説明

トルクリミット機構およびトルクリミット機構を備えた伝達比可変機構

【課題】 伝達比可変機構のモータシャフトロック機構において、トルクリミットリングの屈曲部とモータシャフトもしくはロックリングの間の局所的な摩耗の発生を防止する
【解決手段】 トルクリミットリング55をモータシャフト48とロックリング54の間に組み付けるときに、凸部55a側から周縁部に向かって押圧力が加えられる。周縁部55b、55cにはモータシャフト48の外周面もしくはロックリング54の内周面に対して所定角度θの傾きが形成されていることから、周縁部55b、55cがモータシャフト48の外周面に密着するために弾性変形する。この弾性変形により、凸部55aと周縁部55b、55cの間の屈曲部がバネ作用を成し、前記押圧力Fに抗する反発力を発生する。この結果、前記押圧力Fと反発力が打ち消しあうことにより、周縁部55b、55cの面圧が均一になるので、屈曲部とモータシャフト48の外周面の局所摩耗が防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクリミット機構およびトルクリミット機構を備えた、ハンドルの操舵角に対する操向車輪の転舵角の比を可変制御する伝達比可変機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハンドルの操舵角に対する操向車輪の転舵角の比を変化させる伝達比可変機構を備えたステアリング装置は、例えば、特許文献1に記載されている。特許文献1において伝達比可変機構は、特許文献1の図8に示されるように、ハンドルの回転が伝達される伝達シャフト部(入力シャフト)280と、操向車輪に転舵角を付与する転舵ロッド(ステアリングギヤ)190に回転を伝達する第2ステアリングシャフト(出力シャフト)120と、伝達シャフト部280および第2ステアリングシャフト120を回転可能に支承するステアリングギヤボックス(伝達比可変ハウジング)11と、ステアリングギヤボックス11内に収納され伝達シャフト部280の回転を第2ステアリングシャフト120に伝達する減速機である波動歯車減速機130と、ステアリングギヤボックス11内に収納され波動歯車減速機130を介して第2ステアリングシャフト120に回転を伝達してハンドルの操舵角に対する操向車輪の転舵角の比を変化させる駆動モータ150(モータ)とを備えている。この種の伝達比可変機構は、車両の速度や操舵角速度によって駆動モータ150を回転制御することによって波動歯車減速機130の減速比を可変制御して伝達シャフト部280から第2ステアリングシャフト120に伝達されるハンドルの操舵角に対する操向車輪の転舵角を変化させている。
【0003】
この種の伝達比可変機構には、車両のイグニッションがオフ時等の駆動モータ150に電力が供給されていない状態において、駆動モータ150のモータシャフトを固定して波動歯車減速機130の減速比を固定するモータシャフトロック機構が設けられている。このモータシャフトロック機構は、本明細書に添付の図8に示すように、モータシャフト100に挿入され、外周に複数のロック溝101が凹設されたロックリング102と、ステアリングギヤボックス103にモータシャフト100と平行な枢軸104回りで揺動可能に軸支され、一端にロック溝101に係合可能な係合爪部105をもつロックバー106とを有している。ロックバー106の他端には電磁アクチュエータ107が装着され、枢軸104とロックバー106の間には、係合爪部105をロック溝101に係合させる方向に回転付勢するコイルばね108が装着されている。この電磁アクチュエータ107により駆動モータ150の回転制御中は、コイルばね108に抗してロックバーを回転させて係合爪部105をロック溝101から外し、駆動モータの回転制御を行わない場合には、コイルばね108により、係合爪部105をロック溝101に係合させモータシャフト100を固定していた。
【0004】
ところで、モータシャフトロック機構には、モータシャフト100を固定中に波動歯車減速機が何らかの原因によって固着した場合に、ステアリングギヤボックス103に対して波動歯車減速機全体を相対回転できるようにするため、ロックリング102とモータシャフト100の間に所定のトルクが作用した場合に滑りを生じるトルクリミットリング110が圧入介在されている。これらロックリング102、モータシャフト100およびトルクリミットリング110にてトルクリミット機構が構成されている。
【特許文献1】特開2004−175336号公報(段落番号[0093]〜[0102]、図8)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トルクリミットリング110は、筒状鋼板の中央に図9に示すように、複数の凸部111が形成され、両端に周縁部112を備えた形状を成し、モータシャフト100とロックリング102の間に所定以上の力(トルク)が作用した場合に、凸部111の弾性変形によって得られたバネ作用によりモータシャフト100とロックリング102の相対滑りを許容している。
【0006】
この種のトルクリミットリング110は、両端の周縁部112とモータシャフト100の接触面の面圧が凸部111とロックリング102の接触面の面圧より小さいため、両端の周縁部112とモータシャフト100の接触面との間で滑りを生じてモータシャフト100とロックリング102の間の相対回転(滑り)が許容される。トルクリミットリング110は圧入される際、凸部111の中央をモータシャフト100側に撓ませて挿入される。この結果、凸部111から周縁部112側に押圧力が作用し、この押圧力が特に周縁部112と凸部111の接続部(屈曲部)112aに作用して周縁部の面圧を不均一にするため、屈曲部112aとモータシャフト100の間に局所的な摩耗が発生する問題があった。
【0007】
本発明は、上述した従来の不具合を解消するためになされたもので、伝達比可変機構において、トルクリミットリングの屈曲部とモータシャフトもしくはロックリングの間の局所的な摩耗の発生を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明の特徴は、軸状の第1部材と、この第1部材に装着される第2部材とを備え、円筒状弾性材の軸線方向の中央部分に凸部が形成され、両端に軸線方向に延在する周縁部が形成され、第1、第2部材の間のトルクの伝達を制限するために、第1、第2部材の間に圧入されたトルクリミットリングを有するトルクリミット機構において、トルクリミットリングは、第1部材の外周面と第2部材の内周面の一方を接触面として凸部が接触し、他方を接触面として周縁部が接触するように組み付けられるものであり、周縁部は、トルクリミットリングの自由状態にて他方の接触面に対して傾斜されており、組み付けられた状態にて他方の接触面に対する面圧が周縁部全域にわたって略均一となるようにされていることである。
【0009】
請求項2に記載の発明の特徴は、軸状の第1部材と、この第1部材に装着される第2部材とを備え、円筒状弾性材の軸線方向の中央部分に凸部が形成され、両端に軸線方向に延在する周縁部が形成され、第1、第2部材の間のトルクの伝達を制限するために、第1、第2部材の間に圧入されたトルクリミットリングを有するトルクリミット機構において、トルクリミットリングは、第1部材の外周面と第2部材の内周面の一方を接触面として凸部が接触し、他方を接触面として周縁部が接触するように組み付けられるものであり、他方の接触面は、トルクリミットリングの自由状態における周縁部に対して傾斜されており、組み付けられた状態にて他方の接触面に対する面圧が周縁部全域にわたって略均一となるようにされていることである。
【0010】
請求項3に記載の発明の特徴は、ハンドルの回転が伝達される入力シャフトと、操向車輪に転舵角を付与するステアリングギヤに回転を伝達する出力シャフトと、入力シャフトおよび出力シャフトを回転可能に支承する伝達比可変ハウジングと、伝達比可変ハウジング内に収納され入力シャフトの回転を出力シャフトに伝達する減速機と、伝達比可変ハウジング内に収納され減速機を介して出力シャフトに回転を伝達してハンドルの操舵角に対する操向車輪の転舵角の比を変化させるモータと、モータのモータシャフトに装着されたロックリングと、伝達比可変ハウジングに設けられ、ロックリングと係合してモータシャフトを伝達比可変ハウジングに対して固定可能なロックバーとを備え、円筒状弾性材の軸線方向の中央部分に凸部が形成され、両端に軸線方向に延在する周縁部が形成され、モータシャフトとロックリングの間のトルクの伝達を制限するために、モータシャフトとロックリングの間に圧入されたトルクリミットリングを有するトルクリミット機構を備えた伝達比可変機構において、トルクリミットリングは、モータシャフトの外周面とロックリングの内周面の一方を接触面として凸部が接触し、他方を接触面として周縁部が接触するように組み付けられるものであり、周縁部は、トルクリミットリングの自由状態にて他方の接触面に対して傾斜されており、組み付けられた状態にて他方の接触面に対する面圧が周縁部全域にわたって略均一となるようにされていることである。
【0011】
請求項4に記載の発明の特徴は、ハンドルの回転が伝達される入力シャフトと、操向車輪に転舵角を付与するステアリングギヤに回転を伝達する出力シャフトと、入力シャフトおよび出力シャフトを回転可能に支承する伝達比可変ハウジングと、伝達比可変ハウジング内に収納され入力シャフトの回転を出力シャフトに伝達する減速機と、伝達比可変ハウジング内に収納され減速機を介して出力シャフトに回転を伝達してハンドルの操舵角に対する操向車輪の転舵角の比を変化させるモータと、モータのモータシャフトに装着されたロックリングと、伝達比可変ハウジングに設けられ、ロックリングと係合してモータシャフトを伝達比可変ハウジングに対して固定可能なロックバーとを備え、円筒状弾性材の軸線方向の中央部分に凸部が形成され、両端に軸線方向に延在する周縁部が形成され、モータシャフトとロックリングの間のトルクの伝達を制限するために、モータシャフトとロックリングの間に圧入されたトルクリミットリングを有するトルクリミット機構を備えた伝達比可変機構において、トルクリミットリングは、第1部材の外周面と第2部材の内周面の一方を接触面として凸部が接触し、他方を接触面として周縁部が接触するように組み付けられるものであり、他方の接触面は、トルクリミットリングの自由状態における周縁部に対して傾斜されており、組み付けられた状態にて他方の接触面に対する面圧が周縁部全域にわたって略均一となるようにされていることである。
【発明の効果】
【0012】
上記のように構成した請求項1に係る発明によれば、トルクリミットリングを第1部材と第2部材の間に組み付けるときに、第1、第2部材の一方の接触面とトルクリミットリングの凸部が接触し、凸部側から周縁部に向かって押圧力が加えられる。この押圧力は、周縁部の基端が先端より大きくなる傾向にある。ところが、トルクリミットリングの自由状態において、周縁部には、周縁部が接触する第1、第2部材の他方の接触面に対して傾きが形成されていることから、周縁部が前記第1、第2部材の他方の接触面に密着するために屈曲され、この屈曲により、凸部と周縁部の間の屈曲部がバネ作用を成し、前記押圧力に抗する反発力を発生する。この反発力は周縁部の先端側が基端側より大きくなる傾向にある。この結果、前記押圧力と反発力が打ち消しあうことにより、周縁部の面圧が均一になるので、屈曲部との間の局所摩耗が防止できる。
【0013】
上記のように構成した請求項2に係る発明によれば、第1部材もしくは第2部材うちの前記トルクリミットリングの周縁部と接触する接触面が、トルクリミットリングが自由状態にて周縁部に対して傾斜されていることから、周縁部がモータシャフトの外周面に密着するために屈曲する。この屈曲により、凸部と周縁部の間の屈曲部がバネ作用を成し、前記押圧力に抗する反発力を発生する。この結果、前記押圧力と反発力が打ち消しあうことにより、周縁部の面圧が均一になるので、周縁部が接触する第1部材の外周面もしくは第2部材の内周面と屈曲部との間の局所摩耗が防止できる。
【0014】
上記のように構成した請求項3に係る発明によれば、トルクリミットリングをモータシャフトとロックリングの間に組み付けるときに、モータシャフトとロックリングの一方の接触面とトルクリミットリングの凸部が接触し、凸部側から周縁部に向かって押圧力が加えられる。この押圧力は、周縁部の基端が先端より大きくなる傾向にある。ところが、トルクリミットリングの自由状態において、周縁部には、周縁部が接触するモータシャフトとロックリングの他方の接触面に対して傾きが形成されていることから、周縁部が前記モータシャフトとロックリングの他方の接触面に密着するために屈曲され、この屈曲により、凸部と周縁部の間の屈曲部がバネ作用を成し、前記押圧力に抗する反発力を発生する。この反発力は周縁部の先端側が基端側より大きくなる傾向にある。この結果、前記押圧力と反発力が打ち消しあうことにより、周縁部の面圧が均一になるので、周縁部が接触するモータシャフトもしくはロックリングの接触面と屈曲部との間の局所摩耗が防止できる。
【0015】
上記のように構成した請求項4に係る発明によれば、モータシャフトの各接触面が前記トルクリミットリングの両端の周縁部に対して傾斜されていることから、周縁部がモータシャフトの外周面に密着するために屈曲する。この屈曲により、凸部と周縁部の間の屈曲部がバネ作用を成し、前記押圧力に抗する反発力を発生する。この結果、前記押圧力と反発力が打ち消しあうことにより、周縁部の面圧が均一になるので、モータシャフトもしくはロックリングの接触面と屈曲部との間の局所摩耗が防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1において、本実施の形態のパワーステアリング装置10は、主として、ステアリングギヤボックス(伝達比可変ハウジング)11と、伝達比可変機構12と、油圧サーボ装置13とによって構成されている。
【0017】
油圧サーボ装置13のハンドル側シャフト14にハンドル15の回転が伝達され、油圧サーボ装置13の出力軸の回転が伝達比可変機構12により変速されてラックピニオン機構16のピニオンシャフト17に伝達される。これにより、ハンドル15に作用する操舵力がステアリングギヤであるラックピニオン機構16を介し操向車輪8に伝達される。
【0018】
アッパーハウジング18とロアーハウジング19はボルトにより結合されてステアリングギヤボックス11を構成している。アッパーハウジング18には弁収納孔18aが形成され、該弁収納孔18aに油圧サーボ弁装置13が収納され、油圧サーボ弁装置13の出力軸であり、伝達比可変機構12の入力軸でもある入力シャフト20がアッパーハウジング18の弁収納孔18aのロアーハウジング19側開口端部に一箇所で軸受21により中心軸線回りに回転可能に軸承されている。ロアーハウジング19にはギア室19aが形成され、該ギヤ室19aにラックピニオン機構16が収納されている。ラックピニオン機構16のピニオンシャフト(出力シャフト)17は、中心軸線方向に離間した二個所で軸受22、23によりロアーハウジング19に中心軸線回りに回転可能に軸承されている。
【0019】
ロアーハウジング19には、ピニオンシャフト17に噛合するラック36aが刻設されたラックシャフト36が摺動可能に装架されている。図2に示すように、ロアーハウジング19にはシリンダチューブ28が固定され、シリンダチューブ28にラックシャフト36に固定されたピストン29が左右のシリンダ室28b、28aを区画するように嵌合してシリンダ装置30が構成されている。ラックシャフト36の両突出端にタイロッドを介してナックルアームがボールジョイントにより連結され、ラックシャフト36の軸動により操向車輪8が偏向される。
【0020】
油圧サーボ弁装置13のハンドル側シャフト14にはロータリ弁25が形成されている。アッパーハウジング18に形成された弁収納孔18aには、入力シャフト20に連結されたスリーブ26が中心軸線回りに回転可能に嵌合され、スリーブ26に形成された弁孔27にロータリ弁25が中心軸線回りに回転可能に嵌合されている。ロータリ弁25、スリーブ26等により油圧サーボ装置13が構成され、ロータリ弁25とスリーブ26との相対回転に応じてシリンダ装置28の左右室28b、28aに夫々連通されたポートA、Bが、油圧ポンプ34及びタンク35に夫々接続されたポートP、Tに接続されるようになっている。入力シャフト20及びハンドル側シャフト14はトーションバー31の両端部に夫々結合されている。ハンドル15に操舵入力が作用されずにハンドル側シャフト14が自由状態のとき、ポートP、Tが連通され、ポートA、Bに油圧が生じない中立位置にロータリ弁25がスリーブ26に対して相対的に回転位置決めされる。ポートTは弁収納孔18aの上端部に開口されている。ハンドル側シャフト14には、トーションバー31が隙間を持って挿通する貫通穴32aが軸線上に穿設されるとともに、貫通穴32aに開口する連通穴33b、33cが軸線方向に離間して半径方向に穿設されている。これによりポートTは弁収納孔18aの上端部、連通穴33b、貫通穴32a及び連通穴33cを通ってロータリ弁25に連通されている。
【0021】
前記伝達比可変機構12は、例えば、車速に応じてハンドル15の操舵角に対する操向車輪8の転舵角の比(伝達比)を可変にする機能を有する。
【0022】
伝達比可変機構12は、ロアーハウジング19内の油圧サーボ弁装置13側に収納される。前記ピニオンシャフト17は、伝達比可変機構12の一部を構成する。ピニオンシャフト17は、ラックシャフト36に噛み合うピニオンシャフト部37と、後述する波動歯車機構からなる減速機38を収納する大径の収納凹部39からなっている。収納凹部39はピニオンシャフト部37の一端外周に形成された円板状のフランジ部37aに、圧入によるセレーション結合にて一体的に連結される。
【0023】
前記ロアーハウジング19内には、前記収納凹部39、減速機(差動機構)38、モータ(DCブラシレスモータ)41、およびモータシャフトロック機構42が収容されている。減速機38は、一例として、波動歯車機構からなり、後に詳細に述べるように、ドリブンギヤ43と、ステータギヤ44と、波動発生装置45と、フレキシブルギヤ46と、回転伝達係合部材47とから構成されている。
【0024】
前記収納凹部39には、その開口端側より順に、ドリブンギヤ43、ステータギヤ44、および回転伝達係合部材47が収納されている。ドリブンギヤ43は収納凹部39に圧入結合され、また、ステータギヤ44と回転伝達係合部材47は、回転方向に結合されて収納凹部39内で回転可能となっている。
【0025】
ドリブンギヤ43およびステータギヤ44の内周面には、それぞれ異なる歯数(ドリブンギヤ43の歯数<ステータギヤ44の歯数)のギヤが形成されている。ドリブンギヤ43およびステータギヤ44の内側には、それぞれのギヤに同時に噛合するフレキシブルギヤ46が設けられている。すなわち、フレキシブルギヤ46の外側に形成された歯(歯数は、ドリブンギヤ43の歯数と同じ)に、ドリブンギヤ43およびステータギヤ44の内側に形成された歯が噛合している。フレキシブルギヤ46の内側は、波動発生装置45の外輪上に嵌合されている。
【0026】
前記ロアーハウジング19には、モータ41のケース41aが固定されている。モータ41は、モータシャフト48を有し、モータシャフト48は前記ケース41aにベアリング49、50を介して回転可能に支持され、波動発生装置45のカムに接続されている。モータシャフト48内には、入力シャフト20が回転可能に挿通され、回転伝達係合部材47に係合される。
【0027】
この構成では、図1に示すように、モータ41のモータシャフト48が回転すると、波動発生装置45のカムが回転し、フレキシブルギヤ46がステータギヤ44内で楕円形に変形し、同軸上のドリブンギヤ43を回転させる。すなわち、ドリブンギヤ43の歯数がステータギヤ44の歯数より少ないため、波動発生装置45が1回転した際、ドリブンギヤ43は、波動発生装置45の回転方向と逆方向に歯数の差分だけ回転する。すなわち、アクチュエータ作動角=モータ41の回転角×減速比(減速比=歯数差/ドリブンギヤ43の歯数)。一方、ハンドル15の回転によりステータギヤ44が回転すると、アクチュエータ作動角が付加されてピニオンシャフト17に伝達される。
【0028】
前記モータシャフトロック機構42は、電源オフ時やシステム欠陥時に、モータシャフト48をロアーハウジング19に対して固定(ロック)する。モータシャフトロック機構42は、図3に示すように、ロックバー51がケース41aの後壁に枢軸52により揺動可能に取り付けられている。ロックバー51の一端には係合爪部51aが形成され、他端にはケース41aに取り付けられた電磁アクチュエータ53が連結されている。モータシャフト48の後端には、ロックリング54がトルクリミットリング55を介して装着されている。これらモータシャフト(第1部材)48、ロックリング(第2部材)54および、トルクリミットリング55にてトルクリミット機構が構成される。
【0029】
トルクリミットリング55は、モータシャフト48とロックリング54の間に所定以上の力(トルク)が作用した場合に、モータシャフト48とロックリング54の間の相対回転(滑り)を許容する。
【0030】
トルクリミットリング55は、図4、図5に示すように弾性材である筒状鋼板の軸線方向の中央部分に形成された複数の凸部55aと、この凸部55aの両端で軸線方向に延在する周縁部55b、55cで構成される。周縁部55b、55cは、トルクリミットリング55がモータシャフト48とロックリング54の間に圧縮されて組み付けられる前の自由状態にて、図5に示すように凸部55aの両端からモータシャフト48の外周面に対して所定の角度θの傾きをもつ傾斜面であり、トルクリミットリング55をモータシャフト48とロックリング54の間に組み付けるときに、凸部55a側から周縁部55b、55cに向かって押圧力Fが加えられる。この押圧力Fは、周縁部55b、55cの基端が先端より大きくなる傾向にある。ところが、周縁部55b、55cにはモータシャフト48の外周面に対する所定角度θの傾きが形成されていることによって、周縁部55b、55cがモータシャフト48の外周面に密着するときに屈曲する。この屈曲により、凸部55aと周縁部55b、55cの間の屈曲部56がバネ作用を成し、前記押圧力に抗する反発力を発生する。この反発力は、周縁部の先端側が基端側より大きくなる傾向にある。この結果、前記押圧力と反発力55b、55cが打ち消しあうことにより、周縁部55b、55cの面圧が均一になり、屈曲部56とモータシャフト48の外周面の間の局所摩耗が防止される。
【0031】
図3に示すように、前記ロックリング54の外周には、係合爪部51aに係合するロック溝54aが円周上等間隔に複数形成されている。枢軸52の外周に巻き付けられたコイルばね57は、一端がロックバー51に係合され、他端が枢軸52に固定され、ねじれ力によりロックバー51を枢軸52の軸線回りに揺動させ、係合爪部51aをロック溝54aへ係合させる回転力をロックバー51に加えている。電磁アクチュエータ53はコイルばね57による回転力に抗して係合爪部51aをロック溝54aから離脱させる回転力をロックバー51に加える。これにより、ロックバー51は枢軸52を中心としてロック溝54aに係合爪部51aを係合、離脱させるよう駆動し、モータシャフト48の回転を許容又は阻止する。
【0032】
電磁アクチュエータ53による係合爪部51aとロック溝54aとの係合、離脱の判断及び動作の指令は、制御装置60により行われる。制御装置60は、伝達比可変機構12の動作が正常な場合、車両のイグニションがオンされると、電磁アクチュエータ53を作動させてロックバー51をコイルばね57の力に抗して揺動させ、係合爪部51aをロック溝54aから離脱する。これによってモータ41によるモータシャフト48の回転制御が可能となり、ハンドル15の操舵角に対する操向車輪8の転舵角の比(伝達比)を、モータシャフト48の回転角に応じて変更することが可能となる。また、制御装置60は、電源オフ時やシステム欠陥時に、モータ41及び電磁アクチュエータ53の作動を停止して係合爪部51aをロック溝54aに係合させ、モータ41のモータシャフト48の回転を阻止し、前記伝達比を所定の値に固定する。
【0033】
また、正常においては、上述したように制御装置60は、車両のイグニションがオンされると、電磁アクチュエータ53を作動させて係合爪部51aをロック溝54aから離脱し、モータ41によるモータシャフト48の回転を可能とする。
【0034】
ハンドル15が回されると、ロータリ弁25とスリーブ26がトーションバー31を捩って相対回転され、油圧ポンプ34から供給された圧油がハンドル15の回転方向に応じてポートA又はBからシリンダ装置30のシリンダ左室28b又は右室28aに供給され、ラックシャフト36が軸動されて操向車輪8が偏向される。このとき、ハンドル側シャフト14に加えられた操舵角が図略の操舵角センサによって検出され、車両速度が図略の車速センサにより検出されると、制御装置60は、車両速度および操舵角に基づき目標舵角の演算を行う。この目標舵角に基づいて、モータ41を制御する制御信号が制御装置60より出力される。
【0035】
制御装置60より出力された制御信号は、伝達比可変機構12のモータ41に送られ、この制御信号に基づいてモータ41が回転駆動される。モータ41が回転されると、モータシャフト48を介して波動発生装置45のカムが回転され、フレキシブルギヤ46が回転される。フレキシブルギヤ46は、楕円形に変形した状態でステータギヤ44内を回転し、同軸上のドリブンギヤ43を回転させる。この際、ドリブンギヤ43の歯数がステータギヤ44の歯数より少ないため、波動発生装置45が1回転した際、ドリブンギヤ43は、波動発生装置45の回転方向と逆方向に歯数の差分だけ回転する。
【0036】
ドリブンギヤ43の回転はピニオンシャフト17に伝達され、ラックシャフト36を軸動させる。これにより、ハンドル15の操舵角と操向車輪19の転舵角との比を変化させることができる。
【0037】
さらに、何らかの原因により、減速機38が固着した場合においては、減速機38は固着状態であり、入力シャフト20とピニオンシャフト17が減速機38と共に一体的に回転することになる。このとき制御装置60は、モータ41による減速機38の減速比の変更制御を停止し、係合爪部51aをロック溝54aに係合させ、モータ41のモータシャフト48の回転を阻止する。このため、ハンドル15を操作すると、モータシャフト48には、入力シャフト20、ピニオンシャフト17および減速機38を一体的に回転させようとする回転力が作用し、このモータシャフト48を回転力させようとするトルクが所定以上になるとトルクリミットリング55に滑りが生じ、モータシャフト48はロアーハウジング19に対して回転可能となる。これによって、入力シャフト20、ピニオンシャフト17および減速機38は一体的に回転され、入力シャフト20からピニオンシャフト17に回転が伝達される。
【0038】
なお、上記の実施の形態においては、トルクリミットリング55の周縁部55b、55cがモータシャフト48の外周面に接触し、凸部55aがロックリング54の内周面に接触する例を説明したが、周縁部55b、55cがロックリング54の内周面に接触し、凸部55aがモータシャフト48の外周面に接触するように構成してもよい。
【0039】
次に、本発明に係る第2の実施形態を、第1の実施形態と相違する点のみについて図6に基づいて説明する。第2の実施形態では、第1の実施形態のようにトルクリミットリング55の周縁部55b、55cを傾斜面とはせず、トルクリミットリング55の凸部55aと周縁部55b、55cとは自由状態で略平行となっており、トルクリミットリング55のモータシャフト48への取り付け構造に特徴がある。図6に示すように、第2実施の形態では、モータシャフト48の外周面に環状溝61が形成されている。この環状溝61は、底面61aの両側の側壁(接触面)61b、61cがモータシャフト48の外周面に所定角度θの傾斜となるよう、すなわち各側壁61b、61cが開口に向かって互いに離間するように形成されている。このため、周縁部55b、55cがモータシャフト48の外周面に密着するために屈曲し、この屈曲により、凸部55aと周縁部55b、55cの間の屈曲部がバネ作用を成し、前記押圧力に抗する反発力を発生する。この結果、前記押圧力と反発力が打ち消しあうことにより、周縁部55b、55cの面圧が均一になるので、屈曲部とモータシャフトの外周面の間の局所摩耗が防止できる。
【0040】
なお、上記の実施の形態においては、トルクリミットリング55の周縁部55b、55cがモータシャフト48の外周面に接触し、凸部55aがロックリング54の内周面に接触する例を説明したが、周縁部55b、55cがロックリング54の内周面に接触し、凸部55aがモータシャフト48の外周面に接触するように構成し、環状溝61をロックリング54の内周面に形成するようにしてもよい。
【0041】
次に、本発明に係る第3の実施形態を、第1、第2の実施形態と相違する点のみについて図に基づいて説明する。
【0042】
図7に示すように、第3の実施形態では、第1、第2の実施形態に加えてトルクリミットリング55の周縁部55b、55cの基端が接触するモータシャフト48の接触面の内側部分に環状溝62を刻設したことに特徴がある。このように、局所摩耗が発生する可能性のある周縁部55b、55c基端が当接する位置に環状溝62を刻設することにより、環状溝62に潤滑材が保持され、屈曲部とモータシャフト48の外周面との潤滑がなされ、局所摩耗を防止することができる。また、局所摩耗が屈曲部に発生したとしても摩耗粉が環状溝62に回収され、モータシャフト48と周縁部55b、55cの間に入ることを防止できることから摩耗粉によってトルクリミットリングの許容トルク値が変動することを防止できる。
【0043】
なお、上記の実施の形態においては、トルクリミットリング55の周縁部55b、55cがモータシャフト48の外周面に接触し、凸部55aがロックリング54の内周面に接触する例を説明したが、周縁部55b、55cがロックリング54の内周面に接触し、凸部55aがモータシャフト48の外周面に接触するように構成し、環状溝62をロックリング54の内周面に形成するようにしてもよい。
【0044】
また、上記の実施形態においては、伝達比可変機構12の減速機38を、波動歯車機構からなる減速機を例に説明したが、減速機38はこれに限定されるものではなく、例えば、サンギヤ、インターナルギヤ、およびプラネタリギヤ等からなる遊星歯車機構であってもよい。
【0045】
また、上記の実施形態においては、伝達比可変機構12を油圧サーボ装置13およびシリンダ装置28備えた油圧パワーステアリング装置に使用した例について説明したが、電動パワーステアリング装置に上記第1から第2の実施形態におけるトルクリミット機構を有した伝達比可変機構12を使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施の形態を示す伝達比可変機構を備えた油圧パワーステアリング装置の断面図である。
【図2】図1のII−II線に沿って切断した断面図である。
【図3】図1のIII−III線に沿って切断した断面図である。
【図4】本発明の実施の形態の要部であるトルクリミットリングの外観図である。
【図5】トルクリミットリングの組付け時の概念図である。
【図6】本発明の第2の実施形態におけるトルクリミットリングの組付け時の概念図である。
【図7】本発明の第3の実施形態におけるトルクリミットリングの組付け時の概念図である。
【図8】従来のモータシャフトロック機構の一例を示す図である。
【図9】従来のトルクリミットリングの組付け時の概念図である。
【符号の説明】
【0047】
8…操向車輪、10…パワーステアリング装置、11…ステアリングギヤボックス、12…伝達比可変機構、13…油圧サーボ装置、14…ハンドル側シャフト、15…ハンドル、17…ピニオンシャフト(出力シャフト)、18…アッパーハウジング、19…ロアーハウジング、20・・・入力シャフト、36…ラックシャフト(出力シャフト)、38…減速機、41…モータ、42…モータシャフトロック機構、48…モータシャフト(第1部材)、51…ロックバー、54…ロックリング(第2部材)、55…トルクリミットリング、55a…凸部、55b、55c…周縁部、56…屈曲部(基端)、61、62…環状溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸状の第1部材と、この第1部材に装着される第2部材とを備え、円筒状弾性材の軸線方向の中央部分に凸部が形成され、両端に軸線方向に延在する周縁部が形成され、前記第1、第2部材の間のトルクの伝達を制限するために、前記第1、第2部材の間に圧入されたトルクリミットリングを有するトルクリミット機構において、
前記トルクリミットリングは、前記第1部材の外周面と前記第2部材の内周面の一方を接触面として前記凸部が接触し、他方を接触面として前記周縁部が接触するように組み付けられるものであり、前記周縁部は、トルクリミットリングの自由状態にて前記他方の接触面に対して傾斜されており、前記組み付けられた状態にて前記他方の接触面に対する面圧が前記周縁部全域にわたって略均一となるようにされていることを特徴とするトルクリミット機構。
【請求項2】
軸状の第1部材と、この第1部材に装着される第2部材とを備え、円筒状弾性材の軸線方向の中央部分に凸部が形成され、両端に軸線方向に延在する周縁部が形成され、前記第1、第2部材の間のトルクの伝達を制限するために、前記第1、第2部材の間に圧入されたトルクリミットリングを有するトルクリミット機構において、
前記トルクリミットリングは、前記第1部材の外周面と前記第2部材の内周面の一方を接触面として前記凸部が接触し、他方を接触面として前記周縁部が接触するように組み付けられるものであり、前記他方の接触面は、トルクリミットリングの自由状態における前記周縁部に対して傾斜されており、前記組み付けられた状態にて前記他方の接触面に対する面圧が前記周縁部全域にわたって略均一となるようにされていることを特徴とするトルクリミット機構。
【請求項3】
ハンドルの回転が伝達される入力シャフトと、操向車輪に転舵角を付与するステアリングギヤに回転を伝達する出力シャフトと、前記入力シャフトおよび出力シャフトを回転可能に支承する伝達比可変ハウジングと、前記伝達比可変ハウジング内に収納され入力シャフトの回転を出力シャフトに伝達する減速機と、前記伝達比可変ハウジング内に収納され前記減速機を介して出力シャフトに回転を伝達して前記ハンドルの操舵角に対する操向車輪の転舵角の比を変化させるモータと、前記モータのモータシャフトに装着されたロックリングと、前記伝達比可変ハウジングに設けられ、前記ロックリングと係合して前記モータシャフトを前記伝達比可変ハウジングに対して固定可能なロックバーとを備え、円筒状弾性材の軸線方向の中央部分に凸部が形成され、両端に軸線方向に延在する周縁部が形成され、前記モータシャフトとロックリングの間のトルクの伝達を制限するために、前記モータシャフトとロックリングの間に圧入されたトルクリミットリングを有するトルクリミット機構を備えた伝達比可変機構において、
前記トルクリミットリングは、前記モータシャフトの外周面と前記ロックリングの内周面の一方を接触面として前記凸部が接触し、他方を接触面として前記周縁部が接触するように組み付けられるものであり、前記周縁部は、トルクリミットリングの自由状態にて前記他方の接触面に対して傾斜されており、前記組み付けられた状態にて前記他方の接触面に対する面圧が前記周縁部全域にわたって略均一となるようにされていることを特徴とするトルクリミット機構を備えた伝達比可変機構。
【請求項4】
ハンドルの回転が伝達される入力シャフトと、操向車輪に転舵角を付与するステアリングギヤに回転を伝達する出力シャフトと、前記入力シャフトおよび出力シャフトを回転可能に支承する伝達比可変ハウジングと、前記伝達比可変ハウジング内に収納され入力シャフトの回転を出力シャフトに伝達する減速機と、前記伝達比可変ハウジング内に収納され前記減速機を介して出力シャフトに回転を伝達して前記ハンドルの操舵角に対する操向車輪の転舵角の比を変化させるモータと、前記モータのモータシャフトに装着されたロックリングと、前記伝達比可変ハウジングに設けられ、前記ロックリングと係合して前記モータシャフトを前記伝達比可変ハウジングに対して固定可能なロックバーとを備え、円筒状弾性材の軸線方向の中央部分に凸部が形成され、両端に軸線方向に延在する周縁部が形成され、前記モータシャフトとロックリングの間のトルクの伝達を制限するために、前記モータシャフトとロックリングの間に圧入されたトルクリミットリングを有するトルクリミット機構を備えた伝達比可変機構において、
前記トルクリミットリングは、前記第1部材の外周面と前記第2部材の内周面の一方を接触面として前記凸部が接触し、他方を接触面として前記周縁部が接触するように組み付けられるものであり、前記他方の接触面は、トルクリミットリングの自由状態における前記周縁部に対して傾斜されており、前記組み付けられた状態にて前記他方の接触面に対する面圧が前記周縁部全域にわたって略均一となるようにされていることを特徴とするトルクリミット機構を備えた伝達比可変機構。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−153060(P2006−153060A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−341225(P2004−341225)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(000003470)豊田工機株式会社 (198)
【Fターム(参考)】