説明

トイレ用手摺り装置

【課題】 用足し時の姿勢を安定させるために便器の前方を開閉する前方手摺りを設けるとともに、この前方手摺りの動きをシンプルなものにして簡単で安価な構造にする。
【解決手段】 便器の左右に設置される支柱で左右の手摺りを支持したトイレ用手摺り装置において、一方の手摺り側に、支柱の前後方向に軸芯を向けて設けた支持軸を中心に上方へ起立する起立姿勢と、水平位置まで降ろされて便器の前方を塞ぐ使用姿勢とに亘って回動する前方手摺りを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレ(特に、洋式トイレ)における高齢者や障害者等の使用時の着座、姿勢(座位)保持又は起立を補助するトイレ用手摺り装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高齢者や障害者が住居する施設や家庭では、これらの人のトイレ使用時の負担を減らすためにトイレに手摺り装置を設ける場合がある。このような手摺り装置の多くは付設的なもので、トイレ本体(便器)とは別体で、便器の左右に手摺り装置を構成する手摺りが位置するように設けられている。このような手摺り装置に共通して求められる機能は、手摺りが着座や起立を始めとする使用時の姿勢保持に寄与することである。そのため、便器左右の手摺りを肘掛けとして使用するようにしている。
【0003】
ところで、トイレで用を足すときには、肘等を腿に載せる前傾姿勢をとるが、下半身の力が弱い高齢者や障害者等ではこのような動作が取り難い。そこで、便器の前方を塞ぐ前方手摺りを設け、使用時、この前方手摺りに寄り掛かって姿勢を安定するようにしたものがある。この前方手摺りは、便器への出入りの邪魔になってはならないので、出入りするときには開き、使用するときには閉じているものでなければならない。
【0004】
このような前方手摺りを設けたものとして特許文献1のものがある。これは、前方手摺りを水平面内で回動させて便器の前方を開閉するようにしたものであるが、左右一方の手摺りと延長状態にある開状態のとき、これの存在が邪魔になるとして更にこの状態から鉛直面内で下方に回動させて収納するようにしている。したがって、前方手摺りは水平面内と垂直面内の回動をしなければならず、構造が複雑である。加えて、水平状態にしたとき、上からの荷重に耐えられるものであるとともに、便器前方を塞いだとき、水平面内で回動して前方に逃げないようにするロック機構を必要とする等、構造が更に複雑になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−333885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、前方手摺りの動きをシンプルなものにすることで、簡単な構造で動きの確実性とコストの低減を図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題の下、本発明は、請求項1に記載した、便器の左右に設置される支柱で左右の手摺りを支持したトイレ用手摺り装置において、一方の手摺り側に、支柱の前後方向に軸芯を向けて設けた支持軸を中心に上方へ起立する起立姿勢と、水平位置まで降ろされて便器の前方を塞ぐ使用姿勢とに亘って回動する前方手摺りを設けたことを特徴とするトイレ用手摺り装置を提供したものである。
【0008】
これにおいて、請求項2に記載した、前方手摺りが上方手摺りと下方手摺りの上下二段になっており、前方手摺りを起立姿勢にしたとき、下方手摺りが便器側に向いているとともに、この起立姿勢を保持するロック機構を設けた構成、ロック機構として、請求項3に記載した、前方手摺りの支持軸側端部が支柱に沿設された案内部材を昇降するピンが設けられたリンクに枢着されており、前方手摺りを起立姿勢にしたときのピンの下降で解除レバーに設けられた斜面部をピンが滑り降りて解除レバーを解除位置側に回動させるとともに、斜面部の下に設けられた係止部にピンが到達すると、解除レバーがバネの力でロック位置に回動して復帰すると同時に係止部に係止して上昇が自動的に規制される構成を提供する。
【0009】
さらに、請求項4に記載した、ピンの上下にスプリングを設け、ピンが昇降範囲の上部にあるときにはピンが上側のスプリングで弾発され、ピンが昇降範囲の下部にあるときにはピンが下側のスプリングで弾発されている構成、請求項5に記載した、他方の手摺りが、便器の斜め後方に起立して便器の側面を開放する開放姿勢と、水平位置まで降ろされる使用姿勢とに亘って回動する構成を提供する。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、前方手摺りは起立姿勢と使用姿勢との間に亘って回動するのみでよいから、構造が簡単になる。さらに、前方手摺りは垂直面内で回動して上方から降りて来るものであるから、水平面内で回動して前方から接近して来るものに比べて使用者に与える心理的不安感が少ない。この場合、前方手摺りは水平面内で回動するものではないから、使用姿勢時でロックしていなくても前方に逃げることはなく、構造が簡単で安全である。もちろん、使用姿勢にしたときにはこの前方手摺りが格好の掴まり体になり、用を足すときの前傾姿勢の安定に寄与する。
【0011】
請求項2の手段によれば、着座や起立する際に下方手摺りがもっとも掴まり易い形態になっており、このとき、前方手摺りはロック機構でロックされて倒れることはないから、安全であるし、別体の縦手摺り等をわざわざ壁に取り付ける必要がなくなる。請求項3の手段によれば、簡単な構造で起立姿勢を自動的に保持するロック機構が得られるから、操作が簡単で安全である。請求項4の手段によれば、前方手摺りを軽い力で動かすことができる他、起立姿勢や使用姿勢に回動させたときの衝撃を吸収する。請求項5の手段によれば、便器の他方の側面は開放されるから、スペースが増して出入りが楽である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るトイレ用手摺り装置の斜視図である。
【図2】本発明に係るトイレ用手摺り装置の斜視図である。
【図3】本発明に係るトイレ用手摺り装置の正面図である。
【図4】本発明に係るトイレ用手摺り装置の右側面図である。
【図5】本発明に係るトイレ用手摺り装置の左側面図である。
【図6】本発明に係るトイレ用手摺り装置の平面図である。
【図7】ロック機構を示す図3のA部の要部正面図である。
【図8】ロック機構を示す図5のB部の要部側面図である。
【図9】前方手摺りを起立姿勢にしたときの要部正面図である。
【図10】前方手摺りを起立姿勢にしている最中の要部正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明するが、図1、図2は本発明に係るトイレ用手摺り装置の斜視図、図3は正面図、図4は右側面図、図5は左側面図、図6は平面図である。この手摺り装置は、便器1の左右に設置される支柱2、3と、支柱2、3に設けられる左右の手摺り4、5と、便器1の前方を開閉する前方手摺り6とからなる。
【0014】
このうち、一方(右又は左側の)の支柱2は、ビス取付構造等が設けられてこれによって床上に固定される接地部2aと、接地部2aの前端から起立する起立部2bと、起立部2bの前端から後方に向かって水平に伸びる水平部2cと、水平部2cの後端から斜め後上方に延びる斜辺部2dとからなる。これにおいて、水平部2cは一方の手摺り4を構成しており、上面には木や樹脂製の肘載せ部7が設けられている。したがって、一方の手摺り4は固定されていることになる。
【0015】
他方の支柱3も、接地部3a、起立部3b、斜辺部3dとを有するが(水平部は設けられていない)、起立部3bは接地部3aの後端から起立しており、これに伴って斜辺部3dは起立部3bの上端から斜め前上方に延びている。そして、両方の斜辺部2d、3dの上端は左右同芯に位置しており、これを架橋部8で連結している。
【0016】
他方の斜辺部3dの外面には水平な支持軸9が突設されており、これに他方の手摺り5がその後端に形成されたボス5aで回動可能に嵌合されている。これにより、この手摺り5は、便器1の側方を開放して便器1の斜め後方に起立する開放姿勢と水平に降ろされる使用姿勢とに亘って回動可能に設けられることになる。このため、図示は省略するが、ボス5aと支持軸9との間にこの範囲の回動しかできないようにするストッパ機構が設けられている。
【0017】
この場合、接地部3aは便器1の斜め後方まで延び、その後端から起立部3bが起立しており、手摺り5を開放姿勢にすると、便器1の側方は完全に開放されるようになっている。加えて、接地部3aの前端は便器1の中程から始まっており、出入りするときに足元の邪魔にならないようにしている。なお、この手摺り5は、使用姿勢にしたときには一方の手摺り4の水平部2cと同じ形態をとるものであり、その上面には木や樹脂製の肘載せ部10が設けられている。この他、架橋部8には適宜背もたれ11が設けられている。
【0018】
一方の支柱2の起立部2bの前面の上部には支持軸12が水平に突出しており、支持軸12に対して前方手摺り6が上方に起立する起立姿勢と水平に倒れる使用姿勢とに亘って回動可能に設けられている。本例の前方手摺り6は、支持軸12に回動可能に嵌合されるボス6aから上方手摺り6bが延び、上方手摺り6bの下面には下方手摺り6cが吊り下げられた状態で固定されて上下二段でトロンボーンのように延びているもので、上方手摺り6bの上面には木や樹脂製の肘載せ部25が設けられている。
【0019】
この場合、前方手摺り6が起立姿勢や使用姿勢をとるとき、一方の手摺り4の肘載せ部7や使用姿勢をとったときの他方の手摺り5の肘載せ部10と干渉してはならず、また、むやみに間があいているものでは好ましくない。このため、一方の肘載せ部7の前端は少し後退させ、他方の肘載せ部10の前端は前方手摺り6の肘載せ部25の延長上まで前進させているが(使用姿勢のとき)、両者の間に若干の隙間を確保している。要するに、前方手摺り6と他方の手摺り5を使用姿勢にしたとき、これらと一方の手摺り4及び架橋部8(背もたれ11)とで内部の空間を取り囲むようにしている。使用者の身体が倒れないようにして安全を図るためである。
【0020】
上方手摺り6bにはボス6aの上方辺りから外方に突出する端部6dが設けられており、この端部6dにはピン13でリンク14が枢着され、このリンク14は起立部2bに沿設される案内部材15の前面に沿って垂下している。図7はリンク14と案内部材15の関係を示す要部正面図、図8は要部側面図、図9は要部正面図であるが、リンク14の下端には案内部材15に向けてピン16が突設されており、このピン16は案内部材15に上下に向けて形成した長孔23に突入している。
【0021】
案内部材15の前面(リンク14の後面)にはその下部に設けられた取付軸17を中心に左右に回動できる解除レバー18が設けられており、解除レバー18の内向面には下方に行くほど傾斜が段々に高くなる斜面部19が形成され、斜面部19の直下にはほぼ水平な係止部20が形成されている。そして、案内部材15内におけるピン16の上下にはそれぞれスプリング21、22が設けられてピン16を弾発可能にしている。
【0022】
以上の構成により、前方手摺り6を起立姿勢にしたとき、図9に示すように、ピン16は係止部20に係止されて上昇せず、この姿勢で保持されている(前方手摺り6は下降しない)。そこで、解除レバー18を外方に押し出す解除位置にして係止部20をピン16から外すと、ピン16は自由に上昇できるから、前方手摺り6は使用姿勢にできることになる。このとき、ピン16は、圧縮状態にあった下側のスプリング22によって自動的に上昇できるようにしてあるから、解除レバー18の操作のみによって(前方手摺り6を倒す操作をすることなく)前方手摺り6を使用姿勢に動かすことができる。
【0023】
さらに、ピン16の上昇に伴って上側のスプリング21が圧縮されて行くから、前方手摺り6は自重に反して緩やかに降下することになって安全である。前方手摺り6を使用姿勢にすると、使用者がこれに寄り掛かかることができ、その荷重はボス6aを介して支持軸12で受け止められるから、荷重(体重)を支えられることになる。この場合、前方手摺り6は、使用姿勢より下方には回動できないようにする必要があることから、図示は省略するが、本例では、ボス6aと支持軸12との間に下方には回動できないようにするストッパ機構が設けられている。
【0024】
次に、前方手摺り6を使用姿勢から起立姿勢にするときには、ピン16が長孔23に案内されて徐々に下降して解除レバー18の斜面部19を滑り降り、その反動で解除レバー18は外方に押し出されて解除位置側に押しやられ(図10の状態)、ついには、係止部20の下に係止される(図9の状態)。このとき、解除レバー18は、ピン16が係止部20の位置に来ると直ちにロック位置に回動して復帰するようにしている。
【0025】
具体的には、案内部材15と解除レバー18との間に軽いトルクバネ24を組み込んでおくのである。この点で、ピン16、解除レバー18及びトルクバネ24といった部材は前方手摺り6の起立姿勢を自動的に保持するロック機構を構成していることになる。なお、図示は省略するが、上記と同様に、ボス6aと支持軸12との間には、前方手摺り6が起立姿勢になるとそれ以上回動できないようにするストッパ機構が設けられている。
【0026】
以上により、前方手摺り4を起立姿勢にしたとき、その姿勢が強固に保持されるものとなる。なお、この姿勢は、下方手摺り6cが起立部2aのやや外方に起立したものとなり、これが格好の掴まり体となる。特に、高齢者や身障者は、便器1に対して座るときや立ち上がるときに一番力を要するが、このような姿勢強固な下方手摺り6cが縦手摺りとなって存在することは大きな補助となって心強い。なお、ピン16の上下にはスプリング12、22が設けられているので、これらがピン16の昇降(前方手摺り6の起倒)に要する力をバランスさせるものとなり、前方手摺り6を軽い力で安全に動かせるし、前方手摺り6を起立姿勢や使用姿勢に動かした際の緩衝作用も発揮させる。
【符号の説明】
【0027】
1 便器
2 一方の支柱
2a 〃 の接地部
2b 〃 の起立部
2c 〃 の水平部
2d 〃 の斜辺部
3 他方の支柱
3a 〃 の接地部
3b 〃 の起立部
3d 〃 の斜辺部
4 一方の手摺り
4a 〃 のボス
5 他方の手摺り
5a 〃 のボス
6 前方手摺り
6a 〃 のボス
6b 〃 の上方手摺り
6c 〃 の下方手摺り
6d 〃 の端部
7 肘載せ部
8 架橋部
9 支持軸
10 肘載せ部
11 背もたれ
12 支持軸
13 ピン
14 リンク
15 案内部材
16 ピン
17 取付軸
18 解除レバー
19 斜面部
20 係止部
21 スプリング
22 スプリング
23 長孔
24 トルクバネ
25 肘載せ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器の左右に設置される支柱で左右の手摺りを支持したトイレ用手摺り装置において、一方の手摺り側に、支柱の前後方向に軸芯を向けて設けた支持軸を中心に上方へ起立する起立姿勢と、水平位置まで降ろされて便器の前方を塞ぐ使用姿勢とに亘って回動する前方手摺りを設けたことを特徴とするトイレ用手摺り装置。
【請求項2】
前方手摺りが上方手摺りと下方手摺りの上下二段になっており、前方手摺りを起立姿勢にしたとき、下方手摺りが便器側に向いているとともに、この起立姿勢を保持するロック機構を設けた請求項1のトイレ用手摺り装置。
【請求項3】
ロック機構を、前方手摺りの支持軸側端部が支柱に沿設された案内部材を昇降するピンが設けられたリンクに枢着されており、前方手摺りを起立姿勢にしたときのピンの下降で解除レバーに設けられた斜面部をピンが滑り降りて解除レバーを解除位置側に回動させるとともに、斜面部の下に設けられた係止部にピンが到達すると、解除レバーがバネの力でロック位置に回動して復帰すると同時に係止部に係止して上昇が自動的に規制される構成とした請求項2のトイレ用手摺り装置。
【請求項4】
ピンの上下にスプリングを設け、ピンが昇降範囲の上部にあるときにはピンが上側のスプリングで弾発され、ピンが昇降範囲の下部にあるときにはピンが下側のスプリングで弾発されている請求項3のトイレ用手摺り装置。
【請求項5】
他方の手摺りが、便器の斜め後方に起立して便器の側面を開放する開放姿勢と、水平位置まで降ろされる使用姿勢とに亘って回動する請求項1〜4いずれかのトイレ用手摺り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−19804(P2011−19804A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168763(P2009−168763)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000103404)オーエム機器株式会社 (30)
【Fターム(参考)】