トルクコンバータ用のロックアップクラッチ機構
【課題】 複数の摩擦材に係合部を設け、係合部を係合させることにより、精度の良好な、製造において作業性の良好な低コストの高性能のロックアップクラッチ機構を提供する。周方向溝を設けることにより、安定したすべり状態が維持でき、ジャダー振動が発生しにくいトルクコンバータ用のロックアップ機構を提供する。
【解決手段】 トルクコンバータ用のロックアップクラッチ機構であって、複数の摩擦材を径方向で同心に配置し、隣接する摩擦材が一体的に係合していることを特徴とする。
【解決手段】 トルクコンバータ用のロックアップクラッチ機構であって、複数の摩擦材を径方向で同心に配置し、隣接する摩擦材が一体的に係合していることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の自動変速機に用いられる、トルクコンバータ用のロックアップクラッチ機構に関し、より詳細には、ロックアップクラッチ機構の摩擦材の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機に使用されているトルクコンバータのロックアップクラッチは、近年燃費向上のため、車速の低い領域からロックアップを作動させている、この場合、低速時のエンジン振動を吸収するために、ロックアップクラッチのスリップ制御を行っている。すなわち、ピストンプレートの前後の差圧を相対的に低くして低圧にてクラッチフェーシングをフロントカバーに接触させてエンジンのトルク変動を吸収させる。
【0003】
また、中速以上ではピストンプレートの前後の高い差圧によってクラッチフェーシングをフロントカバーに接触させて完全ロックアップを行っている。係合初期及びスリップ制御ではロックアップクラッチが滑り状態で、ジャダーの生じない、μ−V特性の優れた、耐熱性のある摩擦材が要求される。また完全係合時においてはすべりの生じない静摩擦係数の高い摩擦材が要求される。
【0004】
また、ピストンプレートは差圧が大きくなるに従い内径部がフロントカバー側に移動するように撓む。そのため差圧の小さな時と、差圧の大きな時において均一な面当たりをするために、摩擦材の形状も、ラジアル方向で、異なるものがよい。
【0005】
これらの要求を満足するためには、形状や性質の異なる摩擦材を径方向に隣接して貼り付けそれぞれの条件で最適な摩擦面を提供することが望ましい。このように形状や性能の異なる摩擦材を貼り付ける例としては特許文献1に記載のものがある。
【0006】
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては次のものがある。
【特許文献1】特開昭57−140920号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のように、異なる摩擦材を径方向に合せる場合、同心に精度よく貼り付けるには、複雑な貼り付け機械が必要となり、また接着前に合せると、摩擦材が離れ易く、作業性において問題があった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、複数の摩擦材に係合部を設け、係合部を係合させることにより、精度の良好な、製造において作業性の良好な低コストの高性能のロックアップクラッチ機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のロックアップクラッチ機構は、
トルクコンバータ用のロックアップクラッチ機構であって、複数の摩擦材を径方向で同心に配置し、隣接する摩擦材が一体的に係合していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば以下のような効果が得られる。
摩擦材に係合部を設けたことにより、精度の良好な、製造において作業性の良好な低コストの高性能のロックアップクラッチ機構を提供することができる。
【0011】
スティック・スリップによって生じる振動(ジャダー)を防止できるとともに高容量のロックアップクラッチ機構を提供することができる。
【実施例】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明の各実施例を詳細に説明する。図面中、同一部分は同一符号にて示してある。
【0013】
図1は、本発明の各実施例が適用できるロックアップクラッチ機構付きトルクコンバータの軸方向断面図である。トルクコンバータ10は、ロックアップクラッチの解放状態で示している。トルクコンバータ10は、トルクコンバータ10のハウジングの一部を形成するフロントカバー2と、フロントカバー2に固定されたドーナッツ状の羽根車であるインペラー7と、インペラー7の羽根3と互いに対向する羽根4を有するドーナッツ状の羽根車であるタービン6と、インペラー7とタービン6との間に回転可能に設けられたステータ5とから成っている。インペラー7、タービン6、ステータ5とでトルクコンバータ本体を構成している。
【0014】
インペラー7は、不図示の車両エンジンのクランクシャフトに接続されており、フロントカバー2と共にエンジンの回転に伴って回転する。また、タービン6は、出力部材15に直結されており、不図示の変速機構を介して車輪(不図示)に連結されている。ステータ5は、インペラー7とタービン6の内周中央に挟まれた形で、トルクコンバータ10内に充填されている流体の流れを変える機能を有している。
【0015】
フロントカバー2の内面とタービン6の外面との間には、フロントカバー2の内面に対向した面に摩擦材20を接着剤により貼着固定し、ピストン動作をする円環状のプレートであるロックアップクラッチのピストン(ロックアップピストン)1が設けられ、出力部材15と一体に回転する。摩擦材20の摩擦面はフロントカバー2の内面に対向している。
【0016】
タービン6の外面とピストン1との間には、ピストン1が締結した時の衝撃を緩和するため、コイルバネ8から成るダンパ機構が設けられている。
【0017】
次に、ピストン1の動作を説明する。車両の車速が所定速以上になると、不図示のコントロール機構によりフィードバック制御され、インペラー7とタービン6とで画成されるトルクコンバータ10内の流体の流れが不図示の油圧制御機構により変化する。その変化に応じて油圧制御されたピストン1はフロントカバー2の内面に押しつけられることになり、ピストン1の摩擦材40がフロントカバー2の内面と締結され、ピストン1は直結状態となり、エンジンの駆動力が出力部材15を介して出力軸(不図示)に伝達される。従って、駆動側と出力側とが流体を介さずに機械的に連結(直結)されるので、流体ロスを防ぎ燃費を向上することができる。
【0018】
尚、トルクコンバータ10は、不図示の油圧制御機構に連結されており、この油圧制御機構はロックアップクラッチ、すなわちピストン1のスリップ状態を維持するためピストン1を挟む2つのオイル経路、すなわち外周側と内周側との間の圧力差をほぼ一定に保ちながら、オイルの流量を変更、すなわち増減している。
【0019】
また、スリップロックアップ制御するには、外周側と内周側との間の圧力差を変化させて、すなわちON側とOFF側との差圧の大きさを変えることにより制御する。トルクコンバータ10への入力回転と出力回転の差が一定になるよう、ロックアップクラッチを係合させる油圧をフィードバック制御により調圧保持しながら、ロックアップクラッチを摺動させ、走行中に半ロックアップ状態にする。
【0020】
(第1実施例)
図2は、本発明の第1実施例を示す摩擦材の部分正面図である。摩擦材20は、外径側に配置されるほぼ環状の外側摩擦材15と内径側に配置されるほぼ環状の内側摩擦材16とがほぼ同心になるように配置されている。外側摩擦材15の内径部15bと内側摩擦材16の外径部16bとは互いに対向接触している。
【0021】
外側摩擦材15は内径部15bから内径側に突出し、先端がほぼ円形の凸部15aを備え、内側摩擦材16は外径部16bから内径側に延在し、先端がほぼ円形の凹部16cを備えている。それぞれ周方向に複数設けられる凸部15aと凹部16cは相補的な形状として形成されており、凹部16cに凸部15aが嵌合することで、外側摩擦材15と内側摩擦材16とが固定状態で一体化される。以下特に断りがない限り、外側摩擦材と内側摩擦材はほぼ環状の形状をしている。
【0022】
(第2実施例)
第2実施例は、第1実施例と反対の構成となっている。図3は、本発明の第2実施例を示す摩擦材の部分正面図である。摩擦材20は、外径側に配置される外側摩擦材17と内径側に配置される内側摩擦材18とがほぼ同心になるように配置されている。外側摩擦材17の内径部17bと内側摩擦材18の外径部18bとは互いに対向接触している。
【0023】
外側摩擦材17は内径部17bから外径側に延在し、先端がほぼ円形の凹部17cを備え、内側摩擦材18は外径部18bから外径側に突出し、先端がほぼ円形の凸部18aを備えている。それぞれ周方向に複数設けられる凹部17cと凸部18aは相補的な形状として形成されており、凹部17cに凸部18aが嵌合することで、外側摩擦材17と内側摩擦材18とが固定状態で一体化される。
【0024】
(第3実施例)
第3実施例は、第1実施例と第2実施例を組み合わせた構成となっている。図4は、本発明の第3実施例を示す摩擦材の部分正面図である。摩擦材20は、外径側に配置される外側摩擦材19と内径側に配置される内側摩擦材21とがほぼ同心になるように配置されている。外側摩擦材19の内径部19bと内側摩擦材21の外径部21bとは互いに対向接触している。
【0025】
外側摩擦材19は内径部19bから内径側に突出する先端がほぼ円形の凸部19aと外径側に延在し、先端がほぼ円形の凹部19cとを備え、内側摩擦材21は外径部21bから外径側に突出し、先端がほぼ円形の凸部21aと内径側に延在し、先端がほぼ円形の凹部21cとを備え備えている。
【0026】
凹部19cと凸部19a、また凹部21cと凸部21aはそれぞれ周方向等配に交互に複数設けられている。凹部19cと凸部21a、また凹部21cと凸部19aは相補的な形状として形成されており、それぞれが嵌合することで、外側摩擦材19と内側摩擦材21とが固定状態で一体化される。
【0027】
図5は、本発明の第3実施例の変形例を示す摩擦材の部分正面図である。基本的な構成は、図4に示した実施例と同じである。摩擦材20は、外径側に配置される外側摩擦材22と内径側に配置される内側摩擦材23とがほぼ同心になるように配置されている。外側摩擦材22の内径部22bと内側摩擦材23の外径部23bとは互いに対向接触している。
【0028】
外側摩擦材22は内径部22bから外径側に延在する凹部22cと内径側に突出する凸部22aとを備え、内側摩擦材23は外径部23bから外径側に突出する凸部23aと内径側に延在する凹部23cとを備え備えている。
【0029】
凹部22cと凸部22a、また凹部23cと凸部23aはそれぞれ周方向等配に交互に複数設けられている。凹部22cと凸部23a、また凹部23cと凸部22aは相補的な形状として形成されており、それぞれが嵌合することで、外側摩擦材22と内側摩擦材23とが固定状態で一体化される。
【0030】
(第4実施例)
図6は、本発明の第4実施例を示す摩擦材の部分正面図である。摩擦材20は、外径側に配置される外側摩擦材24と内径側に配置される内側摩擦材25とがほぼ同心になるように配置されている。外側摩擦材24の内径部24bと内側摩擦材25の外径部25bとは互いに対向接触している。
【0031】
外側摩擦材24は内径部24bから外径側に延在し、先端がほぼ円形の凹部24cを備え、内側摩擦材25は外径部25bから内径側に延在し、先端がほぼ円形の凹部25cを備えている。
【0032】
凹部24cと凹部25cとは互いに対向して配置され、連結部26bと、連結部26bの両端に一体に設けられた円形部26aと26cからなる係合部材26が、凹部24cと凹部25cとに円形部26aと26cを嵌合させることで、外側摩擦材24と内側摩擦材25とが固定状態で一体化される。
【0033】
(第5実施例)
図7−9は、本発明の第5実施例を示す摩擦材の部分正面図である。この実施例では、上述の実施例と異なり環状の摩擦材ではなく、所定の周方向幅を有する複数の摩擦材セグメントを用いている。
【0034】
図7において、摩擦材20は、外径側に配置される複数の外側摩擦材セグメント27と内径側に配置される複数の内側摩擦材セグメント28とがほぼ同心になるように配置されている。外側摩擦材セグメント27の内径部27bと内側摩擦材セグメント28の外径部28bとは互いに対向接触している。
【0035】
外側摩擦材セグメント27は内径部27bから外径側に突出し、先端がほぼ円形の凸部27aと内径部27bから外径側に延在し、先端がほぼ円形の凹部27cとを備え、また、内側摩擦材セグメント28は外径部28bから外径側に突出し、先端がほぼ円形の凸部28aと外径部28bから内径側に延在し、先端がほぼ円形の凹部28cとを備えている。
【0036】
凸部27aと凹部28c、凹部27cと凸部28aとをそれぞれ嵌合させることで、外側摩擦材セグメント27と内側摩擦材セグメント28とが固定状態で一体化される。
【0037】
図7から分かるように、外側摩擦材セグメント27間と、内側摩擦材セグメント28間には所定の周方向間隙が設けられている。更に、ほぼ同じ周方向長さを有する外側摩擦材セグメント27と内側摩擦材セグメント28は、図7に示すように周期をずらして配置されている。外側摩擦材セグメント27間の間隙及び内側摩擦材セグメント28間の間隙は省略することもできる。
【0038】
図8は、第5実施例の変形例を示す摩擦材の部分正面図である。この例では、外側摩擦材29はセグメントではなく、第1−4実施例と同様にほぼ環状の摩擦材として形成され、内側摩擦材のみセグメントとして形成されている。複数の内側摩擦材セグメント30は、所定の周方向間隙で周方向に配置されている。外側摩擦材29の内径部29bは内側摩擦材セグメント30の外径部30bとは互いに対向接触している。
【0039】
外側摩擦材29は、内径部29bから突出し、先端がほぼ円形の凸部29aを備え、内側摩擦材セグメント30は、外径部30bから内径側に延在し、先端がほぼ円形の凹部30cを備えている。凸部29aと凹部30cとを嵌合させることで、外側摩擦材29と内側摩擦材セグメント30とが固定状態で一体化される。
【0040】
図9は、第5実施例の他の変形例を示す摩擦材の部分正面図である。この例では、摩擦材20を構成する外側摩擦材及び内側摩擦材はともにセグメントとして形成されている。複数の外側摩擦材セグメント31は、互いに接して周方向に配置されている。また、複数の内側摩擦材セグメント32も、互いに接して周方向に配置されている。
【0041】
外側摩擦材セグメント31の内径部31bは内側摩擦材セグメント32の外径部32bに対して互いに対向接触している。外側摩擦材セグメント31は、内径部31bから突出し、先端がほぼ円形の凸部31aを備え、内側摩擦材セグメント32は、外径部32bから内径側に延在し、先端がほぼ円形の凹部32cを備えている。凸部31aと凹部32cとを嵌合させることで、外側摩擦材セグメント31と内側摩擦材セグメント32とが固定状態で一体化される。
【0042】
図9に示す実施例では、摩擦材セグメントの周方向での一体化を確実にするため、それぞれ周方向における係合手段を設けている。外側摩擦材セグメント31はその周方向の一端から突出し、先端がほぼ円形の凸部31dを備え、他端には先端がほぼ円形の凹部31eを備えている。凸部31dと凹部31eとが嵌合することで、隣接する外側摩擦材セグメント31同士が一体化される。その結果、ほぼ環状の外側摩擦材が形成される。
【0043】
同様に、内側摩擦材セグメント32はその周方向の一端から突出し、先端がほぼ円形の凸部32dを備え、他端には先端がほぼ円形の凹部32eを備えている。凸部32dと凹部32eとが嵌合することで、隣接する内側摩擦材セグメント32同士が一体化される。その結果、ほぼ環状の内側摩擦材が形成される。
【0044】
図9に示す実施例においては、摩擦材セグメントを用いた場合でも、図2−図5で説明した実施例と同様に、ほぼ環状の外側及び内側摩擦材を用いたような一体化構成が得られる。
【0045】
(第6実施例)
図10は、本発明の第6実施例を示す摩擦材の部分正面図である。摩擦材20は、外径側に配置される外側摩擦材33と内径側に配置される内側摩擦材34とがほぼ同心になるように配置されている。上述の各実施例と異なり、外側摩擦材33の内径部32bと内側摩擦材34の外径部34bとは互いに対向しているが、接触していない。内径部32bと外径部34bとの間には、周方向に連続し、径方向に所定の幅を有する間隙Gが設けられている。
【0046】
内側摩擦材34は、外径部34bから突出し、先端がほぼ円形の凸部34aを備え、外側摩擦材セグメント33は、内径部33bから外径側に延在し、先端がほぼ円形の凹部33cを備えている。凸部34aと凹部33cとを嵌合させることで、外側摩擦材セグメント33と内側摩擦材セグメント34とが間隙Gを介して固定状態で一体化される。
【0047】
図11は、本発明の第6実施例の変形例を示す摩擦材の部分正面図である。
図10に示す実施例と同様に、摩擦材20を構成する外側摩擦材35の内径部35bと内側摩擦材36の外径部36bとは互いに対向しているが、接触していない。内径部35bと外径部36bとの間には、周方向に連続し、径方向に所定の幅を有する間隙Gが設けられている。
【0048】
内側摩擦材36は、外径部36bから突出し、先端がほぼ円形の凸部36aを備え、外側摩擦材セグメント35は、内径部35bから外径側に延在し、先端がほぼ円形の凹部35cを備えている。凸部36aと凹部35cとを嵌合させることで、外側摩擦材セグメント35と内側摩擦材セグメント36とが間隙Gを介して固定状態で一体化される。
【0049】
図11に示す変形例では、内側摩擦材36の外径部36aには、外径側に突出する突起36dが設けられている。突起36dは、周方向において凸部36aと交互に設けられている。突起36dの先端は、外側摩擦材35の内径部35bに当接する長さを有している。
【0050】
(第7実施例)
図12は、本発明の第7実施例を示す摩擦材の部分正面図である。基本的な構成は、図5に示した実施例と同じである。摩擦材20は、外径側に配置される外側摩擦材37と内径側に配置される内側摩擦材38とがほぼ同心になるように配置されている。外側摩擦材37の内径部37bと内側摩擦材38の外径部38bとは互いに対向接触している。
【0051】
外側摩擦材37は内径部37bから外径側に延在する凹部37cと内径側に突出する凸部37aとを備え、内側摩擦材38は外径部38bから外径側に突出する凸部38aと内径側に延在する凹部38cとを備え備えている。
【0052】
凹部37cと凸部37a、また凹部38cと凸部38aはそれぞれ周方向等配に交互に複数設けられている。凹部37cと凸部38a、また凹部38cと凸部37aは相補的な形状として形成されており、それぞれが嵌合することで、外側摩擦材37と内側摩擦材38とが固定状態で一体化される。
【0053】
第7実施例では、凸部と凹部の係合部または係合部を含む周囲部39は、押圧により摩擦材より板厚が小さくなるように形成されている。押圧することで係合部の係合状態を強固にできる。また、周囲部39が摩擦材の他の部分より薄くなることで、摺擦により係合部が損傷を受けることを防止できる。
【0054】
(第8実施例)
図13は、本発明の第8実施例を示す摩擦材の部分正面図である。この実施例では、摩擦材20は、同心に配された複数の摩擦材40,41,42から構成されている。外径側から順に、第1摩擦材40、第2摩擦材41及び第3摩擦材42からなっている。これら複数の摩擦材は、同心状の形状を有するが、断面形状や溝形状に違いがあってもよい。また、それぞれ成分の異なる異種摩擦材であってよいが、3つの摩擦材が全て同じ形状、性質の摩擦材であってもよい。
【0055】
一番外径側に配置される第1摩擦材40とその内径側に配置される第2摩擦材41とがほぼ同心になるように配置されている。第1摩擦材40の内径部40bと第2摩擦材41の外径部41bとは互いに対向接触し、第2摩擦材41の内径部41dと第3摩擦材42の外径部42bとは互いに対向接触している。
【0056】
第1摩擦材40は内径部40bから外径側に延在し、先端がほぼ円形の凹部40cを備え、第2摩擦材41は外径部41bから外径側に突出し、先端がほぼ円形の凸部41aを備えている。それぞれ周方向に複数設けられる凹部40cと凸部41aは相補的な形状として形成されており、凹部40cに凸部41aが嵌合することで、第1摩擦材40と第2摩擦材41とが固定状態で一体化される。
【0057】
同様に、第2摩擦材41は内径部41dから外径側に延在し、先端がほぼ円形の凹部41cを備え、第3摩擦材42は外径部42bから外径側に突出し、先端がほぼ円形の凸部42aを備えている。それぞれ周方向に複数設けられる凹部41cと凸部42aは相補的な形状として形成されており、凹部41cに凸部42aが嵌合することで、第2摩擦材41と第3摩擦材42とが固定状態で一体化される。これにより、第1摩擦材40、第2摩擦材41、第3摩擦材42が、一体化される。
【0058】
以上説明した各実施例で説明したロックアップクラッチ機構に関して、摩擦材の固定方法について以下説明する。摩擦材20は、ロックアップピストンとフロントカバーの少なくとも一方に貼り付けられるが、このときの貼り付けは、外側摩擦材(セグメント)、内側摩擦材(セグメント)、第1−第3摩擦材それぞれを予め係合して摩擦材20として一体化した後に行なう。
【0059】
しかしながら、外側摩擦材(セグメント)、内側摩擦材(セグメント)、第1−第3摩擦材の係合による一体化前に、貼り付けを行なうこともできる。この場合は、ロックアップピストンとフロントカバーの少なくとも一方に、外側摩擦材(セグメント)と内側摩擦材(セグメント)を順不同で貼り付けるとともに係合する。第8実施例のように、第1−第3の摩擦材の場合も同じである。
【0060】
以上述べた各実施例は様々な変形が可能である。例えば、各摩擦材は、断面形状や溝形状を含めて同じ形状及び同じ成分の摩擦材を用いることもできる。また、同心状の形状に形成されているが、断面形状や溝形状は異なっていてよい。更に、成分の異なる摩擦材を組み合わせることもできる。
【0061】
各実施例において、凸部及び凹部は放射状に延在しているが、周方向に角度を付けて設けることもできる。係合部は互いに相補的な形状が好ましいが、異なる形状にすることもできる。更に、先端の形状は円形ではなく、その他の形状にすることも可能である。係合を確実にするため先端が基部より大きいことが好ましい。また、各凸部及び凹部はそれぞれ周方向等配に設けているが、等配ではなく異なる間隔とすることもできる。
【0062】
図12に示す、板厚の小さい周囲部39を他の実施例の係合部に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の各実施例が適用できるロックアップ機構付きトルクコンバータの軸方向断面図である。
【図2】本発明の第1実施例を示す摩擦材の部分正面図である。
【図3】本発明の第2実施例を示す摩擦材の部分正面図である。
【図4】本発明の第3実施例を示す摩擦材の部分正面図である。
【図5】本発明の第3実施例の変形例を示す摩擦材の部分正面図である。
【図6】本発明の第4実施例を示す摩擦材の部分正面図である。
【図7】本発明の第5実施例を示す摩擦材の部分正面図である。
【図8】本発明の第5実施例の変形例を示す摩擦材の部分正面図である。
【図9】本発明の第5実施例の他の変形例を示す摩擦材の部分正面図である。
【図10】本発明の第6実施例を示す摩擦材の部分正面図である。
【図11】本発明の第6実施例の変形例を示す摩擦材の部分正面図である。
【図12】本発明の第7実施例を示す摩擦材の部分正面図である。
【図13】本発明の第8実施例を示す摩擦材の部分正面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 ピストン
2 フロントカバー
10 トルクコンバータ
20 摩擦材
15、17、19、22、24、27、29、31
33、35、37 外側摩擦材
16、18、21、23、25、28、30、32
34、36、38 内側摩擦材
40 第1摩擦材
41 第2摩擦材
42 第3摩擦材
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の自動変速機に用いられる、トルクコンバータ用のロックアップクラッチ機構に関し、より詳細には、ロックアップクラッチ機構の摩擦材の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機に使用されているトルクコンバータのロックアップクラッチは、近年燃費向上のため、車速の低い領域からロックアップを作動させている、この場合、低速時のエンジン振動を吸収するために、ロックアップクラッチのスリップ制御を行っている。すなわち、ピストンプレートの前後の差圧を相対的に低くして低圧にてクラッチフェーシングをフロントカバーに接触させてエンジンのトルク変動を吸収させる。
【0003】
また、中速以上ではピストンプレートの前後の高い差圧によってクラッチフェーシングをフロントカバーに接触させて完全ロックアップを行っている。係合初期及びスリップ制御ではロックアップクラッチが滑り状態で、ジャダーの生じない、μ−V特性の優れた、耐熱性のある摩擦材が要求される。また完全係合時においてはすべりの生じない静摩擦係数の高い摩擦材が要求される。
【0004】
また、ピストンプレートは差圧が大きくなるに従い内径部がフロントカバー側に移動するように撓む。そのため差圧の小さな時と、差圧の大きな時において均一な面当たりをするために、摩擦材の形状も、ラジアル方向で、異なるものがよい。
【0005】
これらの要求を満足するためには、形状や性質の異なる摩擦材を径方向に隣接して貼り付けそれぞれの条件で最適な摩擦面を提供することが望ましい。このように形状や性能の異なる摩擦材を貼り付ける例としては特許文献1に記載のものがある。
【0006】
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては次のものがある。
【特許文献1】特開昭57−140920号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のように、異なる摩擦材を径方向に合せる場合、同心に精度よく貼り付けるには、複雑な貼り付け機械が必要となり、また接着前に合せると、摩擦材が離れ易く、作業性において問題があった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、複数の摩擦材に係合部を設け、係合部を係合させることにより、精度の良好な、製造において作業性の良好な低コストの高性能のロックアップクラッチ機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のロックアップクラッチ機構は、
トルクコンバータ用のロックアップクラッチ機構であって、複数の摩擦材を径方向で同心に配置し、隣接する摩擦材が一体的に係合していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば以下のような効果が得られる。
摩擦材に係合部を設けたことにより、精度の良好な、製造において作業性の良好な低コストの高性能のロックアップクラッチ機構を提供することができる。
【0011】
スティック・スリップによって生じる振動(ジャダー)を防止できるとともに高容量のロックアップクラッチ機構を提供することができる。
【実施例】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明の各実施例を詳細に説明する。図面中、同一部分は同一符号にて示してある。
【0013】
図1は、本発明の各実施例が適用できるロックアップクラッチ機構付きトルクコンバータの軸方向断面図である。トルクコンバータ10は、ロックアップクラッチの解放状態で示している。トルクコンバータ10は、トルクコンバータ10のハウジングの一部を形成するフロントカバー2と、フロントカバー2に固定されたドーナッツ状の羽根車であるインペラー7と、インペラー7の羽根3と互いに対向する羽根4を有するドーナッツ状の羽根車であるタービン6と、インペラー7とタービン6との間に回転可能に設けられたステータ5とから成っている。インペラー7、タービン6、ステータ5とでトルクコンバータ本体を構成している。
【0014】
インペラー7は、不図示の車両エンジンのクランクシャフトに接続されており、フロントカバー2と共にエンジンの回転に伴って回転する。また、タービン6は、出力部材15に直結されており、不図示の変速機構を介して車輪(不図示)に連結されている。ステータ5は、インペラー7とタービン6の内周中央に挟まれた形で、トルクコンバータ10内に充填されている流体の流れを変える機能を有している。
【0015】
フロントカバー2の内面とタービン6の外面との間には、フロントカバー2の内面に対向した面に摩擦材20を接着剤により貼着固定し、ピストン動作をする円環状のプレートであるロックアップクラッチのピストン(ロックアップピストン)1が設けられ、出力部材15と一体に回転する。摩擦材20の摩擦面はフロントカバー2の内面に対向している。
【0016】
タービン6の外面とピストン1との間には、ピストン1が締結した時の衝撃を緩和するため、コイルバネ8から成るダンパ機構が設けられている。
【0017】
次に、ピストン1の動作を説明する。車両の車速が所定速以上になると、不図示のコントロール機構によりフィードバック制御され、インペラー7とタービン6とで画成されるトルクコンバータ10内の流体の流れが不図示の油圧制御機構により変化する。その変化に応じて油圧制御されたピストン1はフロントカバー2の内面に押しつけられることになり、ピストン1の摩擦材40がフロントカバー2の内面と締結され、ピストン1は直結状態となり、エンジンの駆動力が出力部材15を介して出力軸(不図示)に伝達される。従って、駆動側と出力側とが流体を介さずに機械的に連結(直結)されるので、流体ロスを防ぎ燃費を向上することができる。
【0018】
尚、トルクコンバータ10は、不図示の油圧制御機構に連結されており、この油圧制御機構はロックアップクラッチ、すなわちピストン1のスリップ状態を維持するためピストン1を挟む2つのオイル経路、すなわち外周側と内周側との間の圧力差をほぼ一定に保ちながら、オイルの流量を変更、すなわち増減している。
【0019】
また、スリップロックアップ制御するには、外周側と内周側との間の圧力差を変化させて、すなわちON側とOFF側との差圧の大きさを変えることにより制御する。トルクコンバータ10への入力回転と出力回転の差が一定になるよう、ロックアップクラッチを係合させる油圧をフィードバック制御により調圧保持しながら、ロックアップクラッチを摺動させ、走行中に半ロックアップ状態にする。
【0020】
(第1実施例)
図2は、本発明の第1実施例を示す摩擦材の部分正面図である。摩擦材20は、外径側に配置されるほぼ環状の外側摩擦材15と内径側に配置されるほぼ環状の内側摩擦材16とがほぼ同心になるように配置されている。外側摩擦材15の内径部15bと内側摩擦材16の外径部16bとは互いに対向接触している。
【0021】
外側摩擦材15は内径部15bから内径側に突出し、先端がほぼ円形の凸部15aを備え、内側摩擦材16は外径部16bから内径側に延在し、先端がほぼ円形の凹部16cを備えている。それぞれ周方向に複数設けられる凸部15aと凹部16cは相補的な形状として形成されており、凹部16cに凸部15aが嵌合することで、外側摩擦材15と内側摩擦材16とが固定状態で一体化される。以下特に断りがない限り、外側摩擦材と内側摩擦材はほぼ環状の形状をしている。
【0022】
(第2実施例)
第2実施例は、第1実施例と反対の構成となっている。図3は、本発明の第2実施例を示す摩擦材の部分正面図である。摩擦材20は、外径側に配置される外側摩擦材17と内径側に配置される内側摩擦材18とがほぼ同心になるように配置されている。外側摩擦材17の内径部17bと内側摩擦材18の外径部18bとは互いに対向接触している。
【0023】
外側摩擦材17は内径部17bから外径側に延在し、先端がほぼ円形の凹部17cを備え、内側摩擦材18は外径部18bから外径側に突出し、先端がほぼ円形の凸部18aを備えている。それぞれ周方向に複数設けられる凹部17cと凸部18aは相補的な形状として形成されており、凹部17cに凸部18aが嵌合することで、外側摩擦材17と内側摩擦材18とが固定状態で一体化される。
【0024】
(第3実施例)
第3実施例は、第1実施例と第2実施例を組み合わせた構成となっている。図4は、本発明の第3実施例を示す摩擦材の部分正面図である。摩擦材20は、外径側に配置される外側摩擦材19と内径側に配置される内側摩擦材21とがほぼ同心になるように配置されている。外側摩擦材19の内径部19bと内側摩擦材21の外径部21bとは互いに対向接触している。
【0025】
外側摩擦材19は内径部19bから内径側に突出する先端がほぼ円形の凸部19aと外径側に延在し、先端がほぼ円形の凹部19cとを備え、内側摩擦材21は外径部21bから外径側に突出し、先端がほぼ円形の凸部21aと内径側に延在し、先端がほぼ円形の凹部21cとを備え備えている。
【0026】
凹部19cと凸部19a、また凹部21cと凸部21aはそれぞれ周方向等配に交互に複数設けられている。凹部19cと凸部21a、また凹部21cと凸部19aは相補的な形状として形成されており、それぞれが嵌合することで、外側摩擦材19と内側摩擦材21とが固定状態で一体化される。
【0027】
図5は、本発明の第3実施例の変形例を示す摩擦材の部分正面図である。基本的な構成は、図4に示した実施例と同じである。摩擦材20は、外径側に配置される外側摩擦材22と内径側に配置される内側摩擦材23とがほぼ同心になるように配置されている。外側摩擦材22の内径部22bと内側摩擦材23の外径部23bとは互いに対向接触している。
【0028】
外側摩擦材22は内径部22bから外径側に延在する凹部22cと内径側に突出する凸部22aとを備え、内側摩擦材23は外径部23bから外径側に突出する凸部23aと内径側に延在する凹部23cとを備え備えている。
【0029】
凹部22cと凸部22a、また凹部23cと凸部23aはそれぞれ周方向等配に交互に複数設けられている。凹部22cと凸部23a、また凹部23cと凸部22aは相補的な形状として形成されており、それぞれが嵌合することで、外側摩擦材22と内側摩擦材23とが固定状態で一体化される。
【0030】
(第4実施例)
図6は、本発明の第4実施例を示す摩擦材の部分正面図である。摩擦材20は、外径側に配置される外側摩擦材24と内径側に配置される内側摩擦材25とがほぼ同心になるように配置されている。外側摩擦材24の内径部24bと内側摩擦材25の外径部25bとは互いに対向接触している。
【0031】
外側摩擦材24は内径部24bから外径側に延在し、先端がほぼ円形の凹部24cを備え、内側摩擦材25は外径部25bから内径側に延在し、先端がほぼ円形の凹部25cを備えている。
【0032】
凹部24cと凹部25cとは互いに対向して配置され、連結部26bと、連結部26bの両端に一体に設けられた円形部26aと26cからなる係合部材26が、凹部24cと凹部25cとに円形部26aと26cを嵌合させることで、外側摩擦材24と内側摩擦材25とが固定状態で一体化される。
【0033】
(第5実施例)
図7−9は、本発明の第5実施例を示す摩擦材の部分正面図である。この実施例では、上述の実施例と異なり環状の摩擦材ではなく、所定の周方向幅を有する複数の摩擦材セグメントを用いている。
【0034】
図7において、摩擦材20は、外径側に配置される複数の外側摩擦材セグメント27と内径側に配置される複数の内側摩擦材セグメント28とがほぼ同心になるように配置されている。外側摩擦材セグメント27の内径部27bと内側摩擦材セグメント28の外径部28bとは互いに対向接触している。
【0035】
外側摩擦材セグメント27は内径部27bから外径側に突出し、先端がほぼ円形の凸部27aと内径部27bから外径側に延在し、先端がほぼ円形の凹部27cとを備え、また、内側摩擦材セグメント28は外径部28bから外径側に突出し、先端がほぼ円形の凸部28aと外径部28bから内径側に延在し、先端がほぼ円形の凹部28cとを備えている。
【0036】
凸部27aと凹部28c、凹部27cと凸部28aとをそれぞれ嵌合させることで、外側摩擦材セグメント27と内側摩擦材セグメント28とが固定状態で一体化される。
【0037】
図7から分かるように、外側摩擦材セグメント27間と、内側摩擦材セグメント28間には所定の周方向間隙が設けられている。更に、ほぼ同じ周方向長さを有する外側摩擦材セグメント27と内側摩擦材セグメント28は、図7に示すように周期をずらして配置されている。外側摩擦材セグメント27間の間隙及び内側摩擦材セグメント28間の間隙は省略することもできる。
【0038】
図8は、第5実施例の変形例を示す摩擦材の部分正面図である。この例では、外側摩擦材29はセグメントではなく、第1−4実施例と同様にほぼ環状の摩擦材として形成され、内側摩擦材のみセグメントとして形成されている。複数の内側摩擦材セグメント30は、所定の周方向間隙で周方向に配置されている。外側摩擦材29の内径部29bは内側摩擦材セグメント30の外径部30bとは互いに対向接触している。
【0039】
外側摩擦材29は、内径部29bから突出し、先端がほぼ円形の凸部29aを備え、内側摩擦材セグメント30は、外径部30bから内径側に延在し、先端がほぼ円形の凹部30cを備えている。凸部29aと凹部30cとを嵌合させることで、外側摩擦材29と内側摩擦材セグメント30とが固定状態で一体化される。
【0040】
図9は、第5実施例の他の変形例を示す摩擦材の部分正面図である。この例では、摩擦材20を構成する外側摩擦材及び内側摩擦材はともにセグメントとして形成されている。複数の外側摩擦材セグメント31は、互いに接して周方向に配置されている。また、複数の内側摩擦材セグメント32も、互いに接して周方向に配置されている。
【0041】
外側摩擦材セグメント31の内径部31bは内側摩擦材セグメント32の外径部32bに対して互いに対向接触している。外側摩擦材セグメント31は、内径部31bから突出し、先端がほぼ円形の凸部31aを備え、内側摩擦材セグメント32は、外径部32bから内径側に延在し、先端がほぼ円形の凹部32cを備えている。凸部31aと凹部32cとを嵌合させることで、外側摩擦材セグメント31と内側摩擦材セグメント32とが固定状態で一体化される。
【0042】
図9に示す実施例では、摩擦材セグメントの周方向での一体化を確実にするため、それぞれ周方向における係合手段を設けている。外側摩擦材セグメント31はその周方向の一端から突出し、先端がほぼ円形の凸部31dを備え、他端には先端がほぼ円形の凹部31eを備えている。凸部31dと凹部31eとが嵌合することで、隣接する外側摩擦材セグメント31同士が一体化される。その結果、ほぼ環状の外側摩擦材が形成される。
【0043】
同様に、内側摩擦材セグメント32はその周方向の一端から突出し、先端がほぼ円形の凸部32dを備え、他端には先端がほぼ円形の凹部32eを備えている。凸部32dと凹部32eとが嵌合することで、隣接する内側摩擦材セグメント32同士が一体化される。その結果、ほぼ環状の内側摩擦材が形成される。
【0044】
図9に示す実施例においては、摩擦材セグメントを用いた場合でも、図2−図5で説明した実施例と同様に、ほぼ環状の外側及び内側摩擦材を用いたような一体化構成が得られる。
【0045】
(第6実施例)
図10は、本発明の第6実施例を示す摩擦材の部分正面図である。摩擦材20は、外径側に配置される外側摩擦材33と内径側に配置される内側摩擦材34とがほぼ同心になるように配置されている。上述の各実施例と異なり、外側摩擦材33の内径部32bと内側摩擦材34の外径部34bとは互いに対向しているが、接触していない。内径部32bと外径部34bとの間には、周方向に連続し、径方向に所定の幅を有する間隙Gが設けられている。
【0046】
内側摩擦材34は、外径部34bから突出し、先端がほぼ円形の凸部34aを備え、外側摩擦材セグメント33は、内径部33bから外径側に延在し、先端がほぼ円形の凹部33cを備えている。凸部34aと凹部33cとを嵌合させることで、外側摩擦材セグメント33と内側摩擦材セグメント34とが間隙Gを介して固定状態で一体化される。
【0047】
図11は、本発明の第6実施例の変形例を示す摩擦材の部分正面図である。
図10に示す実施例と同様に、摩擦材20を構成する外側摩擦材35の内径部35bと内側摩擦材36の外径部36bとは互いに対向しているが、接触していない。内径部35bと外径部36bとの間には、周方向に連続し、径方向に所定の幅を有する間隙Gが設けられている。
【0048】
内側摩擦材36は、外径部36bから突出し、先端がほぼ円形の凸部36aを備え、外側摩擦材セグメント35は、内径部35bから外径側に延在し、先端がほぼ円形の凹部35cを備えている。凸部36aと凹部35cとを嵌合させることで、外側摩擦材セグメント35と内側摩擦材セグメント36とが間隙Gを介して固定状態で一体化される。
【0049】
図11に示す変形例では、内側摩擦材36の外径部36aには、外径側に突出する突起36dが設けられている。突起36dは、周方向において凸部36aと交互に設けられている。突起36dの先端は、外側摩擦材35の内径部35bに当接する長さを有している。
【0050】
(第7実施例)
図12は、本発明の第7実施例を示す摩擦材の部分正面図である。基本的な構成は、図5に示した実施例と同じである。摩擦材20は、外径側に配置される外側摩擦材37と内径側に配置される内側摩擦材38とがほぼ同心になるように配置されている。外側摩擦材37の内径部37bと内側摩擦材38の外径部38bとは互いに対向接触している。
【0051】
外側摩擦材37は内径部37bから外径側に延在する凹部37cと内径側に突出する凸部37aとを備え、内側摩擦材38は外径部38bから外径側に突出する凸部38aと内径側に延在する凹部38cとを備え備えている。
【0052】
凹部37cと凸部37a、また凹部38cと凸部38aはそれぞれ周方向等配に交互に複数設けられている。凹部37cと凸部38a、また凹部38cと凸部37aは相補的な形状として形成されており、それぞれが嵌合することで、外側摩擦材37と内側摩擦材38とが固定状態で一体化される。
【0053】
第7実施例では、凸部と凹部の係合部または係合部を含む周囲部39は、押圧により摩擦材より板厚が小さくなるように形成されている。押圧することで係合部の係合状態を強固にできる。また、周囲部39が摩擦材の他の部分より薄くなることで、摺擦により係合部が損傷を受けることを防止できる。
【0054】
(第8実施例)
図13は、本発明の第8実施例を示す摩擦材の部分正面図である。この実施例では、摩擦材20は、同心に配された複数の摩擦材40,41,42から構成されている。外径側から順に、第1摩擦材40、第2摩擦材41及び第3摩擦材42からなっている。これら複数の摩擦材は、同心状の形状を有するが、断面形状や溝形状に違いがあってもよい。また、それぞれ成分の異なる異種摩擦材であってよいが、3つの摩擦材が全て同じ形状、性質の摩擦材であってもよい。
【0055】
一番外径側に配置される第1摩擦材40とその内径側に配置される第2摩擦材41とがほぼ同心になるように配置されている。第1摩擦材40の内径部40bと第2摩擦材41の外径部41bとは互いに対向接触し、第2摩擦材41の内径部41dと第3摩擦材42の外径部42bとは互いに対向接触している。
【0056】
第1摩擦材40は内径部40bから外径側に延在し、先端がほぼ円形の凹部40cを備え、第2摩擦材41は外径部41bから外径側に突出し、先端がほぼ円形の凸部41aを備えている。それぞれ周方向に複数設けられる凹部40cと凸部41aは相補的な形状として形成されており、凹部40cに凸部41aが嵌合することで、第1摩擦材40と第2摩擦材41とが固定状態で一体化される。
【0057】
同様に、第2摩擦材41は内径部41dから外径側に延在し、先端がほぼ円形の凹部41cを備え、第3摩擦材42は外径部42bから外径側に突出し、先端がほぼ円形の凸部42aを備えている。それぞれ周方向に複数設けられる凹部41cと凸部42aは相補的な形状として形成されており、凹部41cに凸部42aが嵌合することで、第2摩擦材41と第3摩擦材42とが固定状態で一体化される。これにより、第1摩擦材40、第2摩擦材41、第3摩擦材42が、一体化される。
【0058】
以上説明した各実施例で説明したロックアップクラッチ機構に関して、摩擦材の固定方法について以下説明する。摩擦材20は、ロックアップピストンとフロントカバーの少なくとも一方に貼り付けられるが、このときの貼り付けは、外側摩擦材(セグメント)、内側摩擦材(セグメント)、第1−第3摩擦材それぞれを予め係合して摩擦材20として一体化した後に行なう。
【0059】
しかしながら、外側摩擦材(セグメント)、内側摩擦材(セグメント)、第1−第3摩擦材の係合による一体化前に、貼り付けを行なうこともできる。この場合は、ロックアップピストンとフロントカバーの少なくとも一方に、外側摩擦材(セグメント)と内側摩擦材(セグメント)を順不同で貼り付けるとともに係合する。第8実施例のように、第1−第3の摩擦材の場合も同じである。
【0060】
以上述べた各実施例は様々な変形が可能である。例えば、各摩擦材は、断面形状や溝形状を含めて同じ形状及び同じ成分の摩擦材を用いることもできる。また、同心状の形状に形成されているが、断面形状や溝形状は異なっていてよい。更に、成分の異なる摩擦材を組み合わせることもできる。
【0061】
各実施例において、凸部及び凹部は放射状に延在しているが、周方向に角度を付けて設けることもできる。係合部は互いに相補的な形状が好ましいが、異なる形状にすることもできる。更に、先端の形状は円形ではなく、その他の形状にすることも可能である。係合を確実にするため先端が基部より大きいことが好ましい。また、各凸部及び凹部はそれぞれ周方向等配に設けているが、等配ではなく異なる間隔とすることもできる。
【0062】
図12に示す、板厚の小さい周囲部39を他の実施例の係合部に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の各実施例が適用できるロックアップ機構付きトルクコンバータの軸方向断面図である。
【図2】本発明の第1実施例を示す摩擦材の部分正面図である。
【図3】本発明の第2実施例を示す摩擦材の部分正面図である。
【図4】本発明の第3実施例を示す摩擦材の部分正面図である。
【図5】本発明の第3実施例の変形例を示す摩擦材の部分正面図である。
【図6】本発明の第4実施例を示す摩擦材の部分正面図である。
【図7】本発明の第5実施例を示す摩擦材の部分正面図である。
【図8】本発明の第5実施例の変形例を示す摩擦材の部分正面図である。
【図9】本発明の第5実施例の他の変形例を示す摩擦材の部分正面図である。
【図10】本発明の第6実施例を示す摩擦材の部分正面図である。
【図11】本発明の第6実施例の変形例を示す摩擦材の部分正面図である。
【図12】本発明の第7実施例を示す摩擦材の部分正面図である。
【図13】本発明の第8実施例を示す摩擦材の部分正面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 ピストン
2 フロントカバー
10 トルクコンバータ
20 摩擦材
15、17、19、22、24、27、29、31
33、35、37 外側摩擦材
16、18、21、23、25、28、30、32
34、36、38 内側摩擦材
40 第1摩擦材
41 第2摩擦材
42 第3摩擦材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクコンバータ用のロックアップクラッチ機構であって、複数の摩擦材を径方向で同心に配置し、隣接する摩擦材が一体的に係合していることを特徴とするロックアップクラッチ機構。
【請求項2】
外径側に配置される前記摩擦材の内径部には凸状の係合部が設けられ、内径側に配置される前記摩擦材の外径部には凹状の係合部が設けられ、前記凸状の係合部と前記凹状の係合部とが係合することで前記摩擦材が一体的に係合することを特徴とする請求項1に記載のロックアップクラッチ機構。
【請求項3】
外径側に配置される前記摩擦材の内径部には凹状の係合部が設けられ、内径側に配置される前記摩擦材の外径部には凸状の係合部が設けられ、前記凸状の係合部と前記凹状の係合部とが係合することで前記摩擦材が一体的に係合することを特徴とする請求項1に記載のロックアップクラッチ機構。
【請求項4】
外径側に配置される前記摩擦材の内径部には凸状の係合部と凹状の係合部とが設けられ、内径側に配置される前記摩擦材の外径部には凹状の係合部と凸状の係合部とが設けられ、内径側に配置される前記摩擦材の凸状の係合部が外径側に配置される前記摩擦材の前記凹状の係合部に係合し、内径側に配置される前記摩擦材の凹状の係合部が外径側に配置される前記摩擦材の前記凸状の係合部に係合することで前記摩擦材が一体的に係合することを特徴とする請求項1に記載のロックアップクラッチ機構。
【請求項5】
外径側に配置される前記摩擦材の内径部には凹状の係合部が設けられ、内径側に配置される前記摩擦材の外径部には凹状の係合部が設けられ、前記外径側及び内径側の前記摩擦材の凹状の係合部それぞれに嵌合する係合片により前記摩擦材が一体的に係合することを特徴とする請求項1に記載のロックアップクラッチ機構。
【請求項6】
外径側及び内径側に配置される前記摩擦材は、周方向に複数配置された摩擦材セグメントからなることを特徴とする請求項1−5のいずれか1項に記載のロックアップクラッチ機構。
【請求項7】
外径側及び内径側に配置される前記摩擦材は、周方向に係合部を備えていることを特徴とする請求項6に記載のロックアップクラッチ機構。
【請求項8】
外径側に配置される前記摩擦材と内径側に配置される前記摩擦材との間に間隙が設けられていることを特徴とする請求項1−7のいずれか1項に記載のロックアップクラッチ機構。
【請求項9】
外径側に配置される前記摩擦材の内周または/及び内径側に配置される前記摩擦材の外周に芯合せ部が設けられていることを特徴とする請求項8に記載のロックアップクラッチ機構。
【請求項10】
前記係合部または前記係合部を含む周囲部は、前記摩擦材より板厚が小さいことを特徴とする請求項1−9のいずれか1項に記載のロックアップクラッチ機構。
【請求項11】
前記係合部または前記係合部を含む周囲部は、押圧により前記摩擦材より板厚が小さくなるように形成されていることを特徴とする請求項10に記載のロックアップクラッチ機構。
【請求項12】
前記ロックアップクラッチ機構は、ロックアップピストンと前記ロックアップピストンに係合するフロントカバーを備え、前記摩擦材は、前記ロックアップピストンと前記フロントカバーの少なくとも一方に貼り付けられることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載のロックアップクラッチ機構。
【請求項13】
請求項1−12のいずれか1項に記載のロックアップクラッチ機構の製造方法において、前記外径側に配置される前記摩擦材と内径側に配置される前記摩擦材を係合した状態で、前記摩擦材はロックアップピストンとフロントカバーの少なくとも一方に貼り付けられることを特徴とするロックアップクラッチ機構の製造方法。
【請求項1】
トルクコンバータ用のロックアップクラッチ機構であって、複数の摩擦材を径方向で同心に配置し、隣接する摩擦材が一体的に係合していることを特徴とするロックアップクラッチ機構。
【請求項2】
外径側に配置される前記摩擦材の内径部には凸状の係合部が設けられ、内径側に配置される前記摩擦材の外径部には凹状の係合部が設けられ、前記凸状の係合部と前記凹状の係合部とが係合することで前記摩擦材が一体的に係合することを特徴とする請求項1に記載のロックアップクラッチ機構。
【請求項3】
外径側に配置される前記摩擦材の内径部には凹状の係合部が設けられ、内径側に配置される前記摩擦材の外径部には凸状の係合部が設けられ、前記凸状の係合部と前記凹状の係合部とが係合することで前記摩擦材が一体的に係合することを特徴とする請求項1に記載のロックアップクラッチ機構。
【請求項4】
外径側に配置される前記摩擦材の内径部には凸状の係合部と凹状の係合部とが設けられ、内径側に配置される前記摩擦材の外径部には凹状の係合部と凸状の係合部とが設けられ、内径側に配置される前記摩擦材の凸状の係合部が外径側に配置される前記摩擦材の前記凹状の係合部に係合し、内径側に配置される前記摩擦材の凹状の係合部が外径側に配置される前記摩擦材の前記凸状の係合部に係合することで前記摩擦材が一体的に係合することを特徴とする請求項1に記載のロックアップクラッチ機構。
【請求項5】
外径側に配置される前記摩擦材の内径部には凹状の係合部が設けられ、内径側に配置される前記摩擦材の外径部には凹状の係合部が設けられ、前記外径側及び内径側の前記摩擦材の凹状の係合部それぞれに嵌合する係合片により前記摩擦材が一体的に係合することを特徴とする請求項1に記載のロックアップクラッチ機構。
【請求項6】
外径側及び内径側に配置される前記摩擦材は、周方向に複数配置された摩擦材セグメントからなることを特徴とする請求項1−5のいずれか1項に記載のロックアップクラッチ機構。
【請求項7】
外径側及び内径側に配置される前記摩擦材は、周方向に係合部を備えていることを特徴とする請求項6に記載のロックアップクラッチ機構。
【請求項8】
外径側に配置される前記摩擦材と内径側に配置される前記摩擦材との間に間隙が設けられていることを特徴とする請求項1−7のいずれか1項に記載のロックアップクラッチ機構。
【請求項9】
外径側に配置される前記摩擦材の内周または/及び内径側に配置される前記摩擦材の外周に芯合せ部が設けられていることを特徴とする請求項8に記載のロックアップクラッチ機構。
【請求項10】
前記係合部または前記係合部を含む周囲部は、前記摩擦材より板厚が小さいことを特徴とする請求項1−9のいずれか1項に記載のロックアップクラッチ機構。
【請求項11】
前記係合部または前記係合部を含む周囲部は、押圧により前記摩擦材より板厚が小さくなるように形成されていることを特徴とする請求項10に記載のロックアップクラッチ機構。
【請求項12】
前記ロックアップクラッチ機構は、ロックアップピストンと前記ロックアップピストンに係合するフロントカバーを備え、前記摩擦材は、前記ロックアップピストンと前記フロントカバーの少なくとも一方に貼り付けられることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載のロックアップクラッチ機構。
【請求項13】
請求項1−12のいずれか1項に記載のロックアップクラッチ機構の製造方法において、前記外径側に配置される前記摩擦材と内径側に配置される前記摩擦材を係合した状態で、前記摩擦材はロックアップピストンとフロントカバーの少なくとも一方に貼り付けられることを特徴とするロックアップクラッチ機構の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
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【図6】
【図7】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−78009(P2007−78009A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−263311(P2005−263311)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(000102784)NSKワーナー株式会社 (149)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(000102784)NSKワーナー株式会社 (149)
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