説明

トランスミッション騒音低減装置

【課題】歯打ち音の発生する低回転時や潤滑油の粘度が低いときにのみ回転抵抗を発生させ、潤滑油の粘度に依存することなくリバースギヤに一定の撹拌抵抗を付加できるトランスミッション騒音低減装置を提供する。
【解決手段】ミッションケース6内にカウンターシャフト4を枢支し、カウンターシャフト4にインプットシャフト2からの動力で常時回転駆動されるリバースカウンタギヤ20をミッションケース6内の潤滑油28に浸かるように設けてリバースカウンタギヤ20に潤滑油28の撹拌抵抗が作用するようにし、その撹拌抵抗によりリバースカウンタギヤ20の歯面をリバースカウンタギヤ20に噛合されるリバースアイドルギヤ16の歯面に押し付けて歯打ち音を抑制するトランスミッション騒音低減装置において、リバースカウンタギヤ20の側面26に、潤滑油28を撹拌すると共に潤滑油28から受ける撹拌抵抗に応じて弾性変形する羽根27を設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リバースギヤの歯打ち音を低減するトランスミッション騒音低減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用トランスミッションの概略説明図を図5に示す。図5に示すように、トランスミッション1には、ギヤ位置(シフト位置)とは無関係に常にギヤ同士が噛み合っている常時噛み合い式のトランスミッション1がある。かかるトランスミッション1は、シャフト2、4に固定されたシンクロナイザーの爪とギヤ側面に圧入されたシンクロコーンの爪とが噛み合うことによりシャフト2、4とギヤが固定されて動力を伝達する構造となっている。各ギヤ間には隙間(バックラッシュ)があり、エンジン出力に含まれる変動成分により、歯面同士の衝突(歯打ち)が発生する。
【0003】
また、リバースギヤ10、16、20のうちカウンターシャフト4に回転自在に設けられるリバースカウンタギヤ20と、1速カウンタギヤ21と、2速カウンタギヤ22は潤滑油28に浸かっており、駆動されたとき潤滑油28の撹拌抵抗を受けるようになっている。潤滑油28の撹拌抵抗が大きいときは、その撹拌抵抗により噛合されている歯面同士を押し付ける力が発生して、歯打ちが抑制される。図6にリバースカウンタギヤ20に回転抵抗を与えたときの歯打ち加振力の変化を示す。リバースカウンタギヤ20に0.4Nm程度の回転抵抗を与えることにより、歯打ちが抑制されることが分かる。特にリバースカウンタギヤ20はシンクロナイザーの容量が小さく、元々回転抵抗が小さいため、歯打ちが発生し易くなっている。リバースギヤ10、16、20の歯打ちを抑制するために、リバースギヤ10、16、20に回転抵抗を付与する方法としては、歯数の異なる二枚のギヤを重ね、そのギヤ間の摩擦を利用したフリクションギヤ(図示せず)により、回転抵抗を与える方法と、潤滑油28の粘度を高くして潤滑油28の撹拌抵抗によりリバースギヤ10、16、20の歯面同士を押し付けて歯打ちを抑制する方法とが一般に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−130445号公報
【特許文献2】特開平9−119450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、歯打ち音の抑制を目的としてリバースギヤ10、16、20の撹拌抵抗を増加させると、主に歯打ち音が発生するアイドル運転時では問題とならないが、走行時などでリバースギヤ10、16、20が高速回転するようなときには過大な撹拌抵抗が生じることとなり、自動車の燃費性能の低下を引き起こす。また、一般に多段クラッチでは、回転抵抗によってクラッチ捩りバネ定数が変化して振動抑制効果を高める構造となっている(特許文献2参照)が、回転抵抗が過大になると、クラッチの捩りバネ定数が増加し、振動抑制効果が低下し、回転変動が増加して歯打ち加振力が増加するといった問題がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、歯打ち音の発生する低回転時や潤滑油の粘度が低いときにのみ回転抵抗を発生させ、潤滑油の粘度に依存することなくリバースギヤに一定の撹拌抵抗を付加できるトランスミッション騒音低減装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、ミッションケース内にカウンターシャフトを枢支し、該カウンターシャフトにインプットシャフトからの動力で常時回転駆動されるリバースカウンタギヤをミッションケース内の潤滑油に浸かるように設けてリバースカウンタギヤに潤滑油の撹拌抵抗が作用するようにし、その撹拌抵抗によりリバースカウンタギヤの歯面をリバースカウンタギヤに噛合されるリバースアイドルギヤの歯面に押し付けて歯打ち音を抑制するトランスミッション騒音低減装置において、上記リバースカウンタギヤの側面に、上記潤滑油を撹拌すると共に潤滑油から受ける撹拌抵抗に応じて弾性変形する羽根を設けたものである。
【0008】
上記羽根は、上記リバースカウンタギヤの外周部の側面に周方向に複数等間隔に設けられるとよい。
【0009】
上記羽根は、板状に形成され、上記リバースカウンタギヤの外周部の側面に軸方向に延びると共に径方向に延びるように設けられるとよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、歯打ち音の発生する低回転時や潤滑油の粘度が低いときにのみリバースギヤに回転抵抗を発生させることができ、潤滑油の粘度に依存することなくリバースギヤに一定の撹拌抵抗を付加できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の好適実施の形態を示すリバースカウンタギヤの側面図である。
【図2】図1の側面図である。
【図3】(a)は潤滑油の粘度が低いときのリバースカウンタギヤの要部拡大側面図であり、(b)は潤滑油の粘度が高いときのリバースカウンタギヤの要部拡大図である。
【図4】潤滑油の粘度とギヤが受ける撹拌抵抗の関係を表すと共に潤滑油の粘度と羽の変形量の関係を表すグラフである。
【図5】自動車用トランスミッションの概略説明図である。
【図6】回転抵抗と歯打ち加振力の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の好適実施の形態を添付図面を用いて説明する。
【0013】
図5に示すように、トランスミッション1は、常時噛み合い式の多段変速機であり、エンジンからクラッチ(図示せず)を介してインプットシャフト2に伝達されるエンジン動力を変速ギヤ3及びカウンターシャフト4を介してアウトプットシャフト5に出力するようになっている。クラッチは、捩り方向の振動を吸収するねじり振動ダンパ装置を有し、回転抵抗によってクラッチ捩りバネ定数が変化して振動抑制効果を高めるようになっている。
【0014】
インプットシャフト2とアウトプットシャフト5はミッションケース6内で対向するように同軸上に配置され、カウンターシャフト4はインプットシャフト2とアウトプットシャフト5の下方に平行に配置されると共にミッションケース6に軸受7を介して枢支される。また、カウンターシャフト4とアウトプットシャフト5は、減速ギヤ8を介して常時接続されている。
【0015】
インプットシャフト2には、リバースインプットギヤ10と1速インプットギヤ11と2速インプットギヤ12とが一体に設けられると共に、3速インプットギヤ13と5速インプットギヤ15とが回転自在に枢支される。また、リバースインプットギヤ10にはミッションケース6に回転自在に枢支されたリバースアイドルギヤ16が噛合される。カウンターシャフト4には、リバースアイドルギヤ16に噛合されるリバースカウンタギヤ20と、1速インプットギヤ11に噛合される1速カウンタギヤ21と、2速インプットギヤ12に噛合される2速カウンタギヤ22とが回転自在に枢支されると共に、3速インプットギヤ13に噛合される3速カウンタギヤ23と、5速インプットギヤ15に噛合される5速カウンタギヤ25とが一体に設けられる。
【0016】
また、インプットシャフト2には、3速用シンクロ33と、4速用シンクロ34と、5速用シンクロ35とが設けられ、カウンターシャフト4には、リバース用シンクロ30と1速用シンクロ31と2速用シンクロ32とが設けられる。
【0017】
ミッションケース6内には、潤滑油28が所定の液位となるように収容されており、リバースカウンタギヤ20と1速カウンタギヤ21と2速カウンタギヤ22は、それぞれミッションケース6内の潤滑油28に浸かるように配置されている。
【0018】
図1及び図2に示すように、リバースカウンタギヤ20の側面26には、トランスミッション騒音低減装置29を構成する潤滑油撹拌用の羽根27が設けられている。羽根27は、潤滑油28を撹拌して潤滑油28から撹拌抵抗を受けるためのものであり、潤滑油28から受ける撹拌抵抗に応じて弾性変形するような材質、具体的には、ゴム等の軟質の樹脂や、薄いバネ鋼板にて形成されている。羽根27は、板状に形成されており、リバースカウンタギヤ20の外周部の側面26に軸方向に延びると共に径方向に延びるように設けられる。特に羽根27はリバースカウンタギヤ20から径方向外方に突出するように設けられており、潤滑油28から効率よく撹拌抵抗を受けるようになっている。
【0019】
また、羽根27は、リバースカウンタギヤ20の外周部の側面26に周方向に複数等間隔に設けられており、常に所定の数の羽根27が潤滑油28に浸かるようになっている。
【0020】
次に本実施の形態の作用を述べる。
【0021】
ギヤポジションがニュートラルの状態でエンジンが始動されると共にクラッチが接続され、インプットシャフト2が駆動されると、インプットシャフト2の回転駆動力はリバースインプットギヤ10からリバースアイドルギヤ16に伝達され、リバースカウンタギヤ20に伝達される。これによりリバースカウンタギヤ20は、回転され、潤滑油28は撹拌される。エンジン始動時の潤滑油28は温度が低く粘度が高いため、潤滑油28を撹拌する際の抵抗は大きく、羽根27への負荷は大きくなる。図3(b)及び図4に示すように羽根27は撹拌抵抗により自由端側を回転方向後方に反らすように大きく変形し、撹拌抵抗を逃がす。このため、リバースカウンタギヤ20に撹拌抵抗が負荷されにくくなり、リバースカウンタギヤ20に過大な撹拌抵抗が作用することはないため、自動車の燃費性能の低下を防ぐことができる。また、クラッチの振動抑制効果が低下して歯打ち加振力が増加するのを防ぐことができる。
【0022】
この後、暖機運転が終了して潤滑油28の温度が上がると潤滑油28の粘度が下がる。これにより、潤滑油28を撹拌する際の抵抗は小さくなるが、羽根27への負荷も小さいため、図3(a)及び図4に示すように、羽根27の変形は小さくなり、撹拌抵抗を受けやすくなる。このため、羽根27が受ける撹拌抵抗はほとんど変化せず、適度な撹拌抵抗がリバースカウンタギヤ20に効果的に負荷される。
【0023】
また、車両の走行のためにインプットシャフト2の回転数が上がると、リバースカウンタギヤ20の回転数も上がり、羽根27への負荷も大きくなるが、図3(b)及び図4に示すように羽根27は撹拌抵抗により自由端側を回転方向後方に反らすように大きく変形するため、リバースカウンタギヤ20に過大な撹拌抵抗が作用することはなく、自動車の燃費性能の低下を防ぐことができる。また、クラッチの振動抑制効果が低下して歯打ち加振力が増加するのを防ぐことができる。
【0024】
このように、リバースカウンタギヤ20の側面26に、潤滑油28を撹拌すると共に潤滑油28から受ける撹拌抵抗に応じて弾性変形する羽根27を設けたため、歯打ち音の発生する低回転時や潤滑油28の粘度が低いときにのみリバースギヤに回転抵抗を発生させることができ、潤滑油28の粘度に依存することなくリバースギヤ10、16、20に一定の撹拌抵抗を付加できる。そして、自動車の燃費性能の低下を防ぐことができ、リバースギヤ10、16、20に過大な撹拌抵抗が付加されるのを防ぐことができ、クラッチの振動抑制効果への悪影響を防ぐことができる。
【0025】
また、羽根27は、リバースカウンタギヤ20の外周部の側面26に周方向に複数等間隔に設けられるものとしたため、常時所定の数の羽根27を潤滑油28に浸けることができ、潤滑油28から安定して撹拌抵抗を受けることができる。
【0026】
またさらに羽根27は、板状に形成され、リバースカウンタギヤ20の外周部の側面26に軸方向に延びると共に径方向に延びるように設けられるものとしたため、リバースギヤ10、16、20間の動力伝達の邪魔をすることなく潤滑油28から確実に撹拌抵抗を受けることができる。
【0027】
なお、トランスミッションは常時噛み合い式であれば上述のタイプに限るものではない。
【符号の説明】
【0028】
2 インプットシャフト
4 カウンターシャフト
6 ミッションケース
16 リバースアイドルギヤ
20 リバースカウンタギヤ
26 側面
27 羽根
28 潤滑油
29 トランスミッション騒音低減装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミッションケース内にカウンターシャフトを枢支し、該カウンターシャフトにインプットシャフトからの動力で常時回転駆動されるリバースカウンタギヤをミッションケース内の潤滑油に浸かるように設けてリバースカウンタギヤに潤滑油の撹拌抵抗が作用するようにし、その撹拌抵抗によりリバースカウンタギヤの歯面をリバースカウンタギヤに噛合されるリバースアイドルギヤの歯面に押し付けて歯打ち音を抑制するトランスミッション騒音低減装置において、上記リバースカウンタギヤの側面に、上記潤滑油を撹拌すると共に潤滑油から受ける撹拌抵抗に応じて弾性変形する羽根を設けたことを特徴とするトランスミッション騒音低減装置。
【請求項2】
上記羽根は、上記リバースカウンタギヤの外周部の側面に周方向に複数等間隔に設けられた請求項1記載のトランスミッション騒音低減装置。
【請求項3】
上記羽根は、板状に形成され、上記リバースカウンタギヤの外周部の側面に軸方向に延びると共に径方向に延びるように設けられた請求項1又は2記載のトランスミッション騒音低減装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−169116(P2010−169116A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10063(P2009−10063)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】