トリアジンチオール担持炭化物、トリアジンチオール担持炭化物の製造方法、金属イオン吸着方法及び金属回収方法
【課題】銀等の金属イオンを効率よく回収可能な物質、そのような物質を製造する方法、そのような物質を用いた金属イオン吸着方法、及びそのような物質を用いた金属回収方法を提供する。
【解決手段】木質原料から得られる炭化物表面の細孔内に化1で示されるトリアジンチオールを担持する。
【化1】
【解決手段】木質原料から得られる炭化物表面の細孔内に化1で示されるトリアジンチオールを担持する。
【化1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリアジンチオールを担持する炭化物、トリアジンチオールを担持する炭化物を製造する方法、トリアジンチオールを担持する炭化物に金属イオンを吸着させる方法、及びトリアジンチオールを担持する炭化物を用いて金属を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全や資源リサイクルへの意識が高まる中、工場などから出る廃液中に含まれる金属の除去や金属の回収が重要になってきている。
金属イオンの吸着・回収については、各種産業から排出される廃液(化学工業における廃触媒、半導体産業における金属エッチング廃液、医薬施設における写真廃液など)からの金属の回収が主対象であるが、そのほかに産業有害排水の無害化にも関連し、省資源・資源リサイクル・環境保全の立場から重要な技術となっている。金属イオンの捕集には、イオン交換法、吸着法、共沈法、膜分離法、溶媒抽出法などが知られている。しかし、いずれも使用範囲に限度があり、使用薬剤・材料の価格や後処理・回収工程の必要性、あるいはシステムの経済性を考えると新たな高性能材料の創製と効率的なシステム技術の開発が望まれている。
【0003】
例えば、金属のうち、銀金属を回収する技術として、メルカプト−s−トリアジン沈殿法により銀回収コストを低減する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−1726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トリアジンチオール(以下、適宜「RTD」と記す。)は、金属除去剤、金属表面処理剤、ポリマー架橋剤として利用可能である。しかし、トリアジンチオールを金属除去剤として利用する場合、次のような課題がある。第1の課題は、トリアジンチオールの使用量が多い、というものである。第2の課題は、金属イオンと反応するトリアジンチオールは微細な粒子であるため、金属イオンと反応した後のトリアジンチオールを廃液から十分に分離できない、というものである。
【0005】
活性炭は、排水処理、貴金属回収、空気浄化、触媒として利用可能である。しかし、活性炭処理は高度な技術を要するためコストがかかるという課題がある。また、木質炭化物も排水処理等に利用可能であるが、活性炭と比較して、金属捕集力が小さいという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の特徴は、トリアジンチオール担持炭化物であって、木質原料から得られる炭化物表面の細孔内に化1で示されるトリアジンチオールを担持することにある。
【化1】
【0007】
本発明の第2の特徴は、トリアジンチオール担持炭化物の製造方法であって、炭化物を水中に分散させ、炭化物を分散させた溶液のpHを酸性に維持しつつ、前記溶液へ化1で示されるトリアジンチオールのナトリウム塩溶液を滴下し、滴下終了後、トリアジンチオールを担持した炭化物を溶液から分離し、乾燥することにある。
【0008】
本発明の第3の特徴は、金属イオン吸着方法であって、第1の特徴を具備するトリアジンチオール担持炭化物に金属イオン含有液を接触させることにある。
【0009】
本発明の第4の特徴は、金属回収方法であって、第1の特徴を具備するトリアジンチオール担持炭化物に金属イオン含有液を接触させて、金属イオンを吸着させた後に、金属イオンを吸着させたトリアジンチオール担持炭化物を550〜1000℃で燃焼灰化させることにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、トリアジンチオール担持炭化物を製造することができ、このトリアジンチオール担持炭化物によって、低コストで効率よく、工場などから出る廃液中に含まれる金属の除去や金属の回収が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、以下の説明は、単なる例示に過ぎず、本発明の技術的範囲は以下の説明に限定されるものではない。
【0012】
[トリアジンチオール担持炭化物の調製]
トリアジンチオール(1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール:RTD)は塩基性溶液中ではそのナトリウム塩として溶解し、酸性溶液中ではRTDとして析出することから、RTDの塩基性溶液を、炭化物が分散した酸性溶液中に滴下することで、溶液中でRTDを炭化物表面に酸析させた。
ここで、RTDのナトリウム塩は、一ナトリウム塩、二ナトリウム塩、三ナトリウム塩又はこれらの混合物であってもよいが、好ましくは、三ナトリウム塩を多く含んだ方がよい。
【0013】
[実験試料]
RTD担持炭化物の調製には、以下の1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール・三ナトリウム塩水溶液、炭化物、塩酸、水酸化ナトリウムを用いた。
化2で示される1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール・三ナトリウム塩水溶液(18.16 wt%) (三協化成株式会社製) MW:243.3
【化2】
杉間伐材炭化物(グリーンリサイクル社製) 粒径(mesh) 12-14、20-32、60-80、100-115、200以下(12-14 meshとは、12-14のmeshを通して得られた炭化物を意味する。以下同じ。)
塩酸 HCl 和光純薬工業株式会社製 特級 MW:36.47
水酸化ナトリウム NaOH 和光純薬工業株式会社製 特級 MW:40.00
【0014】
[RTD担持炭化物の調製方法]
<RTD溶液の調製>
RTD溶液は1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール・三ナトリウム塩水溶液(18.16 wt%)を調製して用いた。調製方法はメスフラスコに1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール・三ナトリウム塩水溶液を適量加え、蒸留水で50 mLに希釈して行った。加えた1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール・三ナトリウム塩水溶液の量は、数1で求められるRTD担持率が炭化物1gのときにそれぞれ10、20、30、40、50、60、70および80wt%になる量とした。
調製したRTD溶液は、それぞれ理論担持率(10-80 wt%)のRTD溶液と表記する。
【数1】
【0015】
<炭化物の調製>
木材材料としては、岩手県で伐採された針葉樹のスギを用いた。
(1)多孔性でかつ
(2)金属イオンを捕集する能力を持っているRTDと表面的になじみがよい
という炭化物を製造するための条件は、針葉樹のスギを用い、炭化温度800℃であった。RTD担持用炭化物は炭化温度を800℃で、粒径サイズを粗粒炭化物、粉炭(微粒子炭化物)の2種類で製造した。粗粒炭化物、粉炭(微粒子炭化物)は105℃で24時間乾燥させた炭化物をミキサーで磨り潰し、金網ふるいを用いて各サイズの粒径にふるい分けを行い、105℃で24時間乾燥させて用いた。図1に粉炭(微粒子炭化物)のSEM像を示す。
【0016】
<RTD担持炭化物の調製>
前記の炭化物(粒径12-14 mesh、20-32mesh、60-80 mesh、100-115mesh、200 mesh以下)、各1 gを蒸留水50 mL中に分散させた。炭化物を分散させた溶液のpHを測定しながらpH2になるように0.1M-HClを滴下した。溶液のpHが2を示したら、前記の方法で調製した各濃度のRTD溶液(50 mL)を2 mL/min.の速度で、炭化物を分散させた溶液中に滴下を行った。RTD溶液滴下中はpHの上昇を防ぐため0.1M-HClを滴下しpHが2を維持するように調整を行った。滴下終了後、炭化物と溶液の固液分離を行った。固液分離にはろ紙つきロートを用い、ろ紙には東洋濾紙株式会社製(直径15cm、No.5A)を用いた。また、RTD溶液を滴下中に溶液内でRTDが析出した場合は、RTDが析出した時点で滴下を終了し、金網ふるい(12-14 mesh、20-32 mesh、60-80 mesh、100-115 mesh、200 mesh)を用いて、炭化物と溶液・析出したRTDを分離した。固液分離後、105℃で24時間乾燥を行うことでRTD担持炭化物の調製を行った。また上記の方法を用い、比較試料としてセラケム株式会社製の活性炭(活性炭富士 雪A:粒径 80-100 mesh)へのRTDの担持を行った。
【0017】
[RTD担持炭化物の評価]
<RTD担持率の測定>
RTD担持率の測定方法は前記の<RTD担持炭化物の調製>における固液分離後、液相中のRTD残留濃度を全有機炭素計(島津製作所製 TOC-5000)により測定し、数2によりRTD残留濃度からRTD担持率を求めた。
また、RTD溶液滴下中にRTDが析出した場合は液相にNaOHを加え、一度RTDを溶解し、再び酸性化しTOC(全有機体炭素)測定値から残留RTD量を求めた。
【数2】
【0018】
<RTD担持炭化物の物性評価方法>
乾燥したRTD担持炭化物の物性評価は細孔分布測定により行い、比較として未担持の炭化物の細孔分布測定も行った。
細孔分布測定はRTD担持炭化物と炭化物をそれぞれ105℃で24時間乾燥させ、3時間減圧乾燥した。RTD担持炭化物と炭化物をそれぞれ0.6 g取り、窒素気流下120℃で3時間脱気し、室温まで冷却後に自動比表面積を細孔分布測定装置(日本ベル株式会社製 BELSORP-mini)により測定した。各細孔の評価は、MP法によりマイクロ孔分布を評価し、BJH法によりメソ孔分布の評価を行った。また、RTD担持炭化物の表面を観測するため、走査型電子顕微鏡(日立製作所製 S-2250NII型:SEM)を使用した。
図2に、前記の<RTD担持炭化物の調製方法>と、調製したRTD担持炭化物の評価方法を示す。
【0019】
[結果]
<RTD担持率>
表1に、各粒径の炭化物におけるRTD担持率を示す。粒径12-14 mesh、20-32 mesh、60-80 meshでは理論担持率10 wt%相当のRTD溶液を滴下中に黄色い析出物が見られたので、析出が見られた時点でRTD溶液の滴下を終了した。粒径100-115meshの理論担持率10 wt%、及び200mesh以下の理論担持率10-80 wt%のRTD担持条件下においてはRTD溶液50 mLを滴下した時点において溶液中へのRTDの析出はみられなかった。
【表1】
【0020】
<RTD担持処理前後の炭化物分散溶液>
図3に、RTD担持処理前の炭化物分散溶液と担持処理後の分散溶液を示す。処理前では溶液全体に炭化物が分散しているのに対し、RTD担持処理後では炭化物が沈殿していることが分かる。これは炭化物の多孔質にRTDが担持し、浮力が低下したためだと考えられる。
【0021】
<乾燥後のRTD担持炭化物>
図4は、乾燥後のRTD担持炭化物を示す。RTD担持率
6.0wt%から41.5 wt%においては表面上の変化は見られなかったが、50.5 wt%から74.3wt%においては表面が灰色に変色している。これはRTDが多孔質中に担持された後に、さらに木炭表面に担持しているためと示唆される。
【0022】
<細孔分布の測定結果>
図5は、MP法によるマイクロ孔分布解析を示す。横軸は細孔幅Dp(nm)を示し、縦軸は積算分布dVp/dDpを示す。
RTDを担持していない0wt%では0.6 nm付近にdVp/dDp=1205の大きなピークを示したが、RTD担持炭化物では全体的にマイクロ孔分布のピークは大きく減少する傾向が見られた。これはRTDがマイクロ孔に蓄積され、マイクロ孔が減少しているためと示唆される。
【0023】
図6は、BJH法によるメソ孔分布解析を示す。横軸は細孔半径Rp (nm)を示し、縦軸は細孔容積Vp (mm3/g) を示す。図6に示すように、RTDを担持していない0wt%では細孔半径が3nm以下のメソ孔が存在し、RTD担持炭化物では全体的にメソ孔分布のピークは大きく減少する傾向が見られ、3nm〜10nmのメソ孔分布が確認された。
RTDを担持していない0wt%では細孔半径が3nm以下のメソ孔が存在し、RTD担持炭化物では全体的にメソ孔分布のピークは大きく減少する傾向が見られ、3nm〜10nmのメソ孔分布が確認された。
【0024】
<SEM像の観測結果>
図7は、炭化物とRTD担持炭化物のSEM像を示す。0wt%(未担持)やRTD担持率23.3 wt%以下の比較的RTD担持率の低い範囲ではSEM写真において大きな変化は見られないが、RTD担持率33.2wt%ではわずかに表面上に変化が見られ、炭化物表面にわずかに担持物が見られ、さらにRTD担持率が41.5wt%、50.5 wt%と増加するにつれて炭化物表面への担持物の増加が見て取れRTD担持率62.9 wt%以上では炭化物表面が完全に担持物で覆われていることが観測できる。
【0025】
図8は、活性炭とRTD担持活性炭のSEM像を示す。図7と同様にRTD担持率が低い範囲では表面の変化は見られないが、RTD担持率47.8wt%以上では表面への担持物が観察された。
図7、8のSEM像に見られる担持物はRTDが析出したものであると思われ、RTD担持率が増大するにつれて炭化物表面へのRTDの担持が増加していると考えられる。
【0026】
[RTD担持炭化物の調製のまとめ]
1. 100 mesh以上の炭化物では6.8wt%以上の担持率のRTD担持炭化物は調製できなかった。
2. 200 mesh以下の炭化物ではRTDの量を調整することで、異なるRTD担持率のRTD担持炭化物の調製が可能であった。
3. 200 mesh以下のRTD担持炭化物では、RTDはマイクロ孔に担持され、さらにRTD担持率が高くなると炭化物表面へのRTDの担持が確認できた。
【0027】
[生成複合体による金属イオン吸着]
<バッチ式RTD担持炭化物の吸着特性>
RTD担持炭化物による硝酸銀水溶液からの銀除去をRTD担持率、RTD担持炭化物の添加量および硝酸銀水溶液の初期pH等の影響について検討した。
【0028】
図9はFreundlichの吸着等温線を示し、図10はLangmuirの吸着等温線を示す。Qeは平衡吸着量を、Ceは平衡濃度を示す。
図9及び図10のいずれについてもRTD担持炭化物等の大きさや添加量等は下記のとおりである。
RTD担持炭化物(200 mesh以下):添加量3mg、RTD担持率23.3wt%
炭化物(200mesh以下), 活性炭:添加量50mg
硝酸銀水溶液:溶液量10mL、銀濃度100〜500ppm、pH5
反応時間:3日
炭化物と活性炭ではFreundlich、Langmuirの吸着等温線それぞれにおいて直線性を示したが、RTD担持炭化物(RTD担持率 23.3 wt%)ではFreundlichの吸着等温線では直線性は得られず、Langmuirの吸着等温線で直線性が得られた。このことから、銀の吸着は、炭化物と活性炭では細孔による物理吸着であるが、RTD担持炭化物では、RTDによる化学吸着であると考えられる。またFreundlich、Langmuirの吸着等温線より200 mesh以下の炭化物は活性炭よりも銀の吸着能に優れていることが明らかとなった。
【0029】
図11は、バッチ式による写真廃液からの銀の除去結果を示す。
活性炭等の添加量等は下記のとおりである。
活性炭、炭化物:添加量300 mg
RTD溶液(18.16 %):添加量0.1mL
RTD担持炭化物(200 mesh以下):添加量100, 150 mg、RTD担持率23.3 wt%
写真廃液:溶液量10 mL; 銀濃度3000 ppm
反応時間:30 min.
RTD担持炭化物(RTD担持率23.3wt%)では添加量100mgでは銀の残留濃度は170ppmであったが、添加量150 mgでは銀の残留濃度が3ppmまで減少した。この結果から、RTD担持炭化物によって、実際産業界で排出される写真廃液から銀を除去することができた。
【0030】
図12は、バッチ式によるPtモデル廃液からのPtの除去率を示す。図12は、バッチ式による原子吸光用白金標準液(和光純薬工業(株)製)を用いてPtモデル廃液(初期濃度:100ppm)を10mL調製し、RTD担持率0wt%、10wt%、20wt%、30wt%の炭化物(200mesh以下)0.01g、0.02g、0.05gを添加して、Ptの除去率を測定した結果を示す。未坦持炭化物は0.01g、0.02gではPtの除去率は0%であり、0.05gを用いてもPtの除去率は45%であつた。RTD担持率10wt%炭化物0.05gを添加した場合、Ptの除去率は100%であった。原子吸光用白金標準液 和光純薬工業(株)製を用いてPtモデル廃液を調製した溶液からもPtがRTD担持炭化物で吸着できることが明らかとなった。
【0031】
<カラム式RTD担持炭化物の吸着特性>
乾燥したRTD担持炭化物を内径1 cmのカラム管に充填しポンプを用いて、銀濃度500ppmでpH5の硝酸銀水溶液を通液した。
【0032】
図13は、RTD担持率の異なるRTD担持炭化物を充填したカラムを用いた場合の銀イオンの破過曲線を示す。
RTD担持炭化物の充填量等は下記のとおりである。
RTD担持炭化物:充填量0.5g、RTD担持率0-74.3wt%
硝酸銀水溶液:銀濃度500ppm、pH5
流速:1mL/min.
接触時間:2min.
カラム長:20mm
炭化物等の吸着剤に銀イオンを吸着させた場合に、ある負荷量を超えると吸着剤出口の濃度が次第に増大する。この現象を吸着剤の破過現象といい、破過が始まる時点を破過点という。実用上はこの時点で吸着操作は終了となる。RTD未担持炭化物及び活性炭によるカラム実験では硝酸銀水溶液の透過直後に破過が見られたが、RTD担持炭化物では破過が開始するまでに銀の残留濃度1ppm以下を維持しつつ処理できる溶液量は、RTD担持率の増大とともに増加した。
【0033】
図14は、流速の違いによる銀イオンの破過曲線の変化を示す。
RTD担持炭化物の充填量等は下記のとおりである。
RTD担持炭化物:充填量0.5 g、RTD担持率23.3 wt%
硝酸銀水溶液:銀濃度500ppm、pH5
接触時間:2min.、 40sec
カラム長:20mm
流速1mL/min.(接触時間2min.)と流速3mL/min.(接触時間40sec.)では破過の開始がともに硝酸銀水溶液が200 mL通液後であった。この結果より、カラム式においては接触時間40秒で十分な銀の除去が可能であり、接触時間を2分に延長しても銀の吸着除去効率は変わらないことから、迅速な銀の除去が可能であることが示された。
【0034】
図15は、銀イオン吸着除去後の複合体のSEM像とEDX元素マッピングを示す。カラムに使用したRTD担持炭化物はSが分布しているところにのみAgの分布が見られる。この結果から炭化物の細孔に吸着することによって銀が除去されたのではなく、RTDと反応することによって銀が除去されたことがわかる。
【0035】
表2に、EDX元素分析結果を示す。
RTD坦持炭化物はSが100%であることからRTDが炭化物に吸着していることがわかる。銀イオン吸着除去後のカラム使用炭化物ではSが47.4at%、Agが52.6at%からRTD1molに対して、Agが3mol吸着していることがわかる。そして、カラム流出物はカラム内の炭化物から脱離した粉末であるが、これは、RTDとAgが反応した化合物であることがわかる。
【表2】
【0036】
<加圧カラム式RTD担持炭化物の吸着特性>
図18に、加圧式RTD担持炭化物カラム吸着装置の例を示す。図18に示す装置は、上段の2本の横向きRTD担持炭化物カラム11,12、下段に2本の縦向きRTD担持炭化物カラム13,14、そして送液ポンプ15、流出量調整器18を装備している。ビーカー16内の硝酸銀水溶液は送液ポンプによって上段の横向きカラム11,12に送液され、下段に2本の縦向きRTD担持炭化物カラム13,14を通過して、カラム13,14内で銀イオンが吸着し、銀イオンを除去した溶液がビーカー17に排出される。
加圧式カラム吸着装置に複合体を充填してAgならびにPtの代表的なモデル廃液ならびに実廃液について試験を行った。
【0037】
図16は、加圧式カラム吸着装置による銀イオンの破過曲線を示す。
RTD担持炭化物の充填量等は下記のとおりである。
RTD担持炭化物(200 mesh以下):充填量5.0g、RTD担持率23.3、41.5wt%
トラップ用炭化物(200 mesh以下):充填量10.0g
硝酸銀水溶液:銀濃度500 ppm、pH 5
流速:10mL/min.
接触時間:2 min.
【0038】
加圧式カラムにおいては担持率23.3 wt%及び41.5wt%のRTD担持炭化物では破過開始までに処理可能な液量はともに500 mLであり、RTD担持率による違いは得られなかった。またRTD担持率41.5wt%においてはトラップをすることで破過開始までに処理できる液量は増加したが、23.3 wt%においては変わらなかった。
【0039】
図17は、加圧カラム式による実際産業界で廃棄処理される写真廃液中の銀イオンの破過曲線を示す。
RTD担持炭化物の充填量等は下記のとおりである。
RTD担持炭化物(200 mesh以下):充填量5.0g、RTD担持率23.3wt%
トラップ用炭化物(200 mesh以下) :充填量10g
写真廃液:銀濃度3000 ppm
流速:10mL/min.
接触時間:2 min.
カラム長さ:RTD担持炭化物8 mm、トラップ用炭化物12mm
【0040】
図17に示すように、破過開始までに処理可能な溶液量は500 mLであった。同図に示すように、「加圧式RTD担持炭化物カラム吸着装置」を用いて、写真廃液から銀を除去することができた。
【0041】
[吸着後複合体からの金属イオン回収]
RTDと金属イオン(AgならびにPt)の塩を調製し、これをアルカリ水溶液中に添加して変化を調べたところ、溶解性が低いことが明らかとなった。また、水溶性のアルコールやアセトンならびに水—アルコール混合系で同様の処理を行ったが、ほぼ同様の結果であった。
そこで、焼却法による金属回収について試験を行った。焼却温度550〜1000℃、空気、窒素雰囲気、燃焼時間0.5〜2 hの条件では、焼却後と焼却前の重量比は、銀吸着したRTD担持炭化物では0.19〜0.22、RTDでは0.63〜0.70であった。この結果から、RTDと木質炭化物は燃焼灰化するが、AgならびにPtはともに焼却により粗金属状態で回収できることが明らかとなった。すなわち、担体として用いた炭化物の炭素が金属イオンの還元剤として作用し、直接粗金属として回収できる新たな方法を見出すことができた。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】粉炭のSEM像を示す。
【図2】RTD担持炭化物の調製方法と、調製したRTD担持炭化物の評価方法を示す。
【図3】RTD担持処理前の炭化物分散溶液と担持処理後の分散溶液を示す。
【図4】乾燥後のRTD担持炭化物を示す。
【図5】MP法によるマイクロ孔分布解析を示す。
【図6】BJH法によるメソ孔分布解析を示す。
【図7】炭化物とRTD担持炭化物のSEM像を示す。
【図8】活性炭とRTD担持活性炭のSEM像を示す。
【図9】Freundlichの吸着等温線を示す。
【図10】Langmuirの吸着等温線を示す。
【図11】バッチ式による写真廃液からの銀の除去結果を示す。
【図12】バッチ式によるPtモデル廃液からのPtの除去率を示す。
【図13】RTD担持率の異なるRTD担持炭化物を充填したカラムを用いた場合の銀イオンの破過曲線を示す。
【図14】流速の違いによる銀イオンの破過曲線の変化を示す。
【図15】銀イオン吸着除去後の複合体のSEM像とEDX元素マッピングを示す。
【図16】加圧式カラム吸着装置による銀イオンの破過曲線を示す。
【図17】加圧カラム式による実際産業界で廃棄処理される写真廃液中の銀イオンの破過曲線を示す。
【図18】加圧式RTD担持炭化物カラム吸着装置の例を示す。
【符号の説明】
【0043】
11,12,13,14 RTD担持炭化物カラム
15 送液ポンプ
16,17 ビーカー
18 流出量調整器
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリアジンチオールを担持する炭化物、トリアジンチオールを担持する炭化物を製造する方法、トリアジンチオールを担持する炭化物に金属イオンを吸着させる方法、及びトリアジンチオールを担持する炭化物を用いて金属を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全や資源リサイクルへの意識が高まる中、工場などから出る廃液中に含まれる金属の除去や金属の回収が重要になってきている。
金属イオンの吸着・回収については、各種産業から排出される廃液(化学工業における廃触媒、半導体産業における金属エッチング廃液、医薬施設における写真廃液など)からの金属の回収が主対象であるが、そのほかに産業有害排水の無害化にも関連し、省資源・資源リサイクル・環境保全の立場から重要な技術となっている。金属イオンの捕集には、イオン交換法、吸着法、共沈法、膜分離法、溶媒抽出法などが知られている。しかし、いずれも使用範囲に限度があり、使用薬剤・材料の価格や後処理・回収工程の必要性、あるいはシステムの経済性を考えると新たな高性能材料の創製と効率的なシステム技術の開発が望まれている。
【0003】
例えば、金属のうち、銀金属を回収する技術として、メルカプト−s−トリアジン沈殿法により銀回収コストを低減する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−1726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トリアジンチオール(以下、適宜「RTD」と記す。)は、金属除去剤、金属表面処理剤、ポリマー架橋剤として利用可能である。しかし、トリアジンチオールを金属除去剤として利用する場合、次のような課題がある。第1の課題は、トリアジンチオールの使用量が多い、というものである。第2の課題は、金属イオンと反応するトリアジンチオールは微細な粒子であるため、金属イオンと反応した後のトリアジンチオールを廃液から十分に分離できない、というものである。
【0005】
活性炭は、排水処理、貴金属回収、空気浄化、触媒として利用可能である。しかし、活性炭処理は高度な技術を要するためコストがかかるという課題がある。また、木質炭化物も排水処理等に利用可能であるが、活性炭と比較して、金属捕集力が小さいという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の特徴は、トリアジンチオール担持炭化物であって、木質原料から得られる炭化物表面の細孔内に化1で示されるトリアジンチオールを担持することにある。
【化1】
【0007】
本発明の第2の特徴は、トリアジンチオール担持炭化物の製造方法であって、炭化物を水中に分散させ、炭化物を分散させた溶液のpHを酸性に維持しつつ、前記溶液へ化1で示されるトリアジンチオールのナトリウム塩溶液を滴下し、滴下終了後、トリアジンチオールを担持した炭化物を溶液から分離し、乾燥することにある。
【0008】
本発明の第3の特徴は、金属イオン吸着方法であって、第1の特徴を具備するトリアジンチオール担持炭化物に金属イオン含有液を接触させることにある。
【0009】
本発明の第4の特徴は、金属回収方法であって、第1の特徴を具備するトリアジンチオール担持炭化物に金属イオン含有液を接触させて、金属イオンを吸着させた後に、金属イオンを吸着させたトリアジンチオール担持炭化物を550〜1000℃で燃焼灰化させることにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、トリアジンチオール担持炭化物を製造することができ、このトリアジンチオール担持炭化物によって、低コストで効率よく、工場などから出る廃液中に含まれる金属の除去や金属の回収が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、以下の説明は、単なる例示に過ぎず、本発明の技術的範囲は以下の説明に限定されるものではない。
【0012】
[トリアジンチオール担持炭化物の調製]
トリアジンチオール(1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール:RTD)は塩基性溶液中ではそのナトリウム塩として溶解し、酸性溶液中ではRTDとして析出することから、RTDの塩基性溶液を、炭化物が分散した酸性溶液中に滴下することで、溶液中でRTDを炭化物表面に酸析させた。
ここで、RTDのナトリウム塩は、一ナトリウム塩、二ナトリウム塩、三ナトリウム塩又はこれらの混合物であってもよいが、好ましくは、三ナトリウム塩を多く含んだ方がよい。
【0013】
[実験試料]
RTD担持炭化物の調製には、以下の1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール・三ナトリウム塩水溶液、炭化物、塩酸、水酸化ナトリウムを用いた。
化2で示される1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール・三ナトリウム塩水溶液(18.16 wt%) (三協化成株式会社製) MW:243.3
【化2】
杉間伐材炭化物(グリーンリサイクル社製) 粒径(mesh) 12-14、20-32、60-80、100-115、200以下(12-14 meshとは、12-14のmeshを通して得られた炭化物を意味する。以下同じ。)
塩酸 HCl 和光純薬工業株式会社製 特級 MW:36.47
水酸化ナトリウム NaOH 和光純薬工業株式会社製 特級 MW:40.00
【0014】
[RTD担持炭化物の調製方法]
<RTD溶液の調製>
RTD溶液は1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール・三ナトリウム塩水溶液(18.16 wt%)を調製して用いた。調製方法はメスフラスコに1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール・三ナトリウム塩水溶液を適量加え、蒸留水で50 mLに希釈して行った。加えた1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール・三ナトリウム塩水溶液の量は、数1で求められるRTD担持率が炭化物1gのときにそれぞれ10、20、30、40、50、60、70および80wt%になる量とした。
調製したRTD溶液は、それぞれ理論担持率(10-80 wt%)のRTD溶液と表記する。
【数1】
【0015】
<炭化物の調製>
木材材料としては、岩手県で伐採された針葉樹のスギを用いた。
(1)多孔性でかつ
(2)金属イオンを捕集する能力を持っているRTDと表面的になじみがよい
という炭化物を製造するための条件は、針葉樹のスギを用い、炭化温度800℃であった。RTD担持用炭化物は炭化温度を800℃で、粒径サイズを粗粒炭化物、粉炭(微粒子炭化物)の2種類で製造した。粗粒炭化物、粉炭(微粒子炭化物)は105℃で24時間乾燥させた炭化物をミキサーで磨り潰し、金網ふるいを用いて各サイズの粒径にふるい分けを行い、105℃で24時間乾燥させて用いた。図1に粉炭(微粒子炭化物)のSEM像を示す。
【0016】
<RTD担持炭化物の調製>
前記の炭化物(粒径12-14 mesh、20-32mesh、60-80 mesh、100-115mesh、200 mesh以下)、各1 gを蒸留水50 mL中に分散させた。炭化物を分散させた溶液のpHを測定しながらpH2になるように0.1M-HClを滴下した。溶液のpHが2を示したら、前記の方法で調製した各濃度のRTD溶液(50 mL)を2 mL/min.の速度で、炭化物を分散させた溶液中に滴下を行った。RTD溶液滴下中はpHの上昇を防ぐため0.1M-HClを滴下しpHが2を維持するように調整を行った。滴下終了後、炭化物と溶液の固液分離を行った。固液分離にはろ紙つきロートを用い、ろ紙には東洋濾紙株式会社製(直径15cm、No.5A)を用いた。また、RTD溶液を滴下中に溶液内でRTDが析出した場合は、RTDが析出した時点で滴下を終了し、金網ふるい(12-14 mesh、20-32 mesh、60-80 mesh、100-115 mesh、200 mesh)を用いて、炭化物と溶液・析出したRTDを分離した。固液分離後、105℃で24時間乾燥を行うことでRTD担持炭化物の調製を行った。また上記の方法を用い、比較試料としてセラケム株式会社製の活性炭(活性炭富士 雪A:粒径 80-100 mesh)へのRTDの担持を行った。
【0017】
[RTD担持炭化物の評価]
<RTD担持率の測定>
RTD担持率の測定方法は前記の<RTD担持炭化物の調製>における固液分離後、液相中のRTD残留濃度を全有機炭素計(島津製作所製 TOC-5000)により測定し、数2によりRTD残留濃度からRTD担持率を求めた。
また、RTD溶液滴下中にRTDが析出した場合は液相にNaOHを加え、一度RTDを溶解し、再び酸性化しTOC(全有機体炭素)測定値から残留RTD量を求めた。
【数2】
【0018】
<RTD担持炭化物の物性評価方法>
乾燥したRTD担持炭化物の物性評価は細孔分布測定により行い、比較として未担持の炭化物の細孔分布測定も行った。
細孔分布測定はRTD担持炭化物と炭化物をそれぞれ105℃で24時間乾燥させ、3時間減圧乾燥した。RTD担持炭化物と炭化物をそれぞれ0.6 g取り、窒素気流下120℃で3時間脱気し、室温まで冷却後に自動比表面積を細孔分布測定装置(日本ベル株式会社製 BELSORP-mini)により測定した。各細孔の評価は、MP法によりマイクロ孔分布を評価し、BJH法によりメソ孔分布の評価を行った。また、RTD担持炭化物の表面を観測するため、走査型電子顕微鏡(日立製作所製 S-2250NII型:SEM)を使用した。
図2に、前記の<RTD担持炭化物の調製方法>と、調製したRTD担持炭化物の評価方法を示す。
【0019】
[結果]
<RTD担持率>
表1に、各粒径の炭化物におけるRTD担持率を示す。粒径12-14 mesh、20-32 mesh、60-80 meshでは理論担持率10 wt%相当のRTD溶液を滴下中に黄色い析出物が見られたので、析出が見られた時点でRTD溶液の滴下を終了した。粒径100-115meshの理論担持率10 wt%、及び200mesh以下の理論担持率10-80 wt%のRTD担持条件下においてはRTD溶液50 mLを滴下した時点において溶液中へのRTDの析出はみられなかった。
【表1】
【0020】
<RTD担持処理前後の炭化物分散溶液>
図3に、RTD担持処理前の炭化物分散溶液と担持処理後の分散溶液を示す。処理前では溶液全体に炭化物が分散しているのに対し、RTD担持処理後では炭化物が沈殿していることが分かる。これは炭化物の多孔質にRTDが担持し、浮力が低下したためだと考えられる。
【0021】
<乾燥後のRTD担持炭化物>
図4は、乾燥後のRTD担持炭化物を示す。RTD担持率
6.0wt%から41.5 wt%においては表面上の変化は見られなかったが、50.5 wt%から74.3wt%においては表面が灰色に変色している。これはRTDが多孔質中に担持された後に、さらに木炭表面に担持しているためと示唆される。
【0022】
<細孔分布の測定結果>
図5は、MP法によるマイクロ孔分布解析を示す。横軸は細孔幅Dp(nm)を示し、縦軸は積算分布dVp/dDpを示す。
RTDを担持していない0wt%では0.6 nm付近にdVp/dDp=1205の大きなピークを示したが、RTD担持炭化物では全体的にマイクロ孔分布のピークは大きく減少する傾向が見られた。これはRTDがマイクロ孔に蓄積され、マイクロ孔が減少しているためと示唆される。
【0023】
図6は、BJH法によるメソ孔分布解析を示す。横軸は細孔半径Rp (nm)を示し、縦軸は細孔容積Vp (mm3/g) を示す。図6に示すように、RTDを担持していない0wt%では細孔半径が3nm以下のメソ孔が存在し、RTD担持炭化物では全体的にメソ孔分布のピークは大きく減少する傾向が見られ、3nm〜10nmのメソ孔分布が確認された。
RTDを担持していない0wt%では細孔半径が3nm以下のメソ孔が存在し、RTD担持炭化物では全体的にメソ孔分布のピークは大きく減少する傾向が見られ、3nm〜10nmのメソ孔分布が確認された。
【0024】
<SEM像の観測結果>
図7は、炭化物とRTD担持炭化物のSEM像を示す。0wt%(未担持)やRTD担持率23.3 wt%以下の比較的RTD担持率の低い範囲ではSEM写真において大きな変化は見られないが、RTD担持率33.2wt%ではわずかに表面上に変化が見られ、炭化物表面にわずかに担持物が見られ、さらにRTD担持率が41.5wt%、50.5 wt%と増加するにつれて炭化物表面への担持物の増加が見て取れRTD担持率62.9 wt%以上では炭化物表面が完全に担持物で覆われていることが観測できる。
【0025】
図8は、活性炭とRTD担持活性炭のSEM像を示す。図7と同様にRTD担持率が低い範囲では表面の変化は見られないが、RTD担持率47.8wt%以上では表面への担持物が観察された。
図7、8のSEM像に見られる担持物はRTDが析出したものであると思われ、RTD担持率が増大するにつれて炭化物表面へのRTDの担持が増加していると考えられる。
【0026】
[RTD担持炭化物の調製のまとめ]
1. 100 mesh以上の炭化物では6.8wt%以上の担持率のRTD担持炭化物は調製できなかった。
2. 200 mesh以下の炭化物ではRTDの量を調整することで、異なるRTD担持率のRTD担持炭化物の調製が可能であった。
3. 200 mesh以下のRTD担持炭化物では、RTDはマイクロ孔に担持され、さらにRTD担持率が高くなると炭化物表面へのRTDの担持が確認できた。
【0027】
[生成複合体による金属イオン吸着]
<バッチ式RTD担持炭化物の吸着特性>
RTD担持炭化物による硝酸銀水溶液からの銀除去をRTD担持率、RTD担持炭化物の添加量および硝酸銀水溶液の初期pH等の影響について検討した。
【0028】
図9はFreundlichの吸着等温線を示し、図10はLangmuirの吸着等温線を示す。Qeは平衡吸着量を、Ceは平衡濃度を示す。
図9及び図10のいずれについてもRTD担持炭化物等の大きさや添加量等は下記のとおりである。
RTD担持炭化物(200 mesh以下):添加量3mg、RTD担持率23.3wt%
炭化物(200mesh以下), 活性炭:添加量50mg
硝酸銀水溶液:溶液量10mL、銀濃度100〜500ppm、pH5
反応時間:3日
炭化物と活性炭ではFreundlich、Langmuirの吸着等温線それぞれにおいて直線性を示したが、RTD担持炭化物(RTD担持率 23.3 wt%)ではFreundlichの吸着等温線では直線性は得られず、Langmuirの吸着等温線で直線性が得られた。このことから、銀の吸着は、炭化物と活性炭では細孔による物理吸着であるが、RTD担持炭化物では、RTDによる化学吸着であると考えられる。またFreundlich、Langmuirの吸着等温線より200 mesh以下の炭化物は活性炭よりも銀の吸着能に優れていることが明らかとなった。
【0029】
図11は、バッチ式による写真廃液からの銀の除去結果を示す。
活性炭等の添加量等は下記のとおりである。
活性炭、炭化物:添加量300 mg
RTD溶液(18.16 %):添加量0.1mL
RTD担持炭化物(200 mesh以下):添加量100, 150 mg、RTD担持率23.3 wt%
写真廃液:溶液量10 mL; 銀濃度3000 ppm
反応時間:30 min.
RTD担持炭化物(RTD担持率23.3wt%)では添加量100mgでは銀の残留濃度は170ppmであったが、添加量150 mgでは銀の残留濃度が3ppmまで減少した。この結果から、RTD担持炭化物によって、実際産業界で排出される写真廃液から銀を除去することができた。
【0030】
図12は、バッチ式によるPtモデル廃液からのPtの除去率を示す。図12は、バッチ式による原子吸光用白金標準液(和光純薬工業(株)製)を用いてPtモデル廃液(初期濃度:100ppm)を10mL調製し、RTD担持率0wt%、10wt%、20wt%、30wt%の炭化物(200mesh以下)0.01g、0.02g、0.05gを添加して、Ptの除去率を測定した結果を示す。未坦持炭化物は0.01g、0.02gではPtの除去率は0%であり、0.05gを用いてもPtの除去率は45%であつた。RTD担持率10wt%炭化物0.05gを添加した場合、Ptの除去率は100%であった。原子吸光用白金標準液 和光純薬工業(株)製を用いてPtモデル廃液を調製した溶液からもPtがRTD担持炭化物で吸着できることが明らかとなった。
【0031】
<カラム式RTD担持炭化物の吸着特性>
乾燥したRTD担持炭化物を内径1 cmのカラム管に充填しポンプを用いて、銀濃度500ppmでpH5の硝酸銀水溶液を通液した。
【0032】
図13は、RTD担持率の異なるRTD担持炭化物を充填したカラムを用いた場合の銀イオンの破過曲線を示す。
RTD担持炭化物の充填量等は下記のとおりである。
RTD担持炭化物:充填量0.5g、RTD担持率0-74.3wt%
硝酸銀水溶液:銀濃度500ppm、pH5
流速:1mL/min.
接触時間:2min.
カラム長:20mm
炭化物等の吸着剤に銀イオンを吸着させた場合に、ある負荷量を超えると吸着剤出口の濃度が次第に増大する。この現象を吸着剤の破過現象といい、破過が始まる時点を破過点という。実用上はこの時点で吸着操作は終了となる。RTD未担持炭化物及び活性炭によるカラム実験では硝酸銀水溶液の透過直後に破過が見られたが、RTD担持炭化物では破過が開始するまでに銀の残留濃度1ppm以下を維持しつつ処理できる溶液量は、RTD担持率の増大とともに増加した。
【0033】
図14は、流速の違いによる銀イオンの破過曲線の変化を示す。
RTD担持炭化物の充填量等は下記のとおりである。
RTD担持炭化物:充填量0.5 g、RTD担持率23.3 wt%
硝酸銀水溶液:銀濃度500ppm、pH5
接触時間:2min.、 40sec
カラム長:20mm
流速1mL/min.(接触時間2min.)と流速3mL/min.(接触時間40sec.)では破過の開始がともに硝酸銀水溶液が200 mL通液後であった。この結果より、カラム式においては接触時間40秒で十分な銀の除去が可能であり、接触時間を2分に延長しても銀の吸着除去効率は変わらないことから、迅速な銀の除去が可能であることが示された。
【0034】
図15は、銀イオン吸着除去後の複合体のSEM像とEDX元素マッピングを示す。カラムに使用したRTD担持炭化物はSが分布しているところにのみAgの分布が見られる。この結果から炭化物の細孔に吸着することによって銀が除去されたのではなく、RTDと反応することによって銀が除去されたことがわかる。
【0035】
表2に、EDX元素分析結果を示す。
RTD坦持炭化物はSが100%であることからRTDが炭化物に吸着していることがわかる。銀イオン吸着除去後のカラム使用炭化物ではSが47.4at%、Agが52.6at%からRTD1molに対して、Agが3mol吸着していることがわかる。そして、カラム流出物はカラム内の炭化物から脱離した粉末であるが、これは、RTDとAgが反応した化合物であることがわかる。
【表2】
【0036】
<加圧カラム式RTD担持炭化物の吸着特性>
図18に、加圧式RTD担持炭化物カラム吸着装置の例を示す。図18に示す装置は、上段の2本の横向きRTD担持炭化物カラム11,12、下段に2本の縦向きRTD担持炭化物カラム13,14、そして送液ポンプ15、流出量調整器18を装備している。ビーカー16内の硝酸銀水溶液は送液ポンプによって上段の横向きカラム11,12に送液され、下段に2本の縦向きRTD担持炭化物カラム13,14を通過して、カラム13,14内で銀イオンが吸着し、銀イオンを除去した溶液がビーカー17に排出される。
加圧式カラム吸着装置に複合体を充填してAgならびにPtの代表的なモデル廃液ならびに実廃液について試験を行った。
【0037】
図16は、加圧式カラム吸着装置による銀イオンの破過曲線を示す。
RTD担持炭化物の充填量等は下記のとおりである。
RTD担持炭化物(200 mesh以下):充填量5.0g、RTD担持率23.3、41.5wt%
トラップ用炭化物(200 mesh以下):充填量10.0g
硝酸銀水溶液:銀濃度500 ppm、pH 5
流速:10mL/min.
接触時間:2 min.
【0038】
加圧式カラムにおいては担持率23.3 wt%及び41.5wt%のRTD担持炭化物では破過開始までに処理可能な液量はともに500 mLであり、RTD担持率による違いは得られなかった。またRTD担持率41.5wt%においてはトラップをすることで破過開始までに処理できる液量は増加したが、23.3 wt%においては変わらなかった。
【0039】
図17は、加圧カラム式による実際産業界で廃棄処理される写真廃液中の銀イオンの破過曲線を示す。
RTD担持炭化物の充填量等は下記のとおりである。
RTD担持炭化物(200 mesh以下):充填量5.0g、RTD担持率23.3wt%
トラップ用炭化物(200 mesh以下) :充填量10g
写真廃液:銀濃度3000 ppm
流速:10mL/min.
接触時間:2 min.
カラム長さ:RTD担持炭化物8 mm、トラップ用炭化物12mm
【0040】
図17に示すように、破過開始までに処理可能な溶液量は500 mLであった。同図に示すように、「加圧式RTD担持炭化物カラム吸着装置」を用いて、写真廃液から銀を除去することができた。
【0041】
[吸着後複合体からの金属イオン回収]
RTDと金属イオン(AgならびにPt)の塩を調製し、これをアルカリ水溶液中に添加して変化を調べたところ、溶解性が低いことが明らかとなった。また、水溶性のアルコールやアセトンならびに水—アルコール混合系で同様の処理を行ったが、ほぼ同様の結果であった。
そこで、焼却法による金属回収について試験を行った。焼却温度550〜1000℃、空気、窒素雰囲気、燃焼時間0.5〜2 hの条件では、焼却後と焼却前の重量比は、銀吸着したRTD担持炭化物では0.19〜0.22、RTDでは0.63〜0.70であった。この結果から、RTDと木質炭化物は燃焼灰化するが、AgならびにPtはともに焼却により粗金属状態で回収できることが明らかとなった。すなわち、担体として用いた炭化物の炭素が金属イオンの還元剤として作用し、直接粗金属として回収できる新たな方法を見出すことができた。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】粉炭のSEM像を示す。
【図2】RTD担持炭化物の調製方法と、調製したRTD担持炭化物の評価方法を示す。
【図3】RTD担持処理前の炭化物分散溶液と担持処理後の分散溶液を示す。
【図4】乾燥後のRTD担持炭化物を示す。
【図5】MP法によるマイクロ孔分布解析を示す。
【図6】BJH法によるメソ孔分布解析を示す。
【図7】炭化物とRTD担持炭化物のSEM像を示す。
【図8】活性炭とRTD担持活性炭のSEM像を示す。
【図9】Freundlichの吸着等温線を示す。
【図10】Langmuirの吸着等温線を示す。
【図11】バッチ式による写真廃液からの銀の除去結果を示す。
【図12】バッチ式によるPtモデル廃液からのPtの除去率を示す。
【図13】RTD担持率の異なるRTD担持炭化物を充填したカラムを用いた場合の銀イオンの破過曲線を示す。
【図14】流速の違いによる銀イオンの破過曲線の変化を示す。
【図15】銀イオン吸着除去後の複合体のSEM像とEDX元素マッピングを示す。
【図16】加圧式カラム吸着装置による銀イオンの破過曲線を示す。
【図17】加圧カラム式による実際産業界で廃棄処理される写真廃液中の銀イオンの破過曲線を示す。
【図18】加圧式RTD担持炭化物カラム吸着装置の例を示す。
【符号の説明】
【0043】
11,12,13,14 RTD担持炭化物カラム
15 送液ポンプ
16,17 ビーカー
18 流出量調整器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質原料から得られる炭化物表面の細孔内に化1で示されるトリアジンチオールを担持するトリアジンチオール担持炭化物。
【化1】
【請求項2】
炭化物を水中に分散させ、炭化物を分散させた溶液のpHを酸性に維持しつつ、前記溶液へ化1で示されるトリアジンチオールのナトリウム塩溶液を滴下し、滴下終了後、トリアジンチオールを担持した炭化物を溶液から分離し、乾燥することからなるトリアジンチオール担持炭化物の製造方法。
【化1】
【請求項3】
請求項1に記載のトリアジンチオール担持炭化物に金属イオン含有液を接触させ、金属イオンを吸着させる金属イオン吸着方法。
【請求項4】
請求項1に記載のトリアジンチオール担持炭化物に金属イオン含有液を接触させ、金属イオンを吸着させた後に、金属イオンを吸着させたトリアジンチオール担持炭化物を550〜1000℃で燃焼灰化させ、金属を回収する金属回収方法。
【請求項1】
木質原料から得られる炭化物表面の細孔内に化1で示されるトリアジンチオールを担持するトリアジンチオール担持炭化物。
【化1】
【請求項2】
炭化物を水中に分散させ、炭化物を分散させた溶液のpHを酸性に維持しつつ、前記溶液へ化1で示されるトリアジンチオールのナトリウム塩溶液を滴下し、滴下終了後、トリアジンチオールを担持した炭化物を溶液から分離し、乾燥することからなるトリアジンチオール担持炭化物の製造方法。
【化1】
【請求項3】
請求項1に記載のトリアジンチオール担持炭化物に金属イオン含有液を接触させ、金属イオンを吸着させる金属イオン吸着方法。
【請求項4】
請求項1に記載のトリアジンチオール担持炭化物に金属イオン含有液を接触させ、金属イオンを吸着させた後に、金属イオンを吸着させたトリアジンチオール担持炭化物を550〜1000℃で燃焼灰化させ、金属を回収する金属回収方法。
【図2】
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図18】
【図1】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図15】
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図18】
【図1】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図15】
【公開番号】特開2008−189946(P2008−189946A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22232(P2007−22232)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(504165591)国立大学法人岩手大学 (222)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(504165591)国立大学法人岩手大学 (222)
【Fターム(参考)】
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