ml以上、好ましくは50U/ml以上、より好ましくは60U/ml以上、更に好ましくは70U/ml以上。
β−グルカナーゼ(BG)活性については、0.15U/ml以上、好ましくは0.20U/ml以上、より好ましくは0.80U/ml以上、更に好ましくは1.0U/ml以上。
キシラナーゼ(XY)活性については、0.20U/ml以上、好ましくは0.28U/ml以上、より好ましくは0.30U/ml以上、更に好ましくは0.40U/ml以上。
【0056】
本発明の製造方法で得られた液体麹は、焼酎、清酒、しょうゆ、味噌、みりん及び甘酒等の発酵飲食品を製造するための酵素源として固体麹と同様に用いることができる。
【0057】
また、得られた液体麹の一部を次の液体麹製造におけるスターターとして用いることもできる。このように液体麹を連続的に製造することにより、安定的な生産が可能になると同時に、生産効率の向上も図ることができる。
【0058】
また、本発明の液体麹は、その高い酵素活性から、酵素製剤、並びに消化剤などの医薬品などとしての利用も可能である。この場合、得られた麹菌培養物を所望の程度に濃縮・精製し、適当な賦形剤、増粘剤、甘味料などを添加して常法により製剤化すればよい。
【0059】
糖化原料の糖化
本発明の液体麹を用いて糖化原料を糖化する際には、糖化原料に対し本発明の液体麹に含まれるデンプン分解酵素及び食物繊維分解酵素を作用させる。例えば、糖化原料は、必要に応じて前処理を行った後に、糖化原料が浸漬するのに十分な量の液体麹を含む水の中に投入され、酵素が作用するのに適当な温度で静置又は必要に応じて振盪あるいは攪拌される。糖化原料の前処理としては、一般に洗浄、粉砕、加熱、アルカリ処理などの操作が行われる。
【0060】
本発明の液体麹にはデンプン分解酵素及び食物繊維分解酵素が多く含まれている。つまり、この液体麹は、糖化原料に含まれるデンプンの分解力に優れると共に繊維質の分解力にも優れている。それゆえ、糖化原料が繊維質を多く含んでいる場合でも、糖化の過程中繊維質が固形分として残存することがなく、糖化の進行が促進される。
【0061】
従来の液体麹では糖化が困難であった、又は糖化効率が低かった、繊維質を多く含む糖化原料には、繊維質を多く含む穀類又は繊維質を多く含む芋類が含まれ、具体的には、穀類として、小麦、大麦、トウモロコシ及び稗など、また、芋類として、キャッサバ、サツマイモ及びジャガイモなどである。
【0062】
繊維質を多く含む糖化原料を糖化して得られた糖化液は、例えば、酵母を用いてアルコール発酵させ、要すれば蒸留して、焼酎のようなアルコール飲料又はバイオエタノールを製造するのに利用される。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例によってより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
実施例1
液体麹の製造
1.麹菌
菌株として、白麹菌に関する標準株であるアスペルギルス・カワチ(NBRC4308株)、及び黒麹菌に関する標準株であるアスペルギルス・アワモリ(NBRC4388株)を準備した。
【0065】
2.前培養方法
65%精白大麦8%(w/v)、KNO30.2%(w/v)、KH2PO40.3%(w/v)の組成を有する前培養培地100mlを、容量500mlのバッフル付三角フラスコに入れ、121℃、15分間オートクレーブ滅菌し、室温冷却後、麹菌の胞子1白金耳を接種した。その後、温度37℃、100rpmにて24時間回転振盪培養を行った。
【0066】
3.繊維質を含む基質
繊維質を含む基質として、ビートファイバー(甜菜由来:日本甜菜製糖社製)、ダイコン(切干大根)準備した。ダイコンについては、使用する前に粉砕処理を行った。
【0067】
また、対照例として、スターチ(溶性デンプン)を準備した。
【0068】
4.本培養方法
精白歩合が98%の大麦2.0%(w/v)、KNO30.4%(w/v)、KH2PO40.6%(w/v)、繊維質を含む基質0.5%(w/v)の組成を有する本培養培地(pH無調整)100mlを、500ml容のバッフル付三角フラスコに入れ、121℃、15分間オートクレーブ滅菌し、室温冷却後、前培養液を2ml接種した。その後、37℃、100rpmにて72時間回転振盪培養を行った。
【0069】
5.酵素活性の測定
本培養を行った培養液から遠心分離により得た培養上清液を液体麹試料として、酵素活性を測定した。測定方法は次の通りである。
【0070】
耐酸性α−アミラーゼ(ASAA)活性:
培養上清液1mlに100mM酢酸緩衝液(pH3)9mlを添加して37℃で1時間酸処理を行なった後に、α−アミラーゼ測定キット(キッコーマン製)を用いて測定した。
【0071】
グルコアミラーゼ(GA)活性:
国税庁所定分析法に従い測定した。具体的には、デンプン溶液1mlに0.2M酢酸緩衝液0.2mlを加え、40℃で5分間予熱した。これに培養上清液0.1mlを加え、40℃で20分間反応させ、1N水酸化ナトリウム溶液0.1mlを添加して反応を停止させた。その後30分間放置し、1N塩酸溶液0.1mlを加えて中和した。別に対照として、デンプン溶液1mlに0.2M酢酸緩衝液0.2mlを加え、40℃で5分間予熱し、1N水酸化ナトリウム溶液0.1mlを加えた後に培養上清液0.1mlを添加し、以下上記と同様に操作した。反応液中に生成したグルコース量はグルコースCII-テストワコー(和光純薬製)を用いて測定した。
【0072】
グルコアミラーゼ活性は、可溶性デンプンから40℃で60分間に1mgのブドウ糖を生成する活性を1単位として表した。
【0073】
β−グルカナーゼ(BG)活性:
β-グルカナーゼ活性は、メガザイム社製のβ‐グルカナーゼ測定キットを用い、色素標識したβ-グルカンを基質とした酵素分解によって生じた染色断片を吸光度測定した。具体的には、アゾ大麦グルカン基質溶液0.5mlに培養上清液0.5mlを加えて、40℃にて正確に10分間酵素反応を行なわせた後、停止液〔4%酢酸ナトリウム、0.4%酢酸亜鉛、80%メチルセルソルブを含む(pH5)〕3.0mlを加えて5分放置し、反応を停止した。続いて遠心分離した後、上澄液を590nmの吸光度測定した。
【0074】
1単位のβ-グルカナーゼ活性は、40℃、10分間の反応条件下で、1分間に1μmolのグルコースに相当する還元糖を生成する酵素量として表した。
【0075】
キシラナーゼ(XY)活性:
キシラナーゼ活性は、メガザイム社製のキシラナーゼ測定キットを用い、アゾ−キシランを基質とした酵素分解によって生じた染色断片を吸光度測定した。より具体的には1%アゾ−キシラン基質溶液(メガザイム社製)0.5mlに培養上清液0.5mlを加えて、40℃にて正確に10分間酵素反応を行なわせた後、停止液〔エタノール(95%v/v)〕2.5mlを加えてよく混合し、反応を停止した。続いて遠心分離した後、上澄液を590nmの吸光度測定した。
【0076】
1単位のキシラナーゼ活性は、40℃、10分間の反応条件下で、1分間に1μmolのグルコースに相当する還元糖を生成する酵素量として表した。
【0077】
6.測定結果
アスペルギルス・カワチを用いた液体麹試料についてのBG活性(U/ml)およびXY活性(U/ml)を図1および図2に示す。また、アスペルギルス・アワモリを用いた液体麹試料についてのBG活性(U/ml)およびXY活性(U/ml)を図3および図4に示す。
【0078】
これらの結果により、アスペルギルス・カワチ及びアスペルギルス・アワモリを用いた液体麹試料のいずれについても、食物繊維分解酵素活性であるBG活性及びXY活性が高まることが判明した。
【0079】
次に、アスペルギルス・カワチを用いた液体麹試料についてのASAA活性(U/ml)およびGA活性(U/ml)を図5および図6に示す。また、アスペルギルス・アワモリを用いた液体麹試料についてのASAA活性(U/ml)およびGA活性(U/ml)を図7および図8に示す。
【0080】
これらの結果により、アスペルギルス・カワチ及びアスペルギルス・アワモリを用いた液体麹試料のいずれについても、デンプン分解酵素活性であるASAA活性及びGA活性が高まることが判明した。
【0081】
以上より、繊維質を含む基質を炭素源として一部添加することで、食物繊維分解酵素活性が高まり、デンプン分解酵素活性についても同時に高まることが確認された。
【0082】
実施例2
小麦の糖化
無蒸煮で粉砕した小麦1.0g、100mM酢酸緩衝液(pH4.0)45ml、液体麹試料5.0mlを100ml容三角フラスコに入れ、37℃、100rpmの往復振盪下にて糖化を行った(n=2)。4時間後、上清液のグルコース濃度をグルコース測定キット(CII−テストワコー:和光純薬社製)により測定した。
【0083】
小麦1.0g中の総でんぷん量に対して生成したダルコースの割合を糖化率として、アスペルギルス・カワチを用いた液体麹試料に関する結果を図9に、アスペルギルス・アワモリを用いた液体麹試料に関する結果を図10に示す。
【0084】
このように、アスペルギルス・カワチおよびアスペルギルス・アワモリのいずれについても、繊維質を含む基質を一部添加して培養された液体麹を用いた場合は、繊維質を多く含む穀類の糖化速度が速まることが認められた。
【0085】
実施例3
キャッサバの糖化
乾燥させ無蒸煮のまま粉砕したキャッサバ1.0g、100mM酢酸緩衝液(pH4.0)45ml、液体麹試料5.0mlを100ml容三角フラスコに入れ、37℃、100rpmの往復振盪下にて糖化を行った(n=2)。4時間後、上清液のグルコース濃度をグルコース測定キット(CII−テストワコー:和光純薬社製)により測定した。
【0086】
キャッサバ1.0g中の総でんぷん量に対して生成したダルコースの割合を糖化率として、アスペルギルス・カワチを用いた液体麹試料に関する結果を図11に、アスペルギルス・アワモリを用いた液体麹試料に関する結果を図12に示す。
【0087】
このように、アスペルギルス・カワチおよびアスペルギルス・アワモリのいずれについても、繊維質を含む基質を一部添加して培養された液体麹を用いた場合は、繊維質を多く含む芋類の糖化速度が速まることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、繊維質を多く含む糖化原料について、焼酎等の発酵飲食品又はバイオエタノール等の製造に利用することが促進される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素活性が増強された液体麹の製造方法に関し、特に、デンプン分解酵素活性及び食物繊維分解酵素活性が増強された液体麹の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
麦、米、芋などの穀物類から酒類を製造する場合、穀物類の中の炭水化物はデンプンの形で存在しているため、先ず、デンプンが糖に分解(即ち糖化)される。デンプンを糖化するためにはアミラーゼ等のデンプン分解酵素が必要である。酵素の供給源としては麹及び麦芽等が用いられる。
【0003】
例えば、非特許文献1には、麹媒体として小麦ふすま、米ぬか、トウモロコシの皮などを、糸状菌であるアスペルギルス・ニガー及びアスペルギルス・アワモリと組み合わせた各種麹について、酵素活性が測定されている。測定結果において、これらの麹は主としてデンプン分解酵素活性を有することが示されている。
【0004】
麹には、蒸煮等の処理後の原料に糸状菌の胞子を接種して培養する固体麹と、水に原料及びその他の栄養源を添加して液体培地を調製し、これに麹菌の胞子又は前培養した菌糸等を接種して培養する液体麹がある。
【0005】
液体培養法は培養制御や品質管理が容易であり、麹を効率的に生産するのに適した培養形態である。しかし、糖化力が十分に得られない等の理由から、酒類等を製造するために、実際に液体麹を酵素の供給源として用いた例は少ない。
【0006】
液体麹の糖化力を向上させるために、本発明者らは、これまでも液体培養法の改良を試みてきた。例えば、特許文献1には、穀粒表面の全部又は一部が穀皮で覆われた穀類、及び硝酸カリウム等の窒素源を含有する液体培地を用いて白麹菌又は黒麹菌を培養することで、液体麹のデンプン分解酵素活性が増強されることが記載されている。
【0007】
しかし、糖化の原料が繊維質を多く含む場合、例えば、繊維質を多く含む穀類又は芋類である場合、従来の液体麹では糖化が進行し難くなる問題が明らかになった。繊維質を多く含む糖化原料において糖化が進行し難い理由は、デンプンを糖化する過程で繊維質が固形分として残存するためと考えられる。即ち、繊維質を多く含む穀物類に対しても実用レベルの糖化力を得るには、液体麹のデンプン分解酵素活性だけでなく、食物繊維分解酵素活性をも増強する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許4083194
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Badunnesa Feroza et a1, Annual Reports ICBiotech Vol.8, Page109-119 (1985)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者は、上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、液体麹において、液体麹のデンプン分解酵素活性だけでなく、食物繊維分解酵素活性をも増強することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、穀粒表面の全部又は一部が穀皮で覆われた穀類及び繊維質を含む基質を含有する炭素源を含有する液体培地を用いて、白麹菌又は黒麹菌を培養する工程を包含する、デンプン分解酵素活性及び食物繊維分解酵素活性が増強された液体麹の製造方法を提供する。
【0012】
ある一形態においては、前記デンプン分解酵素が少なくとも耐酸性α−アミラーゼ及びグルコアミラーゼであり、前記食物繊維分解酵素が少なくともβ−グルカナーゼ及びキシラナーゼである。
【0013】
ある一形態においては、前記繊維質を含む基質がビートファイバー及び大根からなる群から選択される少なくとも一種である。
【0014】
ある一形態においては、前記繊維質を含む基質がビートファイバーである。
【0015】
ある一形態においては、前記白麹菌がアスペルギルス・カワチであり、前記黒麹菌がアスペルギルス・アワモリである。
【0016】
ある一形態においては、前記穀粒表面の全部又は一部が穀皮で覆われた穀類が、玄米、籾殻が全部又は一部付いている米又は未精白から精白歩合92%以上の大麦若しくは小麦である。
【0017】
また、本発明は、上記のいずれかに記載の方法により製造された液体麹を提供する。
【0018】
また、本発明は、繊維質の穀類又は繊維質の芋類に対し、前記液体麹に含まれるデンプン分解酵素及び食物繊維分解酵素を作用させる工程を包含する、繊維質の穀類又は繊維質の芋類の糖化方法を提供する。
【0019】
ある一形態においては、前記繊維質の穀類が小麦、大麦、トウモロコシ、稗などであり、前記繊維質の芋類がキャッサバ、サツマイモ、ジャガイモなどである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の方法によれば、液体麹において、デンプン分解酵素活性及び食物繊維分解酵素活性が増強される。そのため、繊維質を多く含む糖化原料であっても液体麹を用いて効率よく糖化することが可能となる。つまり、液体麹による実用的な糖化の対象が、繊維質を多く含む穀類又は芋類にまで拡大される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】各種の繊維質を含む基質及びアスペルギルス・カワチを用いて製造された本発明の液体麹についてのβ−グルカナーゼ活性を示すグラフである。
【図2】各種の繊維質を含む基質及びアスペルギルス・カワチを用いて製造された本発明の液体麹についてのキシラナーゼ活性を示すグラフである。
【図3】各種の繊維質を含む基質及びアスペルギルス・アワモリを用いて製造された本発明の液体麹についてのβ−グルカナーゼ活性を示すグラフである。
【図4】各種の繊維質を含む基質及びアスペルギルス・アワモリを用いて製造された本発明の液体麹についてのキシラナーゼ活性を示すグラフである。
【図5】各種の繊維質を含む基質及びアスペルギルス・カワチを用いて製造された本発明の液体麹についての耐酸性α−アミラーゼ活性を示すグラフである。
【図6】各種の繊維質を含む基質及びアスペルギルス・カワチを用いて製造された本発明の液体麹についてのグルコアミラーゼ活性を示すグラフである。
【図7】各種の繊維質を含む基質及びアスペルギルス・アワモリを用いて製造された本発明の液体麹についての耐酸性α−アミラーゼ活性を示すグラフである。
【図8】各種の繊維質を含む基質及びアスペルギルス・アワモリを用いて製造された本発明の液体麹についてのグルコアミラーゼ活性を示すグラフである。
【図9】各種の繊維質を含む基質及びアスペルギルス・カワチを用いて製造された本発明の液体麹で小麦を糖化して得られた糖化率を示すグラフである。
【図10】各種の繊維質を含む基質及びアスペルギルス・アワモリを用いて製造された本発明の液体麹で小麦を糖化して得られた糖化率を示すグラフである。
【図11】各種の繊維質を含む基質及びアスペルギルス・カワチを用いて製造された本発明の液体麹でキャッサバを糖化して得られた糖化率を示すグラフである。
【図12】各種の繊維質を含む基質及びアスペルギルス・アワモリを用いて製造された本発明の液体麹でキャッサバを糖化して得られた糖化率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
液体培地
本発明の方法で用いる液体培地は、白麹菌又は黒麹菌が生育及び増殖するのに必要な栄養を水中に溶解又は懸濁させた液体である。かかる栄養には、例えば、炭素源、窒素源、無機塩類などが含まれる。
【0023】
炭素源の一つとしては、穀類を用いる。そうすると、デンプンを分解するデンプン分解酵素が生産される。穀類としては、例えば、大麦、小麦、米、そば、ヒエ、アワ、キビ、コウリャン、トウモロコシ等を挙げることができる。穀類の粒子、即ち穀粒は、表面の全部又は一部、好ましくは全部が穀皮で覆われていることが必要である。穀皮とは穀粒の表面を覆っている皮膜を言う。
【0024】
穀粒の表面が穀皮で覆われていると、当該穀粒中のでん粉の糖化に時間がかかり、培養系への糖の放出速度が抑制され、液体麹の酵素活性が増強される。
【0025】
穀類は、例えば、玄米、玄大麦、玄小麦などの未精白物、又は穀皮が穀粒の表面に残されている程度までに精白された精白物を用いることができる。また、米の場合には、籾殻が全部又は一部付いているものでもよい。
【0026】
未精白の穀粒の重量を100として、精白後にも残存する穀粒の重量の割合を精白歩合とすると、本発明の方法で用いる精白物は、精白歩合が、未精白の精白歩合(100%)から穀粒の穀皮歩合を差し引いた割合以上である。
【0027】
例えば、大麦は穀皮歩合が7〜8%であり、精白歩合が92〜93%以上のものを用いることができる。
【0028】
穀類は、液体培地中の含有量が1〜20%(w/vo1)であり、穀類が未精白の場合は好ましくは8〜10%(w/vol)であり、95%精白の場合は好ましくは1〜4%(w/vo1)となる量で用いられる。穀類の含有量が1%未満であると麹菌は十分に育成又は増殖せず、酵素活性が不十分となり、20%を超えると、培養液の粘性が高くなり、麹菌を好気培養するために必要な酸素や空気の供給が不十分となり、培養物中の酸素濃度が低下して、培養が進み難くなる。
【0029】
穀類に含まれるデンプンは、培養前に予め糊化しておいてもよい。デンプンの糊化方法については特に限定はなく、蒸きょう法、焙焼法等常法に従って行なえばよい。後述する液体培地の殺菌工程において、高温高圧滅菌等によりデンプンの糊化温度以上に加熱する場合は、この処理によりデンプンの糊化も同時に行なわれる。
【0030】
また、液体培地の炭素源としては、穀類と組み合わせて、繊維質を含む基質も用いる。そうすると、デンプン分解酵素ばかりでなく、食物繊維分解酵素も生産される。繊維質を含む基質としてはビートファイバー及び大根からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。大根は、好ましくは切断し乾燥する。食物繊維分解酵素を高生産させるために、好ましくはビートファイバーである。
【0031】
繊維質を含む基質は、液体培地中の炭素源に占める割合が1〜40%(w/v)、好ましくは5〜30%(w/v)、より好ましくは10〜25%(w/v)となる割合で用いられ、1%未満であると効果がなく、40%を超えると活性が低下する。
【0032】
窒素源としては、麹菌が育成及び増殖するのに必要な窒素供給源であれば特に限定はない。有機物としては、例えば、酵母菌体又はその処理物(例えば、酵母菌体分解物、酵母エキスなど)等が挙げられ、無機物としては、例えば、硝酸塩が挙げられる。
【0033】
硝酸塩としては硝酸カリウム、硝酸ナトリウムなどを用いることができ、特に硝酸カリウムが好ましい。窒素源は、単独で用いる他、2種類以上の有機物及び/又は無機物を組み合せて使用してもよい。
【0034】
窒素源の添加量は、麹菌の増殖を促進する程度であれば特に限定はないが、有機物としては0.1〜2%(w/vol)、好ましくは0.5〜1.0%(w/vol)である。また、無機物としての硝酸塩の添加量は0.05〜2.0%(w/vol)、好ましくは0.1〜2.0%(w/vol)、もっとも好ましくは0.2〜1.5%(w/vol)である。
【0035】
上限値を超えて窒素源を添加した場合は、麹菌の増殖を阻害するため好ましくない。また、添加量が下限値未満である場合は、酵素生産が促されないため、やはり好ましくない。
【0036】
本発明で窒素源の一種として用いられる酵母は、醸造工程や食品製造で用いられるビール酵母、ワイン酵母、ウイスキー酵母、焼酎酵母、清酒酵母、パン酵母のほかにサッカロマイセス(Saccharomyces)属、キャンディダ(Candida)属、トルロプシス(Torulopsis)属、ハンゼニアスポラ(Hanseniaspora)属、ハンゼヌラ(Hansenula)属、デバリオマイセス(Debaryomyces)属、サッカロマイコプシス(Saccharomycopsis)属、サッカロマイコデス(Saccharomycodes)属、ピヒア(Pichia)属、パキィソレン(Pachysolen)属等の酵母菌体を挙げることができる。
【0037】
これらの酵母は、菌体そのものを窒素源として用いることもできるが、酵母菌体分解物や酵母エキスとして用いることもできる。酵母菌体分解物あるいは酵母エキスは、酵母菌体を自己消化法(酵母菌体内に本来あるタンパク質分解酵素を利用して菌体を可溶化する方法)、酵素分解法(微生物由来や植物由来の酵素製剤等を添加して可溶化する方法)、熱水抽出物法(熱水中に酵母菌体を一定時間浸漬して可溶化する方法)、酸あるいはアルカリ分解法(種々の酸あるいはアルカリを添加して可溶化する方法)、物理的破砕法(超音波処理や高圧ホモジナイズ法、ガラスビーズ等の固形物を混合して混合・攪拌することにより破砕する方法)、凍結融解法(凍結・融解を1回以上行なうことにより破砕する方法)等により処理することで得られる。
【0038】
その他の栄養
本発明に用いる液体培地には、炭素源又は窒素源の他に、硫酸塩及びリン酸塩を添加し含有させることができる。これらの無機塩類を併用することにより、酵素活性が増強される。
【0039】
例えば、硫酸塩としては硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム7水和物、硫酸鉄7水和物、硫酸アンモニウムなどを用いることができ、特に硫酸マグネシウム7水和物が好ましい。リン酸塩としてはリン酸2水素カリウム、リン酸アンモニウムなどを用いることができ、特にリン酸2水素カリウムが好ましい。これらの無機塩類は、単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0040】
また、液体培地における上記の無機塩類の濃度は、麹菌培養物中にデンプン分解酵素や食物繊維分解酵素、タンパク分解酵素などの酵素が選択的に生成、蓄積される程度のものに調整される。例えば、硫酸塩の場合は0.01〜0.5%(w/vo1)、好ましくは0.02〜0.2%(w/vo1)、リン酸塩の場合は0.05〜1.0%(w/vo1)、好ましくは0.1〜0.8%(w/vol)とする。
【0041】
液体培地には、前述の窒素源や無機塩類以外の有機物や無機塩類等も、栄養源として適宜添加することができる。これらの添加物は麹菌の培養に一般に使用されているものであれば特に限定はないが、有機物としては小麦麩、コーンスティープリカー、大豆粕、脱脂大豆等を、無機塩類としてはアンモニウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等の水溶性の化合物を挙げることができ、2種類以上の有機物及び/又は無機塩類を同時に使用してもよい。
【0042】
これらの添加量は麹菌の増殖を促進する程度であれば特に限定はないが、有機物としては0.1〜5%(w/vo1)程度、無機塩類としては0.1〜1%(w/vo1)程度添加するのが好ましい。
【0043】
上限値を超えてこれらの栄養源を添加した場合は、麹菌の増殖を阻害するため好ましくない。また、添加量が下限値未満である場合は、酵素生産が促されないため、やはり好ましくない。
【0044】
上記の培養原料及び窒素源を水と混合することにより得られる麹菌の液体培地は、必要に応じて滅菌処理を行なってもよく、処理方法には特に限定はない。例としては、高温高圧滅菌法を挙げることができ、121℃で15分間行なえばよい。
【0045】
液体麹の製造
滅菌した液体培地を培養温度まで冷却後、白麹菌及び/又は黒麹菌を液体培地に接種する。培地に接種する麹菌の形態は任意であり、胞子又は菌糸を用いることができる。
【0046】
麹菌の液体培地への接種量には特に制限はないが、液体培地1ml当り、胞子であれば1×104〜1×106個程度、菌糸であれば前培養液を0.1〜10%程度接種することが好ましい。
【0047】
麹菌の培養温度は、生育に影響を及ぼさない限りであれば特に限定はないが、好ましくは25〜45℃、より好ましくは30〜40℃で行なうのがよい。培養温度が低いと、麹菌の増殖が遅くなるため雑菌による汚染が起きやすくなる。培養時間は24〜120時間が適当である。
【0048】
本発明で用いる麹菌としては、グルコアミラーゼ、耐酸性α−アミラーゼ、α−アミラーゼなどのデンプン分解酵素、セルラーゼ、β−グルコシダーゼ、キシラナーゼなどの食物繊維分解酵素等の生産能を有する麹菌が好ましい。具体的には、白麹菌としてはアスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)等、黒麹菌としてはアスペルギルス・アワモリ(Aperigillus awamori)又はアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等が挙げられる。
【0049】
白麹菌としてはアスペルギルス・カワチが好ましい。黒麹菌としてはアスペルギルス・アワモリが好ましい。これらを用いることにより、デンプン分解酵素及び食物繊維分解酵素が高生産されるからである。
【0050】
これらの麹菌は1種類の菌株による培養、又は同種若しくは異種の2種類以上の菌株による混合培養のどちらでも用いることができる。これらは胞子又は前培養により得られる菌糸のいずれの形態のものを用いても問題はないが、菌糸を用いる方が対数増殖期に要する時間が短くなるので好ましい。
【0051】
培養装置は、液体培養を行なうことができるものであればよいが、麹菌は好気培養を行なう必要があるので、酸素や空気を培地中に供給できる好気的条件下で行なう必要がある。また、培養中は培地中の原料、酸素、及び麹菌が装置内に均一に分布するように撹拌をするのが好ましい。撹拌条件や通気量については、培養環境を好気的に保つことができる条件であればいかなる条件でもよく、培養装置、培地の粘度等により適宜選択すればよい。
【0052】
上記の培養法で培養することにより、デンプンを分解するデンプン分解酵素及び食物繊維及びヘミセルロースを分解する食物繊維分解酵素などの酵素活性を有する液体麹が得られる。
【0053】
ここでいう液体麹には、液体培養した培養物そのもの、培養物の上清液、培養物を濾過又は遠心分離等することにより得られる清澄液、それらの濃縮物等が含まれる。又、液体麹の乾燥物等も液体麹の同等物であり、酵素源として同様に使用することができる。
【0054】
本発明の液体麹は、未濃縮の状態で、例えば、次に示す酵素活性を示すことが好ましい。各酵素活性の測定は実施例に説明する方法に準じて行なわれる。
【0055】
耐酸性α−アミラーゼ(ASAA)活性については、16U/ml以上、好ましくは18U/ml以上、より好ましくは20U/ml以上、更に好ましくは23U/ml以上。
グルコアミラーゼ(GA)活性については、45U/ml以上、好ましくは50U/ml以上、より好ましくは60U/ml以上、更に好ましくは70U/ml以上。
β−グルカナーゼ(BG)活性については、0.15U/ml以上、好ましくは0.20U/ml以上、より好ましくは0.80U/ml以上、更に好ましくは1.0U/ml以上。
キシラナーゼ(XY)活性については、0.20U/ml以上、好ましくは0.28U/ml以上、より好ましくは0.30U/ml以上、更に好ましくは0.40U/ml以上。
【0056】
本発明の製造方法で得られた液体麹は、焼酎、清酒、しょうゆ、味噌、みりん及び甘酒等の発酵飲食品を製造するための酵素源として固体麹と同様に用いることができる。
【0057】
また、得られた液体麹の一部を次の液体麹製造におけるスターターとして用いることもできる。このように液体麹を連続的に製造することにより、安定的な生産が可能になると同時に、生産効率の向上も図ることができる。
【0058】
また、本発明の液体麹は、その高い酵素活性から、酵素製剤、並びに消化剤などの医薬品などとしての利用も可能である。この場合、得られた麹菌培養物を所望の程度に濃縮・精製し、適当な賦形剤、増粘剤、甘味料などを添加して常法により製剤化すればよい。
【0059】
糖化原料の糖化
本発明の液体麹を用いて糖化原料を糖化する際には、糖化原料に対し本発明の液体麹に含まれるデンプン分解酵素及び食物繊維分解酵素を作用させる。例えば、糖化原料は、必要に応じて前処理を行った後に、糖化原料が浸漬するのに十分な量の液体麹を含む水の中に投入され、酵素が作用するのに適当な温度で静置又は必要に応じて振盪あるいは攪拌される。糖化原料の前処理としては、一般に洗浄、粉砕、加熱、アルカリ処理などの操作が行われる。
【0060】
本発明の液体麹にはデンプン分解酵素及び食物繊維分解酵素が多く含まれている。つまり、この液体麹は、糖化原料に含まれるデンプンの分解力に優れると共に繊維質の分解力にも優れている。それゆえ、糖化原料が繊維質を多く含んでいる場合でも、糖化の過程中繊維質が固形分として残存することがなく、糖化の進行が促進される。
【0061】
従来の液体麹では糖化が困難であった、又は糖化効率が低かった、繊維質を多く含む糖化原料には、繊維質を多く含む穀類又は繊維質を多く含む芋類が含まれ、具体的には、穀類として、小麦、大麦、トウモロコシ及び稗など、また、芋類として、キャッサバ、サツマイモ及びジャガイモなどである。
【0062】
繊維質を多く含む糖化原料を糖化して得られた糖化液は、例えば、酵母を用いてアルコール発酵させ、要すれば蒸留して、焼酎のようなアルコール飲料又はバイオエタノールを製造するのに利用される。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例によってより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
実施例1
液体麹の製造
1.麹菌
菌株として、白麹菌に関する標準株であるアスペルギルス・カワチ(NBRC4308株)、及び黒麹菌に関する標準株であるアスペルギルス・アワモリ(NBRC4388株)を準備した。
【0065】
2.前培養方法
65%精白大麦8%(w/v)、KNO30.2%(w/v)、KH2PO40.3%(w/v)の組成を有する前培養培地100mlを、容量500mlのバッフル付三角フラスコに入れ、121℃、15分間オートクレーブ滅菌し、室温冷却後、麹菌の胞子1白金耳を接種した。その後、温度37℃、100rpmにて24時間回転振盪培養を行った。
【0066】
3.繊維質を含む基質
繊維質を含む基質として、ビートファイバー(甜菜由来:日本甜菜製糖社製)、ダイコン(切干大根)準備した。ダイコンについては、使用する前に粉砕処理を行った。
【0067】
また、対照例として、スターチ(溶性デンプン)を準備した。
【0068】
4.本培養方法
精白歩合が98%の大麦2.0%(w/v)、KNO30.4%(w/v)、KH2PO40.6%(w/v)、繊維質を含む基質0.5%(w/v)の組成を有する本培養培地(pH無調整)100mlを、500ml容のバッフル付三角フラスコに入れ、121℃、15分間オートクレーブ滅菌し、室温冷却後、前培養液を2ml接種した。その後、37℃、100rpmにて72時間回転振盪培養を行った。
【0069】
5.酵素活性の測定
本培養を行った培養液から遠心分離により得た培養上清液を液体麹試料として、酵素活性を測定した。測定方法は次の通りである。
【0070】
耐酸性α−アミラーゼ(ASAA)活性:
培養上清液1mlに100mM酢酸緩衝液(pH3)9mlを添加して37℃で1時間酸処理を行なった後に、α−アミラーゼ測定キット(キッコーマン製)を用いて測定した。
【0071】
グルコアミラーゼ(GA)活性:
国税庁所定分析法に従い測定した。具体的には、デンプン溶液1mlに0.2M酢酸緩衝液0.2mlを加え、40℃で5分間予熱した。これに培養上清液0.1mlを加え、40℃で20分間反応させ、1N水酸化ナトリウム溶液0.1mlを添加して反応を停止させた。その後30分間放置し、1N塩酸溶液0.1mlを加えて中和した。別に対照として、デンプン溶液1mlに0.2M酢酸緩衝液0.2mlを加え、40℃で5分間予熱し、1N水酸化ナトリウム溶液0.1mlを加えた後に培養上清液0.1mlを添加し、以下上記と同様に操作した。反応液中に生成したグルコース量はグルコースCII-テストワコー(和光純薬製)を用いて測定した。
【0072】
グルコアミラーゼ活性は、可溶性デンプンから40℃で60分間に1mgのブドウ糖を生成する活性を1単位として表した。
【0073】
β−グルカナーゼ(BG)活性:
β-グルカナーゼ活性は、メガザイム社製のβ‐グルカナーゼ測定キットを用い、色素標識したβ-グルカンを基質とした酵素分解によって生じた染色断片を吸光度測定した。具体的には、アゾ大麦グルカン基質溶液0.5mlに培養上清液0.5mlを加えて、40℃にて正確に10分間酵素反応を行なわせた後、停止液〔4%酢酸ナトリウム、0.4%酢酸亜鉛、80%メチルセルソルブを含む(pH5)〕3.0mlを加えて5分放置し、反応を停止した。続いて遠心分離した後、上澄液を590nmの吸光度測定した。
【0074】
1単位のβ-グルカナーゼ活性は、40℃、10分間の反応条件下で、1分間に1μmolのグルコースに相当する還元糖を生成する酵素量として表した。
【0075】
キシラナーゼ(XY)活性:
キシラナーゼ活性は、メガザイム社製のキシラナーゼ測定キットを用い、アゾ−キシランを基質とした酵素分解によって生じた染色断片を吸光度測定した。より具体的には1%アゾ−キシラン基質溶液(メガザイム社製)0.5mlに培養上清液0.5mlを加えて、40℃にて正確に10分間酵素反応を行なわせた後、停止液〔エタノール(95%v/v)〕2.5mlを加えてよく混合し、反応を停止した。続いて遠心分離した後、上澄液を590nmの吸光度測定した。
【0076】
1単位のキシラナーゼ活性は、40℃、10分間の反応条件下で、1分間に1μmolのグルコースに相当する還元糖を生成する酵素量として表した。
【0077】
6.測定結果
アスペルギルス・カワチを用いた液体麹試料についてのBG活性(U/ml)およびXY活性(U/ml)を図1および図2に示す。また、アスペルギルス・アワモリを用いた液体麹試料についてのBG活性(U/ml)およびXY活性(U/ml)を図3および図4に示す。
【0078】
これらの結果により、アスペルギルス・カワチ及びアスペルギルス・アワモリを用いた液体麹試料のいずれについても、食物繊維分解酵素活性であるBG活性及びXY活性が高まることが判明した。
【0079】
次に、アスペルギルス・カワチを用いた液体麹試料についてのASAA活性(U/ml)およびGA活性(U/ml)を図5および図6に示す。また、アスペルギルス・アワモリを用いた液体麹試料についてのASAA活性(U/ml)およびGA活性(U/ml)を図7および図8に示す。
【0080】
これらの結果により、アスペルギルス・カワチ及びアスペルギルス・アワモリを用いた液体麹試料のいずれについても、デンプン分解酵素活性であるASAA活性及びGA活性が高まることが判明した。
【0081】
以上より、繊維質を含む基質を炭素源として一部添加することで、食物繊維分解酵素活性が高まり、デンプン分解酵素活性についても同時に高まることが確認された。
【0082】
実施例2
小麦の糖化
無蒸煮で粉砕した小麦1.0g、100mM酢酸緩衝液(pH4.0)45ml、液体麹試料5.0mlを100ml容三角フラスコに入れ、37℃、100rpmの往復振盪下にて糖化を行った(n=2)。4時間後、上清液のグルコース濃度をグルコース測定キット(CII−テストワコー:和光純薬社製)により測定した。
【0083】
小麦1.0g中の総でんぷん量に対して生成したダルコースの割合を糖化率として、アスペルギルス・カワチを用いた液体麹試料に関する結果を図9に、アスペルギルス・アワモリを用いた液体麹試料に関する結果を図10に示す。
【0084】
このように、アスペルギルス・カワチおよびアスペルギルス・アワモリのいずれについても、繊維質を含む基質を一部添加して培養された液体麹を用いた場合は、繊維質を多く含む穀類の糖化速度が速まることが認められた。
【0085】
実施例3
キャッサバの糖化
乾燥させ無蒸煮のまま粉砕したキャッサバ1.0g、100mM酢酸緩衝液(pH4.0)45ml、液体麹試料5.0mlを100ml容三角フラスコに入れ、37℃、100rpmの往復振盪下にて糖化を行った(n=2)。4時間後、上清液のグルコース濃度をグルコース測定キット(CII−テストワコー:和光純薬社製)により測定した。
【0086】
キャッサバ1.0g中の総でんぷん量に対して生成したダルコースの割合を糖化率として、アスペルギルス・カワチを用いた液体麹試料に関する結果を図11に、アスペルギルス・アワモリを用いた液体麹試料に関する結果を図12に示す。
【0087】
このように、アスペルギルス・カワチおよびアスペルギルス・アワモリのいずれについても、繊維質を含む基質を一部添加して培養された液体麹を用いた場合は、繊維質を多く含む芋類の糖化速度が速まることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、繊維質を多く含む糖化原料について、焼酎等の発酵飲食品又はバイオエタノール等の製造に利用することが促進される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粒表面の全部又は一部が穀皮で覆われた穀類及び繊維質を含む基質を含有する炭素源を含有する液体培地を用いて、白麹菌又は黒麹菌を培養する工程を包含する、デンプン分解酵素活性及び食物繊維分解酵素活性が増強された液体麹の製造方法。
【請求項2】
前記デンプン分解酵素が少なくとも耐酸性α−アミラーゼ及びグルコアミラーゼであり、前記食物繊維分解酵素が少なくともβ−グルカナーゼ及びキシラナーゼである請求項1に記載の液体麹の製造方法。
【請求項3】
前記繊維質を含む基質がビートファイバー及び大根からなる群から選択される少なくとも一種である請求項1又は2に記載の液体麹の製造方法。
【請求項4】
前記繊維質を含む基質がビートファイバーである請求項1又は2に記載の液体麹の製造方法。
【請求項5】
前記白麹菌がアスペルギルス・カワチであり、前記黒麹菌がアスペルギルス・アワモリである請求項1〜4のいずれかに記載の液体麹の製造方法。
【請求項6】
前記穀粒表面の全部又は一部が穀皮で覆われた穀類が、玄米、籾殻が全部又は一部付いている米又は未精白から精白歩合92%以上の大麦若しくは小麦である請求項1〜5のいずれかに記載の液体麹の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法により製造された液体麹。
【請求項8】
繊維質の穀類又は繊維質の芋類に対し、請求項7記載の液体麹に含まれるデンプン分解酵素及び食物繊維分解酵素を作用させる工程を包含する、繊維質の穀類又は繊維質の芋類の糖化方法。
【請求項9】
前記繊維質の穀類が小麦、大麦、トウモロコシ又は稗であり、前記繊維質の芋類がキャッサバ、サツマイモ又はジャガイモである請求項8に記載の繊維質の穀類又は繊維質の芋類の糖化方法。
【請求項1】
穀粒表面の全部又は一部が穀皮で覆われた穀類及び繊維質を含む基質を含有する炭素源を含有する液体培地を用いて、白麹菌又は黒麹菌を培養する工程を包含する、デンプン分解酵素活性及び食物繊維分解酵素活性が増強された液体麹の製造方法。
【請求項2】
前記デンプン分解酵素が少なくとも耐酸性α−アミラーゼ及びグルコアミラーゼであり、前記食物繊維分解酵素が少なくともβ−グルカナーゼ及びキシラナーゼである請求項1に記載の液体麹の製造方法。
【請求項3】
前記繊維質を含む基質がビートファイバー及び大根からなる群から選択される少なくとも一種である請求項1又は2に記載の液体麹の製造方法。
【請求項4】
前記繊維質を含む基質がビートファイバーである請求項1又は2に記載の液体麹の製造方法。
【請求項5】
前記白麹菌がアスペルギルス・カワチであり、前記黒麹菌がアスペルギルス・アワモリである請求項1〜4のいずれかに記載の液体麹の製造方法。
【請求項6】
前記穀粒表面の全部又は一部が穀皮で覆われた穀類が、玄米、籾殻が全部又は一部付いている米又は未精白から精白歩合92%以上の大麦若しくは小麦である請求項1〜5のいずれかに記載の液体麹の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法により製造された液体麹。
【請求項8】
繊維質の穀類又は繊維質の芋類に対し、請求項7記載の液体麹に含まれるデンプン分解酵素及び食物繊維分解酵素を作用させる工程を包含する、繊維質の穀類又は繊維質の芋類の糖化方法。
【請求項9】
前記繊維質の穀類が小麦、大麦、トウモロコシ又は稗であり、前記繊維質の芋類がキャッサバ、サツマイモ又はジャガイモである請求項8に記載の繊維質の穀類又は繊維質の芋類の糖化方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−78366(P2011−78366A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234276(P2009−234276)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】
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