説明

トナー用結着樹脂

【課題】低温定着性、保存性及び耐久性のいずれにも優れたトナー用結着樹脂、及び該結着樹脂を含有した電子写真用トナーを提供すること。
【解決手段】少なくともアルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させて得られる非晶質ポリエステルを含有してなるトナー用結着樹脂であって、アルコール成分及びカルボン酸成分の少なくともいずれかが、フラン環を有する原料モノマーを含有してなり、アルコール成分がグリセリンを含有してなる、トナー用結着樹脂、及び該結着樹脂を含有してなる、電子写真用トナー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像に用いられるトナー用結着樹脂及び該結着樹脂を含有した電子写真用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マシンの高速化、省エネ化に伴い、低温定着性に優れたトナーが要求されている。そこで、トナー用結着樹脂として、従来使用されてきた構造がリジッドである芳香族系アルコールを用いて得られる芳香族系ポリエステルに代わり、脂肪族多価アルコールを用いた脂肪族系ポリエステルが提案されている(特許文献1、2参照)。
【0003】
一方、バイオマスを原料に用いて耐熱性、機械物性、耐候性に優れた、十分な分子量を有する熱可塑性樹脂を提供することを課題として、フラン構造を有するジカルボン酸単位を含むポリエステル樹脂の製造方法が開示されている。(特許文献3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−287427号公報
【特許文献2】特開2006−154686号公報
【特許文献3】特開2008−291244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、低温定着性と保存性の両立のために、骨格がリジッドな芳香族化合物を原料モノマーとして使用しているが、今後、より低温での定着を達成するために、さらに低軟化点でもガラス転移温度の高い結着樹脂が望まれている。また、特許文献3に記載の樹脂は、フィルム用途や射出成形品の用途を主として使用するものであるため結晶性が高くトナー用結着樹脂には適していない。本発明では、フラン環を有するモノマーとグリセリンを使用することで、低軟化点、高ガラス転移温度であり、かつ耐久性に優れたトナー用結着樹脂の開発に成功した。
【0006】
本発明の課題は、低温定着性、保存性及び耐久性のいずれにも優れたトナー用結着樹脂、及び該結着樹脂を含有した電子写真用トナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
〔1〕 少なくともアルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させて得られる非晶質ポリエステルを含有してなるトナー用結着樹脂であって、アルコール成分及びカルボン酸成分の少なくともいずれかが、フラン環を有する原料モノマーを含有してなり、アルコール成分がグリセリンを含有してなる、トナー用結着樹脂、並びに
〔2〕 前記〔1〕記載の結着樹脂を含有してなる、電子写真用トナー
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のトナー用結着樹脂は、トナーの低温定着性、保存性及び耐久性のいずれにも優れるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の結着樹脂は、少なくともアルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させて得られる非晶質ポリエステルを含有するものであり、アルコール成分及びカルボン酸成分の少なくともいずれかが、フラン環を有する原料モノマーを含有し、アルコール成分がグリセリンを含有している点に大きな特徴を有している。ポリエステルに、骨格の硬いフラン環を組み込むことで、軟化点が低くてもガラス転移温度の高い樹脂、つまり低温定着性と保存性に優れたトナー用結着樹脂が得られる。さらに、アルコール成分に架橋剤として作用するグリセリンを用いることで、2級アルコールを有したリジッドな骨格を形成し、同時に1級アルコールを有することにより反応性が高く、反応物中の低分子量成分を低減することができ、得られるポリエステルのガラス点移温度を高めこれにより、さらに耐久性が高くなると考えられる。従って、フラン含有モノマーかつグリセリンを使用したポリエステルのガラス転移温度は高くなると考えられる。
【0010】
本発明において、樹脂の結晶性は、軟化点と示差走査熱量計(DSC)による吸熱の最高ピーク温度との比、即ち、「軟化点/吸熱の最高ピーク温度」で定義される結晶性指数によって表される。一般に、この結晶性指数が1.4を超えると樹脂は非晶質であり、0.6未満では結晶性が低く非晶質部分が多い。本発明において、「非晶質」の樹脂とは、結晶性指数が1.4を超えるか、0.6未満の樹脂をいう。
【0011】
「吸熱の最高ピーク温度」とは、実施例に記載する測定方法の条件下で観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度のことを指す。最高ピーク温度が軟化点と20℃以内の差であれば、最高ピーク温度を結晶性樹脂の融点とし、軟化点との差が20℃を超えるピークは非晶質樹脂のガラス転移に起因するピークとする。
【0012】
樹脂の結晶性は、用いる原料モノマーの種類と組み合わせにより、容易に調整することができる。具体的には、第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオール等の分岐鎖構造を有するアルコール成分、分岐鎖構造を有するカルボン酸成分、3価以上のカルボン酸成分やアルコール成分等を適量用いることで、非晶質化を促進することができる。
【0013】
フラン環を有する原料モノマーにおいて、フラン環としては、式(Ia)又は(Ib):
【0014】
【化1】

【0015】
で表される構造が好ましい。
【0016】
アルコール成分に含まれるフラン環を有する原料モノマーとしては、ジヒドロキシフラン等のフランジアルコール;5-ヒドロキシメチルフルフリルアルコール等のヒドロキシメチルフルフリルアルコール;フルフリルアルコール;5-ヒドロキシメチルフルフラール等が挙げられ、これらの中では、トナーの低温定着性、耐久性と保存性の観点から、フランジアルコール、ヒドロキシメチルフルフリルアルコール及びフルフリルアルコールからなる群から選ばれた少なくとも1種のフラン環を有するアルコールが好ましく、ヒドロキシメチルフルフリルアルコールがより好ましい。
【0017】
式(Ia)で表わされるフラン環を有するアルコールとして、5-ヒドロキシメチルフルフリルアルコール等のヒドロキシメチルフルフリルアルコール;ジヒドロキシフラン等のフランジアルコール;5-ヒドロキシメチルフルフラール等が挙げられる。
【0018】
式(Ib)で表わされるフラン環を有するアルコールとして、フルフリルアルコール等が挙げられる。
【0019】
カルボン酸成分に含まれるフラン環を有する原料モノマーとしては、フラン-2,5-ジカルボン酸、フラン-2,4-ジカルボン酸、フラン-2,3-ジカルボン酸、フラン-3,4-ジカルボン酸等のフランジカルボン酸化合物(本明細書中、カルボン酸化合物はカルボン酸、カルボン酸と炭素数1〜6、好ましくは炭素数1〜3のアルコールとのエステル及び酸無水物を含む);フラン-2-カルボン酸、フラン-3-カルボン酸等のフランカルボン酸化合物;5-ヒドロキシメチル-フラン-2-カルボン酸等のヒドロキシフランカルボン酸化合物;フルフリル酢酸化合物、3-カルボキシ-4-メチル-5-プロピル-2-フランプロピオネート等のカルボン酸化合物等が挙げられ、これらの中では、トナーの低温定着性、耐久性と保存性の観点から、フランジカルボン酸化合物、フランカルボン酸化合物及びヒドロキシフランカルボン酸化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種のフラン環を有するカルボン酸化合物が好ましく、フランジカルボン酸化合物がより好ましい。
【0020】
式(Ia)で表わされるフラン環を有するカルボン酸化合物として、フラン-2,5-ジカルボン酸、フラン-2,4-ジカルボン酸、フラン-2,3-ジカルボン酸、フラン-3,4-ジカルボン酸等のフランジカルボン酸化合物;5-ヒドロキシメチル-フラン-2-カルボン酸等のヒドロキシフランカルボン酸化合物等のカルボン酸化合物等が挙げられる。この中では、トナーの低温定着性、耐久性と保存性の観点から、フラン-2,5-ジカルボン酸が好ましい。
【0021】
式(Ib)で表わされるフラン環を有するカルボン酸化合物として、フラン-2-カルボン酸、フラン-3-カルボン酸等のフランカルボン酸化合物;フルフリル酢酸化合物等が挙げられる。
【0022】
上記のカルボン酸化合物及びアルコールの中では、トナーの低温定着性、耐久性と保存性の観点から、式(Ia)で表わされるフラン環を有する、カルボン酸化合物とアルコールとが好ましく、フランジカルボン酸化合物、ヒドロキシメチルフルフリルアルコール及びフランジアルコールがより好ましく、フランジカルボン酸化合物がさらに好ましい。
【0023】
フラン環を有する原料モノマーの含有量は、上限として、トナーの低温定着性、耐久性と保存性の観点から、グリセリン以外の非晶質ポリエステルの原料モノマー中、100モル%以下が好ましく、70モル%以下がより好ましく、60モル%以下がさらに好ましく、下限として、トナーの低温定着性、耐久性と保存性の観点から、グリセリン以外の非晶質ポリエステルの原料モノマー中、10モル%以上が好ましく、30モル%以上がより好ましく、40モル%以上がさらに好ましく、45モル%以上がさらにより好ましい。したがって、フラン環を有する原料モノマーの含有量は、トナーの低温定着性、耐久性と保存性の観点から、グリセリン以外の非晶質ポリエステルの原料モノマー中、10〜100モル%が好ましく、30〜70モル%がより好ましく、40〜70モル%がさらに好ましく、45〜60モル%がさらにより好ましい。
【0024】
さらに、フラン環を有するカルボン酸化合物の含有量は、トナーの低温定着性、耐久性と保存性の観点から、カルボン酸成分中、好ましくは10〜100モル%、より好ましくは20〜100モル%、さらに好ましくは30〜100モル%、さらに好ましくは60〜100モル%であり、さらに好ましくは80〜100モル%、さらに好ましくは90〜100モル%、さらに好ましくは実質的に100モル%である。フランジカルボン酸化合物の含有量は、トナーの低温定着性、耐久性と保存性の観点から、カルボン酸成分中、好ましくは10〜100モル%、より好ましくは20〜100モル%、さらに好ましくは30〜100モル%、さらに好ましくは60〜100モル%であり、さらに好ましくは80〜100モル%、さらに好ましくは90〜100モル%、さらに実質的に100モル%である。
【0025】
フラン環を有するアルコールの含有量は、トナーの低温定着性、耐久性と保存性の観点から、グリセリン以外のアルコール成分中、好ましくは5〜100モル%、より好ましくは20〜90モル%、さらに好ましくは20〜80モル%、さらにより好ましくは30〜60モル%、さらにより好ましくは40〜50モル%である。
【0026】
また、カルボン酸成分に、2種以上のフラン環を有するカルボン酸化合物を用いてもよく、アルコール成分に、2種以上のフラン環を有するアルコールを用いてもよい。なお、1種類とは、構造上の種類であり、組成式が同じであっても構造式が異なるものは、異なる種類としてみなす。
【0027】
さらに、本発明では、フラン環を有するアルコール以外のアルコール成分として、グリセリンが用いられる。グリセリンの含有量は、トナーの低温定着性、耐久性と保存性の観点から、非晶質ポリエステルの原料モノマー総量中、2〜40モル%が好ましく、3〜30モル%がより好ましく、4〜30モル%がさらに好ましく、4〜25モル%がさらにより好ましく、4.5〜20モル%がさらにより好ましい。
【0028】
フラン環を有するアルコール及びグリセリン以外のアルコール成分としては、トナーの低温定着性、耐久性と保存性の観点から、脂肪族ジオールが好ましい。脂肪族ジオールの炭素数は、トナーの低温定着性、耐久性と保存性の観点から、2〜10が好ましく、3〜8がより好ましく、3〜6がさらに好ましく、3〜4がさらにより好ましい。
【0029】
脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ブテンジオール、ネオペンチルグリコール、2,3-ブタンジオール、2,3-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2,3-ヘキサンジオール、3,4-ヘキサンジオール、2,4-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0030】
これらの中では、フラン環とともに、樹脂の運動性をさらに低下させることで、トナーの保存性を向上させ、低温定着性を向上させる観点から、第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールが好ましい。かかる脂肪族ジオールは、トナーの低温定着性と保存性の観点から、炭素数3〜8が好ましく、炭素数3〜6がより好ましく、炭素数3〜4がさらに好ましく、具体的な好適例としては、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、2,3-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール等が挙げられ、トナーの低温定着性と保存性の観点から、1,2-プロパンジオール及び2,3-ブタンジオールが好ましく、トナーの低温定着性と保存性の観点から、1,2-プロパンジオールがより好ましい。
【0031】
脂肪族ジオールの含有量は、トナーの低温定着性、耐久性と保存性の観点から、フラン環を有するアルコール及びグリセリン以外のアルコール成分中、好ましくは10〜100モル%、より好ましくは30〜100モル%、さらに好ましくは50〜100モル%であり、さらにより好ましくは80〜100モル%であり、さらにより好ましくは90〜100モル%であり、さらにより好ましくは実質的に100モル%であり、第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールの含有量は、トナーの低温定着性、耐久性と保存性の観点から、フラン環を有するアルコール及びグリセリン以外のアルコール成分中、好ましくは10〜100モル%、より好ましくは30〜100モル%、さらに好ましくは50〜100モル%であり、さらにより好ましくは80〜100モル%であり、さらにより好ましくは90〜100モル%であり、さらにより好ましくは実質的に100モル%である。
【0032】
これら以外のアルコール成分としては、トナーの保存性の観点から、芳香族アルコールが好ましい。
【0033】
芳香族アルコールとしては、トナーの保存性の観点から、式(II):
【0034】
【化2】

【0035】
(式中、R1O及びOR1はオキシアルキレン基であり、R1はエチレン及び/又はプロピレン基であり、x及びyはアルキレンオキサイドの付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、xとyの和の平均値は1〜16が好ましく、1〜8がより好ましく、1.5〜4がさらに好ましい)
で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物が好ましい。
【0036】
式(II)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の具体例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシプロピレン付加物、及び2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシエチレン付加物等のビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0037】
ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、トナーの保存性及び樹脂の非晶質化の促進の観点から、フラン環を有するアルコール及びグリセリン以外のアルコール成分中、好ましくは10〜100モル%、より好ましくは30〜100モル%、さらに好ましくは50〜100モル%、さらにより好ましくは80〜100モル%であり、さらにより好ましくは90〜100モル%であり、さらにより好ましくは実質的に100モル%である。
【0038】
また、グリセリン以外の3価以上の多価アルコールとして、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等を含んでいてもよい。
【0039】
フラン環を有するカルボン酸化合物以外のカルボン酸成分としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸化合物、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸化合物、トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸化合物、これらの酸無水物、アルキル(炭素数1〜6)エステル等が挙げられる。この中では、トナーの低温定着性、耐久性と保存性の観点から、芳香族ジカルボン酸化合物が好ましく、具体的には、テレフタル酸が好ましい。
【0040】
芳香族ジカルボン酸化合物の含有量は、トナーの低温定着性、耐久性と保存性の観点から、フラン環を有するカルボン酸化合物以外のカルボン酸成分中、好ましくは10〜100モル%、より好ましくは30〜100モル%、さらに好ましくは50〜100モル%、さらにより好ましくは80〜100モル%であり、さらにより好ましくは90〜100モル%であり、さらにより好ましくは実質的に100モル%である。
【0041】
その他のカルボン酸化合物として、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;ロジン;フマル酸、マレイン酸又はアクリル酸等で変性されたロジン等が挙げられる。
【0042】
なお、アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸化合物が、分子量の調整や耐オフセット性向上の観点から、適宜含有されていてもよい。
【0043】
カルボン酸成分とアルコール成分のモル比(カルボン酸成分/アルコール成分)は、反応性、分子量の調整容易性の観点から、0.7〜1.5が好ましく、0.7〜1.4がより好ましく、0.7〜1.1がさらに好ましい。
【0044】
アルコール成分とカルボン酸成分との縮重合反応は、例えば、錫化合物、チタン化合物等のエステル化触媒、重合禁止剤等の存在下、不活性ガス雰囲気中で行うことができ、温度条件は、180〜250℃が好ましい。
【0045】
錫化合物としては、例えば、酸化ジブチル錫が知られているが、本発明では、非晶質ポリエステル中での分散性が良好である観点から、Sn-C結合を有していない錫(II)化合物が好ましい。
【0046】
Sn-C結合を有していない錫(II)化合物としては、Sn-O結合を有する錫(II)化合物、Sn-X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物等が好ましく、Sn-O結合を有する錫(II)化合物がより好ましく、2-エチルヘキサン酸錫(II)がさらに好ましい。
【0047】
チタン化合物としては、Ti−O結合を有するチタン化合物が好ましく、総炭素数1〜28のアルコキシ基、総炭素数2〜28のアルケニルオキシ基又は総炭素数1〜28のアシルオキシ基を有する化合物がより好ましく、チタンジイソプロピレートビスジエタノールアミネートがさらに好ましく、これは、例えばマツモト交商(株)の市販品としても入手できる。
【0048】
上記錫(II)化合物及びチタン化合物は、1種又は2種以上を併せて使用することができる。
【0049】
エステル化触媒の存在量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100重量部に対して、0.01〜2.0重量部が好ましく、0.1〜1.5重量部がより好ましく、0.2〜1.0重量部がさらに好ましい。
【0050】
本発明の非晶質ポリエステルは、アルコール成分とカルボン酸成分の縮重合によるポリエステルユニットを含む樹脂をいい、ポリエステルだけでなく、ポリエステル・ポリアミド等も含まれるが、これらの中では、トナーの保存性及び帯電安定性の観点から、ポリエステルが好ましい。
【0051】
なお、ポリエステルは、実質的にその特性を損なわない程度に変性されたポリエステルであってもよい。
【0052】
ポリエステル変性樹脂としては、例えば、ポリエステルがウレタン結合で変性されたウレタン変性ポリエステル、ポリエステルがエポキシ結合で変性されたエポキシ変性ポリエステル、及びポリエステル成分と付加重合系樹脂成分を含む2種以上の樹脂成分を有する複合樹脂等が挙げられる。
【0053】
具体的には、ポリエステルの原料モノマーと付加重合系樹脂の原料モノマーに加えて、さらにポリエステルの原料モノマー及び付加重合系樹脂の原料モノマーのいずれとも反応し得る化合物(両反応性モノマー)を用いて得られるハイブリッド樹脂(ポリエステルと付加重合系樹脂とが部分的に両反応性モノマーを介して結合した樹脂)であることが好ましい。両反応性モノマーとしては、分子内に、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、第1級アミノ基及び第2級アミノ基からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基、好ましくは水酸基及び/又はカルボキシル基、より好ましくはカルボキシル基と、エチレン性不飽和結合とを有する化合物が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸及びフマル酸がより好ましい。
【0054】
前記非晶質ポリエステルの軟化点は、トナーの低温定着性、保存性及び耐久性の観点から、80〜180℃が好ましく、85〜170℃がより好ましく、90〜160℃がさらに好ましい。
【0055】
一般に、樹脂の軟化点とガラス転移温度は相関している。しかし、前記非晶質ポリエステルは、同程度の軟化点を有する樹脂に比べると、ガラス転移温度を高くすることができるため、1種類の樹脂でも、トナーの低温定着性、保存性等を満足することができる。さらに、軟化点の高い樹脂と低い樹脂とを併用することで、前記の点において、より優れる。具体的に、結着樹脂は、トナーの低温定着性、保存性、さらに耐久性の観点から、軟化点が好ましくは10℃以上、より好ましくは20〜60℃異なる高軟化点樹脂と低軟化点樹脂とからなることが好ましい。高軟化点樹脂の軟化点は、好ましくは125〜160℃、より好ましくは130〜155℃であり、さらに好ましくは140〜155℃であり、低軟化点樹脂の軟化点は、好ましくは90〜120℃、より好ましくは90〜110℃、さらに好ましくは95〜105℃である。高軟化点樹脂の低軟化点樹脂に対する重量比(高軟化点樹脂/低軟化点樹脂)は、1/3〜3/1が好ましく、1/2〜2/1がより好ましい。
【0056】
また、前記非晶質ポリエステルのガラス転移温度は、トナーの低温定着性、保存性及び耐久性の観点から、45〜85℃が好ましく、50〜80℃がより好ましく、58〜75℃がさらに好ましく、63〜75℃がさらにより好ましい。
【0057】
前記非晶質ポリエステルの酸価は、トナーの帯電安定性の観点から、1〜90mgKOH/gが好ましく、5〜90mgKOH/gがより好ましく、5〜60mgKOH/gがさらに好ましく、5〜40mgKOH/gがさらにより好ましく、5〜20mgKOH/gがさらにより好ましい。同様の観点から、水酸基価は1〜90mgKOH/gが好ましく、5〜90mgKOH/gがより好ましく、10〜60mgKOH/gがさらに好ましく、20〜40mgKOH/gがさらにより好ましく、25〜40mgKOH/gがさらにより好ましい。
【0058】
本発明の結着樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、前記非晶質ポリエステル以外の公知の結着樹脂、例えば、ポリエステル、スチレン-アクリル樹脂等のビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等の樹脂が併用されていてもよいが、本発明の結着樹脂の含有量は、全結着樹脂中、30重量%以上が好ましく、50重量%以上がより好ましく、70重量%以上がさらに好ましく、80重量%以上がさらに好ましく、90重量%以上がさらに好ましく、実質的に100重量%であることがさらに好ましい。
【0059】
本発明の結着樹脂を用いることにより、互いに相反する性能である低温定着性と保存性のいずれにも優れ、良好な耐久性を有する、本発明の電子写真用トナーが得られる。
【0060】
ただし、本発明の結着樹脂が高軟化点樹脂の場合、例えば、好ましくは125〜160℃、より好ましくは130〜155℃、さらに好ましくは140〜155℃の場合は、低軟化点樹脂を併用することが好ましい。具体的に、本発明の結着樹脂との軟化点の差は、上記観点から、10℃以上が好ましく、20〜60℃がより好ましい。低軟化点樹脂の軟化点は、好ましくは90〜120℃、より好ましくは90〜110℃、さらに好ましくは95〜105℃である。高軟化点樹脂の低軟化点樹脂に対する重量比(高軟化点樹脂/低軟化点樹脂)は、1/3〜3/1が好ましく、1/2〜2/1がより好ましい。
【0061】
本発明のトナーには、さらに、着色剤、離型剤、荷電制御剤、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、体質顔料、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が適宜含有されていてもよい。
【0062】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料等のすべてを使用することができ、カーボンブラック、黒色顔料、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントグリーンB、ローダミン−Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、イソインドリン、ジスアゾイエロー等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができ、本発明のトナーは、黒トナー、カラートナーのいずれであってもよい。
【0063】
着色剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、1〜40重量部が好ましく、2〜10重量部がより好ましい。
【0064】
荷電制御剤としては、クロム系アゾ染料、鉄系アゾ染料、アルミニウムアゾ染料、サリチル酸金属錯体等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0065】
荷電制御剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、0.1〜8重量部が好ましく、0.5〜7重量部がより好ましい。
【0066】
離型剤としては、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、シリコーン類;オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド類;カルナバロウワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、木ロウ、ホホバ油等の植物系ワックス;ミツロウ等の動物系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の鉱物・石油系ワックス等のワックスが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0067】
離型剤の融点は、トナーの低温定着性と耐オフセット性の観点から、60〜160℃が好ましく、60〜150℃がより好ましい。
【0068】
離型剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、結着樹脂中への分散性の観点から、0.5〜10重量部が好ましく、1〜8重量部がより好ましく、1.5〜7重量部がさらに好ましい。
【0069】
本発明のトナーは、溶融混練法、乳化転相法、重合法等の従来より公知のいずれの方法により得られたトナーであってもよいが、生産性や着色剤の分散性の観点から、溶融混練法による粉砕トナーが好ましい。溶融混練法による粉砕トナーの場合、例えば、結着樹脂、着色剤、荷電制御剤、離型剤等の原料をヘンシェルミキサー等の混合機で均一に混合した後、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等で溶融混練し、冷却、粉砕、分級して製造することができる。一方、トナーの小粒径化の観点からは、重合法によるトナーが好ましい。
【0070】
トナーの表面には、外添剤が添加されていてもよい。外添剤としては、トナーには、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ジルコニア、酸化錫、酸化亜鉛等の無機微粒子や、樹脂微粒子等の有機微粒子等が挙げられ、これらの表面には疎水化処理が施されていてもよい。外添剤の添加量は、外添剤で処理する前のトナー粒子100重量部に対して、0.05〜5重量部が好ましい。
【0071】
本発明のトナーの体積中位粒径(D50)は、画像品質を向上させる観点から、3〜15μmが好ましく、3〜10μmがより好ましい。なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。
【0072】
本発明のトナーは、一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して二成分現像剤として用いることができる。
【実施例】
【0073】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター(島津製作所、CFT-500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押出す。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0074】
〔樹脂の吸熱の最高ピーク温度〕
示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、Q-100)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、室温から降温速度10℃/分で0℃まで冷却しそのまま1分間静止させた。その後、昇温速度50℃/分で測定した。観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を吸熱の最高ピーク温度とした。
【0075】
〔樹脂のガラス転移温度〕
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて、試料を0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で昇温し、吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度とする。
【0076】
〔樹脂の酸価〕
JIS K0070の方法に基づき測定する。但し、測定溶媒のみJIS K0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更した。
【0077】
〔樹脂の水酸基価〕
JIS K0070の方法に基づき測定する。
【0078】
〔離型剤の融点〕
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で昇温し、融解熱の最大ピーク温度を融点とする。
【0079】
〔トナーの体積中位粒径(D50)〕
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマンコールター社製)
アパチャー径:50μm
解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマンコールター社製)
電解液:アイソトンII(ベックマンコールター社製)
分散液:エマルゲン109P(花王社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB:13.6)5%電解液
分散条件:分散液5mlに測定試料10mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、電解液25mlを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させる。
測定条件:ビーカーに電解液100mlと分散液を加え、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度で、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求める。
【0080】
〔外添剤の平均粒径〕
外添剤の平均粒径は個数平均粒径を指し、走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影し、500個の粒子の粒径の平均値とする。長径と短径がある場合は長径を指す。
【0081】
樹脂製造例1〔樹脂A〜D、F〜J、L〕
表1、2に示す原料モノマー及びエステル化触媒を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、180℃まで昇温した後、210℃まで5時間かけて昇温を行った。その後210℃にて反応率が95%以上に到達したのを確認し、40kPaにて所望の軟化点に達するまで反応を行って、ポリエステルを得た。なお、反応率とは、生成反応水量/理論生成水量×100の値をいう。
【0082】
樹脂製造例2〔樹脂E〕
表1に示す原料モノマー及びエステル化触媒を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、235℃まで昇温し、235℃にて10時間反応を行った。その後235℃、8kPaにて1時間反応を行った後、210℃まで冷却し、20kPaにて所望の軟化点に達するまで反応を行って、ポリエステルを得た。
【0083】
樹脂製造例3〔樹脂K、M〕
表2に示す無水トリメリット酸以外の原料モノマー及びエステル化触媒を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、180℃まで昇温した後、210℃まで5時間かけて昇温を行った。その後210℃にて反応率が95%以上に到達したのを確認し、表表2に示す無水トリメリット酸を投入した。1時間常圧にて反応を行った後、40kPaにて所望の軟化点に達するまで反応を行って、ポリエステルを得た。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
実施例1〜9及び比較例1〜3
表3に示す結着樹脂100重量部(高軟化点樹脂50重量部、低軟化点樹脂50重量部)、着色剤「Regal 330R」(キャボット社製、カーボンブラック)5重量部、離型剤「三井ハイワックスNP055」(三井化学社製、ポリプロピレンワックス、融点:125℃)2重量部、及び負帯電性荷電制御剤「ボントロン E-81」(オリエント化学工業社製)1重量部をヘンシェルミキサーで十分混合した後、同方向回転二軸押出し機を用い、ロール回転速度200r/min、ロール内の加熱温度80℃で溶融混練した。得られた溶融混練物を冷却、粗粉砕した後、ジェットミルにて粉砕し、分級して、体積中位粒径(D50)が8μmのトナー粒子を得た。
得られたトナー粒子100重量部に、外添剤として、疎水性シリカ「NAX-50」(日本アエロジル社製、疎水化処理剤:HMDS(ヘキサメチルジシラザン)、平均粒径:約30nm)1.0重量部を添加し、ヘンシェルミキサーで混合することにより、トナーを得た。
【0087】
実施例10
負帯電性荷電制御剤として、「ボントロン E-81」(オリエント化学工業社製)の代わりに、「LR-147」(日本カーリット社製)1重量部を使用し、離型剤として、「三井ハイワックスNP055」の代わりに、「HNP-9」(日本精鑞社製、パラフィンワックス、融点:80℃)2重量部を使用し、着色剤として、カーボンブラック「Regal 330R」の代わりに、シアン顔料「Toner Cyan BG」(クラリアント社製、P.B.15:3)5重量部を使用し、外添剤として「NAX-50」の代わりに、疎水性シリカ「R-972」(日本アエロジル社製、平均粒径16nm、疎水化処理剤:ジメチルジクロロシラン)1.0重量部を使用した以外は、実施例1と同様にして、トナーを得た。
【0088】
実施例11
結着樹脂、着色剤等とともに、荷電制御樹脂「FCA-701PT」(藤倉化成社製、4級アンモニウム塩基含有スチレンアクリル系樹脂、軟化点:123℃)を5重量部使用し、負帯電性荷電制御剤の代わりに、正帯電性荷電制御剤「ボントロン P-51」(オリエント化学工業社製)1重量部を使用し、外添剤として「NAX-50」の代わりに、疎水性シリカ「TG-C243」(キャボット社製、平均粒径100nm、疎水化処理剤:ヘキサメチルジシラザン+オクチルトリエトキシシラン)1.0重量部を使用した以外は、実施例1と同様にして、トナーを得た。
【0089】
試験例1〔低温定着性〕
複写機「AR-505」(シャープ(株)製)の定着機を装置外での定着が可能なように改良した装置にトナーを実装し、未定着画像を得た。その後、総定着圧が40kgfになるように調整した定着機(定着速度390mm/sec)で、100℃から240℃へと10℃ずつ順次上昇させながら、各温度で未定着画像を定着させて、定着画像を得た。定着画像に「ユニセフセロハン」(三菱鉛筆社、幅:18mm、JISZ-1522)を貼り付け、30℃に設定した定着ローラーに通過させた後、テープを剥がした。テープを貼る前と剥がした後の光学反射密度を反射濃度計「RD-915」(マクベス社製)を用いて測定し、両者の比率(剥離後/貼付前)が最初に90%を越える定着ローラーの温度を最低定着温度とし、この値を低温定着性の指標とした。数値が小さいほど、低温定着性に優れる。結果を表3に示す。なお、定着試験に用いた紙は、シャープ(株)製のCopyBond SF-70NA(75g/m2)である。
【0090】
試験例2〔保存性〕
トナー4gを温度55℃、湿度60%の環境下で72時間放置した。放置後、トナー凝集の発生程度を目視にて観察し、以下の評価基準に従って、保存性を評価した。結果を表3に示す。
【0091】
〔評価基準〕
A:48時間後及び72時間後も凝集は全く認められない。
B:48時間後で凝集は認められないが72時間後ではわずかに凝集が認められる。
C:48時間後で凝集は認められないが72時間後では明らかに凝集が認められる。
D:48時間以内で既に凝集が認められる。
【0092】
試験例3〔耐久性〕
「ページプレスト N-4」(カシオ計算機社製、定着:接触定着方式、現像:非磁性一成分現像方式、現像ロール径:2.3cm)にトナーを実装し、32℃、85%の条件下にて黒化率5.5%の斜めストライプのパターンの画像を印字した。途中、500枚ごとに黒ベタ画像を印字し、画像上のスジを確認した。画像上にスジが目視にて観察された時点までの印字枚数を、現像ロールにトナーが融着・固着したことによりスジが発生した枚数とし耐久性の指標とした。即ち、数値が大きいほど、トナーの耐久性に優れる。結果を表3に示す。
【0093】
【表3】

【0094】
以上の結果より、実施例1〜11のトナーは、低温定着性、保存性及び耐久性のいずれもが良好であることが分かる。これに対し、結着樹脂の原料モノマーにグリセリンが用いられていない比較例1のトナーは、耐久性に欠けており、フラン環を有する原料モノマーが用いられていない比較例2のトナーは、保存性に欠けている。また、グリセリンもフラン環も用いられていない比較例3のトナーは、保存性と耐久性に両者に欠けていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明のトナー用結着樹脂は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像等に好適に用いられるトナーに用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともアルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させて得られる非晶質ポリエステルを含有してなるトナー用結着樹脂であって、アルコール成分及びカルボン酸成分の少なくともいずれかが、フラン環を有する原料モノマーを含有してなり、アルコール成分がグリセリンを含有してなる、トナー用結着樹脂。
【請求項2】
フラン環を有する原料モノマーの含有量が、グリセリン以外の非晶質ポリエステルの原料モノマー総量中、10〜100モル%である、請求項1記載のトナー用結着樹脂。
【請求項3】
グリセリンの含有量が、非晶質ポリエステルの原料モノマー総量中、2〜40モル%である、請求項1又は2記載の結着樹脂。
【請求項4】
軟化点が80〜180℃である、請求項1〜3いずれか記載のトナー用結着樹脂。
【請求項5】
アルコール成分が、第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールを10〜98モル%含有してなる、請求項1〜4いずれか記載のトナー用結着樹脂。
【請求項6】
カルボン酸成分が、フランジカルボン酸化合物、フランカルボン酸化合物及びヒドロキシフランカルボン酸化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種のフラン環を有するカルボン酸化合物を含有してなる、請求項1〜5いずれか記載のトナー用結着樹脂。
【請求項7】
アルコール成分が、フランジアルコール、ヒドロキシメチルフルフリルアルコール及びフルフリルアルコールからなる群から選ばれた少なくとも1種のフラン環を有するアルコールを含有してなる、請求項1〜6いずれか記載のトナー用結着樹脂。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか記載の結着樹脂を含有してなる、電子写真用トナー。

【公開番号】特開2013−97059(P2013−97059A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237541(P2011−237541)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】