説明

トリアミノテトラカルボキシルサッカリド化合物を配位子とした生物活性常磁性を有する金属錯塩

【課題】
生物活性を有する金属錯塩を与えるトリアミノテトラカルボキシルサッカリド化合物を提供すること。
【解決手段】
下記式のトリアミノテトラカルボキシルサッカリド化合物。
【化1】


(式中、
1 =−(CH2 n − n=2
2 =−(CH2 m − m=3
3 =−(CH2 X − x=2
4 =ガラクトピラノース)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリアミノテトラカルボキシルサッカリド化合物、および中心金属イオンと反応して合成された常磁性を有する金属錯塩に関する。本発明は特に、この種類の常磁性金属錯塩を利用して磁気共鳴造影剤とすることに関する。
【背景技術】
【0002】
文献には、ガドリニウム金属錯塩を高分子量の物質に結合させる方法が多く記載されている。その中で、非特許文献1は、アシル化反応、アルキレーション反応、ウレア形成法およびアミノ化による還元などの方法を比較的常用される方法として開示している。
【0003】
本発明者はかつて、3,6,9−トリアザウンデカン二酸3,6,9−トリス(カルボキシメチル)[DTPA]の誘導体、3,6,10−トリアザドデカン二酸3,6,10−トリス(カルボキシメチル)[TTDA]を合成し、それらの配位子の、ガドリニウムイオン(Gd3+)、亜鉛イオン(Zn2+)、カルシウムイオン(Ca2+)および銅イオン(Cu2+)などの金属錯塩についての物性および化学的性質を研究したところ、ガドリニウム−3,6,10−トリアザドデカン二酸3,6,10−トリス(カルボキシメチル)錯塩([Gd(TTDA)]2-1 )が、ガドリニウム−3,6,9−トリアザウンデカン二酸3,6,9−トリス(カルボキシメチル)錯塩([Gd(DTPA)]2-)よりもすぐれた物性および化学的性質を有することを示した。また、非特許文献2に記載されているように、この項の改良は、該錯塩に磁気共鳴造影剤としての潜在能力を備えさせた。
【0004】
近年、磁気共鳴画像法のソフトウエアとハードウエアの発展により映像学的診断が以前に比べて大幅に向上している。そしてより進んだ磁気共鳴画像法診断の感受性および正確性を向上させるために安全性と安定性の発展に目標を有する磁気共鳴造影剤が目下磁気共鳴画像法研究の重要な方向のひとつとなっている。一般の磁気共鳴造影剤に使用される金属イオンには、マンガンイオン(Mn2+)、鉄イオン(Fe3+)およびガドリニウムイオン(Gd3+)があり、その中でガドリニウムイオン(Gd3+)の使用が最も多く、このガドリニウムイオン(Gd3+)の磁気モーメントが最大なので、該金属イオンが体内に滞留するとその毒性も最大となる。したがって、有機配位子を利用して安定な錯塩を形成させることによりその毒性を抑制しなければならない。
【0005】
目下、アメリカ食品薬品管理局(FDA,Food and Drug Administration)に認可され、臨床の使用に供する静脈注射の磁気共鳴造影剤にはガドリニウム−3,6,9−トリアザウンデカン二酸3,6,9−トリス(カルボキシメチル)錯塩([Gd(DTPA)]2-)、ガトテル酸メグルミン([Gd(DOTA)]-1)、[Gd(DTPA−BMA)]ビス−メチルアミドガドジアミド注入物、1,4,7−トリキス(カルボキシメチル)−10−(2−ヒドロキシルプロパン)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン、[Gd(HP−D03A)]ガドテリドール、加えて、マンガン、ジピリドキシル、ジホスファイト、MnDPDP、テスラスキャンなどの5種がある。この5種は細胞外造影剤であり、その中で、[Gd(DTPA−BMA)]および[Gd(HP−D03A)]は非イオン性造影剤、そして[Gd(DTPA)]2-、[Gd(DOTA)]- およびMnDPDPはイオン性造影剤である。[Gd(DOTA)]- および[Gd(Hp−D03A)]は大環構造(macrocyclic)を有し、そしてMnDPDP、[Gd(DTPA)2-]および[Gd(DTPA−BMA)]は直鎖構造である。本発明は直鎖構造を有し、かつ生物活性を有する金属錯塩を発展させて磁気共鳴造影剤とするものである。
【非特許文献1】Brinkley,Mら、1992年Bioconjugate Chem.第3巻第2ページ
【非特許文献2】Wang Y.Mら、1998年J.Chem.Soc.,Dalton Trans 第4113〜4118ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はトリアミノテトラカルボキシルサッカリド化合物に関し、かつ、この化合物を用いて中心金属イオンと反応させて合成された、生物活性を有する金属錯塩に関する。特に、本発明は、この種類の常磁性金属錯塩を利用して磁気共鳴画像法の造影剤とすることに関する。
【0007】
磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging,MRI)技術の速やかな発展により、近年ではすでに疾病診断の重要技術の1つとなり、そして一歩進んで磁気共鳴画像法診断の感受性および正確性を向上させるために、安全性、安定性の発展に目標を有する磁気共鳴造影剤が目下磁気共鳴画像法の研究の重要な方向となっている。したがって、本技術に必要な造影剤の研究も主要な積極的発展の対象となっている。
【0008】
新しい磁気共鳴造影用の造影剤を設計する場合、金属錯塩の安定性は重要な考慮要素であり、造影剤金属錯塩の生物体内における安定性は、それが体外に排出される前に体内に滞留した時間の安定性を意味する。Cacherisらは1990年Magn.Reson.Imag.,第8巻第467ページ中に、ガドリニウム金属錯塩の生物体内における安定性は次の3種の要素を考慮しなければならないと開示している。即ち:(1)ガドリニウム金属錯塩の熱力学安定定数、すなわち有機配位子が完全に脱陽子化された状態下でのガドリニウム金属イオンとの親和力;(2)ガドリニウム錯塩の条件化安定定数、すなわちガドリニウム錯塩の生物体内における生理的pH条件下での安定定数;(3)有機配位子のガドリニウム金属イオンに対する選択定数。生物体内にはカルシウム、亜鉛、銅および鉄などの金属イオンが存在しているので、これらの金属イオンはガドリニウム金属イオンと互いに有機配位について競合し、有機配位子のガドリニウム金属イオンに対する選択性が比較的劣る場合であれば、金属イオンはガドリニウム金属錯塩中から解離する可能性がある。
【0009】
金属錯塩の弛緩率も磁気共鳴造影剤にとって必要な条件の1つである。一般に、弛緩率に影響する要素は次の式(1)で表される。
【数1】

【0010】
その中のqは内層水分子(inner space water molecule)数、μeff は金属イオンの有効磁気モーメント(ガドリニウム金属錯塩に対するμeff =0.94Bohr Magneton、例えばCotton,F.A.W.らが1982年Advanced Inorganic Chemistry(ニューヨーク:Wiley.)第4巻第23章に開示した)、τc は固定磁界下における常磁性物質の関連時間、γは金属イオンから内層水分子の陽子までの距離(γ=2.50±0.04Å、水酸化ガドリニウム(Gd3+(OH)2 )系統に対して;Schauer C.K.A.らが1989年J.Chem.Soc.Dalton Trans第185ページ中に開示した)。相似官能基を有するガドリニウム金属錯塩に対して言えば、μeff およびγ値は定数とみなすことができるのでq値およびτc は弛緩率に影響する主要要素である。
【0011】
関連時間(τc )は主として次の3要素の影響を受ける。(1)分子回転関連時間(molecular rotational correlation time,τr );(2)電子縦方向および横方向スピン弛緩時間(electron longitudinal and transverse spin relaxation time,T1,2e);(3)内層水分子存在時間またはその交換速度(water residence lifetime or exchange rate,τm -1=κex)。例えば、Toth,E.B.,L.らは2001年Coord.Chem.Rev.第216〜217巻第363ページに次の関係式(2)を開示した。
【0012】
τc =τr -1+Tie-1+τm -1 i=1,2 (2)
関連時間τc の値が陽子ラム(Larmor)周波数の逆数の値に等しいとき、その弛緩率は極大値に達するようになる。したがって、磁界が0.5T(21MHz、 1H 周波数)の場合、τc の最適値は7.4ns、そして磁界が1.5T(64.5MHz)の場合、τc の最適値は2.5nsと推定することができる。Luz Z.M.らは1964年Chem. Phys.第40巻第2686ページ中に、縦方向弛緩率は主として結合溶媒分子の縦方向弛緩時間(longitudinal relaxation of bound solvent molecule,T1m)およびτm と関係することを開示した。その関係は次の式(3)に表される。
【0013】
γ1 =1/T1 =qPm /(T1m+Tm ) (3)
式中、Pm は結合溶媒分子のモル分率である。この公式から、もし水分子の交換速度が非常に速い、つまりτm <<Timである場合、γ1 は主として結合溶媒分子の弛緩率(1/T1m)と関係することがわかる。しかしながら、τm 値が非常に短いと、T1mはτm の影響を受けるので、τm 値を無制限に短縮してもその弛緩率をそれに応じて高くさせることができない。Caravan,P.E.らは、1999年Chem Rev.第99巻第2293ページ中に、模擬的にq=1およびγ=3.1Åの条件下において、T1e、τr およびτm は2つの臨床上最も常用される磁界(0.5Tおよび1.5T)下で弛緩率に影響を及ぼし、その結果τm の理論的最適値は10nsと推定できると開示した。
【0014】
一般に、磁界の増加はそのT1eを増加させ、Caravan,P.E.らにより1999年Chem Rev.第99巻第2293ページ中に開示された研究では、磁界強度0.5下においてはその弛緩率に対して非常に大きな影響があるが、磁界1.5Tにおいてはその弛緩率に対してはっきりした影響がなく、つまり比較的高い磁界下においては弛緩率はτr およびτm のみの影響を受けることを発見した。目下、あらゆる市販の磁気共鳴造影剤では、その縦方向弛緩率はいずれも理論最高値と大きな差で離れており、これは主としてこれら造影剤の分子回転があまりにも高速であることに起因する。
【0015】
Micskei K.H.らは、1993年Inorg. Chem.第32巻第3844ページに、含水ガドリニウム−3,6,9−トリアザウンデカン二酸3,6,9−トリス(カルボキシメチル)錯塩([Gd(DTPA)(H2 O)]2-)のτm 値は303nsであって、τm の最適値よりもはるかに大きく、かつそのτr 値は59psであり、Laurent S. E.らが2000年にHelv.Chem.Acta第83巻第394ページに開示したように、τr の最適値よりもはるかに小さいので、目下この分野の科学者たちはいずれも積極的に高速水分子交換速度および低い回転速度を有する金属錯塩を探索し、金属錯塩の弛緩率(r1 )を高め得るように努力していることを開示した。
【0016】
新世代の磁気共鳴造影剤は、低分子量の金属錯塩、例えば、Brasch R.C.が1991年Magan.Reson.Med.第22巻第282ページに開示したガドリニウム−3,6,9−トリアザウンデカンジオイック酸3,6,9−トリス(カルボキシメチル)錯塩([Gd(DTPA)]2-)またはガドテル酸メクルミン錯塩([Gd(DOTA)]- )を、生物物理学的および薬理学的特性を改変できるように、高分子量の物質と共役させている。生物物理学の観点から、小分子のガドリニウム金属錯塩がもし高分子物質と共役すれば、分子全体の旋回を遅くさせ、弛緩率を増加させることができる。またほかに、もし金属錯塩を組織に特異的な標的の部分(tissue−specific targeting moieties)と共役させることができれば、この高分子の結合対象は、多くのキャリアを介してガドリニウム金属錯塩を低濃度のレセプターに送り、レセプターを核磁気共鳴下において現像させるようにできる。この他に、高分子量の結合対象は分子が比較的大きいので、血管中に比較的長時間停留でき、血池造影に適切に用いられる。
【0017】
1985年当時、科学者たちは造影剤分子旋回の速度を努めて降下させて弛緩率を増加させることを開始し、例えば、Lauffer R.B.らは1987年Chem.Rev.第87巻第901ページ、およびAime S.A.らは1992年Inorg.Chem第31巻第2422ページ中に、含ベンゼン環またはヒドロキシ基が比較的多い巨大官能基を利用して、1,4,7,10−テトラキス(カルボキシメチル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン(DOTA)構造の中のカルボキシル基に取って代わり、それをガドリニウムイオン(Gd3+)と結合させて金属錯塩を形成させることを開示した。そのγ1 値はそれぞれ4.03、4.33、4.49および5.19mM-1-1であり、いずれもガドリニウム−1,4,7,10−テトラキス(カルボキシメチル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン([Gd(DOTA)]- 、3.56mM-1-1)よりも高い。この結果から、有機配位子の分子量が大きければ大きいほど、そのτr 値が増加して該γ1 値を上昇させることがわかる。
【0018】
文献にはガドリニウム金属錯塩を高分子量の物質に結合させる方法が数多く記載されている。例えば、Brinkley M.は、1992年Bioconjugate Chem.第3巻第2ページ中に、比較的常用される方法として、アシル化反応、アルキル化反応、ウレア形成方法およびアミノ化による還元などの方法を開示している。目下、文献において高分子量物質と結合する最も常用される試薬は、3,6,9−トリアザウンデカンジオイック酸3,6,9−トリス(カルボキシメチル)[DTPA]自体またはその誘導体、およびDTPA−ジアンヒドリドが含まれる。高分子量物質の1級アミンを利用して3,6,9−トリアザウンデカン二酸3,6,9−トリス(カルボキシメチル)[DTPA]自体またはその誘導体もしくはDTPA−ジアンヒドリドと反応させ、アミド結合を形成させることにより、有機配位子を高分子量物質と結合させることができる。Sieving P.F.W.らは、1990年Bioconjugate Chem.第1巻第65ページに、さまざまの分子量のポリリシンを利用してDTPA−ジアンヒドリドおよびDTPAの誘導体と反応させることを開示した。しかしながら、DTPA−ジアンヒドリドを利用してたんぱく質と結合させると容易に架橋の状況が発生するので、Spanoghe M.L.らは1992年Magn.Reson.Imaging第10巻第913ページに、N−ヒドロキシスクシンイミドを利用してDTPAと反応させてN−ヒドロキシコハク酸エステルを形成させると、架橋の状況を回避できると開示した。DTPA−(N−ヒドロキシコハク酸エステル)は、たんぱく質と共有結合を形成するばかりでなく、Paxton R.J.J.らが1985年Cancer Res.第45巻第5694ページに開示したように、さらにDTPA−(N−ヒドロキシコハク酸エステル)を利用してモノクローナル抗体と共有結合を形成し、キャリアにより対比剤を抗がん腫胚芽(anticarcinoma embryo)の抗原上に載置することができる。ところが、この合成方法はアミド結合を形成させる、つまりこの有機配位子とガドリニウム金属イオンとの結合能力を弱めてしまう。この問題を解決するために、Aime S.B.らは、1999年Bioconjugate Chem.第10巻192ページに、3,4−ジエトキシシクロブタン−3−エン−1,2−ジケトン(スクアレート)をリンカーとして1,4,7−トリキス(カルボキシメチル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン[D03A]をたんぱく質と、共有結合を形成させ、その金属錯塩の安定性を増幅できるように所望するとともに、たんぱく質と共有結合させることにより特殊生物活性を有する効果を達成することを開示している。
【0019】
大部分の磁気共鳴造影剤は病巣(例えば受容体または抗原)の濃度をナノモル並みの量に目標化でき、この濃度は、受容体誘発磁化量増加(receptor−induced magnetization enhancement,RIME)状況での運用において、磁気共鳴造影方面では低すぎるので、近年来科学者たちは、連続酵素群を利用してガドリニウム金属錯塩を活性化させている。この方法は弛緩率を増加できるほか、さらに目標位置−背景値(target−to−background)の比値を向上させることができる。Moats R.A.F.らは1997年Chem.Int.Engl.第36巻第726ページに、大環状有機配位子の中の一官能基をガラクトピラノースに接合させて4,7,10−トリ(酢酸)−1−(2−β−ガラクトピラノシルエトキシ)−1,4,7,10−(テトラアザシクロドデカン)(ガドリニウム(III)[EGad])を合成し、この場合、EGadは9配位子の形式でガドリニウム金属イオンと結合するのでEGadの内層分子数は0.7となり、このEGadが生物体に入ってβ−ガラクトシダーゼ酵素[β−gal]に遭遇すると、EGadのガラクトピラノース結合水を解離させることができるとともに、1.2個の内層水分子をリンクさせて、その磁気共鳴造影信号を増幅させると開示している。
【0020】
Nivorozhkin A.L.K.らは、2001年Angew.Chem.Int.Ed.第15巻第2903ページに、受容体誘発磁化量増加亢進化合物(Pro−RIME)を合成し、この試薬は主として4部位、即ち、1)3分子リシンからなるマスキング基、2)HSA結合部位、3)グリシン結合部位および4)信号発生基より構成されていると開示している。その作用機構は、最外層のリシンが容易に一種のヒトカルボキシペプチダーゼB凝血繊維たんぱく質溶解阻害剤(thrombin activatable fibrinolysis inhibitor,TAFI)により分解されることにある。いったん三分子リシンが分解されると、露出した脂溶性芳香族はHSAと強力な結合力を生じ、比較的高い弛緩率を得る。
【0021】
本発明者はかつて、DTPAの誘導体TTDA(3,6,10−トリアザドデカン二酸3,6,10−トリ(カルボキシメチル)エステル)を合成して、この一配位子のガドリニウムイオン(Gd3+)、亜鉛イオン(Zn2+)、カルシウムイオン(Ca2+)および銅イオン(Cu2+)などに対する金属錯塩の物理的性質および化学的性質を研究したところ、[Gd(TTDA)]2-が[Gd(DTPA)]2-よりも良好な物理的性質および化学的性質を具備していることを示した。従って、磁気共鳴造影剤(例えば、Y.M.Wangらは1998年J.Chem.Soc.,Dalton Trans.第4113〜4118ページに開示した)としての潜在的効力を有する。
【0022】
したがって本発明者は、TTDAを基礎としてTTDAの誘導体(例えば、T.H.Chengらが2001年J.Chem.Soc.Dalton trans.第3357〜3366ページに開示した誘導体)を合成した。この研究において我々はTTDAのガドリニウム金属錯塩およびその誘導体がいずれも高速な内層水分子交換速度を有するとともに、そのτm 値はすでに最高弛緩率(γ1 )の理論的最適値に接近していることを発見した。この特性は小分子のガドリニウム金属錯塩の弛緩率に対して明らかな影響はないが、もしTTDAのガドリニウム金属錯塩を大分子の物質(例えばたんぱく質)と結合すれば、全体分子量の増大により、その分子旋回の関連時間を弛緩できるほか、TTDAガドリニウム金属錯塩が有する高速内層水分子交換速度の特性は弛緩率の増加に寄与することができる。したがって、本研究は、TTDAをガラクトピラノースと結合させて、生物活性を有するガドリニウム金属錯塩の配位子を合成するものである。上記動力学パラメータの探索を利用すると、これら化合物が生物活性を有する磁気共鳴対比剤としての必要条件を具備しているか否かが了解され、得られたデータは将来一歩進んで磁気共鳴画像法研究を行う上での根拠を提供することができる。
【0023】
本発明の主たる目的は、トリアミノテトラカルボキシルサッカリド化合物を提供することにある。
【0024】
本発明の次の目的は、磁気共鳴造影対比材用の常磁性を有する金属錯塩を提供することに有る。
【0025】
上記結論を総合すれば、生物活性を有し、かつ高安定性および高弛緩率を有する金属錯塩は近年の研究の重要点であり、現在にいたるまで、各分野ではなお継続してよりすぐれた磁気共鳴造影剤を探索している。したがって、本発明の目的は、新規のおよび潜在力がありかつ安定性が高い、生物活性を有する金属錯塩を合成して磁気共鳴造影剤とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の上記目的を達成するために、本発明は、下記の化学式(I)を有するトリアミノテトラカルボキシルサッカリド化合物を合成した。
【化5】

【0027】
式中、
1 =−(CH2 a −または−(CH2 a −X−(CH2 a −、式中、a=2〜4、
2 =−(CH2 b −または−(CH2 b −X−(CH2 b −、式中、b=2〜4、
3 =−(CH2 C −または−(CH2 c −X−(CH2 c −、式中、c=2〜4、
X=−O−または−S−、
4 =ガラクトピラノース、単糖類または多糖類。
【0028】
本発明は、また、磁気共鳴造影剤用とするための、常磁性を有する金属錯塩を提供する。この金属錯塩はMLの化学構造を有し、Mは中心金属イオンであって、ランタノイド系金属、マンガン、鉄、コバルト、銅、ニッケル、およびクロム金属イオンからなる群より選択され、そしてLは式(1)で示される有機配位子である。
【0029】
本発明の以下の実施例に示すように、本発明は以下のChart1.に示すトリアミノテトラカルボキシルガラクトピラノース化合物を合成した。
【化6】

【0030】
式中、
1 =−(CH2 )−n n=2
2 =−(CH2 )−m m=3
3 =−(CH2 )−x x=2
4 =ガラクトピラノース
本発明者は、合成されたトリアミノテトラカルボキシルガラクトピラノース化合物が以下の特性を有するものと思料する。
【0031】
1.ガドリニウム金属錯塩に対して比較的高い選択性を有する。
【0032】
2.酵素を利用することにより、ガドリニウム金属錯塩を活性化して、造影剤の目標位置における濃度を高める。
【0033】
3.ガラクトピラノースを含有させることにより目標とするガドリニウム錯塩の合成を達成する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明によるトリアミノテトラカルボキシルカラクトピラノース化合物は、配位子として金属イオンと配位して常磁性を有する金属錯塩を形成する。この常磁性金属錯塩は磁気共鳴造影剤とすることができ、かつMLの化学構造を有する。その中のMは中心金属イオンであって、ランタノイド系金属、マンガン、鉄、コバルト、銅、ニッケルおよびクロム金属イオンからなる群の中より選択され、そしてLは有機配位子であり上記式(1)に示された化学式を有する。
【0035】
金属イオンは、好適にはガドリニウム(+3価)、鉄(+3価)、またはマンガン(+2価)である。その中ではガドリニウム(+3価)がさらに好適である。
【0036】
図1を参照すると、化学式(1)のトリアミノテトラカルボキシルサッカリド化合物の合成方法において、0.11モルのガラクトース(D−ガラクトース,1)を採取し、無水ピリジンとともにフラスコ中に入れ、等圧管を用いて徐々に酢酸無水物を添加し、室温下で攪拌する。反応終了後、トリクロロメタンを添加して、順に脱イオン水などの液体で抽出し、有機層を収集する。この有機層にさらに硫酸ナトリウムを加えてろ過することにより、1,2,3,4,6−ペンタアセテート−D−ガラクトース,2を得た。
【0037】
0.06モルの1,2,3,4,6−ペンタアセテート−D−ガラクトース,2を採取し、氷酢酸とともにフラスコに入れる。等圧管を用いてゆっくり臭化水素(HBr)を添加し、室温下で攪拌反応後トリクロロメタンを加えて、順に脱イオン水で抽出して有機層を収集する。この有機層にさらに硫酸ナトリウムを添加し、ろ過抽出乾燥して、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を行い、生成物を収集して、2,3,4,6−アセト−α−D−ブロモガラクトピラノース,3を得た。
【0038】
2,3,4,6−アセト−α−D−ブロモガラクトピラノース,3および4Å分子ふるいを3首フラスコ中に入れ、真空中で抽出した後窒素ガスを注入する。適量のジクロロエタンを添加して溶剤とし、さらに2−ブロモエタノールを添加して5分間攪拌する。さらに炭酸銀を添加して室温下で反応させた後ろ過し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を行い、生成物2,3,4,6−アセト−1−エチルブロモガラクトピラノース,4を収集した。
【0039】
0.171モルのN−アミノエチル−1,3−プロパンジアミン,5をフラスコ中に入れ、シアノメタンを添加して、十分に混合した後、炭酸カリウムを加え、室温下で攪拌してさらにtert−ブチルブロモアセテート,6を添加し、加熱還流反応後ろ過して順に脱イオン水などの溶液で抽出し、有機層を収集した。そして抽出乾燥後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を行い、黄色油状物3,10−ジ(カルボキシメチル)−3,6,10−トリアザドデカンジオイック酸(テトラ)−tert−ブチルエステル,7を得た。
【0040】
3.13×10-3モルの3,10−ジ(カルボキシメチル)−3,6,10−トリアザドデカン二酸(テトラ)−tert−ブチルエステル,7をフラスコに入れて、シアノメタンに溶解し、テトラメチルグアニジンを添加して攪拌した後、さらに2,3,4,6−アセト−1−エチルブロモガラクトピラノース,4を加えて加熱還流する。しかる後、溶液を抽出乾燥して、順に脱イオン水などの溶液として抽出して有機層を収集し、さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を行い、黄色油状物を得た。これを円底フラスコ中に入れ、2N水酸化ナトリウムを添加して攪拌した後、陰イオン交換樹脂で精製を行い、トリアミノテトラカルボン酸ガラクトピラノース生成物を得た。
【0041】
0.18ミリモルのトリアミノテトラカルボキシルガラクトピラノース化合物(CGP)を0.27ミリモルの塩化ガドリニウムと混合した後、脱イオン水を添加して順に脱イオン水などの溶液として抽出する。即ち、脱イオン水およびエチルアセテートを使用して抽出するか、または脱イオン水およびトリクロロメタンを使用して抽出するか、もしくは脱イオン水、炭酸水素ナトリウムおよび飽和食塩水を用いて抽出するか、生成物の性質に応じて選択して使用する。溶液pHを段階的に調整する、即ち、まず溶液pHを8に調整した後、固体を析出状態にさせ、さらにpHを7に調整する。加熱還流反応後、溶液pHを段階的に調整してろ過し、溶液を注出して乾燥すると、無色結晶のジスプロシウムトリアミノテトラカルボキシルガラクトピラノース錯塩([Dy(CGP)]- )を析出させることができる。
【0042】
生物活性常磁性金属錯塩の評価
本発明の配位子トリアミノテトラカルボキシルサッカリド化合物は金属イオンと配位して生物活性を有する金属錯塩を形成することができる。この種類の生物活性を具備した金属錯塩は磁気共鳴造影剤とすることができる。
【0043】
内層水分子数の検討:17O−NMRを利用してジスプロシウム(DyIII)金属イオン誘導水17O核種の化学変位変化(d.i.s.)を測定し、ジスプロシウム(DyIII)錯塩度対d.i.s.の作図をすれば、式(9)に示されるように線形関係を得ることができる。
【0044】
d.i.s.=qΔ[Dy(配位子)n (H2 O)q ]/[H2 O] (9)
勾配はqΔ/[H2 O]であり、qは求める内層水分子数であり、ジスプロシウムトリアミノテトラカルボキシルガラクトピラノース錯塩[Dy(CGP)]-1と、β−ガラクトシダーゼ(β−gal)を添加して(図2)14日後得られた勾配は図3に示すようにそれぞれ−35.6ppm/mM(γ2 =0.9981)および−54.6ppm/mM(γ2 =0.9968)であり、そしてジスプロシウム(III)誘導17Oの勾配は−358.1ppm/mM(γ=0.9998)である。ジスプロシウム(III)水和物は8個の水分子を結合でき、かつ勾配と正比例関係をなすので、β−ガラクトシダーゼ(β−gal)と反応していないジスプロシウムトリアミノテトラカルボキシルガラクトピラノース錯塩([Dy(CGP)]- )およびβ−ガラクトシダーゼを添加して反応した14日後のプロシウムトリアミノテトラカルボキシルガラクトピラノース錯塩([Dy(CGP)]- )のq値はそれぞれ0.8および1.2を得ることができ、このq値の増加により、図3に示すように、その磁気共鳴造影信号を増強させる。
【0045】
高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)による分析:ガドリニウムトリアミノテトラカルボキシルガラクトピラノース錯塩([Gd(CGP)]- )にβ−ガラクトシダーゼを添加して37±0.1℃の下で反応させ、それぞれ0日および5日後、高性能液体クロマトグラフィーを利用して酵素添加前後のガドリニウムトリアミノテトラカルボキシルガラクトピラノース錯塩([Gd(CGP)]- )を分析した。図4は経時的に高性能液体クロマトグラフィーにより分析されたスペクトログラムである。
【0046】
図4中、横軸は滞留時間、縦軸は吸収強度である。図4に示されるように、時間t=0日の場合、滞留時間約6分に一本のピークがあり、このピークはまだβ−ガラクトシダーゼと反応していないガドリニウムトリアミノテトラカルボキシルガラクトピラノース錯塩([Gd(GP)]- )である。そして時間t=5日の場合、滞留時間6分にやはり一本のピークがあるが、その吸収強度は明らかに減少している。また、滞留時間約9分に別の一本のピークが出現しており、このピークはβ−ガラクトシダーゼと反応したガドリニウム金属錯塩であり、すなわち、ガドリニウムトリアミノテトラカルボキシルガラクトピラノース錯塩([Gd(CGP)]- )内のガラクトピラノースを除去したもので、このガドリニウム金属錯塩を([Gd(CHE)]- )と称する。
【0047】
弛緩時間の研究:3つの異なる濃度のβ−ガラクトシダーゼを用意し、かつ37±0.1℃下での反応後のガドリニウムトリアミノテトラカルボキシルガラクトピラノース錯塩([Gd(CGP)]- )サンプルを利用して、400MHz核磁気共鳴装置で25±0.1℃下かつ異なる時間のその縦方向弛緩時間(T1 )の変化を計測した。まだβ−ガラクトシダーゼを添加していないガドリニウムトリアミノテトラカルボキシルガラクトピラノース錯塩([Gd(CGP)]- )の縦方向弛緩時間を分母とし、得られたサンプルの縦方向弛緩時間を分子とすれば、T1 変化の百分率を求めることができる。
【0048】
表1において、3つの等しくない濃度のβ−ガラクトシダーゼでのガドリニウムトリアミノテトラカルボキシルガラクトピラノース錯塩([Gd(CGP)]- )サンプルが、経時的に得られた縦方向弛緩時間(T1 )の変化百分率を示す。
【0049】
表1の結果から、三組の異なるサンプルに酵素を添加した直後にT1 を計測したとき、そのT1 値はほとんど変化していないが、14日反応させた後再度そのT1 値を計量したときには、濃度が比較的低い(2.4nM)酵素を添加したガドリニウムトリアミノテトラカルボキシルガラクトピラノース錯塩([Gd(CGP)]- )は、そのT1 値が約15%低下し、濃度が比較的高い(7.2nM)酵素を添加したガドリニウムトリアミノテトラカルボキシルガラクトピラノース錯塩([Gd(CGP)]- )は、そのT1 値が約25%低下し、そして他のもう1つの対照では酵素濃度を比較的高くして(7.2nM)かつ80℃下で30分間(酵素を失活させる)反応させた後のガドリニウムトリアミノテトラカルボキシルガラクトピラノース錯塩([Gd(CGP)- ])は、そのT1 値はほとんど変化していないことを発見した。この結果から、添加された酵素の濃度が高ければ高いほど、反応時間が長く、β−ガラクトシダーゼのカッティングが多いことを表す。したがって、そのT1 値の低下が大きければ大きいほど、T1 値の減少のためにその磁気共鳴造影信号を増強させることができる。
【0050】
磁気共鳴画像の研究:pH7.3で0.1M(Tris)緩衝液を混合した酵素溶液(7.2nM)の添加前後のガドリニウムトリアミノテトラカルボキシルガラクトピラノース錯塩([Gd(CGP)]- )を、37.0±0.1℃下で14日反応させた後、磁気共鳴画像法を利用して映像を走査した。図5から、酵素と反応する前(左)、その映像は比較的暗く、そして酵素と反応した後は(右)、その映像は明らかに信号強度を増強しており、二者に顕著な対比効果を呈させている。以上の結果からガドリニウムトリアミノカルボキシルガラクトピラノース錯塩([Gd(CGP)]- )は生物活性(酵素活性)を有している磁気共鳴造影対比剤であることを示す。
【0051】
以下、複数の実施例をあげてより詳細に本発明の方法、特徴および有利な点を説明する。これら実施例は本発明をより具体的に説明するためにあって、決して本発明の技術的思想を限定するものではなく、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲に準ずる。
【実施例】
【0052】
トリアミノテトラカルボキシルガラクトピラノース化合物有機配位子の合成
実施例1:1,2,3,4,6−ペンタアセテート−D−ガラクトース,2の合成方法
20グラム(0.11モル)のD−ガラクトース,1および100ミリリットルの無水ピリジンをフラスコ中に入れて、等圧管でゆっくり50ミリリットルの酢酸無水物を添加し、室温下で8時間攪拌する。反応終了後、吸引乾燥し、300ミリリットルのトリクロロメタンを添加して、順に脱イオン水、炭酸水素ナトリウムおよび飽和食塩水を用いて抽出して有機層を収集した。この有機層にさらに5グラムの硫酸ナトリウムを添加して30分後にろ過し、吸引乾燥して34.23グラムの生成物を得た。その収率は79%である(さらなる精製はしない)。
【0053】
実施例2:2,3,4,6−アセト−α−D−ブロモガラクトピラノース,3の合成方法
23.4グラム(0.06モル)の1,2,3,4,6−ペンタアセテート−D−ガラクトース,2および100ミリリットルの氷酢酸を単首フラスコ中に入れ、アルミ箔を用いて該フラスコを包み、光を遮断した。さらに等圧管で徐々に120ミリリットルの33%臭化水素(HBr)を添加して、室温で8時間攪拌した。反応終了後、800ミリリットルのトリクロロメタンを添加して、順に脱イオン水、炭酸水素ナトリウムおよび飽和食塩水を用いて抽出し、有機層を収集した。有機層にさらに10グラムの硫酸ナトリウムを添加して、30分後ろ過して吸引乾燥した。しかる後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(エチルアセテート:ヘキサン=1:2)で精製を行い、TLCで第3画分を収集し、吸引乾燥して16.56グラムの生成物を得た。収率は67.18%である。1HNMR(200MHz,CDCl3 ):δ=6.65(d,1H),5.46(d,1H),5.35(dd,1H),4.99(dd,1H),4.44(t,1H),4.10(m,2H),2.15(s,3H),2.09(s,3H),2.00(s,3H),1.97(s,3H).
13C NMR(50MHz,CDCl3):δ=20.37,20.41,20.53,60.70,66.93,67.69,67.90,71.00,88.06,169.5,169.6,169.8,170.0.
実施例3:2,3,4,6−アセト−1−エチルブロモガラクトピラノース,4の合成方法
9.56グラム(2.32×10-3モル)の2,3,4,6−アセト−α−ブロモガラクトピラノース,3および0.5グラムの4Å分子ふるいを三つ首フラスコ中に入れ、真空吸引してその後窒素ガスを注入する。適量のジクロロエタンを溶剤として添加し、さらに、3.466ミリリットル(4.88×10-3モル)の2−ブロモエタノールを添加して5分間攪拌した。さらに、6.4グラム(2.32×10-3モル)の炭酸銀を添加して、室温下で2.5時間反応させた。反応終了後、吸気ろ過するとともにろ液を引き出し、乾燥させて、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(エチルアセテート:ヘキサン=1:2)で精製を行い、TLCで第2画分を収集し、吸引乾燥して生成物3.12グラムを得た。収率は29.49%である。
【0054】
1H NMR(200MHz,CDCl3 ):δ=5.40(d,1H),5.19(dd,1H),5.06(dd,1H),4.60(d,1H),4.17(m,4H),4.00(t,1H),3.91(m,1H),3.51(t,2H),2.16(s,3H),2.08(s,3H),2.05(s,3H),1.98(s,3H).13C NMR(50MHz,CDCl3 ):δ=20.04,20.09,20.12,20.31,60.82,66.59,68.09,69.19,70.23,70.27,100.8,168.9,169.5,169.6,169.7.
実施例4:3,10−ジ(カルボキシメチル)−3,6,10−トリアザデカンジオイック酸(テトラ)−tert−ブチルエステル,7の合成方法
20グラム(0.171モル)のN−アミノエチル−1,3−プロパンジアミン,5をフラスコ中に入れ、100ミリリットルのシアノメタンを添加して十分に混合した後25グラムの炭酸カリウムを添加し、室温下において1時間攪拌した。次に88.20ミリリットル(0.149ミリモル)のtert−ブチルブロモアセテート,6を添加して24時間加熱還流した。反応終了後、吸気ろ過するとともにろ液を吸引乾燥させた。吸引乾燥した油状物を200ミリリットルの脱イオン水および100ミリリットルのトリクロロメタンで抽出し、有機層を収集して吸引乾燥すると、油状物を得ることができる。この油状物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(エチルアセテート→エチルアセテート:アセトン=1:1)で精製を行った。エチルアセテート:アセトン=1:1の部分を収集して吸引乾燥後黄色油状物を得た。さらに適量のエチルアセテートを添加してこの油状物を溶解させて室温下に放置して再結晶させ、3日後透明結晶29.32グラムを得た。結晶収率は30%で、融点は105.1〜106.4℃である。 1H−NMR(CDCl3 ,400MHz):δ=3.56(s,4H),3.51(s,4H),3.27(t,2H),3.22(t,2H),3.06(t,2H),2.90(t,2H),2.07(p,2H),1.45(s,36H).13C−NMR(CDCl3 ,100MHz):δ=171.1,170.8,81.6,81.3,55.2,54.9,52.1,50.3,49.2,45.9,28.1,22.9.
実施例5:トリアミノテトラカルボキシルガラクトピラノース化合物(CGP)
1.8グラム(3.13×10-3モル)の3,10−ジ(カルボキシメチル)−3,6,10−トリアザドデカンジオイック酸(テトラ)−tert−ブチルエステル,7をフラスコに入れてシアノメタン中に溶解する。3.962ミリリットル(3.13×10-2モル)のテトラメチルグアニジンを添加して10分間攪拌する。さらに1.71グラム(3.76×10-3モル)の2,3,4,6−アセト−1−エチルブロモガラクトピラノース,4を添加して24時間加熱還流させた。溶液を吸引乾燥し、脱イオン水およびエチルアセテートで抽出し、有機層を収集した。吸引乾燥後、再度シリカゲルカラムクロマトグラフィー(アセトン:ヘキサン=3:7→アセトン:ヘキサン=1:1)で精製を行い、アセトン:ヘキサン=1:1部分を収集し、吸引乾燥して黄色油状物を得た。これを円底フラスコ中に入れ、100ミリリットルの2N水酸化ナトリウムを添加して40度まで加熱し、24時間攪拌した。次に、陰イオン交換樹脂で精製を行い、不等濃度のギ酸抽出で0.04〜0.05Nのギ酸抽出液を収集し、吸引乾燥後生成物0,47グラムを得た。収率は45.06%である。
【0055】
1H NMR(400MHz,CDCl3 ):δ=4.31(d,1H),4.18(br,1H),3.95(br,1H),3.81(s,4H),3.80(s,1H),3.63(s,4H),3.62(s,1H),3.45(m,8H),3.31(m,6H),2.11(br,2H).13C NMR(100MHz,CDCl3 ):δ=18.97,49.61,50.49,51.14,52.84,52.91,56.39,56.90,60.98,62.97,68.53,70.51,72.55,75.21,102.6,169.8,173.2.
ガドリニウム金属錯塩の合成
実施例6:ガドリニウムトリアミノテトラカルボキシルガラクトピラノースの調製
0.1グラム(0.18ミリモル)のトリアミノテトラカルボン酸ガラクトピラノース化合物(CGP,実施例5により製造されたもの)を1.26グラム(0.27ミリモル)塩化ガドリニウムと混合し、5ミリリットルの脱イオン水を添加して24時間加熱還流した。反応終了後、溶液pHを8まで調整した後、固体が析出した。さらにpHを7に調整した後ろ過し、再度溶液を吸引乾燥したところ、無色結晶0.073グラムが析出した。収率は57.03%である。
【0056】

表1

サンプル 酵素を添加した時点 反応後14日

[Gd(CGP)]- + 95.74±1.47% 85.91±0.11%
2.4nM β−gal
[Gd(CGP)]- + 93.26±0.25% 76.63±1.11%
7.2nM β−gal
[Gd(CGP)]- + 99.60±1.78% 102.72±0.58%
7.2nM加熱失活
β−gal

表1はガドリニウムトリアミノテトラカルボキシルガラクトピラノース錯塩[Gd(CGP)]-1に不等濃度の酵素を添加した後、経時的に測定されたT1 値の変化を示す。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】トリアミノテトラカルボキシルガラクトピラノース(CGP)の合成フローチャートである。
【図2】β−ガラクトシダーゼが存在した場合の[Gd(CGP)- ]の反応式である。
【図3】Dy(III)−誘導H2 17O−NMR変位対塩化ジスプロシウム(DyCl3 )、ジスプロシウムトリアミノテトラカルボキシルガラクトピラノース錯塩([Dy(CGP)]- )の濃度作図である。
【0058】
(◆)塩化ジスプロシウム(DyCl3 )がβ−ガラクトシダーゼと反応していない場合の濃度。
【0059】
(■)ジスプロシウムトリアミノテトラカルボキシルガラクトピラノース錯塩([Dy(CGP)]- )がβ−ガラクトシダーゼと反応した場合の濃度。
【0060】
(▲)ジスプロシウムトリアミノテトラカルボキシルガラクトピラノース錯塩([Dy(CGP)]- )がβ−ガラクトシダーゼと14日反応した後の濃度。
【図4】ガドリニウムトリアミノテトラカルボキシルガラクトピラノース錯塩([Gd(CGP)]- )に酵素を添加した後5日目に得られた高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)スペクトログラムである。
【0061】
ガドリニウムテトラカルボキシルガラクトピラノース錯塩([Gd(CGP)]- )の濃度は2mMであり、β−ガラクトシダーゼの濃度は2.4nMである。
【図5】ガドリニウムテトラカルボキシルガラクトピラノース錯塩([Gd(CGP)]- )に酵素を添加した前後の磁気共鳴画像である。
【0062】
(左)ガドリニウムトリアミノテトラカルボキシルガラクトピラノース錯塩([Gd(CGP)]- )(0.6mM)にβ−ガラクトシダーゼを添加していない場合の磁気共鳴画像。
【0063】
(右)β−ガラクトシダーゼ(7.2nM)をpH7.3の0.1Mトリヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)緩衝液に添加して37.0±0.1℃下で14日反応させた後の磁気共鳴画像。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

(式中、
1 =−(CH2 a −または−(CH2 a −X−(CH2 a −、式中、a=2〜4、
2 =−(CH2 b −または−(CH2 b −X−(CH2 b −、式中、b=2〜4、
3 =−(CH2 c −または−(CH2 c −X−(CH2 c −、式中、c=2〜4、
X=−O−または−S−、
4 =ガラクトピラノース、モノサッカリド、またはポリサッカリド)
で示される化合物。
【請求項2】
式(I)
【化2】

(式中、
1 =−(CH2 n 、式中n=2、
2 =−(CH2 m 、式中m=3、
3 =−(CH2 x 、式中x=2、
4 =ガラクトピラノース)
で示される化合物。
【請求項3】
MLの化学構造を有する金属錯塩であって、Mはランタノイド系金属、マンガン、鉄、コバルト、銅、ニッケルおよびクロム金属イオンからなる群より選択された中心金属イオン、Lは式(I)
【化3】

(式中、
1 =−(CH2 a −または−(CH2 a −X−(CH2 a −、式中a=2〜4、
2 =−(CH2 b −または−(CH2 b −X−(CH2 b −、式中b=2〜4、
3 =−(CH2 C −または−(CH2 C −X−(CH2 C −、式中c=2〜4、
X=−O−または−S−、
4 =ガラクトピラノース、モノサッカリドまたはポリサッカリド)で示される有機配位子である金属錯塩。
【請求項4】
MLの化学構造を有する金属錯塩であって、Mはランタノイド系金属、マンガン、鉄、コバルト、銅、ニッケルおよびクロム金属イオンからなる群より選択された中心金属イオン、Lは式(I)
【化4】

(式中、
1 =−(CH2 n 、式中n=2、
2 =−(CH2 m 、式中m=3、
3 =−(CH2 x 、式中x=2、
4 =ガラクトピラノース)で示される有機配位子である金属錯塩。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−52222(P2006−52222A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−231643(P2005−231643)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(505302362)高雄醫學大學 (11)
【Fターム(参考)】